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Wed, 01 April 2026

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ユーロ財政危機とは? - 非合理的な金融政策一本化の歪みが露呈か

非合理的な金融政策一本化の歪みが露呈か
ユーロ財政危機とは?

欧州統一通貨「ユーロ」に対する不安が市場で拡大している。もともと米国の動向に左右されない経済構造の構築を企図して導入されたユーロは、政治的要素が強い半面、経済的な合理性は乏しく、金融・財政政策が協調できない可能性を孕んでいたとし、今般のユーロ財政危機は、欧州連合(EU)の金融政策一本化の歪みが顕在化しただけとする見方もある。

債務不履行が懸念されるEU加盟国(PIIGS)* 諸国債券利回り

*本欄下「関連キーワード」参照
Source: Thomson Reuters Datastream

PIIGSをめぐる相対図

ユーロ財政危機に関する主要国首脳の発言


ギリシャ財政危機からの悪循環

昨年5月、ユーロ圏諸国と国際通貨基金から第一次金融支援(1100億ユーロ)を受けたギリシャ政府が債務不履行に陥る可能性が高まったため、本年10月、ユーロ圏首脳会議で同国に対する第二次金融支援(1090億ユーロ)の実施が表明された。

2001年にユーロを導入したギリシャは、対国内総生産(GDP)財政赤字比を3%以内に収めるというユーロ加盟条件を満たしたことがなく、2009年には新政権発足とともに前政権のずさんな財政運営と過剰消費体質が明らかになり、事実上の財政危機に陥った。以降、ギリシャ政府は財政赤字を減らすべく緊縮財政を続けていたが、財政再建に向けたハードルが高く、大幅な歳出削減と増税の組み合せにより景気が悪化。税収が落ち込み、財政収支が更に悪化するという悪循環に陥った。更には、ベルルスコーニ伊首相が辞任に追い込まれるなど、南欧諸国を中心とするPIIGS諸国(「関連キーワード」参照)のほか、東欧諸国にまでギリシャ同様の財政連鎖が蔓延(まんえん)する危険性を憂慮する声も高まっている。

ユーロ財政危機の根源とは

ギリシャ財政危機に対するEUとユーロ圏の足並みの乱れを受け、市場はその危機対応能力に対する強い不信感を抱いている。しかし、今般の財政危機を招いた根底要素は、そもそもユーロ通貨統合の枠組みそのものにあると指摘する専門家の声が目立つ。1999年1月、EU圏内における統一通貨ユーロの導入により中央銀行と金融政策が統一された半面、ユーロ参加各国は、独自通貨と自国の金融政策を放棄する形を取った。つまり、ユーロ圏に参加することは、自国の財政が悪化し資金調達が困難になった場合でも、自国中央銀行が独自通貨で資金繰りをすることができなくなったことを意味する。結果として、債務不履行などによる金融危機・財政破綻(はたん)が発生しやすくなり、市場におけるユーロ加盟国に対する信用基盤の脆弱化につながったとする見方がある。また、ユーロ圏内の金融政策の一本化は、ドイツなどの経済大国北部と南欧諸国間に見られる所得水準や経済体質の違い、及び競争力格差を埋めることができなかった。これにより、ユーロ圏内の二極化が進んだことで南欧諸国が景気低迷したとする分析もある。

崩れ始めた経済神話

1992年、市場統合から政治統合に向けた「マーストリヒト条約」の採択を受け、英国など一部加盟国は、同条約が自国の金融・為替政策の自由のみならず、安全保障を含む政治主導の損失にも繋がる危険性があるとし、統一通貨参加を見送った。ジョン・メージャー元英首相は「現時点でユーロ圏の今後を楽観視する者はいない」と述べ、早期回復の見込みが見られなければEU加盟国全域にも影響が及ぶとし、英国もその例外ではないとの懸念を示した。

欧州地域統合の歴史を振り返ってみれば、世界大戦後、独・仏による石炭・鉄鋼の共同管理を通じた不戦と平和に向けた動きがその原点であった。地域経済の安定化が政治的不安定要素を排除するという基本思想が崩れつつある中、欧州各国でEU懐疑派勢力の台頭や政治の極右・極左化が見られ始めていることは、看過すべきではない。

PIIGS

EU加盟国のうち、財政赤字・経常赤字が大きく債務不履行が懸念されるポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの5カ国の頭文字。各国の財政問題の深刻化が指摘されているが、財政状況は一様ではない。また、「PIIGS」が「豚(Pigs)」を連想させる屈辱的な言葉として一部機関などでは禁句扱いされている。2010年にはギリシャ政府の債務返済能力に対する疑念が高まり、長期金利の上昇、株価の下落、為替の減価などが生じて国債(ソブリン債)の格付けが引き下げられ、経済が深刻な調整局面に陥った(ソブリン危機)。

(吉田智賀子)

 

酒類の安価販売規制の試み - スコットランドで最低価格導入案など

スコットランドで最低価格導入案など
酒類の安価販売規制の試み

健康への害は言うまでもなく、公共物破壊などの犯罪等、社会に様々な悪影響を及ぼすのが飲酒であるが、それを助長しているのが、スーパーなどでの酒類の安価な販売であると言われている。こうした現状を改善するため、英国では現在、最低価格導入の試みが行われようとしている。

スコットランドで1ユニット当たり45ペンスの最低価格が導入された場合の
価格の変動

アルコール類の種類
(括弧内はアルコール強度)
現在の値段(*) 最低価格導入後の値段
700mlのジン(37.5%) £6.95 £11.85
700mlのウォッカ(37.5%) £8.35 £11.85
2リットルのサイダー(4.2%) £1.20 £3.75
700mlのウィスキー(40%) £12.00 £12.60
440mlのラガー4本パック(5%) £3.00 £3.95
750mlの白ワイン1本(12%) £3.75 £4.20
750mlの赤ワイン1本(13%) £3.75 £4.20

*「現在の値段」は、それぞれの酒類の小売店での標準的な小売の値段を示したものと思われる。
Source: Scottish Government

英国人の1日当たりの飲酒量の最高値(2009年調べ)

飲酒量 年齢
16〜24歳 25〜44歳 45〜64歳 65歳以上 全体

調査の前週には飲酒しなかった 45% 30% 28% 34% 32%
4ユニットまで 19% 27% 31% 45% 31%
4〜8ユニット 11% 17% 20% 15% 17%
8ユニット以上 24% 27% 21% 5% 20%

