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知っているけど知らないロゴのひみつ

企業の顔として、商品の顔として、いつの間にか頭の隅にしっかり刻み込まれているデザインたち。しかしイメージを「形」に変え、それで人の心を捉えるというのは、実に難しい作業でもある。普段何気なく眼にしているロゴやマーク、その知られざる裏側に迫ってみよう。(本誌編集部 國近絵美 写真提供: Kayo Hayashi)

HMV

「世界一有名な犬」に見る、キャラクターのブランド力

HMV

テレビCMでは実物(にそっくりの犬)が登場することもある、世界で最も有名な犬、ニッパー。英国人画家のフランシス・バラウドが描いた1枚の絵を基に作られたこのHMVのロゴだが、実はこの原画が出来上がったのは、1899年のこと。そして絵の誕生のきっかけとなったのは、遡ること1884年、フランシスの兄、マーク・バラウドが1匹のジャック・ラッセルを拾ったことに始まる。

訪問客の足に噛み付く(nip)ことから「ニッパー(Nipper)」と名づけられたその犬は、マークが87年に死去した後、フランシスが引き取ることになった。ある日、フランシスが兄の声を吹き込んだレコードをかけると、ニッパーは不思議そうに首をかしげて蓄音機を覗きこんだという。その様子があまりに印象的だったのか、ニッパーの死から3年後の98年に、フランシスは蓄音機を覗きこむニッパーの姿を描くことにした。そして翌年完成したその絵は「His Master’s Voice(ご主人様の声)」と名付けられる。

その年の暮れ、英国で蓄音機の販売を行っていた「グラモフォン・カンパニー」がこの原画を購入し、1900年、少しシンプルに描き直されたニッパーのロゴが同社の広告に登場する。ロゴは客たちに評判が良く、グラモフォン・カンパニーが販売するレコードはいつの間にか絵の題名を略して「HMVレコード」と呼ばれるようになり、正式ではないものの、会社自体も「HMV」と呼ばれるようになったという。

それから数年後、円盤式蓄音機の発明家であるエミール・ ベルリナーが設立した「ビクター・トーキング・マシーン・カンパニー」が、米国でこのロゴの版権を手にする。そのため 「His Master's Voice」のロゴが、国によって全く別の会社に所有されることになった。

現在、ビクター・トーキング・マシーン・カンパニーの後身である「RCAレコード」は、ラジオと蓄音機にしかニッパーのロゴを使用していない。現在も「ビクター」の名で同じロゴを採用しているのは、米ビクターから独立した「日本ビクター株式会社」のみとなっている。というわけで、HMVジャパン社のロゴにニッパーの姿は無く、蓄音機がぽつんとあるだけだ。その愛らしさゆえ、意外と複雑な飼い主事情を持つニッパーだが、現在オリジナルの絵は、グラモフォン・カンパニーの後身である「EMI」社の英国オフィスに飾られているという。

Wedgewood

一文字で高級感を出す、老舗ならではの技

Wedgewood

世界最大級の英陶磁器メーカー、ウェッジウッド社が食器を製造・販売し始めたのは、1759年のこと。「結婚式の引き出物といえばウェッジウッド」という、高級な贈り物のイメージが日本では定着しているが、同社の成功の秘訣は、なんといってもこの「企業イメージ」による他社との差別化に他ならない。そしてそのイメージ戦略としてどこよりも早く社名を「ブランド化」したのがウェッジウッドだった。

創始者であるジョサイア・ウェッジウッドは、当時英国では珍しかった古代ギリシャ・ローマのミステリアスなイメージの名称を商品に付け、高級感を出した。そして、当時は紋章などのマークを陶器の裏にプリントするのが主流であったが、ウェッジウッドは1772年ごろから社名をロゴとして使用。そして1989年にロゴが規格化され、現在の「W」のロゴを印すようになった。

Victoria & Albert Museum

無駄のない美しさで個性を強調

V&A

誕生から30年近くたった今でもモダンな魅力を持つビクトリア&アルバート美術館のロゴは、英国が世界に誇るグラフィック・デザイナー、アラン・フレッチャーによる作品だ。フレッチャーは他にも、英通信社「ロイター」が92年まで使用していた、89個の点からなるロゴも手掛けている。

特別な日には、特別な衣装で

V&A

2007年6月、ビクトリア&アルバート美術館の開館150周年を記念して製作されたロゴ。150人のデザイナーや写真家、建築士などを招き、各々がV&Aへの思いを作品にして1ページずつ収録した「記念アルバム」のようなアート本を作成したという。

London 2012

英国民の心を1つにしたロゴとは?

