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Fri, 03 April 2026

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「イクメン」ウィリアム王子の「育児休暇」は何週間?

キャサリン妃が3700グラムのプリンセスを出産した。ジョージ王子の次はプリンセスとは。その名は「シャーロット」。上位の王位継承権を持ったプリンセス誕生は1950年のアン王女以来、65年ぶり。エリザベス女王を筆頭に役者ぞろいのロイヤル・ファミリーに、また明るい話題が加わった。

ウィリアム王子はキャサリン妃をサポートするため、4月下旬から育児のための休暇を計6週間取得したと報じられている。英王室と一般家庭とではもちろん事情は大きく異なるが、ウィリアム王子はパパも育児休暇を取りましょうというメッセージを発していると筆者は考える。2000年には労働党のブレア首相(当時)も四子誕生の際に公務を減らし、育児のための休暇を取った。社会の旧習を打ち破るためには、世間の注目を集める人や社会的地位の高い人が率先して新制度を利用する必要がある。

 

英国では今年4月5日以降の出産、新生児の養子縁組を対象に、新たな「共有育児休暇」制度が導入された。男性による育児の分担を増やして、出産した女性の早期社会復帰を促そうというのが狙いだ。旧制度では母親に出産休暇52週間が認められ、1~39週に出産手当が支給。父親は2週間の育児休暇(有給)と、21週目以降に母親が復職した場合、最長26週間(21~39週は有給)の出産休暇を代わりに取得できた。新制度では父親が2週間の育児休暇を取得した後、50週間の出産休暇(3~39週は有給)は母親、父親のどちらが取得しても良いことになった。夫婦が協力して出産・育児の負担が少しでも軽くなるようフレキシブルに対応しようというわけだ。

英国の女性就業率は2013年で66.6%。経済協力開発機構(OECD)平均の57.5%より高いものの、アイスランドの79.9%、スイスの74.4%に比べるとそれほど高くない。日本は62.5%で英国より低い。パートタイムで働く女性の割合は40%近く、日本より高くなっている。女性が子供を預けて働きに出ようと思っても、託児所やチャイルドマインダー(8歳未満の子供を有料で自宅に預かる人)の料金はばかにならない。2歳未満の子供ではフルタイム(週50時間)で託児所が英国平均212ポンド、チャイルドマインダーが197ポンド。ロンドンだと、それぞれ284ポンド、269ポンドにハネ上がる。

子供を預かってもらうのにお金がかかるため、母親は家庭で家事・育児、父親は外で仕事という性別による役割分担が英国でもまだ残っている。新しく導入された「共有育児休暇」の対象になるのは28万5000世帯だが、母親の方が父親より高収入など利益を享受できるのは初年度で5700世帯と政府は予測している。また、大企業なら新制度に対応できる余裕があるが、従業員が少ない中小・零細企業では企業側の負担が大き過ぎるという懸念も膨らんでいる。

 

日本では女性の就業率が増えると出生率がさらに下がると平気で発言する政治家や有識者がいる。1980年代には女性の就業率が上昇すると出生率が下がるという「負の相関関係」があったものの、21世紀になって北欧を中心に「正の相関関係」に逆転した。女性の就業率が上がると出生率も回復するようになってきたのだ。

しかし、日本では「負の相関関係」が色濃く残っている。女性の社会参加を促すための子育て支援策が不十分かつ、男性が育児休暇を取得するのをよしとしない悪習がなくならないからだ。北欧のノルウェーでは70年代から父親も有給の育児休暇を取得できたが、実際に取る人は皆無に近かった。そこで93年に、父親への割当分である4週間の育児休暇を取らないと権利が消滅してしまう「パパ・クォーター制」を導入したところ、取得率が急上昇。アイスランドやスウェーデンでも相次いで導入され、今では取得率は90%を超えている。英国でも「共有育児休暇」を促進するには、「パパ・クォーター制」を導入すべきだという声が聞こえてくる。

救急ヘリのパイロットという仕事を持ちながら、外遊などの公務もこなすウィリアム王子はどれだけ育児休暇を取るのだろう。2人は既にジョージ王子のため乳母を1人雇っている。もう1人雇うという観測も流れる。できるだけ長く育児休暇を取得してキャサリン妃と子育てを分担してほしいものだ。

 

第62回 ドイツの価格破壊で英国のスーパー戦争が激化する

ドイツの価格破壊で英国のスーパー戦争が激化する

日本の駐在員や留学生の皆さんはあまり興味がないかもしれないが、英国の友人と話していると必ずと言って良いほど、どのスーパーで買い物をしているのかという話で盛り上がる。「モリソンズは魚が新鮮」「お肉はやっぱりウェイトローズ」「テスコは言うほど安くない」。しかし、最近は英国のスーパーよりドイツの格安スーパーの方が「激安」と評判になっている。

評判のアルディのシェア(1~3月期)が5.3%に達し、中流家庭の圧倒的な支持を受けているウェイトローズの5.1%を追い抜いて6位になったことが大きなニュースになった。トップ5はテスコ28.4%、アスダ17.1%、セインズベリーズ16.4%、モリソンズ10.9%、コープ6%だが、3年前に比べると、いずれもシェアを落としている。その一方でアルディはシェアを2倍以上伸ばした。ライバルのドイツ格安スーパー、リドルもウェイトローズの背中を追う。

