ニュースダイジェストの制作業務
Fri, 03 April 2026

LISTING イベント情報

第16回 分裂する保守 ― 地方選でUKIP が躍進

第16回 分裂する保守 ― 地方選でUKIPが躍進

「来年の欧州議会選では、英国独立党(UKIP)が英国で第一党になるのはほぼ間違いない。独立党が30%前後、労働党が25%程度、政権与党の保守党は20%を下回るだろう。それでも独立党が次の総選挙で議席を得るのは難しい」

2日に行われた統一地方選の結果をどう見るか、大手世論調査会社YouGov会長ピーター・ケルナー氏に尋ねると、こんな答えが返ってきた。労働党支持者のケルナー氏は日曜紙「サンデー・タイムズ」などで30年以上、政治をウォッチしてきたベテラン・ジャーナリスト。奥さんは欧州連合(EU)のキャサリン・アシュトン外交安全保障上級代表だ。

地方選で保守党は335議席、自由民主党が124議席減らす惨敗を喫した。その一方で、独立党は8議席から147議席に大躍進。「道化師」呼ばわりされた独立党のファラージ党首は「我々は英国の政治状況を劇的に変える存在になった」と高笑いした。得票率で見ると、独立党は23%。労働党は29%(前回39%)、保守党は25%(同33%)。労働党のミリバンド党首は、保守党と自由民主党の連立政権に対する不満をすくい上げるのに失敗した。

比例代表制の欧州議会選と異なり、英国の総選挙は伝統的な単純小選挙区制をとる。各選挙区の最多得票者しか当選できないため、独立党がいくら得票を増やしても当選者を出すのは難しい。しかし、独立党が保守党の票を奪うことで、労働党が漁夫の利を得て「ミリバンド首相」が誕生する可能性が強まっている。

 

保守党内ではナイジェル・ローソン元財務相ら重鎮がキャメロン首相に「EU脱退」を訴えた。同首相は2017年にEU残留の是非を問う国民投票の実施を表明しているが、15年に予定される総選挙に向け、前倒し実施を求める動きも出始めた。保守党の草の根支持団体「コンサーバティブホーム」の世論調査では、34%が「総選挙前に独立党と選挙協力を結ぶべきだ」と回答するなど、同党はパニック状態。そこに、ファラージ党首が「欧州議会選後にキャメロン首相が退陣して、新しい保守党党首が選ばれれば選挙協力は可能だ」と揺さぶりをかける。

もともと独立党が誕生したのは、欧州中央銀行(ECB)や単一通貨の創設を定めた1991年のマーストリヒト条約がきっかけだった。92年、英国はヘッジファンドのジョージ・ソロス氏に自国通貨ポンドを売り浴びせられ、ユーロ準備段階の欧州為替相場メカニズム(ERM)からの離脱を余儀なくさせられる。93年、メージャー政権は単一通貨への不参加を確約した上で、英議会での条約批准に臨んだが、歴史的な大量造反にあった。こうした混乱から発足した独立党の党是「EU脱退」は筋金入りである。ファラージ党首も元保守党員だ。

 

今回、地方選で独立党が大躍進した理由の一つに、来年1月からEU加盟国のルーマニアとブルガリアの出稼ぎ労働者が自由に英国で働けるようになることへの有権者の警戒心がある。ユーロ危機で欧州統合の幻想が急速にしぼみ、景気低迷と失業者の増加により欧州全体に排他的な空気が垂れ込める。それに加え、イタリア総選挙でお笑い芸人出身のブロガー、ベッペ・グリッロ氏率いる「五つ星運動」が躍進したのと同じように、独立党の台頭は、欧州の民意を反映しないEUに有権者がうんざりしていることをも物語る。民主主義とは、自分たちの手で統治者を選ぶシステムだ。議会は税金の取り方と使い方を決める権限を国民から負託されている。しかし、現実には自分たちが選んでいない機関が、各国の財政に口を出し、国境管理まで差配している。

EUの権限が拡大するにつれ、自分たちの1票の価値はどんどん軽くなる。国家と国民の命運を自分たちが望んでもいない機関に委ねることはできない。そんな問題意識が根底に横たわっているのだろう。

英国の貿易の5割強がEU向けだ。新興国が台頭しても、英国とEUの一衣帯水の関係に変わりはない。前出のケルナー氏は「キャメロン首相は本心ではEU残留を望んでおり、国民投票は党内不満分子のガス抜き」とみる。しかし、欧州議会選で独立党が英国第一党に踊り出れば、国民投票は「ガス抜き」どころではなくなり、英国とEUの「時限爆弾」になる恐れがある。

 

第15回 ドラキュラがやって来る

第15回 ドラキュラがやって来る

「ドラキュラが英国人の娘ミナとルーシーの生き血を吸ったように、ルーマニア移民が英国に押し寄せて仕事や社会保障を食い尽くす」。ネット上で、ルーマニアとブルガリアに向けられたいわれなき誹謗や中傷が飛び交っている。

両国は2007年に欧州連合(EU)に加盟した。両国出身者はこれまで、英国内で働くのに労働許可証が必要だったが、最長7年の経過期間が終わり、14年1月から就労規制が取り払われる。ルーマニア人もブルガリア人もほかのEU加盟国出身者と同様、英国で自由に働けるようになる。これを受けて英国では、「ルーマニア人やブルガリア人が母国より手厚い社会保障を目当てに英国にやって来る。社会保障ツーリズムだ」「移民に仕事が奪われる」との警戒感が強まっている。5月の統一地方選を前に、英国独立党(UKIP)が党勢拡大のためこの問題を利用していることも論争に拍車をかける。