調査の前週には飲酒しなかった 50% 41% 41% 57% 46%
3ユニットまで 13% 23% 27% 32% 25%
3〜6ユニット 13% 17% 20% 9% 16%
6ユニット以上 24% 19% 11% 2% 13%

* 調査の前週のいずれかの日で、最も多く飲酒した日に、何ユニットの酒類を摂取したかを聞いた。
Source: General Lifestyle Survey, Office for National Statistics


ソフト・ドリンクよりも安く販売

英国では、かねてから、酒類の安価な販売が問題視されている。問題とされているのは、パブやバーなどではなく、主にスーパーマーケットやニュースエージェント(食品雑貨等販売店)などでの酒類の販売である。これらの店では、ビールやサイダー(りんご酒)などが、ソフト・ドリンク類よりも安く売られていることが珍しくないため、過剰な飲酒を奨励しているとして、しばしば非難の対象となっているのである。こうした安価な酒類は、「プロブレム・ドリンカー」などと呼ばれる、日常的に過剰に飲酒する人々に好まれており、彼らが寿命を縮める原因になっていると言われている。

昨年は1ユニット最低45ペンスと提案

このような状況を改善するため、スコットランドでは、スコットランド国民党(SNP)率いる自治政府が11月1日、スコットランド内で販売される酒類に最低価格を導入することを提案する「アルコール最低価格法案(Alcohol Minimum Pricing Bill)」を議会に提出した。スコットランドでは、去年も自治政府が同様の試みを行おうとしたが、野党の反対で頓挫している。

また、これとは別に、イングランド及びウェールズでは、来年4月より、すべての酒類について、酒税及び付加価値税(VAT)を合わせた額を下回る額での販売が禁じられることになる。例えば750ミリリットルのワインであれば、その750ミリリットルのワインに課せられている酒税及びVATを合計した額以下で販売することは違法となる。

スコットランドの法案には、自治政府が提案する酒類の具体的な最低価格は盛り込まれていない。しかし、昨年に最低価格を導入しようとした際、自治政府は、1ユニット当たり45ペンス(約54円)に設定するとの意向を明らかにしていた(政府が今回提案する最低価格は、来年初頭に明らかにされる見込みである。酒類の「ユニット」については、「関連キーワード」を参照)。自治政府によると、1ユニット当たり45ペンスの最低価格が導入された場合、例えばアルコール強度4.5%の2リットル入り1.20ポンド(約144円)のサイダーは、3.75ポンド(約450円)に値上がりする。一方、イングランド及びウェールズで導入される措置では、アルコール強度37.5%の1リットルのウォッカならば10.71ポンド(約1285円)、同4.2%の440ミリリットルのラガー・ビールならば、38ペンス(約45円)を下回る値段で販売することは違法となる。

医療費年間550万ポンド削減か

スコットランド自治政府は、最低価格を導入した場合、最初の1年間だけで、飲酒関連の死亡数がスコットランド全体で55件減り、政府の医療費負担は年間で550万ポンド(約6億6000万円)も削減されると述べている。一方、イングランド・ウェールズでの措置に関しては、「導入されても、依然として酒類の安価な販売が可能であり、効果がない」などの批判が出ている。

なお、今回は字数の都合で本稿に盛り込めなかったが、スコットランドでの計画については、関税などに関するEU法に抵触するとの指摘も出ており、法案の行方に一層、注目が集まっている。

Unit of alcohol

「ユニット」とは、酒類に含まれる純アルコール量を量る単位である。英国では、純アルコール10ミリリットルが1ユニットと規定されている。酒類のユニット数は、ミリリットルで表した酒類の量に、パーセントで表したアルコール強度を掛け、その数字を1000で割ることによって得られる。ユニット数の目安としては、500ミリリットルのラガー・ビールが約2.5ユニット、大グラスのワインが約3ユニット、ウィスキーのシングルが1ユニット程度である。英政府が推奨する飲酒量の限度は、男性が1日3〜4ユニットまで、女性が1日2〜3ユニットまでである。

(猫山はるこ)

 

クリケットの八百長問題 - 「紳士のスポーツ」で汚職が発覚

「紳士のスポーツ」で汚職が発覚
クリケットの八百長問題

「紳士のスポーツ」とも言われるクリケットで、八百長にかかわったパキスタン人選手らに対して、11 月上旬、英高等法院が有罪判決を出した。元々は英国で発祥したスポーツであるクリケットは、現在ではインド、パキスタンといったインド亜大陸の諸国を始めとする世界各国で本国以上の人気を集めている。クリケットの歴史と八百長事件の経緯に注目した。

クリケットの基本的なルール

半径約70メートルのフィールドで行う。
ボーラーが投げたボールをバッツマンが打ち、打ったボールがフィールドを転がる間に
 2人のバッツマンが走ることで得点となる。
ボーラーは肘を伸ばして投げる。
バッツマンは全方位、どこに向かって打っても良い。
バットは平たいオール型を使う。
バッツマンが空振りなどした結果、ボーラーが投げたボールがウィケット(バッツマン
 の後ろに立つ3本の棒)を壊すとアウトとなる。またバッツマンが打ち上げたフライを
 フィールダーがノー・バウンドでキャッチしたり、ボールを打った後に走り出した
 バッツマンがウィケットの内側にあるクリース・ラインを越える前に、ボールを取った
 フィールダーが投げ返したボールがウィケットを壊すことでもアウトとなる。

パキスタン選手による八百長事件の経緯

2010年
7月 国際クリケット評議会(ICC)が、イングランド地方で行われた国際選手権での八百長疑惑に関し、パキスタン人選手らを聴取する。
8月 日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」がおとり取材を敢行。スポーツ・エージェントのマザール・マジャードがロンドンで開催のクリケットの国際試合での八百長工作に対する賄賂として現金を受け取る様子を撮影した動画を同紙ウェブサイトに掲載。このとき、マジャードは八百長に関わる数人のパキスタン人選手の名前を挙げた。後に、ロンドン警視庁がマジャードを逮捕。
9月 疑惑がかけられたモハメド・アジフ、サルマン・ブット、モハメド・アミールの3選手は身の潔白を表明するも、ICCは3人を出場停止処分にする。3人はこの処分の撤回を求めて訴えを起こす。
10月 アジフが処分の撤回を求める訴えを取り下げる。またブットとアミールによる処分解除の訴えが裁判所によって却下される。
 
