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Mon, 19 August 2019

「死の鉄道」を知っていますか-
泰麺鉄道を舞台にした映画「The Railway Man」

ジャーナリスト志望の若者やソーシャル・メディアで自分も情報発信してみたいという希望者と、昨年からインターネットのテレビ会議サービスを使って一緒に勉強している。その「つぶやいたろうジャーナリズム塾」も現在4期目。これまでに計11人の方々が参加して下さった。その一人、エクセター大学への留学生、一筆亜紀子さんから面談希望があり、トラファルガー広場近くで待ち合わせた。

年齢を聞いてビックリした。21歳。テレビ会議でプレゼンテーションしてもらっているときは、とてもしっかりしていて30代だと思い込んでいた。オールド・ジャーナリズムの良さを残しながらデジタル・ジャーナリズムの未来をどれだけ次の世代に伝えられるか、筆者の責任は重大である。

色々話しながら歩いていると、レスター・スクエアの映画館で英・豪合作映画「The Railway Man(邦題: レイルウェイ 運命の旅路)」が上映されていた。4月に日本でも公開される。「POW(戦争捕虜)と泰麺(たいめん)鉄道について知っていますか」と亜紀子さんに尋ねてみた。「知りません」。「マレー作戦はどう? シンガポール陥落は?」と立て続けに聞いてみた。亜紀子さんは首を横に振った。筆者は1960年代生まれ。亜紀子さんは90年代生まれである。泰緬鉄道を知らなくて当然だ。

筆者にも恥ずかしい体験がある。戦後50年企画でテレホンカード誕生秘話を取材した際、取材相手から食事に誘われ、「私の父は関東軍参謀などを歴任し、ノモンハン事件、シンガポール攻略、ガダルカナル島の攻防戦にかかわりました。戦犯として捕らわれるのを逃れるため地下に潜行し帰国後、『潜行三千里』を出版。衆参両議員になりましたが、その後、ラオスで消息を絶ちました。てっきり父・辻政信のことを取材に来られたと思っていました」と打ち明けられた。「お父さんは数奇な運命をたどられたんですね」と返すのがやっとだった。職場に帰って団塊の世代の上司に話すと、「君は辻政信のことも知らないのか」とあきれられた。教科書に載らない歴史は次の世代に時間をかけて語り継がないと、記憶から抜け落ちてしまう。亜紀子さんにできるだけ丁寧に、実話に基づいた映画の背景を説明した。

 

舞台は1942~43年、旧日本軍が戦争捕虜、東南アジアの労務者に建設させた泰麺鉄道。海上輸送の危険を避け、タイからビルマ戦線に物資を輸送する補給ルートだった。マラリア、赤痢、熱帯潰瘍(かいよう)、コレラが発生する高温多湿の密林地帯で強行された突貫工事は白人捕虜だけで約1万2400人の死者を出した。捕虜には日常的に暴力が加えられ、満足な食事も建設道具も与えられないことすらあったという。「死の鉄道」は旧日本軍の残虐行為の象徴となった。映画のテーマは、拷問を受けた英国人捕虜と憲兵隊通訳の日本人の和解である。

「大戦中、人体実験された捕虜もいたんだよ」と告げると、亜紀子さんは絶句してしまった。亜紀子さんは韓国の留学生らから「あなたのことは好きだけど、日本のことは嫌いだから」とあっけらかんと言われるそうだ。戦後ニッポンは平和主義という無菌室に逃げ込むか、「日本は何も悪くない。戦争に負けたのが悪いんだ」と思い込むかして、加害の歴史から目をそむけてきた。過去を直視し、和解に努めてきた日本人は少数派だ。英国では、故郷の三重県旧入鹿村 に英国人捕虜の墓があるのに気付いて和解事業にかかわった恵子ホームズさん。ビルマ戦線から生還、旧英兵との和解に努めた日英友好団体「ビルマ作戦協会」の平久保正男会長(故人)。捕虜がたくさん出たケンブリッジで元捕虜と日本人の間をつなぐ活動「ポピーと桜クラブ」を展開した歴史学者の小菅信子・山梨学院大学教授。

 

「映画、絶対観に行きます」と亜紀子さんは言った。しばらくして親日家のフィリダ・パービスさんに会った。顔を合わせるたび「泰緬鉄道のことを書きなさい」とうるさかったパービスさんは「映画はモデルになった通訳・永瀬隆さんの和解活動をもっと紹介すべきでした」と話した。

戦後、「復讐」というナイフを心に抱き続けるのか、真実を見据え「和解」の手を差し伸べるのか。日本人だけでなく、韓国、中国の方々にもぜひ観ていただきたい映画である。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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