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Wed, 13 November 2024

第45回 ヘイグの引退宣言 - 保守党は「温かい心」を失った

ヘイグの引退宣言―保守党は「温かい心」を失った

キャメロン首相が来年の総選挙をにらんで内閣改造を行った。寂しかったのは親日家のヘイグ外相が改造の前日、自ら外相の辞任と総選挙への不出馬を表明したことだ。

53歳の政界引退表明は日本の感覚から見れば、早すぎる。ツルツル頭でジャガイモのような顔をしたヘイグ氏も37年前は、日本のアイドル、太川陽介のように愛らしくて髪もふさふさだった。

太川陽介が日本レコード大賞新人賞に輝いた1977年、16歳のヘイグ少年は保守党大会で行った演説で、サッチャー党首をして「スリリング」とうならせる。演説は甘いマスクとは正反対に、激辛で舌鋒鋭かった。

「国民にとって何が良いのか、政府が国民より知っている。そう約束するキャラハン労働党政権を誰も望んでいない」「あなたたちの幾人かは気にしないかもしれない。ここにいる半分は30~40年後にはこの世に存在していないからだ」。

その後、ヘイグ氏はオックスフォード大学で演説に磨きをかけ、89年の補欠選挙で初当選、27歳の保守党最年少下院議員になった。メージャー政権ではウェールズ相を務め、36歳の若さで保守党党首に就いた逸材である。

 

筆者がヘイグという政治家を好きになったのは保守党と自由民主党の連立政権が誕生した2010年の総選挙がきっかけだ。BBCのドキュメンタリー番組でヘイグ氏は自由民主党と連立を組んだ理由を聞かれて、頬を紅潮させながらこう答えた。「政権がすぐ手の届くところにある。自分たちが統治できる。ほかの選択肢などあり得なかった」。保守党こそが善政を行えるという自信と確信、そして入念に練られたプラン。政治にすべてを捧げているという純粋さと情熱をヘイグ氏は全身から発散させていた。

ヘイグ氏の実直さがあだになりかけたこともある。性的指向をめぐりネット上で悪質な攻撃が行われたときだ。学生時代、政治一筋でガールフレンドをつくらず、政治家になってからも政策アドバイザーに同性愛者を登用したことから、「ヘイグ氏は同性愛者?」とウワサが立つようになった。

前回の総選挙期間中、ヘイグ氏は選挙運動員の若い男性と同じ部屋に宿泊、外相に就任すると、この男性を特別顧問に採用したことから「不適切な関係」と政治ブログなどで告発された。ヘイグ氏はウワサを黙殺することもできたが、正面突破を図った。声明を発表し、選挙期間中に問題の男性と何回か同じ部屋に泊まったことは認めたものの、疑惑を否定。妻が何度も流産し、夫婦で悲しんでいることも明らかにした。

意地悪なメディアを相手に正面突破を図るのは無謀と首相官邸はヘイグ氏を引きとめた。声明を出したことでニュースは世界を駆け巡った。しかし、これを機に同性愛疑惑は潮が引くように静まる。世論の46%がヘイグ氏は「本当のことを言っている」と評価した。ヘイグ氏は有権者の信頼を勝ち取ったのだ。

米女優アンジェリーナ・ジョリーさんとロンドンで開催した「紛争下の性的暴力を終わらせるグローバル・サミット」もヘイグ氏らしい取り組みだ。北アイルランドでの主 要8カ国(G8)首脳会議を翌年に控えた12年、ヘイグ氏は「1990年代のボスニア内戦で最大5万件のレイプが行われたのに起訴されたのは30人。今、シリアから無むこ辜の人々に対する殺人、拷問、弾圧と並んでレイプのニュースが伝わってくる」とキャンペーンの開始を宣言した。

ボスニアで性的暴力が戦闘の手段として使われた事実を描いた米映画「最愛の大地」の監督を務めたジョリーさんにヘイグ氏が連絡を取り、「英国の影響力と外交のネットワークを紛争下の性的暴力を阻止するために使いたい」と口説き落とした。

 

欧州債務危機の最中、ヘイグ氏は「欧州連合(EU)から離脱するかを問う国民投票について、議論する時期も質問自体も間違っている」と発言し、保守党内から「ヘイグは親EU派に寝返った」と糾弾される。後任のハモンド前国防相は「EUから英国の権限を取り戻すことができない限り、EU離脱に投票する」と断言する欧州懐疑派だ。

キャメロン首相が欧州懐疑派の歓心を買うためヘイグ氏を切ったとしたら、保守党は政治にとって大切な「ウォーム・ハート」を失ったと言えるだろう。

 

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