JAPAN DISASTER BENEFITレビュー

By 編集部インターン(塩月)

「学生インターン」という爽やかな響きで本性を隠し通してきた、この2週間。今思えば、ろくにお手伝いもせず、申し訳なさばかりで頭があがりません。その償いと言っては何ですが、置き土産として「爽やかな」ライブ・レビューを書き残していきたいと思います。

で、何のライブかって?
4月3日に行われた「JAPAN DISATER BENEFIT」ですよ!

どうですか、めっちゃ羨ましいでしょー。
英ロック・ファンの垂涎の的だったチケットは、即ソールド・アウト。
だって出演陣の豪華さったら、もう……!!!!!(悶絶)
プライマル・スクリームにリチャード・アシュクロフト、グレアム・コクソンに、ポール・ウェラー師匠まで出るんです! そのメンツを聞いただけでも鼻血が出そうですが、何といっても発起人があの、あの、あの! リアム・ギャラガー先輩というじゃないですか!

以下、個人的な感情より先輩には必要以上の敬語を使わせて頂きつつ、当日のレビューをさせていただきたいと思います。

会場は、ブリクストン・アカデミー。当日、「迷って会場に着かなかったらシャレにならん」ということで、ちょっと早めにブリクストン駅に到着しました。ところが入口には既にスタンディング席の列が。 「やるな……イギリス人」と思いながらも、おとなしく後尾に並んでおりますと、日本のテレビ局からインタビューを受けることになりました。真摯なコメントが求められていたのは空気で分かっていたのですが、どうしても「これからリアム先輩に会うねん!」という興奮は隠し切れず、半笑いのまま終えてしまった……(日本にいる家族に聞いたところ、放映されなかったそうです。まぁ当然ですね)。もちろん私も日本の現状を憂う気持ちは溢れんばかりに持ってはいますが、この日ばかりは興奮が勝ってしまいました。申し訳ありません。でも募金もしてきましたので、今回ばかりはどうかお許し下さい。

JAPAN DISASTER BENEFIT

ここでこれからリアム先輩のご尊顔を拝することができるのです

さて、ようやく開場です。しかし、中へ入ると「あれ、案外人少ない?」。いいえ、人々は、まずビールを買いに行っているのです。その隙にスルスルスルっとステージ前へ歩を進め、なんと最前列から3列目を確保しました! こんなに近くで先輩を見られるだなんて!! もうこの時点で興奮しまくりです。そしてライブ開始前に済ませておきたかったトイレも、「今動いて、この好ポジションを失うことはできぬ」と、膀胱炎になる覚悟を決めたのでした。

さぁ、いよいよライブが始まります。トップバッターは、ザ・コーラル。UKロック・ファンを自称しておきながら、「ム? この曲、何か聞いたことがあるな~」程度で、実はあまり知りませんでした。不勉強でお恥ずかしい限りです。でもノリも良くて、ボーカルも男前だったので(これも重要ポイント)、これは帰ってCDを買わねば。フムフム、要チェック。

続きましては、グレアム・コクソン。「あれ、この人、リアム先輩の天敵・ブラーやった人ちゃうん?」と思った通り、彼は元ブラーのギタリスト。リアム先輩はブラーのボーカルとは今も仲が悪いみたいですが、グレアムとは仲良しだったんですね。ギタリストだけあって、歌よりもギターがすごかった。バック・バンドも、よく見たらギターばっかり(4人ぐらいがギターを弾いてた)。「どんだけギター好っきゃねん!」と一応、心の中で突っ込んでおきました。

そう、この頃までは脳内ツッコミもできるほどの余裕があったんです。スタンディング前列のわりにはギュウギュウ詰めってほどでもないし、案外みんな大人しいのね。そんな風に高をくくっていました……次のステージが繰り広げられるまでは。

そう、会場の雰囲気を変えたのは、ポー—-ル・ウェラー—–師匠!! 師匠がこんなに早く出てきちゃっていいんですか?? 会場は一気に、通勤電車のラッシュ状態に(ちなみにチューブではなく、山手線や御堂筋線レベル)。一気にグイグイ押し寄せる人々、耳をつんざく歓声、空から降ってくる謎の液体(恐らくビール)。そういえば、ダイジェストに載っているホロスコープで、今月のおとめ座は「降り注ぐとき」と書いてありました。ビールやらサイダーやら水やら、たくさん降り注いできましたとも。髪も服もぐっしょり。あの占いの的中率は、半端ないっすね!