 

ポーランドやチェコなど10カ国がEUに加盟した04年当時、労働党のブレア政権は「移民数は年5000~1万3000人程度」と予測。だが01年に5万8000人だったイングランド・ウェールズ両地方のポーランド移民は10年後、57万9000人に膨れ上がった。

ポーランド移民はまじめに働くので重宝されるが、仕事にあぶれた英国人労働者には「招かざる客」である。出稼ぎ移民にNHS(国民医療制度)や社会保障をタダ乗りされるとの懸念もくすぶる。

労働党政権下で20万人以上に膨らんだ年間の移民の純増分を10万人未満に抑える方針を打ち出した保守党のキャメロン政権は、慎重にルーマニア、ブルガリア移民の増加予測を避ける一方で、居住権や社会保障申請時の審査を厳しくする考えを示した。ロンドンにあるウェストミンスター・シティ区のロー首長は4月24日、下院行政特別委員会で「ルーマニア移民などの流入は昨夏のロンドン五輪前から始まっている」と証言、「マーブル・アーチでの野宿者や小さな犯罪が増えている」と関連性を示唆した。

「移動の自由」を認めたEU基本原則にもホンネとタテマエがある。欧州26カ国の国民にパスポートなしでの移動を認めた「シェンゲン協定」への加盟を求めるルーマニアとブルガリアに対して、ドイツのフリードリヒ内相は3月、公然と拒否権行使を振りかざし、オランダとフィンランドが追従した。シェンゲン協定への加盟は全会一致が条件なので、ドイツなどの反対で協議は今年末に先送りされた。ルーマニアとブルガリアの加盟は過去2年間、棚上げされたままだ。フリードリヒ内相は「腐敗、組織犯罪の取り締まり、司法制度などの面で両国は基準を満たしていない」と指摘する。

 

ロンドンで開かれたある会合で偶然、ディミトロフ駐英ブルガリア大使と隣り合わせた。最近の騒動について尋ねてみると、大使は「EU域内で自由に働けるという権利と社会保障の不正請求を一緒くたにした議論にはとても同意できない」と静かな口調で話した。「英国ではほかのEU加盟国の国民は自由に働いている。英国で既に働いているブルガリア人は若い独身者がほとんどだ。彼らは医療や社会保障が必要なのではなく、働くために英国にやって来ている」。シェンゲン協定をめぐる議論について、大使はドイツを名指しすることは避けたが、「ブルガリアは既に基準を満たしている。しかし、少なくとも1カ国が国内の政治的な理由で認めようとしない」と語気を強めた。

英国で暮らすルーマニア移民は8万人、ブルガリア移民は2万6000人だ。就労規制の解除で、両国の移民は英国よりも言語体系が良く似ているイタリアやスペインに流入するとみられている。04年と同じように移民が英国で爆発的に増えるという根拠は乏しいが、英国経済の冷え込みが不安感を増幅させている。

ロマの問題が背後に隠れていると僕は思う。かつて「ジプシー」と呼ばれたロマはインド北西部から欧州などに移動した民族で、世界各地に1000万人超が暮らしている。ロマが多いルーマニアとブルガリアがEUに加盟した後、ほかの加盟国のロマ人口が急増して社会問題になっている。大使は「ロマの問題は関係ない」と否定したが、果たして本当だろうか。移動の自由と人権を旗印に掲げるEUの理念は既に自壊を始めている。

 

第14回 サムライ・フットボーラーの挑戦

第14回 サムライ・フットボーラーの挑戦

終盤を迎えたサッカーのイングランド・プレミア・リーグ。吉田麻也選手はサウサンプトンのセンターバックとして活躍、ポチェッティーノ監督の信頼も厚い。マンチェスター・ユナイテッド(マンU)の香川真司選手も今季、ハットトリックを決めるなど、世界最高峰リーグのプレミアで「サムライ」の活躍が目立つ。

ボールさばきのうまさ、勤勉さなど日本選手の長所が評価される一方で、相手を背負ったプレー、ボールを持っていないときの動き(オフ・ザ・ボール)、戦術理解、前線からの守備など、世界との差も浮き彫りになっている。

2007年にロンドン特派員として赴任するまで、実は4年間、東京で小学生サッカーのコーチをしていた。子供に交じって練習するうち、リフティングが500回以上連続でできるようになった。日本にとってワールド・カップ(W杯)はひと昔前まで見果てぬ夢だった。W杯出場が当たり前になったのは、ひとえに日本サッカー協会(JFA)が少年サッカーの普及に努めたおかげである。

「日本選手は世界に比べてボールさばきが下手」というイメージを強く持っている我々の世代には「小学生のころはとにかくパスよりドリブル練習」という信仰がある。リフティングやドリブルのテクニックがサッカーの基礎をつくると思い込んできた。そう、ブラジルの天才ロナウジーニョ、マンUの香川選手のようなプレーヤーが子供たち、そして子供に夢を託すコーチのあこがれだったのだ。しかし、サッカーの本場・英国にやってきて、「サッカー」と「フットボール」の違いに気付き始めた。

 

世界に通用するサムライ・フットボーラーを育てようと、日系チームとしては初めてイングランド・リーグに参戦するチームがあると聞いて、練習場のノース・アクトン・プレイング・フィールドを訪れた。3月下旬にスタートした「フットボール・サムライ・アカデミー」(www.footsamurai.com/ja) だ。チェルシー、マンU、バルセロナなどカラフルなユニフォームを身に着けたチビっ子サムライが、芝生の上で元気に走り回っていた。転んでも鼻血を出しても笑顔満開。まだ、肌寒かったものの、春の日差しが心地良い。

