NHK交響楽団 第1コンサートマスター 篠崎 史紀 氏 インタビュー

N響とパーヴォ・ヤルヴィの化学反応を楽しんでほしい
2017年に英国を含む欧州6カ国を回るツアーを成功させたNHK交響楽団がロンドンに戻ってくる。世界的指揮者パーヴォ・ヤルヴィ氏を首席指揮者に迎えて早5シーズン目。ヤルヴィ氏の母国エストニアを含む7カ国9都市で行われるツアーでは、数年かけて培われた指揮者とオーケストラの絆が生み出す円熟した演奏が期待できそうだ。今回は同楽団の第1コンサートマスターとして活躍する篠崎史紀氏に、前回のロンドン公演やヤルヴィ氏と同楽団の関係、前回を超える規模となる今回のツアーについて語っていただいた。(取材・文: 村上 祥子)
Fuminori Maro Shinozaki
1963年生まれ。愛称はマロ。多くの演奏家を輩出した篠崎永育(父)と幼児教育の第一人者である美樹(母)から3歳よりヴァイオリンを学ぶ。毎日学生音楽コンクール全国第1位獲得。81年よりウィーン市立音楽院に留学。欧州の主要コンクールで受賞実績を重ねつつ世界各地の国際音楽祭に招聘されるなど幅広い活動を行う。88年、同音楽院を修了後、帰国。群馬交響楽団コンサートマスター、読売日本交響楽団コンサートマスターを歴任し、97年4月にNHK交響楽団コンサートマスターに就任。現在は第1コンサートマスターとして活躍中。桐朋学園非常勤講師、東京藝術大学非常勤講師、昭和音楽大学客員教授。
主催者側がコンマスの部屋まで飛んできた
海外公演を行うには労力を使いますし、資金面でも大変なことが多いかと思います。今回は約3年ぶりの大規模なツアーとなるわけですが、NHK交響楽団(以下、N響)が海外公演を行うことについてはどのように捉えていらっしゃいますか。
欧州には、「東洋にすごいオーケストラがある」という噂が昔からありました。うち(N響)に招聘(しょうへい)している西洋の指揮者たちやソリストたちが自国で話しますからね。けれどもその実態は知られていなかった。N響は何度か欧州旅行に行っていますが、前回は一番手応えがあった演奏会で、終わった後にすぐ招聘の話が来たのです。欧州に呼びたい、3年以内に呼びたいと。これはN響が世界で認められるところにようやく足を踏み入れたということ。ですから、この海外公演の動きを担っていくのが、日本のクラシック音楽界の未来に対して必要なのではないかと思っています。
2017年のロンドン公演では、武満徹の曲を組み込むなど他の地域とは異なる独自のプログラムを演奏されました。その時の聴衆の反応はいかがでしたか。
東洋から来ているオーケストラで、前回の訪英は10数年前。知っている人は知っているけれども知らない人も多いという状況でしたから、聴衆はすごく沸きますよね。特に日本のオーケストラが日本のアイデンティティーを持った作曲家の曲を演奏するというのは、日本にロシアのオケが来たらロシアの曲を聴きたいと僕たちが思うのと同じで、非常に大事なこと。聴衆が沸いてくれたのもありがたかったし、公演の直後に主催者側が走って飛んできたというのも大きかった。僕たち演奏家や聴衆は、良い演奏に対しては心が動くし、感動もする。そういうものを観たり聴いたりしたら心からの拍手とブラボーをかけますが、主催者側は少し別で、もっとクールに見ているんですよ。そうしなければ主催はできないですから。でも主催者側が飛んできて、近いうちに欧州の地で演奏会ができないかと聞いてきた。N響の真の価値を認めてもらったと言っても過言ではないかもしれません。しかも主催者側はコンマスの部屋まで来ましたからね。僕が言葉ができたというのも少しはあると思いますが、次はいつ来られる、このオーケストラのスケジュールはどうなっていると。
そして迎える今回のヨーロッパ公演は7カ国9都市を回るという、前回以上の規模となっています。
ツアーに関して言えば、マーケティング上、世界の中で重要な場所があって。それがニューヨーク、ロンドン、東京。あとメディアに批評が出るところとしてベルリン、パリがあります。ウィーンはオペラなどに関しては批評が出るけれど、それ以外の分野は地中に埋もれてしまう。そういう意味ではロンドン、パリ、ベルリン、そしてオファーが強かったオランダといった場所を回る今回の演奏会は、N響にとっては重要なポジションに位置すると思います。
海外ツアー時には、演奏家としてはもちろん、コンサートマスターならではのご苦労も多いのではないですか。
何もありません。コンサートマスターはそれが苦労だと思ったら、たぶんなれない。だから楽観主義の人がいいんですよ。そういう意味では合っているのかもしれません(笑)。場所が変わればメンバーの体調が悪くなることもあり、それが一番心配ですね。常にホテル住まいですし、移動続きでホールも毎回違う。ただありがたいことにクラシック音楽には作曲家という絶対神があって、そこに集結することができます。コンサートマスターの仕事というのは、その日、良い演奏会をやりたいよねという気持ちを皆に作ってあげること。あとは場所が変わったり練習時間が少なかったりして指揮者が精神的にいら立つのをなだめる。それくらいかな。だからこそパーヴォ(首席指揮者のヤルヴィ氏)とも一緒にご飯を食べたりしているんです。
