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Sat, 08 August 2020

木村正人の英国ニュースの行間を読め!

第21回 ツイッターにはツイッターで ー ロイヤル・ベビー誕生

第21回 ツイッターにはツイッターで -
ロイヤル・ベビー誕生

7月22日午前5時半、世界中の報道陣が24時間態勢で張り込んでいたロンドンのセント・メアリーズ病院リンド病棟。その正面玄関からぐるーっと回った裏口に黒色のレンジローバーともう1台の車が滑り込んだ。裏口に張っていたのは駆け出しのフリー・カメラマンらわずか2~3人。ウィリアム王子に付き添われたキャサリン妃は、さっと病院の中に姿を消した。カメラマンは「これから出産する女性の写真は撮れないよ」と減らず口をたたいてみせたが、ウィリアム王子とキャサリン妃は見事に世界中のメディアを出し抜いた。誰一人として出産入院の瞬間を撮影することはできなかった。

報道陣の張り番の交代時間だった午前6時前を狙ったウィリアム王子の作戦はまんまと図に当たった。同行のボディーガードも親指を立てて「してやったり」の表情。しかし、カメラマンの「ケイト・ミドルトンがたった今、病院に入りました」というツイートが世界を駆け巡り、約2時間後、英王室は入院の事実を公式に認めた。

 

今回、ツイッターが英王室の伝統を打ち破るのかという点についても大きな関心が集まっていた。初産には平均で11~15時間ほどかかるといわれている。故ダイアナ元皇太子妃はウィリアム王子の出産に16時間を要した。キャサリン妃が入院して約14時間半が経過した同日午後8時すぎ、英王室がこれまで予定していた発表方法を変えると言い出し、BBC放送のニュースキャスターもバタバタし始めた。

お世継ぎが誕生すると、性別と出産時間、出産直後の母子の状態を記した医師の署名入り出生証明書を病院からバッキンガム宮殿に車で運び、エリザベス女王に誕生が伝えられる。そのほかのロイヤル・ファミリー、キャサリン妃の家族、キャメロン首相、英連邦加盟国の代表へ伝達された後、出生証明書が黄金色のイーゼル(画架)に載せられてバッキンガム宮殿の正面玄関側に掲示される。そのときに初めて、お世継ぎが男の子か女の子か分かる、という段取りになっていた。

しかし、イーゼルという伝統に先駆けて、メディアへの一斉メールと同時に英王室がツイートした「男児誕生」のニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。発表時間は午後8時半。出産時間は午後4時24分だった。空白の4時間。ウィリアム王子とキャサリン妃は電話でエリザベス女王らへの報告を済ませ、できるだけ長く親子水入らずの時間を持とうとしたのだという。それが、キャサリン妃には母ダイアナ元妃と同じ道をたどらせたくないというウィリアム王子の愛の形だった。

午後8時半は英各紙の締め切り時間ギリギリだった。1701年の王位継承法が改正され、男女の性別に関係なく、第1子が王位を継承することになり、性別はこれまでと違って大きな意味を持たなくなった。とはいえ、歴史的なイーゼルより現代のツイッターが優先されたのは驚きだった。

 

ツイッターなどソーシャル・ネットワークの発達で、情報が漏れ、瞬時に拡散する怖さは、「パパラッチ」と呼ばれるカメラマンに追いかけ回されて不慮の交通事故死を遂げたダイアナ元妃の時代をはるかに凌駕している。元妃の時代はビキニ姿、レオタード姿を盗撮されて大騒ぎになったが、昨年、キャサリン妃はトップレス姿、ヘンリー王子は全裸姿を盗撮されて、インターネット上に2人のあられもない姿が氾濫した。

しかし、ツイッターの恐怖にはツイッターの威力で対抗しようというのが、ラジオ、テレビ、インターネットの各時代に柔軟に対応してきた英王室の姿勢だった。1982年、ダイアナ元妃がウィリアム王子を出産したとき、リンド病棟前に陣取ったテレビはBBCと民放局ITVの2社だけ。今回は世界70社に及んだ。

キャサリン妃の胸に抱かれてリンド病棟から出てきた男の子は、世界が注視する中で、もみじのような手を結んだり開いたりして応えた。体重3800グラム。名前は「ジョージ・アレクサンダー・ルイ」。エリザベス女王の父は映画「英国王のスピーチ」でおなじみのジョージ6世。ジョージという名前の国王たちの時代に英国は世界に版図を広げ、2つの大戦を勝ち抜いた。ジョージ王子が国王になる時代、英国はどんな発展を遂げるのだろう。

 

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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