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Fri, 03 April 2026

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第55回 アンハッピーな新年にしないために

アンハッピーな新年にしないために

皆さん、Happy New Year! 筆者は妻と一緒にシャンパンを飲みながら、テムズ河の花火を眺めた。前回は50万人が押し寄せた。事故を避けるという名目で今回から1人10ポンドの有料制になり、10万人に限定販売された。ロンドン市にとって単純計算で100万ポンド、日本円にして1億8600万円の臨時収入だ。筆者の秘密スポットは自宅近くの公園、だから入場料は無料。やって来たのは2~3の小グループだけ。木の枝が少し気になるものの、ロンドン・アイと花火が見える光景は最高だった。テムズ河沿いの混雑と喧騒とは正反対の静かな空間で新年を迎えることができた。

 

新年、何が英国のビッグ・ニュースになるか考えてみた。一に、5月の総選挙。英国伝統の2大政党制が崩壊するばかりか、保守党と労働党の大連立による「挙国一致内閣」が成立する可能性があると「フィナンシャル・タイムズ」紙が予想していたのには正直、驚いた。二に、イングランド銀行(中央銀行)が日米欧中銀の先頭を切って利上げに踏み切るか否か、三に、バブル気味の不動産市場が急落するかだ。この3つのトピックはそれぞれ密接に関連している。

挙国一致内閣が誕生することになったら、大恐慌の経済危機から先の大戦に至る1930年代以来の出来事になる。国民統計局によると、国内総生産(GDP)の成長率は予想を0.4%下回ったものの、昨年第3四半期までの1年間で2.6%。1年前には7.6%だった失業率は6%に改善。消費者物価指数も過去12年間で最低の1%に落ち着いている。なのに、なぜ、英国の政治は約80年ぶりという大混迷の時代を迎えようとしているのか。英メディアが危機をあおっているだけなのか。

夜、2階建てバスでロンドン市中を走っていると、電気が消えたままのフラットの数の多さに驚かされる。その一方で、高層住宅や商業ビルの新築ラッシュが起きている。雨後の筍のように出店する不動産屋。世界金融危機以来の超金融緩和で巨額マネーがロンドンに流れ込んだおかげで、「キャピタル・リッチ、インカム・プア」の二極化が進んだ。不動産や株などの資産を持つ富裕層 はますます豊かになり、汗水たらして真面目に働く勤労者は逆に貧しさを感じるようになった。ロンドンの住宅価格は下落傾向がみられるものの、1年間で20%上昇した。が、英国経済は生産性と実質賃金の低下に苦しんでいる。

 

とてもハッピーになれない新年挨拶がニュースになった。労働紛争の解決を支援する政府外公共機関Acasのバーバー議長が、英国の労働生産性は時間当たりのGDPで見た場合、2007年には先進7カ国(G7)平均を9%下回っていたが、そのギャップが13年までに19%まで広がったと警鐘を鳴らしたのだ。国立経済社会研究所によると、実質賃金は08年から13年の間に8%も低下、若者の実質賃金は14%も下落している。国際通貨基金(IMF)は昨年、生産性の低さは将来、英国経済の健全性を損なう恐れがあると指摘している。

昨年6月、「今後3年間で政策金利は現在の0.5%から2.5%に引き上げられる」と表明したイングランド銀行のカーニー総裁は、総選挙が終わるまで動かないという見方が今では強まっている。有権者が景気回復を実感できていないからだ。米連邦準備理事会(FRB)やイングランド銀行がいずれ利上げに踏み切れば、英国の不動産市場は冷める可能性が高くなる。中銀の超金融緩和は景気後退の深刻化を和らげる代わりに生産性の低いゾンビ企業を存命させる。雇用者の必要に合わせて働くゼロ・アワー契約やアプレンティス(見習い)制度を通じて低賃金で働かされる労働者の勤労意欲は低下する。

「安かろう、悪かろう」の悪循環を断ち切るカギは、時間はかかるかもしれないが、一にも二にも教育しかない。労働者一人ひとりの技術水準や、企業統治を向上させ、より高い収益が期待できる新しい産業に資金を流れやすくし、実質賃金の上昇を実現する。より公正で効率の良い経済、社会、政府を実現させ、参加者全体の満足度を高めていく努力が欠かせない。筆者も正確で質の高い記事を1本でも多く書けるよう努めていきたい。というわけで新年もお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。

 

第54回 「不機嫌な猫」が大ブレークする理由

「不機嫌な猫」が大ブレークする理由

不機嫌そうな顔をしたメス猫(2歳8カ月)の人気が世界的に大ブレークしている。名付けて「Grumpy Cat(不機嫌な猫)」。米国アリゾナ州で暮らす29歳の女性タバサ・ブンデセンさんが2年前、自分の飼い猫を撮影して、ソーシャル・ニュース・サイトに写真投稿したところ翌日から携帯電話が鳴り止まなくなった。小太りで胴長、短足、丸顔、大きな目を半眼にしたような機嫌の悪さが注目を集めたが、「写真加工・編集ソフトで手を加えたもので、本物ではない」とクレームがつけられた。「本物よ」と反論するためユーチューブに動画を投稿すると、試聴回数は一夜にして150万回を突破した。

