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Thu, 19 July 2018

負の遺産とくずぶる火種
イラク戦争の終焉

マリキ
イラク戦争終結後の同国の
舵取りを担うマリキ首相

推定11万人以上のイラク民間人を犠牲にしたイラク戦争は、多くの負の遺産と深い爪痕を残したままその幕が閉じられた。米軍完全撤退後に生じた力の空白には、国内の民族・宗派間対立やテロの脅威と、隣国イランの影響力増大やパワー・バランスの崩壊など、不安定要素だけが置き去りにされたとの見方もある。
「イラクの解放」とは一体何だったのか。

イラク民族・宗派別分布

数字で見るイラク戦争

年次 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
イラク民間人死者数 *1 1万2087 1万1141 1万5491 2万8225 2万5063 9385 4713 4045 4063 11万4213
イラク兵士・警察官
死者数
*2
1300 2545 2091 1830 1070 515 468 306 1万125
米兵死者数 *3 486 849 846 822 904 314 149 60 54 4484
英兵死者数 *3 53 22 23 29 47 4 1 0 0 179
そのほかの連合軍
死者数
*3
41 35 28 21 10 4 0 0 0 139
ジャーナリスト
死者数
*2
14 24 23 32 32 11 4 5 5 150
外国人死者数
(誘拐事件数)
*2
0(1) 32(149) 10(99) 11(36) 1(11) 0(1) 0(0) 0(1) 6(14) 60(312)
イラク人国外
避難民数
*2
40万 80万 120万 200万 274万 277万 276万 270万 - 1537万
出典:(*1) Iraq Body Count (*2) Brookings (*3) iCasualties

イラク戦争終焉と負の遺産

2003年の開戦から約9年経った2011年12月14日、オバマ米大統領は、「Welcome home」と言って米兵の帰還を歓迎し、イラク戦争を終結させた。就任前に同戦争に反対していたオバマ大統領は、就任時の公約通りイラク駐留米軍を完全撤退させ、本年の大統領選挙で再選を目指す。しかし、戦費総額約8000億ドル(約61兆7000億円)を費やし国家を疲弊させ、約4500人の米兵士死者数を出したブッシュ前政権の負の遺産は余りにも大きい。また、2009年に早期全面撤退を遂げた英政府も、戦費総額約90億ポンド(約1兆700億円)を費やし、最大兵力4万6000人を投入、179人の英兵士を失った。しかし、イラク戦争最大の負の遺産は、解放されたはずのイラク国民に刻まれた深い爪痕である。

解放が招いた内戦と分裂

イラク侵攻後間もなく、1979年以降続いたサダム・フセイン旧政権が崩壊すると、欧米諸国はイラクの解放を賞賛し、民主化に向けた復興支援を開始した。しかし、イスラム教シーア派主導の暫定政府誕生に不満を抱いた少数派スンニ派は、武装勢力と協力し、反米・反政府攻撃を開始。特にイラクのアルカイダは、スンニ派住民の協力の下、戦闘員を隣国から流入させ、その勢力を拡大した。

また1980年代におけるフセイン旧政権のアラブ化政策で、巨大な油田を有する北部キルクークから強制追放されていたクルド人が、2003年以降に同地に帰還し始めると、クルド分離独立運動が活発化し、対アラブ人民族浄化が報告されるなど、複雑に絡み合った民族対立と石油利権争いが再び露呈した。

2006年、民族・宗派間の共存を目指したマシュハダニ前国会議長(スンニ派)、タラバニ大統領(クルド)、マリキ首相(シーア派)が新政権を発足するも、主導権争いなどにより新政局に暗雲が立ち込めた。折りしも、北部のシーア派の聖地であるアスカリ廟爆破により民族・宗派間の緊張は一気に過熱し、イラク国民は内戦と分裂の渦へとのみ込まれていった。

くすぶり続ける火種

2010年に発足した第二次マリキ政権は、「2017年には、イラクは世界一裕福な石油原産国になっているだろう」と明るい未来を展望したが、楽観視するには時期尚早だ。米軍撤退直後、スンニ派ハシミ副大統領のテロ関与疑惑が浮上し、マリキ首相が更迭容認を議会に求めるなど、早くも政府内における宗派対立が浮き彫りになっている。また、依然として各地でテロ攻撃が発生しており、イラク治安当局の訓練強化の必要性が指摘される一方、油田都市キルクークの帰属問題に関しては、解決の糸口さえまだ見つかっていない。

一方、イラン・イラク・シリアがガスのパイプライン建設の覚書を締結するなど、シーア派3カ国の新経済体制構築の動きや、クルド労働者党(PKK)とクルド問題を巡るトルコ・イラク対シリア・イランの4カ国間の二極化もみられる。半面、米軍撤退に伴う力の空白に乗ずるイランの影響力増大や泥沼化するシリア情勢で、地域のパワー・バランスが崩壊する危険性は否めず、くすぶり続けるあらゆる火種の再燃を危惧してやまない。

Nuri Kamil Al-Maliki

ヌーリ・カミル・アル=マリキ。1950年生まれのシーア派アラブ人。イラク現首相(第2期目)、ダワ党書記長、法治国家連合主宰。60年代、反バース党(旧フセイン政権)を掲げるダワ党に入党。80年、旧フセイン政権に死刑宣告を受けシリアに亡命する。82年にイランへ渡るが、90年シリアに再亡命。2003年、フセイン旧政権崩壊後に帰国し、ダワ党報道官に就任。06年5月、新政権首相に選任された。チュニジアやエジプトの民衆蜂起を受け、14年の任期満了後は、3期目就任を目指さない意向を既に示している。

(吉田智賀子)

 
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