U8-12(7~11歳)の部では、イングランド・サッカー協会(FA)レベル2のクラブコーチ・ライセンスを持つ宮原継享(ひでゆき)監督(32)が攻撃陣4人対守備陣2人(4対2)のボール回し、2対2のシュート練習を指導していた。ボールさばきは正直言って、体育館のフロアのような運動場や人工芝で練習している日本人の子供たちの方がはるかにうまいと思った。しかし、目を見張らされたのが4対2、2対2の練習、ミニゲームでの動きである。

U8-12で、集中力、敵の動きの把握、味方との連携が求められる4対2や2対2の練習は難しい。それが宮原監督の分かりやすい指導を受けながら、子供たちはみるみるうちに自分なりの戦術を編み出し、状況を打開していくのだ。ロンドンでフットボールを覚えた子供たちはクレバーで頼もしく見えた。でこぼこした芝の上では、曲芸のようなドリブルやフェイントより、相手の逆を取る動き、裏に出す素早いパスが生きてくる。「技」よりも、判断や動き出しの「速さ」が決め手なのだ。そのためには子供たちが主役の練習を徹底し、ほめて自主性を伸ばすことが大切になってくる。

 

浦和レッズユースで主将を務め、日本クラブユース選手権で準優勝2回を経験した大場康弘ヘッドコーチ(27)は「オフ・ザ・ボールの動きで、ボールを持ったときにできるプレーの8割が決まる」と、子供のころから戦術理解を深める大切さを強調する。

日本で問題になっている体罰についてどう思うか質問してみた。宮原監督は「英国では許されない行為です。世界の子供はたたかれなくても成長しているのに、どうして日本ではたたかれなくては育たないのか」と疑問を投げ掛ける。

チビっ子サムライは9月から、500チーム以上が参加する英国最大級のハロー・ユース・リーグに参戦する。「ヒデ・コーチ(宮原監督)のサッカーは熱いと聞いて参加しました」と三村虎太郎君(10)。青木雅樹君(10)は「リーグ優勝を目指します」と息を弾ませた。

 

第13回 プーチン氏の政敵の末路 - ボリス・ベレゾフスキー氏の死亡

第13回 プーチン氏の政敵の末路 -
ボリス・ベレゾフスキー氏の死亡

プーチン露大統領と敵対し、英国に政治亡命した後もロシア政府の批判を続けたロシアの政商ボリス・ベレゾフスキー氏(67)が3月23日、ロンドン郊外の自宅で死亡しているのが見つかった。地元警察は「他殺の線はない」とみている。借金を苦に首を吊って自殺した可能性が高い。ただ、同氏が25日にイスラエルのホテルに予約を入れていたことから、友人らは「絞殺された疑いが残る」と主張。死因審問で死に至る経過が徹底的に検証される見通しだ。

ベレゾフスキー氏は以前、人気サッカー・クラブ、チェルシーのオーナーとして知られるロシアの大富豪アブラモビッチ氏に石油会社の持ち分30億ポンド(約4270億円)の返還を求めた訴訟で、判事から「もともと信用に値しない証人」と見放されて完敗している。グルジア人大富豪の未亡人やロシアのアルミニウム投資家と裁判で争ったこともあるが、いずれも和解したり、訴えを取り下げたりした。賠償金や弁護士報酬などは合計で1億4000万ポンドともささやかれる。そして最近、ベレゾフスキー氏は、所有する複数の豪邸を売り払い、米美術家アンディ・ウォーホルの版画「赤いレーニン」をオークションにかけるほど、資金繰りに窮していた。

 

車のディーラーだったベレゾフスキー氏は、ソ連崩壊に乗じて民営化された大手石油会社や国際航空会社アエロフロートを始め、銀行、メディアを次々と買収したオリガルヒと呼ばれる新興財閥の一人だ。

エリツィン露大統領の懐に入り込んだベレゾフスキー氏は後継者のプーチン氏にも取り入ろうとしたが、2000年5月に大統領に就任したプーチン氏は、国富をかすめたオリガルヒを一掃し始める。逮捕を恐れたベレゾフスキー氏は英国に亡命。チェチェン軍事介入をめぐるプーチン氏の闇を暴こうとするベレゾフスキー氏は、英国とロシアの間の抜けないトゲになった。歴代駐モスクワ英国大使の中には、「ベレゾフスキーは招かざる客だ」と吐き捨てる人もいる。

2004~08年に駐モスクワ英国大使を務め、ロシアの親プーチン派の青少年組織ナーシに執拗な嫌がらせを受けたアンソニー・ブレントン氏に電話取材をした。

元大使は「ベレゾフスキー氏は巨額の富を失い、精神的に参っていた」と話した。ベレゾフスキー氏が許しを乞う手紙を政敵プーチン氏に送ったというロシア当局の発表については、「亡命者は祖国に戻りたいと望むものだ。本当かもしれない」と分析した。そして、プーチン氏の反発を覚悟の上で、ロシアでは公正な裁判を受けられないベレゾフスキー氏を受け入れた英国の司法制度を誇りに思うと、ブレントン氏は主張した。ベレゾフスキー氏も英国に定着する「司法の独立」に敬意を評したが、最後はその司法から三行半を突き付けられたわけだ。

 

