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第28回 ウィリアム・ブレーク
ウィリアム・ブレーク

前回に続き、詩人であり、画家でもあったウィリアム・ブレークの言葉を取り上げる。

不幸に打ちひしがれた人がいる。貧困、病気、孤独、不安……人生を襲うもろもろの艱難辛苦に呻吟し、ひとり心痛を重ねている人は少なくない。苦境を脱する糸口がどうにも見出せず、絶望の淵に沈むばかり、こらえようにもこらえきれない涙が溢れ落ちる。

そのような人に、ブレークはそっと語りかける。大丈夫。さあ、元気を出して。希望の光を信じて。疲れ倦(う)み、萎(しお)れきってなお、あなたの目は、澄んだ青空や星の輝きを見ることができる。耳は風の囁きを聞くことができる。熱い血潮は身体を駆けめぐり、心臓は生命の鼓動を脈打つ。あなたはそうして、掛け替えのない命を生きている……。

絶望するな、頑張れと励ますブレークの言葉は、愛の伝道者のそれである。愛を欲しながら愛に恵まれず、愛に飢えた人々の魂に向けたブレークの愛の贈り物なのである。その愛を生むものは、命への深い共感、宗教的と言えるほどの高い徳義心に満ちた人間へのやさしい眼差しである。ブレークという詩人の胸に湛えられた人間愛の海のような深さ、広さに、私は驚くばかりだ。

「Eternity(永遠)」という言葉がキリスト教的な背景から出ていることは明白だが、不幸の涙を知る者こそがその「永遠」に達することができるのだとするブレークの考えは斬新であり、ある意味では過激だ。黄金と輝く大聖堂に集まる王侯貴族の信徒たちよりも、路傍に蹲(うずくま)る不幸の人のほうがよほどキリストの愛の間近にいることを、詩人は公言して憚らない。哀しみ、苦しみの涙は、間違いなく人を育てる。そのような涙を通してこそ、人は真実へと導かれる。涙を知らぬものは、虚栄の市に浮かれ興じているだけだ。人としての尊さは、涙を知る者にこそ宿る。涙は、踏み躙(にじ)られ傷つけられた心に尚も残る清らかさから滴(したた)る、聖なる雫(しずく)なのである。

欺きの微笑みをも受け入れる、微笑みのなかの微笑みを語り、大きな愛のありようを示した前回の言葉はブレーク自身への生きる覚悟となる言葉であった。今回のこれは、そうした気高い愛の境地に立って、他者に語りかける慰謝の言葉である。その意味では、「永遠」という真実の御堂に掲げられた対句のように聞こえなくもないが、練りに練られた珠玉の言葉のうちには、ブレークならではの高潔で至純な愛が不滅の光を放っている。

私には、ロンドンの陋巷(ろうこう)やテムズのほとりにたたずむ孤高の詩人の姿が見える気がする。この世の真実を見極めんとする鋭い眼光。だがその奥には、優しくも深い慈愛が、その微笑みの暖かさが、絶えず濡れた輝きを湛えているのだ。


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