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Wed, 27 May 2026

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AI・SNS時代に考える - 欧州で暮らす私たちとメディアの距離感

新春 英国・ドイツ2国特集

AI・SNS時代に考える欧州で暮らす私たちと
メディアの距離感

AIやSNSが生活のあらゆる場面に入り込み、私たちのメディアとの関わり方や言葉との向き合い方も大きく変化している。欧州では、未成年のSNS使用制限やメディア・リテラシー教育の強化など、情報環境の見直しが進む。2026年新年号では、英独を中心にメディアをめぐる現状を多角的に捉えながら、研究者や文化人に「メディアとの向き合い方」について聞いた。マスメディアを超えて広がる多様な声の中から、自分に合った情報の選び方を探っていきたい。(文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

メディアとの距離感

なぜ今「情報との付き合い方」を問うのか

情報の海と加速するデマ

現代社会は、かつてない規模の「情報洪水」に覆われている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のタイムラインを開けば、真偽不明の情報が次々と流れてくる。人工知能(AI)に質問すれば、もっともらしい答えが返ってくるし、あるいは本物と見分けがつかない画像や動画を瞬時に生み出してくれて便利だ。しかし、どのAIプラットフォームにも必ず小さくこう書かれている。「回答は必ずしも正しいとは限りません」。私たちは日々、「何を信じ、どう受け止めるか」という選択を迫られているのだ。

この問いは新しいようでいて、実は古代から続いている。ギリシャのソフィストたちは、言葉を単なる写し鏡ではなく、現実に働きかける力として捉えた。プロタゴラスは「人間は万物の尺度である」と述べ、真理が人間の認識と切り離せないことを示した。ゴルギアスは「言葉は魂に作用する」と洞察し、語りが感情や判断を動かす事実を照らす。言葉が世界を組み替えるという修辞観は、私たちの時代にも通底している。

今日では、インターネット上の一投稿や映像が、社会の「現実」を塗り替える。2020年のコロナ禍では、デマがワクチン接種を妨げ、社会不安をあおった。2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、虚偽情報が爆発的に拡散し、情報戦の新局面を示した。そして生成AIの普及によって、誰もがそれらしい偽情報を「作れる」時代が到来している。

各国が模索する情報空間の安全

こうした状況に対し、欧州では法整備を通じて情報空間の安全を守る動きが進んでいる。欧州連合(EU)は2024年、世界初の包括的なAI規制法「Artificial Intelligence Act」を施行。同年、デジタル・サービス法(DSA)の全面適用も始まり、大手プラットフォームに対して違法コンテンツの迅速な削除を義務付けている。EUは「技術は市場に任せるだけでは制御できない」という立場を明確にした。

英国は2023年に「オンライン安全法」(Online Safety Act)を成立させ、未成年保護や誤情報対策を包括的に扱う。きっかけは2017年、SNS上の自殺関連投稿に触れ続けた14歳の少女が自ら命を絶った事件だ。アルゴリズムが有害コンテンツを次々と表示し、少女を絶望の渦へと引き込んだこの出来事は、プラットフォームの責任を問う議論の転換点となった。

一方、日本ではAI事業者向けガイドラインの策定やSNSの透明性向上をめぐる議論が進められている。欧州のような厳格な規制ではなく、「柔軟なガバナンス」で成長と安全の両立を図る方針だ。

どんな現実を共につくるか

もっとも、法制度は乱用を抑えつつ自由を保障する「外枠」にすぎない。その内側で私たちがどう振る舞うかは、依然として大きな課題だ。プロタゴラスに立ち返れば、「真理は唯一ではなく、人の数だけ見方がある」。多様な意見が共存する社会では、他者の言葉を理解し、解釈を更新し続ける努力が欠かせない。一人ひとりが情報との付き合い方を選ぶこと、その選択の積み重ねこそが、私たちの未来を映し出すのかもしれない。

参考:GOV.UK「Guidance Online Safety Act: explainer」、Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz「Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken」、EU Artificial Intelligence Act「Official Journal」、Bundeszentrale für politische Bildung「Gegen den Hass im Netz」、The Guardian「how Molly Russell fell into a vortex of despair on social media」

疑うのではなく、理解し関わるAI・SNS時代のメディア・リテラシー

技術の進歩によって、ニュースの選び方も届け方も大きく変わりつつある。AIが記事を推薦し、SNSで誰もが発信者となる今、私たちに求められる力とは何か。メディア・リテラシー教育を専門とし、テレビ・ディレクターとして制作現場も経験してきた昭和女子大学准教授の村井明日香さんに、情報を「疑う」のではなく「理解する」ための視点について聞いた。

村井明日香さん 村井明日香さん
Asuka Murai
メディア研究者。昭和女子大学人間社会学部准教授。テレビディレクターとして報道・ドキュメンタリー番組の制作に携わった後、メディアリテラシー教育の研究者に。現在は大学でメディア論を教えるかたわら、学校や市民講座などでもワークショップ等を実施している。

Q1. そもそもメディア・リテラシーとは何ですか?

私がよく参照するのは、メディア教育研究者である中橋雄さんの定義です。すなわち、メディア・リテラシーとは「メディアの意味と特性を理解した上で、受け手として情報を読み解き、送り手として情報を表現・発信するとともに、メディアのあり方を考え、行動していくことができる能力」(中橋雄『メディア・リテラシー論』北樹出版、2014年)であると。つまり、メディアの重要性を共有しながら、それをより良いものにしていこうとする主体的で前向きな姿勢が、メディア・リテラシーの本来の姿だと思います。

一方で、今の大学生にメディア・リテラシーに関する授業を行うと、多くの学生が「メディアを疑うことを忘れないようにしたいと思います」というような形でまとめたレポートを提出してきます。というのも、日本では特にメディア・リテラシーを「メディアを批判的に読み解く」と訳したために、「批判すればいい」と誤解されてきた面があるのです。

英語の「critical」には「批評的」や「吟味的」といったニュアンスがあり、日本語の「批判」とはニュアンスが異なります。その翻訳のずれが、メディア・リテラシーの本質を見えにくくしてきた面があるかもしれません。メディアを批判したり、遠ざけたり、ボイコットしたりすることは、むしろメディア・リテラシーの理念と逆行します。

Q2. このメディア・リテラシーに対する「誤解」は、なぜ生まれてしまったのでしょうか?

その一因として、日本がメディア・スタディーズを専門科目として中等教育に取り入れなかったことがあると思います。例えば英国やカナダでは、メディア・スタディーズの専門の先生が学校にいます。私も英国滞在中に授業を見学したことがありますが、専門的な観点からメディアについてうまく教えているなという印象でした。もちろん課題もあって、英国の場合はあくまで選択科目なので、科目を選択をしなかった生徒は全くメディアについて学ぶことなく中等教育を卒業していくことになります。

一方、日本ではメディア・リテラシーを教えるのがメディアの専門家ではなく、国語や社会、美術、あるいは技術の授業などで、各担当の先生が少しずつ教えるという形なんです。全ての生徒がメディアについて学ぶ機会を担保するような仕組みになっていて、これにはいい面もありますが、内容面では専門性をより高めていく必要があるでしょう。

そして今、AI・SNS時代を迎えて、このメディア・リテラシーへの誤解の影響がより深刻になっていると感じています。AIが記事を選び、SNSで誰もが発信者になれる時代だからこそ、「疑う」だけでは足りない。むしろメディアの仕組みを理解し、主体的に関わっていく力が、これまで以上に求められています。

欧州でも広がる未成年のSNS規制

昨今、未成年者をSNSの有害な影響から守るため、法律による規制強化の動きが急速に広まっている。背景には、SNS利用による子どもの精神衛生への悪影響や、依存性の高いコンテンツ、暴力的な情報への暴露リスクの増加がある。

オーストラリアでは昨年12月、16歳未満の子どものSNS利用を禁じる法律が施行。国レベルでの措置は世界初となる。一方、EUはデジタル・サービス法などで未成年者保護を規定し、運営企業への責任追及を強化。デンマークでは15歳未満のSNS利用禁止を首相が表明しているほか、英国やドイツでも年齢確認やアカウント保有の制限が議論されている。

もっとも、表現の自由や憲法との適合性、子どもによる規制の迂回可能性など、SNSを法的に禁止する際の課題は多い。各国は、デジタル時代の権利と保護とのバランスを慎重に模索する必要がある。

参考:European News Room「To ban or not to ban: EU countries debate social media age limits」

未成年のSNS規制

Q3. それでは、具体的に身につけるべきメディア・リテラシーとは?

最も基本的な学びとしては、ニュースがどのような基準で選ばれているかを理解すること。また、経済基盤に対する視点も欠かせません。例えば、NHKは受信料、民放は広告収入が主というように、経済的な基盤が異なります。こうした違いが番組内容にどう影響するのかを学ぶことも大切です。

ロンドン大学のデービッド・バッキンガム教授は、メディア・リテラシー教育を「制作」「言語」「表象」「オーディエンス」の四つに整理して説明しています。多角的にメディアを理解するための包括的な枠組みを提示してくれているので、とても参考になると思います

バッキンガム教授による
メディア・リテラシー教育の枠組み(抜粋)

制作
  • どんなテクノロジーが使われているか
  • 誰がメディアを作り、所有し、どのように利益を生むのか
  • 誰がメディアの制作や供給を制御するのか
  • 誰の声が聞かれ、誰の声が排除されているか
言語
  • メディアは理念や意味を伝えるためにさまざまな様式の言語をどのように使うか
  • メディアの文法上の「ルール」はどのように確立されているか。そのルールが破られたらどうなるか
  • 映像、音声、言葉の組み合わせや配列を用いて意味はどのように伝えられるか
表象
  • このテクストは現実に忠実であろうとしているか
  • メディアの世界に何が含まれ、何が排除されているか
  • 特定の世界観や価値観を支持しているか
  • 特定の社会集団や問題についての私たちの見方に影響を与えているか
オーディエンス
  • メディアはどのようにして特定のオーディエンスに照準を定めるのか。彼らに対してどのようにして興味を引こうとするか
  • オーディエンスは日常生活でどのようにメディアを利用しているか
  • オーディエンスはどのような楽しみをメディアから得ているか。彼らは何が好きで何が嫌いか
  • オーディエンスの行動において、ジェンダー、社会的階層、年齢、民族的背景が果たしている役割は何か

Q4. メディア上ではAI生成コンテンツがどんどん増えていますが、そうしたなかで人間の制作者が担うべき役割も変わってきていますか?

AIが記事を自動で選択して配置するニュースサイトが登場するなか、逆にメッセージ性を持った編集というのが、すごく生きてくる時代になっているように思います。例えば、日本のニュースサイトでも、AIがトップ記事を選び、自動的に表示させるようなものも増えてきました。

一方で、メディアの役割は読者の興味やニーズに合った情報を提供することだけではありません。もしAIが読者の興味だけでニュースを選んでいたなら、絶対に上位に表示されないようなニュースがあります。例えば、これまで日の当たらなかった人々や弱者に関する報道には、こういったものも知ってほしいとか、世の中がこうなってほしいというようなメッセージが込められています。思いの込められた記事作りやニュース選びには、やはりキラリと光るものが見えますよね。ほかにも、編集者や記者個人がSNSを通して発信するということも当たり前になってきました。

編集という行為は、単に情報を伝わりやすいように羅列するだけではなく、そこには必ず、送り手の価値観や社会に対する姿勢が反映されていると思います。AIの時代だからこそ、「人間による選択」の意味が際立つのかもしれません。

ネット記事の半数以上がAI生成?

AIによる記事生成が急増しており、SEO企業Graphiteの調査では、2024年末〜2025年初めにかけてネット上の記事の過半数(最大55パーセント)がAIによるものだったという。ただし、今後もAI記事が爆発的に増加するとは考えにくいとの見解も示されている。というのも、AI記事は検索結果で上位表示されにくいことが別の調査で分かっており、制作側も限界を認識し始めていると分析している。

しかし、ますます多くのメディアが、コスト削減や生産性向上のためにAI技術を導入しており、AIで生成されたコンテンツの普及は今後も加速していくと考えられる。多くの読者にとっては、閲覧している記事がAIによって作成されたものかを判断することは難しい。AI生成コンテンツには明確な表示を行うなど、読者が情報源を理解した上で判断できる環境を整備することが急務だろう。

参考:Graphite「More Articles Are Now Created by AI Than Humans

AI生成?

Q5. AIやSNSによる情報が氾濫する現在、あらためて「あり方を考え、行動する能力」としてのメディア・リテラシーをどう実践すべきでしょうか?

メディアというのは、単にその現状を客観的に伝えるものではないということを、もっと読者に説明していいんじゃないかと思っています。例えば欧米のメディアではそれぞれが応援する政治家や政党が明確です。一方、日本のメディアは公平中立を掲げてきたところがあるので、それを受け取る側の人たちも、そこに何か送り手側の主張があるということに対して、ものすごく嫌悪感があるわけですよね。

しかしそれは、やはり現実とずれています。情報の送り手側は自分たちの判断で社会をより良くしようという意思を持って報道をしているわけで、そこには必ず送り手の視点が介在しています。それを「偏向」として忌避するのではなく、むしろその判断の背景を理解し、複数の視点を比較することこそが、成熟した情報との向き合い方ではないでしょうか。

また本来、SNSの強みは一次情報を発信する人々が増え、これまでのメディアでは得られなかった情報にアクセスできることや、これまで声を上げられなかった人が自分で発信できることがポジティブな側面のはずでした。しかし、そこにアルゴリズムによるフィルターバブルや、フェイク・ニュースの拡散などが複雑に絡み合い、さらにAIによって生成されたコンテンツが急速に増えている。正しい情報を判断するのはどんどん難しくなっています。

完璧な方法があるわけではありませんが、ある情報を受け取ったら、できるだけ複数のソースで確認することが重要だと思います。もう一つは、情報の発信源がどこにあるか、すなわちこの記事を書いたのは誰でどんな人なのかを調べてみるのは有効です。「誰が、なぜ、この情報を発信しているのか」を意識的に考える習慣が、私たちを情報の海で溺れさせないための、最初の一歩となります。

おすすめの書籍

『世界は切り取られてできている』

『世界は切り取られてできている』
中橋雄 編著
村井明日香、宇田川敦史 ほか著
NHK出版 2024年2月刊行

メディアは「現実」を伝えているのか?統計やグラフはどのように読めばいいのか? 動画やコンテンツを作る上でトラブルを避けるにはどうすればいいのか? 日常に浸透したAIとどのように付き合うべきか?あふれかえる情報に惑わされず、偏見や差別を回避し豊かな社会を目指すための、メディア社会に生きるすべての人に向けたメディア・リテラシー入門書。

欧州ゆかりの9人に聞いた日々の情報との向き合い方

ニュースのプロ、学者、文化人、アーティストなど、欧州で暮らす9人が日々選び取っている情報源とは。信頼しているメディアや、生活の中でどのように情報に触れているかを語ってもらった。ポッドキャスト、YouTube チャンネル、ニュースレター、雑誌、SNS、そして個人の発信まで。多様な選択の中に、今の時代を映すヒントがある。

小林恭子さん Ginko Kobayashi
小林恭子
在英ジャーナリスト。英国をはじめとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。英国ニュースダイジェストでは毎号「英国メディアを読み解く」を執筆。著書に『英国メディア史』(中公選書)、『なぜBBCだけが伝えられるのか』(光文社新書)など。

信頼できる情報とは何か

自分にとって信頼できる情報とは何か。その判断の方法ですが、正確な、あるいは正確な情報を提供しようとする組織、メディア、個人からの情報を「信頼できる情報・事実」として取り込んでいます。「信頼できる」というのは、この組織、メディア、人であれば正確なことを言っているだろうという判断です。どのように信頼できるとするのかというと、例えばBBCのように「偏りのない情報を出そうとする」方針があるのかどうか、党派的でない、特定の主義主張を基に事実をねじ曲げていない、長年にわたって主張が一貫している、ほかの人も信頼している、などが挙げられます。

ニュースの調べ方としては、BBC のほか、「タイムズ」紙、「テレグラフ」紙などのニュースサイトをチェックし、だいたいの情報と「保守系はどう考えているのか」を知り、チャンネル4の19時のニュース番組で「左派リベラル系の主張」を見ます。また、BBCやスカイ・ニューズのほか、海外のニュースサイトも確認。BBCラジオ4の定時ニュースは毎日自分のタイミングで聴き、ポッドキャストで専門家の見解をチェックしています。欧州での生活を通じて、国際的観点から物事を見るようになりました。欧州情勢の理解には歴史の把握が欠かせませんので、世界大戦で起きたことも学ぶようになりました。ニュースで疑問があったときや、歴史的な事柄を調べたいときにAIを用いることも多いです。

おすすめメディア

Political Currency

Political Currency

元財務相ジョージ・オズボーンと元・影の財務相エド・ボールズが、経済政治について漫才のような掛け合いで語るポッドキャスト。政権の中心にいた人たちの本音が分かるほか、オズボーン氏の見方は国内政治の分析に役立ちます。

BBC Newscast

毎日1回配信されるBBCのポッドキャスト。BBCのジャーナリストたちがその日のトピックについて気軽に語り合うスタイルなので分かりやすく、リラックスして聴けます。特定のニュースのことをよく知るのにも便利です。

木村クリストフ護郎さん Goro Christoph Kimura
木村クリストフ護郎
上智大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は社会言語学、ドイツ語圏地域研究。 とりわけ、社会を形成・運営する基盤としての言語とエネルギーについて研究・教育を行っている。ソルブ語をはじめ、手話やエスペラントなどの多様な言語を話す。

言語とメディアが形作る世界の見え方

絶対に信頼できる情報というものはありませんが、実際に現場に行って取材したジャーナリストによる情報、つまり誰がどこでどのように得たかが明確な情報は、玉石混交のインターネット検索やSNSの伝聞よりは信頼できると考えています。また、AIは情報をまとめてくれて便利ですが、多数派の常識(正しいとは限らない!)に沿う可能性が高く、一見客観的に見えても、どのようなデータに基づいているかで答えが変わるので、あくまで参考程度にしかならないと思います。

メディアや言語は、単なる情報の器ではなく、情報を加工して形作る重要な要素です。だからこそ、どんなメディアやどの言語で発信された情報なのかを意識しています。速報性ではSNSやネットが優れていますが、じっくり考えるのには向きません。ネットではゴシップも災害も同列に扱われ、情報の軽重の感覚がおかしくなる気がします。その点、重要度に応じてメリハリがある新聞は、依然として重宝しています。

言語の観点から言えば、日本語のニュースは日本人や日本に住む人を念頭に置いているのは当然ですが、英語だから国際的とは必ずしも言えません。例えばBBC NewsやCNN Internationalは「国際性」や「グローバル性」をうたっていますが、前者は英国、後者は米国の動きに焦点があり、それぞれの「自国化」が明確です。他地域を理解するためには、それらの地域の言語での報道がやはり一番だと思います。

おすすめメディア

MONATO

MONATO

エスペラント語の月刊誌で、世界各地の人が現地の視点から書いた記事を、編集者がファクト・チェックをした上で載せています。世界の多様な生の声を知ることができます。これを読むためだけにエスペラントを学ぶ価値があるといったら言いすぎでしょうか。
www.monato.be

住んでいる地域の新聞・メディア

ドイツに住んだことで、現地密着情報の醍醐味を知りました。ドイツは街ごとに輪郭がはっきりしていて、個性ある新聞などのメディアが充実しています。それを読んで一日を始めると、自分の住んでいる街の情報が分かって生活が豊かになりました。

谷口仁子さん Noriko Taniguchi
谷口仁子
Adobe Brand Studioのクリエイティブディレクターとして、ブランディング、表現全般を手がける。以前はアートコレクティブ「チームラボ」でカタリストとして活動。学生時代はロンドンでアートを学ぶ。

「つながりすぎる時代」と距離を置く

最終的には、自分の考えや判断軸を育てるために情報を得ているのだと思います。そのためには、さまざまな意見や視点に触れることが大切。ただ、SNSやAIによって情報収集が効率的になった一方で、次々と新しい情報が流れ込んできて、肝心の「考える時間」を持ちにくくなっていると感じることもあります。ロンドンにいたときは、地下鉄の中で電波が届かないなど、ちょうどいい遮断があったのですが、東京では常時接続なので、意識的に情報から離れる時間を取るようにしています。「スロー・インターネット」という言葉がありますが、情報の波に飲み込まれず、自分の意志で選び取ることを心掛けています。それでも、どうしても見てしまうときは、iPhoneの画面をカラーフィルタで白黒に設定して抑止しています(笑)。

