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Wed, 01 April 2026

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偽学生対策で学生ビザ制度が厳格化

就労可能な時間半減など新規定
偽学生対策で学生ビザ制度が厳格化

学生ビザ目まぐるしく変わり続ける英国のビザ制度であるが、今度は学生ビザの制度変更が発表された。労働を目的として入国する「偽学生」を取り締まるための措置であるらしいが、3月初旬からの変更と、発表から実施まであまり日がないこともあり、学生や語学学校などには動揺が広がっている。

学生ビザ制度変更の内容(2010年3月3日より実施)

・欧州経済領域(EEA)の加盟国以外の国の国民が、語学学校等の英語コースで英語を学ぶことを目的に「ポイント制度」の「4階層(Tier 4)」のカテゴリー内で学生ビザを取得する場合、語学学校等がそれらの学生に対して提供できる英語クラスの最低レベルを引き上げる。これまでは、英語コースで教えることができる最低レベルが、「欧州言語共通参照枠組み(CEFR)」(*)が規定する「A2」レベル(基礎レベル)であったところ、今後は「B2」レベルに引き上げられる。政府は、「B2」レベルについて、義務教育修了時に受ける全国統一試験(GCSE)と同等のレベルであると説明している。ただし、学位取得コースの準備コースとして英語クラスを受講する場合、及び本国の政府から財政支援を受けている学生は例外とされる。

・学位レベル未満のコース、またはファウンデーション学位(**)取得を目的としていないコースで学ぶ学生が学校の学期期間中に就業できる時間をこれまでの週20時間から週10時間に削減する。学校の休暇中はフルタイムの就業が許可される。

・入学したコースが6カ月以下のコースである場合、その配偶者には、学生ビザ保持者の配偶者として英国に滞在する権利は与えられない。このルールは、学位レベルを含むすべてのレベルのコースの学生に適用される。

・学位レベル未満のコース、またはファウンデーション学位取得を目的としていないコースで、期間が6カ月を超えるコースで学んでいる場合、配偶者には英国滞在の権利が与えられるが、配偶者の英国での就労は禁止される。ただし、配偶者が、「ポイント制度」の「1階層(Tier 1)」または「2階層(Tier 2)」のカテゴリー内において自身で英国内での就労の権利を獲得している場合は除く。これまでは、学位レベル未満のコースでも、12カ月以上のコースに入学していれば、配偶者に就労が許可されていた。

★上記のルールはすべて、「ポイント制度」の「4階層(Tier 4)」のカテゴリー内で学生ビザを取得した学生に適用される。
(*) 欧州評議会が制定する外国語学習の習熟度に関する指標。Common European Framework of Reference for Languages。
(**) 特定の産業分野で求められる知識、技術を身に付けることを目的とした高等教育の資格。2001年9月導入。大学、専門学校などにコースが設けられており、既にその分野で働いている人などを対象とする。Foundation Degree。

【補足1】2010年4月6日からの変更事項

・学位レベル未満のコースで、職業実習(Work Placement)を含むコースを提供できるのは、「信頼度の高い学生ビザ・スポンサー(Highly Trusted Sponsor)」として政府のリストに登録された学校に限る。「信頼度の高い学生ビザ・スポンサー」の登録制度は、政府が現在、詳細を策定中であり、今年4月6日から実施される。内務省は、公立の教育機関はすべて自動的に登録されることになる見込みであると述べている。民間の教育機関は、登録申請が必要になる見込み。

【補足2】今夏からの変更事項

・学位レベル未満のコース、ファウンデーション学位取得を目的としていないコースに入学を希望する者は、語学学校入学希望者も含め、英政府が承認した英語の試験機関が提供する英語の試験を受験し、英語力が少なくとも「CEFR(上記参照)」の「B1」レベルに達していることを証明することを義務付けられる。

Source: Home Office、UK Border Agency、UK Council for International Student Affairs

ポイント制度とは

2008年から段階的に導入された、欧州経済領域(EEA)の加盟国以外からの移民の規制制度。移民を下記の5つのカテゴリーに分け、各カテゴリーに必要なポイント数を獲得できればビザを取得できる。

1階層
(Tier 1)
高度な技能を有する労働者、起業家、投資家など
2階層
(Tier 2)
英国内の雇用主から仕事のオファーを受けている、技能を持つ労働者
3階層
(Tier 3)
労働力が不足している低熟練労働の仕事に従事するため雇用された短期労働者
4階層
(Tier 4)
学生(ビザ取得に必要なポイントは40ポイント。学校からの入学許可証(Visa Letter)の提出で30ポイント、留学費用及び滞在費用を自己資金でカバーできることを証明する財政証明の書類を提出すれば10ポイント獲得できる)
5階層
(Tier 5)
ワーキングホリデー・ビザ取得者、プロのスポーツ選手、英国でコンサートを行う音楽家など

労働は週10時間までに制限

政府は今月上旬、欧州経済領域(EEA)の加盟国以外からの学生に発給される学生ビザの制度変更を発表した。変更事項の大半は、学位レベル未満のコースの学生を対象としており、語学学校の学生などに大きく影響するが、大学生、大学院生にはそれほど関係がない。制度変更は今年3月3日からで、同日以降に提出された学生ビザ申請にはすべてこの新ルールが適用される。

英国では一昨年から段階的に導入された移民規制制度である「ポイント制度」の実施により、以前は可能だった非熟練労働者への労働者ビザ発給が不可能になった。そのため、英国で非熟練労働の仕事に従事したいEEA外の人が、とりあえず英国へ入国する手段として学生ビザを取得するケースが増えている。今回の制度変更は、こうした状況に対応し、労働目的の偽学生の入国を阻むことを主な目的としている。新ルールには、語学学校で学べる英語のレベルの最低ライン引き上げという内容もあるが、これも、英語力が低くても受け入れるコースに入学することで英国に入る手段を獲得し、非熟練労働の仕事を見つけようとする人の入国を防ぐためである。上記を見ると、たとえ学生ビザを取れても、学位レベル未満のコースに入学した場合は、学生自身及びその配偶者の英国での就労の権利が制限または剥奪されることになった事実が分かる。

インド北部からの学生ビザ申請7.5倍に

ポイント制度下における学生ビザのシステムについては、手続きがほとんど書類上だけで済むため、不正の標的になりやすいとの指摘はかねてからあった。英政府は今年1月末、インド北部、ネパール、バングラデシュからの学生ビザ申請受付を一時的に停止した。同地域からの学生ビザ申請が急増したことを受けたものであったが(例えば2009年10〜12月の北インドからの学生ビザ申請は1万3500件に上り、前年同期の1800件から7.5倍に増えた)、これらの申請の多くが「偽学生」によるものだったと考えられている。

国内の語学学校の代表組織である「イングリッシュUK」は今回の制度変更に関して、本当に英語を学びたい学生に英国留学の意欲を失わせ、語学教育産業に大きな打撃を与えるとして批判している。留学生の中には、まず語学学校に入学し、英国入国後に次の進学先として英国内のどの大学に行くか決める人も多いが、今回の制度変更によって、そうした学生も英国を留学先に選ぶことを躊躇するようになる可能性もある。そのため、語学学校のみならず、大学にもダメージは大きいと言われている。

保守党は更に制度厳格化か

なお、今春の総選挙で政権復帰を果たすと予測されている保守党は、伝統的に移民制限に積極的であリ、学生ビザ制度の改正にも強い意欲を見せている。同党のグレイリング影の内相は最近、学生ビザ制度について、「コース1年につき2000ポンド(約30万円)の手付金を留学生から英当局に支払わせ、本国に帰国しないと返金しない」「学生ビザで滞在中、通う学校を変更することを禁止」、「英国滞在に必要な自己資金の証明に関する規則の厳格化」などの厳しい政策を導入したい旨を明らかにしており、今後も制度の厳格化の流れは続くものと考えてよいだろう。

