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Tue, 13 May 2025

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

バーミンガムでごみ収集業者のスト「重大事態」に賃金削減をめぐる市と労組の対立が長期化

「英中部の主要都市バーミンガム(Birmingham)でごみ収集業者のストライキが続き、ネズミや害虫の被害が出ている――。テレビでニュースをつけるたびに、私たちは積み上げられた黒いごみ袋の山、路上に散らばったさまざまなごみの様子を目にすることになりました。ネズミまでも徘徊し、相当ひどい状況です。身震いするような光景ですが、「なぜほったらかしになっているのだろう」「これが本当に英国?」と疑問がたくさん湧いてきました。

バーミンガムは2023年9月に財政破綻したと発表した都市でもあります。地方自治体の財政破綻とは一体どういうことなのか? これも大きな疑問ですよね。地方自治体の運営には中央政府の予算も入っており、自治体自体が破産する仕組みにはなっていないようです。実際には「財政破綻を通知した」のでした。自治体は歳出義務を実行する歳入額がない見込みとなったとき、地方自治財政法の第114条によって公表することが義務化されているのです。必要不可欠なサービスを除く全ての新規歳出が停止されました。当時、バーミンガムは8700万ポンド(約165億円)の赤字が予想され、このほか職員による男女の同一賃金請求が原因で当時7億6000万ポンド(約1451億円)の負債を抱えていると説明していました。


ごみ問題の根っこにあるのは昨年来の市と労組の対立です。ごみ収集作業員の超過勤務手当の削減や時間外労働の禁止、作業員の一部整理などの市の決定に反対し、労組側は今年1月から断続的にストを開始し、3月11日から無期限の全面ストに突入しました。未回収のごみ約1万7千トンが路上に放置され、廃棄物が悪臭を放つようになったことを受けて、市議会は同31日に「重大事態」を宣言し、緊急対策に乗り出しました。これまでも市当局は臨時職員を使ってごみの回収を試みたのですが、スト参加者らがごみ集積所へのアクセスを封鎖するなどして妨害し、うまくいきませんでした。そこで緊急対策として路上清掃車の増加、ほかの部署との連携、近隣自治体への協力要請などを始めました。市のごみ回収活動は続いており、市民には通常通りに回収日にごみを出すこと、リサイクル品は複数のリサイクル・センターに持っていくことなどを勧めています。また、移動式ごみ収集所が市内各地を回っています。

2023年9月の財政破綻通知を受けて、保守党前政権は市政運営を改善するための委員らをバーミンガムに送り込んでいます。この体制は労働党政権でも引き継がれ、ガバナンスや戦略的意思決定、財政運営の見直しなどが行われてきました。昨年10月付けの委員会の最初の報告書では自治体のガバナンスの貧困さ、ITシステムの導入費用が大幅に膨れ上がったこと、市民向けのサービスの不十分さなど市政の問題点が指摘されました。今年1月付の2回目の報告書では2024年度予算の赤字は3億7500万ポンド(約676億円)に達する見込みとなり、支出削減策と資産売却によって大幅に減少させたものの、今後も赤字が予想されており、「危うい状態にある」そうです。


住民からの税金、事業税、中央政府からの助成金などで運営される地方自治体ですが、人口増、インフレ、エネルギー価格の上昇、福祉サービスの需要増大によって危機的な財政状況に直面する例が少なくありません。2010年代の政府の緊縮財政策で、地方自治体への助成金が2桁台で削減されたことも打撃でした。イングランド中部のノーサンプトンシャー(2018年)やロンドン南部クロイドン(20年)などは行政サービスの予算縮小などで乗り切ってきました。国家統計局(ONA)の調査によると、25年会計年度でイングランドの42のカウンシルが政府から特別支援金を得たそうです。財務省を巻き込んで、自治体全体の財政を底上げするアプローチが推奨されています。

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Birmingham(バーミンガム)

英中部ウェスト・ミッドランズにある都市で人口は約115万人。近郊エリアには約230万人が住む。18世紀以降の産業革命によって工業都市として発展。ジェームズ・ワットがこの地で実用的な蒸気機関を開発した。重工業の中心地で製鉄所、製鋼所などの黒煙が空を覆うところから別名「ブラック・カントリー」とも。現在はサービス業が主。

 
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