2011年
2月 ICCが3人の選手の試合出場を数年間禁止する。
11月 ロンドンのサザーク高等法院が、マジャード、アジフ、アミール、ブットらを、試合での不正行為などで有罪とする判断を下す。後日、マジャードには禁錮2年8カ月、アジフには同1年、ブットには同30カ月、アミールには6カ月の実刑が下った。

紳士・淑女のスポーツ

野球の原型とされるクリケットは、11人で構成されたチーム同士が、緑の芝生の中に作られたフィールドの中で対戦する球技だ。この競技が生まれたのは、16世紀のイングランド南部においてだったと言われている。やがて19世紀に大英帝国がその領地を世界中に拡大していくにつれて、クリケットも世界各地に広まっていった。現在ではとりわけインド、パキスタン、オーストラリア、ニュージーランド、西インド諸島、南アフリカ共和国、ジンバブエなどで人気が高い。競技人口の多さでは、サッカーに次いで世界第2位である。

またクリケットは、その紳士的なファッションでも注目を集めている。選手のユニフォームは原則白で、男性の場合は白い襟付きのポロシャツに白いスラックス、女性は下に白のキュロット・スカートなどを着用。手には白い手袋をはめ、足には白い脛すねあてを履き、頭にはひさしのついた白い帽子かハンチング帽を被る。白色のユニフォームで全身を固めた選手たちが球を追うこの球技は、公正さを重要視する「紳士・淑女のスポーツ」として認知されてきたのである。

国際試合での八百長疑惑が発覚

ところが、2010年夏、クリケットの試合中に八百長が行われたとの疑惑が発覚する。大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(現在は廃刊)は、ロンドンに住むスポーツ・エージェントのマザール・マジャードに、パキスタンの選手たちに反則投球を行わせたら、15万ポンド(約1800万円)を払うと持ちかけた覆面取材を敢行。そして、同年8月にロンドンで開催されたパキスタン対イングランドの国際選手権において、パキスタン選手たちは、同紙に事前に告げられていた予定通りに反則投球を行ったのである。さらに、お金を受け取ったマジャードの様子を映した画像が同紙のウェブサイトなどに掲載されてしまう。マジャードはこのとき受け取ったお金を使って、同試合の出場選手であるモハメド・アジフに6万5000ポンド(約788万円)、サルマン・ブットに1万ポンド、モハメド・アミールに2500ポンドを払ったと後に説明している。

疑惑がかけられた3選手は身の潔白を主張したが、国際クリケット評議会は今年2月に、試合出場を5年間禁止する罰則措置を下した。また今月上旬には、賄賂受領目的で故意に反則投球を行ったことなどへの共謀罪で、マジャード、アジフ、ブット、アミールの4人を有罪とする判決が高等法院から出されている。

マフィアのメンバーになる選手も

パキスタンのスポーツ紙「ドーン」の記者によると、パキスタン選手の多くが不正行為への誘惑を受けているという。また、クリケットはほかのスポーツ競技同様に賭博の対象になっており、胴元が巨額のお金を選手に渡して反則投球などを依頼したり、また著名な選手たちが巨大な八百長マフィアのメンバーになっているとの現状を伝えている。

ほかにこうした違法行為に手を染める選手がどの程度いるのか。そして、英国を含む他国ではこのような不正行為は行われていないのか。今回の事件は、パキスタンのみならず、クリケットという球技自体への信頼を大きく揺るがせる結果となった。

It's not cricket

「それはフェアじゃない」の意。直訳は「それはクリケットではない」となるが、クリケットは公正なルールを順守する紳士のスポーツであると見なされていることから、「クリケットではない」と言うことで、「スポーツマンらしくない」「スポーツマンにふさわしくない」「スポーツマンシップに反する」との意味になる。ちなみに、これまでに「It's not cricket」という名がついた英映画が2つ(1937年、49年)公開されている。前者はクリケット狂いの英国人の男性と結婚したフランス人女性の話で、後者はクリケットが絡んだスパイ作品となっている。

(小林恭子)

 

英国の「幸福度指標」が策定へ - 国民の生活への満足度探る

国民の生活への満足度探る
英国の「幸福度指標」が策定へ

英政府は現在、経済データだけでは分からない国民の生活の質や生活への満足度を測定するツールとして、「幸福度指標」を策定しようとしている。「幸せを感じる条件は人によって異なり、幸福のレベルを数値で表すことはできない」などとする批判的な意見も聞かれているが、今回は、昨年始まった政府のこの試みについて説明する。

☺ 英国の「幸福度指標」の案
(国立統計局(ONS)が2011年10月末に発表)

英国の「幸福度指標」の案
(全10 項目)
予測される質問(*)
1 個人の幸福 「あなたは自分の人生に満足していますか?」
2 人間関係 「あなたは自分の妻または夫に満足していますか? 」
3 健康 「自分の身体的及び精神的健康に満足していますか? 」
4 仕事 「自分の仕事に満足していますか?」
5 居住地域 「居住地域での犯罪が心配ですか?」
6 個人の資産 「自分の収入に満足していますか?」
7 教育と職業技術 「自分の教育程度に満足していますか?」
8 国の経済状況
9 国の統治に関する状況
10 自然環境

Source: ONS
(*)各項目が「幸福度指標」として導入された場合、「幸福度」を測定するため、ONSによる調査に盛り込まれると予測される質問。8〜10では、それぞれ英国の経済成長に関するデータ、選挙での投票率、二酸化炭素(CO2)排出率などのデータなどが、「幸福度」の測定に使われると思われる。


主要欧州諸国の「生活の質」ランキング

国 名 各国の「生活の質スコア」
1位 フランス 8.14
2位 スペイン 6.39
3位 オランダ 2.56
4位 イタリア 1.99
5位 ドイツ 0.62
6位 デンマーク -0.46
7位 ポーランド -1.08
8位 アイルランド -4.33
9位 スウェーデン -5.41
10位 英国 -8.41

Source: uSwitch( 2011年9月発表)
(*)上記10カ国について、平均労働時間、1年間の平均休暇取得日数、公共料金を含む物価、1年間の日照時間などを調査し、国民の「生活の質」をスコア化した。



首相が昨年11月に方針発表

英国では現在、政府の方針で、英国の「幸福度指標(happinessindex)」の策定に向けた作業が進められている。キャメロン首相が、「幸福度指標」を策定するとの方針を明らかにしたのは昨年11月。その際、首相は、国の経済規模を示す国内総生産(GDP)のみでは、英国社会に関する幅広い要素を盛り込むことができず、国民の生活が改善しているかどうかを評価するには不十分であるとの考えを述べた。GDPは世界第7位の英国であるが(2010年時点、国際通貨基金調べ)、こうした経済データのみでは、国民が本当に自分の生活に満足しているかどうかは判断できないということである。