指揮者とコンサートマスターの親密なコミュニケーションが、良い演奏を生み出すうえでのベースになっていると。
海外からN響に来るソリストや指揮者とも、何度か個人的に食事をしています。日本には英語の表記が少ないから、彼らにとっては特に難しくて、ストレスがたまりやすいんです。また、日本人は会話を通じて理解し合うということをしない、皆まで言うなという「察する文化」を重んじていますから。向こうはしゃべらないと分からないので、リハーサルをやっていても皆が黙っていると、「分かっているのかな、いないのかな」と不安になってしまう。そういうときに返事をしてコミュニケーションを促すというのも僕の仕事ですね。
NHKホールでの定期公演、本番前リハーサル中の篠崎氏(写真中央左)とヤルヴィ氏(同右)
N響のアイデンティティー
ロンドンでは前回に引き続き、武満徹の楽曲を演奏されます。武満徹と言えば日本を代表する作曲家だと思いますが、殊にロンドンで演奏する意義は?
日本の作品を取り上げることに意義があります。武満はアイデアマンで、邦楽の楽器を取り入れ、少ないモチーフでかつ時間的に著作権使用料が上がる手前で曲を終わらせる(笑)。そして日本の響きを少しだけ曲に盛り込んでいるんですよね。それも今まで聴いたことのないような形で。後に出てくる(アルヴォ・)ペルトなどもそうです。ペルトはソ連の一部だったエストニア出身ですが、その曲にロシアの響きはない。グレゴリオ聖歌の古い音楽を新しい響きと融合させているのです。それに近い手法を取っているのが武満。少し数学的ですよね。日本よりも先に西洋で評価が上がり、武満の名前が知られ、演奏される回数が多くなった。だから欧州で演奏するときには武満が良いのではないかということになるわけです。
武満の「ハウ・スロー・ザ・ウインド」の他には、シューマンの「チェロ協奏曲」を演奏されますね。
まず武満は僕たちオーケストラのアイデンティティーを提示するのに必要な曲です。そして次にシューマン。シューマンは昨年、クララ(シューマンの妻)が生誕200年だったということもありますが、極論を言うと、ロマン派で始まりロマン派で終わる純潔のロマン派がシューマンだと思うのです。しかもドイツ音楽の神髄。そしてN響の得意なものと言えばドイツ音楽です。
かつてN響はドイツの指揮者をずっと呼んでいました。サヴァリッシュ、シュタイン……。最近、ドイツにはドイツ音楽がなくなったと言われています。これはEU(欧州連合)がきっかけ。EU圏内の人はEU内のどこでも仕事ができるようになり、オーケストラの大移動が始まった。昔だったら、あるエリアで決まった人たちが同じメソッドを学校で学び、その街のオーケストラに入っていました。でも今はベルリン・フィルのように世界中からいろいろな人をオーディションして入れていく。そうするとなくなっていくのが「方言」なんですよね。「方言」がなくなると洗練され、インターナショナルで素晴らしい演奏になる一方で味がなくなる。「味って欠陥でしょう」と言われればそれまでなのですが、僕は「方言」をしゃべっていた頃のオーケストラが大好きなのです。
一方でN響は、(団員が)いろいろな場所で勉強はしていても共通言語は日本語。しかも伝承がうまくいっている。このパッセージはこの弾き方でやるという、ここのオケでしか通じない共通認識があります。N響に来た指揮者が、「ここにドイツのオケがあった」と言うんですよ。だからこそドイツ音楽は外せないのです。
2017年、ロイヤル・フェスティバル・ホールで行われたロンドン公演
「お互いの我が出せる」 関係になった
ヤルヴィ氏が首席指揮者に就任されてから5シーズン目を迎えました。お互いの理解が深まっていく中で、オーケストラ全体が変わってくる部分もあるのではないですか。
お互いのパターンが見えてきた、これはすごく大事です。パターンが見えると何ができるかと言うと、即興が広がる。例えば友達と食事に行くとします。最初の頃は食べ物の好みが分からないから、「何が食べたいですか」とお互い遠慮しながらいろいろなことを探るわけです。でも付き合いも5年くらいになると、「あそこの焼き鳥屋に行こうよ」と言えるようになる。もっと進んで「今日はすっぽん食いに行くぞ」と珍味までいける。そういう段階まできているのが、今のパーヴォとN響の状況。一般的な食べ物の好みもお互い分かっているし、珍味でもちょっと試してみようと言える仲になっている。音楽の七変化が感じられる状態でしょうか。
ヤルヴィ氏の就任当初と比べると、柔軟性が発揮できるようになったということでしょうか。
最初の頃はお互いに譲っていることが多かったと思います。お互いの我が出せるというのは、もっと面白い化学反応が見られるということですから、そこを楽しんでもらうとN響とパーヴォをより深く感じていただけるのではないでしょうか。
