10万ポンドをどう投資するか?
一生涯には相続や贈与によりまとまった金額を受け取ることがあるかもしれません。突然大金を手にしたらどのように投資するのがいいのでしょうか。その税金は?今回はさまざまな投資方法を検証してみます。
日本の祖母から2000万円を相続しました。英国で申告・納税すべきですか。
英国では相続税は死亡した方の相続財産から支払われますので、受け取る方には申告納税義務はありません。ただし、日本にて相続税が発生するかもしれませんのでご留意ください。
英国に送金して投資するのがいいでしょうか。ポンドが高いので躊躇しています。
ご本人の事情によりますが、もし英国に長期居住する予定で最終的にこちらで使うことになる資金であれば、送金しておく方が理にかなっているかもしれません。2022年ごろからポンドは主に英国・米国・日本の金利差を反映し、円に対して強くなっています。ご承知の通り、こちらの競争力のある預金では年4パーセント程度の利回りを得られますが、日本ではいまだに金利がゼロに等しい状況です。5年間こちらで投資した場合、その差は20パーセントに達します。言い換えると、5年後にポンドが20パーセント下落し、197円から158円になったとしても、円のままにしておいた場合と経済的な効果はほぼ同じといえます。なお、この例における金利は税引き前の数値なので、実際のリターンの合計はご本人の税率により異なります。ISAなどの非課税口座の活用が重要なのが明白だと思います。

不動産を購入するのはどうでしょう。
不動産は長期的に有望な投資です。家賃の節約にもなり、売却時の利益は非課税ですので自宅購入は検討の価値ありと思われます。10万ポンドを頭金に、ご本人の所得により住宅ローンが借りられます。一方で、投資用の不動産は税的に不利な点が多いのが注意点です。まず不動産取得税(Stamp Duty)が5パーセント追加でかかり、さらに、売却する際には売却税(Capital Gains Tax=CGT)が基礎税率者では18パーセント、高所得者や追加税率の対象者は24パーセントかかります。CGTは給与などほかの所得に合算され税率が決まるので、実際には多くの方が24パーセントを払っています。また、以前は100パーセント経費として計上できた住宅ローン金利の支払いは、現在では一定額までしか相殺できなくなっています。
Stamp Duty Rates 居住用不動産
自宅 | 自宅投資用・別荘 | |
---|---|---|
Up to £125,000 | 0% | 5% |
£120,001 ~ £250,000 | 2% | 7% |
£250,001~ £925,000 | 5% | 10% |
最も節税効果のある投資は何ですか。
高税率・追加税率納税者の方でしたら、個人年金や職場年金への拠出をすると、拠出額に対し40~45パーセントの節税効果が得られます。また、非課税口座のISAを毎年2万ポンド積み立てることで、5年で合計10万ポンド全てを非課税口座内に収めることができます。さらに、政府の貯蓄専門金融機関であるNational Savings and Investments(NS&I)の「プレミアム・ボンド」も人気があります。これは毎月のくじ引きで最高100万ポンド(約2億円)の賞金が当たる可能性があり、その賞金は非課税です。
株式は長期投資に向いていると聞きますが本当でしょうか。
下記図2のグラフの通り、株式は長期的に見て大きなリターンが期待できます。Aは世界株式を運用対象とする英国投資信託の平均リターンを示しており、10年前に1000ポンド投資していた場合、現在では2500ポンドに増えています。一方、預金で投資する投資信託の平均(下記C)は、同じ期間で1200ポンド弱にとどまります。無論、株式の価値は日々変動しますので、相場下落の際は慌てず静観することが重要です。

金やビットコインはどうでしょうか。
先進国政府の債務がGDPの100パーセントを超え、地政学的リスクが高まるなか、金やビットコインなどの代替資産が注目されています。金は中央銀行が「印刷できる通貨」ではなく、有形資産なのでヘッジとしての役割が期待されています。2009年ごろから登場したビットコインは、昨今11万ドルまで上昇していますが、とても高リスクで「投機的」な資産とみなされています。各国の金融庁などによる規制が及んでいないので、何か問題が起こっても苦情申し立てや補償金をクレームすることができません。
以上いろいろな投資オプションを取り上げましたが、検討に際してはご自身の金銭的な状況、目標、リスク許容度など包括的に検討し、最適な投資を選ぶことが重要です。独立した立場からの専門的なアドバイスを受けることをお勧めします。
当コラムは2025年8月時点の法制と税制に基づき一般的なガイダンスのために作成されており、皆様のご理解を深めるために内容を簡素化してある場合もあります。専門家の助言なしに記載情報にのみ基づき行動することはお控えください。その場合、筆者は一切責任を負いません。過去の運用成績は将来のそれを保証するものではなく、投資元本価値は上下し元本割れする事もあります。
※ 次回のマネー教室は11月20日号に掲載致します。本コラムのバックナンバーはこちらからご覧ください