London 2012

デザイン1つで、人はこんなにも怒れるものなのか……と感心するほどの議論をかもし出したのが、このロンドン五輪のロゴ。大会史上初めてオリンピックとパラリンピックのロゴが統一され、しかも動画での使用を意識した「次世代デザイン」であると大々的に謳われたものの、去年6月に発表されるや否や、国民から厳しい批判が相次いだ。さらには動画版を見た22人がてんかん症状を起こし、その上、制作に40万ポンド(約9000万円)も費やしたことが発覚し、国民の怒りが倍増。ロゴの廃止を求めるインターネット上の署名運動では、2日間で約5万人の署名が集まったという。

2012という数字を基にしたデザインはピンク、青、緑、オレンジのバリエーションを持つ上、確かに従来のニュートラルなデザインと比べると異色の作品であり、ロンドンらしいといえば、そんな気がしないでもない。しかし、オリンピックは世界中の人々を巻き込む、注目の一大イベント。だからこそ、「もう少し老若男女に愛されるデザイン」を英国民は求めたのだろう。

英国民を一夜にして敵にまわした
「ウルフ・オリンズ」とは

過去に2004年アテネ・オリンピックのシンボルや「東京メトロ」のロゴを手掛けたこともある、ロンドンを拠点とする超有名ブランド・コンサルタント。かのゴードン・ブラウン首相の妻、サラ・ブラウンが勤めていたこともあり、33カ国にクライアントを持つという。ちなみに、今回制作指揮をとった同社エグゼクティブ・クリエイティブ・ダイレクターのパトリック・コックスは、ロゴの発表から数週間、報道陣から身を隠すために出社を控えていたという。

皆もおなじみ、ウルフ・オリンズの代表作
BT2003年4月、ロンドンに本社を持つグローバル・テレコミュニケーション企業「BT」グループが、12年ぶ りにロゴの一新を行った。これまでの「パイプを吹く人」のロゴはかなり認知度が高かったにも関わらず、 従来の「電話サービス」のイメージが強かったため、 多彩なビジネスを展開するBTによりふさわしいデザインを目指して今回の変更に踏み切ったという。

Unilever基礎化粧品から食品まで、ありとあらゆる業種を傘下に持つ世界最大級の消費財メーカー「ユニリーバ」が、2004年に行った大幅な再ブランディングの際に製作された。同社が所有する多彩な事業や商品ブランドを象徴し、なおかつ1つに統一したいという難しい期待に答えたのが、25個のアイコンからなるこのロゴ。それぞれの意味はウェブサイトでチェック出来る。

Transport for London

ロンドンのイメージを創りあげた巨匠たち

London Transport
London Transport

質の良いデザインは一生もの──そんな言葉がかわいらしく思えるほど長い間愛され続けているのが、ロンドン地下鉄のデザインだ。チューブの路線図、ロゴ、そしてフォントの3つは、単に交通機関のデザインとしてではなく、ロンドンという都市全体のイメージを創りあげることに成功した、初めての公共デザインなのではないだろうか。

1910年代、それまで数社によって運営されていた交通機関が、「ロンドン・トランスポート」という1つの組織として統合される。そこで「ラウンデル」と呼ばれる円形のマークを採用したのがフランク・ピック、そしてシンプルでいて洗練された書体をデザインしたのがエドワード・ジョンストンだ。1916年に完成したフォント「ジョンストン・アンダーグラウンド」は読みやすさ、親しみやすさ、そしてデザイン性の全てに優れており、それ以降、地下鉄に関する表示やデザインは、全てこのフォントが使用されることとなった。

さて、その「ジョンストン・アンダーグラウンド」だが、もともとはディスプレイ用に作られていたため、パンフレットや時刻表などの細かい印刷物を作るには不向きであった。それでも活字を「ジョンストン」のフォントで統一するべきだと考えたロンドン・トランスポートは、1979年、河野英一という印刷専門学校を卒業したばかりの在英邦人デザイナーに「ジョンストン」をベースにした新しいフォントの制作を依頼する。そして河野が完成させたフォント「ニュー・ジョンストン」は、現在でも公共交通機関の駅名や表示、印刷物などに使用されている。このフォントの特徴は「i」と「j」、そして「.」や「,」の点の部分が◆形になっているところだ。