UK Border Agency

国境管理、移民・難民、ビザ発給、市民権、関税などの分野に責任を有する内務省の執行機関。日本語では「英国国境庁」などと訳される。「国境・移民局(BIA)」、「UKビザ」、「歳入・関税庁(HMRC)」の一部の機能を統合して2008年4月に設置。世界130カ国にオフィスを有し、各国で提出されるビザの申請書類の審査を行う。雇用職員数は全世界で2万5000人に達する。最近では、IDカード(身分証明書)に関する業務も行っている。英国の本部はロンドン南部クロイドン。ウェブサイトは http://ukba.homeoffice.gov.uk

(猫)

 

揺れるイエメンと英政府の対テロ措置

国際テロ組織「アルカイダ」が勢力拡大か
揺れるイエメンと英政府の対テロ措置

昨年12月に発生した米デルタ航空機爆破未遂事件を境に、アラビア半島南端の貧困国イエメンに注目が集まっている。本年1月末には、英政府が「イエメン国際会議」を主催。日本を含む計25の国や機関の代表が参加し、国際テロ組織「アルカイダ」の勢力拡大が懸念されるイエメンに対しての包括的支援策等が協議された。


イエメン周辺国

写真左)2009年12月末、アムステルダム発デトロイト行きの米デルタ航空機を爆破しようと試みたとされているアブドルムタラブ容疑者

イエメン国旗イエメンの歴史

1839年 英国が南イエメンを植民地化
1918年 イエメン王国(北イエメン)が オスマン帝国から独立
1962年 軍事クーデターによりイエメン王国が崩壊し、イエメン・アラブ共和国誕生
1967年 英領南イエメンが独立(イエメン人民民主共和国)
1990年 南北イエメンが統一(イエメン共和国)
1994年 旧南イエメン勢力が再独立を求めた結果、内戦が勃発
2000年 サウジアラビアとの国境画定
2000年 南部アデン港で、アルカイダによる米艦コール襲撃事件発生

イエメン

イエメンを取り巻く主な不安定要素

1. アルカイダとソマリア
2月1日、ソマリアのイスラム過激派組織「アル・シャバーブ」は、国際テロ組織アルカイダに忠誠を誓い、「アフリカの角」と呼ばれる同東端地域においてジハード運動を展開する方針を発表。1月1日には、アル・シャバーブ指導部がアルカイダ関連組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」への支援としてソマリアの戦闘員を派遣することを提案した。しかしAQAPは、今は各々の戦闘を完遂するべきと返答。現時点では、双方が戦略的な連携関係を構築する可能性は低い。

2. ビンラディンの影響力
1月24日、カタールの衛星テレビ「アル・ジャジーラ」は、アルカイダ本体の指導者オサマ・ビンラディンのものとされる「ウサマからオバマ(米大統領)へ」と題する音声声明を放送。ビンラディンはこの声明で、米デルタ航空機爆破未遂事件のアブダルムタラブ容疑者を賞賛する等、AQAPとアルカイダ本体の戦略的連携や、イエメンにおける自身の影響力の高さ等を示唆。ただし米当局等は、同人による米デルタ航空機爆破未遂事件への関与の可能性は低いとの見方を示している。

3. アデン湾と海賊、そして難民
近年、テロ問題とは別に、アラビア半島南端とアフリカの角に挟まれたアデン湾で海賊による被害が多発している。また国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、1998〜91年のソマリア内戦勃発以降、ソマリア難民は43万人を超え、うちイエメン国内の避難民は約16万人に上るとの見解を発表。最近になって、テロリストの侵入を恐れるイエメン当局が、ソマリア難民を証拠不十分のまま拘束する例が相次ぎ、既に500人以上がこの被害に遭ったとしている。


英政府による主な対テロ措置(2010年1月以降)

1月1日 同月27日のイエメン国際会議開催を発表
1月2日 米国と共にイエメンにおける総合対テロ支援表明
1月3日 在イエメン英大使館閉鎖
1月5日 在イエメン英大使館再開
1月21日 イエメン首都サヌアからの直行便運行中止(イエメニア航空)
1月23日 テロ警戒レベルを「具体的な脅威」から「深刻な脅威」に引き上げ
1月27日 イエメンに関する国際会議主催
2月1日 ヒースロー空港とマンチェスター空港の一部で、全身透視スキャナー の使用開始

イエメン発の「クリスマスの攻撃」

昨年12月25日、後に「クリスマスの攻撃」とも呼ばれる米デルタ航空機爆破未遂事件が発生した。米当局は、アムステルダム発デトロイト行きの同航空機内で、着陸約20分前にプラスチック爆弾の爆破装置を起動させ、小規模な爆発を発生させたナイジェリア国籍のウマール・ファルーク・アブダルムタラブ容疑者(23)を拘束。同容疑者は、爆発物を米国上空で爆破するよう、イエメンに拠点を置く国際テロ・グループである「アルカイダ」の関連組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」から指示されたと自供し、事件翌日には、そのAQAPが犯行声明を発出した。

同事件を境に、国際社会におけるイエメンに対する関心が高まっている。本年1月1日には、EU諸国の中で対イエメン支援最大のドナー国である英国が、テロ組織の隠れ蓑となる危険性があるとして同国に対する支援を拡充するとし、同月27日に「イエメン国際会議」を主催する旨を発表した。

容疑者は在英中に過激化か

今般の事件で逮捕されたアブダルムタラブ容疑者は、2005年9月〜08年6月の約3年間、ロンドン大学(University College London)に在学し、機械工学の学位を取得。イエメンのアミーリ副首相は、同容疑者がアラビア語習得のためイエメンに滞在した04〜05年の1年間に過激派との接点は見られなかったことから、05年の渡英後にイスラム過激派組織に加わったのではないかとの見方を示している。また同相は、09年8月に同容疑者が再度イエメンに渡航した際、イエメン系米国人でAQAPと関係を有するイスラム過激派アンワール・アル・アウラキ導師と面会した経緯があるとも伝えた。

一方の英当局は、同容疑者は08年に英国を出国しているため、その後滞在した湾岸諸国、又はイエメンで過激化したとの見解を示した。ただし同年、英当局が米当局に、同容疑者がロンドンでイスラム過激派と接点を持ったという情報を提供していたことも報じられた。

英国が講じる対テロ措置

1月27日にロンドンで開催された「イエメン国際会議」では、中東地域における最貧国イエメンに対する今後の長期的な改革支援策が決議された。ただ、05年のドナー国会議や06年の対イエメン支援国(CG)会合等、これまでにも同様の協議が開催されたが、その後の国際社会の理解と支援が不十分であった等、国際社会が抱える課題は多い。またイエメンは、石油生産量の低迷や、高い失業率と人口急増等の経済・社会問題を抱える傍ら、政府・部族間抗争や、ソマリアからの難民問題、AQAP勢力の拡大等、政治・治安面における難題にも直面しており、近年におけるイエメン情勢は悪化の一途を辿りつつある。

英政府は、既に英軍対テロ特殊部隊をイエメンに派遣し、米政府と共に、イエメン治安部隊によるAQAP掃討作戦を支援していること等から、今後イエメンが、イラク、アフガニスタンに次ぐ、新たなテロとの戦いの舞台になる可能性を懸念する声も上がっている。

AQAP (Al-Qaida in the Arabian Peninsula)

