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Sun, 08 December 2019

木村正人の英国ニュースの行間を読め!

第30回 Life in the UK

Life in the UK

私事で誠に恐縮だが、今、結婚ビザを永住権に切り替えるために必要な英国の基礎知識テスト「Life in the UK」を猛勉強している。24問中18問に正解しなければ受け直しである。受験料は1回50ポンドとバカにならないので、友人から借りたテキスト3冊を朝から晩まで何度も読み返している。英国の歴史と価値観、国王と議会の関係などに加えて、歴代君主、スポーツ選手、詩人、小説家、芸術家、音楽家の名前もたくさん出てきて、なかなか覚えきれない。

2年前に結婚ビザを取得したときは英語力テストを申し込むのに数カ月もかかり、イライラさせられた。労働党政権から保守党のキャメロン政権に代わって英国の移民政策はどんどん厳しくなり、社会保障を受けなくても自力で生活していける収入の証明も義務付けられた。英国人と結婚したものの収入のハードルをクリアできず、英国と国外で別居生活を強いられている夫婦やカップルが数千組もいる。「英国国境局」と聞いても憂鬱な気分にならない移民の方がいらっしゃったら、かなり珍しいのではないだろうか。

 

先日、キャメロン首相が欧州連合(EU)加盟国からの移民について社会保障の支給を来年1月から厳しくすると表明した。ルーマニアやブルガリアからの労働者が英国内で自由に働けるようになるため、移民監視団体は毎年計5万人が流入すると予測する。キャメロン政権は移民の純増を毎年10万人までに抑えると宣言したが、昨年6月時点で16万7000人、今年6月時点で18万2000人と成果が上がっていない。

EU脱退と移民規制を唱える英国独立党(UKIP)に票を奪われているキャメロン首相が支持率回復のため放った矢がEU移民への社会保障制限だった。①最初の3カ月は失業保険を受給できない、②失業保険の受給期間は原則6カ月、③新しい移民は住宅補助が受けられない、④路上生活者や物乞いは強制送還する、という内容だ。その一方で、最低賃金を守らない雇用者には現在の罰金の4倍に当たる2万ポンドを科すという。

「移動の自由はEUの基本理念だ」とEU欧州委員会のバローゾ委員長はキャメロン首相にかみついた。アンドル委員=雇用・社会問題・同化政策担当=は「英国は嫌な国とみなされる」と警告を発し、レディング副委員長=司法・基本権・市民権担当=は「もし英国が単一市場から出て行きたいのだったら、そう(EU移民への社会保障制限を)言ってなさい」と突き放した。それでもキャメロン首相はひるまない。「EU加盟国間で大きな所得格差がある中で人の移動を無制限 に認めたら、社会保障を求めて貧しい国から豊かな国へ移民の洪水が起きる。ドイツ、オーストリア、オランダも英国と同じ立場だ」。これがキャメロン首相の言い分だ。

 

東西を分断していたベルリンの壁の崩壊は、共産圏のハンガリーからオーストリアへ、東ドイツから西ドイツへの「旅行の自由」が認められたことから始まった。人・物・資本・サービスの自由移動が民主主義と経済を繁栄させるという強い信念が欧州の統合と深化を後押しした。しかし、EU25カ国による「大欧州」誕生(2004年)の拡大疲れ、08年の世界金融危機、それに続く欧州債務危機が「反EU」という呪詛を欧州に拡散させている。

経済や財政の急激な悪化で、「移民が我々の雇用機会と社会保障を奪っている」という主張が声高に叫ばれる。外国人特派員協会での記者会見でUKIPのファラージ党首が「移民が急増したおかげで、英国各地の病院の待ち時間が増えた」とまくしたてたときは、鼻白んだ。ロンドン大学の研究所が英国人とEU移民、EU域外移民の納税額と公的受益について比較したところ、英国人の受益率が一番高く、逆にEU移民は低かった。病院の待ち時間が長いのは移民のせいではなく、英国人の納税額が少なく、NHS(国民医療制度)の運営が非効率だからである。

グローバル化がもたらした過当競争が世界各地で移民への排外主義を強めている。自由移動の成功モデルになるべきEUが逆にその限界を浮き彫りにしている。一段と加速するグローバル化の中で、世界はさらなる多様性を追求するのか、それとも国民国家に逆戻りするのか。まさに分岐点に立たされている。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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