これ以降、国立統計局(ONS)は、「幸福度指標」の策定に向け、一般の人々を対象にした大規模な意見聴取作業などを実施している。10月末には、それらの結果として、全部で10項目の幸福度指標の案を発表した(上図参照)。ONSは現在、この案について、再び一般の人々から意見を募っているところである。キャメロン首相は、これらの作業を経て新たに策定される指標を使って「英国の幸福度」を測定し、その結果を、将来の政府の政策立案に役立てたいとの意向を明らかにしている。

ブータンは「国民総幸福量」の概念導入

国の政策運営において国民の幸福度を重視するという考え方は、決して新しいものではない。南アジアのブータン王国は、1970年代に「国民総幸福量(GNH)」という概念を導入し、経済成長ではなく、国民の「幸福量」を増加させることを国の政策運営の中枢に据えている。

またフランスでは、サルコジ大統領が2008年に発足させ、ノーベル経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏が委員長を務めていた「経済パフォーマンスと社会進歩の測定に関する委員会」が、2009年に最終報告書を発表し、「社会の成功を測る基準として、GDPに加え、人々の幸福、生活の質、それらの持続可能性を評価する指標が必要である」と述べた。サルコジ大統領は、この報告の発表後、同提案を取り入れ、同国の経済成長を測る指標に、国民の幸福度に関するものを加える意向を明らかにした。

英国は「生活の質」が主要欧州諸国で最下位

英国における幸福度指標の策定については、緊縮財政が実施されている今の時代に相応しくない「税金の無駄遣い」であるとの声もある。しかし、例えば公共料金等比較サイト「ユースイッチ(uSwitch)」が今年9月に発表した調査結果によると、英国の国民の生活の質は、主要な欧州諸国の中で最下位となっている。これは、平均労働時間、1年間の平均休暇日数、物価、平均収入などを基に欧州10カ国の生活の質をランク付けしたもので、1位はフランスであった。

こうした結果を見ると、GDP以外の指標によって、国民の生活の実態をより幅広い角度から把握し、その結果を政策策定に役立て、人々の生活の質改善を試みることには意味があるように思える。なお、前述したONSが現在実施している意見聴取作業の結果は来年春に発表され、その際更に、「幸福度指標」の策定に向けた今後のスケジュールが発表される予定である。

Gross Domestic Product(GDP)

国内総生産。一定期間内に一つの国で産み出された財・サービスの付加価値の総額。国民総生産(Gross National Product, GNP)との違いは、GDPが一つの国(英国、日本など)の中で産み出された付加価値であるのに対し、GNPは、ある単一の国の国民(英国人、日本人など)が一定期間内に生み出した付加価値を指すことである。つまり、GNPには、英国人または日本人が自国以外の国で産み出した付加価値も含む。英国のGDPは四半期ごとにONSが発表している。英国のGDPの最新の数字は、2011年7〜9月のもので、前期比0.5%増であった。

(猫山はるこ)

 

オリンパス前社長解職とその真相 - 解職騒動から不正買収疑惑に発展

解職騒動から不正買収疑惑に発展
オリンパス前社長解職とその真相

英国人社長を半年で解職したオリンパスに対する株式市場の失望感は、同社の経営陣への不信感に変化した。第三者委員会は、オリンパスが過去5年間で実施した4件の買収案件は含み損を解消するために利用されていたとし、同社経営陣も過去の損失隠しを認めた。本件が、日本企業全体への国際的な評価低下につながることも懸念されている。

英CEOスピード解職と意見対立
マイケル・ウッドフォード氏
1981年、オリンパスの英国グループ会社キーメッド社入社。2011年4月1日、欧州法人社長から社長兼最高執行責任者(COO)に昇格した。10月1日、最高経営責任者(CEO)を兼任するも、同14日、取締役会で解職が決定され、業務執行権のない取締役に降格。
 
菊川剛氏
1964年オリンパス光学工業(当時)入社。2001年6月、代表取締役社長に就任。2003年、オリンパス株式会社へと社名を変更。2011年4月1日、会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。10月14日に社長兼任となるも、同26日、社長を退任し代表権のない取締役に降格。
 
解任理由
経営陣への追及   企業文化の違い
2007年: ジャイラス社買収のFA手数料
「異常な数字」 「不正・違法なし」
2006 〜 08年:他3社買収額
企業価値より高額 新規事業への投資
 
不正疑惑問題発覚の経緯と言い分
1.不正買収疑惑報道
2011年7月、月刊経済誌「ファクタ」8月号で、オリンパスのM & Aを巡る不正疑惑問題を報道。
ウッドフォード氏 菊川氏
この報道を知り疑惑を問題視。9月から菊川会長や森副社長へ説明を要求したが、明確な回答を得られず。買収当時の経営陣の責任を問う外部調査を依頼。 ウッドフォード前社長が、同誌の記事を利用し、自身や森副社長を追及する準備を開始したと説明。
2.不当なFA手数料が発覚
ウッドフォード前社長の依頼を受け、2011年10月11日、コンサルティング会社プライスウォーターハウス・クーパース(PwC)が、オリンパスによる、ジャイラス社の買収コストが極端に大きかったと指摘。
ウッドフォード氏 菊川氏
同報告書を受け、菊川会長や森副社長の辞任を要求したところ、10月14日の取締役会で「発言を禁じられたまま解任された」と説明。 10月19日、一連の買収額について監査役会が不正・違法行為は認められないと結論付けたとし、「手数料や価格は適正」と説明。また、「(自身と森副社長を)悪人に仕立てた報告書を作成させ辞任を迫った」とウッドフォード前社長を非難。
M & A問題を巡る関係図
※ 肩書きはすべて事件発生当時のもの
books
*上図をクリックすると、拡大されます。


外国人社長のスピード解職

10月14日に英国人のマイケル・ウッドフォード元社長がスピード解職されたことに端を発する一連の不正企業買収疑惑問題で、精密機器大手オリンパスの株価は低迷し、同社の経営が混迷している。菊川剛前会長は、同氏解職の理由について文化の違いを強調し、「日本型経営を理解せず、独断専横だった」と説明した。一方、ウッドフォード氏は、同社が過去に実施した買収案件での支払いが不適切だった恐れがあると菊川氏に指摘したことが真の理由であるとし、両者の言い分は真っ向から衝突している。