アルディの魅力は「贅肉」をとことんまで削ぎ落とした機能的な安さだ。段ボール箱に入ったまま商品が陳列され、品数も絞られている。店員の数は必要最小限。スマイルもない。大手銀行の調査ではウェイトローズが近くにある住宅の価格は、ない場合より12%(3万8831ポンド)も高く、逆にアルディやリドル周辺の住宅価格は数千ポンドも安かった。スーパーの立地コストも商品の価格に反映されている。

今年1月の調査で牛乳や卵、パスタ、ヨーグルトなど15点を買い求めたところ、アルディが14.75ポンドと一番安く、セインズベリーズとは5.46ポンドもの開きがあった。セインズベリーズとマークス・アンド・スペンサーの常連客がアルディで買い物すると年間3600ポンドも節約できるという試算すらある。

拙宅の近くにはテスコの大型店と小型のテスコ・エクスプレス2店があり、筆者は典型的なテスコ・カスタマーとして囲い込まれている。どれぐらいの周期でどんな商品を買っているかが店のレジを通じてコンピューターで管理され、必要になるころに自宅に割引券が郵送されてくる。顧客カードにたまったポイントで、無料で食事をしたり、映画を鑑賞したりできる。いったんテスコのシステムに取り込まれてしまうと、そこから抜け出すのは至難の業だ。

 

大阪市西成区で生まれ育った筆者の実家は商店街で食料品スーパーを経営していた。9歳のときからレジを打ったり、食料品に値札をつけて陳列したりしていた。当時出たばかりの冷凍食品や、ハム、ベーコン類、自主流通米、お菓子は飛ぶように売れた。閉店後はレジの勘定。平日でも30万円を超える売り上げがあり、大晦日には1日で300万円を突破することもあった。1970年代の話だ。すごく繁盛していた。正月は2日から商品の棚卸し。朝は5時に起きて親父と一緒に自転車で大阪木津卸売市場に生鮮食品を仕入れに出掛けた。釣り銭と売り上げの勘定を毎日していたので数学が一番の得意科目になった。

しかし近くに大型スーパーができたため、売り上げは激減。母親は営業時間を延長し、休みの日も開店するようになり、筆者が18歳のとき、ついに脳卒中で倒れてしまった。それから4年間、意識が戻らず、死ぬまで寝たり起きたりの状態が続いた。だからテスコ・エクスプレスの近くにある寂れた小さな商店の前を通るたび、「売り上げが落ちているんだろうな」と暗い気持ちになる。時代の流れに逆らわない方が良い。

 

商売は価格がすべてではないというものの、消費者は安さに弱い。ドイツの格安スーパーに英国の消費者が吸い寄せられる様子を目の当たりにすると、金融バブル崩壊後、日本が歩んできた「失われた20年」の再現フィルムを見せられているような錯覚に陥る。統計上は英国の景気は回復しているように見えても、家庭の消費マインドはそれほど回復していない。これまでずっとインフレ体質だった英国にもデフレの影が忍び寄っているのだろうか。

少子高齢社会を本格的に迎えた日本では、コンビニエンスストアが網の目のように出店され、お年寄りら「買い物弱者」の生活インフラになっている。値段より品ぞろえ、毎日顔を合わせる店員のスマイルが大事にされている。商売の仕方も時代とともに、どんどん移り変わっていく。

 

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第3回講演が開催

ビジネスセミナー

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第3回講演が開催
「英国におけるインフラ再整備事業が
日系企業にもたらすビジネス・チャンスとは」

3月10日、ロンドンの金融街シティにある国際保険ブローカーWillisのオフィスにてWillis、Lloyds Banking Group、Reynolds Porter Chamberlain LLP主催のビジネス・セミナーが開催された。在英ジャーナリストの木村正人氏がメイン・パーソナリティーを務める全4回シリーズの第3回となる今回のテーマは、「英国におけるインフラ再整備事業が日系企業にもたらすビジネス・チャンスとは」。投資を検討する側である日系企業や、企業を誘致する側である英国の金融機関などから多くの参加者が集まった。

セミナーは、英国のインフラ投資の成功例として、以前はトイレとして使われていた場所がカフェに改装された例などを木村氏がクイズ形式で発表するという意表を突く形でスタート。その後、Synaps Partners LLPのシニア・パートナー、イアン・リーヴス氏が英国の建設業界及びインフラ事業の歴史を説明した。すべてのインフラ事業が私会社により行われていたという1800年代から、インフラの再構築が不可欠となった第二次大戦後、そして労働党政権によりすべてのインフラが国有化されるようになった20世紀半ばと、時代の流れに沿って英国のインフラ事情を分かりやすく解説。また、以降の建設業界の状況を自らの体験を含めて語るとともに、官民が協力する形でプロジェクトが進められている現状を説明した。

また、国際市場において英国が優位性を持つ理由として、法制度、言語、教育などに言及。世界中で話されている英語が母国語である強みや、様々な国に英国の価値観や文化が「輸出」されてきた点などに触れた。