ベレゾフスキー氏は、チェチェン軍事介入の闇を知るロシア連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・リトビネンコ元幹部を支援し、公然とプーチン批判を展開。リトビネンコ氏は06年、ロンドンで致死性の放射性物質ポロニウム210を盛られて毒殺されたため、英露関係は冷え切った。今回、巨大スポンサーを失った反プーチン派の勢いが衰えるのは必至だ。トゲがなくなれば英露関係は正常化する。北海油田が底をつきつつある英国にとって、ロシアの石油の重要性は格段に増しているし、ロンドンに拠点を置くロシア人ビジネスマンは貿易や投資の拡大を望んでいる。英国にとって、政商の死は嘆くに値しないばかりか、逆に朗報なのかもしれない。

リトビネンコ氏の未亡人マリーナさんは、ベレゾフスキー氏から最近、「リトビネンコ氏の死因を究明する審問の弁護士費用を支援することができなくなった」と告げられたと報じられた。マリーナさんに連絡を取ってみると、「悲しくて今は何も答えられない」とだけ話してくれた。この春に本格的に始まるリトビネンコ氏の死因審問で「誰が毒殺事件の背後にいたのか明るみに出したい」と意気込んでいただけに、マリーナさんの落胆は察するに余りある。

これまで暗殺の魔手から幾度となく逃れてきたベレゾフスキー氏の没落と死は、リトビネンコ氏の死因審問の行方にも大きな影を落とす。クレムリンでプーチン氏がほくそ笑んでいるに違いない。

 

第12回 超エリート夫婦の愛憎劇

第12回 超エリート夫婦の愛憎劇

スピード違反による免許停止を免れるため妻が替え玉になったとして、司法妨害罪に問われた前エネルギー・気候変動相クリス・ヒューン被告(58)と元妻の著名エコノミスト、ヴィッキー・プライス被告(60)に対し、刑事法院は11日、禁錮8月の実刑判決を言い渡した。

政治にスキャンダルはつきものというものの、BBCドラマ「イーストエンダーズ」もビックリの愛憎劇には滅多にお目にかかれない。日本で言うなら、プライス被告はロッキード事件で田中角栄元首相に不利な証言を行い、「ハチの一刺し」の名言で有名になった榎本三恵子さんといったところか。

 

簡単に事件をおさらいしておこう。

自由民主党(自民党)の欧州議会議員だったヒューン被告は2003年3月、スタンステッド空港から愛車のBMWで家路を急いでいた。しばらくしてスピード違反の切符が自宅に届いた。ヒューン被告の減点は既に計9点に達しており、スピード違反の減点3を加えると6カ月の免許停止となる。ヒューン被告はプライス被告に違反切符を渡し、運転していたのはプライス被告ということにして、減点を肩代わりしてもらった。

ここまでなら恋人や夫婦同士では「よくある話」で済んでいたのかもしれない。間違いは07年12月の自民党党首選から始まった。本命だったヒューン被告はクレッグ副首相と接戦を繰り広げたが、郵便投票の遅配が原因で敗れ去った。ヒューン被告はその直後、党首選でメディア・アドバイザーを務めた女性と不倫関係に落ちていく。

10年の総選挙で自民党は保守党と連立を組み、ヒューン被告は閣僚に抜擢された。クレッグ副首相の不人気もあって、ヒューン被告は次期自民党党首の最右翼に挙げられるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。そんなヒューン被告の不倫をタブロイド紙が見逃すわけがない。不倫は大々的に報じられたが、英国では政治家の女性スキャンダルは国家機密漏洩など国益に絡まない限り、尾を引かない。結局、ヒューン被告は26年連れ添ったプライス被告と3人の子供と袂を分かち、愛人のもとに走った。ヒューン被告はタブロイド紙の暴露後、わずか20分でプライス被告との別居を発表する声明を書き上げたという。政府のトップ・エコノミストを務め、違反切符の肩代わりもしてくれる従順な妻が自分のキャリアを棒に振ってまで反撃してくるとは夢にも思わなかったに違いない。

 

ヒューン被告の元妻とはつゆ知らず、僕は昨年12月、プライス被告に取材を申し込んだ。王立国際問題研究所でギリシャ経済に関するディスカッションが行われた際、パネラーの一人がプライス被告だったのである。ギリシャ生まれのプライス被告は新著「GREEKONOMICS」を出版したばかりで、本に署名までしてもらった。同被告は「取材に応じるから連絡して」と笑顔を見せた。その後、テレビでプライス被告の顔が大写しされるたび、世の中には良く似た人がいるものだと思っていた。あれほど合理的にギリシャ経済とユーロ圏の構造的な問題を分析できる人が、近松門左衛門の世話物のような愛憎劇を演じていようとは……。

プライス被告は11年5月、スピード違反の替え玉問題をメディアに暴露する。翌年2月、両被告は司法妨害罪で起訴され、ヒューン被告は閣僚を辞任。ここまではプライス被告の計算通りに復讐劇は進んでいるように見えた。ヒューン被告を刑務所の塀の中に突き落とす。自分は夫に替え玉を強要されたかわいそうな元妻を演じて、無罪放免になる。しかし法廷劇が終幕に近づいたとき、思わぬハプニングが起きる。

陪審員から「合理的な疑いってどんな意味?」などと尋ねられた裁判官は「こんなことは初めて」とあきれ果て、陪審員全員を入れ替えた。プライス被告にメディア工作を助言していた隣人の裁判官がその事実を隠して警察に証言を行ったとして逮捕された。