一方、現在使用されている地下鉄の路線図の原型がデザインされたのは、1931年のこと。製図者であったハリー・ベックは従来の地図を簡素化し、8線(当時)が複雑に絡み合った地下鉄システムを洗練された「アート作品」のように変えることに成功した。ベックのデザインした地図と実際の地理とでは距離感がかなり違うが、乗客たちに何よりも「使いやすさ」を提供するという、公共デザインの第一目的を見事に達成している。

Royal Air Force / Mod

空軍? モッズ? 人気マークをめぐる戦いとは

Royal Airforce と The Who
左)Royal Air Force 
右)「The Who」のロゴとターゲット・マークを組み合わせた、
いかにもモッズなデザイン

モッズとは、50年代後半にロンドンから発祥した、ファッションや音楽をベースとしたライフスタイルとその支持者を指し、60年代初期にピークを迎えたサブ・カルチャーのこと。デビュー当時の英バンド「ザ・ビートルズ」も、マネージャーの意向でモッズ・ファッションとヘアスタイルにさせられたというほどの一大ムーブメントだった。そしてそんなモッズたちが好んで使用したのが、この「ターゲット・マーク」 と呼ばれるデザインだ。

もともとは英国空軍のマークで、軍が所有する航空機には現在も必ずこのマークが描かれている。しかし、60年代に英ロック・バンド「ザ・フー」がこれをTシャツやグッズなどに多様したため、モッズも自分たちのファッションに取り入れ始めた。それにより、ターゲット・マークは空軍のマークとして認知される前に、モッズの象徴的なデザインとして世界中に浸透してしまった。

ターゲット・マークは一度も知的財産として登録されたことがなかったため、英国防省は2003年、これを空軍が販売する洋服ラインのトレードマークとして特許庁に申請した。しかし、「トップショップ」などを所有する英国大手ファッション・グループ「アーカディア・グループ」が、このマークはモッズのムーブメントによって公有財産(パブリック・ドメイン)になっていると反対した。そして2004年1月、商標登録所は「ターゲット・マークはモッズたちによって広まり、人々はそのマークがついた服を見ても、空軍を連想することはないだろう」という結論を出した。しかし、服飾以外の物にターゲット・マークを使用する権利は空軍に与えられている。

Royal Airforce
英国空軍の航空機には必ず入っているこのマーク。多くの国が同じ形のマークを航空機に使用し、中の色を変えてそれぞれの国籍を表している
TV channels

地上波5局の「顔」に迫る

TV局ロゴ

長い時間をかけ、少しずつ手直しされてきた各局のロゴたち。企業イメージという資産を守りつつ、視聴者に新鮮さを抱かせるコーポレート・アイデンティティー(CI)やロゴを常に模索しているのが、テレビという媒体ならではの面白さかもしれない。

まず、テレビ界の大御所「BBC」が放送を開始したのは1936年。しかし53年まではロゴらしきものは使用されず、62年に初めて、現在のものに似たボックス型のロゴが作られた。そして90年代より、「チャンネル4」のロゴ・デザインですでに成功していた英デザイン・広告代理店「Lambie-Nairn」にロゴの製作を依頼し、91年にはBBCという企業ブランドを再構築させるため、再び同社にトータル・デザインを任せたという。さらに、97年には約500万ポンド(約11億5000万円)をかけ、3年にわたってロゴと商標を現在のものに変更した。

一方、67年にカラー放送をする英国初のテレビ局となった「BBC2」は、当時は局名よりも「カラーであること」を強調するロゴを採用していた。そして91年、「Lambie-Nairn」からの提案で数字の「2」を定期的に遊び心のあるデザインに変えたことにより、視聴者からの人気が急上したという。デザインが社内チームで行われるようになった現在でも、この手法は用いられている。

6回に及ぶ微かな訂正を加えながらも、55年に制作されたオリジナルのロゴを長年守り続けていた「ITV」。しかし、06年1月に大文字のアルファベットから現在の小文字に変更し、同年11月にはロンドン発のCM製作会社「Blink Production」によって現デザインへと移行した。ロゴ変更当時は、小文字に変わったことでぐっと親しみやすくなったと、視聴者に好評だったという。また、ITVのキッズ専門チャンネルである「CITV」のロゴを手掛けたのも同プロダクション。