一方、AIはさまざまな場面で活用しています。調べものや作業など、AIによってかなり効率化されたと感じています。ただ、あまりに大きなテーマを丸投げしてもうまくいかないので、基本的には、具体的に指示を出せる範囲で手伝ってもらう「相棒」のような存在として使うように。先日も、購入した英語の本が想像以上に専門的でした。そこでAIに難解な文章の翻訳を頼んでみたところ、文脈を踏まえて訳すだけでなく、用語や時代背景の解説まで添えてくれて。以前なら自分一人では到底読み解けなかった内容を理解することができ感動しました。

おすすめメディア

Louisiana Channel

デンマークのルイジアナ美術館が運営しているアートにまつわるYoutubeチャンネル。世界のアーティストたちの言葉や思想に触れることができ、知的な刺激に満ちています。内容だけでなく、映像としてもとても美しくて癒やされます。
www.youtube.com/c/thelouisianachannel

Are.na

Pinterestのようにビジュアルを集めたりリサーチしたりできるプラットフォーム。広告もアルゴリズムもなく、どこか「静けさ」を感じさせるシンプルなつくりが魅力。落ち着いて考えやアイデアを深められる場所です。
www.are.na

カセキユウコさん Yuko Kaseki
カセキユウコ
ベルリン在住。舞踏の師匠である故古川あんず氏を追いかけ、91年に渡独。ブラウンシュヴァイク芸術大学パフォーミングアーツ科に在籍した。舞踏をよりどころに、テキストや音楽、現代美術など、さまざまな分野と交わりながらパフォーマンスを行っている。 www.cokaseki.com

「知らない方がいい」で過ごしてはいけない

たくさんの人々が抱えている(であろう)問題と、顔を付き合わせる毎日です。溢れんばかりの情報に踊らされ、怒ったり泣いたり笑ったりしています。気が付けば一日中、次から次へと流される情報と生活してしまいます。特に今の戦争、紛争を知れば知るほど、複雑に絡み合った歴史が善悪を超えた様相を呈し、ただ何もできない自分へのいらだち、罪の意識にやるせない思いで身動きできないでいました。

SNSで私が得た情報をリポストすることで、反対の立場に立つ人々からの攻撃を受けることもあります。なるべく対話したいと思うのですが、話は平行線で噛み合うことは難しい。立ち位置が違うだけで対立を深め、敵にさせられていく。俯瞰の視点を持ちつつ、対話をしていく、そしてお互いに修正、認め合うことができるのかが問われていくのだと思います。

ドイツに移住してから政治について情報を集め、話す機会が増えました。日本から離れることで、かえって日本の政治状況にも興味が湧き、これまでいかに自分が社会に対して無関心であったのかと思い返されます。今の世界状況は「知らない方がいい」で過ごしてはいけない状況ではないかと思います。何が正しいのか、間違っているのかは、幅広い知識がなくては判断もできません。知ることで狭く硬くなるのではなく、柔らかく広がる判断ができるようになりたいです。

おすすめメディア

AL jazeera

アラビア語と英語でニュースを24時間放送している衛星テレビ局。本社はカタールのドーハ。メジャーなメディアでは伝えられないニュースを、さまざまなジャーナリストや識者の意見を交えて放送しています。
www.aljazeera.com

街録ch 〜あなたの人生、教えて下さい〜

著名人から一般の人まで、その人の生い立ちと現在の生き方を露わにするインタビュー番組。YouTubeでなければ知りようもない人々が登場し、人間の深さも愚かさも垣間見ることができます。
www.youtube.com/@gairokuch

久保山尚さん Hisashi Kuboyama
久保山尚
スコットランド在住。英国最大規模のビジネス利益団体で政策研究・ロビー活動に従事する傍ら、SNSなどで政治や社会情勢に関する正確な情報を発信する。エディンバラ大学人文社会科学部歴史学専攻博士課程修了(PhD, Scottish History)

情報の正確さを見極める

情報源としてはSNS全盛の時代ですが、SNSで見かける情報については信頼できる情報源、例えば新聞や報道機関のウェブなどで必ず裏を取るようにしています。報道機関は誤った情報を流すと信頼に関わるため、情報源や第三者から得られた情報と照合して、正確かどうかをチェックすることを義務付けているからです。

SNSで流れてくる情報にはそのような正確性が担保されているとは限らないので、見たものを鵜呑みにはしないようにしています。例えばSNSで最近よく「英国は移民を入れすぎて社会が崩壊している」というポストを目にすることが多いですが、統計やデータを調べると、英国では過去20年間ほどで犯罪率がほぼ全ての分野で減少しています。ニュースやSNSでは犯罪の情報が常に流れ、ひどい犯罪が日常的に報じられているため、犯罪率が下がり続けていると言われても信じ難いかもしれませんが、これは事実なのです。

一方で新聞やテレビといった報道機関は信頼度が高いですが、情報の取捨選択に関しては完全に客観的とはいえませんし、社会の関心などによって報道の重点は大きく左右されます。メディアもやはり商売なので、人々が飛びつく情報を流しがちになるわけです。その意味で、報道される情報やニュースはショッキングなものが多くなりがちなので、そこは常に頭の片隅に入れておくべきだと思います。

おすすめメディア

The Times

The Times

英メディアに関しては、精度という点では「タイムズ」紙と「フィナンシャル・タイムズ」紙が頭一つ抜けており、この二つを読めば大体のことは分かります。情報源という点に関しては、SNSはかなり注意が必要だと思います。
www.thetimes.com

城島未来さん

日本語で英国に関する精度の高い情報を得るのは容易ではありませんが、現地で記者が直接取材を行う媒体は貴重です。その中でも、TBSロンドン支局特派員の城島未来記者は丁寧で確かな取材を重ねており、信頼できる報道を発信しています。
https://x.com/mikojoburg

小畑和香子さん Wakako Obata
小畑和香子
フライブルク在住。日系企業に勤める傍ら、モビリティシフトを目指す市民活動に参加。3件の自転車市民決議(州民/住民請求)、カーゴバイクシェアシステム運営など経験。共著に『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた 人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン』(学芸出版社)。

情報との距離感と発信の倫理

私が「信頼できる」と考えるのは、客観的な伝え方をしていて、出典に紐づけることができる情報です。そのメディアや発信者の蓄積を見て、信頼性を見極めるようにしています。

自転車市民決議に参加していた時期や共著を執筆していた頃は、積極的に関連するニュースを追っていました。しかし最近は、モビリティシフトへの向かい風が強まっていることもあり、ネガティブな情報が心理的に影響するようになったため、受動的に情報に触れる形に変えました。意識的に距離を取ることも、情報との健全な付き合い方だと感じています。交通やまちづくりといったテーマでは、日本語圏のSNSにおいて男性発信者の割合が偏って多いことも気になっています。特定のテーマ発信への時間の使い方にジェンダー差があることは問題だと考えています。だからこそ、自分にとって心地よくない空間にならないよう、見る範囲を調整しながら向き合うようにしています。

情報を発信する立場としては、住民請求のアカウントを運営していたときには「絶対に賛成する層」と「絶対に反対する層」の間にいる大多数の人々に訴えかけることを強く意識していました。文法を正しく「ジェンダーする」こと、ボディ・シェイミングを支持しないこと、写真や動画で個人の匿名性を守ることなど、細部への配慮を大切にしながら発信してきました。

おすすめメディア

Cycle

MONATO

「自転車生活を楽しく」をテーマとした、15年以上続く日本のフリーペーパーとウェブマガジン。スポーツではなく、カルチャーとしての自転車にまつわるあれこれを知ることができます。自転車に普段乗らない方にとっても、「自転車」という切り口から多彩な世界が見えてくるはず。
https://cycleweb.jp

Ingwar Perowanowitschさん

モビリティシフトに関心があるドイツ語圏の人がよくフォローしているジャーナリスト。交通政策関連ニュースや、欧州の自転車インフラ先進事例を紹介しています。
www.instagram.com/ingwar.perowanowitsch

國枝孝弘さん Takahiro Kunieda
國枝孝弘
慶應義塾大学総合政策学部教授。専門分野はフランス文学およびフランス語教育で、異文化理解を促す授業構築や、文学と言語表現に関する研究を中心に展開。 公共メディアでの活動として、NHKの語学番組「テレビでフランス語」などで講師を務めた実績がある。

自分の立場を問うメディアとの対話

速報ニュースを追うことは少なくなりました。その代わりに、「ル・モンド」や「アルテ」など信頼性の高い媒体で、背景を掘り下げる論説系のポッドキャストを中心に聴いています。またフランスでは、ラジオ番組の多くがポッドキャストとして配信されており、時差の関係でリアルタイムで聞けない番組も好きなときに聴けるのが便利です。

もちろん、それらの報道を鵜呑みにしているわけではありません。判断に迷うときは信頼するジャーナリストのSNSを参考にしますが、その人が常に正しいとは限らない。情報を受け取る際に大切なのは、最終的に「自分がどういう立場を取るか」を意識することだと思います。

SNSはXとBlueskyを併用しています。フランスでは大手メディアがXから撤退し、Blueskyに移行しているため、後者が欠かせない情報源になっています。一方で、個人のジャーナリストの多くはいまだにXを活用しており、両方を見比べるようにしています。欧州で実感するのは、独立系メディアやフリーランス記者の重要性です。大手とは異なる視点が情報の多様性を支えていると感じます。

AIは避けるものではなく、授業の中でも実際に取り入れています。例えばフランス語の授業では、学生にAIを使って練習問題を作らせ、それを別の学生が解くというアクティビティーを行っています。AIを活用することで、学び方や考え方の幅が広がると感じています。

おすすめメディア

France Culture

フランスの公共放送「Radio France」の文化専門チャンネル。文学や映画、哲学など幅広いテーマを扱い、作家や映画監督本人が出演してパーソナリティーと対話する知的で深い番組が多いのが特徴です。
www.radiofrance.fr/franceculture

西村カリンさん (Karyn NISHIMURA)

日本在住のフリーランス・ジャーナリスト。日刊紙「リベラシオン」や公共放送「ラジオ・フランス」の特派員として活動している。当事者に近い立場から現場の声を丹念に伝える取材姿勢に定評があります。
https://x.com/karyn_nishi

新野見卓也さん Takuya Niinomi
新野見卓也
ブダペスト在住のピアニスト・音楽批評家。国際基督教大学卒業、一橋大学大学院言語社会研究科を修了後、リスト音楽院でピアノを学ぶ。現在はハンガリー国立ダンスアカデミーのバレエピアニストとして活動しつつ、演奏・執筆を通じて日欧の音楽文化を架橋している。

情報は「媒介」された世界である

「media」の原義、すなわち「媒介」ということを常に意識することが大切だと思います。私たちが受け取っているのは「生の情報」ではありません。取材の過程での取捨選択、編集方針、見出しや写真の構成、さらにはSNSのアルゴリズムや私たち自身の関心の偏りといった、いくつものフィルターを通過した結果が「情報」として届いているのです。大手メディアであれ、個人のSNS発信であれ、この媒介性から自由ではありません。

私は長くXを使ってきましたが、一般にSNSは立場を問わず極論が目立ちやすい場です。もちろん、即応が求められる場面を否定するものではありません。ただ、その都度反射的に反応するだけでなく、自分でその問題を引き受けて、または相手の立場に立って、立ち止まって考えることもときに必要でしょう。そして私は、SNSで気になったことをSNSの中だけで完結させないことを心がけています。本を読むこと、考えること、あるいは行動に移すことで初めて、その情報収集が生きるというべきでしょう。

AIについては、特段の関心はありません。人間が自分で表現し、考え、他者と触れ合うことに喜びを見いだす限り、AIがあろうとなかろうと、人間の幸福の核心は容易に変わらないのではないでしょうか。むしろ私たちは少し冷静になって、「AIとどう付き合うか」という技術論だけでなく、その裏側で何が犠牲になっているのかにも目を向ける必要があります。

おすすめメディア

ゲンロン友の会(シラス)

批評誌「ゲンロン」を中心に活動する会員制コミュニティーと、配信プラットフォーム。思想、社会、アートなど多彩なテーマの講義や対談をオンラインで発信。思考を深める場として支持を得ています。
https://webgenron.com

Dialogue for People

NPO法人。国内外の社会課題や人権問題を取材し、記事や動画、ポッドキャストなど多様な形で発信。現場の声に耳を傾け、対話を通じて共感と理解を広げる姿勢が高く評価されています。
https://d4p.world

丹羽良徳さん Yoshinori Niwa
丹羽良徳
ウィーン在住の現代美術家。公共・政治空間でスローガン的な行為を実施し、その記録映像を通じて、制度の外縁や行為が生む軋あつれき轢から社会通念・価値観の源流を探る。プロジェクトに「私的空間からアドルフ・ヒットラーを引き摺り出す, 2018」など。

メディアが映す無意識と、その先にあるもの

昨年、一時帰国した際に日本のテレビを見ました。ところが、画面に映る光景はどこか不気味で、感情的な言葉と、空虚な娯楽だけ。情報を伝えるより、現実を忘れさせるための装置に近づいているように感じました。「どうでもいいニュース」にも一応の社会的機能があります。日常の重圧や政治的対立の疲労感を和らげる現実逃避の空間として機能しているのです。

これは支配体制にとって都合が良く、テレビ、政府、視聴者が共犯関係にあると言えるでしょう。多くの番組は重要なことを伝えず、国民を無知のままに保つ姿勢が主流です。SNSは、アルゴリズムによって心地よい情報だけが選ばれ、さらにフェイク・ニュース拡散の温床となり、民主主義を脅かしています。人々は偽物かどうか識別能力を失い、右派の台頭も誤認や疎外感を助長しているのです。今は情報過多ではなく「検証可能な情報の不足」なのでしょう。

メディアは人間の情緒の集積で、人間が変わればメディアも変わるはずです。それには年に一度は知らない場所に行き、異なる現実に触れることや、長時間労働を見直し「立ち止まる時間」を持つ社会をつくること。それがメディアとの健全な距離を取り戻す第一歩になるのではないでしょうか。明日、電車の中で見知らぬ誰かにそっとウィンクしてみましょう。そこから、世界の見え方が少しだけ変わるかもしれません。

おすすめメディア

報道特集(TBSテレビ)

報道ドキュメンタリー番組。社会問題や国際情勢に加え、日常に潜む違和感や声なき当事者にも焦点を当てています。丁寧な取材と深い人間洞察に基づくルポルタージュを通して、日本社会の今を伝える貴重な番組。
www.tbs.co.jp/houtoku

よど号日本人村

1970年のよど号ハイジャック事件の当事者たちが、亡命先での生活を発信していたウェブサイト(2021年で更新停止)。当事者を肯定・擁護する意図はありませんが、社会を揺るがした出来事が次第に風化していく現実と、その無常を伝えています。
www.yodogo-nihonjinmura.com

編集部スタッフがピックアップ! 心が豊かになるメディア

Lobsterr Letter www.lobsterr.co

Lobsterr Letter

Selected by 編集部(真)

毎週月曜日に届くニュースレター「Lobsterr Letter」では、未来の兆しとなるようなビジネスやカルチャーのニュースを集め、編集部の感想や考察を添えて紹介しています。ニュースの速読というより、選び抜かれたニュースが長めに書かれているため、私は月曜の朝、コーヒーを飲みながらまず見出しをチェックし、気になったトピックを後からじっくり読むのが習慣です。なかでも特に好きなのが、ニュースレター冒頭の「Outlook」のコーナー。編集部が気になっているテーマに沿って、関連する記事を挙げながら展開される小論考のような内容で、「何かおもしろいことありますかね」「面倒を見るという仕事」「ビジョンがなくても」など、毎回のタイトルにも惹かれます。

INA「BAROMÈTRE」 www.data.ina.fr

INA「BAROMÈTRE」

Selected by 編集部(沖)

フランス国立視聴覚研究所(INA)が毎月発行している「BAROMÈTRE」は、ニュース番組やラジオ放送をAIで分析し、報道でどんな言葉が繰り返され、どの地域が目立ち、誰の声が多く聞こえたのかを数値化するニュースの鏡のようなレポートです。興味深いのは「声の偏り」。ニュース番組で話す女性の割合はわずか39%。つまり、テレビの音の6割は今も男性の声に占められているのです。一方で文化系ラジオ「France Culture」は男女比が50対50と最もバランスが取れていました。数字だけを追っているのに、メディアが映す社会の影がくっきり見える「ニュースのあと読み」がこのバロメーターの魅力。ニュースをただ受け身で見るのではなく、今の社会を観察する感覚が得られます。

Time Sensitive www.timesensitive.fm

Time Sensitive

Selected by 編集部(徒)

文化・アート・政治などのジャンルから、今立ち止まって考えたいものを紹介する「The Slowdown」というメディアがあるのですが、その編集長スペンサー・ベイリー氏が手掛けるポッドキャストが「Time Sensitive」です。毎月「時間」をテーマに作家やアーティスト、建築家、思想家などをゲストに迎え、その人が時間とどう向き合い、創作や人生に生かしているかを掘り下げます。これまでに写真家の杉本博司、ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルをはじめ、第一線で活躍する人々が出演しています。最近、私はニュースを急いで日本語翻訳して読むクセがつき、さらにニュース以外でもそのせわしない読み方が定着しかかっているため、文字ではなくあえて耳から英語をじっくり味わうようにしています。

クーリエ・ジャポン https://courrier.jp

クーリエ・ジャポン

Selected by 編集部(穂)

海外の媒体から選りすぐりの記事を日本語で紹介する「クーリエ・ジャポン」は、独自の特集が組まれ、さまざまな視点から物事を考えることができる媒体で、学生時代からお世話になっていました。印象に残っているのは「9割の日本人が知らない『危機』」と題された2015年の緊急総力特集で、パリ同時多発テロ事件の発生直後に発行された号です。当時渡独を1年後に控えていた私は、今この時代に欧州に行くとはどういうことなのか、答えを求めて手に取りました。現在はウェブ版のみですが、記事だけでなく動画配信やイベント開催など、まだまだメディアの可能性を感じさせてくれます。オンラインイベントでは編集長や読者と直接話す機会もあるので、また参加したいなと考えています。

 

生誕250周年 時代と共に変わるジェーン・オースティンの魅力

生誕250周年
時代と共に変わる
オースティンの魅力

Jane Austen

18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍した小説家ジェーン・オースティン。上流階級の末端に生まれ、地方ジェントリとして比較的穏やかな生活を送りながらも、当時の階級秩序や女性の生き方を冷静な眼差しで見つめ続けた。この特集では、発表当時の風俗小説的な読まれ方から、19世紀末の文体的再評価、1990年代の映像化ブーム、そして現代のフェミニズム的再読へと、時代と共に変化しながら読み継がれてきたオースティン像をたどる。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: Jane Austen's House、www.janeausten.org、https://janeausten.co.ukほか

Jane Austen
ジェーン・オースティン
1775-1817

18世紀末から19世紀初頭にかけて活動した英国の小説家。8人兄妹の次女として、1775年12月16日、英南部のハンプシャー、スティーヴントンで生まれた。父は教区牧師で、知的で文化的な家庭環境のもと、少女時代から読書と創作に親しむ。代表作に「高慢と偏見」「分別と多感」「エマ」などがあり、地方ジェントリ社会を舞台に、階級、結婚、経済的自立といったテーマを繊細かつ皮肉な筆致で描いた。感傷主義やゴシック小説が人気を集めた時代にあって、現実の人間関係を緻密に描いたことで、後に近代小説の先駆と位置づけられる。

生涯独身を貫き、家族と共に田園生活を送りながら執筆を続けたが、1817年、41歳で病に倒れ、英南部ウィンチェスターに没した。生前は作者名を明かさず「By A Lady」とのみ記しており、「Jane Austen」と作者名が明記されて世に出るようになったのは、死後出版された遺作からだった。だが死後も作品は読み継がれ、日常生活の中に潜む人間の欲望と機微を見事に描き出した筆致は、200年以上を経た今日も色あせていない。