ロンドンには世界各国のオーケストラの演奏を日常的に耳にしている音楽ファンはもちろん、ちょっと聴いてみようかなという気軽な気持ちでコンサートに行くような人たちもいます。ファンだけでなく、普段はあまりクラシック音楽に触れていない人たちに向けて、クラシック音楽、そしてN響の魅力を教えていただけますか。
クラシック音楽は流行ではないんです。英国は保守的と言えば保守的で、マナーにしろ、儀式にしろ、格式があってきっちりしている半面、新しいものが好きで時代の最先端をいっている国ですよね。そうした中でクラシックがどのような位置を占めているのか。さまざまな刺激のあるところでは、クラシックに接する必要はありません。ただ、クラシックはヒット・ソングと違って生まれて消えるものじゃない。伝承され、継承されていくものです。しかも、その時代に合った形に変化(へんげ)しながら。僕たちはベートーベンと同じ時代の演奏法もしなければ、同じ楽器も使わないですよね。時代に合わせてどんどん変化しているのです。でも元は同じ。ここに面白さがあると思います。人種も言語も宗教も飛び越えて世界の人類が一つになれる。一瞬にして喜怒哀楽が味わえる。スポーツもそうだ、となるかもしれませんが、スポーツには勝ち負けがありますから。クラシック音楽は人間の元々持っている感情に共鳴してくれと訴えてくる。だからこそ世界中で何百年も愛されているのです。そして最も新しいバージョンを今回、ロンドンで皆さんが耳にすることになる……。
在英邦人の皆さんにとっても貴重な機会になりそうですね。
世界最先端をゆく指揮者と、これから世界に出ていこうとしているオーケストラ。指揮者のアイデンティティーとオーケストラの機能を合わせたものを、21世紀の最新の演奏法で皆さんにお届けしましょうというのが今回の欧州での演奏会です。だから聴き逃さない方がいいよと言いたいところですが、そう言うと押し売りになっちゃうから(笑)、体験してみたい? どう? と聞きたい。演奏会には、分かっていなければならないものはないんです。その空間で、何を感じられるか。ただ、感じに来てほしい。
オーケストラ・プロフィール
NHK交響楽団 1926年10月5日にプロ・オーケストラとして結成された新交響楽団に端を発する。日本交響楽団の名称を経て、1951年に日本放送協会(NHK)の支援を受けることとなり、NHK交響楽団と改称。今日に至るまで、ヘルベルト・フォン・カラヤン、エルネスト・アンセルメ、ヨーゼフ・カイルベルト、ロヴロ・フォン・マタチッチなど世界一流の指揮者を招聘、また話題のソリストたちと共演し、数多くの名演を残している。
首席指揮者 パーヴォ・ヤルヴィ 1962年、エストニアの首都タリン生まれ。2015年9月にNHK交響楽団の首席指揮者に就任。これまでにhr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)首席指揮者やパリ管弦楽団音楽監督などを歴任。現在はドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団芸術監督、エストニア祝祭管弦楽団芸術監督、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団音楽監督・首席指揮者も兼ねる。
コンサート情報
Paavo Järvi & the NHK Symphony Orchestra, Tokyo
2月24日(月)19:30開演
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ (NHK交響楽団首席指揮者)
チェロ:ソル・ガベッタ
プログラム:
武満徹「ハウ・スロー・ザ・ウインド」
シューマン「チェロ協奏曲イ短調 作品129」
ラフマニノフ「交響曲第2番ホ短調 作品27」
チケット:£15~65
会場:Royal Festival Hall
Southbank Centre Belvedere Road, London SE1 8XX
最寄駅:Waterloo駅
Tel:020 3879 9555
https://www.southbankcentre.co.uk



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難関ルートに挑戦し続ける原動力を問うと、「ただただ好きなことをしている」という
世界選手権にて、リード種目に挑むメゴス選手(種目については、競技解説を参照)




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テニス・コートの本初子午線マーク














小林恭子 Ginko Kobayashi







審査員コメント
表現方法が優れています。男の子の背景は、どこなのか分からないくらいぼかしているにもかかわらず、サングラスにはっきりビーチの景色が映り込んでいますね。大人のサングラスとゴム付きの帽子のギャップにもクスリとさせられます。映画「ボヘミアン・ラプソディ」にも、こんなサングラスの映り込みが印象的なシーンがありました。