ニュースダイジェストの制作業務
Mon, 06 April 2026

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

中東の戦争が家計を圧迫
動く国際状況
政府は大規模支援策を打ち出せるか

「高くなったなあ」。皆さんも、日々の買い物で改めて実感する日々が続いているのではないでしょうか? ここでさらに物価高騰に拍車をかける要因が出てきました。2月末、米国とイスラエルによるイランへの攻撃で始まった戦争です。中東は、世界の石油や天然ガスの供給を支える「エネルギーの要所」です。ここで緊張が高まると、私たちの暮らしにも大きな影響が及びます。ガソリン代、食料品、光熱費がさらに上昇するのか、そして一時帰国時の航空運賃の行方も気になりますよね。最新統計では英国のインフレ率は2月時点で3パーセントでしたが、これは今回の中東情勢が反映される前の数字です。今後の動向によっては、物価上昇が再び強まる可能性も指摘されています。


まず英国のエネルギー事情を押さえておきましょう。発電という点では、英国は近年めざましい転換を遂げました。2024年には風力が全発電量の約30パーセント、原子力が約14パーセントを占め、再生可能・クリーンエネルギーが過半数を超えています。でも、家庭の約80パーセントは天然ガスで暖房をまかなっており、輸送部門の92パーセント以上が石油系燃料に依存しています。さらに英国の電力市場には「限界価格制度」(Marginal Costing)という仕組みがあり、電力価格は30分ごとにその中で使われた「一番高い電源」の値段に合わせて卸売価格が決まります。つまり多くの場合は天然ガス火力の発電コストによって決まるのです。24年には電力価格の設定に天然ガスが関わる時間帯が全体の85パーセントに上りました。風力や太陽光が増えても、天然ガス価格が上がれば電気代も連動して上がる構造が残っており、光熱費は中東情勢に左右され続けます。

今回の紛争はその弱点を直撃しました。ホルムズ海峡は世界の石油・天然ガスの約20パーセントが通過する海上の要衝で、紛争以降、商業船の航行が深刻に妨げられています。英国は石油・天然ガスの輸入を主に米国とノルウェーに頼っていますが、原油は世界市場で価格が決まるため、産地に関わらず影響を受けることになります。

家計への影響を具体的に見ると、英国自動車連盟(RAC)によれば、ガソリンは1リットルあたり150ペンス(約318円)を超え、ディーゼルは178ペンス近くに達しています(3月27日時点)。アナリストは「原油が1バレルあたり10ドル(約1500円)上がれば、ポンプ価格は約7ペンス跳ね上がる」と指摘しており、油断はできません。


家庭の光熱費については、エネルギー部門の規制機関オフジェムが3カ月ごとに改定する価格上限(Price Cap)制度により、当面の電気・ガス代は保護されています。この上限額は卸売市場の価格動向を反映して決まります。4月からは標準家庭の年間料金が1758ポンド(約37万円)から1641ポンドへと下がるのですが、問題は7月以降です。エネルギー・コンサルタントのコーンウォール・インサイトは、7月からの年間光熱費が1973ポンドに上昇すると予測しています。現在より332ポンドの値上がりです。

政府はどう動くのでしょうか。エネルギー相エド・ミリバンド氏は「必要であれば介入する」と述べ、暖房用灯油利用者向けには5300万ポンド(約112億円)の緊急支援がすでに発表されました。ただし22年のロシア・ウクライナ戦争発生時のような350億ポンド(約7兆4000億円)規模の全世帯一律支援は現在の財政状況では難しく、低所得世帯を絞り込んだ支援が現実的な選択肢として浮上しています。

私たちにできることとしては、日々の節電・節ガス、そして物価高、ジェット燃料の価格高騰を横目でにらみながら、お財布をしっかり握りしめることでしょうか。原油価格は3月25日、トランプ大統領が和平交渉の進展を示唆したことで一時5パーセント下落しましたが、上昇再開もあり得るでしょう。国際情勢の急変に市場さえも追いついていないのかもしれません。

キーワード

Price Cap(プライス・キャップ)

ガス電力市場監督局「オフジェム」(Ofgem)が設定するエネルギー料金の上限を指し、電気・天然ガスについて、エネルギー会社が家庭に請求できる料金の上限を定めたもの。3カ月ごとに改定される。標準料金を示すが、実際の請求額は使用量による。22年のエネルギー危機時には年間4059ポンド(約86万円)まで上昇した。

 
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