師匠のライブは、さすがの迫力でした。「Changingman」は会場がうねるほどの熱狂となり、ラストの「Come Together」は、いぶし銀の渋さ満開。あぁ、これを見れただけでも満腹です。

いやいや、ライブはまだまだ中盤に差し掛かったばかり。満腹だなんて、ネムいことは言ってられません。師匠のバック・バンドで1人「何か見たことあるような……」と思っていたら、なんとステレオ・フォニックスのケリー・ジョーンズじゃないですか! 師匠が舞台を去った後、彼はアコギ1本で「Local Boy In The Photograph」などを歌い上げました。うーん、久々に聞くけど、これも結構な名曲ですなぁ……。と、聴き入っておりましたら、なんと私の前に陣どっていた女子がソソクサと退場していくもよう。恐らくはトイレ退場やな。「フフン、(膀胱炎になってもかまわないという)覚悟が足らんから、こんな事になるんや」と思いつつ、すかさず半身を前へ押し入れて、ポジショニング・チェンジです。そして! なんと! ついに! 私は最前列へと踊り出たのです。こんな世紀のライブを、最前列で見られるだなんて! 神様ありがとう。クリスチャンじゃないけど、サンクス・ゴッド!

思いがけずめぐってきた幸運を噛み締めていましたら、「ギャァアアアアアアアーー」という歓声が、地響きのように広がってきました。どうやら次に登場してきたのは、プライマル・スクリームのようです。私もすかさず、「ギャァアアアアアアーー」と共鳴します! 会場はもはやナイト・クラブへと一変。ある種のトランス状態となり、みんな理性を失って狂喜乱舞。ちなみに私は、プライマル・スクリーム・ファンの友人のために必死でシャッターを押したのですが、なんせクネクネと踊りまくっていたので結局まともな写真は一枚も残せませんでした。友人よ、すまぬ。

プライマル・スクリームの宴が終わったら、観客はもう息も絶え絶えです。セキュリティーの人が、マラソンの給水係よろしく、水を与えてくれます。またも天から降り注いでくる、水。「我も、我も」と口を開いて催促する私たちは、まるで親鳥からエサを与えられる雛のよう。ついでに言いますと、後からの圧迫と、前のフェンスとの狭間で、私はまるで圧縮袋に入れらた布団のようになっておりました。肋骨や胸骨が折れるんじゃないかと身の危険を感じつつも、「いやいや、まだリアム先輩を見ていないのに死ぬわけにはいかん!」と気合を入れ直します。

そうこうしているうちに、少し静まったステージにアコギ1本を持ってふらっと現われたのは、リチャード・アシュクロフト。何を隠そう、私がリアム先輩の次に好きな人なんです。そして爪弾かれ出されたイントロは、ザ・ヴァーヴの名曲「Sonnet」。あぁ~、染みる! 染みすぎて、泣ける……。日本で働いていた頃、残業に残業を重ねて帰宅するときに、よく聞いていたっけ……と、色んな思い出がフラッシュ・バックしてきます。次の「Lucky Man」も、染みるぅぅ……。なぜに、この人の声はなこんなにも心に染みるのでしょう。どれぐらい染みるのかって、擦りむいた膝にマキロンをぶっかけたときぐらいに染みるのです。それだけ刺激的でありつつも、温泉に浸かったときの「くぅ~~」と似たような恍惚感。うーん、我ながら例えが下手だな……。彼はその後、新曲まで披露してくれました。ありがたや……思わず合掌です。

いやはや、それにしても本当に豪華な布陣です。90年代のブリット・ポップにはまった世代には、現実の出来事だと信じてもらないのではないでしょうか。まさしく桃源郷。もしかしてこれは、夢?と自問を繰り返すばかりです。しかしながら、この頃にもなると、もはや残された体力はドラクエで言うところのオレンジ色レベル。またしてもセキュリティーの人から水をかけてもらって少しばかり回復させつつ、最後の大トリ、リアム先輩率いるビーディ・アイの登場を待ちます。ローディーの人々がセッティングに戸惑っているようですが、先輩のためならば喜んで待ちますとも。思う存分、最高の状態にセッティングしてくだされ。

そして、ついに幕が上がりました。
同時に映し出されたのは、でっかい、でっかい、でっかい、日の丸!
あぁ、日本のために……先輩!
大股でズカズカと歩いてくる姿は………、先輩!

