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Thu, 28 March 2024

第62回 ドイツの価格破壊で英国のスーパー戦争が激化する

ドイツの価格破壊で英国のスーパー戦争が激化する

日本の駐在員や留学生の皆さんはあまり興味がないかもしれないが、英国の友人と話していると必ずと言って良いほど、どのスーパーで買い物をしているのかという話で盛り上がる。「モリソンズは魚が新鮮」「お肉はやっぱりウェイトローズ」「テスコは言うほど安くない」。しかし、最近は英国のスーパーよりドイツの格安スーパーの方が「激安」と評判になっている。

評判のアルディのシェア(1~3月期)が5.3%に達し、中流家庭の圧倒的な支持を受けているウェイトローズの5.1%を追い抜いて6位になったことが大きなニュースになった。トップ5はテスコ28.4%、アスダ17.1%、セインズベリーズ16.4%、モリソンズ10.9%、コープ6%だが、3年前に比べると、いずれもシェアを落としている。その一方でアルディはシェアを2倍以上伸ばした。ライバルのドイツ格安スーパー、リドルもウェイトローズの背中を追う。

アルディの魅力は「贅肉」をとことんまで削ぎ落とした機能的な安さだ。段ボール箱に入ったまま商品が陳列され、品数も絞られている。店員の数は必要最小限。スマイルもない。大手銀行の調査ではウェイトローズが近くにある住宅の価格は、ない場合より12%(3万8831ポンド)も高く、逆にアルディやリドル周辺の住宅価格は数千ポンドも安かった。スーパーの立地コストも商品の価格に反映されている。

今年1月の調査で牛乳や卵、パスタ、ヨーグルトなど15点を買い求めたところ、アルディが14.75ポンドと一番安く、セインズベリーズとは5.46ポンドもの開きがあった。セインズベリーズとマークス・アンド・スペンサーの常連客がアルディで買い物すると年間3600ポンドも節約できるという試算すらある。

拙宅の近くにはテスコの大型店と小型のテスコ・エクスプレス2店があり、筆者は典型的なテスコ・カスタマーとして囲い込まれている。どれぐらいの周期でどんな商品を買っているかが店のレジを通じてコンピューターで管理され、必要になるころに自宅に割引券が郵送されてくる。顧客カードにたまったポイントで、無料で食事をしたり、映画を鑑賞したりできる。いったんテスコのシステムに取り込まれてしまうと、そこから抜け出すのは至難の業だ。

 

大阪市西成区で生まれ育った筆者の実家は商店街で食料品スーパーを経営していた。9歳のときからレジを打ったり、食料品に値札をつけて陳列したりしていた。当時出たばかりの冷凍食品や、ハム、ベーコン類、自主流通米、お菓子は飛ぶように売れた。閉店後はレジの勘定。平日でも30万円を超える売り上げがあり、大晦日には1日で300万円を突破することもあった。1970年代の話だ。すごく繁盛していた。正月は2日から商品の棚卸し。朝は5時に起きて親父と一緒に自転車で大阪木津卸売市場に生鮮食品を仕入れに出掛けた。釣り銭と売り上げの勘定を毎日していたので数学が一番の得意科目になった。

しかし近くに大型スーパーができたため、売り上げは激減。母親は営業時間を延長し、休みの日も開店するようになり、筆者が18歳のとき、ついに脳卒中で倒れてしまった。それから4年間、意識が戻らず、死ぬまで寝たり起きたりの状態が続いた。だからテスコ・エクスプレスの近くにある寂れた小さな商店の前を通るたび、「売り上げが落ちているんだろうな」と暗い気持ちになる。時代の流れに逆らわない方が良い。

 

商売は価格がすべてではないというものの、消費者は安さに弱い。ドイツの格安スーパーに英国の消費者が吸い寄せられる様子を目の当たりにすると、金融バブル崩壊後、日本が歩んできた「失われた20年」の再現フィルムを見せられているような錯覚に陥る。統計上は英国の景気は回復しているように見えても、家庭の消費マインドはそれほど回復していない。これまでずっとインフレ体質だった英国にもデフレの影が忍び寄っているのだろうか。

少子高齢社会を本格的に迎えた日本では、コンビニエンスストアが網の目のように出店され、お年寄りら「買い物弱者」の生活インフラになっている。値段より品ぞろえ、毎日顔を合わせる店員のスマイルが大事にされている。商売の仕方も時代とともに、どんどん移り変わっていく。

 
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