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Tue, 19 March 2024

第19回 ジェフリーの笑い ― ジョージ・オズボーン財務相が15年度歳出計画を発

第19回 ジェフリーの笑い ―
ジョージ・オズボーン財務相が15年度歳出計画を発表

ジョージ・オズボーン財務相が6月26日、3年ぶりの歳出計画を発表した。キャメロン政権は2014年度予算で、構造的財政赤字(景気循環に左右されない赤字)の解消を目標に掲げてきたが、公約通りに解消できなかったため、次の2015年度予算にまで繰り越さざるを得なくなった。

新たな歳出削減額は115億ポンド(約1兆7000億円)。10年度予算に比べて、外務省は実に50.3%カット。雇用・年金省は47.4%、文化・メディア・スポーツ省は45.4%の削減と涙も出ない状態だ。サッチャー元首相の葬式で思わぬ涙を見せた財務相の胸中はいかにと思いきや、当のオズボーン氏は「我が政府は英国経済を破綻の淵から引き戻した」と堂々と胸を張った。

先の主要8カ国(G8)首脳会議で、オズボーン氏はオバマ米大統領から黒人歌手、ジェフリー・オズボーン氏の名前と混同され、3度も「ジェフリー」と呼ばれて赤面。本物のジェフリーからヒット曲「オン・ザ・ウイングス・オブ・ラブ」をデュエットしようと提案され、ツイッターで「私の歌を聞いたら、デュエットをしようとは思わないよ」と軽妙に応じてみせた。また、発表前夜には、9.7ポンド(約1400円)のバーガー・セットを食べながら最終チェックする姿を撮影してツイートするなど、「歳出削減」を徹底的にアピール。その一方、歳出計画では、英国に高速車両を納入する日立製作所も興味を示す高速鉄道(HS2)の予算を約80億ポンド増額するなど、総額1000億ポンドの長期インフラ投資を盛り込んだ。

 

財務相は今年1~3月期、英国経済が0.3%成長を達成したのを追い風に、「改革」「成長」「公正」の3点を強調。これまで歳出削減に一貫して反対、「設備投資のため国債発行を増やす」(ボールズ影の財務相)と訴えてきた労働党は有権者の信頼と面目を失った。最近の世論調査では59%が「歳出削減は必要」と答え、「反対」は27%。現在、保守党と自由民主党の連立政権が取り組む歳出削減について、なぜか37%が労働党を非難し、連立政権への非難は24%にとどまるという珍現象が起きている。明確な政策を打ち出さず、政権批判に終始してきた労働党のミリバンド党首に有権者は愛想をつかしてしまったのだ。

しかし、英国経済の見通しを楽観するのは時期尚早と言えるだろう。英国経済は欧州、米国など世界経済から受ける影響が大きいからだ。6月19日、オズボーン財務相がロンドン市長公邸で演説を始めようとしたとき、G8サミットに参加した安倍晋三首相は金融街シティでアベノミクスについて講演を終えたばかりだった。シティの投資家は「安倍首相の強い政治的意思を感じた」と評価しながらも、「日本だけでなく米国も欧州も英国もそれぞれ違うモデルで成長を取り戻そうとしている。どれがうまくいくかはまだわからない」と慎重だった。アベノミクスに短期の投機マネーは反応したが、長期の投資マネーは日本の成長戦略と構造改革を見守っている。国内総生産(GDP)の240%に達する日本の政府債務に市場の焦点が当たれば、日本は世界経済を揺るがす爆弾になりかねない。

同じころ、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、米国債などを毎月850億ドル(約8兆3000億円)買い入れている量的緩和策第3弾(QE3)について、景気回復が順調に進めば「年後半にペースを縮小し、来年半ばに購入を終了するのが適切」と発言。米国経済は確実に成長軌道に乗りつつあるものの、FRBの「出口戦略」はまだ不安定な世界市場を激しく揺さぶった。

 

財政収支と経常収支の改善に取り組んできた欧州単一通貨ユーロ圏(17カ国)。南欧諸国の失業率は悪化したままで、仕事にあぶれた若者の流出が続く。

英国ではイングランド銀行(英中央銀行)のキング総裁に代わり、7月1日から新総裁にカナダ銀行(中銀)総裁のカーニー氏が登板する。キング氏は退任前、「各国中銀が金融政策を引き締めるには程遠い」との見解を示した。構造的財政赤字が解消されるのは17年度予算という予想もある中で、オズボーン氏と二人三脚を組むカーニー新総裁がどんな金融政策を繰り出すかは分からない。英国は長くて暗いトンネルをまだ抜け出していない。

 
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