イエメンに拠点を置く国際テロ組織「アルカイダ」の関連組織で、日本語では「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」などと訳される。09年1月、サウジアラビアとイエメンの過激派が新過激派組織AQAPを発足させ、世界にアラビア半島を中心とするイスラム国家を樹立するためのジハードを展開する旨を表明。現在のAQAP構成員数は200〜300人程度とされ、06年2月にイエメンの首都サナアにある中央刑務所から脱走した過激派や、キューバにあるグアンタナモ刑務所の元拘留者などがメンバーに含まれると見られている。

(吉田智賀子)

 

住居強盗・侵入者に対する自衛権とは

服役中の男性釈放で議論再燃
住居強盗・侵入者に対する自衛権とは

犯罪の被害者にならないよう、敏感にならざるを得ない英国での生活。特に自宅に侵入される住居強盗は、想像するだけで恐怖を感じる犯罪であるが、実際にその被害者となった場合、どこまで犯人に反撃する権利が与えられるべきなのか。英国では最近、あるニュースをきっかけとして、この問題に改めて関心が集まった。


住居強盗及び住居への侵入者に対する
自宅所有者の自衛権が問題となったケース

自営業の男性のケース

2008年9月、バッキンガムシャー州在住の自営業の男性(現在53)が、家族と共にモスク(イスラム教寺院)での礼拝から帰宅したところ、自宅内に3人組の覆面強盗を発見した。3人組は、男性ら一家を縛り、殺すと脅した。しかし、男性とその長男(同23)は脱出し、近所に住む男性の弟(同35)に救援を要請。男性は弟と共に自宅に戻り、逃げようとする強盗のうち一人を家の外まで追いかけ、クリケット用バットで殴った。激しく殴ったため、バットは3つに折れ、強盗は脳に不治の外傷を負った。

レディング刑事裁判所は2009年12月、男性に30カ月、男性の弟に39カ月の禁固刑との判決を下した。裁判官は、男性とその家族が「重大な凶悪犯罪」の被害者となったこと、男性と弟の無実を求める声が高いことを認めながらも、判決理由として、男性らの暴力行為の深刻な結果を反映する必要性などを挙げた。検察側は、起訴の理由に、男性と弟による「過剰な暴力行為」を挙げていた。

しかし控訴院は2010年1月20日、男性を12カ月、弟を24カ月の禁固刑に減刑した。男性は2年の執行猶予が付され、即日釈放された。裁判官は、控訴審が行われている間、男性と弟に対する慈悲深い対応を求める声が非常に高かったことなどに触れ、「減刑する理由は十分にある」などと述べた。

なお、男性と弟にクリケット用バットで殴られた強盗は、怪我のため出廷できなかったが、男性とその家族を不法に監禁したとして、2年間の監視命令を下された。男性宅への不法侵入容疑では誰も起訴されていない。

農場主の男性のケース

1999年8月、ノーフォーク州の農場主の男性(当時44)が、自身が所有する農場内の自宅に侵入した当時16歳の少年と29歳の男を銃で撃った。少年は死亡し、29歳の男は足を負傷した。2000年4月、ノリッジ刑事裁判所は、男性に対し、殺意を持って少年を殺害した(murder)として、終身刑の判決を言い渡した。同時に、傷害罪で10年、銃器の違法所持で12カ月の禁固刑との判決も言い渡された。2001年10月、控訴院は、少年の殺害について、殺意のない殺人罪(manslaughter)に減刑。一審判決を破棄し、5年の禁固刑に減刑した。傷害罪についても、3年の禁固刑に減刑された。これは、男性が事件当時、妄想性人格障害を患っており、責任能力が減退していたとする被告側の証拠が裁判所に受け入れられたことによるものだった。男性は2003年7月、5年のうち3年の刑期を終え、仮釈放された。この件は英国全土で大きな関心を集め、男性の行動を、「住居強盗・侵入者に対する自宅所有者の自衛権の行使」だとして支持する声も多く聞かれた。男性は昨年、某紙の取材に答え、同事件における自分の行動について、「後悔はしていない」などと述べている。

女性タレントのケース

マイリーン・クラス2010年1月下旬の夜間、女性タレントのマイリーン・クラス(写真)さんがハートフォードシャー州の自宅の台所にいた際、庭に複数の若者が侵入しているのを発見。すかさず、窓を叩きながら、近くにあった台所用ナイフを振りかざしたところ、若者たちは退散した。この後、クラスさんは警察に事件を通報したが、逆に警官から「自宅内であっても、『攻撃用の凶器』を振り回すのは違法」と注意されたという(しかし警察は後に、警官がクラスさんにこうした発言を行ったことを否定。また、自宅内でナイフを振り回すことは違法ではない)。

自営業を営むハンガリー人男性のケース

1995年末、ダービーシャー州在住のハンガリー人の自営業者の男性(当時53)が、自宅内に見知らぬ男を発見した。つかみ掛かってもみ合いになり、そのまま前庭まで移動した後、男性は隣人に助けを求めに行った。侵入者の男はその後、この時に首に負った怪我が原因で死亡。しかし公訴局は男性を不起訴処分にした。


強盗に重症負わせた男性が減刑、釈放

自宅に侵入した強盗に反撃し、重症を負わせた罪で服役していた男性(53)が先月下旬、控訴院による減刑の決定を受け、釈放された。この件は、英国内でかねてから論争の対象となっている、「住居強盗及び住居への侵入者に対する自宅所有者の自衛権」に関する議論を再燃させることになった。

男性は2008年9月、バッキンガムシャー州の自宅に侵入した3人組の覆面強盗のうち一人を、近所に住む弟(35)と共にクリケット用バットで殴り、脳に不治の外傷を負わせた。レディング刑事裁判所は2009年12月、男性に30カ月、弟に39カ月の禁固刑との判決を下したが、控訴院の今月下旬の決定は、男性の刑期を12カ月(執行猶予2年)、弟の刑期を24カ月に減刑した。

「妥当な範囲内の暴力行為」は合法

イングランド及びウェールズの現行法では、自分またはその他の者の身を守る、犯罪を防止する、合法的に拘束されている者の逃走を防ぐ、などの目的があれば、「妥当な範囲内での暴力行為(reasonable force)」を行うことが許されており、逮捕・起訴の対象にはならない。ただし、「暴力行為」は、強盗犯・侵入者を家の中に発見して身の危険を感じたり、冷静さを失うなどした結果、本能的に行われたものでなければならないとされており、また、「絶対に必要」と見なされる程度以上の暴力であってはいけないと規定されている。これらの条件を満たさない場合は、通常の暴力犯罪と同様、逮捕・起訴の対象になる。

バッキンガムシャー州の件では、強盗に反撃した男性を支持し、男性の無罪を主張すると共に、「逮捕・起訴の心配なしに、合法的に強盗・侵入者に対して行える自衛行為の範囲を拡大すべきである」とする意見が多く聞かれた。一方、こうした意見に反対し、「いくら強盗を発見したからと言って、必要以上の暴力的制裁を加えることが許されるとしたら、文明社会の基盤である治安制度、司法制度の意味が失われてしまう」として、現制度の維持を支持する声もあった。しかし、右派系メディアを中心に、男性の行動を支持する意見の方が圧倒的に多く、減刑・釈放も概ね好意的に受け止められていた。

保守党は自衛権の拡大に積極的

現労働党政権は、「妥当な範囲での暴力行為を行える」という規定の変更には消極的であった。しかし、次の総選挙での勝利が確実視されている保守党は、かねてからこの問題への取り組みに意欲的な姿勢を見せており、先月発表した総選挙マニフェストの犯罪対策に関する部分の草案でも、強盗・侵入者に対する自宅所有者の自衛権拡大を行うことを公約していた。

