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Tue, 23 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

ブレグジットの混迷深まる「議会侮辱動議」まで出た法務長官の助言とは? - メイ首相と議会の綱引き続く

いよいよ、今年もあと10日ほどで終わりです。クリスマスや年末年始の準備で、皆さんも多忙な毎日を過ごされているのではないでしょうか。

相変わらず難航中なのが、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)問題です。テリーザ・メイ首相がEUと取りまとめた離脱協定が12月11日、下院で採決される予定でしたが、多くの議員が反対票を投じる見込みとなったため、首相は突如、採決を中止しました。来年1月14日の週には採決が行われることになりましたが詳細は決まっておらず、首相の進退の行方も含め、「大迷走」状態に突入しました。

少し時計の針を戻しますと、離脱協定をめぐる本格的な議論が始まったのは12月4日。何とか離脱協定を通したいメイ首相とこれに不満を持つ議員たちとの間で、ブレグジット交渉の手綱を握るための丁々発止の戦いが始まりました。

初日から、メイ首相は議会側にノック・アウトを食らいます。それは、「内閣が議会を侮辱した」とする動議が可決されてしまったからです。先月、下院は「ブレグジット合意について政府が得た法的助言の全文を提出する」という動議を可決しましたが、政府に法的助言を行うジェフリー・コックス法務長官が公表したのは要旨のみだったのです。3日、コックス氏は3時間にわたって議員の質疑を受けましたが、全文の公表については「国益にそぐわない」と反対しました。

すべてを公表できないのは「政府側に都合の悪いことがあり、それを隠したいから」と踏んだ野党側は、3日夜、全文公表を求め、部分的な公開は議会への侮辱であるとする動議を提出。翌4日動議が可決され、政府は5日に全文公開を余儀なくされました。

法務長官の法的助言は政府に対し極秘で提供されるのが慣習で、全文公開は非常に珍しい事態です。また動議を提案した野党・労働党のキア・スタマー議員によれば、「政府に対する議会侮辱の動議が可決されたのは今回が初」だそうです。

さて、コックス氏による法的助言(11月13日付)の全文は、何を明らかにしたのでしょうか。

助言は、北アイルランドとアイルランド共和国の国境問題をめぐる、いわゆる「バックストップ」の合法性について、メイ首相に助言する書簡の形をとっています。

バックストップ(「最終手段」)とは、英国内で唯一EUと地続きになる北アイルランドとアイルランド共和国との間に厳格な国境管理を復活させないための措置で、これは離脱移行期限である2020年12月までに英国とEUとの間に通商協定が締結されない場合に発動されます。具体的には、英国全体をEUとの関税同盟にとどまらせ、北アイルランドの物品と農産物をEUの単一市場にとどめるものです。

コックス氏は全文の中で、英・EUが合意したバックストップの取り決めには「EUの関税同盟から英国が合法的に離脱するまでの仕組みが含まれていない」と指摘し、英国がEUの関税同盟、そして北アイルランドは単一市場の規則に従う状態が無期限で続くだろうと書いていたことが分かりました。つまり、与党・保守党内の離脱強硬派にとっても、英国本土との継続した一体化を求める北アイルランドの民主統一党にとっても、絶対に避けたい状況が法的助言の全文の中に示されていたのです。こうして、メイ首相がまとめた離脱協定への反感が、ますます強まることになってしまいました。

協定への議決を中止したメイ首相はその後欧州大陸に飛び、ほかのEU加盟国の首脳陣らと会談を重ねましたが、下院が納得するほどの妥協案を出せるか、見通しは大変厳しいといってよいでしょう。

12月12日には、メイ首相に対する保守党党首不信任案が提出され、党所属の下院議員による投票が行われました。信任200対不信任117でメイ首相の留任が決まりましたが、信頼度の低下は免れません。迷走は来年も続きそうです。

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議会(Parliament)

英国の議会は君主(現在はエリザベス女王)、上院(貴族院、798人)、下院(庶民院、650人)の3構成。政府の仕事を検証する、法を作る、議論を行うなどの主要業務は上下院が担当する。立法府として絶対的な主権を持ち、司法機関を含むほかのすべての政府機関よりも上位にある。最近のブレグジットをめぐる議論では、メイ政権に対し議会がその存在の大きさを示した。
 
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