やり直し裁判で両被告は有罪、2人仲良く刑務所に入った。プライス被告の兄弟は「怒りに狂って冷静な判断力を失った。恥辱が復讐の炎を燃え上がらせた」と悔やんだ。一方、ヒューン被告は刑務所でいじめられていると報じられた。初めて手錠をかけられ、全裸で身体検査を受けた超エリートの元夫婦は今、塀の中で人生最悪の夜を過ごしている。

 

第11回 GDP比250%の政府債務を2度も返した英国

第11回 GDP比250%の政府債務を2度も返した英国

米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが先月22日、英国債の格付けを最上級の「Aaa」から「Aa1」に1段階引き下げた。英国経済の低迷が長引き、財政再建の難航が予想されるのがその理由だ。

米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)と欧米系フィッチ・レーティングスが英国債を格下げの恐れがある「ネガティブ(弱含み)」としていたが、格下げに踏み切ったのはムーディーズが初めて。米国やフランスは既に「最上級」を失っており、先進国(G7)で3大格付け会社の「最上級」を保ち続けているのは、ドイツとカナダだけになった。

政府債務残高が国内総生産(GDP)比で230%に達している日本は1998年に「最上級」から転落しており、以降、上から4番目か5番目の格付けを行き来している。しかし、長期国債金利は日本が最も低く、米国やフランスの場合も「最上級」を失った後、逆に長期金利は下がっている。英国の「最上級」喪失が国債市場に与える影響は限定的で、インフレや英通貨ポンド安のリスクの方が大きいとみられている。

キャメロン政権の大黒柱であるオズボーン財務相は「最上級死守」を公約に財政再建を進めてきた。しかし、政府債務は2016年まで膨らみ続け、GDP比で96%に達するとムーディーズは警鐘を鳴らす。

 

過去2年間、英国経済の成長率は通算でゼロに近く、オズボーン氏の財政緊縮策が内需を弱めたと批判されている。このため、氏は「サン」紙上で「政府債務の問題に取り組まなければ金利は上昇し、住宅の差し押さえや倒産が起きる。疑うのなら、深刻な不況に苦しむ欧州の国々を見ればいい」と主張、財政再建の手綱は決して緩めないと宣言した。

ナポレオン戦争と第二次大戦の後、英国はGDP比でそれぞれ250%前後の政府債務を抱えた。前者は産業革命と植民地拡大による経済成長で解消し、後者は激しい通貨切り下げとインフレ、倹約で何とか乗り切った。

第二次大戦後の英国の財政再建がどれほど苦しかったか、英国在住の森嶋瑶子さん(83)に尋ねてみた。瑶子さんはノーベル経済学賞候補だった故森嶋通夫さんの未亡人で、現在、文筆家としても活動されている。2人は1956年、大阪商船の貨客船で45日かけて英国にやって来た。「夫は米ロックフェラー財団から奨学金をいただきました。でも面接で話した英語は『ダイナミック・エコノミクス』という自分の専攻名だけ。外貨の持ち出しが制限され、1ポンドが1000円の時代でした」。

現在の為替レートは1ポンド、140円弱。戦後、米国から食料品や医療品などララ物資の支援を受けた日本では「戦勝国は豊か」というイメージが強かった。しかし、瑶子さんが目にした戦勝国・英国は、敗戦国・日本と同じくらい困窮していた。

使い古しのカーテンで衣服を作り、英国人の大学教授夫人もいつも同じオーバーコートを着て、擦り切れたハンドバッグを持ち歩いていた。セントラル・ヒーティングはなく、野菜は日本の方がまだ豊富だった。「英国の食事はホリブル(ひどい)と聞いていましたが、本当にホリブルでした」と瑶子さんは言う。インフレもひどく、1975年に年率25%に達した。翌年、英政府は国際通貨基金(IMF)に支援を要請する。

ブレア元首相の登場後、英国は金融資本主義に悪酔いし、倹約の美徳は廃れてしまった。それでも第二次大戦で米国から借りたオカネを2006年までかけて完済した。GDP比250%に比べれば、近い将来直面する同96%の政府債務は、英国にとって返済不能ではないのかもしれない。

 

片や日本は終戦直後、GDP比200%超の政府債務をハイパーインフレで帳消しにした。現在の政府債務はそれを上回る同230%。安倍晋三首相や麻生太郎財務相はいまだに財政再建の道筋を示していない。

瑶子さんは「英国の政治家には哲学がある。有権者も国民医療制度(NHS)を守るためなら、増税もやむなしと考えている。それに比べ、日本の国民意識はまだ成熟していない」とため息をついた。

日本の財政再建には通貨切り下げ、インフレ、経済成長の組み合わせが必要だ。しかし、それに加えて、最も大切な財政再建の気構えを欠いているように見える。

 

第10回 馬肉スキャンダルの教訓

第10回 馬肉スキャンダルの教訓

旧東欧出身の知人が「スーパーで売っているミンチ(ひき肉)は食べない。肉のかたまりを自宅でミンチにしている」と話しているのを聞いて、大手スーパー「テスコ」で買ったひき肉で作った餃子をホーム・パーティーでふるまうのをやめたが、出さなくて良かったと胸をなで下している。

1月中旬、英国やアイルランドのスーパーで馬肉の混じった「ビーフ」バーガーが見つかったのをきっかけに、馬肉入りミンチが「ビーフ」ラザニア、ケバブ、スパゲティー・ボロネーズにも使われていたことが分かり、馬肉スキャンダルは欧州全体に広がった。