続いてスピーチを行ったSynaps Partners LLPのパートナー、マドック・バットカップ氏は、現在の英国経済におけるインフラ事業の重要性について語った。建設業界内の雇用や関連製品/サービスなどに関する具体的な数値を挙げて、インフラ事業の重要性を指摘。英国における下水設備や鉄道、空港、電力などのインフラの老朽化が問題となっていると述べ、既存インフラの再整備・強化の必要性を説いた。その上で、英国の建設業者が小規模であるのに対し日本の建設会社は規模が大きいことに加え、先端技術や優れた労働慣行を持つことなどを挙げ、英国のインフラ事業における日系企業のビジネス・チャンスについて力説した。

最後は木村氏が、2人のスピーチを総括。日本では近年、国内に目が向くことが多いが、グローバル・リーチの効く英国と力を合わせて互いの強みを生かせば、ジャパン・ブランドをリニューアルし、再び世界に羽ばたくチャンスがあるのではと自説を展開した。その後に行われたQ & Aでは、英国経済の持続性に関するものから、欧州連合(EU)脱退と経済の関連性を問うものまで、様々な質問が寄せられた。ときには、日系企業との豊富なビジネス経験を持つスピーカーたちが、日本が今後グローバルに活躍するには、相手国の(ビジネス)文化に適応することがポイントではないかと語る場面も。スピーカー、参加者ともにインフラ事業における日系企業の今後の可能性を真摯に追求する姿勢が印象的なセミナーとなった。

ビジネスセミナー第4回のお知らせ
「情報最前線!インテリジェンスと危機管理
―ビジネスパーソンが今身につけておきたい知的護身術」

木村正人のロンドンでつぶやいたろうライブ

政府のみならず企業の危機管理が必要不可欠となった現在。シリーズ最終回となる第4回は、第1回のセミナーでスコットランドの独立問題について論じた在エディンバラ日本国総領事館総領事で、かつインテリジェンスの専門家である北岡元氏、そして世界各国でセキュリティー・ソリューションを提供する民間警備会社オリーブ・グループのプログラム・マネージャー柴田なぎさ氏を迎えて拡大バージョンで行われる。

2015年5月15日(金)17:00‐20:00
全4回シリーズセミナー 第4回

開催場所:The Willis Building, 51 Lime Street, London EC3M 7DQ
主催:Willis / Lloyds Banking Group / Reynolds Porter Chamberlain LLP
セミナーに関する詳細、お問い合わせ: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください

 

第61回 市民社会を構築し、リインベントしていく力とは

市民社会を構築し、リインベントしていく力とは

尊敬している人から声を掛けられるのは何歳になってもうれしいものだ。先日、欧州のシンクタンクが主催する朝の勉強会でクロワッサンを頬張っていると、顔見知りのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス元学長、アンソニー・ギデンズ氏(77)が「熱心だね」と声を掛けてきた。シャツにこぼれたクロワッサンを払い落とすのも忘れて、「ええ、欧州の動きに非常に興味があるので」と直立不動で答えた。

ギデンズ氏はブレア首相(当時)のブレーンとして資本主義と社会主義の対立を超越した「第三の道」を提唱したことで知られる社会学者だ。ウクライナ危機、中国の台頭による東シナ海と南シナ海の緊張で地政学上の対立が深まる中、ジオエコノミクス(地理経済学)の世界では、米欧VS ロシア、米日VS中国の「経済戦争」が始まった。さらに、スノーデン事件で米国家安全保障局(NSA)の市民監視プログラムが暴露され、自由なインターネット空間でもバルカン化(どんどんバラバラになっていく現象)が進んでいる。

欧州連合(EU)の統合と深化プロジェクトも足踏みするが、ギデンズ氏はデジタル革命を軸にして世界の統合をさらに進めるべきだと説いている。手のひらのスマートフォンだけでトンデモナイことができる時代になった。移動しながら世界中のどことでも無料テレビ電話で話ができる。大企業や組織に属さなくてもアイデアと創造性さえあれば1人の人間が世界を動かすことができる。人々の心が前向きになれば世界は良くなり、暗くなれば悪い方向に転落していく。ギデンズ氏はトランスナショナルな(国境のない)人のつながりとイノベーションがさらに世界を飛躍させるという揺るぎない信念を持っている。

 

これまでの勉強会で筆者はギデンズ氏に随分、意地悪な質問をぶつけてきた。「日本は失われた20年で賃金が恐ろしく下がった。絶望して自殺した人もいる。欧州は日本の後を追いかけているのではないか」「右派政党の反移民キャンペーンは有権者の感情に訴え掛ける。ソーシャル・メディアを使ったカウンターで移民の有益性を納得させることはできるのか」など。

ギデンズ氏はよれよれのシャツを着て、ボロボロの革カバン、それに筆箱を持ち歩いている。清貧な学生がそのまま年を重ね た印象だ。しかし、その言葉には老いを感じさせない、若者たちを鼓舞する魂がこもっている。若者たちの志を刺激することが社会を変革していくエンジンになる。目の前のギデンズ氏は筆者に「欧州は未来モデルの一つだからね」と言い切った。

「実はあなたの話に非常に感銘を受け、私も小さなサークルですが、人を集めてソーシャル・メディアを使ったデータ収集と分析、社会への発信の仕方などを勉強しています。私は長い間、新聞記者をしていたので、メディアをリインベント(再発明)したいと考えています。次世代の若者たちが日本で市民社会を構築し、リインベントしていける力になりたいのです」。一気に思いの丈をぶつけた筆者に、ギデンズ氏は「安倍晋三首相は改革者だから、政府が資金を出してくれているの」と問い掛けてきた。「安倍首相の改革はトップダウンです。私は水平方向の改革を考えているので、政府から資金を出してもらうのはとても無理だと思います」。