デジタル・カメラなどの映像事業の立て直しを目指すオリンパスが、英国人をトップに起用する大胆な人事に打って出たのが今年の4月。菊川氏は当時、ウッドフォード氏を抜擢した理由について、「グローバル化に踏み出すメッセージ」とし、外国人経営者によるスピード感のある構造改革への期待から、株価も堅調だった。

異常な高額報酬と企業買収の正当性

しかし、焦点は「解職騒動」から「不正企業買収疑惑問題」に発展した。事の発端は、今年7月、月刊経済誌「ファクタ」による「オリンパス『無謀M & A』巨額損失の怪」と題した調査報道を、ウッドフォード氏が目にしたことだった。同件に関して確認を求めたところ、菊川氏は「何も心配いらない」としただけで納得のいく回答が返って来なかったため、ウッドフォード氏は外部調査を依頼。すると、2007年、英医療機器メーカーのジャイラス社を約2000億円(当時)で買収した際にオリンパスが支払った、投資助言会社(FA)2社に対する報酬額約660億円が「不当に高額」であった疑いが浮上した。

また、同報酬を受け取ったとされる、米ニューヨークに拠点を置くアクシーズ・アメリカ社は数年前から閉鎖している幽霊会社である。更には、同社関連会社アグザム・インベストメント社に至っては、オリンパスからの支払いが完了した3カ月後の2010年6月、英領ケイマン諸島で免許料不払いのため登記を抹消されている。加えて、本業と関連が薄い分野の日系企業3社に関する買収額の正当性についても、ウッドフォード氏は疑問を呈していた。

組織的な犯罪である可能性

ウッドフォード氏は解職された後、オリンパスの巨額な不正支出は「組織的な犯罪である」と告発し、過去の買収活動に関する証拠書類を英日捜査局に提出した。また、米連邦捜査局(FBI)に対する調査協力を始めたことも認めていた。そんな折、第三者委員会は、有価証券投資等の含み損解消のため、長年にわたり複雑な操作で決算への損失計上を回避していたことが調査過程で判明したと発表。これを受け、11月8日、オリンパス新経営陣は、1990年代からの証券投資の損失に対する「穴埋め」として、企業買収を通じて多額の資金を流用していたことを遂に認めた。

今年9月、米「フォーブス」誌が発表した「アジアの最優良企業50社」リストは、中国企業が半数以上を占めた一方で、2005年版では13社と最多を占めていた日本企業は圏外の「ゼロ」だった。近年、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の強化に取り組んできた日本企業の名誉を挽回し、日本経済を衰退させないためにも、オリンパス問題の究明と責任追及は必須であろう。

Cayman Islands

ケイマン諸島。カリブ海の英海外領土。首府はジョージ・タウン。グランド・ケイマン島、ケイマン・ブラック島、リトル・ケイマン島の3島からなる。南東部に位置するジャマイカが1962年に独立を果たすまでは、一つの植民地として英国が統治していた。タックス・ヘブン(税金逃避地)としても知られ、所得や利益、財産、キャピタル・ゲイン、売上、遺産相続などに対して非課税が保証されることから、ケイマン諸島内では事業を行わない外国企業や海外の金融機関が資産運用会社や特別目的会社、法人事務所を設置するなどして利用。半面、租税回避やマネー・ロンダリングなどの問題も発生している。

(吉田智賀子)

 

増加する地域住民による図書館運営 - 公共支出削減による閉鎖を背景に

公共支出削減による閉鎖を背景に
増加する地域住民による図書館運営

本を借りるのはもちろん、調べ物や勉強ができる場所として、地域にとって欠かせない存在である図書館。その図書館が現在、多くの地域で閉鎖の憂き目に遭っているが、それに伴い、これまでと違った図書館運営の形が増えている。

「未来の図書館(Future Library)」プログラムとは

政府の外郭団体「美術館・図書館・古文書委員会(MLA)」と、イングランドの地方自治体の代表団体である地方自治体協議会(LGA)は昨年8月、「未来の図書館」と呼ばれるプログラムをスタートした。同プログラムの目的は、自治体の財政難を背景に、従来とは異なる画期的な方法による図書館運営の試みを支援すること。昨年8月に開始されたプログラムの第1段階では、合計36の自治体による10のプロジェクトが支援対象となった。

両組織は今年8月、プログラム開始から1年間の成果をまとめた報告書を発表。同報告書は、「未来の図書館」プログラムでこれまでに自治体が行った(または計画中の)図書館運営の試みを発表した(①)。同報告書はまた、21世紀における公立図書館の存続方法として、4つの選択肢を挙げている(②)。

①「未来の図書館」プログラムで実践された、または計画中の図書館運営方法の例
■ ブラッドフォード市
市内各所の小売店に、セルフサービスで図書館の本の貸出・返却ができる場所を設置。
■ ロンドンのウェストミンスター区、ハマースミス・アンド・フラム区、ケンジントン・アンド・チェルシー区
3区の図書館運営業務を統合し、年間100万ポンド(約1億2000万ポンド)の経費を削減。
■ ハートフォードシャ—州
高齢者ケアサービスの受給者を対象に、本の宅配サービスを行うこと、育児支援施設に図書館を設置することを検討中。
② 21世紀における公立図書館の存続方法の案
民間企業、慈善団体、そのほかの自治体などと共同で図書館を運営する。
教会、商店、コミュニティー・ホールなどの地域の施設と図書館を統合する。その上で、図書館に、地域の保健センターなどを併設する。
経費削減のため、複数の自治体で、事務業務、移動図書館などの業務を共同で提供する。
図書館運営における図書館利用者の役割を拡大する。

books

イングランドにおける図書館利用率

  調査対象者数 過去1年、図書館に行ったことがある人の図書館訪問頻度 過去1年1回
でも図書館に
行ったことが
ある人の割合
最低でも
週に1回
最低でも
月に1回
1年に
3、4回
1年に
1、2回
2005年度 28,117人 7.9% 16.4% 13.4% 10.4% 48.2%
2006年度 24,174人 7.2% 15.7% 12.9% 12.9% 12.9%
2007年度 25,720人 6.7% 14.9% 13.0% 10.5% 45.0%
2008年度 14,452人 5.9% 13.3% 11.4% 8.9% 41.1%
2009年度 6,097人 5.4% 12.8% 10.9% 7.9% 39.4%
2010年度 14,102人 5.8% 13.4% 11.6% 8.9% 39.7%