馬肉料理はヘルシーで精力がつくため、日本でも人気がある。欧州大陸では馬肉を食べる国が多いが、英国とアイルランドは全然ダメ。その理由は、第一次大戦でフランスに送られた軍馬と人間の物語を描いた米映画「ウォー・ホース(戦火の馬)」をご覧になればご理解いただけるだろう。英国人にとって馬は人間と心を通わせることができる動物で、粗食に耐え、戦場でも、荷物運搬にも役に立つ。英国人は犬や猫を食べないように馬も食べない。英国人の馬肉アレルギーは日本人にとって知能が高いクジラは殺してはダメという反捕鯨の論理に一脈通じるところがある。しかし、今回は馬肉を「牛肉」と偽って売っていたことから国際犯罪組織の関与が疑われている。

痛風や関節炎の痛みを抑える動物用医薬品フェニルブタゾンが馬に投与されていた疑いも残る。フェニルブタゾンは人間の血液疾患や貧血の原因となるため、騒動は馬肉を食べない英国だけでなく、欧州を揺るがす大スキャンダルに発展した。

 

その流通経路は複雑怪奇だ。馬肉はルーマニアの食肉処理場からフランスに出荷され、ルクセンブルク、アイルランドなどを経て英国で販売されていた。注文ルートはフランスからルクセンブルク、そしてまたフランスに戻り、キプロス、オランダを経てルーマニアに発注されていた。

最初に疑いの目が向けられたルーマニアのポンタ首相は「疑われている食肉処理場は欧州の基準に違反していなかった」と疑惑を否定し、「ルーマニアを悪者と決めつけるのは断じて受け入れられない」と不快感をあらわにした。欧州懐疑派の保守系大衆紙「デーリー・メール」紙は、ルーマニアで馬車の通行が禁止されて馬が余ったため、馬肉の輸出が増えたと面白おかしく書き立てている。当の食肉処理場は「馬肉を馬肉と言って販売した」と説明した。

次いでオランダの食肉取引業者が昨年1月の判決で、南米産馬肉をオランダ産牛肉として売り、書類を偽造していたと認定されていたことが発覚した。イスラム法の手続きにのっとって屠殺された牛肉だと偽る悪質さだったが、この業者も疑惑を否定している。

英警察は国内の食肉処理場と食肉工場を捜索し、3人を逮捕して取り調べを進めている。誰が本当のことを言っているのか、犯人当てゲームの様相を示している。

 

英国のパターソン環境・食糧・農村問題相は馬肉スキャンダルの背景には国際的な犯罪ネットワークがかかわっているとの見方を示し、キャメロン首相は「絶対に許容できない」と食品基準庁に調査を指示した。

フランスのオランド大統領はフランス国民に対し、国産の肉だけ食べるよう呼び掛け、欧州連合(EU)は3月1日から食肉のDNA(遺伝子)検査やフェニルブタゾンの含有をチェックすることを決めた。

しかし、食に詳しい英専門家は、品質より安さを追求してきた当然の結末と手厳しい。食品基準庁によると、牛肉の割合が最低62%、「低価格」商品になると最低47%で「ビーフバーガー」と分類される。大手スーパーで低価格ビーフバーガーの売れ行きは上々だった。供給側も消費者も安さに釣られ、食べているものの中に何が含まれているのか、全く気にしてこなかった。

日本のように電子タグや原産地表示を義務付ければ、今回のようなスキャンダルは防げるのだが、食肉価格はハネ上がる。それともスーパーではなく、昔ながらの肉屋で肉のかたまりを買って自分でミンチにするか、もしくはミンチは食べないようにするか。最後は食にどこまでこだわるかの問題だろう。それにしても先日、サッカー場近くで食べたビーフバーガーにも馬肉が混じっていたのだろうか。

 

第9回 アルジェリア人質事件 氏名公表の是非

第9回 アルジェリア人質事件 氏名公表の是非

プラント建設大手「日揮」の日本人関係者10人が犠牲になったアルジェリアでの人質事件は、北アフリカと南アフリカが不安定化し、国際テロ組織アルカイダ系組織が勢力を拡大している現実を浮き彫りにした。

僕は昨年6月末まで約28年間、産経新聞でお世話になったが、これだけの大事件で犠牲者の氏名が公表されないという事態に出くわしたのは初めてだった。ネットユーザーの約7割が、日揮の求めに応じて犠牲者の氏名を公表しなかった安倍政権の判断を支持した。

個人情報保護法の定着やインターネットの普及で「匿名」が当たり前になったという時代の変化もあるが、マスメディア内部で も「メディア・スクラム」と呼ばれる集団的過剰取材に対する反省が聞かれた。メディア・スクラムとは、テレビのカメラ・クルー や記者が遺族を追いかけ回す様子を言う。

 

英国では早い段階から犠牲者の遺族がテレビのインタビューに応じていた。これに対して、日本では当初、菅義偉官房長官が「ご家族の皆さんは動揺していて、(日揮は)そこだけは勘弁してほしいと言っている」として氏名を公表せず、犠牲者の人数のみを発表した。この政府決定に対してメディアの一部が独自取材で犠牲者の氏名を報じたことから、インターネット上で「遺族を商売のネタにしたいだけ」「氏名公表を望まない遺族の意思はどうなるのか」という書き込み が相次いだ。