姉のカサンドラがジェーンを描いた水彩画姉のカサンドラがジェーンを描いた水彩画

1ジェーン・オースティンの生きた時代

ジェーン・オースティンが生きた時代は、一見すると穏やかな英国の田園社会だが、実際には大きな社会変動と価値観の転換期だった。

18世紀後半の英国は啓蒙思想の影響を受け、理性や道徳、社会秩序を重んじる「理性の時代」と呼ばれていた。一方で、産業革命が進み、都市化や中産階級の台頭が始まる。これにより、従来の階級構造が揺らぎ、経済力による新しい社会的上昇の道が生まれた。オースティンの作品にたびたび描かれる「財産」「結婚」「身分」は、まさにこの社会変化を背景にしている。

さらに、欧州ではフランス革命(1789年)やナポレオン戦争(1803~15年)が続き、英国社会も政治的不安や戦争景気で揺れていた。オースティンの兄たちも従軍しており、オースティン自身も戦争の影響を身近に感じていたはずだ。

文学の世界では、読者の共感や涙を誘うために登場人物がしばしば極端な感情表現をする感傷主義が流行。代表作としては、サミュエル・リチャードソンの「パメラ」(1740年)やシャーロット・スミスの「エメリン」(1788年)など、感情や道徳的な善悪のドラマが前面に出る作品が人気を博していた。また同じく18世紀末に人気を博したジャンルにゴシック小説がある。廃墟や古城、修道院などの神秘的で恐怖をあおる舞台を用い、劇的で非日常的な展開が読者に好まれた。アン・ラドクリフ「イタリアの修道院」(1797年)が象徴的で、オースティンと同時代のメアリー・シェリー「フランケンシュタイン」(1818年)にもその一端が見られる。

ただ、オースティンはそうした流れとは一線を画し、自分に身近な人間関係や社会の機微を精緻に描くことで、現実に根ざした小説表現を確立した。だがその作品は、当時は中流階級の女性たちが好んで読む風俗小説として人気を博したまでであり、現在のように英国を代表する作家の一人と数えられるには、数十年の月日を待たなければならなかった。

オースティン・フェスティバルオースティンの小説に書かれた19世紀初頭のジェントリ階級のイメージ。写真は2018年に英南西部バースで開催されたオースティン・フェスティバルの参加者たち

219世紀末のオースティン再評価

オースティンの死後数十年を経て、ヴィクトリア朝時代に文学界でオースティン再評価の動きが始まった。批評家や教育者は、オースティンの小説に見られる物語構成の巧みさや心理描写の精緻さに注目し、当初「上品な風俗小説」として軽視されていた作品の文学的価値を改めて認めるようになった。出版事情も追い風となった。1870年代以降、再刊版や注釈付き上製本が増え、広範な読者層が作品に触れられるようになったことが、再評価を後押ししたのである。

「分別と多感」の初版本「分別と多感」の初版本。作者名が「By A Lady」となっている。

当時の文学界は、チャールズ・ディケンズやウィリアム・サッカレーなどが描く、都市生活や社会問題に関心が集まるリアリズム文学の時代。オースティンの日常生活や社交界に根ざした精緻な人物描写は、18世紀末の感傷主義やゴシック小説の影響から独立した価値として評価されやすかったのだといえる。

この再評価の波は海外にも届き、日本では夏目漱石がオースティン作品に注目したことが知られる。漱石は19世紀末から20世紀初頭にかけて英文学を研究するなかで、オースティンの理知的で控えめな筆致や、登場人物の心理や社会関係の描写を高く評価。その著書「文学論」(1907年)の中で、「ジェーン・オースティンは写実の泰斗たいとなり。平凡にして活躍せる文学を草して技神ぎしんに入る点に於いて、優に鬚眉しゅびの大家をしのぐ」(ジェーン・オースティンは写実文学の達人であり、平凡な日常生活を題材にした小説を手がける技術において、当時の著名な作家たちをも優にしのぐ)と書いている。漱石自身も近代小説の技法を探求していた時期であり、オースティンの作風はその文学観形成に一定の影響を与えたと考えられる。

夏目漱石夏目漱石は1900~01年、文部省からの要請で英語教育法研究のため英国に留学した

3スクリーンの中のオースティン

19世紀末の再評価や20世紀を通じた学術的研究により、1990年代にはジェーン・オースティンの名はすでに英国文学の中で確固たる地位を築いていた。そんななか、1995年にBBCによるジェニファー・イーリー、コリン・ファース主演の6話構成のテレビ・ドラマ「高慢と偏見」が放送された。このシリーズは英国内で1000万人以上の視聴者を記録し、社会現象に。同年には、アン・リー監督が「分別と多感」を映画化した「いつか晴れた日に」も公開され、興行的にも世界で1億ドルを超える大成功を収めた。また、「エマ」を現代の米国に置き換えたパロディー映画「クルーレス」も話題を呼び、オースティン作品を直接読まない若年層にもその物語の世界が広がった。

映像化によって、オースティン作品の持つ魅力はより視覚的に伝えられるようになった。階級社会のルールや社交界での微妙な駆け引き、人物間の心理的なやりとりがスクリーン上で具体化され、原作の文章だけでは読み取りにくいニュアンスが観客に伝わるようになった。また、制作側は現代の価値観に合わせて、恋愛や女性の自立といったテーマを強調することが多く、原作の持つ日常描写や皮肉の効いたユーモアが新しい形で再解釈された。こうした映像化の波は、オースティン作品を古典文学としてのみ読むのではなく、「娯楽としても楽しめる作品」として再評価する契機ともなった。文学的価値の定着と映像エンターテインメントとしての人気が相互に作用し、オースティンの作品は時代を超えて幅広い層に受け入れられる存在となったのだ。

1995年のBBCのヒット・ドラマ「高慢と偏見」の一場面1995年のBBCのヒット・ドラマ「高慢と偏見」の一場面

4現代のフェミニズム的再解釈

21世紀に入ると、オースティン作品の映像化は娯楽的な恋愛ドラマの枠を超え、フェミニズムの視点から再構築されるようになった。そこでは、女性が社会の制約の中で自らの声を見いだし、感情と理性の均衡を模索する物語として読み直されている。例えば、2005年版「プライドと偏見」でキーラ・ナイトレイが演じたエリザベスの奔放さは、ヴィクトリア朝時代的な「慎み」ではなく、自分の感情に率直であることを肯定する新しい女性として描かれた。こうした再解釈は、オースティンが描いた女性たちを、従属的存在ではなく自らの判断で生きようとする個人としてとらえ直す試みでもある。

そしてその流れは、2010年代以降の作品でさらに深化する。近年の映像化では、女性が直面する抑圧はもはや法や制度によるものではなく、社会的期待や自己演出の圧力といった現代的な心理的束縛として描かれるようになった。SNS時代に生きる私たちが感じる「完璧であらねばならない」という理想的女性像への同調圧力と重ね合わせるように、登場人物たちは無意識のうちに内面化した規範から自由になろうとする。「高慢と偏見」の現代版「ブリジット・ジョーンズの日記」(映画版は2011年)が大ヒットしたのもこの時期だ。

さらに、2020年のオータム・デ・ワイルド監督による「EMMA エマ」では、主人公エマは特権的な立場から他人の恋愛を操作するが、その「善意」に潜む支配性に気付き、他者と対等な関係を築くことで初めて成熟に至る。そこには、善意による支配を自省し、他者との関係の中で真の自由を見いだそうとする現代的な女性像が投影されている。オースティンが生きた18世紀末から200年を経て、そのヒロインたちは今、「自分の物語を語る女性」としてスクリーンに立ち続けている。オースティンの小説の世界は、いまなお私たちに社会の中で女性がどう自分を見つめ、どう他者と生きるのかという普遍的な問題を提起してくれる。

2020年作品「EMMA エマ」で主演を演じたアニャ・テイラー=ジョイ(右)2020年作品「EMMA エマ」で主演を演じたアニャ・テイラー=ジョイ(右)

ジェーン・オースティン長編作品

ジェーン・オースティンの主要な長編小説6作を紹介。いずれも19世紀初頭の英国社会における結婚・階級・経済・女性の生き方を繊細に描いたものばかり。なお、未完小説に「サンディトン」(Sanditon 1817年)がある。

1. 分別と多感
Sense and Sensibility (1811年)

理性派の長女エリナーと感情派の次女マリアンという姉妹が、恋愛と失意を通して成熟していく物語。感情と理性のバランスを主題に、当時の結婚観と女性の自立を描く。

2. 高慢と偏見
Pride and Prejudice (1813年)

才気あるエリザベス・ベネットと誇り高いダーシー氏の恋愛を軸に、階級意識と人間の偏見を風刺する代表作。ウィットに富む会話劇と女性の主体性が光る。

3. マンスフィールド・パーク
Mansfield Park (1814年)

貧しい家から伯父の屋敷に引き取られたファニー・プライスが、道徳心と誠実さによって自らの立場を確立していく。道徳的価値観と社会的序列の問題を深く掘り下げる。

4. エマ
Emma (1815年)

裕福で聡明だが思い上がりの強いエマ・ウッドハウスが、他人の恋愛をお節介に操ろうとするうちに、自分自身の感情に気づく物語。心理描写とユーモアが際立つ。

5. ノーサンガー・アビー
Northanger Abbey (1817年 没後出版)

ゴシック小説に夢中なキャサリンが、ノーサンガー・アビーという古めかしい屋敷を訪れる。そこでホラー体験を空想したことで、現実と小説を混同し事態は思わぬ方向へと進む。ゴシック文学風刺とロマンティックな諷刺の融合が特徴。

6. 説得
Persuasion (1817年 没後出版)

かつて婚約を解消したアン・エリオットが、8年後に再び元恋人と出会い、再生の愛を見つける物語。成熟した筆致で後悔・誇り・第2のチャンスを描く晩年の傑作。

ジェーン・オースティンズ・ハウス・ミュージアム

Jane Austen's House Museum

英南部ハンプシャーのチョートンにあるジェーン・オースティンズ・ハウス・ミュージアムは、オースティンが生涯最後の8年間を過ごした17世紀建築のコテージ。ここで暮らす間、すでに完成していた初稿を改稿し出版に備えたほか、新作を執筆するなどしていた。博物館としては1949年に一般公開を始め、オースティン本人が使っていたライティング・テーブルが展示されているほか、オースティンが所有していた初版本、手紙、アクセサリーなどの所蔵品もあり、その生涯と創作活動が分かる。定期的にワークショップ、トーク、特別展などのイベントが実施されており、250年目の誕生月である12月には、オースティンのキャリアを称える特別イベントやクリスマスのイベントも開催。混雑が予想されるので、予約をお勧めする。

Jane Austen's House Museum
10:00-17:00
£15
Winchester Road, Chawton, Hampshire GU34 1SD
Tel: 01420 83262
Alton駅
https://janeaustens.house/

Jane Austen's House MuseumJane Austen's House Museum

 

ロンドンに息づく信仰と食のかたち

知っているようで知らない ロンドンに息づく
信仰と食のかたち

宗教と食のつながり

宗教と食のつながりは、世界の文化を映す確かな手がかり。多民族都市ロンドンには、信仰に沿った食文化が息づき、街の食卓にも独自の彩りを添えている。この特集では、東方正教会、ヒンドゥー教、イスラム教、ユダヤ教、の四つを取り上げ、食を通して見えてくる価値観や暮らしのリズムを探る。ロンドンの宗教人口比率も交えながら、この街の多様な食の風景を紹介しよう。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.bbc.co.uk https://pro.nandemosake.com www.ons.gov.uk www.bda.uk.comほか

宗教と食の関係には、戒律、食材の選択、調理法、儀式食など、いくつかの普遍的な共通点がある。いずれも身体を整え、共同体をつなぎ、より良い生を送るための知恵として古くから受け継がれてきたものだ。

英国、とくに大都市ロンドンでは、こうした信仰に沿った食習慣が「特別な文化」としてではなく、日々の暮らしのなかに自然に溶け込んでいる。宗教的背景とは関係なく、ベジタリアンやビーガンの人々、あるいは単にその味が好きで宗教的背景を持つ惣菜を買い求める人も多く、宗教食は生活圏のなかで多様なかたちで受け入れられている。

友人や同僚の食習慣を知ることは、互いの背景を理解する小さなきっかけになり、日常の景色をより豊かにしてくれる。料理をきっかけに会話を交わせば、遠くの地域や宗教が驚くほど近く感じられる瞬間がある。ロンドン、そして英国には、そうした多様性と出会いがあふれている。この環境を生かし、食を通じて世界とつながる視点を広げていきたい。

ロンドン住民の宗教

2023年公表の国勢調査では、無宗教や宗教の無記名が34.1パーセントに達している。この傾向は、信仰をより個人的なものとして扱う都市の空気を映しているのかもしれない。こうした背景が、多様な宗教の食文化が日常に溶け込みやすい土壌になっている、という見方もある。

ロンドン住民の宗教

東方正教会
断食期間中は豆類・野菜

東方正教会

東方正教会は、主にギリシャ、ロシア、ウクライナ、バルカン諸国、中東の一部に信徒が多いキリスト教の一派。古くから続く礼拝と伝統を重んじ、「節制」「祈り」「断食期間」が信仰生活に深く結びついている点が特徴だ。食の規律も、心身を整え、神との関係を深めるための重要な実践とされている。

食に対する意識

東方正教会では、普段の食事では厳格な禁忌は少なく、断食期間以外は自由に食べることが認められている。ただし、年間を通じて多くの断食期間が設けられている。断食といっても完全な絶食ではなく、特定の食品を控える「節制の食事」を指す。目的は、欲望を抑え、祈りと慈愛に心を向けることだという。断食の厳格さは、信者や地域によって異なる場合があるものの、代表的な断食には、毎週水曜日と金曜日、イースター前とクリスマス前の約40日間に及ぶ長期のもの、8月の生神女就寝祭前の2週間の断食などがあり、信徒はそれぞれの時期に食の規律を守るとされている

禁じられている食材(断食期間中)

  1. 肉類
  2. 乳製品(動物性ミルク、チーズ、バターなど
  3. 魚(ただし特定の日に許可される場合がある)
  4. オリーブ・オイル(一部の日に解禁される)
  5. アルコール

ギリシャ正教会の断食では、動物性食品は避けるのが基本だが、野菜や豆類、パン、オリーブ・オイルなどは広く食され、イカやエビといった一部の魚介類も「背骨がない」ことから許されている。小さな子どもや高齢者は断食の対象外とされる。一方でロシア正教会ではオリーブ・オイルも禁止されているなど、正教会の中でも違いがある。

断食中のメニュー

ここではロンドンで最も教徒の人口が多いといわれるギリシャ正教会のメニューを紹介する。

ファソラーダ(Fasolada)

白インゲン豆やトマト、唐辛子を使ったスープ

ファソラーダ(Fasolada)

ドルマデス(Dolmades)

挽き肉や米などの具材をブドウの葉で包んで蒸し煮にしたもの

ドルマデス(Dolmades)

カラマリ(Calamari)

イカのフライ

ラデラ(Ladera)

オリーブ・オイルで煮込んだ野菜料理

ラガナ(Lagana)

表面に白ゴマが付いた平たいパン

ヒンドゥー教(Hindu)
純粋なベジタリアン

ヒンドゥー教

ヒンドゥー教は、世界で最も古い宗教の一つと考えられており、起源はおよそ4000年以上前にさかのぼる。現在、信徒数は世界で約10億人とされ、その多くは南アジアに集中しているが、世界各地にコミュニティーがある。英国では人口の約1.5%がヒンドゥー教徒であると回答しており、国内で3番目に大きい宗教集団となっている。

食に対する意識

ヒンドゥー教では、あらゆる生命を傷つけない非暴力、アヒンサー(ahimsa)という考えが非常に重要視されている。そのため、多くのヒンドゥー教徒は肉食を避け、菜食中心の生活を送っているとされる。また、サットヴァ(純質)、ラジャス(激質)タマス(鈍質)と呼ばれる性質によって食物の性格を分類し、心身を清浄に導くとされるサットヴァの食を重視する傾向がある。

禁じられている食材

地域やコミュニティーによる差異はあるものの、一般的に以下の食品が避けられる。

  1. 牛肉(牛は神聖視されているため禁食)
  2. 魚を含む多くの肉類(一般的にヒンドゥー教徒は完全菜食)
  3. アルコール
  4. 玉ねぎ・にんにくなど刺激が強い食材(ラジャスやタマスを増すとされる)

特に牛は母性や大地の象徴として神聖視されているため、牛肉を口にすることは固く禁じられている。また、魚や肉・卵を避ける人も多く、牛を傷つけない乳製品はむしろ好まれる傾向がある。食品やスパイスはヒンドゥー教に関係なく普及し、英国のスーパーでも買いやすい。

ロンドン在住のD.Pさんに聞いた ヒンドゥー教徒の食習慣

ヒンドゥーの神話や教えでは、曜日ごと、さらには季節ごとに異なる穀物や豆類を食べる必要があるとされています。私たちは、何千年も前に作られた聖典から受け継いだこの習慣を、今でも熱心に守っています。買い物は、伝統的なインドの食材リストに基づくので、基本的に慣れた商品しか買いません。新しい商品を手に取る際には、ゼラチンやレンネット(動物由来酵素)が含まれていないか必ず確認します。職場の食事では、たいていベジタリアンのサンドイッチを選びます。宗教的には、ヒンドゥー教徒は「純粋な菜食主義者」です。卵も食べません。簡単に言うと、ヒンドゥーの信仰では「自ら生命を持つもの」を食べることを避ける傾向があります。

多くのヒンドゥー教徒が肉を食べないのは、純粋さや伝統のためだけではなく、心を穏やかに保ち、集中力や思いやりを育むとされるサットヴァな食べ物を重視しているためです。そのため、玉ねぎやニンニクのようにラジャスとされる食品は、特定の日には避けられることがあります。

イスラム教(ハラールHalal)
豚肉とアルコールを避ける

イスラム教は世界各地に信徒がいるが、とくにアジア、北アフリカ、中東に多いとされる。唯一神アッラーへの服従を説く一神教で、7世紀初頭に預言者ムハンマドが受けた啓示をまとめたコーランと、その言行録であるハーディス(Hadith)に基づいて信仰生活が営まれている。

食に対する意識

イスラム法シャリーア(Sharia)には、食事のマナーや食べてよい・悪い食品に関する規定が多く定められている。許されているものをハラール、禁じられているものをハラーム(Haram)と呼び、日々の食事はこの区分に沿って選ばれる。また、ラマダンの期間には日の出から日没まで飲食を断つ断食が行われる。水を含む一切の飲食を控えることで、節制と信仰心を深める時間とされている。

禁じられている食材

  1. 豚肉(ポーク・エキスやゼラチン、ラードなどのブタ由来の調味料や添加物も)
  2. イスラム法にのっとり屠殺されていない食肉
  3. アルコール

豚以外の肉は、アッラーの名を唱え、決められた方法で屠殺されたハラール・ミートであることが条件となる。また飲酒だけではなく、料理へのアルコール混入も禁止。さらに、地域や個人によって差はあるものの、うなぎ、イカ、タコ、貝類、発酵食品などに抵抗感を示す教徒もいる。なお、肉や加工肉はハラール認証が重要であるものの、中東食品は宗教に関係なく普及し、英国のスーパーでも買いやすい。

HALAL

ロンドン在住のM.Mさんに聞いた イスラム教徒の食習慣

多くの人は、ハラール=単なる禁止事項のリストだと考えがちです。でも実際には、感謝、思いやりを大切にする食のあり方です。制限というより、日々の「体と心を養う行為」を高めるための指針、食事そのものが礼拝や感謝の行いになり得るという考え方でもあります。ロンドンは本当に多様なので、ハラールの選択肢を見つけること自体は比較的容易です。難しいのは、食材や調理方法が倫理的かつ健全であるかを確かめることです。また、多くの人がシーフードには特別な認証が必要だと誤解していますが、必要ありません。そして、ベジタリアン食であれば自動的にハラールだと思われがちですが、アルコール系のフレーバーなどが含まれる場合もあります。

ラマダン期間中は、シンプルかつ静かな心で向き合っています。夜明け前に栄養のある食事をとり、日中は無理のないペースで過ごし、日没後は職場でもデーツと水で断食を開けます。ラマダンは日常の瞬間に精神性をもたらしてくれるので、自然と負担ではなく力になっていきます。

HALAL

ユダヤ教(コーシャKosher)
肉と乳製品は同時に取らない

ユダヤ教では、食に関わる規律が日常生活と密接に結びついている。これらの規律はカシュルート(Kashrut)と呼ばれ、モーゼ五書に書かれた律法やラビの解釈に基づいて受け継がれてきたものだ。規律を守った食品はコーシャといい、食の選択そのものが信仰と生活をつなぐ重要な実践になっている。