 

最初は新聞記者としての取材と原稿の書き方のノウハウを伝えるだけに過ぎなかった「つぶやいたろうジャーナリズム塾」(筆者主宰の勉強会)も回を重ねるにつれ、進化してきた。間もなく最終回を迎える6期生の研究発表では、参加者の女性の方がとてもユニークなプランを発表してくださった。実用化されたら、閉鎖社会ニッポンを変えていく力のあるアイデアだ。インターネットを使ってみんなでワイワイ学んでいくうちに、いつの間にかジャーナリズムという枠組みを超え、メディアの実験室みたいになってきた。

「次から名前を『つぶやいたろうメディアラボ』にする必要が出てきたよ」と話すと、妻が「米マサチューセッツ工科大学のMI T メディアラボのパクリみたい」と笑う。早速、同ラボの伊藤穰一所長の著作を読むと、参加者の皆さんと膨らませてきたアイデアとそっくりなので驚いて腰を抜かしてしまった。

 

第60回 女性蔑視のレイプ殺人犯の証言は上映すべきか否か

女性蔑視のレイプ殺人犯の証言は上映すべきか否か

「まともな女なら夜の9時には出歩かないだろう」「レイプは男より女に原因がある」「抵抗せずに黙って犯されれば良かったんだ。そうすれば生きて帰れた」。

2012年12月、インドの首都ニューデリーでチャーター・バスに騙されて乗った女性(当時23歳)が6人組の男に集団レイプされ、死亡した。死刑判決を受けた被告の一人がBBCのドキュメンタリー映画「インドの娘」で女性蔑視の発言をして、再び世界に衝撃を与えた。被告は顔色一つ変えず、女性は男性に犯され、逆らえば殺されるのが当たり前と淡々と言ってのけた。

男女平等と女性の社会参加を選挙で訴えたモディ首相率いるインド人民党(BJP)政権は「映画のシーンは女性に対する暴力を奨励し、刺激しているように見える」「未編集のインタビューを当局に見せると約束していたのに、そうしなかった」ことを理由に、「国際女性デー」の8日にインドでも放送される予定だったドキュメンタリー映画のインド国内での上映を差し止めた。

英国では4日に放送されたこの映画は録画され、動画投稿サイト、ユーチューブに違法にアップされた。親会社のグーグルはインド当局の要請を受け、インド国内からはアクセスできないよう遮断。インド・アーグラでは同映画の上映会を開いた主催者が逮捕された。

「BBCのドキュメンタリー映画はインドを貶める白人至上主義の押し付け」という保守層の猛烈な反発がインド国内にはある。英メディアは「問題を直視することが根本的な解決につながる」(「タイムズ」紙)とドキュメンタリー映画の上映をモディ首相に求め、米メディアは「放送差し止めはとんでもない考えだ」(「ニューヨーク・タイムズ」紙)と厳しく非難。米ニューヨークでは人気女優メリル・ストリープさん、インドのスラム街を舞台にした映画「スラムドッグ $ ミリオネア」のヒロインを演じたフリーダ・ピントーさんもインド国内での上映を求めた。

 

被害者のジョティ・シンさんは理学療法士を目指しており、両親は先祖代々の土地を売って娘の学費に充てた。ジョティさんも両親を助けるため午後8時から午前4時までコール・センターで働き、睡眠3~4時間で学業に勤しんだ。最終試験も修了し、事件当日は翌日からインターンシップが始まるため、息抜きに男友達と映画「ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日」を観に出掛けた帰り、事件に巻き込まれた。男友達はバスの中で6人組に鉄棒で殴られ、集団レイプされたジョティさんはあまりの暴行に内蔵の一部が外に飛び出していた。6人組は酒にひどく酔っていた。

瀕死のジョティさんはシンガポールにある最先端の設備を持つ病院に移送されたが、事件から13日後に死亡した。「もうすぐ医者になれる」と目を輝かせていた娘は「お母さん、迷惑をかけてゴメン」と言い残して息を引き取った。

 

娘の教育に力を入れたジョティさんの家族はインドではまだ稀有の存在だ。多くの場合、女性は価値のない存在として扱われ、生前診断で女子と判明すれば中絶されることも少なくない。レイプだけでなく、家庭内暴力、硫酸攻撃、結婚持参金が少ないとして花嫁が虐待を受ける事件も日常茶飯事だ。

インドは経済成長とともに急激な変化を遂げ、この20年間で働く女性の数は倍増した。しかしその一方で深刻な貧困問題が残る。6人組はその日の食事すら事欠く家庭に生まれ、満足な教育を受けていなかった。インドの女性は20分に1人の割合でレイプに遭っている。12年にニューデリーで706件のレイプ事件が報告されたが、有罪判決が出たのはジョディさんの1件だけだった。

ジョディさん事件の翌日には大規模な抗議活動が起きる。多くの女性がレイプにビクビクしながら働きに出ていたからだ。事件が発端になり警察には女性のヘルプラインが設けられ、集団レイプに最低でも20年の服役が科されるようになった。レイプ事件の審理を早く進める法廷も新設された。しかし、女性蔑視の文化は一朝一夕にはなくならない。

ドキュメンタリー映画はインドだけでなく、日本を含め世界中で上映されるべきだと思う。人間の奥底で牙を剥く獣性を克服し、男女が平等に参画できる社会を築くことは人類普遍のテーマだからだ。

 

第59回 あなたはカンバーバッチ派、それともレッドメイン派?