タバサさんはウェイトレスを辞め、飼い猫とともにTVやステージに出演。2冊の「不機嫌な猫」本が出版され、クリスマス映画も製作された。清涼飲料水のブランドなど約140もの製品にキャラクターとして使用され、タバサさん一家はこの1年でサッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド選手の年収よりも稼いだと英メディアで大々的に報じられた。電子ピアノのキーボードをたたく猫や少し変わった動物キャラクターがインターネットを通じて旋風を巻き起こすケースは珍しくない。ロンドンでもホームレスだったジェームズ・ボウエンさんと捨て猫ボブの心温まるストーリーが大きな話題になった。

日本でも1980年代に暴走族風の学ランを着せた猫のキャラクター「なめ猫」が一大ブームになったことがある。最近では、紙袋のトンネルに飛び込む仕草がかわいい「まる」が人気を呼び、英国でも写真集が出版された。今、なぜ、「不機嫌な猫」が受けるのか。理由を筆者なりに考えてみた。

 

身近な猫、しかも、猫らしくない猫を主人公にして平均からはネガティブな方向にみられがちな個性をポジティブにとらえ直すことで、見る人に癒やしと憩いを与える。このサクセス・ストーリーに努力も工夫もない。しかし、グローバル化と世界金融危機後の中央銀行による超金融緩和策は、努力しても決して報われることのない階層を拡大させている。タバサさんのように幸運が突然、訪れでもしない限り、中流階級、ましてや上流階級にステップアップしていくことなど無理なことに、皆が気付いている。

だから「不機嫌な猫」のあまりに不機嫌な表情が共感を集めるのだと思う。とても生活していけないような低賃金と劣悪な条件でこき使われても、職場で不機嫌な顔をするわけにはいかない。「明日から来なくていいよ」と言われるのがオチだからだ。クビになると状況はさらに悪くなる。

 

英国では、今年の経済成長見通しは国内総生産(GDP)比で3.5%、来年も3%と上向きだ。2011年に270万人にまで膨らんだ失業者は196万人に減少。マクロの数字はキャメロン首相やオズボーン財務相が胸を張るように改善しているのに、新聞やTVには「これではとてもクリスマス気分になれない」という暗いニュースが流れる。

政治的中立を守るべき英国国教会トップのジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教は、先進国の英国でフード・バンク*に食料を求める人が増える状況に強いショックを受け、政治に党派を超えた対策を求 めた。英国で423のフード・バンクを運営する慈善団体によると、3日間の食糧緊急支援を受けた人は08年度の2万5899人から12年度に34万6992人、昨年度は91万3138人に膨らんだ。

キャメロン政権は財政再建のための社会福祉削減とフード・バンク利用者の増加は無関係で、「フード・バンクのキャンペーンは不安心理をあおっている」と逆に非難してきた。しかし、英国国教会の支援を受けた市民団体の聞き取り調査によると、フード・バンク利用者の多くが社会福祉の切り捨てや手当の遅延、燃料費上昇などのため、フード・バンクに駆け込んでいた。また、低賃金のため生活に困窮する人も次第に増えてきたという。

英国はマクロ経済の数字よりフード・バンクが物語る現実に目を向ける必要がある。公的なセーフティネットが機能しなくなり、社会の善意がそれを補っている。不機嫌さが受けるのは危険な兆候だ。政治が手をこまぬいていて良いわけがない。

* 包装に難があるなどの理由で販売できない食品を配給する団体

 

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第1回講演が実施

ビジネスセミナー

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第1回講演が実施
スコットランド独立問題の総括と今後の行方

木村正人のロンドンでつぶやいたろうライブ2014年11月26日、ロンドンの金融街シティにある国際保険ブローカーWillisのオフィスにてWillis、Lloyds Banking Group、Reynolds Porter Chamberlain LLP主催のビジネス・セミナーが開催された。在英ジャーナリスト木村正人氏がメイン・パーソナリティーを務める全4回シリーズの第1回となる今回のテーマは、「スコットランド独立問題の総括と今後の行方」。在エディンバラ日本国総領事館総領事、北岡元氏を特別ゲストに迎え、今年9月に実施されたスコットランド独立の是非をめぐる住民投票についての講演が行われ、集まった130人以上もの参加者たちは、英国の今後にも大きな影響を及ぼす同問題を多角的に論じるスピーチに耳を傾けた。

2007年7月に産経新聞ロンドン支局の支局長として来英した直後に、スコットランドで開催された全英オープンゴルフの取材のため同地に赴いたという木村氏。横殴りの雨と強風にさらされ、「一日のうちに四季がある」と言われるスコットランドの厳しい自然の中でプレーする選手たちの姿を追ううちに、同地では「人間の強さを試される」と実感したというエピソードを披露した。

その後は、スコットランド独立問題を総括し、今後の行方を予想する北岡氏によるスピーチが行われた。複雑な過去を持つスコットランドの歴史的背景に触れた後、住民投票に至るまでの過程や、投票が行われた当日の現地の様子、そして英国残留が決まり、今後スコットランドや英国全体がどのように変わっていくのか、2015年の総選挙や翌16年のスコットランド総選挙、17年末までに行われる英国の欧州連合(EU)脱退の是非を問う国民投票の展望までを見据えた内容に、会場では何度もうなずきながら熱心にメモを取る姿が見られた。

北岡氏によるスピーチの後には、木村、北岡両氏によるディスカッション及び参加者とのQ&Aが。スコットランド同様、連合王国の一部であるウェールズや北アイルランドについて尋ねられた木村氏が、北アイルランドにも独立への意思はあるものの、経済力がついてこないなどと自説を展開する場面もあった。

