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Wed, 11 December 2019

木村正人の英国ニュースの行間を読め!

第23回 夏を騒がせるダイアナ元妃の亡霊

第23回 夏を騒がせるダイアナ元妃の亡霊

1997年8月31日未明、ダイアナ元皇太子妃と映画プロデューサー、ドディ・アルファイド氏ら4人を乗せたメルセデス・ベンツがパリ・セーヌ川沿いのトンネル内で支柱に激突、ダイアナ元妃、ドディ氏、運転手の3人が死亡した。

当時、ダイアナ元妃とドディ氏がキスをする写真が大衆紙に掲載され、「ダイアナ元妃の新しい恋」を求めてメディアの報道は過熱していた。事故は「パパラッチ」と呼ばれるカメラマンたちがオートバイでダイアナ元妃を追跡中に起きた。

世界を騒然とさせた事故から16年。ロンドン警視庁が8月17日、「ダイアナ元妃の死をめぐる新たな情報が寄せられた。現在、調査中だ」と発表。ダイアナ元妃の交通事故は仕組まれていたという陰謀説が改めて世界中を駆け巡った。筆者にも日本の週刊誌やテレビ局から問い合わせが殺到した。

 

ロンドンで6年余、大衆紙のニュースを追い駆けていると次第に用心深くなってくる。特に「シリー・シーズン(sillyseason)」と呼ばれるニュースの夏枯れ期、飛びつきたくなるニュースほど要注意だ。8月31日はダイアナ元妃の命日。陰謀説、しかも今回は陸軍特殊空挺部隊(SAS)が絡んでいるという。

SASは第二次大戦中に破壊活動・対ゲリラ活動を行うため設置され、カダフィ大佐を打倒したリビア軍事介入でも同国に潜入して秘密作戦を展開した。対外情報活動を担当するMI6(情報局秘密情報部)と並んで、秘密のベールに覆われた組織である。

英メディアの報道を精査すると高級日曜紙「サンデー・テレグラフ」が電子版でいち早く報じていた。大衆日曜紙「サンデー・ピープル」はロンドン警視庁が入手した新情報の内容を詳細に報道。それによると、SAS隊員が元妻に「隠蔽されたダイアナ元妃の死にSASが関与していた」と話していたことを、元妻の両親が離婚争議中に英軍とロンドン警視庁に書簡で伝えていた。

この隊員は、元ルームメートの狙撃手ダニー・ナイチンゲール氏がピストルと銃弾約300発を不法に所持していたとして2011年に逮捕された事件の告発者だった。ナイチンゲール氏は軍法会議で拘禁18月の有罪判決を受けたものの、10万人の署名が集まり、再審の結果、執行猶予判決を得ていた。SAS関与の証言が伝聞の伝聞に基づくものだし、ネタ元の隊員の証言自体がどうも、うさん臭い。「サンデー・テレグラフ」紙のデスクに電話で事情を尋ねると、「2、3社の記者が問題の書簡を入手した。それを受けてロンドン警視庁は調査中だと発表したが、調査してもダイアナ元妃は事故死だったという結論は動かないだろう」という見通しを語ってくれた。

 

それにしても、なぜ、ダイアナ元妃は交通事故を装って暗殺されたという陰謀説は完全には消えないのか。

6000ページに及ぶフランスの捜査資料は運転手の過剰飲酒、スピードの出し過ぎが事故原因と結論づけた(1999年)。死因審問に先駆けて行われた「オペレーション・パジェット」と呼ばれるロンドン警視庁の捜査も結論は同じ(2006年)。MI6元長官ら278人の証人が出廷、6カ月に及んだ死因審問(07~08年)でも運転手の飲酒、パパラッチの追跡が原因という結論が導かれた。

一方、ダイアナ元妃の元執事ポール・バレル氏が04年、同元妃が事故死する10カ月前に「車のブレーキに細工がされている。事故に巻き込まれそう」と話していたと証言。ドディ氏の父親で当時、高級百貨店のオーナーだった大富豪モハメド・アルファイド氏がMI6やフィリップ殿下(エリザベス女王の夫)の関与を言い募ったことから、06年12月時点の世論調査では実に英国民の31%が事故ではないと信じ込んでいた。

しかし、1250万ポンド(約19億円)もかけた死因審問について、78%の国民が「税金の無駄遣い」と回答。「ガーディアン」紙は「フィリップ殿下やMI6、イスラエルの情報機関モサド、火星人が関与した謀略は存在しなかった」と強烈に皮肉った。王室と政府はすべてをさらけ出すことで陰謀説を封印することにひとまず成功した。

この夏、蒸し返されたダイアナ元妃の死をめぐる騒動は、陰謀説の亡霊が独り歩きしないよう、どんな情報でも隠し立てしないという英国の姿勢を改めて際立たせた。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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