バッキンガムシャー州の男性が減刑される10日ほど前には、女性タレントが、自宅の庭に侵入した若者を台所用ナイフで威嚇したところ、警察から注意を受けたというニュースもあり、自衛権に関する更なるニュースとしてメディアで大きな注目を集めた。感情的な論調も目立ち、英国人にとっては理屈だけでは片付かない難しい問題であるようだが、現在の英国をめぐる論点の一つとして、今後も注目するに値するだろう。

Have-a-go hero

街中や公共の場などで、犯罪や喧嘩などを目撃した際、そのまま立ち去らず、仲裁に入ったり、犯罪を阻止しようと試みた人を指して主にマスコミで使われる言葉。住居強盗の被害者が、犯人に対して反撃し、攻撃した場合も、「have-a-go hero」と呼ばれることがある。「have a go」の英語の元の意味は「試みる、挑戦する」など。ロンドン東部では今年初め、インド人男性が、女性のバッグを奪って逃走した路上強盗犯を捕まえようとして追い掛けたあげく、刺殺されるという事件が発生し、「have-a-go hero」として称えられた。

(猫)

 

変わりゆく英国の初等・中等教育

報奨制度の導入に外国への進出
変わりゆく英国の初等・中等教育

他国と同じく、英国でも初等・中等教育のあり方に関する議論は尽きない。最近では、学習の奨励を目的として行われている「報奨制度」への批判が高まっている一方で、伝統・名門のパブリック・スクールが海外校を開設するという動きが顕著になってきた。今週は、英国の初等・中等教育における現状を覗いてみる。


イングランド・ウェールズにおける初等・中等教育の流れ
年齢 公立学校
(State School)
パブリック・スクール
(Public School)
10歳
初等教育修了
プライマリー・スクール
通常は5歳から初等教育を開始。10歳までの5年間を過ごすことになるが、5~7歳、7~10歳でそれぞれ別機関に通うことになっている地域もある。いずれの形態も公立であるため、授業料・教材費は無料。
プレパラトリー・スクール
プレップ・スクールとも呼ばれる。パブリック・スクールへ入学する生徒の多くが、その入学試験の準備のために通う。入学年齢は各校により異なる。
11歳
中等教育スタート
12歳
セカンダリー・スクール
コンプリヘンシブ・スクール : 入学条件のない地域制の総合中学
● グラマー・スクール : 成績などにより入学者が選出される中学。男女別学が一般的。
いずれも、16歳の学期末に、GCSEレベルを受けて義務教育を終了。
13歳
14歳
15歳
パブリック・スクール
入学試験を設ける学校が大半。授業料が高いが、オックスフォード大学やケンブリッジ大学などの名門大学への進学においては、公立学校よりも有利だとされる。定員が少ないため競争率が高い。近年では11歳から入学を受け入れる学校も多くなった。通常、18歳の学期末にAレベル試験を受ける。
16歳
義務教育修了
高等教育スタート
17歳
18歳
シックス・フォーム、シックス・フォーム・カレッジ
地域のセカンダリー・スクールに併設されているのが、シックス・フォーム。セカンダリー・スクールからは独立して運営されているのがシックス・フォーム・カレッジ。いずれも、大学入学のために必須となり、18歳の学期末に受けるAレベル試験に備えるための教育課程。
 
大学進学、就職

報奨に値すると見なされる行為の例
● テーブル・マナーが良い
● 皆が楽しく遊べるように努力する
● 話をよく聞き、発言する前にはきちんと挙手する
● じゅうたんの上にきちんと座ることができる
Sources: The Daily Telegraph
海外校を持つ英国の代表的なパブリック・スクール
1ハロー・スクール校(ロンドン): バンコク(タイ)、北京(中国)
2シャーボーン(ドーセット): ドーハ(カタール)
3 ダリッチ・カレッジ(ロンドン): 上海、北京、蘇州(中国)
4 レプトン・スクール(ダービシャー): ドバイ(アラブ首長国連邦)
5へイレイバリー・スクール(ハートフォードシャー): アルマトイ(カザフスタン)

報奨制度の功罪

生活態度に問題がある生徒などに対する方策として、労働党政権は、数年前に生徒への報奨制度(Reward Scheme)を導入した。今では多くの公立学校、さらにいくつかの私立の初等教育機関が積極的に取り入れており、中には生徒の学業成績の向上や出席率の安定という効果を生み出して、地域の問題校から、全国の注目を集める優良校へと変化を遂げた例もある。

しかしながら、その運営には批判の声も寄せられている。一つは、その報奨が特に過剰であること。いくつかの学校では、政府からの予算上限である3万ポンド(約435万円)を使い切って、プラズマ・テレビや海外への航空券、さらにはゲーム機など、およそ教育とは関係のない物品を生徒に与えたという。このような高額商品は、教育本来の目的である「自ら学ぶ姿勢」を損なうと教育心理学者等から批判が集中。高額な報奨制度の運営を教育機関ではない一般企業が下請けしていることにも、非難の声が上がっている。

また初等教育において、できて当然と見なされることにまで「よくできました」賞を出し続けるという点も問題視されている。「きちんと床に座ることができました」「他の子と仲良く遊ぶことができました」といった評価で、毎日のように賞状を与える学校もあるという。

外国が憧れるパブリック・スクール

英国の教育システムを語る上で今も存在感を失わないパブリック・スクール。英国内での教育制度の混乱をよそに、今その教育の質が世界で求められている。

名門のハロー校は、既に中国とタイに。ロンドン南東部の伝統校ダリッチ・カレッジは中国に開校している。そのきっかけとして、アジア諸国へと進出する英国企業や世界各地に住む英国人の増加という背景もあろう。しかしながら、諸外国が英国におけるパブリック・スクールの教育制度を強く望んだ結果、名門校の現地校を開くために誘致したというのが大きな理由となっているようだ。パブリック・スクールが生徒たちに教えてきた真摯に勉学に励む態度、自ら物事を考える姿勢、そして社会人としてのマナー。これらに、彼らは英国人以上に価値を見出している。

総選挙の中心となる教育制度

報奨制度を導入することで教育制度が混乱に陥りつつあるという議論と、パブリック・スクールの海外進出という2つの事象の間には、一見したところ、何の関連性もないように見える。しかしながら、国内では機能麻痺が叫ばれ、外国からは熱い期待が寄せられているという状況は、英国の教育制度が抱える現実と理想のギャップを表しているとも言えるのではなかろうか。言い換えれば、教育の「質」が生み出す格差を表しているように捉えることもできなくはない。

労働党政権は、この教育の質の格差の是正を基本政策の中心に据えてきたが、どのような成果が出ているかは分かりづらい。今年前半に行われると見込まれている総選挙では、与党・野党共に、独自の教育改革案を出してくることが予想される。どのような改革案にしても、児童・生徒が振り回されることにならないものであって欲しいところだ。

Public School

パブリック・スクール。かつて高等教育を受けるためには上流階級の出身であることが必要とされた時代においても、試験に受かり授業料を払えるのであれば、誰でも入学できると謳ったことから、私立でありながらパブリック(公的)と呼ばれるようになったと言われている。学校によって、入学年齢は若干異なる。小学校から高校までの一貫教育が主流だが、編入も可能。近年では海外からの寄宿学生が増大、また奨学金制度を拡充して労働者階級に属する家庭出身の学生を積極的に受け入れるなどの傾向が見られる。卒業生は、英国を代表する著名人が多い。

(守屋光嗣)

 

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北アイルランド自治政府に衝撃
首相夫人に不倫・金銭スキャンダル