住民投票により英国残留が決定した後、英国各紙ではスコットランドについて報じる記事が減ったが、その一方で同地への権限移譲をめぐる話し合いは現在も行われており、他地域への影響も大きい。今後の国のあり方を大きく左右するスコットランド独立問題の影響力の大きさを改めて実感する貴重なひとときとなった。

ビジネスセミナー第2回のお知らせ
「マクロ経済・金融市場の動向分析と投資市場トレンドと信託を活用した英国での相続税対策」

木村正人のロンドンでつぶやいたろうライブ

2015年1月29日(木) 17:30-20:30
全4回シリーズセミナー 第2回

講演は英語で行われますが、その後に木村氏、そして参加者の皆様に日本語と英語の両方で質疑応答、ディスカッションしていただく予定です。


スピーカー:
• ロイズ銀行投資戦略部門責任者 アシシュ・ミスラ氏
• ロイズ・トラスト・カンパニー(チャンネル諸島)ウェルス・ストラクチャリング部門責任者 グラハム・マーシュ氏
• ジャーナリスト 木村 正人氏


開催場所:The Willis Building, 51 Lime Street, London EC3M 7DQ
主催:Willis / Lloyds Banking Group / Reynolds Porter Chamberlain LLP
セミナーに関する詳細、お問い合わせ: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください

 

第53回 様変わりする英国の政治風景―二大政党制は終焉する

様変わりする英国の政治風景―二大政党制は終焉する

5月の欧州議会選で得票率27.49%で24議席を獲得して英国の第1党になった英国独立党(UKIP)の勢いが止まらない。欧州連合(EU)からの離脱と移民規制の強化を唱え、10月から11月にかけて行われた3つの補欠選挙で2議席を獲得した。UKIPが下院に議席を得るのは初めてのことだ。負けた選挙区でも得票率を前回総選挙より36.1%も増やして、当選した労働党候補にあと一歩のところまで肉薄した。

当選したUKIPの2議員は与党・保守党から鞍替えした強硬な欧州懐疑派だ。UKIPに投票しているのは、EUから英国の権限を取り戻さなければならないと思っている欧州懐疑派のほか、英国の伝統的な価値が壊されていると感じる保守層の白人高齢者、移民に仕事を奪われていると不平を漏らす労働者階級、既成政党に失望した人たちだ。こうした人々が漠然と抱く不安や不満を代弁しているのがファラージ党首だ。

「2900万人のルーマニア人とブルガリア人に門戸を開放することは大問題をもたらす」「英国に来て子供を生むのは大歓迎だ。しかし、英国を乗っ取ろうとしているのなら、お断りだ」。TV カメラの前で不敵な笑みを浮かべてタバコの煙をくゆらせる。パブでビールのパイント・グラスを傾ける。時代の流れに置いてけぼりにされた高齢者や労働者たちの心のオリをすくってやるように言葉を操る。これも民主主義とはいえ、移民の一人である筆者の目には、毒を撒き散らす道化師そのものに映る。

 

スコットランド独立の住民投票で独立反対派に敗北を喫したものの、その勢いを借りて有料党員を2万5000人から8万人以上に増やした地域政党・スコットランド民族党(SNP)とともに、UKIPが来年5月の総選挙で台風の目になるのは間違いない。前回総選挙では、チャーチル首相の戦時連立内閣以来初めてとなる連立政権が保守党と自由民主党によって誕生。多くの人が「ニュー・ポリティックス(新しい政治)」に期待 した。しかし、欧州債務危機の悪化が低成長をもたらし、超金融緩和策が格差を拡大、保守・労働・自由民主の各既成政党への不信感を増幅してしまった。

来年の総選挙で英国政治史上、前代未聞の事態が起きそうだ。大手世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー会長はこんな予想を出している。SNP20~30議席、自由民主党最大28議席、UKIP10議席となり、その他の地域・小政党と合わせると、保守党と労働党を除いた議席は最大で100議席に達する。下院の定数は650だから、残る550議席を保守党と労働党が争う。現在の世論調査では保守党と労働党の支持率が拮抗しており、どちらかが300近い議席を得る確率は低い。このため、保守党と自由民主党、労働党と自由民主党、労働党とSNPが連立を組んだとしてもいずれも過半数の326議席には届かず、3党以上の連立政権が誕生するかもしれないというのだ。

 

衝撃的な予想だ。英国と言えば二大政党制の本家本元。総選挙は小政党には圧倒的に不利な単純小選挙区をとり、1955年には労働党と保守党で得票率の96%、議席の98%以上を占めた。少数派の意思が反映されずらい勝者総取りのシステムは「強い政府」をつくる。それが、衰えてなお国際社会で影響力を発揮し続ける英国の強みになってきた。日本でも1990年代の政治改革で英国型の小選挙区が取り入れられた。民主党政権が誕生し、本格的な二大政党時代の到来を期待させたが、外交の混迷、東日本大震災時の政権の混乱で民主党の信頼は失墜した。米国でも議会で民主党と共和党が非妥協的な対立を繰り広げ、政治の停滞をもたらしている。二大政党制は今や瀕死の状態と言っていい。

