木陰を探して、夏を楽しむ 英国のピクニック最新事情
近年、英国でも夏の暑さが年々厳しくなり、「晴れているから公園へ」という楽しみ方にも少し工夫が必要になってきた。それでも、木陰で本を読み、友人と軽食を囲み、芝生でのんびり過ごす時間は、この国ならではの夏の風景だ。今回の特集では、英国のピクニック文化や歴史をたどりながら、暑い日でも快適に過ごすコツ、お勧めスポットまで、この夏役立つ情報をご紹介する。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部、Shoko Rudquist)
参考: https://hauntedpalaceblog.com、https://www.fortnumandmason.com、https://parksforlondon.org.uk

意外と知らないピクニックの始まり
単純に屋外で食事をするだではなく、家族や友人らと集って周りの景色を楽しみながらお弁当を広げるいわゆる「ピクニック」が、いつ頃から人々の生活に定着したのか、ご存知だろうか。実はこの風習は、17世紀のフランスで生まれたといわれている。フランス語の動詞piquer(つつく、摘む)と名詞nique(少量)が結びついたものと考えられている。ピクニックという言葉が初めて登場するのは1649年の風刺劇で、主人公の「ピクニック」は英雄であり大食漢として描かれている。17世紀後半には流行の最先端を行くパリでピクニックが広まり、参加者がそれぞれ料理を持ち寄って楽しむ屋内の宴会を指す言葉として使われるようになった。「pique-nique」という言葉が確認できる最も古い印刷物の一つは、1692年に刊行された「Origines de la Langue Françoise」(フランス語の起源)である。
自然に触れ合うことが上流階級の間で流行しはじめた
ただし、この頃の「ピクニック」に、外で食事をするという意味は全くなかった。あくまで室内で開かれる、洗練された社交の場を指す言葉だったのだ。この言葉が英国に伝わったのは18世紀半ばのこと。フランス革命を逃れ、ロンドンにやってきた貴族たちが持ち込んだこの文化は、19世紀初頭には「ピクニック・ソサエティー」の誕生などを背景に、社交界で親しまれるようになっていく。「屋外で、景色を楽しみながら」という現代のピクニックのイメージが定着するのは、自然との触れ合いや田園風景を愛でることを重視した19世紀初頭のロマン主義の影響による。1815年に出版されたジェーン・オースティンの小説「エマ」には、ボックス・ヒルでのピクニックの場面が登場するので、当時すでに、景色を楽しみながら屋外で食事をするピクニックは、英国の上流・中流階級の夏の社交として親しまれるようになっていたことがうかがえる。

ピクニック・ソサエティーとは
1801年、ロンドンでフランス革命による亡命貴族や親仏派の英国人ら約200人によって結成された社交クラブ。ロンドン中心部のトッテナム・ストリートで宴会を開き、参加者には料理1品とワイン6本を持参することが義務付けられていたという。晩餐やアマチュア演劇を楽しむ自由な集まりとして人気を集めた。現在のような屋外でのピクニックとは異なるが、「ピクニック」という言葉や文化が英国で広く知られるきっかけの一つとなった。

英国のピクニック文化を知るQ&A
フランスから伝わったピクニックは、英国で独自の発展を遂げた。ハンパーの誕生やヴィクトリア朝の食文化などの発展の歩みを当時の楽しみ方とともにたどってみよう。
Q1.「ハンパー」とは?
A. 元来は籐などの植物性の繊維で編んだ籠のことをハンパー(Hamper)と呼んでいたが、時間とともに、ピクニック用の食器や食料を詰める籠のことを指すようになったとされている。語源は古フランス語の「hanaper」(杯を収めるための入れ物)にさかのぼるともいわれ、英国ではもともと、玩具やリネンの収納、また旅行かばんの意味として使われることが多かった。ピクニック用ハンパーの生みの親といわれている高級食料品店フォートナム&メイソン(F&M)でも、当初は顧客の旅行用収納ケースとして売られていた。
現在の形のハンパーの販売が開始されたのは、1738年のこと。1707年創業のF&Mが、当時の英国の特権階級の人々を顧客としていたなか、コーンウォールやバースといった地方の邸宅に向かう顧客から、「食料品などを詰めて持ち運べる籠がほしい」という声が寄せられたのが始まりだった。ただ、当時はまだ、外で食事をとるという行為は下品なことだと考えられており、上流階級の間ではあり得ないこととされていた。以来ハンパーは、単なる収納用品から「贈答品」としての性格も帯びるようになり、今日でもクリスマスや特別な機会の贈り物として人気を保っている。

