ロンドンのゲストハウス
Thu, 21 June 2018

「不機嫌な猫」が大ブレークする理由

不機嫌そうな顔をしたメス猫(2歳8カ月)の人気が世界的に大ブレークしている。名付けて「Grumpy Cat(不機嫌な猫)」。米国アリゾナ州で暮らす29歳の女性タバサ・ブンデセンさんが2年前、自分の飼い猫を撮影して、ソーシャル・ニュース・サイトに写真投稿したところ翌日から携帯電話が鳴り止まなくなった。小太りで胴長、短足、丸顔、大きな目を半眼にしたような機嫌の悪さが注目を集めたが、「写真加工・編集ソフトで手を加えたもので、本物ではない」とクレームがつけられた。「本物よ」と反論するためユーチューブに動画を投稿すると、試聴回数は一夜にして150万回を突破した。

タバサさんはウェイトレスを辞め、飼い猫とともにTVやステージに出演。2冊の「不機嫌な猫」本が出版され、クリスマス映画も製作された。清涼飲料水のブランドなど約140もの製品にキャラクターとして使用され、タバサさん一家はこの1年でサッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド選手の年収よりも稼いだと英メディアで大々的に報じられた。電子ピアノのキーボードをたたく猫や少し変わった動物キャラクターがインターネットを通じて旋風を巻き起こすケースは珍しくない。ロンドンでもホームレスだったジェームズ・ボウエンさんと捨て猫ボブの心温まるストーリーが大きな話題になった。

日本でも1980年代に暴走族風の学ランを着せた猫のキャラクター「なめ猫」が一大ブームになったことがある。最近では、紙袋のトンネルに飛び込む仕草がかわいい「まる」が人気を呼び、英国でも写真集が出版された。今、なぜ、「不機嫌な猫」が受けるのか。理由を筆者なりに考えてみた。

 

身近な猫、しかも、猫らしくない猫を主人公にして平均からはネガティブな方向にみられがちな個性をポジティブにとらえ直すことで、見る人に癒やしと憩いを与える。このサクセス・ストーリーに努力も工夫もない。しかし、グローバル化と世界金融危機後の中央銀行による超金融緩和策は、努力しても決して報われることのない階層を拡大させている。タバサさんのように幸運が突然、訪れでもしない限り、中流階級、ましてや上流階級にステップアップしていくことなど無理なことに、皆が気付いている。

だから「不機嫌な猫」のあまりに不機嫌な表情が共感を集めるのだと思う。とても生活していけないような低賃金と劣悪な条件でこき使われても、職場で不機嫌な顔をするわけにはいかない。「明日から来なくていいよ」と言われるのがオチだからだ。クビになると状況はさらに悪くなる。

 

英国では、今年の経済成長見通しは国内総生産(GDP)比で3.5%、来年も3%と上向きだ。2011年に270万人にまで膨らんだ失業者は196万人に減少。マクロの数字はキャメロン首相やオズボーン財務相が胸を張るように改善しているのに、新聞やTVには「これではとてもクリスマス気分になれない」という暗いニュースが流れる。

政治的中立を守るべき英国国教会トップのジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教は、先進国の英国でフード・バンク*に食料を求める人が増える状況に強いショックを受け、政治に党派を超えた対策を求 めた。英国で423のフード・バンクを運営する慈善団体によると、3日間の食糧緊急支援を受けた人は08年度の2万5899人から12年度に34万6992人、昨年度は91万3138人に膨らんだ。

キャメロン政権は財政再建のための社会福祉削減とフード・バンク利用者の増加は無関係で、「フード・バンクのキャンペーンは不安心理をあおっている」と逆に非難してきた。しかし、英国国教会の支援を受けた市民団体の聞き取り調査によると、フード・バンク利用者の多くが社会福祉の切り捨てや手当の遅延、燃料費上昇などのため、フード・バンクに駆け込んでいた。また、低賃金のため生活に困窮する人も次第に増えてきたという。

英国はマクロ経済の数字よりフード・バンクが物語る現実に目を向ける必要がある。公的なセーフティネットが機能しなくなり、社会の善意がそれを補っている。不機嫌さが受けるのは危険な兆候だ。政治が手をこまぬいていて良いわけがない。

* 包装に難があるなどの理由で販売できない食品を配給する団体

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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