食に対する意識

コーシャを守るユダヤ教徒は、食材の種類だけでなく、屠殺方法、調理法、組み合わせにも気を配りながら日々の食事を選んでいる。とくに肉類と乳製品を一緒に食べないという規律は特徴的で、家庭やレストランによっては皿や調理器具を完全に分ける場合もある。ただし、どこまで厳格に遵守するかは個人やコミュニティーによって幅があり、現代のロンドンでも、厳格なコーシャ家庭から部分的に取り入れる人まで、実践の形はさまざまだ。

禁じられている食材

  1. 豚肉( ポーク・エキスやゼラチン、ラードなどのブタ由来の調味料や添加物も)
  2. 貝類・甲殻類などの魚介類(ヒレとウロコのないもの)
  3. ユダヤ教の戒律にのっとった屠殺方法で処理されていない肉
  4. 肉と乳製品を同時に摂ること(カトラリー、食器、調理器具も分ける)
  5. 血痕のある卵

肉類については、牛や羊をはじめとした、ひづめが割れている反すう動物だけが許され、鳥も特定の種類のみが認められている。いずれも、コーシャ専門の業者がユダヤ教の戒律に従い、動物に苦痛を与えずに屠畜し、血抜きなどの処理をしたものを利用。そうした商品にはコーシャ認証マークがついている。魚はヒレとウロコのある種類のみとされる。肉と乳製品は3~6時間あけて食せば問題はない。

コーシャ料理の食材

ユダヤ人には、大きく分けて東欧出身のアシュケナージと、南欧からスペイン、モロッコまでに広がる地域出身のセファルディムという二つのグループがあり、それぞれ食文化が違う。ここでは英国の一般スーパーマーケットのコーシャ売り場で入手可能な両グループの代表的食品を挙げる。

マッツァ(Matzah/Matzo)

クラッカー状の無発酵パン。過越の祭りに食べる

マッツァ

ゲフィルテ・フィッシュ(Gefilte Fish)

魚のすり身で、つみれのようなもの。瓶・缶で売られている

ゲフィルテ・フィッシュ

コーシャ・チキン(Kosher Chicken)

安息日のチキン・スープ用

フォルシュマーク(Forshmak)

刻みニシン。刻んだ固ゆで卵、タマネギ、リンゴを加え安息日の前菜に

コーシャ・ピクルス(Kosher Pickles)

キュウリを塩水、ニンニクやディルなどのハーブを合わせて発酵させたもので、酢は使われていない

 

2025年秋以降、欧州旅行はこう変わる!新システム「EES」導入で入国手続きが一新

2025年秋以降、欧州旅行はこう変わる!新システム「EES」導入で
入国手続きが一新

2025年10月12日から、新しい出入国システムEES(Entry/Exit System)がシェンゲン協定加盟国で導入された。(26年4月10日時点でシェンゲン協定加盟国、全29カ国の導入が完了)これにより、これまで旅行など短期滞在時に入国審査で押されていたパスポートのスタンプは廃止され、出入国の記録は全てデジタルで管理される。長らく導入が注目されているETIASとはまた別の制度なので、混同に注意しよう。

参考)www.gov.uk/guidance/eu-entryexit-system

UK Border

EES導入により、欧州旅行者は到着時に顔写真と指紋を登録する。そのデータは最大3年間保持されるため、再入国時の手続きは簡略化される。また、これまでも「180日の間で通算90日まで」というシェンゲン協定加盟国内の滞在制限は存在していたが、従来のスタンプによる管理よりも厳密にシステムでカウントされる。日数超過は即座に把握されるため、観光・ビジネスいずれの場合も滞在計画には十分注意したい。また、3年間とはいうものの、パスポートを更新するなどしてパスポート番号が変わった場合は、再度登録が必要になる。

EESの制度そのものは全旅行者に共通するが、英国から出発する人と、日本から直接訪れる人とでは注意すべき点に少し違いがある。

英国在住者が欧州を旅する場合

シェンゲン協定の短期滞在ルール

英国はEUを離脱したため、英国人や英国在住者であっても、シェンゲン協定加盟国に入る際は日本から直接来る旅行者と同じルールが適用されている。滞在は従来通り「180日の間で通算90日まで」に限られるので、出張や旅行を繰り返す人は必ずカレンダーなどで日数を管理する必要がある。

EES登録は出発前に英国側で行う

特にロンドン在住でパリやブリュッセルなどへ週末旅行を繰り返す人は要注意だ。ユーロスター(ロンドン・セントパンクラス駅)、ユーロトンネル(フォークストン駅)、ドーバー港などから出発する場合は、EESの登録が英国出発地で行われるため、出発時間の3時間前までに到着を求められる可能性が高い。日本人だけでなく英国人も登録が必要なので、初回は長時間の行列を覚悟しておきたい。ただし1度登録を済ませれば、データは3年間有効で、次回以降は照合がスムーズになる。

日本から直接欧州へ行く場合

到着時に生体情報を登録

最初の入国時に到着した空港や港の入国審査場で指紋・顔写真の登録が行われるため、手続きに時間がかかる可能性がある。特にパリやフランクフルト、ローマなど主要空港は長蛇の列が予想される。乗り継ぎ便の利用者は、余裕を持ったスケジュールが必要だ。日本から行く場合も3年間有効で、次回以降は照合がスムーズになる。

シェンゲン協定加盟国とは

シェンゲン圏(Schengen Area)は、国境検査を廃止し、人の自由な移動を可能にした欧州の国々を指す。EUと重なる部分は多いが、完全に一致するわけではない。

● シェンゲンに参加しているEU加盟国

  • オーストリア
  • ベルギー
  • ブルガリア
  • クロアチア
  • チェコ
  • デンマーク
  • エストニア
  • フランス
  • ドイツ
  • ギリシャ
  • ハンガリー
  • イタリア
  • ラトビア
  • リトアニア
  • ルクセンブルク
  • マルタ
  • オランダ
  • スウェーデン
  • スペイン
  • ポルトガル
  • スロバキア
  • スロベニア
  • フィンランド
  • ポーランド
  • ルーマニア

● EUに加盟していないがシェンゲンに参加している国

  • ノルウェー
  • スイス
  • リヒテンシュタイン
  • アイスランド

● EUだがシェンゲンに入っていない国

  • アイルランド
  • キプロス
 

善意とビジネスが共存するシステム英国における
チャリティー・ショップ事情

英国ではどこのハイ・ストリートにも必ず一つや二つはあるチャリティー・ショップ。ホームレスの救済や、がん撲滅のための研究費調達など、チャリティー・ショップで買い物することで、慈善活動に参加したことになる。このような店は日本ではあまり目にしないため、その仕組みを知らない人も多いのでは? 今回は英国で生まれたチャリティー・ショップがどのように運営されているかをお届けしよう。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

チャリティー・ショップ

チャリティー・ショップとは?

チャリティー・ショップは、さまざまなチャリティー団体によって運営される中古品の販売店。リサイクル・ショップと異なるのは、市民が寄付した不用品を安く販売し、その売り上げを各団体の慈善活動に充てている点にある。もともとは、19世紀半ばに発足したサルベーション・アーミー(救世軍)や、第2次大戦時に赤十字が貧しい人のために古着を安価で売っていたのが発展した。現在のように、母体のチャリティー団体を支えるために運営されるショップは、1948年にオープンした救済団体Oxfamのものが最初。現在、英国には1万1軒を超えるチャリティー・ショップがあるが、そのうち83パーセントがイングランドに集中している。

チャリティー団体の基準

チャリティー・ショップを運営できるのは、基本的には母体となるチャリティー団体。イングランドとウェールズでチャリティー団体として認められるには、社会に寄与する慈善事業であることを証明しなければならず、「チャリティー・コミッション」の審査を受け、登録番号をもらう必要がある。
http://charity-registration.com/why-form-a-charity

Q & Aプロが分かりやすく解説!チャリティー・ショップはこんな風に運営されている

英国全体のチャリティー・ショップの80パーセントが参加しているという、チャリティー専門の小売組合「チャリティー・リテール・アソシエーション」。ここで広報・リサーチを担当するマシュー・ケルチャーさんに、チャリティー・ショップの運営に関する素朴な疑問をぶつけてみた。

働いている人はみなボランティア?

給与をもらっているチャリティー・ショップの正規スタッフは英国全土で約2万3500人、それに対しボランティアは約20万人。1店舗につきスタッフがマネージャーとして1人か2人いるようになっています。

多くのマネージャーは、一般の小売業で働いていた経験があり、彼らはチャリティー業務により「やりがい」を見出していると聞きます。慈善活動ですから良い行いをしているという気持ちもあるでしょう。また、地域に利益を還元する、コミュニティーを活性化させるという大役を担っていて、どんな品ぞろえが良いのか、価格はどのぐらいが適正なのか、その地域をよく知っていればこその判断を求められるのです。

誰でもチャリティー・ショップを開けるの?

たいていのショップには母体となるチャリティー団体が存在します。チャリティー・ショップのスタッフも、ショップに就職するのではなく、母体となるチャリティー団体に就職することになります。

いきなり個人でショップをオープンしても、チャリティー・ショップの法的条件である、①全ての利益はチャリティー団体へ還元される、②商品は寄付されたものである、という2点をクリアしているかどうか、厳しい審査を通らなければならず、それまではチャリティー機関としては認められません。なので、誰でもチャリティー・ショップを開けるかという質問に対しては、「不可能ではない」とお答えします。

売り上げの何パーセントが経費になる?

売り上げの60~80パーセントが経費になります。これを聞いて「ほとんど経費になってしまうじゃないか」と思われますか?

この数字は、ほかのビジネスに比べて随分優秀なのですよ。それに加え、チャリティー団体は付加価値税(VAT)を支払わなくて済むなど、一般ビジネスとは異なり、税制上の優遇措置を受けています。これはチャリティーという行為に対する、政府やカウンシルからの義援金と言ったらよいでしょうか。ちなみに、2024年度、チャリティー・ショップ全体で、母体となるチャリティー団体へ3億8700万ポンド(約735億円)以上の利益を渡すことができました。

商品となる寄付品はどこからくる?

個人であれば、引越しの際に身の回り品を見直し、不必要になったものを寄付するというパターンが多いですが、企業や学校からの寄付も少なくありません。

チャリティー団体と契約しているファッション関連のメーカーが、シーズンを過ぎた在庫を持ってくる場合や、企業が不要になったオフィス用品を寄付してくれることもあります。街角にチャリティー用の大きいコレクション・ボックスが設置されているのをご存知ですか。店まで寄付品を持ってこられない人は、家の近くのボックスへそれを入れれば回収されます。身近にショップやボックスがあることで、人々は衣類を簡単に廃棄しないようになります。

品物の値段はどうやって決める?

寄付された品物に値段を付ける方法は、チャリティー団体によって異なリます。大きな団体だと細かく設定された価格表が存在し、各支店がそれを目安にしています。基本的に、「スカート」「良好」など種類や状態だけで価格を判断するので、ブランド品も格安で売られることになります。ただし、エリアによって若干価格設定は異なりますね。また、ブランド品ばかりをそろえるショップでは、eBayなどのオークション・サイトで近似品がいくらで販売されているかを参考にすることもあります。

ちなみに2024年度の統計では、1人の1回の平均購入額は7.32ポンド、ショップの平均販売回数は1日70回です。

寄付された衣類はどのようにきれいにしている?

ショップでは持ち込まれた全ての衣類を洗うことはしないようです。蒸気を当てて熱で消毒し、シワなどを取っています。洗濯機があるショップもあるかもしれませんが、光熱費が大変なので、基本的にはスチーマーやアイロンを利用します。また、大量の寄付品を扱うため、スタッフが破れたりボタンが取れたりしている衣類を修繕する時間はありません。そのような衣類は売り物にはならず、破棄されるか衣料専門のリサイクル会社へと回されます。

リサイクル会社に引き取られた衣類は、分解して再生されるか、古着として海外へ送られ販売されます。統計によると、破棄されるのは寄付された衣類の5パーセントほどに過ぎません。

スチーム

ボランティア・スタッフにインタビュー

ホームレスのためのチャリティー団体「Crisis」が運営するチャリティー・ショップで実際に働くA.Wさんに聞きました

以前はほかの団体で働いていましたが、今年の5月にこのショップに来ました。現在は週10時間、主に本の売り場を担当しています。もう少し長時間やりたいと考えているところです。値段のタグ付けなど、何でもやりますよ。ボランティアには、欧州の学生さんたちがワーク・エクスペリエンスとして来たりもしますが、ほかに仕事を持つ英国人が空いた時間にボランティアをすることが多いですね。やはり仕事としてのやりがいが、ほかとは全然違うからではないでしょうか。ホームレスをサポートするショップなのに、自分がホームレスについてあまり知らないのでもっと勉強したいです。

売れ筋:60年代~70年代に発売されたレコード
扱わない物:食べ物、大きな電化製品、外国語の本、オリジナル絵画など
寄付してくださる方へ一言:破れた服は残念ながら売り物にはなりません

CRISIS

「Crisis」のチャリティー・ショップ  Archway店
34 Junction Road, London N19 5RE
Tel: 020 7281 5171
月~土 10:00-18:00 日 11:00-17:00
www.crisis.org.uk

気軽にチャリティー・ショップを利用しよう!

チャリティー・ショップの母体となるチャリティー団体の活動に共感し、その活動に協力するためにショップを利用するのはもちろん、そうかしこまらなくても、リサイクルの一環として、まずは気軽に訪れてみてはどうだろう。

寄付する
店に直接持って行く

衣類は事前にきちんと洗い、クリーニングに出すなどして、きれいにしてからお店の人に渡す。「寄付する」は英語で「to donate」。「これらを寄付したいのですが」と伝えればOK。おもちゃ、家具、電化製品も大丈夫だが、壊れていないことが前提。大きい家具や電化製品は引き取ってもらえるかを事前に聞いてから。店によっては無料で取りに来てくれるところもある。オープニング時間外に店の前に寄付品を置いておくと、通行人に荒らされてダメージを受けることもあるので避けよう。

to donate

回収してもらう

地区によってはチャリティー団体が専用のビニール袋を各家庭に配布している。その袋に寄付したい品物を詰めて、期日に家の外へ出しておくと回収してくれるので、普段からチャリティーに寄付できる物があるか、気に留めておくと良いかも。ショップによっては、本は入れないこと、など指示があるので、よく調べてから入れよう。

回収用の袋

専用のボックスに入れる

Oxfamなどが大きな箱を街角に設置していて、ここに入れられた衣類や靴は店に寄付された品と同様に扱われる。ちなみに、似たような大型のリサイクル・ボックスがカウンシルなどによって置かれているが、こちらに入れたものは、再資源化され別の物に生まれ変わる。なので、まだ使えるものはリサイクルでなくチャリティーのボックスへ。

専用のボックス

購入する

最近のチャリティー・ショップの中には、商品の質の良さを誇ったり、店内のインテリアに凝る店など、趣向を凝らして消費者の購買意欲を高めるショップが増えてきた。ノッティング・ヒルやマリルボーンなど、ロンドンのお洒落な地区にあるチャリティー・ショップでは、ハイ・ブランドの商品が格安で見つかる場合もあり、掘り出し物を探す人々で賑わっている。

チャリティー・ショップ


特徴のあるチャリティー・ショップ6軒

さまざまな団体がチャリティー・ショップを運営しているが、ここでは個人経営も含む、特徴あるショップを紹介しよう。

ほぼ新品といえるブランド物の宝庫 Mary's Living & Giving Shop for Save the Children

Mary's Living & Giving Shop for Save the Children

2009年にチャリティー団体「セイブ・ザ・チルドレン」が、小売業コンサルタントのメアリー・ポータスの協力のもとにオープンしたブティック・チャリティー・ショップ。ロンドンを中心に、国内に21軒の支店がある。掘り出し物が見つかるかも。

www.savethechildren.org.uk/get-involved/charity-shopping/marys-living-and-giving

ガイドブックから絵本まで Oxfam Book Shop

Oxfam Book Shop

国際NGO団体Oxfamによる、本専門のチャリティー・ショップ。小説、ガイドブック、画集、絵本、ポストカードなどが売られている。時折、外国語の本が並んでいることも。通常の本屋のように、オンラインで目当ての本を探して購入することも可能。

www.oxfam.org.uk/shop/local-shops/oxfam-bookshops

家具の引き取りもしてくれる British Heart Foundation Furniture & Electrical Shop

British Heart Foundation

心臓病の研究をサポートする「ブリティッシュ・ハート・ファンデーション(BHF)」が運営する、家具と電化製品に特化したショップ。テレビ、キッチン用品、ベッド、ソファなどが安価で手に入る。支店によっては衣類や本、雑貨だけ扱うところもある。

www.bhf.org.uk/shop/shop-with-us/furniture-and-electrical-shops

ヴィンテージのドレスやシューズがそろう All Aboard

All Aboard

特定の団体ではなく、英国にある60余りのチャリティー団体をサポートするチャリティー・ショップ。1987年、ステラ・ルーカスさんという女性によって始められた。店舗は全国に24軒。ロンドン北部を中心に、マンチェスターにも支店がある。

www.allaboardshops.com

今すぐサポートの必要な子どもたちへ Little Village

Little Village

不幸な境遇にある子どもたちをサポートする団体が運営する。使わなくなったベビー&キッズ用の衣類やおもちゃなどを寄付するのに適している。おむつや粉ミルクを寄付することもでき、寄付されたものは団体を通して直接無償で必要な家庭のもとに届く仕組み。

https://littlevillagehq.org

楽器やレコードならココ Rock'N'Roll Rescue

Rock'N'Roll Rescue

パンク・バンド「ザ・バイブレーターズ」の元メンバーが経営するショップ。老舗音楽パブ「ダブリン・キャッスル」の隣にあり、店で扱うのはミュージシャンから寄付された楽器など、音楽に関する物。売り上げは地元のフード・バンクや、虐待を受けた女性を救うグループなどへ。

www.rocknrollrescuecamden.com

 

蒸気機関車が走り始めて200年 英国の社会を映し出す鉄道

蒸気機関車が走り始めて200年
英国の社会を映し出す鉄道

1825年9月27日、英国は世界で初めて蒸気機関車による鉄道営業を開始した。最初のストックトン&ダーリントン鉄道(Stockton and Darlington Railway=S&DR)は石炭輸送のために導入されたにすぎなかったが、やがて産業革命の象徴として英国社会を大きく変えていく。国内の都市化や産業発展を支える基盤として、英国の歴史と社会を映し出す存在となったのだ。200年を迎えた今、各地で記念イベントや博物館の特別展示、蒸気機関車ツアーも催される。本特集では、鉄道200年の軌跡をたどり、その歴史的、社会的意義を振り返る。
(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.networkrail.co.uk/stories/all-aboard-railway-200、www.networkrailmediacentre.co.ukほか

過酷な地形を駆け抜けるジャコバイト号過酷な地形を駆け抜けるジャコバイト号

蒸気が切り拓いた産業革命

18世紀後半、スコットランドの発明家ジェームズ・ワット(1736~1819)が蒸気機関を改良し、織物工場や鉱山の排水ポンプなどに導入したことで、産業革命は大きく加速した。それまで水車や人力に頼っていた生産現場に、安定した強力な動力源が供給されるようになり、工場は都市部でも稼働できるようになった。蒸気機関は「動力の革命」とも呼ばれ、製造業の効率化と産業の拡大を支える 心臓部となったのだ。

この蒸気機関を応用して生まれた蒸気機関車は、当初から完成されたものではなかった。19世紀初頭、コーンウォールの機械技術者リチャード・トレビシック(1771~1833)が蒸気機関車を試作したものの、実用には至らなかった。改良を重ねた末、1825年に土木・機械技術者のジョージ・スチーブンソン(1781~1848)が設計した「ロコモーション号」がS&DRで営業運転を開始し、世界初の鉄道営業が始まった。さらに29年には、スチーブンソン設計の「ロケット号」が速度と信頼性を兼ね備えた機関車の標準として広く普及。33年には、それまで混在していた馬がひく客車や貨物車による運行が廃止され、完全なる蒸気機関車による運行が実現。こうして鉄道時代の幕が開いたのである。

1825年9月27日、初めてダーリントンに向かって走るロコモーション号と、それを見る人々1825年9月27日、初めてダーリントンに向かって走るロコモーション号と、それを見る人々

