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Tue, 05 July 2022

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

ジョンソン首相信任投票で勝利「安泰」か? - 信任は211票だが、不信任が148票も

「傷を負った勝利者」。

「タイムズ」紙(6月7日付)は1面のトップ記事で、前日に行われた与党・保守党の党首信任投票で過半数の支持票を獲得したボリス・ジョンソン首相をこう呼びました。「i」紙も「フィナンシャル・タイムズ」紙も「傷を負った」(wounded)という表現を使っています。保守党所属の下院議員による信任投票は無記名、非公開で行われ、今回、359票中信任が211票で不信任が148票。過半数(180人)が不信任であれば、首相は党首と首相の座を失い、後任を決める党首選が実施されるはずでした。

過半数の信任票を得ましたので、「勝利者」であることは間違いないのですが、不信任の148票は保守党下院議員の約4割に当たります。多くの与党議員が党首に反旗を翻した事実は軽くありません。「勝ったには勝ったが傷を負った」という見方は的を得ているようです。振り返ってみると、2018年、テリーザ・メイ前首相に対する党首信任投票で支持の割合は63パーセントで、ジョンソン首相の信任票の割合59パーセントよりも上でした。メイ氏は半年後、退陣に追い込まれます。保守党の規定によると、一度信任投票が行われると、次に同投票が行われるのは1年先の6月です。でも、1年経たなくても行うことができるよう規定を変えるべきだという声も出ています。

保守党党首の変更には二つの道があります。まず党首本人が辞意を表明すること、あるいは信任投票を求める書簡が党所属の下院議員の15パーセントから党内の組織「1922年委員会」の委員長宛に送られることです。15パーセントは現在の議員構成では54通の書簡に相当します。党首自らの辞任あるいは不信任票が過半数を超えた場合、党首選が行われます。今回の信任投票は、ジョンソン氏を党首として信任できないという意向を伝えた下院議員が規定の数を超えたため行われました。背景にあったのは、新型コロナウイルスの規制違反となったパーティー問題です。ジョンソン首相を含む80人以上が首相官邸などでの複数のパーティーに参加して罰金を科されたほか、政府の調査報告書も政権の責任を指摘し、世論調査で支持率は乱低下。辞任を求める声が強まりました。

信任獲得後、ジョンソン首相は取材に応じ、「説得力のある決定的な結果だと思う」と述べています。「これで政府と国が前に進める」、「今やるべきなのは、政府として、党として結束することだ」。約4割の不信任票を謙虚に受け止める言葉がなく、これでは党の結束はできるだろうかと不安を感じたのは筆者だけでしょうか。2019年の総選挙で、「ブレグジットを成功させる」を合言葉に保守党を圧勝させた首相。党を盛り上げ、国民を引っ張っていくには大きな政策をぶち上げる必要がありそうです。

首相の先行きを見極める機会となるのが、6月23日、イングランド北部ウェイクフィールドと南西部デヴォンのティヴァトン・ホーニトンで行われる補欠選挙です。どちらも現職保守党議員が性的スキャンダルで辞任したためです。ウェイクフィールドは1932年から労働党議員が確保してきましたが、19年、保守党が獲得。ティヴァトン・ホーニトンは長年保守党議員が代表してきましたが、19年の総選挙で2位となった自由民主党が議席獲得に最も近いといわれています。

パーティー問題はまだ終わってません。ジョンソン首相がパーティー疑惑を巡って意図的に議会を欺いた可能性について下院の倫理基準・特権委員会が調査中です。もし意図的に欺いたとなれば、委員会は下院議員の議員資格停止あるいは追放を勧告することができます。10月には保守党の年次党大会が開催され、その最終日となる同月5日、ジョンソン首相は党首・首相として大きな構想を示す見込みです。このときまでに党内の結束が実現しているでしょうか。

キーワード

The 1922 Committee(1922年委員会)

保守党の下院平議員の会で、党首の信任投票を所轄する。1923年4月、1922年の総選挙で初当選した下院議員によって、党内の協力を高め、新議員の党内融合を促進するため設置された。現在の委員長はグレアム・ブレイディ議員。会は一般議員と党の指導部とをつなぐパイプ役として機能し、党内の声を上層部に伝える役目を持つ。

 
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