北アイルランド自治政府の首相が今月初旬、妻の不倫と自殺未遂を告白した。その数日後に放映されるBBCのテレビ番組 でこれらの事実が暴露されることを見越し、先手を打って告白に踏み切ったのである。番組で明らかにされた内容はあまりにも衝撃的であり、北アイルランドの政界を揺るがした。

アイリス・ロビンソン・不倫・金銭スキャンダル関係者

アイリス・ロビンソン Iris Robinson

1949年ベルファスト生まれ。クリガー・テクニカル・カレッジ卒業後、秘書として働く。70年、ピーター・ロビンソン氏と結婚。89年、北アイルランドのカッスルリー市(Castlereagh)でプロテスタントの強硬派、民主統一党(DUP)から地方選挙に出馬、当選。92年には同市地方議会の初の女性議長となる。98年、ストラングフォード(Strangford)選挙区から北アイルランド自治政府議会選挙に出馬、当選。更に2001年、やはりストラングフォード選挙区から英国下院総選挙に出馬、アルスター統一党(UUP)の現職候補を破り、当選を果たす。これまで、DUPの保健問題担当広報官、北アイルランド自治政府議会の保健委員会委員長などを務めた経験がある。

今回のスキャンダルを受け、DUPから党籍を剥奪された上、下院議員、北アイルランド自治政府議会議員、地方議員のすべてのポストから退いた。不倫問題が原因でうつ病を患い、昨年12月の時点で既に政界引退の意向を明らかにしていた。

ピーターさんとの間に息子が2人、娘が1人いる。08年6月、ラジオ番組で、同性愛は「恥ずべき行為」であり、同性愛者はカウンセリングによって「矯正」できるという趣旨の発言を行い、強い非難を浴びたことがある。

ピーター・ロビンソン Peter Robinson

1948年、ベルファスト生まれ。カッスルリー・カレッジ(現ベルファスト・メトロポリタン・カレッジ)卒業後、不動産会社で働く。71年、イアン・ペイズリー氏らと共にDUPを結成。政治に興味を持ったきっかけは、カトリック系武装組織アイルランド共和軍(IRA)による爆弾事件で友人が死亡したことだったという。77年、カッスルリー市でDUPから地方選挙に出馬、当選。79年、ベルファスト・イースト(Belfast East)選挙区から英国下院議員選挙に出馬、当選を果たす。80年、DUPの副党首に就任。98年、同じくベルファスト・イースト選挙区から北アイルランド自治政府議会選挙に出馬、当選。同自治政府では、地域開発相、金融・人事相を歴任。

頭の切れる戦略家として知られ、DUPの選挙キャンペーンで指揮役を担ってきた。DUPの初代党首だったペイズリー氏の忠実な右腕として活躍し、ペイズリー氏の引退を受けて2008年6月、同党の党首及び北アイルランド自治政府首相の座を引き継いだ。

カーク・マカンブリー Kirk McCambley

アイリス・ロビンソンさんの元愛人。ベルファスト東部で肉屋を経営していた父親がアイリスさんと親友だった。2008年2月に父が癌で死亡した後、自分の面倒をみてくれるようになったアイリスさんと恋愛関係になった。小学生の頃から父の肉屋の手伝いをしており、店を訪れるアイリスさんをたびたび見かけていたという。現在21歳。アイリスさんの援助でベルファスト市内にカフェを開業したが、その後間もなく関係を解消した。

フレッド・フレイザー、ケン・キャンベル 
Fred Fraser、Ken Campbell

マカンブリー氏のカフェ開業資金を提供した2人の不動産業者。それぞれ2万5000ポンド(約365万円)ずつを提供した(フレイザー氏はその数週間後に死亡)。フレイザー氏は北アイルランドの不動産業界の大物として知られていた。キャンベル氏は、北アイルランド・ダウン市で不動産業を営んでいる。BBCの番組では、「2万5000ポンドのうち、5000ポンドがまだマカンブリー氏から返済されていない」というキャンベル氏のコメントが紹介されていた。

セルウィン・ブラック Selwyn Black

アイリス・ロビンソンさんの元政治アドバイザー。過去にメソジスト教会の牧師、英空軍付き牧師などを務めたことがある。現在はアルスター大学講師。アイリスさんの今回のスキャンダルを告発した人物。アイリスさんの政治アドバイザー職を辞したのは、このスキャンダルを世間に暴露するためだったという。BBCの番組では、アイリスさんが、カフェ開業資金の返済についてブラック氏に何度もテキスト・メッセージを送り、相談していたことなどが明らかにされた。

友人の息子と恋愛関係に

BBCは今月初旬、北アイルランド自治政府のピーター・ロビンソン首相(61)の妻で、自らも政治家であるアイリスさん(60)の金銭・不倫スキャンダルに関する調査報道番組を放送した。番組の内容の大半は、昨年末までアイリスさんの政治アドバイザーを務めていた男性の告発に基づいたものだった。

この番組によると、2008年2月、アイリスさんの友人だった肉屋経営者の男性が病死。アイリスさんは、友人との生前の約束通り、当時19歳だった彼の一人息子の面倒をみるようになったが、間もなく2人の関係は性交渉を含む恋愛関係に発展した。

夫に不倫を知られ自殺未遂

同年6月、アイリスさんが地方議員を務めている北アイルランド内の自治体が、新プロジェクトとしてカフェの経営者を公募。アイリスさんは、今や愛人となった40歳年下の青年にとって良い機会だと考え、知り合いの不動産業者の男性2人から計5万ポンド(約730万円)の資金を調達、青年に譲渡した。同年7月、同プロジェクトの選考が行われ、青年は、必要な条件を満たしている唯一の応募者であると判断され、カフェの経営者に選ばれた。

しかし同年秋、2人の関係は終わり、アイリスさんは青年に、彼女が調達したカフェの開業資金を返還することを要求(その後、青年はカフェの権利の一部を売却し、売却金で5万ポンドのうち4万ポンドを返済した)。09年3月、ロビンソン首相は、妻が青年に宛てて書いた手紙を発見し、不倫の事実を知る。翌日未明、アイリスさんは自殺未遂。同年12月、アイリスさんは、うつ病のため政界を引退する意向を明らかにした。

夫は金銭取引を知らなかったと主張

アイリスさんは、不動産業者からの資金について英国下院及び北アイルランド議会に報告する義務があったが、これを怠っていた。また地方議会で、カフェのプロジェクトへの金銭的関与を明らかにしなかったことなどで、地方議員の行動規範に違反した。今月21日には、アイリスさんの金銭取引について警察が刑事事件として捜査を開始したことが伝えられている。

一方、ロビンソン首相については、妻の金銭取引について知っていたにも関わらず、当局に報告しなかったことで、北アイルランド自治政府の大臣規範に違反したとされている。しかし首相は、金銭 取引については知らず、非難されるべき点はないとして、英国下院及び北アイルランド議会の議員の倫理基準に関する委員会に対し、行動規範に違反したかどうか調査するよう、自ら要請した。同氏は同時に今月11日、家族の問題に対処するためとして、6週間、首相職を離れることを明らかにした。

政界きってのパワー・カップルと称された夫婦だったが、ソープ・オペラさながらのこのスキャンダルで、すっかり顔を潰した。ちなみに、年配の女性と年下の男性の不倫と言えば映画「卒業」が有名だが、偶然にもヒロインの女性がアイリスさんと同じ「ロビンソン夫人」だったことから、今回のスキャンダル発覚後、北アイルランド各地のラジオ局には、サイモン・アンド・ガーファンクルが歌った同映画の挿入歌へのリクエストが殺到したそうである。