こうした兆候は英国では1960年代、70年代から少しずつ現れていた。2004年のEU拡大で東欧やバルト3国からの出稼ぎ移民が急増し、キャメロン首相は年間の移民の純増数を10万人以下に抑えると宣言したものの、公約はとても実現できそうにない状況だ。EU離脱と移民規制に争点を絞るUKIPが皮肉にも英国の議会政治を、多数決よりコンセンサス(総意)を重視する欧州型に変えようとしている。このままでは、英国伝統の「対面型」議場を半円形の「欧州型」に作り変えなければならない日が来るのもそう遠くないかもしれない。

 

 

88万8246本のポピーで埋めつくされた休戦記念日

英国で暮らしていると11月はどうしても感傷的になる。政治家もサッカー選手も一般の人々も胸に真っ赤なポピー(ケシ)の造花をつける。街中にポピーがあふれ、第一次大戦の休戦記念日(11日)や「リメンバランス・サンデー」と呼ばれる戦没者追悼記念の日曜日(11日に一番近い日曜日、今年は9日)に合わせて追悼行事が行われるからだ。

第一次大戦の開戦から100年に当たる今年、観光名所のロンドン塔を囲むお堀は、犠牲になった英兵士と同じ数の、陶磁器で造られた88万8246本のポピーで埋めつくされた。休戦が成立した11日午前11時前に最後の1本が13歳の少年ハリー・ヘイズ君の手で植えられた。悲しい音色の消灯ラッパとともに、無名戦士の墓があるウェストミンスター寺院、トラファルガー広場、ホワイトホールの戦没者追悼施設セノタフ、学校、英軍基地などで2分間の黙祷が捧げられた。

陶磁器のポピーによるインスタレーション作品「流血の大地と紅の海」は陶芸家ポール・カミンズ氏と舞台デザイナーのトム・パイパー氏が制作した。カミンズ氏は数十人のスタッフとともに3日がかりでポピーを焼き上げたが、作業中に指を切り落としてしまった。8月からボランティア2万人がポピーをロンドン塔の堀に植えてきた。その1本1本が失われた若き生命の重さと犠牲の大きさを実感させる。雨露をはじき、陽の光に輝く姿は生命の躍動と歴史の無常を伝えてくる。

poppy「Blood swept lands and seas of red」2014

世界中から400万人が見学に訪れたため、保守党のキャメロン首相やボリス・ジョンソン・ロンドン市長は休戦記念日の11日を過ぎても作品の展示を続けるよう提案した。市民の反応は「第一次大戦が終わってから100年に当たる4年後に、もう一度展示を」「彼らが戦場に赴いた状態は永遠に続くものであってはならない」と様々だ。作者のカミンズ氏は民放ニュース番組に出演し、「犠牲になった若者たちは生きる機会を奪われた。展示も打ち切られることで機会を奪われた若者たちの無念に思いを寄せてほしい」と話した。

12日から予定通りポピーはボランティアの手によって取り除かれ、25ポンドで販売された。既に1本残さず売り切れ、売り上げはイラクやアフガンで負傷した兵士や家族を支援している慈善団体などに寄付される。

若い在英ドイツ人女性がBBCのラジオ番組で「英国にやってくるまで、休戦記念日の11日にこんなに大規模な追悼行事が行われているとは知らなかった。ドイツでも空襲で焼けた瓦礫の中から家族を救い出したり、敗戦でポーランドから追放されたりした第二次大戦の記憶は残っているが、意識的に戦争の歴史は忘れられている。戦争の歴史と言えば、ドイツではナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)なんです。とにかく国を再建し、前に進むことが最優先にされた」と語っていたのが印象的だった。ドイツでは東西を分断していたベルリンの壁崩壊から25年という記念日が盛大に祝われた。

 

今年は第一次大戦の開戦から100年というだけでなく、第二次大戦の雌雄を決したノルマンディー上陸作戦から70年、13年に及んだアフガニスタンでの戦闘任務が終了した節目の年だ。中国が米国と肩を並べる大国への階段を駆け上り、ロシアのプーチン大統領が引き起こしたウクライナ危機、シリアやイラクを混沌の淵に追いやるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の勃興で、地政学上のリスクが増大している。

日本と韓国、中国の間には領土問題や歴史問題が横たわる。戦争の記憶の仕方は、まず歴史上、起きた事実を確認することから始まる。不幸なことに東アジアは来年戦後70年を迎えるというのに、歴史認識を一致させる作業が難航し、いがみ合いが続いている。敗戦で日本側資料が焼却され、南京事件や従軍慰安婦問題で中国や韓国から示された被害者数を日本が否定する状態が続いているためだ。先の大戦で外地に散った日本人約240万人のうち約113万柱が帰還していない。自国の戦没者数を「約」という概数で表して恥じない日本では戦没者1人ひとりをオブジェで表現しようという発想は生まれてこない。88万8246本の真っ赤なポピーに、戦争が残した傷跡と自ら加害の歴史を記録しようとはしなかった代償の大きさを痛感する。

 

第51回 「ベビーP」事件― 歪められた真実

「ベビーP」事件― 歪められた真実

BBCのドキュメンタリー番組「ベビーP:語られなかったストーリー」を観て衝撃を覚えた。「ベビーP」と言ってもピンとこない方もおられると思うので事件を振り返っておこう。2007年8月、ロンドンの大学病院に運び込まれた1歳5カ月の男の子が死亡した。全身は傷だらけ、肋骨8本と脊椎を骨折、指と足の爪3本が剥がされ、折れた歯の1本が結腸の中から見つかった。耳も犬に噛みちぎられたように引き裂かれていた。

