映画「アマデウス」を生演奏で楽しむ贅沢

小学校の授業で読んだ物語とか、中学生時代に合唱コンクールで歌った曲だとか、子供のころに学校で出合った文化的な物事や事柄って、妙に記憶に残っていたりしませんか。私の場合、それは音楽の授業で観た1984年製作の映画「アマデウス」です。

18世紀に活躍したオーストリアの作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトと、同時期に宮廷楽長としてオーストリア皇帝ヨーゼフ2世に仕えたアントニオ・サリエリという2人の愛憎渦巻く関係を描いた「アマデウス」。天界から響いてくるような軽やかな旋律を生み出すモーツァルトがお下劣なダメ男で、その品性卑しき男に宿った音楽の才に猛烈に嫉妬したサリエリが、そんな男に才能を与えた神への復讐を決意するという衝撃的な内容(これはあくまで映画の中の話です)と、当時の様子を克明に再現した美術や衣装、そしてトム・ハルス演じるモーツァルトのけたたましい笑い声が心に深く刻まれ、長年、私の中で特別な映画となっていたのです。

さかのぼること数カ月前、そんな私にとって特別な存在である「アマデウス」が、なんと音楽祭プロムスの開催場所として知られるロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでオーケストラの生演奏付きで上映されるという情報を得て、大興奮。ずっと楽しみにしていたのですが、先日、ついに行ってきました。

Amadeus

座席は何とボックス席。ここから見える景色は、まるで「アマデウス」の中のオペラ鑑賞の一場面のよう

「Amadeus Live」と銘打たれたこのイベント、映画上映に合わせ、生のオケとコーラスが劇中音楽を奏でてくれます。演奏はアカデミー・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ。コアなアマデウス・ファンの方ならばご存じかと思いますが、何と映画の音楽を担当していたオケなのです! もちろん、演奏者は当時とは異なるでしょうが、やはり気分は盛り上がります。彼らがフィルハーモニア・コーラスとともに、映像と寸分たがわぬタイミングで、「後宮からの誘拐」「フィガロの結婚」なんかを演奏してしまうわけです。冒頭、「交響曲第25番」の「タターンターンターンタ♪」というおなじみの旋律が耳に入ってきた瞬間に背筋が震え、一気に映画の世界の中へ溶け込んでいく感覚に。ロイヤル・アルバート・ホールの広大な空間に鳴り響く音は、深みと広がりをもって観ているこちらに迫ってきます。本当に贅沢の極み。

Amadeus

プロムスのときには立見席になっているエリアにも座席がぎっしり

大切な映画ではあったものの、長らく観ていなかったこの作品を改めて観直してみて、新たに気付いた点もありました。子供のころはサリエリを、神と神に愛されし天才を憎悪する凡人という視点で捉え、同じ凡人として共感を覚えていましたが、こうやってじっくり観てみると、モーツァルトもまた、才能こそ際立っているとはいえ、神に振り回された人間なのだなあ、と思ったり、サリエリはただの凡人だったらまだ良かったのに、なまじ「音楽を理解する才能」の持ち主だっただけにモーツァルトに対し憎さ100倍になってしまったのだろうな、と思ったり。生演奏に耳を傾け、超大画面でじっくり映像を観ながら、色々と思いを馳せてしまったのでした。

ロイヤル・アルバート・ホールで行われる生演奏付きの映画鑑賞、実はシリーズになっていて、次回はジェームズ・キャメロン監督のかの有名なSFホラー、「エイリアン2」を上映する「Aliens Live」だとか。美しく、でも不穏さの漂うあの旋律がオケの生演奏で……さぞや迫力満点でありましょう。想像しただけでゾクゾクします。11月6日(日)の午後3時と午後7時半、2回予定されているようなので、ご興味のある方はぜひ!

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