ジャズ・ピアニスト、上原ひろみのコンサートに行ってきた

by 編集部員(月)

こんにちは。英国ニュースダイジェスト編集部の(月)です。いつもの(籠)さんが花粉症でバテているので、今回は代わりに私が書かせていただきます。さて、ロンドン中心部の高級地、スローン・スクエアにあるカドガン・ホールと言えば、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地として知られる瀟洒なコンサート・ホールとしてクラシック音楽ファンにはおなじみの場所です。今回はこのカドガン・ホールで、米国を拠点に世界中で活躍するジャズ・ピアニストの上原ひろみさんが「Hiromi: The Trio Project」と銘打ち、ベースとドラムスを引き連れてコンサートを行うというので行ってきました。

上原ひろみ

会場内のお客さんは、日本人と日本人以外のお客さんがほぼ半々。ドレッド・ヘアのファンキーな男性やジャケットを着込んだ育ちの良さそうな男の子から、いかにも普段はクラシックを聴いていますという風情の上品なおじいさままで、実に多様な客層がユニーク。

ブルーの照明に染まった舞台の上にはピアノとベース、ドラムが。そこに白のノースリーブのチュニックに短パン、スパッツにラメ入りのスニーカーという超カジュアルな服装に身を包んだ上原ひろみさんがベーシストとドラマーとともに現れたかと思ったら、いきなりフルスロットルで演奏が始まりました。

日本人から見ても華奢な体躯の上原さん。きっと英国人には高校生と言っても通じるでしょう。そんな彼女が、立ち上がったり、片足をぶらつかせたり、足を踏み鳴らしたり、鍵盤に肘鉄食らわせたりしながら、まるで生まれて初めてピアノを見た子供が鍵盤を好き勝手に叩きまくって遊んでいるかのようにしてピアノを弾きまくるものだから、客席も驚きに包まれているのがすごく良く伝わってきます。

でも不思議なことに、鍵盤と戯れているようにしか見えないのに、そこから生み出される音は、ベースやドラムと絡み合って、見事に一つの曲へと昇華されていく。彼女のもつ超絶技巧と独創性に満ちた演奏風景に、客席の人たちが一気に引き込まれていきます。始め微動だにしていなかったお客さんたちが、次第に頭を揺らし始め、そのうち体全体を緩やかに動かしている様が私の席からもはっきり見えました。実は私の前の方に座っていた2人の男性がしきりに首を横に振っていたのがちょっと気になっていたのですが、曲が終わるたびに拍手喝采で、後半途中にはスタンディング・オベーションしてしまうほどの熱狂ぶり。「いやあ、凄すぎるね、これは」っていう首振りだったようです。

蛇足ですが、その情熱的な演奏スタイルと終始楽しそうに笑みを浮かべる彼女の魅力にやられてしまったのか、後半、カメラで隠し撮りする男性が非常に多く目についたのが印象的でした(演奏中の写真撮影は禁止されています。やめましょう)。

最後は当然、客席総立ちのアンコール。最後の一曲まで全力疾走で駆け抜けるように弾きまくった後、感謝の言葉を流暢な英語でつぶやいてふにゃりと笑い、ふわふわ去って行った上原さん。パワフルな演奏と肩の力の抜け切った柔らかい雰囲気に、同性ながらすっかり魅了されてしまった一夜でありました。

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