男の子の名前はピーター。最初は名前が伏せられ、頭文字を取って「ベビーP」と呼ばれた。翌年11月、母親と男友達ら3人がピーターちゃんを死なせたとして有罪判決を受けた。陪審制の英国では裁判の公正を守るため法廷侮辱罪が定められている。裁判所の命令に従って沈黙を守ってきたメディアが、判決と同時に洪水のような報道を始めた。事件のあったロンドン北部ハリンゲー区では、2000年にも、8歳の女の子の虐待死を防げなかった「ヴィクトリア・クリンビエ」事件が起きていた。

英国の児童福祉政策は、早期の保護か、それとも家族の役割重視かの間を揺れてきた。当時、労働党のブラウン政権は、親に問題がある場合は早期に予防介入して支援を行い、教育格差をなくすことで子供の潜在能力を開花させ、子供の貧困を解消する方針を打ち出していた。その一方で家族の役割にも重きを置いたため、強制的な親子分離より、まず家族や友人に子供を委託する努力を行うよう現場は指示されていた。これが不幸な事件の遠因となる。

 

ブロンド髪で青い目をしたピーターちゃんのあどけない写真が涙を誘った。ソーシャル・ワーカーや保健訪問員、虐待担当警察、小児科医が計78回も接触、故意の傷害が疑われる打撲症を確認し、虐待の疑いで2度も母親を逮捕していた。それなのに、どうして親子を分離してピーターちゃんの命を救えなかったのか。大衆紙やTVの残酷な「魔女狩り」が始まった。怒り狂った大 衆はスケープゴートを求めていた。ソーシャル・ワーカーとハリンゲー区児童サービス部長、死の2日前にピーターちゃんを診察していたサウジアラビア出身の女性小児科医らに非難が集中。「サン」紙は120万人の署名を首相官邸に持参した。

当時野党だった保守党のキャメロン首相は「壊れた社会の動かぬ証拠だ」とブラウン首相を攻め立てた。ボールズ児童・学校・家庭相は、2週間のうちに緊急の合同査察調査を終えて報告するよう命じた。その結果、担当のソーシャル・ワーカー、児童サービス部長、女性小児科医らが解雇、または事実上解雇された。

 

番組は関係者からインタビューし、抜け落ちた事実を丹念に拾っていく。教育水準局はハリンゲー区児童サービス部を「全般的に満足のいく水準」と評価していたが、合同査察調査では一転、児童保護システムに「深刻な欠陥」があったと糾弾。しかし、最初の評価に関する資料は誰も知らないうちに破棄されていた。警察も写真を撮影するなど児童虐待を立証する努力を怠っていた。

問題の女性小児科医は虐待を受けた子供を診察した経験も知識もなかった。ピーターちゃんを最後に診察したセント・アン病院では過去のカルテを調べることもできず、精密検査も行われなかった。小児科医は騒動に巻き込まれて精神に異常をきたし、家族を残してサウジに帰国。病院側から口止め料として12万ポンドが同僚の小児科医に提示されていたという。

ハリンゲー区の子供は5万3000人、うち700人以上が保護を必要としている。ピーターちゃん担当のソーシャル・ワーカーは通常より5割も多い18ケースを担当していた。殺害予告も受けた児童サービス部長は2年に及ぶ裁判闘争で、不当解雇の判決を勝ち取り、68万ポンドが支払われた。事件後、裁判所へのケア命令申請は08年度の6488件から11年度には1万件を超えた。今では家で転んで青あざを作っただけで強制的な親子分離が行われたという笑えない話もある。

メディアと政治による魔女狩りで結局、問題の所在は歪められた。ソーシャル・ワーカー不足は深刻さを増し、「ベビーP」事件以降も260人の子供が虐待で死亡、少なくとも26人のケースは当局に把握されていたという。

 

第50回 「チャイナ・アズ・ナンバーワン」に賭ける英国

「チャイナ・アズ・ナンバーワン」に賭ける英国

長身の元イングランド代表FW ピーター・クラウチが所属するイングランド・プレミア・リーグのストーク・シティFC。クラブは下位を低迷しているが、スポンサーのオンライン賭け屋Bet365が絶好調だ。この2年間で取引高を78%も増やし、ライバル業者のウィリアム・ヒルやラドブロークスのオンライン部門の、それぞれ3~7倍の規模にまで急成長している。

その秘密について、「ガーディアン」紙がスクープを放った。Bet365は世界最大のオンライン・ギャンブル市場の一つ、中国で荒稼ぎしているという。問題は中国国内で公認された賭博場はごくわずかで、それ以外の賭けごとはすべて法律で禁止されていることだ。このため、Bet365の客だった江西省の中国人4人が逮捕され、ブログでBet365を推奨した浙江省の中国人2人が投獄されたと報じられている。Bet365は摘発を逃れるため、中国国内に設置したウェブサイトのアドレスを頻繁に変更。英国国内ではオンライン・ギャンブルの一部は許可されており、法律の「抜け道」を利用して、海外からインターネットを使って中国人の射幸心(しゃこうしん)をあおっている。中国のギャンブル市場は年間、139億ポンド(約2兆4062億円)の勝利金を賭け屋にもたらし、うち30億ポンドはオンライン・ギャンブル、残りが賭け屋への取り次ぎ業者を経由しているという。ちなみにBet365は昨年、13億ポンドを稼ぎ出した。2007年から10年にかけ労働党に33万ポンドもの政治献金を行っている。