Q2.昔のピクニックでは何を食べていた?
A. ちょうどヴィクトリア朝時代に当たるこの時代、ピクニックは特権階級の人々が郊外の邸宅の庭などに集まり、食事を楽しむためのものとなっていた。当時のベストセラーであったミセス・ビートンの家政読本にもピクニックの心得が紹介されているが、その内容はもはや軽食とは呼べないもので、実質的には屋外での晩餐会に近かった。持ち寄られる食事の内容は、パンにバター、ハムやチキン、ハード・チーズ、サラダ、そしてホット・ウォーター・クラスト(Hot Water Crust)と呼ばれる英国ならではのパイ生地を用いたポークやキジのパイ、桃やぶどうなどのフルーツや、乾燥フルーツがぎっしり詰まったケーキ、「スモール・ビアー」と呼ばれたアルコール度の低いビールの一種など。ポート・ワインやシェリー酒といった甘めの酒も好まれた。

こうした豪華な食事の裏には、大勢の使用人による労力があったことも忘れてはならない。クーラー・バッグなどない時代なので、内部にわらを敷き、バターは冷たいレタスの葉に包むなどして温度調節を工夫したという。また、携帯用として最適な竹を使った使い捨てのカトラリー類も開発された。ちなみに、ひき肉でゆで卵を包み丸い形に整えた「スコッチ・エッグ」は、実はピクニックのために生まれた料理ではない。1730年代、旅人向けの携帯食として考案されたもので、英国でピクニックが流行する約1世紀も前から類似の食品は存在していた。ポケットサイズで食べ応えのあるこの一品は、やがて屋外での食事に欠かせない定番として定着していった。優雅に見えるピクニックの背景には、こうした入念な準備と、既存の携帯食を巧みに取り込む工夫が積み重ねられていたのだ。