「鉄道の父」 ジョージ・スチーブンソン

ジョージ・スチーブンソン(George Stephenson)

蒸気機関車の発明者と呼ばれることが多いジョージ・スチーブンソン(George Stephenson)だが、世界初の実動する蒸気機関車を発明したのはリチャード・トレビシックで、1802年のペナダレン号が最初。スチーブンソンは公共鉄道の実用化に道を開いた人物で、「鉄道の父」という呼称がふさわしい。1781年に英北部ノーサンバーランドで炭鉱機関夫の家庭に生まれ、若いころは炭鉱で縦坑の巻上げギアを制御する「制動手」として働くが、やがて技師に昇進。蒸気機関に精通するようになった。1814年に石炭輸送のための蒸気機関車を設計したが、これは輪縁付き車輪と線路の接触部分の摩擦によってのみ走行するもので、馬以上に活用できると称賛された。やがて21年のS&DR建設計画で蒸気機関車が必要となった際、スチーブンソンは息子のロバートらと共にロバート・スチーブンソン・アンド・カンパニーを立ち上げた。

記念すべきロコモーション号

現在は鉄道発祥の地ダーリントンにレプリカが保存されている)現在は鉄道発祥の地ダーリントンにレプリカが保存されている

世界初の商用蒸気機関車。ストックトン&ダーリントン鉄道での実験運転では、90トンの石炭を積んだ列車を時速18キロで牽引し、馬に勝ることを証明した。開業初日には、機関車ロコモーション号を先頭に、石炭を積んだ貨車11両、客車「エクスペリメント」、さらに乗客や作業員を乗せた貨車20両が連結された。約300枚の切符が販売されたが、実際にはその倍近い人数が乗車したとも考えられている。ストックトンからダーリントンまでの約14キロを2時間かけて走破。ロコモーション号は1869年まで稼働し、現在は鉄道発祥の地ダーリントンに保存されている。また、町の歴史において重要な存在であり、ダーリントンの紋章やサッカー・チームのエンブレムにも描かれている。

鉄道がもたらした社会変化

蒸気を吐きながら走り抜ける鉄道は、産業革命の象徴であるだけでなく、人々の暮らしを一変させた。数日を要した馬車の旅が数時間に短縮されたとき、人々は何を感じただろうか。鉄道は都市と都市を結び、働く場所や住む場所の選択肢を広げただけでなく、週末の小旅行や郊外での余暇という新しいライフスタイルも生み出した。ここでは、鉄道の普及によって起きた日常の変化を紹介する。

移動の高速化と利便性

馬車で数日かかっていた都市間移動が数時間に短縮され、仕事や生活圏が広がった。たとえば、英北部のリヴァプールとマンチェスター間は距離にして約50キロあり、馬車だと 4~5時間以上かかるのが普通だった。だが、1830年9月15日に開業したリヴァプール・マンチェスター鉄道は、開業直後約2時間で走破可能で、のちに改良が進むと1時間前後まで短縮された。これによりリヴァプール港に陸揚げされた綿花を、紡績業で栄えたマンチェスターへ素早く運べるようになり、輸送コストが減少。産業全体の競争力を高めた。

通勤文化の形成

鉄道により都市近郊から都心部への定時通勤が可能となった結果、郊外住宅地の発展が進んだ。19世紀後半、特に20世紀初頭にメトロポリタン鉄道がロンドン北西部に延伸すると、それまで田園地帯だったバッキンガムシャー、ハートフォードシャー、そしてミドルセックスといった地域に、庭付き一戸建てが並ぶ住宅地が急速に広がった。これらはのちに「メトロ・ランド」と呼ばれ、典型的な通勤者用郊外住宅地となった。ロンドン近郊はほかにも、都心に30分ほどで通えることから、19世紀半ば以降に住宅地として人気が高まったロンドン南部のクロイドンや、ロンドン中心部へのアクセスが改善し、農村から郊外住宅地へと姿を変えたウィンブルドンなどがある。

メトロポリタン鉄道が運行する郊外住宅地、メトロ・ランドを紹介する当時の冊子メトロポリタン鉄道が運行する郊外住宅地、メトロ・ランドを紹介する当時の冊子

観光の普及

週末旅行や海水浴など、庶民に手が届くレジャーが一般化し、観光地やリゾート地の発展を後押しした。鉄道が生んだ観光地として代表的なのは、ロンドンから短時間で行ける海辺の町ブライトン。19世紀中ごろに鉄道が開通すると、日帰りや週末の海水浴が庶民に広がり、「ロンドンの海」として人気が高まった。英北部では、やはり海辺にあるブラックプールへ、産業都市のマンチェスターやリヴァプールから労働者階級が押し寄せ、娯楽施設や桟橋、タワーなどが整備され大衆リゾート地に発展した。一方で、アクセスが容易になり、風光明媚な景観を求めて観光客が増加したのが湖水地方やスコットランドのハイランドで、狩猟を目的にする旅行者もいた。

ハロゲートへの旅にいざなう1930年代のブロシャーハロゲートへの旅にいざなう1930年代のブロシャー

食文化の変化

鮮魚や農産物が遠隔地から都市へ素早く輸送され、食卓の多様化と市場流通の拡大につながった。ロンドンの魚市場ビリングズゲートには、イングランドだけではなくスコットランドからも新鮮な魚が毎朝運ばれ、ロンドン市民は以前には考えられなかった鮮魚を入手できるようになった。19世紀には世界最大の規模を誇ったともいわれる。新鮮なタラが都市に安定的に供給されるようになり、労働者階級に親しまれたフィッシュ&チップスが19世紀半ばに定着。鉄道がなければ成立しえなかった「国民食」の代表例である。

また、ロンドンやマンチェスターといった都市には、鉄道で近郊農村から毎日牛乳が運ばれるようになり、都市生活者が紅茶に牛乳を入れる習慣を支えた。

意識と時間の共有

貴族から労働者まで、異なる階級の人々が同じ乗り物に乗ることは、それまでの歴史では考えられなかった。だが鉄道の普及により、一等・二等・三等と車両が分かれてはいたものの、同じ列車に乗ることで階級を越えた共通の移動体験が生まれた。また18世紀後半までは通常、それぞれの町で日時計によって時間を決定していた。つまり場所により時間が異なっていたのだ。その結果、オックスフォードの時間はグリニッジより5分、リーズより6分遅いというような事態を生んだ。そこで1840年11月にグレート・ウェスタン鉄道は、「鉄道時間」という全国標準時を導入。その後2~3年の間に、国内の全ての鉄道会社が鉄道時間を採用し、列車の運行ダイヤはロンドン時間に合わせられた。これはグリニッジの王立天文台で設定された時刻でもある。こうして社会全体が定時運行や時間厳守を重視する文化へ変わった。

全国紙の誕生と鉄道

鉄道の発展は、新聞流通のあり方を根本から変えた。それまで新聞は地方ごとに発行され、ロンドンの新聞がマンチェスターやリヴァプールに届くころには数日遅れの古いニュースになっていた。しかし、1830年代以降、主要鉄道会社は郵便列車(mail train)を運行。鉄道郵便の登場によって状況は一変する。

また、ロンドンで早朝に刷り上がった新聞は、その日のうちに北部や中部の都市へと届けられるようになり、「タイムズ」紙や「デーリー・テレグラフ」紙といった大手紙は、読者を全国規模へと拡大していった。こうして地方に暮らす人々も、ロンドンと同じタイミングで政治経済や国際ニュースを手にできるようになった。鉄道がもたらした新聞流通の迅速化は、地方紙の取材網の広域化をも促し、結果として国民全体が共通の話題を共有する素地をつくった。鉄道は人や物だけでなく情報の移動をも加速させ、「全国紙」という新しいメディア形態を成立させた。

1920年代、ロンドン郊外、南部に延びる鉄道の路線1920年代、ロンドン郊外、南部に延びる鉄道の路線

文学や美術における鉄道

チャールズ・ディケンズ

ディケンズは鉄道を「鉄の怪物」と呼び、小説「ドンビー父子」(Donbey and Son 1848年)では、鉄道旅行について「時間を切り刻むような慌ただしさ」と表現。そして、風景が「あっという間に過ぎ去ってしまう」不自然さを描いた。ディケンズは鉄道によって自然な時間の流れや生活のリズムが破壊されると考えていた。

ジョン・ラスキン

「近代画家論」(Modern Painters 1843〜60年)や「この最後の者に」(Unto This Last 1862 年)などで、批評家のラスキンは鉄道を自然破壊の象徴として非難した。「鉄道は美しい風景を傷つけ、人間と自然の調和を損なう」として、文明の進歩に疑問を投げかけた。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー

画家のターナーが1844年に描いた「雨、蒸気、速度 ― グレート・ウェスタン鉄道」は、鉄道初期の衝撃と驚きを象徴する作品。画面には蒸気機関車が雨の中を突き進む姿が描かれ、自然と近代技術のせめぎ合いが表現されている。ターナーは鉄道に必ずしも賛否を示したわけではなく、むしろ「人間の作り出した速度と自然との対峙」を壮大な風景画に昇華させた。

雨、蒸気、速度 ― グレート・ウェスタン鉄道ターナーが表現した蒸気機関車の姿

アガサ・クリスティー

小説家クリスティーが「オリエント急行の殺人」(Murder on the Orient Express 1934年)を描いた当時は、鉄道は文化に完全に根付いた段階だった。オリエント急行のような豪華列車は鉄道旅行の象徴として国際的に知られ、当時の中産階級や上流階級の憧れを集めていた。クリスティーが題材に選んだのは、すでに列車が社会的ステータスや冒険の舞台として定着していたことを示している。

現代に息づく鉄道と未来への展望

日常インフラとしての鉄道

19世紀に誕生した鉄道は、いまや英国社会に不可欠な日常インフラとなっている。ロンドン地下鉄をはじめとする都市鉄道、国内を網羅するナショナル・レール、さらに地域鉄道は、通勤や通学、観光に欠かせない存在だ。しかし、運賃の高騰やたび重なる遅延、ストライキ、老朽化した設備など、利用者の不満も少なくない。

19世紀の英国鉄道は世界に先駆けた技術と運営のモデルであり、その影響は海外にも広がった。かつて日本の鉄道は英国の技術を手本に発展したが、現代では逆に、海外で培われた先進的な技術や運行ノウハウが、英国の鉄道の一部にも取り入れられるようになっている。ロンドン五輪に合わせて導入された高速列車「ジャベリン」や、2019年に東海岸本線で運行を開始したロンドン・ノース・イースタン鉄道(LNER)の「アズマ」には、新幹線の技術を応用した高速運行技術や車両設計の一部が取り入れられ、安定した走行と快適性に寄与している。また、ロンドン地下鉄の新型車両においても、運行管理や信号システムの設計には海外の技術ノウハウが活用されている。

ロンドン・ノース・イースタン鉄道(LNER)の「アズマ」ロンドンとスコットランド間を高速で結ぶ「アズマ」

都市交通を刷新したエリザベス線

2022年に開業したエリザベス線は、現代ロンドンの都市交通における画期的な出来事だった。既存の地下鉄やナショナル・レールをつなぎ、ロンドン東西を1本の大動脈で結んだこの新路線は、郊外から都心までの移動時間を大幅に短縮し、通勤・通学の利便性を飛躍的に高めた。単なる新線の開業にとどまらず、都市の回遊性や経済活動を活性化させるインフラとして、鉄道の可能性を改めて示す存在となっている。

大陸と直結するユーロスターとHS1

さらに視野を広げれば、ユーロスターの存在も忘れられない。1994年に英仏海峡トンネルが開通し、ロンドンとパリ、ブリュッセルを結ぶ国際列車としてユーロスターが走り始めたことで、英国は初めて大陸と高速鉄道で直結した。2007年には高速新線HS1が完成し、ロンドン中心部のセント・パンクラス駅からヨーロッパ各都市へのアクセスが劇的に改善された。ユーロスターは航空機に代わる移動手段であると同時に、英国と大陸との文化的・経済的なつながりを可視化する象徴的な存在となった。

課題を抱えるHS2

未来を見すえれば、最大の注目は高速鉄道プロジェクトHS2だろう。賛否を呼びつつも、完成すればロンドンと中部・北部との移動時間を大幅に短縮し、ロンドンからバーミンガムを1時間20分から52分に、マンチェスターまでは2時間強が1時間に短縮される。南北の地域格差の是正にも寄与すると期待されている。また、鉄道は自動車や航空に比べて二酸化炭素排出量が少ないため、環境負荷の低減にも大きな可能性を秘めているともいえる。しかしながら、ロンドンとバーミンガムの間で最初の列車を運行するという2033年開業目標については、25年6月にHS2社の新最高経営責任者マーク・ワイルド氏がコスト的にもスケジュール的にも「不可能」と告げている。

バーミンガム中心部で工事が進むHS2バーミンガム中心部で工事が進むHS2

欧州39カ国を結ぶ壮大な構想

こうした国内外の鉄道プロジェクトの延長線上に、さらに壮大な構想も浮上している。25年4月には「メトロ」紙や「インディペンデント」紙が、英国を含む欧州39カ国を高速鉄道網で結ぶ計画を報じた。ピカデリー線やノーザン線のように五つの路線を想定し、たとえばヘルシンキからベルリンまでをわずか5時間強で結ぶ新型高速列車が構想されている。欧州内の短距離航空便の80パーセント削減を掲げ、再生可能エネルギーを動力とし、新設される欧州鉄道庁(ERA)が監督するという画期的なビジョンだ。ただし現時点では提案段階にとどまっている。

それでも鉄道は、環境負荷の低減、都市や地域の結びつき、そして人々の生活を豊かにする力を持つインフラとして、今なお進化を続けている。誕生から200年を経た今、鉄道は「都市をつなぐ線」から「大陸をつなぐ網」へと変貌しつつあり、未来の社会に向けて走り続けている。


英国鉄道200年の旅へ

英国の鉄道は1825年に世界初の蒸気機関車が走って以来、200年もの歴史を刻んできた。今、全国各地ではこの節目を祝う特別イベントが開催され、博物館の特別展示や蒸気機関車ツアーなど、鉄道の魅力を体験できる機会が広がっている。歴史ある駅舎をめぐり、煙を上げて走る列車の旅に出かけよう。

MUSEUMHopetown Darlington ダーリントン鉄道博物館

ダーリントン鉄道博物館

1825年、世界で初めて蒸気機関車による営業運転を開始したストックトン&ダーリントン鉄道。その歴史を伝える博物館が英北東部ダーリントンの旧駅舎を利用したHopetown Darlingtonだ。館内では、当時の駅舎や資料、蒸気機関車ロコモーション号のレプリカを見ることができる。9月は鉄道誕生200周年を祝う特別イベントが開催されるので、詳細は公式サイトを参照。27日には、ロコモーション号のレプリカが当時のルートを走行する特別運転も行われる。また、フライング・スコッツマン号、トルネード号などの人気蒸気機関車も集結する。

Hopetown Darlington
2025年9月26日(金)~28日(日) 
McNay Street, Darlington, DL3 6SW
£12
North Road駅
Tel: 01325 720 010
www.hopetowndarlington.co.uk

MUSEUMNational Railway Museum 国立鉄道博物館

国立鉄道博物館

これまで現役で使われていた機関車や、古い車両が廃車・解体され始めた1960年代に、それを保存する目的でオープン。今年で50周年を迎える博物館。鉄道博物館の規模としては世界最大級で、常設展示には王室専用客車などがあり、毎年75万人もの来場者がある。JR西日本から2001年に寄贈された0系新幹線も展示されている。9月27~28日は50周年の記念イベントも行われるので、詳細は公式サイトを参照。

0系新幹線0系新幹線の車内も見学できる!

National Railway Museum
Leeman Road, York YO26 4XJ
無料
York駅
Tel: 033 0058 0058
www.railwaymuseum.org.uk

MUSEUMThe Swanwick Junction Museum Complex スワンウィック・ジャンクション・ミュージアム・コンプレックス

The Swanwick Junction Museum Complex

英中部ダービシャーのバタリーにある施設。鉄道博物館だけではなく、鉄道愛好家や家族連れに人気のある観光地で、蒸気機関車やディーゼル機関車の運行、鉄道博物館、乗車もできるバタリー・パーク・ミニチュア鉄道、ヴィクトリア時代の駅舎など、多彩な展示と体験が楽しめる。開館時期は毎年2月中旬から11月中旬まで。土・日のみのオープンなので注意が必要だ

Midland Railway (Butterley)
Butterley Station, Ripley DE5 3QZ
£15
AlfretonまたはDerby Midland駅
Tel: 01773 743 986
www.midlandrailway-butterley.co.uk

MUSEUMThe Carriage Works Museum カーリッジ・ワークス・ミュージアム

The Carriage Works Museum

英中部ウェスト・ヨークシャーのキースリーに位置する鉄道博物館。ヴィンテージ・カーリッジズ・トラスト(Vintage Carriages Trust)によって運営されている。鉄道車両の保存と歴史的価値の普及に尽力しており、特に19世紀後半から20世紀中ごろにかけての木製客車の貴重なコレクションを展示。ヴィクトリア朝時代の豪華な一等車両から、20世紀中ごろの実用的なデザインまで、鉄道旅行の変遷を体感できる。また、「若草の祈り」や「ツバメ号とアマゾン号」など、英国の映画やドラマに登場した実際の車両を間近で見ることもできる。

The Carriage Works Museum実際に撮影が行われた座席に座ることができる

The Vintage Carriages Trust Carriage Works Museum
Ingrow Railway Centre, South Street
Keighley, West Yorkshire BD21 5AX
£5
Keighley Railway駅
Tel: 01535 680 425
www.vintagecarriagestrust.org

TOURSevern Valley Railway セヴァーン・ヴァレー鉄道

英中部ウスターシャーとシュロップシャーをまたぐ約26キロの保存鉄道。蒸気機関車やディーゼル機関車による運行が特徴で、セヴァーン川沿いの自然や田園風景を車窓から楽しめる。迫力ある蒸気機関車の走行体験に加え、沿線の駅舎や施設は歴史的建造物として保存され、鉄道史を肌で感じられるのも魅力だ。特に秋の紅葉シーズンは人気が高い。チケットは11月2日まで有効のFreedom of the Lineが£29.50で、キディミンスター、ビュードリー、ブリッジノース、ハイリーの各駅を自由に乗り降り可能。デイ・ローバー・チケット(Day Rover Tickets)は£14の1日乗車券で、各駅を自由に利用できる。詳細や予約はサイトを参照。

https://svr.co.uk

TOURNorth Yorkshire Moors Railway ノース・ヨークシャー・ムーアズ鉄道

英最大の保存鉄道、ノース・ヨークシャー・ムーアズ鉄道(NYMR)。英北部ノース・ヨークシャーに位置する保存鉄道で、ピッカリング(Pickering)からウィットビー(Whitby)までを結ぶ全長約39キロのルートを走行。映画「ハリー・ポッター」シリーズのロケ地としても名高く、観光客に人気のあるツアーだ。1日乗車券デイ・ローバー・チケットで、各駅を自由に乗降できる。これにより、沿線の美しい風景や歴史的な駅舎を楽しむことができる。

www.nymr.co.uk

 

OPEN HOUSE FESTIVAL 2025 オープン・ハウス・フェスティバル

扉を開き、街を祝うOPEN HOUSE FESTIVAL 2025年9月13日(土)~21日(日)

毎年恒例の「オープン・ハウス・フェスティバル」が、今年も8日間にわたり開催される。歴史的建物やデザイン建築の扉が開かれ、普段は立ち入れない空間を自由にめぐることができる貴重なイベントだ。建築ツアーも行われ、街歩きをしながら建物や暮らしの息づかいを感じられる特別な体験が待っている。今回はその中から、歴史と現代が交錯するシティ・オブ・ロンドンに焦点を当て、教会や市場、モダンなオフィスまで、多彩な空間を紹介していこう。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.openhouse.org.ukwww.thecityofldn.com

オープン・ハウスって?