Democratic Unionist Party(DUP)

北アイルランドのプロテスタント強硬派の政党。略称は「DUP」。日本語では「民主統一党」などと訳される。1971年設立。本部はベルファスト。現在、北アイルランド自治政府議会で最大の議席数を有し、カトリックの最大政党「シン・フェイン党(Sinn Fein)」と連立政権を形成している。英国下院での議席数は8議席。1998年のベルファスト合意には反対の意を表明した。ピーター・ロビンソン氏は、今回の妻のスキャンダルで北アイルランド自治政府の首相職は休職中だが、DUPの党首の座は保持している。ウェブサイトは www.dup.org.uk

(猫)

 

ロンドンの東西を結ぶクロスレイルとは

工事が始まって数カ月が経過
ロンドンの東西を結ぶクロスレイルとは

ロンドン市内及び周辺地域の交通をより活発化することが期待されている新規鉄道、クロスレイル。昨年5月より工事が始められており、トンネル区間の設置が予定されているロンドン中心部では、既に街並みが変わり始めている。

 

Crossrail クロスレイル路線図

数字で見るクロスレイル
開通予定は2017
総走行距離は118.5キロ
地下路線の距離は22キロ
ピーク時の運行本数は1時間当たり24
最高時速は160キロ
総建設費は160億ポンド
クロスレイルの建設に伴う影響
トッテナム・コート・ロード駅付近での
路線変更を実施しているバス
7、8、10、25、55、73、98、390、
N7、N8、N10、N55、N73、 N98、N207

*ロンドン交通局が2009年12月21日に発表

計画承認までに数十年

クロスレイル
クロスレイル計画について協議するジョンソン・ロンドン市長(写真左端)とブラウン首相(同中央)

ロンドンを横断する新規鉄道クロスレイルの計画案が本格的に持ち上がったのは、1980年代後半のこと。以来、計画は幾度となく国会で議論されては持ち越しの歴史をたどってきた。

計画が実行に移されなかった理由の一つとして、その莫大な工事費用をどのように、誰が調達するかという点が解決されなかったことが挙げられる。しかしながら、計画を実行に移すために必要な160億ポンド(約2兆3800億円)の予算を欧州投資銀行からの借り入れなどによって確保できる見通しが立ったのであろう、2007年に同案は下院を通過。2008年7月22日に正式に認可され、昨年5月15日には、開業後の主要な駅の一つとなると考えられているカナリー・ワーフで工事が始まった。

周辺地域に与える影響

2017年に開業が予定されているクロスレイルの路線は、西はバークシャーのメイデンヘッドから始まり、東側はロンドン東部に位置するホワイトチャペルで分岐し、北東部はエセックスのシェンフィールドまで、南東路線はテムズ河を越えてアビィ・ウッドまで走ることになっている(このほかに幾つかの分岐路線の計画が立てられているが、開通は2017年以降となる予定)。その路線図を見ると、クロスレイルという名の通りロンドンを横断し、今のところ容易ではない東西の行き来を活発化させることが大いに期待できる。とりわけ、2012年のロンドン・オリンピック後の具体的な開発案が多くないロンドン東部地域にとっては、地域活性化の重要な足がかりとなるだろう。ただ、同線乗り入れによって予想される不動産価格の変動により、住宅が比較的割安なロンドン東部にしか住めない所得者層への影響等は、まだ十分に議論されていないようだ。

ロンドン中心部で大規模な工事

クロスレイル計画では、できるだけナショナル・レイル、ロンドン地下鉄、オーバーグラウンド、ドックランズ・ライト・レイルウェイなどの既存駅を利用するので、多くの地域において想定される工事は駅舎の拡張程度。ただ地下トンネル路線となるロンドン中心部では、大きな工事が実施される見込みとなっている。

昨年1月、ロンドン中心部トッテナム・コート・ロード駅付近にあり、英国商業音楽を語る上で最も重要なライヴ・ハウスの一つであったアストリアがその扉を閉ざし、後に解体された。実はこのアストリアの閉鎖は、クロスレイル計画における同駅拡張工事を理由としている。この拡張工事の規模は2010年になって拡大し、今では日常生活への影響を無視できないほど。例えば1月16日から、同駅周辺を通る道路の一部を封鎖。これにより、夜間バスを含む15路線のバスが該当区間で路線を変更した。

昨年12月のロンドン交通局(TfL、用語解説参照)の公式発表によると、上記バスの路線変更は2010年11月までの措置となっている。ただ実際のところ、どれだけの規模の工事になるかは関係者でも分からないという状況の中、周辺のビル群では空きオフィスも目立ってきている。この周辺には語学学校が多いので、ロンドンで語学コースを受ける学生の方々は、学校選択にはより慎重な姿勢で臨まなければならないかもしれない。

TfL

ロンドン交通局。2000年に現在の形で発足した。地下鉄、バス、ドックランズ・ライト・レイルウェイ、トラム、オーバーグラウンドなど、グレーター・ロンドン内で運営されているほぼすべての公共交通機関を管轄している。毎年の地下鉄・バス等の運賃値上げが批判を浴びる一方で、ボリス・ジョンソン・ロンドン市長の下で様々な改革を実施。2009年11月より、テムズ河を運航する通勤ボート(テムズ・クリッパー)でもオイスター・カードの利用が可能になり、若干割安の運賃が適用されるようになるなどの施策を実現させている。

(守屋光嗣)

 

英国人留学生殺人事件で有罪判決 - 米国人大学生に26年の服役刑

米国人大学生に26年の服役刑
英国人留学生殺人事件で有罪判決

イタリアの古都ペルージャで発生した英国人留学生殺人事件の2被告に対する有罪判決は、世界中で大きな注目を集めた。今年後半に控訴審があると見られ、まだ終結にはほど遠いが、今回の判決が下るに至るまでの背景などを振り返ってみたい。

メレディス・カーチャーさん殺人事件とは

2007年11月2日、イタリア中部ペルージャ市内の共同フラットで、英国人留学生メレディス・カーチャーさん(当時21)の死体が発見された。カーチャーさんは、借りていた部屋のベッドに半裸の状態で横たわっており、のどをナイフで刺されていた。検視では、カーチャーさんが前日の11月1日夜に死亡し、死ぬ直前に性行為を行っていたことも分かった。  

同フラットの2階は、カーチャーさんのほか、3人の女子学生が住んでいたが、共有の浴室及び台所などからも血痕や血の付いた足跡が見つかった。また、イタリア人女子学生が借りていた部屋は、窓が割られ、部屋にあった衣服等が荒らされていた。

事件後間もなく、カーチャーさんのフラットメイトであった米国人留学生アマンダ・ノックス、ノックスの当時の交際相手であったイタリア人大学生ラファエル・ソレチト、バー経営者のパトリック・ディヤ・ルマンバが逮捕された。更に11月下旬には、4番目の容疑者として、コートジボワール出身でペルージャ在住の男、ルディ・ガデがドイツ国内で逮捕された(このうち、バー経営者は、犯人であるとしてノックスが警察に名前を伝えたため逮捕されたが、アリバイが成立したため、間もなく釈放された)。

ノックス、ソレチトは共に、警察の取り調べで、事件が発生した夜の自分の居場所、行動に関する供述を何度も変えた。2人はその理由について、同夜はソレチトのフラットで共に過ごし、一緒に大麻を吸ったため、記憶が曖昧になったためだと話している。  

