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気になるCMの裏側拝見

英国のテレビCMが最近、とにかく「魅せる」。主観的な個人の好みを超えて訴える「何か」がぎゅっと凝縮された作品が多いのだ。心を掴む映像美やストーリーはもとより、その影響力の大きさから1つの文化として確固たる地位を築きつつあるこの世界。過去1年間に発表された気になる名作を振り返りながら、その魅力の源に迫ってみよう。(本誌編集部:國近絵美)


大人だからこそ実現できた、無邪気な夢の世界
Škoda: Fabia “Full of lovely stuff ”
Skoda
これが、とっても「ラブリー」な車の仕掛け人たち。台本を読んだ監督が「絶対にムリ!」とさじを投げそうになった夢の車を、見事に実現してくれた
Škoda: Fabia “Full of lovely stuff ”
Creative Agency: Fallon
Music: My Favourite Things (Julie Andrews)

ストーリー一心に何かを造っている、白い作業着姿の菓子職人たち。次々とスポンジ・ケーキやワッフルが組み立てられていくうち、やがてその「何か」が原寸大の車であることが分かる。最後にアイシングで作られたバッジがフロント部分に取り付けられ、これがシュコダ社の車であるということが判明する。


注目チェコの自動車メーカー「シュコダ」が製造・販売する小型自動車「ファビ ア」。去年5月、競争率の激しい「スー パー・ミニ」業界に新作のファビアを登場させ、その際に放映されたのがこのCMだ。お菓子だけで原寸大の車を造るという子どもの夢を再現したようなこの作品は、見た目や技術はもとより、「本当にやっちゃった!」といういたずら心に溢れている。そして大人をも一瞬にして童心に返してしまうのが、テーマソングとして使用されている、英国人女優・歌手、ジュリー・アンドリュースの歌声。オープニングから視聴者をセンチメンタルで優しい気持ちにさせてくれる、このCMにまさにうってつけの選曲だ。

制作を担当した広告代理店「ファロン」が企画段階でまず注目したのは、買い物袋が倒れないようトランク内部にフックが付いているなど、同車に「あったら便利」な機能が充実していたこと。使う人の気持ちを考えた「素敵なもの」が満載だということを強調するために、老若男女、そして世界共通の「素敵なもの」を考えた際に出てきたのが、このお菓子の車というアイデアだった。

この作品の魅力であるほのぼのとした愛らしさは、役者たちを一切使用せず、実際に現場で菓子類を作った職人たちが車を組み立てる姿を追ったからなのであろう。監督を務めたクリス・パルマーによると、小さなモデルを使って組み立て方を試しただけで、後はぶっつけ本番で撮影が行 われたという。演技ではなく、何かに挑戦する本物の喜びが映し出されているからこそ、視聴者は思わず一緒に祝いたくなってしまうに違いない。

ちなみに気になる撮影後のお菓子の行方はというと、長時間スタジオの照明に当たっていたため傷んでしまい、当初予定されていたチャリティー団体への寄付は断念されたのだそう。しかし、チョコレートでできた速度計とマジパンのサイドミラーは、子孫代々に受け継がせるため、大切に保管されているのだとか。

チョコレート使用された材料は卵179個、小麦粉とカスターシュガー各100キロ、アイシング272キロ、マジパン200キロにドライフルーツ65キロなど

部品
部品8人の職人が10日間かけて作った部品たち

エンジン外部からは見えないエンジンにもこの凝りよう。マジパンやスポンジで出来ている

エンジンオイルエンジン・オイルの代わりに、シロップをたっぷり

エンジンオイルファビアの定価は、1台7990ポンド(約184万円)。このCMには約50万ポンド(約1億1500万円)が費やされたといわれている

ゼリー
CMの中でプルプル震えるゼリーを見て、かぶりつきたくなった人も多いのでは?

こんなのあり?老舗が挑んだ衝撃の内容とは
Cadbury: The Dairy Milk “A glass and a half full of joy”
Cadbury
ゴリラこのゴリラ・スーツに入っているのは、米国人俳優のギャロン・マイケル。若手ながらも、過去に映画「コンゴ」や「ハーモニーベイの夜明け」などでゴリラを演じたベテラン俳優だ。恍惚とした表情に「本物?」と疑う視聴者もいたとか
Cadbury: The Dairy Milk “A glass and a half full of joy”
Script / Director: Juan Cabral
Advertising Agency: Fallon
Music: In The Air Tonight (Phil Collins)

ストーリーバックミュージックにフィル・ コリンズの「In the Air Tonight(夜の囁き)」が流れるなか、画面にアップで映る一頭のゴリラ。しばらくうっとりと曲に聞き惚れた後、曲に合わせてドラムを叩き始める。