JAPAN DISASTER BENEFIT

ステージには巨大な日の丸が!


ああ、あぁ、あぁ、あぁああ、もぉ!! …………先輩!!!!
ちょっと我を失ってしまいました。申し訳ございません。

私の半生以上においてスターであり続けている、リアム・ギャラガーは、この日も、とてつもなく格好よかったのでございます。ステージのど真ん中に仁王立ちし、観客をぐるりと見渡した後、デビュー・アルバムから「Four Letter Word」「Beatles And Stones」「Millionaire」「The Roller」「Bring The Light」「Standing On The Edge」を立て続けに熱唱されました。

いつも通り、手を後ろで組んで、天を睨みつけるかのような姿勢で歌う先輩。その人が、私の手のほんの数メートル先に立っておられるんです!
同じ空気を吸っているんです!!
同じ歌を歌っているんです!!!!

時おり観客に向かって放たれる言葉は、私のつたない英語力では聞き取れきれなかったのですが(でもカッコイイ!)、「Kill For A Dream」を歌う前に言ったこの一言だけは聞き取れました。

「For Japan」

ジャパンのために!
日本のために!
日本人のために!!
てか、私のために!? (いや、これはウソですが)

「Kill For A Dream」の優しい旋律に乗せて、先輩の優しさが涙をさそいます。普段はあんなに不遜で横柄な態度をかましているけど、実はものすごく心が温かいんですね。このチャリティー・ギグだって、先輩が発起人として親しいアーティストに声掛けて下さったんですもんね。要するに、先輩、実はめっちゃええ奴なんですね。私はもう、感動を通り越して、失神寸前です。

その後も「Man Of Misery」「Morning Sun」「Sons Of The Stage」と続いたのですが、もはや視界は涙で潤んで、ただただ先輩を見上げるのみ。一言で表すならば、「うっとり」状態。しかし、どんなに至福のときも、終わりは訪れるものです。盛者必衰、諸行無常……あ、ちょっと違いますね。頭がおかしくなっているのは、ここまで来たらお許しください。

ラストの曲は、ビートルズのカバー「Across The Universe」。観客も大合唱で、会場全体が一つになった瞬間でした。ゾクゾクゾクっと全身に鳥肌が立ち、言葉も何もでません。そのタイトル通り、先輩の歌は国境を超え、何万キロもの距離を超えて、確実に日本に届いたと思います。

ありがとう、リアム先輩。
ありがとう、ウェラー師匠を始めとしたロックンロール・スターたち。

私はイギリスにいて被災もせず、日本のために何もできずにいる無力な人間ですが、いち日本人として心から会場にいた全員にお礼が言いたい。

ありがとう、イギリス。

そして、私も自分にできることを探し、日本のために役立てるような人間になりたいと心から思いました。

と、本来ならここで奇麗に記事をしめるべきなのですが――実は、この後、私の三十数年の人生でトップ3に入る出来事が起こってしまったのです(あ、何気に年齢をばらしてしまった……)。なんと「Across The Universe」を歌い終えた後、リアム先輩はステージから客席前のピッチに降り立ったのです! そして関節が抜けんばかりに伸ばした私の手を握り(もちろん他の観客の手も)、去っていったのでした……。

リ、リ、リ、リアム先輩が、天から降ってきた…………
じかに肌と肌とが触れてしまった………………

一緒に行った友人が無理やり手を引いて連れ出してくれなければ、私は一生その場で棒のように突っ立っていたことでしょう。その手は、ちょっと濡れていて、でもひんやりとしていて、意外と柔らかい手でした。

なんか、新興宗教にはまったかのようなレビューになってしまいましたが、ここまで読んで下さった皆様、長々と自己満足の世界にお付き合いくださり、本当にありがとうございます。インターンの分際でこんな記事を書かせてもらい、恐縮する限りです。そしてそれを許して下さった、寛大なニュースダイジェストの方々へも、改めて御礼を申し上げます。色んな意味で最後までご迷惑をおかけしっぱなしでしたが、とても貴重な経験をさせて頂きました。本当にありがとうございました。

追伸

リアム先輩へ。

15歳のころから、ずっと貴方のファンですが、私はきっとこれからも一生、ファンでい続けます。
あなたこそが、世界最強のロックンロール・スターだ。

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