あなたはカンバーバッチ派、それともレッドメイン派?

今年度のアカデミー賞主演男優賞には、映画「博士と彼女のセオリー」で難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う天才物理学者スティーブン・ホーキング博士(73)役を演じたエディ・レッドメイン氏(33)が選ばれた。本人以上にホーキング博士そっくりの天才的な演技には舌を巻くが、博士と最初の妻ジェーンさんの愛と別離のストーリーに筆者も心を激しく揺さぶられた。

「このオスカーは世界中でALSと闘うすべての人々のものです。この賞は特別な家族、スティーブンとジェーン、そして2人が授かった子供たちに贈られるものです。僕は、この賞を預かる管理人になります」とレッドメイン氏が受賞の喜びを語ると、ホーキング博士も「おめでとう。良くやったね。君のことを誇りに思う」と祝福した。

主演男優賞にノミネートされていたベネディクト・カンバーバッチ氏(38)が演じる「イミテーション・ゲーム / エニグマと天才数学者の秘密」のアラン・チューリング役も良かったが、ドイツの暗号エニグマを解読したチューリングはホーキング博士に知名度で及ばなかったと言えるかもしれない。英国からのノミネートは19部門の計39件に上った。このうち受賞はレッドメイン氏のほか、「グランド・ブダペスト・ホテル」(メイクアップ & ヘアスタイリング賞、美術賞)、「インターステラー」(視覚効果賞)、「ThePhone Call」(短編実写映画賞)、「セッション」(録音賞)の5件。最近の主演男優賞ではダニエル・デイ=ルイス氏(2007年の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、12年の「リンカーン」)、コリン・ファース氏(10年の「英国王のスピーチ」)と英国勢の活躍が目覚ましい。

 

名門イートン校でウィリアム王子と同学年、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで美術史を学びながら演技に磨きをかけたレッドメイン氏も、名門ハーロー校出身でBBCの人気ドラマ「シャーロック」で大ブレークしたカンバーバッチ氏もまだ30代と若い。将来が楽しみだ。それにしても、どうして英国からこれだけの逸材が輩出されるのか。まず、映画の巨大市場である米国と同じ英語が母国語という大きな強みがある。米ハリウッドのような潤沢なカネがないから、アイデアと芸で勝負するしかない。英国の独特な歴史と伝統が、ホーキング博士やチューリングといった興味のつきない映画の題材を提供し、才気あふれる監督や俳優を次々と生み出す土壌になっている。

「スター・ウォーズ」のユアン・マクレガー氏や「ロード・オブ・ザ・リング」のオーランド・ブルーム氏を育てたロンドンの名門ギルドホール音楽演劇学校のケン・レイ氏は新著「突出した俳優、成功のための7つのカギ(仮訳)」で名優の資質について次のように記す。情熱、観客との間に緊張を生む危険な香り、好奇心、強い存在感、寛大な精神がカリスマ性を形作る――同校では最初に温かさと寛大さを持って仲間と協力し、他人とは異なる個性や多様性を尊重することを強調するという。違いが緊張と刺激をもたらし、発展につながるからだ。

 

英国がすごいのは、こうした現場の情熱を政府が後押ししているところだ。映画製作で英国での支出と認定されると2000万ポンド(約37億円)までは25%、2000万ポンドを超えた部分については20%の税額控除が受けられる。ハリウッドで製作するより英国で作った方が4割近く安くつくという試算もある。英国映画協会(BFI)の14年版年次報告書によると、映画業界への公的支援は12年度で総額3億6300万ポンド。一番大きいのは税額控除の2億600万ポンドで、次は宝くじの売上金から充てられる6540万ポンド。文化・メディア・スポーツ省からの補助金2790万ポンドなどが続く。資金集めが容易なので、独立系プロダクションが独自のアイデアで映画づくりに取り組める。最初に収益ありきのハリウッド映画とは趣を異にする英国映画が誕生する理由はここら辺にある。

BFI(UK フィルム・カウンシルの仕事を引き継ぐ)も英国映画のセールスに余念がない。米国で低予算の英国映画を上映したり、若手の英国俳優をハリウッドに売り込んだり。こうした政府ぐるみの戦略が、英国映画の裾野を世界に広げている。英国俳優はハリウッド俳優に比べて割安というのも魅力の一つのようだ。

 

第58回 モノ言う「王室外交」目指すチャールズ皇太子

モノ言う「王室外交」目指すチャールズ皇太子

チャールズ皇太子(66)がヨルダンやサウジアラビアなど中東訪問に合わせてBBCラジオ番組のインタビューに応じ、イスラム社会の若者が過激化していることについて「最も深刻な心配の一つ。その度合が警戒を要する部分だ」と重大な懸念を示した。「誰かほかの人との接触か、それともインターネットを通じてか、人々が過激化することに衝撃を覚える。インターネット上には常軌を逸したコンテンツが氾濫している」。