 

どれだけ購買力があるかでそれぞれの国の経済規模を計る購買力平価換算で今年、中国の国内総生産(GDP)が米国を上回ることが7日、国際通貨基金(IMF)の推計で明らかになった。英国が世界最大の経済大国の座を米国に明け渡したのは1872年。購買力平価は経済力の実態を表さないという指摘もあるが、主役交代は実に142年ぶりのことだ。「チャイナ・アズ・ナンバーワン」の恩恵に預かっているのは何もBet365だけではない。中国からあふれだしたマネーは英国を始め欧州全体を席巻しているのだ。

米国のシンクタンク、ヘリテージ財団の調査では2005年から14年6月にかけ中国が英国で行った投資や契約は236億ドル(約2兆5453億円)。欧州ではフランスが英国に次いで多く106億ドル。3番目がイタリアで69億ドル。ドイツは4番目で59億ドルだった。欧州連合(EU)全体でみると、10年には61億ユーロ(約8314億円)だった中国の直接投資残高は12年末には4倍以上の270億ユーロにまで膨らんでいる。もはや英国も欧州も中国マネーなしでは自国経済を押し上げることはできなくなっている。

花の都パリのシャンゼリゼ大通り。最高級ホテルが中国資本に買収され、昨年は約150万人の中国人観光客がフランスを訪れた。中国人観光客を狙った犯罪が後を絶たないため、フランスと中国の警察がパリを合同巡回という話が一時、取り沙汰された。英国では、ヒースロー空港、ロンドン名物のブラックキャブ、水道会社テムズ・ウォーター、再開発地域カナリ―・ワーフを所有する不動産会社などに次々と中国マネーが流れ込み、朝食用シリアル・メーカーやピザエクスプレスまで中国資本に買収された。

 

IMFは、欧州単一通貨ユーロ圏の経済は景気後退に逆戻りするリスクが40%もあると警鐘を鳴らす。欧州とは一いちい衣帯たいすい水の英国経済を預かるオズボーン財務相は欧州への依存度を減らすことが浮上のカギとばかりに、中国との関係強化にひた走る。切り札は中国の人民元取引だ。11年にはロンドン市場での人民元取引はほとんどなかったが、今では中国と香港を除くと人民元オフショア市場の3分の2はロンドンに集中する。2年前から英大手銀行が、昨年は中国の銀行 が中国政府の許可を受けて人民元建て社債の発行を始めた。

2000年代前半、英国では密入国の中国人がトラックのコンテナの中で大量に窒息死したり、海岸でザルガイを採取させられていた中国人の不法移民が満潮で大量溺死するなど悲しいニュースが相次いだ。あれから10年、中国からは密入国者ではなく、巨額マネーが流れ込む。今後10年で、世界の縮図であるロンドンがどんな変貌を遂げるのか想像しただけでも目眩を覚える。

 

第49回 一変した「政治の言葉」の伝わり方―スコットランド独立

一変した「政治の言葉」の伝わり方―スコットランド独立

スコットランド独立の是非を問う18日の住民投票は反対55%、賛成45%で否決された。夜行列車で投票日の早朝、エディンバラに着いた筆者は丸2日間、駅前や通り、投票所、列車や大衆酒場で住民たちの声に耳を傾け続けた。スコットランドの独立と英国の分断という事態は既すんでのところで回避されたが、住民投票という極めて民主的な手続きによって英国と民主主義の形が一夜にして変わったことを実感させられた。

独立に賛成する人たちは全身から情熱を発散させていた。これがナショナリズムの魔力なのか。それに対して英国に留まり、自治権を拡大しようとする人たちは住民投票という熱狂とは距離を置いていた。1707年にイングランド王国とスコットランド王国が合併されてから300年以上も経つというのに、スコットランド人の中には今なお民族の血と魂が熱くたぎっている。

 

紛争が拡大するイラクやシリアとは異なり、暴力や流血は一切ない。スコットランドと英国の未来について数え切れないほどの言葉が語られた。「ウェストミンスター・モデル」と呼ばれる英国の議会制民主主義は、選挙によって構成された議会が絶対的な主権を持つ。「国民主権」ではなく「議会主権」、聞こえは悪いが「民主独裁」の政治システムだ。議会は一応、二院制の形を残しているが、事実上は下院優越の一院制である。大政党が圧倒的に有利になる単純小選挙区が二大政党制を支え、チャーチルやサッチャーのような強い国家指導者を生み出してきた。しかし、最近の地方選や欧州議会選の傾向を見ると、英国は自由民主党、英国独立党(UKIP)も含めた4党時代に入っている。

そして今回の住民投票で、強い国家指導者に率いられるリーダー政治の時代が幕を閉じたことを目の当たりにした。スコットランドのテレビを通じて流れる保守党・キャメロン首相の演説は、まるで腹話術の人形がしゃべっているように空虚に響いた。ロンドン(中央政府)を起点にする首相の言葉はスコットランド人(地域政府)の心には届かない。