Source: DCMS
(*)文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が毎年行っている、イングランドの住民の文化・スポーツ活動などへの参加度を調べる調査「Taking Part」の結果。調査対象は、5〜15歳の子供及び16歳以上の大人。



裁判所は閉鎖の決定を支持

現在、イングランドの様々な地域で、自治体が公立図書館の閉鎖を決定し、住民が抗議運動を行うという事態が発生している。ロンドン北部ブレント(Brent)区は今年4月、同区内の6つの図書館の閉鎖を決定。これに反対する住民の訴えで、同決定に関する司法審査が行われたが、高等法院は10月中旬、ブレント区の決定を支持する判断を下した。このほかにも、ボルトン市やドンカスター市、ウォーリックシャー州、サマセット州、グロスターシャー州などを含めた多くの地域で、公立図書館が閉鎖されたり、または閉鎖の可能性が浮上しており、住民に怒りと困惑を招いている。

多くの地域で図書館が閉鎖されている理由は、現政府による公共支出削減で、イングランドの自治体への政府補助金が大幅に削られているからである。このため、全国の自治体は、公共サービスを削減せざるを得ない状況に陥っている。福祉や高齢者ケアなどと異なり、「どうしても必要」な公共サービスであるとは言い難い図書館運営業務は、財政難の場合、削減の対象となりやすいのである。

社会的企業が運営の例も

こうした中、いくつかの地域で、図書館存続の方法として実践されているのが、地域の住民グループや組織が、自治体から図書館の運営を引き継ぐというものである。例えば、ロンドン南東部ルイシャム(Lewisham)区では、今年前半、区内の12の図書館のうち5館の閉鎖が決定された。しかし現在、それら5施設はすべて、地元の団体やグループによって運営されている。

5館のうち3館を運営するのは、「エコ・コンピューター・システムズ(ECS)」と呼ばれる地元の社会的企業(social enterprise)であり、同組織の本来の業務はコンピューターのリサイクルである。ECSは、3つの図書館の館内で、本の貸出のほか、コンピューターの使い方や就職活動に関する講座の提供、不要になったコンピューターの回収受付なども行っている。ECSの創業者が最近、英メディアに語ったところによると、自治体が運営していた頃よりも館内で行われるイベントも増え、地元住民からは、「閉鎖にならないで良かった」と喜ばれているという。また、5館のうち1館は、地域の住民グループの支援を受けながら、地元住民がボランティアとして運営している。

「ボランティア候補60人いる」

政府の外郭団体「美術館・図書館・古文書委員会(MLA、右記「関連キーワード」参照)」の調査によると、このような地域コミュニティーが運営する図書館の例は現在、イングランド内で増加しており、今後も増える見込みである。冒頭で述べたブレント区の件は、高等法院による判断が下された数日後、控訴院が、住民に対して異議申し立てを行う許可を与えたため、10月末現在、まだ未決着の状態となっている。しかし、同区の図書館閉鎖反対キャンペーンで中心的役割を果たしている住民は、「許可さえ下りれば、ボランティアとして図書館運営を引き受ける意思のある住民が60人はいる」と述べている。これが実現し、同区でもルイシャム区のように、住民の運営という形で図書館が存続できることになるか、今後の行方に注目したい。


Museums, Libraries and Archives Council(MLA)

イングランドの博物館、美術館、図書館、古文書館のサービス改善・革新の促進、この分野における政府へのアドバイス提供などを業務とする外郭団体。文化・メディア・スポーツ省(DCMS)から運営資金を提供されている。イングランドの美術館及び博物館の支援プログラムやそれら施設の認可スキームの実施、非国立系美術館及び博物館に収蔵されている重要な美術品などの認定とリスト作成などの活動を行う。現政権は昨年、多くの外郭団体を廃止することを発表したが、MLAもその中に含まれていた。
ウェブサイトのアドレスは www.mla.gov.uk
 

英国の最低賃金が引き上げに - 若者の雇用との関連性で議論

若者の雇用との関連性で議論
英国の最低賃金が引き上げに

英国では、1999年から最低賃金制度が導入されており、独立の組織のアドバイスを基に、政府が毎年改正を行っている。景気が期待通りに好転せず、経済の先行きが不透明な中、雇用や賃金は英国民にとって大きな問題であるが、今回はこの最低賃金について取り上げる。

英国における最低賃金の変遷

Source: Low Pay Commission
英国における最低賃金の変遷

(i) 「成人最低賃金(Adult Rate)」の対象年齢は、1999年4月の最低賃金制度 導入当初は「22歳以上」
であったが、2010年10月1日から「21歳以上」に引き下げられた。
(ii) 「若年者最低賃金(Development Rate)」の対象年齢は、1999年4月の最低賃金制度導入当初は
「18~21歳」であったが、2010年10月1日から「18~20歳」に変更された。
(iii) 16~17歳の労働者の最低賃金は2004年10月1日に導入された。
(iv)「 アプレンティス」は、職場で見習いとして働きながら職業技術を習得する制度である
「アプレンティスシップ」に参加している者。アプレンティスの最低賃金は、2010年10月1日に
導入された。

英国において、特定の分野で「最低賃金労働者」が占める割合

Source: Low Pay Commission
英国において、特定の分野で「最低賃金労働者」が占める割合

*「低賃金委員会」による2010年の調査の結果。2010年4月時点で、21歳以上で1時間当たりの給与が
£5.86以下、18~20歳で£4.86以下、16~17歳で£3.60以下の労働者を「最低賃金労働者」と規定し、
それらの者が全労働者 に占める割合を、分野別に算出した。
(i) 宿泊施設運営、飲食店経営など、接客サービスを提供する業種。

賃金


1999年にブレア政権が導入

10月1日、英国の最低賃金が引き上げられた。最低賃金は、年齢別に規定されており、21歳以上の成人の額は、これまでの1時間当たり5.93ポンド(約700円)から、同6.08ポンド(約717円)に引き上げられた。

英国で最低賃金が導入されたのは、ブレア労働党政権下の1999年4月である。最初の最低賃金は、22歳以上で1時間当たり3.60ポンド(約424円)と、現在の6割ほどであった。最低賃金の導入を規定した「1998年全国最低賃金法(National MinimumWage Act 1998)」はまた、独立の機関として「低賃金委員会(LPC)」の設置を定めた。LPCは毎年、政府に対し、最低賃金の改定について提案を行う。政府は、これに基づいて毎年10月1日、最低賃金の額を変更する。