ヨルダンもサウジアラビアも米国が主導する有志連合に参加し、イスラム過激派組織「イスラム国」と戦っている。日本のフリージャーナリスト、後藤健二さんら2人がイスラム国に人質に取られ、殺害された事件では、ヨルダン軍パイロットと同国で拘置されている死刑囚の女性テロリストの解放も交渉の俎上(そじょう)に載せられた。

皇太子は「若者は一定の年齢に達すると冒険や興奮を追い求める。チャリティー活動を通じて思春期の若者のエネルギーを向ける代替物や建設的な道を探している」と強調した。英王室は中東諸国の王室とつながりが深い。とは言え、イスラム国への空爆が激しさを増す中、有志連合への参加国を訪問したのは、王室同士の友好と親善という意味以上に、キャメロン英政権の外交・安全保障政策を側面から支援する狙いも込められている。

サウジアラビア訪問ではサルマン新国王との初会談で、開設したサイトがイスラム教を侮辱しているとして、禁錮10年とムチ打ち1000回の刑を言い渡された人権派ブロガーを話題に取り上げた。もともと皇太子はチベットの良き理解者として知られるなど、人権問題に深い関心を寄せてきた。

 

香港返還の際は、自分の日記に中国指導者を「ゾッとさせる古いロウ人形」と記し、これまで何度もチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談しているとして、チベット騒乱に揺れた北京五輪の開会式に出席しない方針を誰よりも早く明らかにした。ダイアナ元皇太子妃との世紀の結婚、ダブル不倫、悲劇的な元妃の交通事故死、カミラ夫人との再婚など、英王室の中では、かなりイメージが悪い皇太子だが、幼いころから普通の子供に交じって学校に通い、ケンブリッジ大学を卒業し、ずっと「開かれた王室」の未来を見据えてきた。

「君臨すれども統治せず」の原則に基づき英王室は伝統的に政治的な発言を控えてきた。エリザベス女王も自分の考えを明かさないことで知られている。一方、チャリティーの運営で敏腕ぶりを発揮する皇太子は遺伝子組み換え食品から建築物まで幅広く発言し、物議を醸す。クリミア編入に端を発するウクライナ危機ではロシアのプーチン大統領をナチスの独裁者ヒトラーになぞらえて、厳しく非難された。しかし、国民目線でできるだけ正直に発言することが、王室の中で育った女王とは異なる皇太子のスタイルなのかもしれない。

2013~14年の英王室費は3570万ポンド(約65億3955万円)で、国民1人当たり56ペンスの負担、と王室の会計担当が昨年6月に発表した。国民1人当たりに焦点を当てることで「十分見合う出費」というイメージを強調してみせたのも皇太子の計らいと筆者は考える。最近、出版された米誌「タイム」のキャサリン・メイヤー記者による皇太子の伝記「国王の心」は「女王よりキャンペーンを展開する」「女王は、英国は皇太子の思い描く急進的な王室のスタイルを受け入れる用意ができていないかもしれないと心配している」と指摘し、大きな騒動になった。皇太子サイドはメイヤー記者に特別な取材の機会は与えていないと主張するが、メイヤー記者の発言は随分、皇太子を身びいきにしているように聞こえる。

 

オランダやベルギー、スペインでは君主の退位が相次いだが、欧州最年長君主のエリザベス女王にはその気配すらない。女王の在位期間は今年9月9日、ヴィクトリア女王の2万3226日16時間23分を上回り、英王室の最長記録を更新する。88歳と高齢の女王が英連邦首脳会議などの公務を大幅に皇太子に任せたことをきっかけに、皇太子担当スタッフの権限が一気に広がり、王室内部で縄張り争いが起きているとの観測もまことしやかに流れてくる。21世紀の英王室の姿や王室外交をめぐる静かな議論が進行しそうだ。

 

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第2回講演が開催

ビジネスセミナー

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第2回講演が開催
マクロ経済・金融市場の動向分析と
信託を活用した英国での相続税対策

木村正人のロンドンでつぶやいたろうライブ
独特の穏やかな語り口で
世界経済の展望について語る木村氏

1月29日、ロンドンの金融街シティにある国際保険ブローカーWillisのオフィスにてWillis、Lloyds Banking Group、Reynolds Porter Chamberlain LLP主催のビジネス・セミナーが開催された。在英ジャーナリストの木村正人氏がメイン・パーソナリティーを務める全4回シリーズの第2回となる今回のテーマは、「マクロ経済・金融市場の動向分析と投資市場トレンドと信託を活用した英国での相続税対策」。国際金融の中心地であるシティに日々蓄積されている情報の一端に触れることができる貴重な機会となった。

まずロイズ銀行投資戦略部門の責任者を務めるアシシュ・ミスラ氏が、マクロ経済・金融市場の動向分析と投資市場トレンドについて説明。銅を始めとする鉱物、国債、通貨、株の価格変動といった具体例を挙げながら、世界経済がどのように動いているかについて述べた。

続いて、欧州経済の歴史から共通通貨ユーロの展望までを包括的に論じた新書「EU崩壊」の著者でもあるメイン・パーソナリティーの木村氏が、マクロ経済に今後影響を与え得る要素として、欧州連合(EU)の緊縮政策に反対を示すギリシャ新政権の誕生について言及。またセミナー参加者からは、円-ポンド間の為替レートの予測などについての質問が寄せられた。