Q3.ピクニックはどのように人々の娯楽として広がった?
A. 19世紀も終わりに近づくと、競馬やポロといった屋外のスポーツ観戦時にもピクニックが楽しまれるようになった。特に1780年に始まったエプソム・ダービーは、19世紀半ばにはロンドン市民にとって一大日帰り行楽となり、観戦とともに食事を楽しむピクニックが定着した。1838年にはダービー当日、ロンドンのナイン・エルムズ駅に列車を目指す人々が殺到し、駅が機能不全に陥るほどの混雑となったという記録も残っており、鉄道の発達がこうした行楽の裾野を大きく広げたことが分かる。
同様に、テムズ川沿いで行われるヘンリー・ロイヤル・レガッタでも、階級によって楽しみ方に違いがあった。上流階級は川沿いの白いテントで正式な昼食会を開いた一方、庶民は川岸に腰を下ろし、思い思いのピクニックを広げて観戦を楽しんだ。同じ会場でも、階級に応じて異なるピクニックの形が並存していたことになる。
こうしたさまざまな需要に応えるため、食料品店では目的地や移動手段に合わせたハンパーを用意するようになった。20世紀に入ると、自動車の普及に伴って車のトランクに収まる仕様のハンパーも登場し、第1次・第2次世界大戦を挟んで鉄道網や道路網がさらに整備されると、労働者階級も含めたより幅広い層が郊外や海辺への日帰り旅行を楽しめるようになった。ピクニックは、かつて特権階級だけのものだった「特別な社交の場」から、誰もが気軽に楽しめる屋外レジャーへと、時代とともにその姿を変えていったのだ。
自動車の普及が、ピクニックをより身近なレジャーへと広げた
今どきのピクニック、暑さ対策は万全に!
近年、英国の夏は年々厳しさを増している。木陰でのんびり、という従来のピクニックのイメージも、今や暑さ対策なしには語れない。ヴィクトリア朝の人々がシャンパンやロブスターを囲む優雅なピクニックを楽しんでいたのに対し、現代の英国のピクニックには、保冷剤やクーラー・バッグ、日差しを避けるための工夫が欠かせなくなりつつある。ここでは、道具・食べ物・コツの三つの視点から、夏場のピクニックを快適に乗り切るためのポイントを紹介する。
道具
まず押さえておきたいのが、下に敷くブランケット。英国の芝生は見た目以上に湿っていることが多いため、裏面が防水加工になったものを選びたい。次に必須なのが、クーラー・バッグと保冷剤だ。バターやチーズ、卵料理は気温が上がるとすぐに傷んでしまうため、夏場は特に念入りな温度管理が求められる。凍らせたペットボトルを保冷剤代わりに使うのも手軽な工夫の一つだ。ただ、特別な道具を買いそろえなくても、ブランケットは家にあるシーツや毛布で十分代用できる。使い捨ての食器やカトラリーより、繰り返し使えるものを持参する方が洗う手間はかかるが結果的にエコで経済的。
もう一つ覚えておきたいのが「風対策」。ロンドンの公園は意外と風が強く、ブランケットの端が固定されていないと、あっという間に飛ばされてしまうのでご注意を。
- 防水加工のピクニック・ブランケット
古いシーツや毛布でも代用可 - ブランケットを固定する重し
- クーラー・バッグ、保冷剤
- 折りたたみ式のタープやサンシェード
大きな木陰が見つからないときの強い味方 - 繰り返し使えるカトラリー・セット、割れにくい食器
- 虫よけスプレー
シトロネラ系のキャンドルも人気 - 折りたたみ傘、またはポンチョ
英国の空模様は変わりやすい

食べ物
傷みやすい生ものや乳製品は避け、常温でも比較的安心なメニューを選ぶのがコツだ。サンドイッチの具材は、マヨネーズをたっぷり使ったものより、酸味が強いピクルスや塩気のあるオリーブなどを取り入れたものがお勧め。具材を詰め込み過ぎず、食べ切れる量を用意すると衛生面でも安心だ。また、個包装のスナックも良いが、量り売りの果物や野菜を持っていくと、ゴミも減らせて一石二鳥。ぶどうやミニトマトなど洗うだけで食べられるものの方が傷みにくく扱いやすい。
ロンドン市内には数千カ所の無料給水スポットがあり、専用アプリ「Refill Return」で最寄りの給水スポットを検索できる。ペットボトルを買い足す代わりに、マイボトルに給水しながら移動するのもスマートだ。ピクニックの定番でもあるワインやビールなどのアルコール類は、暑い日には脱水を進めやすいので要注意。ロンドンの公園の中には飲酒が制限されている区域もあるため、事前に自治体のウェブサイトなどで確認しておくと安心だ。
洗うだけで簡単に食べられる果物や野菜が便利

