「北の帝王」国政出馬かなわずスターマー首相のライバル出現を防いだのか?
イングランド北部グレーター・マンチェスター市長のアンディー・バーナム氏は「北の帝王」と呼ばれ、地元で圧倒的な支持を誇ります。キア・スターマー首相率いる労働党の支持率が降下し、対する保守党の大物議員が反移民の右派政党「リフォームUK」にくら替して右派勢力が拡大するなか、バーナム氏は中央政界への復帰を試みています。「復帰」というのは2017年まで下院議員だったからです。
でも、次の総選挙は2028年ですし、空席の議席もありませんでした。ところが、新たな機会が出現しました。1月22日、マンチェスター近郊のゴートン&デントン選挙区の労働党議員が健康上の理由で辞任してしまったのです。補欠選挙が行われることになり、バーナム氏は労働党の最高意思決定機関「全国執行委員会」(NEC)に立候補を申請しました。労働党の党則によると、バーナム氏のように直接選挙で選ばれた市長が国会議員として立候補する際、NECの許可が必 要とされるのです。翌日、NECの幹部会は申請を却下。市長選費用や5月の地方選を目前にしての党資源の集中化を理由に挙げました。スターマー氏の有力ライバルとみなされるバーナム氏に対し「挑戦者封じだ」との指摘もあり、党内外で「民主主義の否定」との批判が噴出しました。29日、バーナム氏はBBCに対し「無所属候補としては立候補しない」と述べています。
アンディー・バーナム氏はイングランド北部マージーサイド、エイントリー生まれの55歳。15歳で労働党に入党し、ケンブリッジ大学で知り合った女性と結婚。議員秘書を経て2001年に初当選します。ゴードン・ブラウン首相の下で保健相や財務省首席書記官などの閣僚職を歴任しました。2010年と15年に労働党党首選に挑みますが、2回とも失敗に終わりました。17年グレーター・マンチェスター市長に選出され、再選・再々選を経て、現職の任期は28年5月まで。サッカー・チーム、エヴァートンFCの熱心なファンでもあるそうです。
市長選では3期連続で大勝し、全国世論調査でも高い好感度を記録したバーナム氏の人気の理由はその実績にあります。民営化されていたバス運営にフランチャイズ制を導入することで、地方自治体が路線や運賃、時刻表を決定し、民間企業が運行する仕組みに変更しました。20年のコロナ禍では中央政府と公然と対峙し、北部への追加支援を勝ち取った姿勢も、北部の利益を守った政治家としての信頼を強めました。その政治スタイルもユニークです。希望や可能性を語る楽観的な語り口を持ち、富裕税や選挙制度改革など具体的な選択肢を提示する一方で、必要な場面では中央政府に「ノー」と言う闘争的な姿勢も崩しません。この前向きさと闘う姿勢の両立は、政治不信が広がるなかで、多くの有権者に信頼感を与えています。スターマー政権の不人気が深刻化し、リフォームUK党が労働党の支持基盤を揺るがす状況のなか、バーナム氏はリフォームUKに対抗できる数少ない労働党の政治家として期待を集めています。過去に党首選で敗れた経験があるにもかかわらず、現在は独自の権力基盤と実績を持つ政治家になったことで、党首選での勝利を党内外から現実的に見なされるようになったのです。
スターマー政権はこれまでにも重要政策の撤回を行ってきたため、今回も何らかの形で方針転換があるのか、あるいは申請却下のまま2月26日にゴートン&デントン選挙区で補欠選挙が行われ、労働党の擁立候補が勝利できるかどうかが注目されています。リフォームUKの方は保守系ニュース局「GB News」の司会者マット・グッドウィン氏を候補として擁立しています。24年の選挙で労働党は1万3000票差で勝利しましたが、次点はリフォームUKでした。労働党の支持率急落を考えると激戦が予想されています。
NEC(全国執行委員会)
National Executive Committeeの略で、労働党の最高意思決定機関。閣僚、国会議員、地方議員、労働組合代表、党員代表など約40人で構成され、候補者選考、党規約の運用、選挙戦略の決定などの権限を持つ。今回の立候補申請では、10人構成の幹部会でスターマー首相を含む8人が却下を選択し、1人が棄権、1人が支持。



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小林恭子 Ginko Kobayashi
在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に






