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Thu, 28 March 2024

コービン党首が終わらなければ、労働党の終わりが始まる

第二次大戦下の宰相ウィンストン・チャーチルは1942年、エル・アラメイン(エジプト)の戦いで英軍がドイツ軍を撃破したのに際して、こう演説した。「これは終わりではない。これは終わりの始まりですらない。が、恐らく始まりの終わりなのかもしれない(Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning)」。それまで英軍が勝利を収めることはなかったが、この戦いを境にドイツ軍に敗北を喫することはなくなった。連合軍の勝利が約束されたわけではなかったが、流れが変わったことをチャーチルは雄弁に語ってみせたのである。

チャーチルの演説を最大野党・労働党の現状に当てはめるとどうなるか。労働党のジェレミー・コービン党首は30時間以上に及ぶ議論の末、1月5日に「影の内閣」の改造を行った。シリア空爆やトライデント・ミサイルによる核抑止政策をめぐって対立する影の内閣のメンバー2人をクビにし、影の国防相を降格。強硬左派のコービン氏は「レッド・ケン」と呼ばれる左派中の左派ケン・リビングストン前ロンドン市長を党国防レビュー(見直し)の共同議長に据え、トライデント反対で党内意見を取りまとめようとしている。コービン氏とは党首選の取材で会ったことがあるが、その柔らかな物腰とは裏腹に原理主義的な平和主義と反核を追求する強固な意志が浮き彫りになってきた。

 

英国のブレア首相と米国のブッシュ大統領(いずれも当時)が二人三脚で強行したイラク戦争が中東・北アフリカの混乱と過激派組織ISを生み落とした側面は否定できない。しかし国際テロ組織アルカイダは2001 年9月の米中枢同時テロ以前から存在していた。影の欧州担当閣外相のパット・マクファディン氏は、国際テロの原因を欧米の外交・安全保障政策の失敗だけに帰することはできないという正論を示したことが影響して解任された。トライデントを支持するマリア・イーグル影の国防相は反トライデント派に差し替えられた。ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用さえチラつかせているというのに、とても正気の沙汰とは思えない。

英国は核保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。労働党と保守党の2大政党が長らく英国政治を支えてきた。コービン氏が個人的に理想を追求するのは結構だが、労働党が反核平和主義にカジを切ることは英国の外交・安保政策を硬直化させるだけでなく、国際社会にとっても大きなマイナスだ。しかし労働党ではリビングストン氏の下、英国は北大西洋条約機構(NATO)に留まるべきか否かが議論されている。そういうことを本気で議論するならば、第二次大戦の戦勝国として認められた常任理事国のポストを返上してからにしてほしい。

 

影の内閣改造の翌6日、影の外交担当閣外相のスティーブン・ドーティー氏がTVの生中継中に辞任を表明するなど3人が一斉に辞任した。人気ロック・シンガー、デービッド・ボウイの訃報が流れた11日にはキャサリン・マッキネル影の司法相が辞任した。ボウイのニュースがなければ、英メディアは労働党の内紛劇をもっとセンセーショナルに取り上げていただろう。4人の辞任は、強硬左派色をむき出しにしてきたコービン氏の改造への反動である。

野党時代の保守党党首を務めたウィリアム・ヘイグ前外相は「デーリー・テレグラフ」紙に影の内閣を改造する際の野党党首の心得を示している。①改造は反撃のスキを与えないよう夜遅く突然に行うなど奇襲が肝要だ、②有無を言わせず改造をやり遂げる、③更迭や解雇の理由を一々、公の場で説明しない、④引き抜き人事で反対勢力を分断し、勢力を弱める、⑤党内の穏健派や中間層を取り込んで結束を固める、⑥奇襲攻撃としての改造を行う力がない時は首をすくめて時を待つ、ことだそうだ。

ユートピア社会主義は有害な幻想に過ぎない。労働党は既に崩壊の危機に瀕している。5月の地方選、欧州連合(EU)残留・離脱を問う国民投票、トライデントの継続・廃止をめぐって労働党左派と穏健派、右派の対立が決定的になるのは避けられない。強硬左派のコービン党首を斬るしか労働党にとって生き残りの道はない。そうしなければ確実に労働党の終わりが始まるだろう。

 
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