ウィンブルドン選手権予選に臨むクルム伊達公子選手を観てきた

2015年06月24日 by 編集部(籠)

6月29日から開幕するテニスのウィンブルドン選手権を控え、現在行われている同大会の予選に行ってきました。

予選が開催されるのは、ロンドン西部ウィンブルドン地区にあるあの会場ではなく、そこからさらに西へ進んだローハンプトン地区にある「イングランド銀行スポーツ・センター」。地下鉄ではなく地上線の「バーンズ」駅から木々に覆われた小道を通り抜けて数十分歩いた末に辿りつけるといったようなところにあります。

チケット入手が困難なことで知られる本選とは異なり、予選の観戦は無料。駅前からピクニック用具をかついで歩いている人がたくさんいました。年輩というかお年寄りの方が若干多い印象。テニスを観ながら日がな一日過ごす余生って確かにいいですね。

ウィンブルドン予選会場

ウィンブルドン予選会場にはピクニック用具を持参して観戦に臨む人々がたくさんいました


会場に着いてみてもう一つ感じたのが、日本人の観客が意外に多かったこと。40、50人はいたんじゃないかと思います。以前にもこの予選会場に来たことがあるという日本人記者さんが「こんなに日本人がいるのは見たことがない」と仰っていたので、今年は特別だったのかもしれません。というのも、今年はこのウィンブルドン選手権の予選に、日本のクルム伊達公子選手が出場することになっていたから。

伊達公子選手とウィンブルドンと言えば、覚えている人も多いでしょう。1996年大会の準決勝。女王シュテフィ・グラフと対戦した試合で、日没順延そしてフルセットの末に惜敗。あのころ僕はまだ高校生で、学校の教室でテニス部の女子と「伊達公子すげー」と言って騒いでいました。

あれから19年。ウィンブルドンの準決勝でかつて女王を打ち負かそうとしていた選手が、今は予選からはい上がろうとしている。それだけで心臓が高鳴ってきませんか。

予選会場には「観客席」というようなものはなく、コートの周りを覆っている芝生の上に座り込むか、もしくは持参またはその辺に適当に置かれている椅子を引っ張ってきてそれを自分の席にしちゃうというだけ。食堂は選手、大会関係者、一般観客が共用。僕が昼ごはん食べているときには、ついさっきまでコートに立っていた選手が隣でユニフォームを着たままコーチらしき人と何やら話をしながら食事していました。予選会場って、そんな場所なんです。

その予選会場のコートに、あのクルム伊達公子選手が立っている。いつものように自分で荷物背負って、コートに入場する前にはコーチ陣と固い握手を交わして、本選出場に向けての長い長い道のりが今、始まった。あの会場にいた大勢の日本人観客の誰もが、そう思っていたはずです。伊達選手はいざ試合が始まると、「(相手のボールが)同じ方向に来るの分かってんじゃん!」とか「(得点を決めて)カモン!」という具合に声を出しながら、コート上を躍動していました。

サーブを打つクルム伊達公子選手

サーブを打つクルム伊達公子選手


でも長く見えた本選までの道のりは、思いのほか短かく途絶えてしまった。まさかの予選初戦での敗退。ベラルーシ出身のオリガ・ゴボルツォワ選手に4‐6、6‐7で敗れました。最後はタイブレークにまでもつれ込む接戦だったのだけれど。

試合が終了するや否や、すぐに荷物をまとめ上げ、憮然とした表情でトレーニング・ルームへと引き上げていく伊達選手。移動中に話し掛けた記者の質問にも応じず。トレーニング・ルームでの入念なクールダウンを終えて、今度はシャワー室へ。その間もずっと沈黙。それから結構な時間が経ってから、再び姿を現した伊達選手に対してスポーツ記者が取材をしていいかと尋ねると、今度は応じてくれました。

伊達選手が答えてくれたのは、今日の敗戦はまず「相手がタフだった」ということ。ご自身がブログでも述べていますが、ツアーを一緒に回りながら、ゴボルツォワ選手の強さを十分に認識していたそうです。「ウィンブルドンは私にとっても相手にとっても嫌がるコートとなるはずでしたけど、今日は相手が強かったので、結果にはつながらなかった」。負けた悔しさを隠そうともせず、同時に敗戦の理由を冷静に振り返る様子を見ながら、これがプロのスポーツ選手なんだな、と実感しました。

残念ながら、シングルスではウィンブルドン本選への出場権を獲得できなかったけれども、実は伊達選手、まだダブルスでの試合が残っています。「シングルス(での本選出場)がなくなった今はダブルスにフォーカスするだけ」。すぐ次に向かわなければいけないというのも、これまたプロのスポーツ選手。

ダブルスでは、ウィンブルドンのコートに立つ伊達選手の笑顔が見られるといいな。(籠)

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