ルディ・ガデは、通常より手続きが早く終わる「ファストトラック(fast-track)」式の裁判を自ら望み、2008年10月、カーチャーさん殺人及び性的暴行の罪で30年の服役刑を言い渡された。捜査では、殺人現場とカーチャーさんの体内からガデのDNAが見つかった。ガデは、事件が起きた夜に、カーチャーさんと共にカーチャーさんのフラットにいたことは認めたが、犯行は自分がトイレに行っている間に起きたもので、自分は無実であると訴えていた(なお、2009年12月22日、ルディ・ガデの裁判の二審の判決が下され、16年の服役刑に減刑された)。  

ノックス、ソレシトの裁判は2009年1月に始まった。検察は、事件当日、ノックス、ソレシト、ガデが「過激なセックス・ゲーム」に興じ、3人は、カーチャーさんが「ゲーム」に加わることを拒否したため殺したと主張した。ノックスとソレチトの犯行が疑われる理由として、検察は、前述のように、ノックスが、無実のバー経営者を犯人であるかのように警察に伝えていたこと、事件後数時間、2人の携帯電話のスイッチが切られていたこと、カーチャーさんの部屋に見つかった血の付いた足跡がソレチトの靴と一致したことなどを挙げた(弁護側はこれを否定)。  

2009年12月4日、2人の裁判官を含む8人の陪審チームは、カーチャーさんの殺人、性的暴行など複数の罪状で、ノックスに26年の服役刑、ソレチトに25年の服役刑との評決を下した。


メレディス・カーチャーさん殺人事件関係者

アマンダ・ノックス(Amanda Knox)
アマンダ・ノックス1987年7月9日生まれ、22歳。米シアトル出身。父は同国の有名デパート「メイシーズ(Macy's)」の幹部、母は数学教師。幼い頃、両親が離婚。現在20歳と14歳の2人の妹がいる。2005年にワシントン大学に入学、言語学を学ぶ。2007年9月、イタリア語、ドイツ語、クリエイティブ・ライティングを学ぶため、ペルージャ外国人大学(University for Foreigners Perugia)の1年コースに入学。殺されたカーチャーさんとは、ペルージャ市内のフラットをシェアしていた。 刑務所内では、ドイツ語や中国語を学ぶほか、エッセイ・コンテストに応募、入賞するなどしている。逮捕以降、米国の家族、親戚、友人らが、無罪を訴える大々的なキャンペーンを展開しており、特に父親がその代表者的存在になっている。

ラファエル・ソレチト(Raffaele Sollecito)
1984年生まれ、25歳。イタリア・バーリ(Bari)市出身。父は泌尿器科の専門家で、実家は裕福である。事件発生当時は、ペルージャ大学で工学を学ぶ学生だった。ノックス受刑囚とは、カーチャーさんが殺される2週間前に交際を始めたばかりだった。逮捕後、ノックス受刑囚とは恋人関係を解消している。刑務所内では「ヴァーチャル・リアリティ」に関する学位取得のための勉強をしているという。

ルディ・ガデ (Rudy Guédé)
コートジボワール出身。22歳。5歳の時に父と共にペルージャに来る。しかし父はルディが16歳の時に帰国。その後、裕福なイタリア人一家に養子に取られるが、素行が悪く、やがて里親とは疎遠になる。学業を諦め、バーなどで働く傍ら、麻薬密売にも携わっていた。カーチャーさん殺人事件で逮捕される以前から、麻薬や窃盗関連で警察には知られた存在だった。

メレディス・カーチャー(Meredith Kercher)
ロンドン南部生まれ、サリー州出身。父はフリーランス・ジャーナリスト。母はインド人で専業主婦。兄2人、姉1人。リーズ大学で欧州学を学び、2007年8月より、同大学の交換留学プログラムを利用して、ペルージャ大学に入学。現代史、政治理論、映画史を学んでいた。享年21。明るい性格で友人が多く、ロンドン市内で行われた葬式には300人以上が参列した。


「人格攻撃」が評決に影響か

イタリアで起きた英国人留学生殺人事件で先月、当地の裁判所から26年の服役刑を言い渡された米国人学生アマンダ・ノックス受刑囚(22)の家族は、判決後の声明で、「アマンダへの『人格攻撃』が裁判官及び陪審員の評決に影響を与えた」とコメントした。  

例えば事件後、フラットメイトが殺されたにも関わらず、無表情で、悲しみを見せなかったこと。それどころか、取り調べを待つ警察署で、体操選手のごとく側転をするなどの「奇行」を見せたこと。渡伊後から逮捕までの1カ月半の間に既に数人の男性と性的関係を持っていたこと。米シアトルで自ら主催したパーティが乱痴気騒ぎに発展し、警察沙汰になった経験があること。こうした、事件とは無関係なものも含めた様々な逸話は、メディアで執拗に報じられただけではなく、裁判において検察側の主張に使われ、「酒・麻薬に溺れるふしだらな女殺人鬼」といった「犯人像」が形成されていった。冒頭に挙げたノックス受刑囚の家族のコメントは、こうした背景に基づいたものであった。

DNAは「証拠になり得ない」との証言

一方、裁判で検察側が掲げた証拠は、脆弱なものだった。検察が「有力証拠」として示したのは、ノックス受刑囚の当時の恋人で、やはり有罪となったイタリア人学生ラファエル・ソレチト受刑囚(25)のアパートにあった料理用ナイフに「付着していた」とされるノックス受刑囚とカーチャーさんのDNAであった。しかし裁判では、専門家が、これらのDNAは余りに微小であり、決定的な証拠にはなり得ないと証言。またこのナイフは、ノックスさんの首の3つの刺し傷のうち2つと形が合致しないばかりか、血が付いた痕跡も発見されなかった。  

加えて、殺人現場の部屋からは、ノックス受刑囚のDNAや指紋は全く発見されなかった。ソレチト受刑囚については、カーチャーさんのブラジャーの留め金からDNAが見つかったと検察が主張したが、その信頼性にも疑問が持たれている。

再審無罪のシナリオ出来ている?

一方で、今回の判決を、イタリア社会とその裁判制度の特殊な事情といった点から説明する向きもある。まず、イタリアは、「人の面目を保つ」ことを重視する社会である。そして同国の裁判制度では、一審の判決後、被告に対し、自動的に2回控訴する権利が与えられ、実際に一審の判決が覆されるケースは多い。イタリアの法律に詳しい専門家などがメディア等で語っている説明とは、これらの事実を考え合わせ、「今回の一審判決は、警察、検察、裁判官の面目を保つためのもの。再審で逆転無罪の判決を下し、彼らの顔を潰さず、同時に、イタリアの司法制度が公正な判断を下せることを国際社会に見せる、というシナリオが既に出来上がっている」というものである。だからこそ一審の判決は、再審で覆されやすいような、矛盾を含んだものになっているのだ、ということらしい。

ともあれ、イタリアの裁判制度のもう一つの特徴は、進行ペースが遅いことであり、本件の二審が実施されるのは、今年秋頃になると見られている。それまで塀の中の2人の受刑囚は、どんな思いで日々を過ごすのであろうか。


Perugia


イタリア中部の都市。ウンブリア州の州都でペルージャ県の県庁所在地。面積約450キロ平方メートル、人口約15万人。カーチャーさん殺人事件の関係者が通っていたペルージャ大学、ペルージャ外国人大学のほか、アート、音楽の教育機関もあり、学生の町として知られる。今回のノックス受刑囚に対する有罪判決の背景には、世界各国から押し寄せる留学生の若者たちが、昔ながらの古都の雰囲気を変えていることに対する住民の反発があったという意見もある。住民の大半はカトリック。観光名所はペルージャ大聖堂、プリオーリ宮殿、大噴水など。

(猫)

 