木村正人のロンドンでつぶやいたろうライブ
ロイズ・トラスト・カンパニーのグラハム・マーシュ氏

次にロイズ・トラスト・カンパニー(チャンネル諸島)ウェルス・ストラクチャリング部門の責任者であるグラハム・マーシュ氏が、信託を活用した英国での相続税対策について解説。最前列に座ったセミナー参加者に現金を預けるパフォーマンスを見せながら信託の基本的な仕組みを説明した上で、資産の保護や相続税の軽減といった利点について話した。

このテーマにおいて木村氏は、独特の穏やかな語り口を通じて、政府税制調査会の会長を務めた近畿大学の本間正明教授とかつて「税金考」という著書を執筆したころの思い出を披露。バブル経済が既に崩壊していたにも関わらず、相続税収が上昇していった1990年代前半の様子を振り返った。また高度成長期と同じようには給与が上昇していく見込みのない現在の経済状況において、目減りしていく資産をどのように管理していくかが多くの日本人にとって今後の課題になると述べるなど、生活に密着した視点から自身の見解を述べた。

マクロ経済・金融市場の動向と信託の活用法といった専門的な分野についてそれぞれの専門家が概要を説明し、木村氏が日々のニュースと結び付けながら各テーマについて噛み砕いて語ることで補足するという形式のセミナーは、初心者にとっても非常に分かりやすい内容だった。本ビジネス・セミナーの第3回は、3月10日に開催される。

ビジネスセミナー第3回のお知らせ
「英国におけるインフラ再整備事業が
日系企業にもたらすビジネス・チャンスとは」

木村正人のロンドンでつぶやいたろうライブ

2015年3月10日(火) 17:30-20:30
全4回シリーズセミナー 第3回

開催場所:The Willis Building, 51 Lime Street, London EC3M 7DQ
主催:Willis / Lloyds Banking Group / Reynolds Porter Chamberlain LLP
セミナーに関する詳細、お問い合わせ: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください

 

第57回 シリアに潜入取材するフリー・ジャーナリストの現実

シリアに潜入取材するフリー・ジャーナリストの現実

フランス風刺週刊紙「シャルリー・エブド」銃撃事件に続いて、中東の過激派「イスラム国」を名乗るグループがフリー・ジャーナリスト、後藤健二さんらを人質に取ったため、イスラム過激派の衝撃が日本にも広がっている。

最高指導者の指導により運営されるカリフ国建設を目指す「イスラム国」はこれまでも欧米のジャーナリストや援助関係者を誘拐し、人質に取ってきた。人命を優先し身代金の支払いに応じるフランスやイタリアの人質は解放され、応じない米国や英国のジャーナリストらは残忍な方法で処刑されている。

危険を承知の上で「イスラム国」に接触するためシリアに向かった後藤さんの胸中はどうだったのだろう。シリアのアサド政権からビザの発給を受けると、政権批判につながる自由な取材活動は制限される。かと言ってトルコ国境から違法に入国すると「イスラム国」に捕らえられる恐れがある。

 

欧米の大手メディアはリスクが大きすぎると特派員を危険地域から退避させている。報道の空白を埋めるように多くのフリー・ジャーナリストが命の危険を顧みず、シリアへの潜入取材を試みる。地位や名声、金が目当てではない。そこに報道に値するニュースがあるからだ。イタリアのTV局からコーディネーターを依頼されたシリア系イタリア人フリー・ジャーナリスト、スーザン・ダボウスさん(32)も2013年4月にシリアで誘拐された。

「トルコ国境を越えてシリアへ違法に入国しました。ジャーナリスト4人とシリア人5人のグループで小さな村のキリスト教会にたどり着くと、聖職者が1人いるだけでした。教会には殺された犬など神聖冒涜の跡が残されていました」。昨年9月、王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)で講演したスーザンさんは自らの体験を話した。

聖職者は話したがらなかった。不審に思ったときは、覆面をした武装グループに取り囲まれていた。テロ組織「イラクのアルカイダ」の支援を受けてシリアで結成されたスンニ派過激組織「ヌスラ戦線」のメンバーだった。全身を覆うニカブではなく、スカーフのヒジャブを着用していたスーザンさんは身構えた。イスラム過激派は西洋のキリスト教徒よりも世俗化したイスラム教徒を憎む。スーザンさんは父からイスラム教の平和について教えられて育った。イスラム過激派の主張は身勝手なイデオロギーに過ぎないことは分かっていたが、彼らから見て「良いイスラム教徒」を演じることにした。

「女」であることを意識した。同僚の男性とは別の収容所に入ることを訴え、保守的なイスラム教徒の女性になり切った。最初の12時間は極限の恐怖に震えた。「お前のアラビア語は下手くそだ」とヌスラ戦線の戦士に問い詰められる。戦士は北アフリカ、エジプト、湾岸諸国からやって来た16~24歳の若者だ。彼らはシリアとイラクにイスラム国を建設すればイスラム教徒に自由が訪れ、良きムスリムとして暮らすことができると信じ込んでいる。自爆テロも人質の処刑もアッラー(イスラムの唯一神)のお導きと信じて疑わないのだ。