オープン・ハウス事務局は、「ロンドンという街の魅力を市民にもっと知ってほしい」という志の下、1992年にスタートしたチャリティー団体だ。公式サイトでは、今年公開されている建築作品の基本情報を確認できるほか、あらかじめ予約が必要な建物なども、同サイトから予約できる。
www.openhouse.org.uk

シティ・オブ・ロンドンとは

ロンドンの中心に広がる特別区で、その面積はわずか約2.9平方キロ・メートル。にもかかわらず、この小さな街区はロンドンの起源そのものであり、現在に至るまで都市の発展を支えてきた。紀元1世紀にローマ人が築いた「ロンディニウム」がこの地の始まりで、中世には商人や職人のギルドが集まり、欧州随一の商業都市として栄えた。今日では世界有数の金融街として知られ、銀行や証券会社の本社が立ち並ぶ一方、セント・ポール大聖堂やギルドホールといった歴史的建築も数多く残されている。さらに近年は「チーズグレーター」や「ガーキン」といった愛称で親しまれる個性的な高層ビル群が加わり、過去と現代の建築が文字通り肩を並べる、独特の景観を形作っている。

City Of London

シティ・オブ・ロンドンで見られる 12のお勧め建築

オープン・ハウス・フェスティバルでは、歴史と現代が交錯するシティを舞台に、普段は入ることのできない空間を訪ね歩くことができる。街を歩けば、重厚な石造りのホールから最先端のガラス建築まで、時代を超えて息づくロンドンの姿に出会えるだろう。その代表的な場所を紹介しよう。

01Leadenhall Market レドンホール・マーケット

住所:Gracechurch Street, EC3V 1LT
最寄駅:Monument / Bank / Aldgate

ローマ時代から商業の拠点であった、象徴的なヴィクトリア朝時代の屋根付きマーケット。現在の華麗なガラス屋根の建物は1881年に建設された。設計は、ビリングスゲート魚市場やスミスフィールドの食肉市場も設計したホレス・ジョーンズ。今日では、40以上の有名ブランドや飲食店が軒を連ねるが、かつてはスミスフィールドと肩を並べる食肉・鶏肉市場として栄えた。2012年のロンドン五輪では、マラソン競技のコースの一部に組み込まれ、選手たちはマーケットの中を駆け抜けた。

レドンホール・マーケット

02Temple Church テンプル教会

住所:Temple, EC4Y 7BB
最寄駅:Temple / Blackfriars

12世紀にエルサレムへの巡礼者を守るために設立されたテンプル騎士団によって建立された、ロマネスク様式の教会。円形部分と内陣の二つの部分はエルサレムの聖墳墓教会を模しており、中世建築の貴重な遺構となっている。後にセント・ポール大聖堂をはじめとした数々の建築で知られるクリストファー・レンが修復を手がけ、ゴシックとルネサンス様式が融合した独特の姿に。法曹界の象徴ともされている。

テンプル教会

03Middle Temple Hall ミドル・テンプル・ホール

住所:Middle Temple Lane, EC4Y 9AT
最寄駅:Temple

1562年に着工し74年に完成した法曹院のホール。堂々としたダブルハンマービーム屋根、開放的な炉床、エリザベス1世が寄贈したと伝わるハイテーブルなどが特徴。78年には女王自身が訪れ、1602年にはシェイクスピアの「十二夜」が初演された歴史を持つ。現在も法曹院の象徴的建物として、ホールや図書館が一般公開されている。

04St Mary-le-Bow セント・メアリー・ル・ボウ教会

住所:Cheapside, EC2V 6AU
最寄駅:St Paul’s/Bank

1080年が起源の教会だが、1666年に起きたロンドンの大火によって焼け落ち、クリストファー・レンに再建された。鐘楼のボウ・ベルはかつて1日の終わりを告げる唯一の「門限の鐘」として、ロンドン市民になじみ深いものだったが、空襲で鐘が落下し、第2次世界大戦後に建築家のローレンス・キングによって再建された。伝承では、この鐘の音を聞こえる範囲で育った者こそ真のロンドンっ子「コックニー」と呼ばれるのだという。

セント・メアリー・ル・ボウ教会

05Founders' Hall ファウンダーズ・ホール

住所:1 Cloth Fair, EC1A 7JQ
最寄駅:Farringdon / Barbican / St. Paul's / Moorgate

1365年に創設された真鍮や合金職人のギルド、ファウンダーズ・カンパニーの建物。ホールはアーツ・アンド・クラフツ、ポストモダン様式が独自に融合した建築だ。外観は特徴的な切妻の出窓、テラコッタ・パネル、金属製の格子が特徴で、内部は儀式用の階段、華麗な客間、そして印象的な円窓から光が差し込むリバリー・ホールを備えている。

06Dr Johnson’s House ドクター・ジョンソン邸

住所:17 Gough Square, EC4A 3DE
最寄駅:Chancery Lane / Blackfriars

18世紀初期に広場の名前の由来となった毛織物商リチャード・ゴフによって建てられた、5階建てのクイーン・アン様式のタウンハウス。この家の最も有名な借家人は、サミュエル・ジョンソン(1709~84年)だろう。辞書編纂者で警句家のジョンソンは約11年間(1748~59年ごろ)この家に住み1755年に「英語辞典」を編纂した。建物は第2次世界大戦の空襲にも焼け残り、オリジナルの羽目板や階段を見ることができ、ジョンソンの残した工芸品も展示されている。中庭にはジョンソンの愛した飼い猫ホッジの銅像がある。フェスティバル期間中は18世紀衣装での体験イベントも開催。

ドクター・ジョンソン邸

07Marx Memorial Library & Workers' School マルクス記念図書館&労働者のための学校

住所:37A Clerkenwell Green, EC1R 0DU
最寄駅:Farringdon

1738年にウェールズ慈善学校として建設された、グレードII指定の建造物。1933年以来、マルクス主義と社会主義に焦点を当てた図書館として利用されている。後に社会主義国家を建設した革命家レーニンは、亡命中の1902年から1年間ここで勤務し、ロシア社会民主労働党の機関紙「イスクラ」を編集した。その執務室は今も保存されている。1階には同時代の英画家ジャック・ヘイスティングスによるフレスコ画が残るほか、15世紀後半に作られたトンネルもある。史跡を巡るツアーも随時実施。

マルクス記念図書館&労働者のための学校

08Smithfield Market スミスフィールド・マーケット

住所:Grand Avenue, EC1A 9PS
最寄駅:Farringdon / Barbican

スミスフィールド・マーケットはヴィクトリア朝様式の建物が2棟、1960年代に建てられた建物が1棟の計3棟の建物で構成されており、いずれもグレードII指定建造物だ。このマーケットはロンドン市に残る唯一の卸売食肉市場で、月~金曜日に営業している。建物の東側には見学ルートが設けられ、両端にスタッフが常駐。見学ルート沿いには家族経営の各店舗に関する情報や市場文化を伝える展示があり、自由に楽しめる。このマーケットは2028年にはビリングスゲート魚市場とともにロンドン北東部の郊外ダゲナムへの移転が決まっているので、今のうちに見学しておきたいもの。

スミスフィールド・マーケット

09Barts Pathology Museum バーツ病理学博物館

住所:3rd Floor Robin Brook Centre, St Bartholomew's Hospital, EC1A 7BE
最寄駅:Barbican / St. Paul's

セント・バーソロミュー病院の敷地内にあり、クイーンズ・メアリー大学医学部と歯学部の一部である、グレードII指定建造物の医学博物館。医学生が使用する解剖標本を収蔵するために1879年に建設され、現在でも使用されている。そのため、通常一般公開されることはほとんどない。コレクションには首相スペンサー・パーシヴァルを暗殺し1812年に絞首刑となったジョン・ベリンガムの頭蓋骨をはじめ、珍しい疾患の標本など約5000点の医学標本が収蔵されている。

10Museum of Transology トランソロジー博物館

住所:Bishopsgate Institute, 230 Bishopsgate, EC2M 4QH
最寄駅:Liverpool Street

トランスジェンダー、インターセックス、ノンバイナリーの人々から寄贈された品々を収蔵するユニークな博物館。収蔵品の多くは、トランスジェンダーの日常生活や活動にまつわるもの。こうした収蔵品から、「空間」「プライバシー」「身体性」といったテーマを問い直し、社会的な視点での建築・都市文化を考える場を提供する。建築デザイナー兼展示デザイナーであるスカー・バークレー氏が関連ワークショップも開催。

11The Leadenhall Building(The Cheesegrater) チーズグレーター

住所:122 Leadenhall Street, EC3V 4AB
最寄駅:Bank / Monument / Liverpool Street

2014年竣工、ロジャース・スターク・ハーバー+パートナーズ設計の超高層オフィスビル。断面がチーズおろし器に似ていることから「チーズグレーター」の愛称で呼ばれる。スリムに後退する外形はシティのスカイラインに調和しつつも存在感を放つ。

チーズグレーター

1230 St Mary Axe(The Gherkin) ガーキン

住所:30 St Mary Axe, EC3A 8EP
最寄駅:Aldgate / Liverpool Street

2004年に完成したノーマン・フォスター設計の高層オフィスビル。ねじれながら上昇するような独特のフォルムは「ガーキン」(きゅうり)の愛称で親しまれる。環境性能にも配慮され、自然換気システムを取り入れた革新的なデザインで、シティの新しいランドマークとなった。

ガーキン

ガーキン

ウォーキング・ツアーWALKING TOUR

Roman London walk
古代ローマ人の暮らしをひもとく

ローマンウォール

古代ローマ人がロンディニウム(ロンドン)の街を建設した理由や、当時の交易の模様などを、現在では美しい庭園となっているローマ浴場跡、第2次世界大戦中の爆撃で発見されたミトラス神殿などを見学しながら学ぶガイド・ツアー。1800年前、街を守っていたローマ時代の城壁の原型を眺め、ローマ人がいかに暮らし、働き、遊んだか、その魅力的な歴史に触れることができる。

2025年9月13日(土)、14日(日) 14:30~15:30 要予約

Empire City walking tour
大英帝国の始まりを探る

大英帝国を理解するには、まずはシティ・オブ・ロンドンを散策するのが良いだろう。テムズ川沿いに集合し、そこから銀行や保険会社など、大英帝国を築いた企業が集まっていた場所をたどり、建築を手がかりにその始まりを探るツアー。記念碑や案内板はなくとも、「スクエア・マイル」(シティの別名)そのものが雄弁に語りかけてくれる。

2025年9月13日(土)、15日(月) 10:30~12:00 要予約

Internet infrastructure of London walking tour
インターネット・インフラをたどる

現代の都市生活に欠かせないインターネット。そのインフラを都市空間の中に探しながら歩くツアー。研究者でありアーティストでもあるガイドとともに、交通や通信のために設計された建築が、いかにして現在はインターネット接続を支えているのかを学ぶ。マンホールの下、街灯の上、何気ない建物の裏側など、普段は目に見えないネットワークの痕跡を読み解きながら街を歩く。

2025年9月14日(日)、21日(日) 10:30~12:30 要予約

Word of mouth: London’s churches, pubs and press walking tour
口コミが生んだ街: 教会・酒場・出版

説教、うわさ話、そして印刷物。ロンドンの精神を形作ったのはそうした「言葉の力」だった。かつて新聞社の集まっていたフリート・ストリートからストランドを歩く約2時間の散策では、街を動かした独自のコミュニケーションの三角地帯、教会・パブ・印刷所を訪ね歩く。人々が祈り、議論し、酒を酌み交わし、物語を共有した場所は、当時の「ソーシャル・ネットワーク」でもあった。

2025年9月19日(金) 10:30~12:30 要予約

 

初めての女子ラグビーW杯ガイド - 2025年英国大会の見どころ

2025年8月22日~9月27日初めての女子ラグビーW杯ガイド―― 知って観る、英国大会の見どころ

2025年の夏、女子スポーツの勢いが一段と加速している。サッカー女子ワールドカップではイングランドが初優勝を飾り、9月にはインドでクリケット女子ワールドカップが開催予定。各競技で歴史的な瞬間が生まれようとしているなか、もう一つ注目を集めそうなのが、8月22日から始まる女子ラグビー・ワールドカップだ。開催地はラグビー発祥の地、イングランド。記念すべき第10回大会には、日本代表「サクラフィフティーン」も3大会連続の出場を果たす。強豪国が集うこの舞台で、日本チームがどこまで食い込めるのか。在英の日本人にとっても、現地で観戦できる貴重な機会となるだろう。今回は、大会スケジュールや会場情報、基本ルール、女子ラグビーの歴史なども紹介。初めてでも観て楽しめる、女子ラグビーの奥深い世界へご案内する。 (文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.rugbyworldcup.com/2025

女子ラグビー・ワールドカップ

2025年女子ラグビー・ワールドカップ
出場チーム(プール別)

2025年は初の16チーム参戦*となり、合計32試合というこれまでにない規模で女子ラグビー・ワールドカップが開催される。6週末にわたり、英国内8都市を舞台に熱戦が繰り広げられ、8月22日の開幕戦から9月27日のロンドン郊外トゥイッケナムでの決勝まで目が離せない。出場チームは下記の通り。

* 前回ニュージーランドで開催された2021年大会では、参加チーム数は12で全26試合

プールAプールBプールCプールD
イングランド カナダ ニュージーランド フランス
オーストラリア スコットランド アイルランド イタリア
米国 ウェールズ 日本 南アフリカ
サモア フィジー スペイン ブラジル

女子ラグビー・ワールドカップ

会場で楽しむ? テレビで観る?女子ラグビーW杯観戦ガイド

ラグビー発祥の地イングランドで開催される女子ラグビー・ワールドカップ。会場に足を運んでの熱い応援はもちろん、自宅でゆったり観戦するのも楽しみ方の一つだ。ここでは、試合スケジュールや主な会場、チケット情報、ファンゾーンなど、観戦に役立つ基本情報をまとめた。

日英の1次リーグ試合日程

  • 出場チームがA~Dの4組(プール)に分かれて1次リーグを戦う。日本代表はC組。各組で総当たり戦を行い、それぞれの上位2チームが準々決勝へと進出する。
  • 英国ではW杯開催期間中の全ての32試合がBBCでライブ中継される。BBC iPlayer、BBC Sportウェブ・アプリでも観戦可能。
    https://www.bbc.co.uk/sport/rugby-union

※試合スケジュールは英国時間で表示

イングランド(Pool A)
8/22(金) 19:30 vs アメリカ
8/30(土) 17:00 vs サモア
9/6(土) 17:00 vs オーストラリア
ウェールズ(Pool B)
8/23(土) 14:45 vs スコットランド
8/30(土) 12:00 vs カナダ
9/6(土) 14:45 vs フィジー
スコットランド(Pool B)
8/23(土) 14:45 vs ウェールズ
8/30(土) 14:45 vs フィジー
9/6(土) 12:00 vs カナダ
日本(Pool C)
8/24(日) 12:00 vs アイルランド
8/31(日) 14:00 vs ニュージーランド
9/7(日) 12:00 vs スペイン
アイルランド(Pool C)
8/24(日) 12:00 vs 日本
8/31(日) 12:00 vs スペイン
9/7(日) 14:45 vs ニュージーランド
準々決勝
9/13(土) 13:00 プールC勝者 vs プールD 2位
9/13(土) 16:00 プールB勝者 vs プールA 2位
9/14(日) 13:00 プールD勝者 vs プールC 2位
9/14(日) 16:00 プールA勝者 vs プールB 2位
準決勝
9/19(金) 19:00 準々決勝1勝者 vs 準々決勝2勝者
9/20(土) 15:30 準々決勝3勝者 vs 準々決勝4勝者
3位決定戦
9/27(土) 12:30 準決勝1敗者 vs 準決勝2敗者
決勝
9/27(土) 16:00 準決勝1勝者 vs 準決勝2勝者

女子ラグビー・ワールドカップ

チケットの買い方

申込方式と販売スケジュール

2024年11月5日~19日に1次抽選によるチケット申込期間があり、約13万枚が事前販売された。その後、2025年2月25日より一般販売が開始され、現在も英国国内外で幅広く販売が行われている。

価格とカテゴリーの目安

1次リーグ試合は大人£10~25、イングランド戦は£10~35程度。子ども料金は各試合£5。
決勝トーナメントは、準々決勝が£15~45、準決勝£55、決勝£95~。子ども料金は£5~20。

購入方法(英国国内外共通)

公式サイト https://tickets.rugbyworldcup.com から。チケット受領は、アカウント上からeチケット(QRコード)としてダウンロード可能。

日本代表の試合会場

ノーサンプトン会場

cinch Stadium at Franklin's Gardens
Weedon Road, Northampton NN5 5BG
www.franklinsgardens.co.uk

ロンドン中心部からNorthampton駅まで電車で約1時間、会場は駅から徒歩15分ほど。シャトルバスも出ている。

エクセター会場

Sandy Park
Sandy Park Way, Exeter EX2 7NN
www.sandypark.co.uk

ロンドン中心部からDigby&Sowton駅まで電車で約2時間30分~3時間、同駅から会場まで徒歩約15分。もしくは、Exeter St Davids駅まで直通2時間10分、同駅からシャトルバス。

ヨーク会場

York Community Stadium
Kathryn Avenue, Monks Cross, York YO32 9AF
www.better.org.uk/destinations/york-stadium-leisure-complex/stadium

ロンドン中心部からYork駅まで電車で約約2時間30分、同駅からシャトルバスで会場まで約25分。

女子ラグビー・ワールドカップ

英国人と一緒に巨大スクリーンで観戦したい

ファンゾーンでの鑑賞方法

今大会は英各地の計8カ所で試合が実施される。これに伴い、各試合会場の近くには「ファンゾーン」と呼ばれる区域が設置。基本的に入場無料となるこの区域では、大勢の人々と一緒に大スクリーンでW杯の試合を鑑賞することができる。ここではロンドン市内に設置される公式ファンゾーンを紹介する。

Battersea Power Station
バタシー・パワー・ステーション

9月13日(土)から27日(土)にかけてファンゾーンを設置。準々決勝、準決勝、3位決定戦、決勝戦をライブ中継する。期間中の試合日以外も、ラグビー・ピッチが設置され、コミュニティー・コーチによる体験セッションが開催。家族向けのイベントなどもある。また、地元のカフェやレストラン、バーが発電所の向かいに出店し、特別なフード・エリアも出現する。

44 Electric Boulevard, Battersea Power Station,
London SW11 8BJ
Battersea Power Station駅
https://batterseapowerstation.co.uk

ルールを知ればもっと楽しい女子ラグビー入門

女子ラグビーは基本的に男子と同じルールで行われる。重さ約400グラムの楕円形のボールを奪い合い、トライやゴールで得点を競う。ルールを押さえておけば、試合の流れや選手の動きがぐっと見やすくなり、会場でもテレビでも観戦の面白さが一段と増すはずだ。

ラグビーの基本ルール❶
ボールを前に投げたり落としたりしてはいけない

  • ボールを手で味方にパスする際に前方に投げたら反則 (スローフォワード)
  • ボールを受け取ろうとするもうまく受け取れず、ボールを身体の前に落としてしまった場合は反則(ノックオン)
  • ボールを保持している間に相手からタックルを受け、その勢いでボールを身体の前に落とした場合は反則(ノックオン)

ラグビーの基本ルール❷
トライするか、ボールが相手のゴールポストを通過すれば得点

  • 相手ゴールの後方に設けられたエリア(インゴール)にボールを置く(トライ)ことができたら5点
  • トライを決めた後に、相手のゴールに向けてキックをする機会与えられる(ゴールキック)。このゴールキックがゴールポストの間を通過したら2点(コンバージョンゴール)
  • 相手チームの反則によって与えられたペナルティーキックがゴールポストの間を通過したら3点(ペナルティーゴール)
  • 通常のプレー中に、ボールをいったん地面に落とした上で蹴ったボールがゴールポストの間を通過したら3点(ドロップゴール)

タックル

ラグビーの基本ルール❸
ボールを奪い合うために身体を密着させたり、ぶつけ合ったりするプレーがたくさんある

  • ボールを持った相手選手の動きを止めたり倒したりする(タックル)
  • ボールを持った選手を中心に両チームの選手1人以上が参加し組み合う(モール)
  • 地面上のボールを両チームの選手1人以上が参加し、組み合った状態でボールを奪い合う(ラック)
  • 両チームの選手各8名が組み合った状態になり、押合いながらその中央に投じられたボールを足で後方に運び、最後方にいる選手へと渡す(スクラム)。軽度の反則などで1度中断されたプレーを再開する方法として用いられる
  • 選手がタッチラインの外側から投入したボールを奪い合う。その際に味方の選手を担いだりする(ラインアウト)
試合は1チーム15人、前後半40分ずつのハーフ制で行われる。ラグビーにはその他にもたくさんのルールがあるが、以上の3点さえ覚えておけば、試合観戦を楽しむことができるはずだ。

ラインアウト

15人制と7人制の違い

人数だけでなく、試合時間も異なる。7人制は前後半7分(計14分)で、試合展開が速い。少人数のためスペースが広く、スピードと持久力が重要。連戦形式のトーナメントが主流で、オリンピック種目にも採用された。一方、15人制は前後半40分(計80分)。スクラムやラインアウトなどセットプレーが多い。戦術はフィジカル重視、陣地の奪い合いが中心で、より伝統的なラグビーが楽しめる。W杯はこちら。7人制・15人制ともにフィールドは100X70メートル。

注目の日本選手は?