氏名公表を求めた僕のブログにも批判が殺到して「炎上」に近い状態になった。災害取材では、棺の上に乗って写真を撮影したり、連絡船の遭難事故で乗船者名簿を記者が持ち出したり、遭難者を助けずに写真撮影を続けたりするなど、報道倫理が問題になることが昔からあった。しかし、その一方で、歴史の初稿を記録する記者への理解 は定着していたように思う。記者になったばかりのころ、「遺族や関係者が悲しんでいるときに取材で負担をかけていいのだろうか」という自責の念が「どうしてこんなに真摯に取材に応じてくれるのか」という疑問に変わり、やがて「伝える」という記者の役割に気付いた。世の中のニュースの大半は人の生死にかかわっており、歴史を正確に書き留めるためには遺族や関係者の取材が重要となる場合がある。

英国では石油大手「BP」がホームページで犠牲者の氏名や写真、遺族談話を公表。同社では、検視官による確認、遺族の同意を情報公開の社内基準としているため、公表のタイミングは外国政府の発表や地元メディアの報道の方が早かった。英外務省は表向き、犠牲者の氏名は非公開としたが、朝日新聞デジタル版は「(英外務省は)メール で報道機関に情報提供した」と報じている。

結局、日本では菅官房長官がメディアに押し切られる形で「政府の責任のもと」犠牲者の氏名を公表した。しかし、押し切った側である日本新聞協会のメディア・スクラムに関する見解を見ると、あまりの白々しさに愕然とする。

● 嫌がる当事者や関係者を集団で強引に包囲した状態での取材は行うべきではない。

● 通夜葬儀、遺体搬送などを取材する場合、遺族や関係者の心情を踏みにじらないよう十分配慮するとともに、服装や態度な どにも留意する。

日本では過剰報道には刑法の名誉毀損罪、民事上の名誉・プライバシー侵害に対する損害賠償請求という歯止めしかなく、報道被害は野放しにされてきた。同協会の見解で、一体何が守れるというのだろうか。

 

英国では1991年に新聞業界を中心とした自主規制機関「報道苦情処理委員会」(PCC)が設置され、活字メディアに対する苦情に対応してきた。英大衆日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の盗聴事件 でPCCの有効性に疑問符が付けられたが、PCCの報道基準には明確に「一度拒否されたら、質問を続けたり電話をかけ続けたり追いかけ回したり写真を撮ったりしてはいけない」と定められ、苦情の申し立てがあったときは厳格に審査される。日本新聞協会も第三者機関の設置を真剣に考える時期が来ているのではないか。

海外のプラントで夫が働いている女性から「誇り高き男たちをAさんで死なせるわけにはいかない」というメールをいただいた僕は、少しだけ勇気付けられた。

 

 

第8回 北アイルランド紛争の呪縛

第8回 北アイルランド紛争の呪縛

今年、主要国(G8)首脳会議が開かれ、血で血を洗う宗派対立からの「和解」を世界にアピールする政治的な舞台となるはずだった英国・北アイルランド。その中心都市ベルファストの市議会が昨年末、市庁舎での英国旗掲揚を制限することを決めたところ、英国統治の存続を主張してきたプロテスタント系過激派が若者を扇動して警官隊との衝突を繰り返す騒動に発展した。

これまでベルファスト市庁舎では一年中、「ユニオン・ジャック」と呼ばれる英国旗が掲げられていた。これに対し、カトリック系2大政党のシン・フェイン党と社会民主労働党が「英国旗を永久に掲げないこと」を要求、英国旗掲揚を求めるプロテスタント系2大政党の民主統一党、アルスター統一党と対立した。

市議会でのカトリック系とプロテスタント系の勢力は拮抗していたが、2011年の市議会選挙でカトリック系が計24議席を獲得、計18議席のプロテスタント系を圧倒するようになった。

このため、6議席を持つ中立の北アイルランド同盟党が北アイルランド平等委員会の意見を取り入れて、英国旗掲揚をエリザベス女王の誕生日など年18日に制限することを提案。カトリック系の支持を得て、昨年12月3日に市議会で可決された。

収まらなかったのがプロテスタント系過激派だ。「英国旗掲揚を制限することはアイデンティティーへの攻撃だ。英国からの分離を求めるナショナリスト(カトリック系)が我々の文化を消し去ろうとしている」と不満を爆発させた。

 

1922年にアイルランドが英連邦内の自治領になった際、北アイルランドは英国に帰属、多数派のプロテスタント系が支配的地位を占めた。このため、英国からの分離を求める少数派のカトリック系とプロテスタント系の宗派対立が先鋭化。1998年、北アイルランドの帰属を住民の意思に委ねる包括和平合意「聖金曜日協定(ベルファスト合意)」が調印され、北アイルランド紛争は大きな節目を迎えたが、犠牲者は約3500人に上った。

同紛争ではカトリック系住民が警官隊と衝突するのが日常的な光景だったが、今回の騒動では、プロテスタント系住民が火炎瓶やロケット花火、ガレキなどで警官隊を攻撃している。既に100人以上が逮捕され、警官数十人が負傷。英国旗掲揚制限のキャスティング・ボートを握った北アイルランド同盟党や社会民主労働党が標的にされ、市議宅にプラスチック弾が撃ち込まれたり、市議に対して殺害予告が行われたりする事態に発展している。プロテスタント系準軍事組織が、学業を修了せず、仕事にあぶれて右傾化する若者や10代の少年をソーシャル・メディアのフェイスブックやツイッターで駆り出しているのが特徴だ。

 

かつては北アイルランドの人口の3分の2をプロテスタント系が占めたが、昨年の国勢調査では、プロテスタント系が48%、カトリック系は45%とその差は急速に縮まっている。

