ロンドンのゲストハウス
Tue, 17 July 2018

ソーシャル・メディアが増殖させるジハーディスト

イラクのイスラム教スンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」に参加する若者がソーシャル・メディアで参戦を呼び掛ける動画が英国社会で衝撃を広げている。銃を抱えて「ジハード(聖戦)を戦うことなくして生きる意味はない」「アラー(イスラムの唯一神)のために命を捧げられるか。もちろんだ」と叫ぶジハーディストがイスラム系英国人であることが確認されたからだ。

 

キングス・カレッジ・ロンドンの過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)によると、中東の民主化運動「アラブの春」をきっかけに燃え上がったシリア内戦は隣国のイラクにも広がり、アラブ、欧州諸国など74カ国から最大1万1000人の外国人戦士が流入。このうち欧州組が約2800人を占め、英国から参戦する若者は400~500人とみられている。

こうした若者とインターネット上のテレビ電話で連絡を取ってきたICSRのシラツ・マハー協力研究員は筆者に「ムスリムの若者にはまず、シリアのアサド大統領に殺害されている同胞を助けたいという思いがある。15~17歳の若者も多く含まれ、彼らは戦車の上に銃を持って立つ姿に単純にあこがれている」と解説する。今や、イラクの首都バグダッドを脅かす存在になったISILは「テロ組織というより、カリフ(イスラム社会の最高指導者に率いられた)国家の建設を目指す非常に組織された効率的な集団である」という。

参戦した若者がソーシャル・メディアを使って自分の体験や考えを語り、シリアとイラクにまたがるカリフ国家の建国運動をどんどん広げている。フランスから参戦した若者はフランス語で、ドイツから来た若者はドイツ語で仲間を増やしている。彼らは過激化しているというより、米作家ヘミングウェイが長編小説「誰がために鐘は鳴る」で描いたファシストと戦う主人公と同じヒロイズムに陶酔しているのかもしれない。権力を欲しいままにするシリアのアサド大統領(イスラム教アラウィー派)、イラクのマリキ首相(同シーア派)という格好の「敵役」を得て、「建国」「アラーへの献身」という高揚感がイスラム系移民のアイデンティティーを覚醒させている。

 

ウェールズの首都カーディフで暮らす元電気技師アフメト・ムサナさん(57)は自宅を訪れた警察官から問題の動画を知らされ、飛び上がるほど驚いた。20歳の息子と近所で暮らす友人が武装した姿で参戦を呼び掛けていた。17歳の弟も「友達の家に行く」と言ったまま姿を消し、シリアで負傷した人たちの手当てをしているとみられている。 13歳のときイエメンから英国に移住したマサナさんは「ショックだ。悲しい。妻は倒れてしまった。英国は私の国だ。英国は息子たちの国でもある」と英メディアの前で肩を落とした。

20歳の息子は大のスポーツ好きで、大学の医学部に行くつもりだった。弟は英語教師になる夢を持ち、成績はトップクラス。また、友人はサッカーの人気クラブ・チェルシーのサポーターでビデオ・ゲームが趣味、将来は「英国の首相になりたい」という抱負を記していた。何が若者たちの人生を一変させたのか。地元センターでは2012年6月、サウジアラビアの過激聖職者が「アサド政権を倒すため、聖戦に参加しよう」と呼び掛けていた。過激聖職者の説教が若者をシリア内戦に誘ったのか、それともソーシャル・メディアで影響力を持つ「喧伝者」や既に参戦している同世代のツイートが心に突き刺さったのかは定かではない。しかし、ISILが呼び掛ける「聖戦」への参加者は恐ろしい勢いで拡大し、「戦利品」として巨額資金や石油精製所を手中に収めている。

英国の対外情報機関、秘密情報部(MI6)でテロ対策を担当していた責任者は「彼らが英国に戻ってきたら、とても全員の行動確認はできない」と青ざめた。「聖戦」に参加する若者の一部が欧州へのテロ攻撃を予告しているが、今のところシリアやイラクでの戦闘で手一杯のようだ。

モスク(イスラム教の礼拝所)や地元センターでの過激説教はイスラム地域社会の協力で防止することができても、ソーシャル・メディアの拡散には有効な対抗策がない。中東の心臓部はまさにカオスの震源地になりつつある。

 

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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