古田真菜
センターで絶対的な存在感を発揮する選手。2016年に代表デビュー以後、豊富な国際経験を積んでいる。22年にはオーストラリア・ブランビーズで活躍し、チーム内で信頼される存在だった。

加藤幸子
プロップとして前線で安定したパフォーマンスを見せるフィジカルの要。17歳で代表デビューを果たし、イングランドのエクセター・チーフスでも実戦経験を積んだ。国際舞台での存在感が今後も鍵になる。

長田いろは(キャプテン)
前線を支えるバックロー(フランカー)のポジションで活躍し、国際経験も豊富。南アフリカで行われたWXV2トーナメント(国際女子ラグビー大会)で初めてサクラフィフティーンのキャプテンを務めた。

日本代表今回出場するサクラフィフティーンのメンバー

女子ラグビーの歩みをたどる

男子ラグビーが19世紀から世界に広がった一方、女子ラグビーの歩みは決して平坦なものではなかった。女性が激しいタックルやぶつかり合いを含む、いわゆるコンタクト・スポーツに挑戦することへの社会的偏見や、それに伴う資金不足など、多くの壁を乗り越えてようやく今日の地位を築いている。ここでは簡単にその歴史を振り返ろう。

日本代表1917年のカーディフ女子チーム

転機は1970年代

女子ラグビーの初期の記録は19世紀末にさかのぼる。1880年代の英国やニュージーランドでは女性がすでにラグビーをプレーしていたとの記録があるが、当時は非公式であり、競技としての認知は低かった。20世紀前半は、世界的にも女性のスポーツ参加自体が制限されていたため、女子ラグビーはほとんど発展しなかった。

転機となったのは1970年代。英国やニュージーランド、カナダ、フランスなどで女子ラグビー・クラブが相次いで設立され、競技としての基盤が徐々に整い始めた。74年には英国女子ラグビー協会が設立され、組織的な普及活動が本格化した。70年代後半から80年代にかけては、国際試合も少しずつ増加。82年には英国とフランスの間で国際試合が行われた。

初めてのW杯

女子ラグビーの世界的な躍進を象徴するのが、1991年にウェールズで開催された初の女子ラグビー・ワールドカップ(当時は「女子ラグビー世界選手権」)。これは当初、正式な国際大会としての認知が薄くスポンサーもいないことから、選手たちは旅費を含め全て自費で参加するなど厳しい状況だった。しかし、この大会の成功が女子ラグビーの認知度向上に大きく寄与し、以降4年ごとに大会が開催されるようになった。ちなみに、日本女子代表「サクラフィフティーン」がW杯に初出場したのはこの第1回大会だ。以来、日本は着実に力をつけ、2017年の第8回大会ではベスト8入りを果たし、世界の強豪国との競争力を示した。

1994年には世界女子ラグビー協会(WRWC、現在のワールドラグビー女子部門)が設立され、女子ラグビーの国際統括が強化された。それでも運営費は20万ポンド(約4000万円)ほどに過ぎず、1人の男子選手の年俸より低かったといわれている。しかし、2009年にはラグビー・ユニオンの国際競技連盟ワールドラグビー(WR)が女子ラグビーを正式に管轄下に置き、男子と同じ組織のもとでの普及・発展が加速した。

近年は女子ラグビー人気が急速に高まり、W杯の観客数やテレビ視聴率も男子に迫る勢いとなっている。21年には東京オリンピックで7人制ラグビー女子が初めて正式種目となり、世界中で女性選手の活躍が注目された。こうした歴史を経て、2025年に英国で開催される第10回女子ラグビーW杯は、女子ラグビーの成長と挑戦の軌跡を示す重要な節目となる。日本代表をはじめとする、世界各国の選手たちの熱戦を期待したい。

 

英国・ドイツで本当に起こった20の珍事件

事実は小説より奇なり 英国・ドイツで本当に起こった20の珍事件

私たちの世界は、フィクション顔負けの奇妙で驚くべき出来事があふれている。ましてや、異なる歴史や文化を持つ国に暮らしていれば、その驚きもひとしおだ。本特集では、英国とドイツで実際に起きた珍事件を、歴史的な出来事から現代の時事ニュースまで幅広く紹介する。予測不可能で奇妙な展開から、思わず笑ってしまうユニークなエピソードまで、どれも一筋縄ではいかない実話ばかり。きっとあなたも誰かに話したくなるはず! (文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

歴史的ミステリー

1 UK英国 リチャード3世の遺骨が
500年後に駐車場で見つかる

薔薇戦争(1455~85年)時代の王であるリチャード3世は、二人の幼い甥をロンドン塔に幽閉したり、シェイクスピアの「リチャード三世」による否定的な描写もあったりで、冷酷で残忍なイメージが強くもたれている。その遺体は500年以上行方不明だったが、なんと2012年に英中部レスター市内の駐車場の地下から発見された。遺骨の分析から、頭部に複数の致命傷を負っていたことや、実際に脊椎側弯症を患っていたことが明らかに。15年にはレスター大聖堂に埋葬された。遺骨の発見に尽力したのは歴史家フィリッパ・ラングレー氏。同氏はリチャード3世を支持し、その治世や評価を擁護する歴史家や研究者を指すリカーディアン(Richardian)の 一人だ。

参考:リチャード3世協会ウェブサイト

現在はレスター大聖堂に眠るリチャード3世現在はレスター大聖堂に眠るリチャード3世

2 UK英国 英国版ロズウェル事件!?
1980年に起きたUFO遭遇

1980年12月、英東部サフォークのレンドルシャムの森で数人の米空軍兵が、金属のような外観で色とりどりの光を放つ謎の物体を目撃。不規則な動きをする光が、数日にわたり森の中を移動したり空に浮かんだりする様子も報告された。地面には着陸の痕跡が残され、放射線反応も記録されたという。現場近くにはNATOの軍用基地があり、当時は米空軍が駐留していた。この事件については、当時中佐だったチャールズ・ホルト氏による公式報告書「ホルト覚書」が英米両政府に提出されている。「英国版ロズウェル事件」と呼ばれるほど有名だが、真相は今も明らかになっていない。現在レンドルシャムの森には、UFO目撃があったとされる場所をたどる散策ルートがある。

参考:BBC「Rendlesham Forest UFO: Are we any closer to the truth 40 years on?」

レンドルシャムの森レンドルシャムの森

ウッドブリッジの旧空軍基地ウッドブリッジの旧空軍基地

3 UK英国 犬が次々に飛び降りる
謎の多いオーバートン橋

スコットランド西部、ダンバートン近郊のオーバートン橋は、美しい19世紀の石造りのアーチ橋。しかし1950年代から、300匹近い犬がこの橋から飛び降りて命を落とすという奇妙な現象が報告されてきた。この現象が注目を集めるようになったのは2000年代以降。犬たちは全て橋の同じ側の、特定の箇所から飛び降りるという。しかも、突然興奮した様子で橋の欄干に向かって走り出し、ためらうことなくジャンプしてしまうのだそう。命を落とすケースも少なくなく、「犬の自殺橋」という異名まで付けられた。地元では超常現象との関連を疑う声もあるが、動物行動学者たちは橋の下に野生のミンクの巣があり、その強い臭いが犬の本能を刺激している可能性を指摘している。

参考:Independent「 ‘Dog Suicide Bridge’: Why do so many pets keep leaping into a Scottish gorge?」

オーバートン橋オーバートン橋

4 UK英国 切り裂きジャックの正体
21世紀になって明らかに?

「切り裂きジャック」は、署名入りの犯行予告を新聞社に送りつけるなどした劇場型犯罪の元祖。1888年8月31日~11月9日までの約2カ月間に、分かっているだけでも5人の売春婦が狙われ、特定の臓器を取り除かれた死体が発見された。事件現場はいずれもロンドン東部のホワイトチャペル周辺。厳重な捜査網が敷かれたにもかかわらず、犯人は捕まっていない。臓器摘出の跡などから、犯人は医者だったのではないかといわれているが、真相は謎に包まれたままだ。しかし2019年、ある被害者の遺体のそばにあったショールでDNA鑑定が行われた。それによると、すでに被疑者の1人として浮上していた当時23歳のポーランド人理容師アーロン・コスミンスキーが犯人である可能性が高いという。

参考:Metro「The Polish barber who could have been Jack the Ripper」

ホワイトチャペル周辺であった切り裂きジャックの犯行と思われる七つの現場ホワイトチャペル周辺であった切り裂きジャックの犯行と思われる七つの現場

5 Germanyドイツ ライン川の城に眠る少女の伝説
イディリア・ダッブの悲劇

ライン川中流域には数々の伝説が息づくが、そのなかでも19世紀に実際に起きたとされる少女の悲劇が、今なお人々の心を捉えている。1851年、スコットランド出身の17歳、イディリア・ダッブは家族とドイツを旅行中、城跡のスケッチを行うために1人で高さ約20メートルの塔に登ったが、観光用に設けられていた木製階段が崩落して取り残された。助けを呼ぶも誰にも気づかれず、塔の上で4日間、脱水症状によって(と推測されている)命を落とした。その遺骨と孤独の中で死の間際まで書いていた日記が発見されたのは9年後の1860年、塔の修復作業中のことだった。現在、城では150本以上のろうそくを灯す夜の「キャンドル・ツアー」が開催されており、イディリアの物語は訪れる人々の胸に静かに刻まれている。

参考:Rheinland-Pfalz Tourismus GmbH「Das Schicksal der Idilia Dubb Geheimnisvolle Burggeschichten vom Rhein」

ライン川の城

6 Germanyドイツ デュッセルドルフの吸血鬼
ペーター・キュルテン

1930年5月24日、「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれて世間を震撼させていた連続殺人犯が逮捕された。その人物は、当時46歳のペーター・キュルテン。少なくとも9人を殺害し、その血を飲んだといわれている。幼少期から暴力と貧困に満ちた環境で育ったキュルテンは、放火、暴行、強姦、窃盗、横領など多数の前科を持っていたが、殺人犯としてはノーマークだった。常にスーツの手入れ用のブラシを持ち歩き、魅力的で教養のある人物のように見えたため、被害者らも油断したという。さらに犯行時には化粧をしており、生存者の証言から、警察は犯人がキュルテンよりも10~20歳年下だと推測していた。最終的に、別の犯罪で逮捕されたのをきっかけに連続殺人を自白し、死刑判決を受けた。

参考:WEB.DE「Er trinkt das Blut seiner Opfer – und wird nur durch einen Zufall gefasst」

「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれたペーター・キュルテン(1883-1931)「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれたペーター・キュルテン(1883-1931)

7 Germanyドイツ 世界を騒がせた
「ヒトラーの日記」贋作事件

1983年4月、雑誌「シュテルン」は「ヒトラーの日記」とされる記事を発表したことで、世界から注目を浴びた。70年代、シュテルンの記者でナチス研究をしていたゲルト・ハイデマンはイラストレーターのコンラッド・クジャウと知り合った。クジャウによれば、戦争末期に飛行機墜落によって失われたと思われていたヒトラーの個人的所有物が、戦後に東ドイツで発見されたという。その中にあったとされる「ヒトラーの日記」は、クジャウを通じて高値で取引された。しかし間もなくして、日記がクジャウによる贋作だったことが発覚。実際は演説や教科書からの引用が多く、歴史修正主義的な内容だったという。ハイデマンは懲役4年8カ月、クジャウには懲役4年6カ月が言い渡された。

参考:NDR「Vor 40 Jahren: Urteile nach Skandal um die "Hitler-Tagebücher"」

雑誌「シュテルン」の記者会見で話すゲルト・ハイデマン雑誌「シュテルン」の記者会見で話すゲルト・ハイデマン

世間を驚かせた犯罪

8 UK英国 ゴヤの絵を盗んだ
テレビ受信料反対派

1961年8月21日、ロンドンのナショナル・ギャラリーでスペインの巨匠ゴヤが1812~14年に描いた「ウェリントン公爵の肖像」が盗まれた。警察は当初、国際的な犯罪組織の関与を疑い、犯人はなかなか特定されなかった。だが事件から4年後の1965年5月、定年退職した元バス運転手ケンプトン・バントンが、絵画をバーミンガム駅の手荷物預かり所に預け、その預かり証をタブロイド紙「デイリー・ミラー」に郵送。6週間後には自ら警察に出頭した。裁判でバントンは、絵画を返却する代わりに政府が14万ポンドを寄付し、テレビ受信料を払えない人々の支援に充てるべきだと訴えた。絵画が無傷で戻されたことや、行為が抗議の一環とみなされたことから、美術品の窃盗罪は成立せず、額縁のみの窃盗で有罪となり、3カ月の実刑判決が下された。

参考:The National Gallery「Hugh Courts' papers relating to the trial of Kempton Bunton」、BBC「The bus driver who confessed to stealing a Goya masterpiece」

9 UK英国 高齢者の熟練犯罪集団が
高級宝飾品で強盗

中世以来、宝飾を扱う店舗や職人の工房が軒を連ねるロンドンの高級宝飾品店街ハットン・ガーデン。その88〜 90番地にある地下の貸金庫に強盗が入ったのは、2015年のイースター4連休中のことだった。犯人たちは連休を利用して、厚さ180センチのコンクリート壁に産業用ドリルで穴を開けて金庫室に侵入。貸金庫から金品を奪い去った。CCTV映像には作業用ヘルメットをかぶった男たちが手際よく金品を運び出す様子が記録されていた。細部に至るまで計画された、この大胆な犯罪による被害総額はおよそ1400万ポンド。しかも実行犯の6人は最高齢76歳を含む高齢の熟練犯罪集団だった。グループはその後逮捕されたが、回収された盗難品は約430万ポンド分にとどまっている。この事件は世間に大きなインパクトを与え、「Hatton Garden: The Heist」(2016年)や「The Hatton Garden Job」(2017年)など複数の映画の題材にもなった。

参考:Tavexbullion「The Infamous Hatton Garden Safe Deposit Heist」

右手が事件のあった貸金庫会社の建物右手が事件のあった貸金庫会社の建物

10 UK英国 5人で5000万ポンド以上
英国最大の給付金詐欺

イングランドとウェールズで、ブルガリア国籍の5人が2016〜21年の間に約5390万ポンドを不正受給していたとして有罪を認めた。偽の雇用証明や賃貸契約書、給与明細、医師の診断書などを駆使し、数百件の生活保護申請を偽装。犯人らは、これらの偽書類を含む「申請パック」を自宅に保管し、第三者のための虚偽申請を助ける仕組みまで構築していた。犯人宅からは現金、高級車、ブランド品が押収された。労働年金省(DWP)とクラウン検察局(CPS)の合同捜査により摘発。政府は給付金詐欺対策を強化しており、2022/23年度には約180億ポンドの不正支出を防止した。今後5年間でさらに6億ポンド規模の削減を見込んでいる。

参考:GOV.UK「Fraudsters behind £53.9 million benefits scam brought to justice in country’s largest benefit fraud case」

11 Germanyドイツ 「クッキーモンスター」が犯人!?
黄金ビスケット盗難事件

2013年1月、ドイツ・ハノーファーでビスケット「ライプニッツ」でおなじみのバールセン社から、重さ約20キロの金メッキ製巨大ビスケット像が何者かによって盗まれた。事件後、犯人は「クッキーモンスター」のコスプレ写真とともに慈善団体への寄付を要求。バールセン社は恐喝には応じなかったが、約2週間後に像はハノーファー大学の前に再び姿を現した。犯人は不明のままだが、この事件でバールセン社は国内メディアに600回近く取り上げられ、広告効果は170万ユーロ相当とも。一方で同社は慈善団体への寄付を実施し、結果的に騒動は社会貢献に転じた。現在、黄金のビスケット像は再び元の場所に戻され、監視カメラに守られており、この奇想天外な事件は今もなお語り継がれている。

参考:stern「Keks da, alles gut?」、「Krümelmonster beschert Bahlsen Millionenwert」

黄金ビスケット盗難事件

12 Germanyドイツ 警察官が事故車から
チーズ180キロをねこばば

2019年9月の高速道路の事故現場。現場を確保すべき立場にあった警察官が、なんと横転したトラックからチェダーチーズ約180キロを持ち帰るという前代未聞の行動に出た。この警官は引き揚げ業者に声をかけ、20キロ入りのチーズパック9個(総額約5000ユーロ相当)を要求。うち数個は警察署に、残りは家族や知人に分けたとみられる。本人は「チーズは廃棄される運命だった」と釈明し、「自分はチェダーを食べない」とまで主張したが、ラインラント=プファルツ州の裁判所はこれを一蹴した。「制服と武器を所持したまま、任務中に窃盗を働いた」として、州警察の信用を著しく損なったと判断。刑事訴訟と罰金に加え、最終的に懲戒免職が確定した。

参考:LTO「Polizist fliegt raus wegen Käse-Klau」

チーズ180キロをねこばば

13 Germanyドイツ 古民家で40万マルクを発見
逆に罰金1万ユーロが科せられた夫婦

とある夫婦が、ヘッセンのヘルプシュタインにある古民家を購入。元の所有者は亡くなっており、大掛かりな片付けと改修が必要だった。そして2023年12月、夫婦はベッドサイド・テーブルの中にコーヒーとお菓子の包み紙に入った現金を発見する。その額なんと38万6680マルク、約20万ユーロに相当する大金だった。夫婦はそれを改修費用に充てようと考え、虚偽の紛失届を提出。その後、現金が全く関係のない場所で見つかったとして自分たちのものにする計画だったが、不信に思った警察当局が捜査を開始。結局、裁判に発展し、夫婦は大金を手に入れるどころか1万ユーロの罰金が科せられたのだった。裁判所によると、最初から警察に届け出るべきだったという。

参考:hessenschau「Geld bei Haus-Renovierung entdeckt: Ehepaar findet 400.000 D-Mark - und wird verurteilt」

古民家で40万マルクを発見

珍裁判・法律エピソード

14 UK英国 無許可でレモネードを売った
5歳少女に150ポンドの罰金!?

2017年7月、ロンドン東部の通り角で、小さな手作りのレモネード屋を開いた5歳の少女が、まさかの犯罪者扱いを受ける騒動があった。音楽フェスティバルが開催された週末、マイル・エンドの住宅街で1杯50ペンスでレモネードを売っていた少女に、タワーハムレッツ区の取締官が接近。「無許可営業」として150ポンドの罰金を言い渡した。父によると、娘は「人を笑顔にしたい」との思いで屋台を開いたが、娘は泣きながら「悪いことをした」としがみついてきたという。その後、世論の批判を受けた同区は謝罪声明を出し、「担当者には常識ある判断を求めている。今回の対応は誤りだった」とし、罰金は即座に取り消された。

参考:The Guardian「Girl, 5, fined £150 for running homemade lemonade stall」

レモネード販売

15 UK英国 「プリングルズはポテチじゃない」
その主張は認められず課税対象に

英国で販売されているスナック菓子「プリングルズ」が、付加価値税(VAT)の課税対象に当たるかどうかが争点となった訴訟で、控訴裁判所は2009年5月「課税対象とするのが妥当」との判断を示した。そもそも英国では、基本的な食品は付加価値税が0パーセントだが、スナックなどの嗜好品には20パーセントかかる。一方で、軽食になるようなケーキや一部のビスケット類は0パーセント。このケースの発端は前年に、高等法院が製造元の訴えを支持し、プリングルズを「ジャガイモの含有率が42パーセントと比較的低く、成形された粉末生地から作られることなどを理由に、ケーキやビスケットに類似する」と判断したこと。これを受け、課税対象外との判決が一度は下された。しかし、税務当局がこの判決を不服として控訴。市場関係者の間では、「食品分類の基準が依然として曖昧」との声もある。