自営業者やフリーランスで働く人、大学や専門学校の課程の一部としてワーク・エクスペリエンスを行う学生などの例外を除いて、大半の労働者は、最低賃金を支払われる法的権利がある。フルタイムかパートタイムか、正社員か派遣社員かなどの労働形態の違いは関係ない。

若者の就職の機会奪うとの見方も

最低賃金の引き上げについては、「若者から就職の機会を奪う」として懸念する声もある。仕事経験の無い、または少ない10代の若者などは、そのほかの年代の労働者より、最低賃金またはそれに近い額の賃金で雇用されている者の割合が多い。そのため、最低賃金が更に上昇すると、こうした若者をあえて雇用しようという雇用者側の意欲がこれまで以上に減退するという見方であり、主に保守系の人からこうした意見が聞かれる。LPCが今年前半に政府に提出した最低賃金引き上げに関する提案書(今年10月1日からの最低賃金引き上げの基になった提案)にも、最低賃金が若者の雇用を妨げている可能性について触れていた。

1時間8ポンドの「生活賃金」求める声も

一方、全国の労働組合の連合組織である英国労働組合会議(TUC)は、若者の雇用悪化と最低賃金との関連性を否定。現政権による公共支出の削減、昨今の急激な物価高などを考えると、低所得者を貧困から脱却させるためには、最低賃金の更なる引き上げが必要であると主張している。英国商工会議所(BCC)のアダム・マーシャル政策局長は、企業による雇用を拡大し、経済活性化を図るためには、最低賃金の凍結ばかりか、引き下げの可能性も検討すべきと主張しているが、これに対しTUCは、需要喚起のため、最低賃金の引き上げは必須であると指摘している。なお、今年10月1日からの21歳以上の成人の最低賃金引き上げ率は前年比2.5%であり、これは、最近の物価上昇率を大幅に下回る数字である。

公的部門職員の労働組合「ユニゾン」は、英国のすべての労働者に対し、1時間当たり8ポンド(約944円)の「生活賃金(「関連キーワード」欄を参照)」を適用すべきであると訴えている。LPCは、最低賃金と若者の雇用との関連について調査を委託したことを明らかにしており、来年の最低賃金の引き上げの提案には、この調査の結果が反映されるものと思われる。(


Living Wage

最低の生活水準を保つのに必要な賃金を時間給で計算したもの。生活賃金。ヨーク大学の研究チーム「家族予算ユニット」は、生活賃金を、「賃金労働者とその家族が、寒さをしのぎ、住居と、健康的で味の良い食事を手に入れ、社会に統合し、慢性的ストレスを避けるのに十分なレベルの賃金」と定義している。グレーター・ロンドン・オーソリティー(GLA)は、2005年以来毎年、ロンドンの生活賃金を発表している(2011年は1時間当たり8.30ポンド)。英国内のロンドン以外の地域での生活賃金は、ラフバラ大学の社会政策調査センターが算定しており、2011年は7.20ポンドとされている。

(猫山はるこ)

 

パレスチナ国連加盟申請と中東和平 - 欧米諸国とパレスチナ問題

これまで数多くの中東和平交渉が繰り返されてきたが、パレスチナとイスラエルの2カ国共存はいまだ実現していない。今般のパレスチナ自治政府による国連加盟申請で、依然としてパレスチナ問題が欧米諸国の外交カードであることも浮き彫りになってきた。

イスラエル・パレスチナ自治区

イスラエル・パレスチナ自治区

イスラエル・パレスチナ自治区

パレスチナ問題年表

第一次中東戦争
1915年 「フセイン・マクマホン協定」で、英国がアラブ独立支持を約束
1916年 英・仏・露「サイクス・ピコ協定」で中東分割を約束、アラブ反乱勃発
1917年 英「バルフォア宣言」で、パレスチナにおけるユダヤ人の居住地建設を支持
1918年 パレスチナが英委任統治下に
(1517年以降続いたオスマン・トルコ統治に終止符)
1936年 反シオニズム「アラブ大蜂起」が勃発
1939年 第二次大戦勃発。英「マクドナルド白書」でパレスチナ独立支持
1947年 国連総会でパレスチナ分割決議が採択
1948年 イスラエルが独立宣言、第一次中東戦争勃発
(パレスチナが分割、地図上から消滅)
 
第二・三・四次中東戦争
1956年 エジプトがスエズ運河の国有化を宣言、「第二次中東戦争」が勃発
(英・仏軍撤退)
1957年 ヤセル・アラファトが「ファタハ(パレスチナ民族解放運動)」設立
1964年 アラブ連盟が「パレスチナ解放機構(PLO)」を結成
1967年 「第三次中東戦争」が勃発
1969年 ヤセル・アラファトがPLO新議長選出
1973年 「第四次中東戦争」が勃発(第一次石油危機)
1974年 国連総会でアラファトPLO議長が「銃とオリーブの枝」演説を行う
1979年 キャンプ・デービッド合意が締結(シナイ半島がエジプトに返還される)
1987年 「インティファーダ(民衆蜂起)」が勃発、ムスリム同胞団系「ハマス」創設
1988年 「ミニ・パレスチナ国家」樹立宣言、イスラエルとの2国間共存発表
1991年 「マドリード中東和平会議」が開催(米・イスラエルの反対でPLO不参加)
1993年 「オスロ合意」署名(パレスチナ暫定自治拡大に関する原則宣言)
1995年 「オスロII」署名(パレスチナ暫定自治政府(PA)設立)
1996年 アラファトPLO議長が初代PA大統領就任
2000年 「 第二次インティファーダ(アルアクサ民衆蜂起)」が勃発
2003年 米、EU、露、国連が「ロードマップ構想」発表(パレスチナ問題の最終的解決へ)
2004年 アラファト議長逝去(アッバスPLO新議長就任、現大統領)
2005年 イスラエルがガザ地区から撤退
2006年 ハマス主導の自治政府内閣成立
2007年 ハマス・ファタハ挙国一致内閣樹立(メッカ合意)、
「アナポリス国際会議」が開催
2008年 イスラエル軍がガザ攻撃を開始
2010年 米仲介の下で、イスラエルとパレスチナの直接和平交渉が再開