注目「グラス1.5杯の生乳」のキャッチコピーとイラストで有名な、英国王室御用達のチョコレート会社、キャドバリー。この老舗の定番商品「デイリー・ミルク」のCMは、「ドラムを叩くゴリラ」という、チョコレートとは全く関連性のない内容、そして何の説明もない潔さとが相まって、2007年で最も強烈なインパクトを残した作品といえるのではないだろうか。

ゴリラ以外にも印象的なのが、ストーリー展開の遅さ。ドラム・セットが画面に映るまでの時間はおよそ1分で、その間映るのは、自己陶酔に浸るゴリラの顔と商品のイメージカラーである紫の壁だけだ。30秒のCMに慣れている視聴者にとってこの1分は驚くほど長く、そして放映料金を考えてもかなり贅沢な時間の使い方だといえるだろう。

そしてもう1つ重要なのは、なぜドラムを叩くのか、という疑問。脚本・監督を務めたフアン・カブラルは、「チョコレートを食べる幸せを取り上げる企業が多いので、その幸せを表現してみようと思った」と答え、一方、キャドバリーの広報は「自分の時間を持つということ、そしてその瞬間を勝ち得た喜びを表現したかった」としている。デイリー・ミルクは英国だけで1日およそ100万ポンド(約2億3000万円)の売り上げがあり、英チョコレート市場の約7割を占めているという国民的なお菓子。だからこそ、マンネリ化した伝統的な広告ではなく、斬新な案を採用したとカブラルはいう。

当初はこのCMをどう評価して良いかとまどうメディアが多かったが、視聴者の好反応を示す数字が、意外なところで記録されている。英国人アーティスト、フィル・コリンズの1981年のヒット曲「夜の囁き」は、CMがオンエアされた翌週「UK singles chart」の14位に、そして「UK Download Chart」の9位にランクインされたのだ。四半世紀以上も前の曲を再ヒットさせる影響力に、キャドバリーの作戦勝ちがうかがえるのではないだろうか。

「笑い」で視聴者の意識改革に挑戦
Oxfam: Unwrapped
“Give a decent present from OxfamUnwrapped.com”
Oxfam
サカナのおもちゃに笑ってしまうボーナム=カーター。この自然な笑顔で視聴者と団体の距離がぐっと近づいた
Oxfam: Unwrapped
“Give a decent present from OxfamUnwrapped.com”
Actors: Helen Mirren, Helena Bonham-Carter,
Rob Brydon, Will Young
Creative Agency: Leo Burnett Ltd Director: Jon Greenhalgh

ストーリー女優のヘレン・ミレン、ヘレナ・ボーナム=カーター、俳優のロブ・ブライドンに歌手のウィル・ヤングが登場、過去に経験したクリスマス・プレゼントに関する悲惨な思い出を語る。誰も欲しがらないようなプレゼントを買うぐらいなら、発展途上国の人々に、本当に必要とされる贈り物をしよう、というメッセージが流れる。


注目「英国では毎年何万人もの人々が、いらないプレゼントを貰って苦しんでいるのです……」。深刻な声音のナレーターで始まるチャリティー団体「オックスファム」の作品は、寄付金を募るこれまでのCMにありがちだった「チャリティーっぽさ」を自らパロディーにしている。哀れみを訴えかけるような口調で、期待はずれのプレゼントについて語る有名人たち。色調は白黒やモノトーンに限られ、全体的に悲壮感が漂う。

このキャンペーンをプロデュースした広告代理店は、普段は募金・寄付活動に興味を持たない人たちに「チャリティー=まじめ」という固定観念を捨てさせ、もっと気軽に活動に参加してもらうことを狙ったという。

コメディー・タッチといえど、オックスファムがこのキャンペーンに掲げたプレゼントの目標合計収益額は、1450万ポンド(約33億円)。この「Unwrapped」キャンペーンは、同団体のカタログから好きな品物を買い発展途上国の人々に贈るというシステムで、発足されてから約3年間で、49カ国の人々に120万個ものプレゼントが購入されているという実績もある(2007年11月同団体調べ)。不幸さをアピールして訴える作りではなく、手にしたおもちゃに思わず笑うボーナム=カーターの姿で終わらせているこの作品。視聴者に「同情」ではなく「共感」を求めた団体の、時代に合わせた姿勢の変化が現れている。

ヘレン・ミレンオスカー女優のヘレン・ミレン。今回登場した歌手や俳優たちは、無料で撮影に協力したという

ロブ・ブライドン
ロブ・ブライドンとピンクのブタという、世にも稀な光景。いかにも思いつめた表情がおもしろい

Oxfamカタログでは、簡易トイレや肥料などが買える

色彩だけで世界をとりこに
Sony: Bravia “Colour like no other”
Sony Bravia
使用された粘土は計2.5トン。そこから60センチのウサギ189羽や9メートルのウサギなどが生まれた
Sony: Bravia “Colour like no other”
Creative Producer: Juan Cabral (Fallon)
Animation Director: Darren Walsh (Passion Pictures)
Director: Frank Budgen (Gorgeous)
Music: She's A Rainbow (Rolling Stones)