ある日、戦士が「我々はもはやヌスラ戦線ではない。イスラム国だ」と宣言した。

地元仲介者として雇っていたシリア人実業家がグループ幹部と交渉を重ね、スーザンさんらは11日後に無事解放された。身代金の要求はなかった。「若いシリア人は私たちを放って逃げましたが、イスラム教指導者を兄弟に持つシリア人実業家の尽力で助かりました。仲介者の存在は本当に大きい。シリアは小さな国なので仲介者は容易に見つかるはず」と言う。

 

日本国内の身代金目的誘拐事件では報道協定が結ばれる。1960年の雅樹ちゃん事件で新聞各紙は激しい報道合戦を展開、雅樹ちゃんは殺害された。のちに逮捕された犯人が「報道で追い詰められた」と語ったことから新聞協会で誘拐報道の基準が決められる。報道は被害者の安否に大きな影響を与える。「私たちの誘拐はしばらく報道されなかったので、仲介者は動きやすかったようです」とスーザンさん。イタリア政府や外務省も解放のため努力を惜しまなかったが、記者に雇われていたスーザンさんにイタリアのTV局からの支援は一切なかった。それが悲しい現実だ。

 

第56回 撃たれた「表現の自由」―仏風刺週刊紙銃撃事件の衝撃

撃たれた「表現の自由」―仏風刺週刊紙銃撃事件の衝撃

フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」やユダヤ系食料品店がテロリストに襲撃され、編集長や風刺画家、イスラム教徒の警官、ユダヤ教徒ら計17人が殺害された事件は欧州全体を激しく揺さぶっている。

イエメンに拠点を置くイスラム教スンニ派過激組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」や同「イスラム国」とのつながりが浮かび上がる。イラクやアフガニスタンから欧米の駐留部隊が次々と撤収しているにもかかわらず、イスラム系移民の過激化は加速している。

 

若かりしころ、国際的な過激イスラム主義組織のリーダーだったマアジッド・ナワズさんは、シンクタンク「キリアム」をロンドンに共同設立し、イスラム過激派のイデオロギー解体に取り組んでいる。そのため過去5年間、服役中のイスラム過激派との面会を重ねてきた。

「彼らは既存の体制をひっくり返してカリフ(イスラム社会の最高指導者)が率いる国をつくろうとしている。イスラム国がその目標に近づいているので状況は悪くなっている」と深刻な表情を見せる。今回のテロは「欧州を混乱させ、最後は内戦状態に陥れるのが狙いだ」とナワズさん。2001年9月11日の米同時多発テロ以降、世界は「秩序」から「無秩序」に向け、不可逆的に進み始めているのだろうか。

それにしてもテロを実行した犯人3人の経歴を見て、イスラム過激派との接点がこれだけ明白なのに対内情報機関が行動確認もしていなかったとは呆れてしまう。テロリスト予備軍1人の尾行に20~30人のチームが必要なため、手が回らなかったのか。裏返せば、フランスには彼らよりもっと恐ろしい予備軍がたくさんいるということだ。

 

英国では欧州連合(EU)離脱と移民規制の強化を唱えて英国独立党(UKIP)が支持を広げる。フランスでも極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が異様な人気を集める。

ドーバー海峡を挟んで英仏の移民政策は大きく異なる。

ある会合で仏著名メディア元編集長の女性に「英国とフランスの移民政策はどう違うのか」と質問してみた。英国は多文化主義、フランスは共和国的な価値に重きが置かれ、「英国では多様性が認められるのに対し、フランスは同化が求められる」のだという。

英国の公立学校ではイスラムのスカーフ、シーク教徒のターバンも着用が認められているが、政教分離を厳格にとらえるフランスの公立学校ではスカーフやユダヤ教の帽子、大きな十字架は禁止されている。フランス革命を起源とする自由、平等、博愛はフランス共和国の標語である。政教分離を含め、こうしたフランス的価値を守ることがフランス国民の条件だ。無制限の自由と平等を求めて革命を進めたフランスに対し、英国は一度共和制を敷くも混乱を嫌い「制限された自由」を受け入れ、王政復古した。

イスラム教預言者ムハンマドの風刺画がテロの口実に使われたのも、フランス革命にさかのぼる社会風刺画に銃弾を向けることでフランスの絶対的価値である「表現の自由」を対立軸にする狙いがテロ組織にはある。胸に響く「私はシャルリ」というスローガンは、今回のテロがキリスト教徒だけでなくユダヤ教徒やイスラム教徒にも向けられたことを見えにくくしてしまう。ユダヤ教徒の買い物客やイスラム教徒の警官が殺されただけならば、これだけ大きなニュースになっただろうか。世界の大半のメディアが西洋の価値に軸足を置いて報道していることを今回のテロは図らずも浮き彫りにした格好だ。

ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王はこの件に関連し、機中でパンチする素振りを見せながら、「もし友人が私の母をののしったらパンチをお見舞いする。信仰を侮辱したり、バカにしたりしないよう宗教は敬意を持って扱われなければならない」と述べた。

今はイスラムと西洋の衝突を避けることに全力を尽くすことが求められる。イスラムへの誤解と偏見を増幅させて溝を広げるのではなく、相互理解を深めるために「表現の自由」は使われるべきだ。イスラム系移民の過激化を反転させることができるのか。政治指導者だけでなく、私たち市民社会の姿勢も問われている。

 
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