「独立反対キャンペーンは旧態依然としたトップダウン型。これに対して、スコットランド民族党(SNP)の独立賛成キャンペーンはソーシャル・メディアを通じて人から人へうまく伝わっていました」。こう分析するのは大手世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー会長だ。

 

イングランドの侵略と支配に抗してきたスコットランドの歴史に立ち、独立に未来を見出すSNP党首でスコットランド自治政府のサモンド首相は、有権者とのコミュニケーション能力に長けている。「出て行けるものなら出て行ってみろ。しかし、英国の通貨ポンドは渡さないぞ」という独立反対派の主張を逆手に取り、このままいけば独立という土壇場までキャメロン首相を追い詰めた。流れを変えたのは、保守、労働、自由民主3党首がスコットランドへの「自治権拡大」を誓約したことと、スコットランドで強い信頼を得ている労働党・ブラウン前首相の言葉だった。投票前夜、グラスゴーでのブラウン演説は英国の歴史に残るだろう。「ナショナリストたちに言ってやろう。これはお前たちの旗でも、文化でも、国でも、通りでもない。すべての人たちのものだ」。偏狭なナショナリズムに自らの意思で決別を告げることにこそ、21世紀を生きるスコットランドのアイデンティティーがあるという高邁な宣言だった。

住民投票の結果を受けて、労働党の年次党大会でミリバンド党首は「ワン・ネイション」ではなく「トゥゲザー」という言葉を50回以上も使った。

自治体国際化協会ロンドン事務所の平松哉人次長は、英国の地方分権の現状について「英国は伝統的にかなり中央集権的であると言えますが、ブレア政権時代から現在にかけて少しずつスコットランド政府、議会に権限が委譲されてきました」と語る。英国の形を変える究極の地方分権はまだこれからだが、住民投票に16歳以上の約85%が参加し、自分たちの未来を熱く語った意義は大きい。

ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の米国部門シチズンズ・フィナンシャル・グループは24日、ニューヨーク証券取引所に上場、株価は一時8.6%も上昇した。スコットランドの決断に世界は好感した。

 

第48回「ページ・スリー・ガール」の運命やいかに

「ページ・スリー・ガール」の運命やいかに

英国名物の一つに、大衆紙「サン」の表紙をめくって3ページ目に掲載されている女性モデルのトップレス写真がある。名付けて「ページ3(スリー)ガール」。7年前に新聞社のロンドン特派員としてロンドンに赴任した筆者は毎朝すべての新聞を隈なくチェックするのが日課で、「ページ3ガール」にはほぼ毎日お目にかかっていた。

地下鉄に乗っていると、シティで働くトレーダーが高級紙「フィナンシャル・タイムズ」の中に「サン」紙を挟んで、こっそりページ3ガールを鑑賞している姿を何回か目撃した。「サン」紙の姉妹紙である大衆日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(廃刊)の盗聴事件を機に新聞の慣行や倫理を検証した独立調査委員会(レヴソン委員会)で、「サン」紙の編集長は「ページ3ガールは無害な英国の制度で、もはや英国社会の一部だ」と公言した。

 

伝説的ロック・バンド、ビートルズのジョン・レノンと妻のオノ・ヨーコさんが1972年、「Woman is the N***** of the World(女は世界の奴隷か!)」を発表した。歌詞は女性の解放と自立がテーマになっており、タイトルが「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」を連想させる。ジョンは、女性の自立を訴えるヨーコさんの影響を強く受けた。

もともとページ3ガールは堅苦しくて保守的な英国の文化でも、伝統でもなかった。オーストラリア出身のメディア王、ルパート・ マードック氏が69年11月に買収した「サン」紙の発売部数を増やすため、ちょうど1年後に掲載したのが始まりだ。最初は空いた紙面の埋め草企画で、片方の乳房がのぞく控えめな構図だった。

マードック氏に買収される前まで、「サン」紙は深みのある長文の記事を掲載する硬派の新聞として知られていた。しかし、マードック氏がセックスとスキャンダルを中心に紙面展開し、ページ3ガールも両方の胸を丸出しするなど大胆になってきた。一部の地方自治体が公立図書館から「サン」紙を排除すると、「ペ○×の表面にできたニキビ野郎」と大げさに反発してみせ、ミニスカートのサン・ガールズに追いかけ回される同自治体の78歳になる老首長の写真を掲載する一大キャンペーンを張ったのだ。

第二次大戦で大英帝国は崩壊、長期の停滞期に入り、重苦しい空気が垂れこめていた英国社会は憂さ晴らしを求めていた。ページ3ガール効果で「サン」紙の販売部数はわずか1年で倍増し、250万部を超える。しかし、ドル箱企画になったページ3ガールにも曲がり角が訪れる。いまやTVのリアリティー番組ではカップルが箱の中に入って性行為を行い、インターネットではアダルト・ビデオの動画が氾濫。今年9月に入って、ページ3ガールは4日連続で紙面から姿を隠し、10日、マードック氏が「ページ3ガールは時代遅れだ。流行の服を着た方がもっと魅力的になるのでは? あなたの意見を聞かせてほしい」とツイートした。

 

ロンドン五輪が開かれた2年前の夏、ページ3ガールは一時、かなり後ろのページに移された。その出来事をきっかけに「ノーモア・ページ3」というソーシャル・メディア・キャンペーンを始めた女優のルーシー=アン・ホームズさんは英メディアに「『サン』紙のサイトを訪れるユニーク・ユーザーは月に3000万人。うちページ3を閲覧するのは140万人に過ぎない」と語り、マードック氏の変化を歓迎した。ホームズさんは11歳のとき、兄が買ってきた「サン」紙にショックを受ける。「豊満な乳房を見て、自分は足りないような気に襲われた」そうだ。