ストーリーマンハッタンの道端に、粘土でできた色とりどりのウサギが現れる。少しずつ大きく、数を増やしながら広場に集まってきたウサギたちは流氷や津波に変わり、そこからクジラが現れる……と思いきや、巨大ウサギに変身。最後に数 十個のキューブに変わり、さまざまな模様を描いていく。


注目サンフランシスコの坂道に25万個のスーパーボールを放ち、その映像美を人々の心に焼き付けた05年制作の「Ball」、そしてスコットランドの高層住宅棟に7万リットルのペンキを噴射させ話題をさらった06年制作の「Paint」。ソニーが販売するフラット型デジタル・ハイビジョン・テレビ「ブラビア」のCMは、世界中から新作を待たれる稀有な存在だ。そして今回の第3弾が、ストップモーション(静止した被写体を1コマずつ撮る撮影法)史上もっとも野心的といわれるこの大作。1つの現場に40人の粘土アニメーターを集結させるという前代未聞の規模をもってしても、4秒の映像を作るのに4時間を要したという手の込みよう。そして何よりも、約10万枚ものコマによって完成したこの60秒には、クリエイターたちの「楽しむ」ことへの情熱が溢れている。

バックミュージックに流れる「She's A Rainbow」の歌詞をそのまま体現したような色鮮やかな映像は、ニューヨークで3週間にわたり撮影された。このシリーズCMに共通しているのは、数あるフラット型テレビとブラビアを差別化する「色の鮮明さ」を強調すること。これを念頭に置きつつ、クリエイティブ・ディレクターのフアン・カブラルは「夢みたいに、意味は通らなくてもいいから楽しいものを作ろうと思った」という。

この作品の魅力はなんといっても「手作り感」だが、その雰囲気を出すため自然光だけを使って撮影を決行。しかし高層ビルが立ち並ぶマンハッタンでは日光はすぐに遮られてしまうため、粘土アニメーターたちは1週間、「寝ていても出来るようになるぐらい」リハーサルを行ったという。 そしてこの作品の主役であるウサギたちは、親しみやすい 「洗練されていない」フォルムにデザインされた。何度も見たいと思わせる映像の裏側には、たくさんの努力と遊び心、そして「ブラビアのCMを作る」という計り知れないモチベーションと自信が隠されているのだ。

業界の常識を変えた名作
「消費者に訴える」よりも「消費者が見たくなる」ようなCMを制作しようとする現在の広告業界の流れを作ったのも、情報過多のこの時代に、あえて企業が長編CMで視聴率の獲得を目指すのも、すべてはブラビアの「Ball」から始まったといっても過言ではない。平均30秒というCM界に、2分半という長さで挑んだこの作品は、放映直後に英国全土にあるブラビアの在庫を売り切るという伝説を作り上げた。そしてこの影響はクリエイターたちにも及び、「Ball」を手がけたフアン・カブラルは弱冠29歳にして、すでに業界で知らない者はいない存在。彼が所属するクリエイティブ・エイジェンシー「ファロン」も例外に漏れず、いまや世界で最も多くの賞を受賞した代理店である。今回取り上げたCM5作のうち、ファロンは3作、カブラルは2作の制作に携わっている。

与えるよりも、考えさせることで伝わるメッセージ
Choice FM: Kill The Gun
“Stop the bullets. Kill the guns”
Kill the Gun
Choice FM: Kill The Gun “Stop the bullets. Kill the guns”
Creative Agency: Abbott Mead Vickers BBDO Ltd
Producer: Nicola Sims Director: Malcolm Venville, Sean de Sparengo

ストーリー銃弾が果物やボトルなどを貫いていく様子をスロー・モーションで追う。最後に黒人の少年が現れ、銃が頭に向け発射された瞬間、弾がスローガンの文字に変わる。


注目アーバン・ブラック・ミュージックを配信する、英国最大のラジオ局 「Choice FM」が主催した銃反対キャンペーン用に制作されたこのCM。壮大なオペラをバックに、銃弾の破壊力が恐ろしいほどの美しさと静けさを持って映像化されている。物が儚く散る様子を目撃した後に、本当に発砲されたら少年がどうなるかを想像して、ぞっとしない人はいないだろう。

このキャンペーンは同局がターゲットとしている若者層に、銃の破壊力や、銃による自己防衛が間違っているということを、身近なものを使って認識してもらう目的で行われた。映画やテレビの中で見る「つくられた」ものではなく、本物の銃の威力を認識すること。そして、引き金を引くことがもたらす結果を想像できるということ。映像のインパクトだけではなく、「考える」スペースを若者たちに与えたことにより、より効果的にメッセージが伝わったのではないだろうか。

Choice FM英国CM界で初となる、1秒間に1万枚のコマを撮影できるカメラを使用

Choice FM
身内を銃犯罪で失った少年が、進んで撮影に参加したという


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