現在の「Channel 4」のロゴの原型をデザインしたのは、後にBBCのイメージ・チェンジを成功させたデザイン事務所、「Lambie-Nairn」。5色の積み木のような棒を組み合わせて作った「4」という数字だけで視聴者に同局のイメージを連想させるという革新的なアイデアを実現し、このデザインは96年まで使用された。現在同局のCMでは、建物や風景などを一定の角度から見るとこのロゴに見えるという、斬新な手法がとられている。

97年に開局されたばかりの「Channel 5」が現在のロゴになったのは2002年のこと。経営体制が変わり「Five」に局名が変更されたことに伴い、ホワイトチャペル・ギャラリーや近代美術館「ICA」のロゴ、そして美術館のウェブ・デザインなどを手がけるデザイン集団「Spin」にロゴ制作を任せた。02年までは「⑤」というシンプルなデザインに、背景が5色に塗られた四角いボックス型のロゴが使用されていた。

BP

超大手企業のロゴ革命に学ぶ

BP

ビジネス環境の変化とともに、企業の顔が変わるのは当然 のこと。しかし大企業になればなるほど、ロゴやCIの急激な変化が吉と出るか凶と出るか、賭けの要素が大きくなるのもまた事実。色を味方につけて吉と出た良い例が、英国に拠点を置くエネルギー関連企業「BP」のロゴだ。

1920年代に油田操業を開始して以来、世界100カ国で約10万人の従業員を有するグループへと成長したBPの最初のロゴは、今とは全く違うデザインであった。そして1930代年に新しく採用されたロゴは、なんと社内で行ったデザイン・コンテストで選ばれた、購買部員の作品だったという。翼型の枠にBPのレターを入れただけのこのシンプルなロゴは、内側を赤、青、緑、黄、白に変えられるようにと発案されたが、いつの間にか黄色と緑色が多様され、そのうちこの 2色が同社のシンボル・カラーとして定着したという。

そして2000年、前身の「British Petroleum」から「BP」に正式名を変える際、これまでとは全く違う太陽のマークをロゴとして採用することになった。ギリシャ神話に登場する太陽の神で、エナジーの象徴でもある「ヘリオス」からヒントを得たというこのロゴは、これまでのBPの企業イメージと関連付けてもらえるよう、社のカラーである黄色と緑を強調。印象的でありながら「見慣れた配色」にすることで、マークの変化による違和感を和らげる狙いがあったという。

Google

シンプルなほど「本気」で遊べる

google

グローバルな巨大企業であるほど、シンプルなロゴを使用しているもの。そして世界中で展開している検索エンジン 「グーグル」もその多分に漏れず、この基本となるロゴに国名が入るだけというシンプルなつくりで統一されている。そんなグーグルで抜群の人気を誇るのが、1日限定で発表される記念日のロゴ。著名人の誕生日や没日、祝日などのイメージが、オリジナルのロゴをベースにデザインされたものだ。

中にはほとんど原型をとどめていない作品もあるが、それでもユーザが「グーグル」とすぐに認識出来るということから、同社の共同創立者であるセルゲイ・ブリンによってデザインされたオリジナルのロゴがいかにインパクトがあり、世界に浸透しているのかが分かる。そして何よりも、この遊び心いっぱいのグーグルの経営方針が、いっそうユーザーの心 を捉えるのではないだろうか。

UKネタ満載の限定ロゴ

2000年より記念日ロゴの製作を手掛けている、米グーグル・ウェブマスターのデニス・ホワン。全世界にファンを持つ彼の作品には、 もちろん英国ネタも登場している。

コナン・ドイルの誕生日 2006
BT名探偵「シャーロック・ホームズ」シリーズの生みの親、英作家コナ ン・ドイルの誕生日記念。世界中のファンから「来年も!」との声が寄せられたという。

ルイ・ブライユの誕生日 2006
BT「点字の父」、ルイス・ブライユの生誕を記念して、点字で「Google」と綴った作品。色の配置以外はオリジナルと全く異なるデザインで、同社の遊び心や前衛的なセンスが全面に出ている。

セント・ジョージズ・デー 2006
BTイングランドの守護聖人の祝日は、イギリス人にとっては国民の日。スコットランド人ユーザーから「セント・アンドリューズ・デーのロゴも作って」との声が殺到したという。

ハロウィーン 2005
BT恒例の行事なだけに、毎年アイデ アを考えるのに一苦労だとか。記念日ロゴは楽しくハッピーなデザインが多いため、不気味なムード作りに力が入った、本人もお気に入りの作品。


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