第199回
20年で駐在員の生活はどう変わったか
今年、筆者の私は駐在員向け税務の分野で働き始めて20年を迎えます。2006年にPwCに新卒で入社し、英国に従業員を長期駐在させる日本企業を担当していましたが、当時は現在とは全く異なる世界でした。私が今自問するのは、ロンドン、そしてより広く英国は、今でも日本人駐在員が数年間を暮らすのに適した場所なのかという点です。
20年前、ロンドンは日本人駐在員にとって当然の赴任先のように思われていました。今でもそうですか。
多くの点でイエスですが、状況は変わりました。2000年代初頭はロンドンの魅力は明快でした。金融の世界的ハブであり、欧州で事業基盤を築こうとする日本企業にとって象徴的な拠点であり、日本人コミュニティーも形成されていたため、ロンドン生活への適応も容易でした。ロンドンそのものの魅力は変わりませんが、変わったのは、生活への適応が以前より複雑になり、費用もかさむようになったことです。
経済的な負担が増えた要因は何ですか。
最も大きな変化は、円安の進行とロンドンの生活費の高騰が重なったことです。2007年の円安水準にはまだ達していませんが、22年以降の急劇な円安により、日本からの駐在パッケージで赴任する日本人駐在員は、ロンドンの生活で10年前の駐在員に比べて実質的にはるかに高いコストを負担しています。ロンドンの住宅費、学費、そして日々の生活費の本格的な見直しが必要となっています。駐在パッケージは、コストとの整合が取れるように以前よりも工夫を凝らす必要があり、人事部門にとって、その見直しは一度きりの調整ではなく、恒常的な業務となっています。
実際に暮らす街としてロンドンは変わりましたか。
いくつかの点で、ロンドンはかつてないほど日本人が暮らしやすい街になっています。20年前には、本格的なラーメンやコンビニ風のランチを見つけるのは一苦労でしたが、今では簡単に見つかります。日本食や日本的美意識、文化的な影響は、06年当時には想像もできなかったほど、この街の日常風景に溶け込んでいます。日系のビジネスも大きく増え、土曜の補習授業校のネットワークも拡大し、約3万人規模の日本人コミュニティーがこの街にしっかりと根付いています。
NHS(国民医療サービス)の待機時間の長さや、住宅のコストおよび供給不足など構造的な課題は確かに存在します。また、パンデミック後のロンドンでは、都市環境が以前と比較してやや秩序を欠いている印象を与えるかもしれません。しかし、こうした課題は日本人居住者に限ったものではなく、この街に暮らす全ての人に共通したものです。
では、ロンドン赴任は依然として価値がありますか。
間違いなくあります。英国における日本の投資額は870億ポンド(約18兆円)に達し、1000社近い日本企業がここで事業を展開しており、その数は増え続けています。日本を代表する大手法律事務所のいくつかも、ここ数年でロンドンに事務所を開設しています。日本人駐在員にとって、ロンドンがもたらすキャリア上の機会は損なわれていません。むしろ、日英関係の深まりと複雑化のため、ロンドン駐在の戦略的な価値はかつてないほど高まっています。
ロンドンはこれまでも、この街の流儀を受け入れようとする人々に常に報いてきました。日本人プロフェッショナルにとっても、それは変わりません。この街は20年前と比べて物価も高く、複雑になっていますが、それはどの都市でもいえることです。問題は、ロンドンが完璧かどうかではありません。価値ある場所であるかどうかです。その問いに対する私の答えは、今も変わらずイエスです。
トム・アダムス グローバルモビリティパートナー 英国勅許会計士協会公認会計士。税務、年金、従業員福利厚生の分野で20年近い経験を積む。世界中の企業・個人クライアントへ、クロスボーダー人事・税務支援を提供。ケンブリッジ大学日本語学科卒。



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