英国における子供の貧困問題 - 「2020年までに撲滅」の目標は達成できるか

「2020年までに撲滅」の目標は達成できるか
英国における子供の貧困問題

冬が近付き、年金生活者などの低所得者層が光熱費の支払いで家計を圧迫され、「光熱費貧乏(fuel poverty)」に陥る懸念が取沙汰されているが、英国でニュースを追いかけているとこのように、「貧困」という文字を見つけることが珍しくない。21世紀になっても貧困が大きな問題であることが英国の現実であり、特に子供の貧困は、政府も達成目標を掲げて削減に取り組んでいる重要課題である。今回は、最近の統計結果を中心に、子供の貧困問題について取り上げる。

「子供の貧困」分布図

「子供の貧困」分布図

 

子供の「貧困率」地域別比較

(A) ... 無就労世帯 (Workless)
(B) ... 就労税控除世帯 (on Working Tax Credit)
(A+B) ... (A)と(B)の合計

  (A) (B) (A+B)
① イングランド・ウェストミッドランズ地方
バーミンガム・レディウッド
(Birmingham Ladywood)
45% 36% 81%
② イングランド・ロンドン
べスナル・グリーン・アンド・ボウ
(Bethnal Green and Bow)
52% 27% 79%
② イングランド・ウェストミッドランズ地方
バーミンガム・スパークブルック・アンド・スモール・ヒース(Birmingham Sparkbrook and Small Heath) 41% 38% 79%
④ イングランド北西部
マンチェスター・セントラル
(Manchester Central)
51% 36% 78%
⑤ イングランド・ロンドン
ポプラー・アンド・カニング・タウン
(Poplar and Canning Town)
52% 27% 77%
⑤ 北アイルランド
ベルファスト・ウェスト
(Belfast West)
47% 30% 77%
⑦ イングランド・ウェストミッドランズ地方
バーミンガム・ホッジ・ヒル
(Birmingham Hodge Hill)
40% 36% 75%
⑦ イングランド・ヨークシャー・アンド・ハンバー地方
ブラッドフォード・ウェスト
(Bradford West)
31% 44% 75%
⑦ イングランド・ロンドン
トッテナム(Tottenham) 49% 26% 75%
⑩ イングランド北西部
マンチェスター・ゴートン
(Manchester Gorton)
38% 35% 73%
⑩ スコットランド
グラスゴー・ノース・イースト
(Glasgow North East)
44% 29% 73%
⑩ イングランド北西部
マンチェスター・ブラックリー
(Manchester Blackley)
42% 31% 73%

低所得であるために育児税控除(Child Tax Credit)の額が最大額である世帯の子供が各地域内の子供全体に占める割合を選挙区別に割り出した。(a)の「無就労世帯(Workless)」とは、その中でも、就労者が一人もおらず、福祉手当を受給している世帯。(b)の「就労税控除世帯(on Working Tax Credit)」とは、同じくその中で就労者がおり、就労税控除(Working Tax Credit)の権利もある世帯。表は、(a)(b)の合計が最も高かった10地域の一覧で、地図は、(a)と(b)の合計の分布を示す。表で、(a)と(b)の合計数が合わないものがあるのは、(a)または(b)の数字が四捨五入または切り捨てまたは切り上げされたものであるためと考えられる。

Source: Campaign to End Child Poverty, Centre for Economic and Social Inclusion and Donald Hirsch

子供の貧困数の推移

子供の貧困数の推移
Source: Households Below Average Income, DWP

「相対的貧困(Relative Poverty)」に分類される世帯に住む子供の数の推移を示す。相対的貧困とは、所得が国民全体の中央値の60%以下である世帯のことを指す。

 

子供の貧困とGCSEで計る学習到達度

子供の貧困とGCSEで計る学習到達度
Source: Data from National Pupil Database,
DCSF Statistical First Releases 2002-2007

GCSEとは、義務教育修了時に大半の生徒が受ける試験。スコアはA*(エー・スター)からGまであり、A*からCまでが合格とされている。公立学校では、所得補助や失業手当などを受給している子供は給食費が無料になり、左記表は、その措置を受けている子供と、その他の子供のGCSEの合格率を比較したもの。

 

子供の8割が「貧困状態」にある地域も

英国における子供の貧困問題の深刻さを明らかにする統計結果が先月末、発表された。「児童貧困撲滅キャンペーン(Campaign to End Child Poverty)」による統計で、低所得であるために育児税控除(Child Tax Credit)を最大額受給している世帯の子供が各地域内の子供に占める割合を示した。更にその中でも、就労者が一人もおらず、福祉手当を受給している世帯を「無就労世帯(Workless)」、就労者がおり、就労税控除(Working Tax Credit)の権利もある世帯を「就労税控除世帯」とする2つのグループに分けている。その結果、子供の「貧困率」が最も高いとされたのは、バーミンガム市のレディウッドで、2グループを合わせた子供が地域全体の子供に占める割合は81%に上った。その他にも、ロンドンやイングランド北西部などの地域が、子供の「貧困度」が高いエリアとして挙げられた。

無就労、病気や障害、人種などが背景に

ブレア前首相は1999年、「2010年までに児童の貧困を半減させ、2020年までには撲滅する」との目標を掲げた。これに向けて政府は、最低賃金制度や税控除など貧困世帯の所得増を狙った施策とともに、育児支援制度の充実など親の就労をより容易にするための政策を推進している。目標達成は困難との見方が多いが、政府によると、これら施策が功を奏して、1998年度から2005年度までに、貧困状態にある子供は60万人減少したという。

子供が貧困に陥る背景には、親が非就労者である、またはたとえ就労していても高度な職業技術を持たないため低収入であることなどが挙げられる。貧困家庭に多いその他の特徴は、片親であること、親またはその他の家族が病気または障害者であること、子供の数が多いことなどである。また、エスニック・マイノリティの子供の貧困率が高いのは、彼らの親にとって、就職や昇進が非エスニック・マイノリティの成人よりも困難であることが背景にあるとされる。

貧困が子供の人生に与える影響は大きく、栄養状態が悪いため富裕家庭の子供に比べて体格が悪い上、学習到達レベルも低い傾向にある。「児童貧困撲滅キャンペーン」によると、子供時代に貧困家庭で育った人は、50歳以降になって糖尿病や気管支炎を発症する確率が50倍も高く、また貧困層の多いマンチェスター市の女性の平均寿命は、富裕地区であるロンドンのケンジントン・アンド・チェルシー区より6年も短い。

制服の値段で子供の学校を決める親も

ブラウン首相は先の労働党の党大会で、前述の児童貧困削減目標に法的拘束力を持たせる意向を明らかにした。前述のキャンペーンは、貧しいために制服の値段によって子供が通う学校を決めざるを得ない親が珍しくない現状を「許し難い」と批判するとともに、片親世帯では祝い事があっても子供にプレゼントを買ってやれない家庭が12%にも上り、子供に靴を1足しか買ってやれない家庭も8%あると指摘している。こうした現状を改善し、先の目標を達成できる有効な施策を政府が果たして持っているのか、期待と共に注目したいところである。(福)

Campaign to End Child Poverty

英国における子供の貧困問題を訴えるキャンペーン。子供のための慈善団体、宗教グループ、労働組合など120の組織が参加している。子供の貧困の原因やその影響などに関する一般国民への告知活動、「2020年までに子供の貧困を撲滅する」との目標の達成に向けた政府へのアドバイス提供、官民及びボランタリー・セクターの間の協働支援などを行う。子供の貧困削減を訴えるイベント、地域を限定した特別キャンペーンなども実施するとともに、ウェブサイトでも情報提供を行っている。
www.endchildpoverty.org.uk
 
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