小さな命

2008年4月15日 By 編集部員(籠)

土曜日の夕方、僕が住んでいるフラットの一角から、女性の悲鳴が聞こえてきました。慌てて階段を駆け下りると、フラットメイトのマリサ※ が、半べそかいてしゃがみ込んでいました。

※ 寄り道コラム

マリサって誰?
年齢: 20代後半
性別: 女性
国籍: 英国人とフランス人のハーフ
職業: 女優(彼女が登場した途端に銃で撃たれて倒れるシーンが映ったテレビドラマのビデオを見せてもらったことがあります。最近ではテロリストの役で舞台に出ていました)
筆者との間柄: 5年間にわたって共同生活しているフラットメイト

話を聞いてみると、部屋にネズミが出たんだそうです。それでネズミ捕り器を仕掛けておいたら、見事に罠にかかってしまった。それを見てびっくりして、思わず叫んじゃったとのこと。

このネズミ捕り器、日本でいうとゴキブリホイホイみたいな粘着式タイプのものなんですね。だから罠にかかったネズミは手足の自由を奪われただけで、まだピンピン生きているわけなんです。その様子をしばらく観察していたら、マリサが急にしんみりした声で「このままじゃネズミが可哀想」と言い出したので、何とか逃がしてあげる方法を2人で考えることにしました。

マリサが早速インターネットで調べたところ、どうやらサラダ油をかければ仕掛けの粘着性が弱まって、ネズミを解放してあげることができるらしい(そんなことまで分かるインターネットの情報収集力にはほとほと感心してしまいました)。そこでキッチンに置いてあるサラダ油と、先ほどのネズミ捕り器を手に2人で庭に出て、ネズミ救出作戦いざ開始です。

マリサ「まず足の方にかけてあげて」

僕「これぐらい?(チョロッ)」

マリサ「もうちょっとかけて」

僕「(チョロ、チョロ、チョロ)……あ、ちょっと足の部分が動くようになってきたかも」

マリサ「上半身を引き離すのに苦労しているから、その辺もかけてあげて」

僕「(チョロ、チョロ、チョロ)……(沈黙)……こんな具合かな。(チョロ)……あれ、なんかネズミの様子おかしくない? 突然、激しくもがき出していない?」

マリサ「顔がひっついて動かせないまま口にサラダ油が入り込んできて、窒息しそうになっているんじゃないかしら。そこに溜まっている油をよけてあげて!」

僕「(黙ったまま仕掛けを逆さまにして、サラダ油を抜こうとする)」

マリサ「ねえ、何やっているの? ネズミが顔を外そうと、必死でもがいているじゃない!」

僕「(まだ黙ったまま、油が仕掛けから流れ落ちるようにバンバン叩いてみる)もう大丈夫なんじゃないかな。(様子を見てみる)あっ……。ネズミの動きが止まっている……。もしかして……死んじゃった?」

マリサは、声を上げて泣き出しました。そして彼女は、ほんの一瞬でしたが「あなたが殺したのよ」と訴えるかのような視線をこちらに送りました。あの敵意に満ちた目を、僕は今でも忘れることができません。もうインターネットの情報なんて、信じない。

ここでタイミングの悪いことに、普段はほとんど家を空けている大家さんがやってきてしまって、すぐに尋問スタート。マリサが必要以上に詳しく説明してしまったので、「お前らの共用キッチンが汚いからネズミなんて出るんだ!」と怒られました。その場で思いつく限りの言い訳も並べてみたのですが、「I don’t like your attitude」とまるで小さい子供のように叱責されました。

ということで、土曜日は深夜まで大掃除。キッチンを磨いている間、ネズミが苦しそうにもがいている姿が何度もフラッシュバックしては、僕の心を痛めつけました。(籠)

UK初公開! とっても綺麗に片付いた自宅のキッチン

UK初公開! とっても綺麗に片付いた自宅のキッチン


キッチン
(写真右端から)大好物のお米(子供の頃は「好きな食べ物は?」と聞かれたら「ご飯!」と答えていました)、セインズベリーズで購入した卵、ネズミ救出作戦に使用されたサラダ油、プラハ旅行の際にお土産として買ったマリオネット(練習し過ぎて足が折れちゃった)
kitchen_door.web
ゴシゴシ磨きすぎてドアが外れてしまいました。大家さん、ごめんなさい

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