コツ
優雅さだけでは夏を乗り切れない時代だからこそ、ちょっとした工夫と、公園を気持ちよく使う意識が、快適な夏のひとときを支えてくれる。道具や食べ物の準備に加えて、以下のような行動面の心がけも意識してみたい。
- 気温が最も上がる正午〜午後3時のピークタイムを避ける。夕方からのピクニックもお勧め。英国の夏は21時ごろまで明るいため、暑さが和らいでからでも十分楽しめる
- 日焼け止めや帽子は必携。近年は英国でも紫外線対策への意識が高まりつつあるので、さまざまな日焼け止めが手に入る
- 公園の噴水や水遊び場の近くを選ぶと、涼を取りながら過ごせる
- ゴミは持ち帰りを基本に。公共のゴミ箱が混雑していることも多い
- 使い捨てBBQは火災防止のため使用を禁止している公園が多い。利用前に公園のルールを確認しておこう
多くの人が楽しむ公園だからこそ、周囲への気配りを忘れずに
ピクニックの思い出と一緒に、ゴミも持ち帰りたい
今行きたい! ロンドンのピクニックスポット6選
納得のいくグッズとお弁当の準備が整ったら、あとはお気に入りのスポットを探すだけ。ロンドンには、趣の異なる公園や緑地が街中から郊外まで点在している。それぞれの魅力を比べながら、自分だけのお気に入りを見つけてみよう。
Kensington Gardens
ケンジントン・ガーデンズ

ハイド・パークの西に位置し、故ダイアナ元妃なども暮らしたケンジントン宮殿を有する王室ゆかりの庭園。広々とした芝生と大きな木々があり、クラシックな英国らしい雰囲気を味わえる。19世紀半ばまでは、単に園内を散歩するだけでもドレス・コードがあったという。
London W2 2UH
[Lancaster Gate / Queensway駅から徒歩1分]
0300 061 2000
www.royalparks.org.uk/visit/parks/kensington-gardens
Greenwich Park
グリニッジ・パーク

「グリニッジ標準時」における経度0度の地点である「グリニッジ天文台」のある公園だが、丘の上からロンドンの景色を一望できる人気スポットでもある。歴史と自然が調和した空間で、海事博物館やプラネタリウムも近く、子ども連れでも飽きずに一日遊べる。
London SE10 8QY
[Cutty Sark for Maritime Greenwich駅より徒歩5分]
020 8294 2548
www.royalparks.org.uk/visit/parks/greenwich-park
Regent's Park
リージェンツ・パーク

ロンドンの街中で、週末の一日を目いっぱい効率良く楽しめる。まっすぐに伸びる並木道、その数8000本という色とりどりのバラが咲き乱れるローズ・ガーデン、運河、スポーツ広場、そして見事なイングリッシュ・ガーデンと、さまざまな魅力が詰まった公園。
London NW1 4NR
[Regent's Park駅より徒歩5分]
0300 061 2300
www.royalparks.org.uk/visit/parks/regents-park-primrose-hill
Kenwood House
ケンウッド・ハウス

ロンドン北部にある広大な公園ハムステッド・ヒースの、北端にあるエリア。ケンウッド・ハウスは、小高い丘の上に建つ美しいカントリー・ハウス。芝生や木陰が多く、静かに読書を楽しみたい人にぴったりだ。夏には野外コンサートが開かれることもある。
Hampstead Lane, London NW3 7JR
[Archway駅からバス]
020 8348 1286
www.english-heritage.org.uk/visit/places/kenwood/
Alexandra Palace
アレクサンドラ・パレス

高台からロンドン市街を一望できる人気スポット。コンサートやフードイベントなども数多く開催される。敷地内にはペダルボートが楽しめる湖や子ども向けの遊び場がある。夕暮れ時には、ロンドンの街並みを眺めながら過ごすひとときも格別だ。
London N22 7AY
[Alexandra Palace駅より徒歩5分]
020 8365 2121
www.alexandrapalace.com
Morden Hall Park
モーデン・ホール・パーク

草地やエドワード朝時代のバラ園、木々に囲まれ、鳥のさえずりやせせらぎが心地よく響く園内では、都会の喧騒を忘れ、思いがけない発見を楽しむことができる。ワンドル川沿いに並んでいた邸宅の面影を今に伝える、数少ない場所の一つ。
Morden Hall Road, London SM4 5JD
[Morden駅より徒歩5分]
020 8545 6850
www.nationaltrust.org.uk/visit/london/morden-hall-park



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