レイプ魔が犯行中に「ページ3ガール」を口にしたという報告もある。女性を性の対象として見下す文化を終わりにするためキャンペーンを始めるとホームズさんが宣言したとき、父親は「『サン』紙に人格破壊されるぞ」と大反対した。過去にページ3ガールを禁止する法律をつくろうとした労働党の女性下院議員が「興ざめ」「嫉妬」「肥満」とさんざん「サン」紙にたたかれたからだ。

12日付の紙面ではまだページ3ガールは健在だった。2年前の世論調査で、「サン」紙読者の61%が存続を求め、中止は24%。全体では存続が30%、中止が49%。マードック氏がいくら「時代遅れ」と感じても、「やめれば販売部数が下がる」と現場が判断しているうちは、ページ3ガールはなくならない。

 

第47回 スコットランド独立投票―ナショナリストが広げる溝

スコットランド独立投票―ナショナリストが広げる溝

スコットランド地方の独立を問う住民投票がいよいよ9月18日に迫ってきた。「独立」賛成票が過半数を占めれば、英国だけでなく、欧州に与える影響は計り知れない。独立を訴えるスコットランド民族党(SNP)党首、サモンド自治政府首相とスコットランド出身の労働党・ダーリング前財務相が8月25日、2度目のTV討論で激突。サモンド氏が直後の世論調査で71%の支持を得て圧勝するという衝撃的な結果が出た。

グローバリゼーションの反動で、民族的な価値を強調する政党や政治家の求心力が高まるのは世界に共通する傾向だ。それを差し引いても、サモンド氏は侮れない政治家であることを今回のTV討論で改めて証明した。スコットランド住民の「負託」という言葉を何度も使い、独立にストップをかけるため宿敵の保守党と共闘する労働党を「スコットランドの子供たちを貧困に追いやる保守党と手を結んだ」と攻撃。「スコットランドの国民医療制度(NHS)を維持するためには、自分たちで選んだ政府が必要だ」と呼び掛けた。

8月5日の第1回TV討論では、独立後も英国の通貨ポンドを使用するというサモンド氏をダーリング氏が「そんなことをしたら、スコットランドは財政主権を失い、英国に予算の決定権を握られる」とやり込め、56%対44%で勝利を収めた。これに対し、サモンド氏は2回目の論戦で、英国がポンドの使用を認めなかった場合、①スコットランドの負債1430億ポンドを引き受けない、②独自通貨を持つ、③ポンドとの交換レートを固定する、という代替策を示して、逆転に成功した。

しかし、現実問題としてスコットランド住民が独立に賛成かといえば、話は別である。住民投票での賛否を問う世論調査では反対57~52%、賛成48~43%で、反対が多数を占める。しかし、住民投票でよもや独立派が過半数を占めることはあるまいと高を括るキャメロン首相を経験豊富なオドネル元内閣府長官(官僚トップ)は「スコットランドにある原子力潜水艦の基地をどうするかなど、賛成派が勝つという万が一の場合に対する備えが必要だ」とたしなめる。

 

今年、スコットランドは1314年にイングランド軍を破った「バノックバーンの戦い」から700周年を迎え、民族意識が高揚している。スコットランド独立のために戦ったウィリアム・ウォレスの生涯を描いた米映画「ブレイブハート」を観ても分かるように、スコットランドのアイデンティティーはイングランドの侵略と支配に抵抗することを源泉としている。「独立」という言葉は今なおスコットランド魂を揺さぶるのだ。

しかし、ソロバン勘定も働く。スコットランドが独立したら英国は32%の土地と8%の人口を失う。2010年総選挙の結果からスコットランドを取り除くと保守党が単独過半数を獲得する。平均寿命は男性が0.4歳、女性が0.3歳延びる。

現在、1人当たりの税負担はスコットランド1万ポンド、英国全体では9200ポンド。1人当たりの歳出はスコットランド1 万2300ポンド、英国全体1万1000ポンド。独立すればスコットランドは1人当たり1000ポンド得をするという試算もあれば、英国内に残留した方が1400ポンド得という別の試算もある。

 

スコットランドの独立は、カトリック系住民が英国からの分離とアイルランドへの併合を求める北アイルランド地方へ波及し、英国を四分五裂の状態に陥れる恐れがある。このため、英国統治の存続を求める北アイルランドのオレンジ結社が住民投票前にスコットランドで独立反対のデモ行進を行う予定だ。

狡猾なナショナリスト、サモンド氏の戦略は、スコットランドだけでなく、イングランド地方の民族意識もあおる反作用を引き起こした。カーディフ大学がイングランドの3695人にアンケートしたところ、スコットランドが独立した場合、欧州連合EU)や北大西洋条約機構(NATO)加盟に「反対する」が36%で、「賛成する」の26%を上回った。英国に留まった場合でも、スコットランド選出の下院議員がイングランドの事柄に投票できる権限を取り上げるという意見が62%に上る。住民投票はいずれにせよ、スコットランドとイングランドの間に横たわる複雑な感情を呼び覚ましてしまった。

 
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