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今や世界で最も有名な時計塔として名を馳せるビッグ・ベン。その誕生のきっかけとなったのは、1834年10月16日にウェストミンスタ ー宮殿(現在の国会議事堂)を襲った大火だった。この火事で建物のほとんどが焼失。その結果、同じ場所にゴシック様式の新しい建物を 建設することになったのである。 公開コンペにより97のデザイン案が審査された結果、見事栄冠を勝ち取ったのは、チャールズ・バリー。彼がビッグ・ベン生みの親とな ったのだ。
バリーのデザインで特に異彩を放っていたのが時計塔だった。関係者らはその斬新な提案に感動し、「ウェストミンスターの偉大な時計」 と呼んでその誕生を待ち望んだ。とはいえ当時すでに建築家として名を馳せていたバリーも、時計や鐘に関してはずぶの素人。そこでバリーが呼んできたのが友人であり、女王の時計職人だったベンジャミン・ルイス・ブリアミーだった。かくして長年に及ぶ時計塔建設の幕が開いたのである。
ロンドンまでの長い長い旅 時計塔の鐘が最初に鋳造されたのは、1856年8月6日のこと。イングラ ンド北部ストックトン・オン・ティーズのワーナーズ鋳造所でつくられたこの鐘の重さは約16トン、当時では国内最大の鋳造物だった。この鐘が無事塔に収まるまでには、また別の長い苦労話がある。 まず大変だったのがロンドンまでの長旅だ。北東部のウェスト・ハートルプールまで列車で運び、その後ロンドンまでは船で運搬。船に運び込ま れた時には甲板に激しい損傷を与え、船旅の途中では嵐に巻き込まれてあ わや海の藻屑となって消えるところだったという。 ロンドンに着いてからは特別仕立ての16頭立て馬車でウェストミンスタ ー・ブリッジを渡り、ようやく目的地である時計塔に到着した。 鐘にひびが! その後は宮殿の北側にある庭、ニュー・パレス・ヤードの台に吊るされ、テストを受ける日々。鐘に「ビッグ・ベン」の愛称が付いたのはこの頃である。そんなビッグ・ベンに1857年 10月、悲劇が起こった。テスト中の鐘の表面に1.2メートルほどのひびが入ってしまったのである。その原因に関しては、さまざまな意見が飛び交ったが、製作者のワーナーズは、設計者のデニソンにより鐘の舌(ハンマー)の重さが当初の355キロから660キロに増やされたからだと弁明した。原因は何であれ、こうしてひび割れたビック・ベンは一旦壊され、 再鋳造されることになった。ワーナーズがあまりに高額の費用を請求したため、今度はロンドンにあるホワイト・チャペル鋳造所が製造を 担当することに。1858年4月10日のことであった。 沈黙するビッグ・ベン しかし、鐘と時計を襲う災難は、まだまだ続く。 第一に、時計が動かない。これは鋳鉄製の分針が重すぎたた めで、銅製に変えることによって解決した。第二の問題は、 1859年、ビッグ・ベンがついに動き始めたのと同時に発生し た。鐘の音がうるさすぎると議員たちから苦情が寄せられたの である。そして極めつけがひび。新しい鐘にも前回同様、ひび が入ってしまったのだ。 ひびのせいでビッグ・ベンはその後4年間、沈黙を余儀なく され、その間はビッグ・ベンの周りに設置されている4つの鐘 がその役目を果たしていた。解決法が見付かったのは1863年。 ひびの入っていない面に舌が当たるように鐘を1/4回転させ、 ひびがこれ以上広がらないように、小さい四角形の穴を開けた のである。そして舌の重さも330キロから200キロへと減らさ れた。こうしてビッグ・ベンは再びその役目を取り戻し、今日 ある「世界一の時計塔」としての役割を果たすようになったの である。
苦労はいまだ続く…… 時計塔がその動きを止める時 長い長い困難の歴史を経て1859年5月31日に動き出した時計塔。第二次大戦中にはドイツ空軍による数々の爆撃にも負けず、ひたすら時を刻み続けてきた。しかし、戦争にも耐えたこの時計は、これまで思わぬ出来事により何度かその動きを止めたことがある。 1. 年に2回の恒例行事 これはハプニングではなく、年に2回訪れ る、英国の夏時間の始まりと終わりの調 整作業。この際には部品の補修工事など も合わせて行われる。 2. 「ビッグ・ベンを止めた男」 1922年、塗装業者たちが時計塔の内部の 塗装作業を行っていた。ある朝、時計面 の裏側の部屋で作業をしていた作業監督 が、はしごを時計の針を回転させる軸に 立てかけたまま、外へ出てしまう。しば らくしてその作業監督が地上から時計を 見上げてびっくり! なんと正確なことでは 他に類を見ないはずのビッグ・ベンの時 計が止まっているではないか。原因を作 り出した当の作業監督、G・F・ウィード 氏は、「もちろん、私は非難されたよ。で もどうやって分かるっていうんだい? 私 は時計職人じゃないんだよ」と弁明。翌 日の新聞には、「ビッグ・ベンを止めた男」 として大々的に取り上げられたとか。 3. そのほかのハプニング 1949年 ムクドリの群れが時計の分針に止まり、4分30秒の間、時計が止まる。 1962年 大雪の影響で、新年の鐘が10分遅く鳴る。 1976年 時計装置が金属疲労により故障。再び時計が動くまでには3週間を要した。 2005年 5月28日22時7分に分針が突如止まる。やがてゆっくりと動き出したが、22時20分に再び動かなくなり、約90分間静止していた。異常の原因は不明だったが、この日は気温が31.8度に達しており、気温上昇のため、という見解がなされた。 そのほか2000年9月には、地下鉄ジュビリー線の 拡張工事による振動を遮断するため、時計塔の地下 に何百トンものグラウト材(地盤の強度を高めるも の)が運び込まれるなど、世界一の時計塔は正確な 時間を刻むため、地味で堅実な努力を続けているの である。