アルスター大学のジョニー・バーン講師(犯罪学、政治、社会政策)は「背景には、政治や社会の意思決定から自分たちだけが取り残されているというプロテスタント系労働者階級や下層階級の不満が横たわっている。極めて少数派だが、動員力を持った危険なグループで、プロテスタント系2大政党が自分たちの気持ちを代弁してくれているとは思っていない」と指摘する。

北アイルランドにはベルファストを中心にプロテスタント系とカトリック系の居住区を分断する「平和の壁」が約90カ所に設置されている。バーン講師らが昨年、実施したアンケートでは、壁の近くで暮らす住民の69%が暴力の復活を恐れて「壁はまだ必要だ」と回答していた。恐怖と不信が北アイルランド和平の現実なのかもしれない。

プロテスタント系2大政党は当初、4万枚のリーフレットを作成して、カトリック系の支持に回った北アイルランド同盟党を非難した。英国旗掲揚制限をめぐる騒動は、宗派間の対立に容易に火がつくことを改めて浮き彫りにした。政治家は政治的影響力を強めるため、「分断」の言葉を弄して宗派や民族の対立をあおるのではなく、「和解」の言葉を地道に積み重ねていく大切さを胸に刻むべきだろう。

 

第7回 お客様こそ神様です- 多国籍企業の租税回避問題

第7回 お客様こそ神様です- 多国籍企業の租税回避問題

国際企業は株主利益のために納税コストをギリギリまで切り詰めるべきか、それともビジネスを展開するそれぞれの国の構成員 として応分の法人税を負担すべきなのか。

過去3年間、英国で計12億ポンド(約1600億円)の売上があったのに法人税を全く納めていなかったため、消費者から不買運動を起こされていた世界的なコーヒー店チェーン、スターバックス英国法人のクリス・エングスコフ最高経営責任者は12月6日、今後2年間は利益の有無に関わらず1 年につき法人税として約1000万ポンド(約13億5000万円)を納めると発表した。

クリントン米大統領の側近だったエングスコフ氏は、スターバックスが租税義務を回避していたことを認めたわけではないと 断った上で、「消費者の声に耳を傾けた結果」「創業の精神に立ち返った」と自発的な納税理由を説明した。しかし、アレクサンダー主席財務相(自由民主党)は「大企業に対しても社会のいかなる構成員に対しても税金を自発的な条件で決めることはできないし、そんなことはあってはならない」と税法に基づかない決着に批判的な見方を示した。

 

スターバックス騒動の始まりは、10月に報じられたロイター通信のスクープだった。スターバックスは1998年に英国に進出、累計で30億ポンド以上の売上があったにもかかわらず、課税対象となる利益が発生した年は1年しかなく、納めた法人税はわずか860万ポンドだった。スターバックスが法人税を圧縮していた手口とは。

(手口その1)同英国法人はコーヒー一杯の代金の6%の知的財産使用料をオランダの会社などに払っていた。
(手口その2)コーヒー豆をスイスの会社から購入、法人税が英国の約半分のスイスに利益を移していた。
(手口その3)グループ内の融資の際、同英国法人はロンドン銀行間取引金利(LIBOR)に4%を上乗せした利息を支払っていた。ちなみにファストフード・チェーン、ケンタッキーフライドチキンのグループ内の利払いはLIBORに2%を上乗せ、同マクドナルドはLIBOR以下だった。

複数の国にまたがって活動する多国籍企業の場合、子会社や関連会社との取引を利用して、法人税の高い国で経費を計上し、タックス・ヘイブン(租税回避地)や法人税の低い国で所得を申告する租税回避行為が日常的に行われている。

税金を含めコストをギリギリまで切り詰めて国際競争を勝ち抜き、最大限の利益を上げることこそが株主から委託された経営者の責務だという考え方が米国では定着している。

これに対して、各国の税務当局は法人税を取り損なわないよう、不当な価格でグループ内の取引を行って利益を法人税の低い国に移転させる行為に目を光らせており、他企業と取引を行った場合と同じ価格でグループ内の取引を計上するよう求めている。しかし、知的財産やサービスといった無形資産が取引されるようになり、価格の算定が難しくなった。

各国政府とも雇用を確保するため、できるだけ法人税率を引き下げて多国籍企業が自分の国で法人所得を申告し、法人税を納めるよう促している。しかし、世界金融危機の後、財政再建を強いられている欧米諸国は、法人税率を引き下げて、代わりに所得税や付加価値税(日本の消費税に相当)を引き上げるか否かのジレンマに陥っている。

 

租税回避行為が指摘されているのはスターバックスだけではない。アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブックに続いて、コカ・コーラ、米半導体メーカーのインテルなどが次々と俎上に挙げられ、米多国籍企業への批判はドイツ、フランスにも広がった。いずれも合法的な節税行為のため、下院決算委員会のマーガレット・ホッジ委員長(労働党)は「これは法律ではなく、モラルの問題だ」と指摘。所得税や付加価値税を負担させられている消費者は、法人税を納めていなかったスターバックスを許さず、不買運動を起こした。

役員にとって怖いのは株主かもしれないが、企業にとって大切なのはお客様だという基本をスターバックス騒動は教えている。しかし、他の企業がスターバックスの例を見習うかどうかは、また別の問題のようだ。

 
<< 最初 < 1 2 3 4 5 6 7 8 9 > 最後 >>

Dr 伊藤クリニック, 020 7637 5560, 96 Harley Street 24時間365日、安心のサービス ロンドン医療センター 不動産を購入してみませんか LONDON-TOKYO お引越しはコヤナギワールドワイド

JRpass totton-tote-bag