参考:BCC「Pringles lose Appeal Court case」

プリングルズはポテチじゃない

16 UK英国 ボールが家に直撃!
クリケット場 vs 新住民の裁判

イングランド中部、ノッティンガムのリンビーにあるクリケット場。その隣に新築住宅を購入したミラー夫妻は、試合中に飛んでくるボールが庭や窓に当たり、安心して暮らせないとして、地元クリケット・クラブの代表ジャクソン氏を相手取り提訴した。一審のノッティンガム高等法院はプレー差止めの仮処分を出したが、1977年の控訴審でロンドンの控訴院はこれを覆す。クリケットは地域社会にとって有益な活動であり、完全な禁止は行き過ぎだとして、クラブの過失や権利侵害は認定しつつも、損害賠償の支払いのみに留めた。この裁判は、「後から引っ越してきた住民にも静穏な生活を求める権利はあるのか?」という争点とともに、個人の権利と地域の伝統とのバランスを問う例として、現在も引用されている。

参考:LawTeacher「Miller v Jackson – 1977」

クリケット場 vs 新住民の裁判

17 Germanyドイツ まずい料理は誰の責任?
ザウアーブラーテン事件

ザクセンのアウアーバッハ地方裁判所は2002年、あるレストラン客が「ザウアーブラーテン」(ドイツ風酢煮込み肉料理)の味に不満を訴えて支払いを拒否した事件で、料理の出来が契約通りであったことを証明する責任は店側にあるとする判決を下した。事件の発端は、被告となった客が13.80マルクのザウアーブラーテンを注文し、提供された料理のソースが豚肉のローストソースのように「小麦粉っぽくて味が薄い」と感じたこと。会計では98.50マルクのうち85マルクだけ支払い、残りの料理代金の支払いを拒否した。レストラン側は未払い分を求めて提訴。しかし裁判所は、店側が料理が「契約通り適切に調理・提供された」ことを明確に証明できなかったとして、訴えを退けた。

参考:urteile.news「Sauerbraten-Fall: Zur Beweislastverteilung bei der Frage der Schmackhaftigkeit eines in einem Restaurant servierten Sauerbratens」

ザウアーブラーテン事件

18 Germanyドイツ 野鳥を守るため
猫に数カ月の外出禁止令

2022年7月9日〜8月31日まで、ドイツ南部ヴァルドルフ市で、絶滅危惧種カンムリヒバリの保護を目的に、猫の外出が禁止された。ライン=ネッカー郡によると、市内にはわずか3組の繁殖ペアしかおらず、特に飛べないひなが猫に襲われる危険が高いため、種の存続のための厳格な措置を取ることにしたという。違反すれば500ユーロの罰金、鳥を傷つけた場合は最大5万ユーロが科されるルールだった。ただし、カンムリヒバリの生息地を通らない猫や、リード付きでの散歩は例外とされ、猫を禁止区域外の親族に預けることも認められた。ヴァルドルフ市長は「現実的でない」と懸念を示したが、市として郡からの命令を覆すことはできなかったという。野生動物の保護とペットの自由をめぐる議論は今後も続きそうだ。

参考:Der Spiegel「Kreis verhängt monatelange Ausgangssperre für Katzen – zum Schutz der Haubenlerche」

猫に数カ月の外出禁止令

19 Germanyドイツ 連邦最高裁判所が判決
「ビルケンシュトックは芸術ではない」

2025年2月、連邦最高裁判所は世界的サンダル・メーカー「ビルケンシュトック」の商品は「芸術ではない」との判決を下した。同社は自社のサンダルは芸術であることを主張し、定番モデルの類似品を販売する3社を訴えていた。本件を担当した弁護士は、「同社のサンダルは、サンダル界のポルシェのようなものだ」と発言。創始者のカール・ビルケンシュトック氏は存命で、もしビルケンシュトックが芸術と認められれば、死後70年までは著作権で保護されることになるはずだった。一方で、意匠権(物品や建物のデザインの知的財産権)は20年で失効する。同社はすでに意匠権を失っており、今回訴えられていた3社は販売継続が認められた。

参考:WDR「Bundesgerichtshof: Birkenstock-Sandalen sind keine Kunst」

ビルケンシュトックは芸術ではない

20 Germanyドイツ 恋のおまじない効かず
「魔女」を相手取って裁判

2005年、元恋人との復縁を望む女性が「魔女」に恋のおまじないを依頼。女性は1000ユーロ以上を支払い、魔女は数カ月にわたって毎月の満月の前に「愛の儀式」を実施した。ところが、いつまでたっても恋人は戻ってこない。失望した女性は、魔女を自称する人物を相手取り、返金を求めて訴訟を起こすことに。女性は「魔女がそのおまじないが成功することを保証した」と主張したものの、魔女はこれを否定。儀式を遂行しただけで、必ずしも効果が得られるわけではないことも警告したと述べた。さらに、自分は本来は魔力を持っていることも主張したという。ミュンヘン地方裁判所は魔女の魔力は認められないと判断し、依頼主には1000ユーロが返金されることになった。

参考:JURios「Hokus Pokus Zivilrecht: Hexe hat keinen Anspruch auf Bezahlung eines Liebeszaubers」

「魔女」を相手取って裁判

 

ロンドンから電車で片道2時間以内で気軽に行けるナショナル・トラスト施設

National Trust 130周年ロンドンから電車で片道2時間以内気軽に行ける
ナショナル・トラスト施設

英国の自然や歴史的建築物の保護を目的に設立されたナショナル・トラストは、2025年に開設130周年を迎えた。節目の年にあたり、ナショナル・トラストは次の10年に向けたビジョンを掲げる。同時に、貴族の暮らしをしのばせる邸宅や、彩り豊かな庭園が織りなす英国ならではの景観は変わらず人々を惹きつけてやまない。今回は、そんなナショナル・トラストが運営する施設の中から、ロンドンから電車で片道2時間以内、公共交通機関だけで気軽に訪ねられる場所を厳選して紹介する。(水野彩女、本誌編集部)

*開館時間は時期や施設内の場所によって異なります。お出掛けの際は記載のウェブサイトよりご確認ください。

チャートウェルウィンストン・チャーチルが晩年を過ごしたチャートウェル

ナショナル・トラストとは?

正式名称は「歴史的名所や自然的景勝地のためのナショナル・トラスト」(National Trust for Places of Historic Interest or Natural Beauty)。1895年にオクタヴィア・ヒル、ロバート・ハンター、ハードウィック・ローンズリーという、当時の英国の社会改革に尽力した3人によって設立された。以来、存続や維持が難しくなった貴族の大邸宅や宗教施設などを保護するチャリティー団体として運営されている。ピーター・ラビットの物語で有名な英作家のビアトリクス・ポターが湖水地方に所有する広大な土地を同機関に寄付するなど、英国のさまざまな歴史上の人物たちがその運動に共鳴。現在ではナショナル・トラストを通じて多くの歴史的施設が一般公開されている。入場料は、施設の維持や保護に充てられるので、訪問することがそのままナショナル・トラストの活動をサポートすることにつながっている。年会費を払うメンバーシップ制度もある。

メンバーシップ制度

ナショナル・トラストの活動に協賛する人のための制度。 年会費を払えば、英国全土に広がる500カ所以上のナショナル・トラスト施設への入場や駐車場利用が無料になる他、ショップでの購買も料金が割引になる。

  • 個人(5歳未満は無料)
    • 大人(26歳以上):£96/年(£8/月)
    • 大人(18~25歳):£48/年(£4/月)
    • 子供(5~17歳): £12/年
  • ジョイント
    • 大人2人(同住所に住む18歳以上): £160.80/年(£13.40/月)
  • ファミリー
    • 大人2人(同住所に住む18歳以上)+子供または孫(5~17歳): £168.60/年(£14.05/月)
    • 大人1人+ 子供または孫(5 ~17歳): £103.80/ 年(£8.65/月)

ナショナル・トラストの次の10年

ナショナル・トラストは今後10年でロンドンの1.5倍にあたる25万ヘクタールの土地で泥炭地の修復や湿地・草地の再生、森林づくりを進める。すでに整備を始めた北アイルランドのブラック・マウンテンでは、3年で133ヘクタールの泥炭地を回復させる予定だ。これにより気候変動の原因となる二酸化炭素を吸収し、洪水リスクの軽減にもつなげる。これまで以上に環境問題に踏み込んだ取り組みだ。

また、都市に住む人々の自然へのアクセス格差を解消するため、英中部コヴェントリー中心部にある14世紀の修道院跡「チャーターハウス」を拠点に、庭園や緑地を公開。さらに100の町や都市で緑地ネットワークを拡充する自然都市プログラムもこの夏始動予定だ。これらの方針は、会員やボランティアら7万人以上の声をもとに策定された。ナショナル・トラストは今後10年で500万人に自然保護活動への参加を呼びかけ、若者向けの職業訓練やBBCとの番組制作などを通じ、自然と文化の価値をより多くの人に届けることを目指している。自然再生と人のつながりをキーに、今後も活動を続けていく。

ブラック・マウンテンの一部、ディヴィス・マウンテンルブラック・マウンテンの一部、ディヴィス・マウンテン

ロンドンから片道2時間以内で行ける施設5選

カントリー・ハウスのお手本 Belton House
ベルトン・ハウス

ベルトン・ハウスオランダ式庭園からベルトン・ハウスを臨む
ベルトン・ハウス敷地内の森にはベルモント・タワーと呼ばれる小さな塔が立つ
ベルトン・ハウスウィンザー・ルームと名付けられている寝室

ロンドンのキングス・クロス駅から列車で北へ約1時間。英中部リンカンシャーの町グランサムの郊外に、シカの生息する森林や美しい湖を併せ持つカントリー・ハウスがある。その広大な敷地にはイタリア式とオランダ式の庭園を配し、中央にはチューダー様式の邸宅の中でも特にエレガントな美しさで名を知られる、ベルトン・ハウスだ。

17世紀に建てられたベルトン・ハウスは、所有者であるバウンロー男爵夫妻の趣味を反映した、こぢんまりとした端正な邸宅で、その洗練されたデザインは当時流行していたゴシック建築の派手な大邸宅とは一線を画す。1987年に7代目バウンロー男爵によってナショナル・トラストに寄贈されるまで、第一次世界大戦中を除くほとんどの年月が、一族によって利用された。

この館は、一族の友人でもあった国王エドワード8世が、米国人女性ウォリス・シンプソン夫人との秘かな逢瀬の場に使ったと言われ、やがて「王冠を掛けた恋」として世間を騒がせる大スキャンダルとなった事件の一端に、この邸宅が関わっていたことになる。また、1995年にBBCでドラマ化・放映された、ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」のロケ地ともなり、今でも多くのファンが訪れることでも知られる。

邸宅の内部は、かつては1階以上が男爵一家の住まいで、地下はメイドやバトラーといった使用人たちの住居やキッチンに分かれていた。2025年7月時点は休止しているが、「ビロウ・ステアーズ・ツアー」と称し、この地下の部分を紹介する人気ツアーも開催されることがあるので、サイトで要確認。いくつもの小さな部屋から、華やかな貴族の暮らしを縁の下から支えた使用人たちの日常が想像できそうだ。

● Infomation

£20(子供 £10)
庭園のみ £17(子供 £8.50)
Grantham, Lincolnshire NG32 2LS
Tel: 0147 656 6116
水~日 12:30-17:00(要予約)
ナショナル・レールGrantham駅から1番または27番のバスでBelton Hall Gates下車、徒歩5分
www.nationaltrust.org.uk/belton-house

王子の代わりに罰を受けた男の邸宅 Ham House and Garden
ハム・ハウス&ガーデン

ハム・ハウス&ガーデンテムズの川辺に建てられたハム・ハウスの広々とした庭
ハム・ハウス&ガーデンオランジェリー・カフェでくつろぐ訪問者たち
ハム・ハウス&ガーデン「ザ・ロング・ギャ ラリー」と名付けられた部屋にある日本の飾り戸棚。金箔が塗られたオランダ製の台上に置かれている

ロンドン地下鉄の運行区域であるというのが信じられないほど、緑にあふれた景色が続くリッチモンド地区。広大なリッチモンド・パークや、静かに、そして雄大に流れるテムズ川など、視界に入るのはいかにも英国的な田園風景だ。ハム・ハウスは、この自然の中に佇んでいる。

かつて英国には「ウィッピング・ボーイ(むち打ち用の男の子)」なる役職が存在した。神によって王権を授かったと見なされていた王子を側近が叱ることは許されない。そこで編み出されたのが「ウィッピング・ボーイ」。この役割を担う男の子は王子とともに育てられ、王子が何か悪さをした際には代わってむち打ちの罰を受けなければならない。王室社会に閉じ込められて友人が少ない王子にとっては、兄弟のようにして一緒に育てられた幼なじみが罰せられるのは耐え難い苦しみであり、しつけの方法としては効果的であったという。

後に清教徒革命で処刑されたチャールズ1世にも、ウィリアム・マリーという名のウィッピング・ボーイがいた。チャールズ1世は成人後もマリーを忘れることはなく、このハム・ハウスを与えた。邸宅はマリーの死後も何代にもわたり一族が相続し、最終的にはナショナル・トラストへと寄付された。

邸宅は17世紀のオランダ絵画のコレクションでも知られるが、日本や中国のさまざまな芸術品もそろう。また、この時期ぜひ訪れたいのが庭園。ウィンブルドンのセンター・コートを丸ごと包み込むサイズを誇る緑の芝生を始め、50人以上の庭師が世話するという、色と香りにあふれた夏らしい草花の数々は、イングランドの夏の姿として訪問者の記憶に残ることは間違いない。

● Infomation

£17(子供 £8.50)
Ham Street, Ham, Richmond, Surrey TW10 7RS
Tel: 020 8940 1950
邸宅 12:00-16:00 庭園 10:00-17:00
地下鉄Richmond 駅から371番または65番のバスでSandpits Road下車、徒歩15分
www.nationaltrust.org.uk/ham-house

ウィンストン・チャーチルゆかりの地 Chartwell
チャートウェル

チャートウェル変わり行く空の色の中に佇むチャーチルの別邸
チャートウェルスタジオに残るチャーチルのパレット
チャートウェル庭園ゴールデン・ローズ・ウォークは夏も美しい

英南部ケントの静かな村、ウェスターハムの西にあるカントリー・ハウス、チャートウェル。この館は、現在でも名相と呼ばれるウィンストン・チャーチルが、第一次世界大戦に関する著作「世界の危機」(「The World Crisis」)の印税で1922年に購入し、家族とともに晩年まで週末を過ごした場所として知られる。部屋の多くはチャーチルとその家族が使っていた当時のままに保管されており、絵画や書籍、愛用品の数々が、まるで持ち主が席を外したばかりのような姿で置かれている。また、アマチュア画家だったチャーチルが1924年に描いた風景画や、フランス印象派の画家クロード・モネによる1902年の作品「チャリング・クロス橋」など、美術愛好家の驚くような作品が何気なく壁に飾られているのを見つけるのも楽しい。チャーチルは40歳を過ぎてから絵を描き始めたが、アトリエとして利用した別棟のスタジオには、額装されていない作品が数多く飾られている。

もちろん付近を散策するのを忘れずに。かつて「チャートウェルから1日離れることは、1日損をすることだ」とチャーチルが言った通り、チャートウェルの美しさは夏にハイライトを迎える。敷地内の各所で咲き誇る香り高い花々を愛でるも良し、湖の側で涼しい風に吹かれながらのピクニックも良しだ。

この季節はキッチン・ガーデンもにぎやか。ここで採れた新鮮な野菜や果物は、かつてチャーチル一家の食卓にも上った。ちなみに、カフェはグルメだったチャーチルの専属料理人、ジョルジーナ・ランドマーレさんの名が冠されている。

● Infomation

邸宅+庭園+スタジオ £22(子供£11)
庭園+スタジオ £15.40(子供£7.70)
Mapleton Road, Westerham, Kent TN16 1PS
Tel: 0173 286 8381
邸宅 11:30-17:00(週末は異なる)
庭園 10:00-17:00
ナショナル・レールOxted駅から236番バスでMapleton Road下車、徒歩6分(夏期の日・祝日に限りナショナル・レールBromley North駅から246番のバスも運行
www.nationaltrust.org.uk/chartwell

「オーランド」の舞台となった Knole
ノール

ノール広大な敷地面積を持つ、ノールの邸宅と庭園
ノールレッド・ルームの別名もあり、重厚な雰囲気が漂うレイノルズ・ルーム
ノール敷地内には中世から鹿が生息していた

ナショナル・トラスト施設の多くが郊外や地方に点在する中、ロンドンから1時間以内で訪れることのできるのが、英南部ケントのセブンオークスの町にあるノール。600年以上の歴史を刻む壮麗な屋敷と、1000エーカーを超える広大な庭園とが一体となった、イングランドでも屈指の規模と格式を誇る邸宅だ。

このノール・ハウスは、15世紀末にカンタベリー大主教の邸宅として建てられたもので、のちにエリザベス1世の寵臣トマス・サックヴィルが所有者となった。以後、400年以上にわたりサックヴィル家によって受け継がれ、同家の血を引く作家ヴァージニア・ウルフの恋人で詩人のヴィタ・サックヴィル=ウェストもこの屋敷に生まれ育っている。ウルフの代表作「オーランド」は、この屋敷とその家族をモデルに書かれたものとしても知られる。敷地内には、鹿の群れが暮らす中世から続くディア・パークや、かつて王族のために用意された壮麗なステート・ルーム群、17世紀の調度品をそのまま残した部屋など、時代を超えて保存された空間が点在する。特にエリザベス朝時代の香りが色濃く残るグレート・ホールや、タペストリーが壁一面を覆うレイノルズ・ルームは見どころの一つ。ここでは、ジョシュア・レイノルズ、マス・ゲインズバラ、ヴァン・ダイクなどの名画も観ることができる。一方で、かつての住人でヴィタの従弟、エディ・サックヴィル=ウェストの個室へと続くゲートハウス・タワーに上って周囲の景観を眺めるのも良いだろう。老朽化による建物の損傷を修復する大規模なプロジェクトを展開しており、毎週水~土曜日に修復ガイド・ツアーなども開催中だ。屋根裏部屋ツアーも興味深い。

● Infomation

庭園+塔 £6(子供 £3)
邸宅+庭園+塔 £18(子供 £9)
Sevenoaks, Kent, TN15 0RP
Tel: 0344 249 1895
邸宅 11:00-16:00 塔11:00-17:00
ナショナル・レールSevenoakes駅から徒歩30分
www.nationaltrust.org.uk/visit/kent/knole

ほろ酔い気分でタイム・スリップ George Inn
ジョージ・イン

ジョージ・インまるで歴史劇のセットのようなジョージ・イン
ジョージ・イン店内のあらゆるところに肖像画や古地図などが掲げられている
ジョージ・インすぐ近くには高層ビル、ザ・シャードがそびえ立つ

ナショナル・トラストが管理する歴史的施設は、お城や貴族の邸宅といった上流階級の人々が暮らした建物ばかりではない。英国の庶民の歴史と文化を語るとなると、やはりパブは外せないだろう。英各地には古いパブが点在するが、ナショナル・トラストの管理下にあり、しかも気軽に訪れることができるのがこのジョージ・インだ。

ロンドンに現存する旧宿屋としては、唯一となる回廊を持つ施設。交通量が多いバラ・ハイ・ストリートから一歩東側に入ると、歴史劇の舞台セットとして出てきそうな回廊が出現。「イン」と呼ばれる宿屋が居酒屋を兼ねていた時代には、このように店の正面に回廊が設けられていることが一般的であったという。

決して広い空間ではないにもかかわらず、店内はいくつかの小部屋に分かれている。パーラメント・バーは、かつて馬車の到着を待つ客の待機所として使われていた場所。またミドル・バーは、以前はコーヒー・ルームと呼ばれており、英作家のチャールズ・ディケンズが頻繁に訪れていた。ディケンズは、近隣の刑務所に収監されていた父親と面会するため、幼少時からこの辺りをよく歩いていたという。債務を支払うことができない者たちが収監された監獄をテーマとした作品「リトル・ドリット」でもこの店についての記述が見られる。

壁の到る所に掲げられた英国の偉人の肖像画、薄暗い照明、黒色の木材に囲まれた空間には、まるで英国史の一幕に足を踏み入れたかのような雰囲気に満ちている。

● Infomation

入場無料
The Geroge Inn Yard,77 Borough High Street, London SE1 1NH
Tel: 020 7407 2056
11:00-23:00(週末は異なる)
地下鉄London Bridge駅から徒歩5分
www.nationaltrust.org.uk/george-inn

 
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