国連加盟申請を巡る外交

9月30日に開かれた国連安保理審査委員会の初会合で、理事国6カ国がパレスチナ自治政府の国連加盟支持を表明した。国連加盟に必要な安保理勧告には、理事国15カ国中9カ国の賛成と、常任理事国5カ国が拒否権を行使しないことが条件となる。しかし、米国は既に拒否権行使を明言し、キャメロン英首相も「パレスチナとイスラエル双方の歩み寄りが必要」と述べ、米国に歩調を合わせた。

一方、サルコジ仏大統領は、米国による拒否権行使は中東地域の情勢悪化につながると警告し、現国連オブザーバーであるパレスチナの立場を機構から国家に格上げした上で、1年以内にイスラエルとの和平合意を目指すべきだと主張した。カダフィ政権崩壊後、いち早くリビアを訪問した英仏両国にとって、パレスチナ問題を巡るアラブ世界との対立は外交上の大損益となり、国連での拒否権行使は避けたいというのが本音だろう。

三枚舌外交とパレスチナ問題

そもそもパレスチナ問題とは何なのか。その歴史をたどってみると、帝国主義利権を優先した英政府による3つの矛盾した外交政策「三枚舌外交」が浮かび上がる。第一次大戦中、イラク南部での激しい戦局に見舞われた英国は、アラブによるオスマン帝国への反乱を促すため、1915年にメッカの太守フセインに対してアラブの独立支持を表明する「フセイン・マクマホン協定」を結ぶと、翌年には、三国協商で「サイクス・ピコ協定」を締結して秘密裏にアラブ分割を約束した。更には、英議会内におけるシオニズム(「関連キーワード」参照)支持の高まりを受け、1917年に第2男爵ロスチャイルドに当てた書簡「バルフォア宣言」で、パレスチナでのユダヤ人の居住地の建設を支持した。

折しも、欧州では反ユダヤ主義が台頭し、迫害や虐殺を逃れるユダヤ人移民がパレスチナの地に押し寄せた。一方で、対立と混乱を避けるためパレスチナを逃れるパレスチナ難民が近隣アラブ諸国で大量発生する事態となる。1947年、国連がパレスチナ分割決議を採択すると、翌年にはイスラエルが建国を宣言。これに抵抗するアラブ連合軍がパレスチナに進攻すると、混沌の時代の始まりとなる第一次中東戦争が勃発したのである。

枯れたオリーブの枝

暗礁に乗り上げたままの中東和平交渉をよそに、9月23日、アラブの民衆蜂起に背中を押されたのか、パレスチナ自治政府のアッバス議長が国連に国家としての加盟申請書を提出した。すると、27日にはイスラエル政府が東エルサレムに1100戸に及ぶユダヤ人住宅の新規建設予定を発表。抑止策とも解し得るネタニヤフ・イスラエル政権の強硬政策を欧米諸国は非難したが、イスラエル寄りの姿勢を示す米国との関係を重視する外交から転換できずにいる。

1974年、故アラファトPLO議長は、国連総会で平和の象徴であるオリーブの枝を掲げ「私の手からオリーブの枝を落とさないで下さい」と中東和平を訴え、国連オブザーバー資格を獲得した。2004年、アラファトPLO議長の死とともに地に落ちて枯れたオリーブの枝から、新たな芽を萌芽させる和平の水が再び沸き出ることはあるのか。


Zionism

ユダヤ主義、シオニズム運動。1896年、オーストリア・ハンガリーの作家テーオドール・ヘルツルが著書「ユダヤ人国家」で提唱。19世紀末、欧州におけるユダヤ人偏見や迫害、ポグロム(虐殺)に対して生まれた抵抗運動。古代ユダ王国の聖地エルサレム(シオン)におけるユダヤ人国家の再建とイスラエル文化の復興を目指し、失われた祖国イスラエルを取り戻すことを目的とした。現在では政治、民族、思想、宗教など異なる要素を含むようになり、異教徒でもユダヤ主義を提唱する個人・組織がある。特に米国内のキリスト教徒が中心の宗教右派クリスチャン・シオニストは、政治的影響力をも有する。

(吉田智賀子)

 

スクワットに関する法律が改正へ - 刑法上の犯罪となる可能性も

刑法上の犯罪となる可能性も
スクワットに関する法律が改正へ

「スクワット(squat)」及び「スクワッター(squatters)」は、日本人には耳慣れない言葉であるかもしれないが、ここ英国では、マスコミによる報道にはしばしば登場する単語である。政府は現在、イングランドとウェールズにおけるスクワットに関する法律改正の試みを行おうとしており、大きなニュースとなっている。

数字で見る英国のスクワット事情

2万人 英国におけるスクワッターの数の推定 (i)
10万件 英国におけるスクワットの年間発生件数 (ii)
12年 スクワッターが、占拠している建物の所有権を主張するために、当該の建物に住み続けることが必要とされる期間(ただし、当該の建物が立っている土地が未登録の場合。土地が登録されている場合は10年)
1381年 イングランドで、他人の土地への強制的な侵入を禁じる「強制的侵入禁止法」が制定された年
73万7000戸 イングランドに存在する空き家の数 (iii)
39% 独身のホームレスにスクワット経験者が占める割合 (iv)
87% スクワッターに男性が占める割合 (v)
26〜35歳 スクワッターに最も多い年齢層(43.4%)(v)
51.9% スクワッターに刑務所または少年院入所経験者が占める割合 (v)
46.3% スクワッターに麻薬依存症の人が占める割合 (v)
Source:
(i) Ministry of Justice(2011年)(ii) Daily Telegraph(2011年)
(iii) Empty Homes(2010年) (iv) Crisis(2011年)(v) Crisis(2004年)

スクワットに関するアンケート調査結果

★ スクワットを刑法上の犯罪とするという政府の案を支持しますか?


「イブニング・スタンダード」紙が同紙のウェブサイト上で実施した調査の結果

★ スクワッターは刑務所に収容されるべきだと思いますか?


「デーリー・メール」紙が同紙のウェブサイト上で実施した調査の結果
スクワットとは?
空き家や空きビル、居住者が留守中の家屋などを、所有者や居住者の許可なく占拠し、住むこと

スクワットの行為そのものは合法

空き家や空きビル、居住者が留守中の家屋などを無断で占拠することを「スクワット」と呼び、こうした行為を行う人々を「スクワッター」と呼ぶ。最近、特に保守系メディアを中心に、有名人や一般人の家がスクワットされ、多大な迷惑を被っているという報道をしばしば目にする。例えば、「イブニング・スタンダード」紙などは最近、ロンドン北部に医師とその妊娠中の妻が所有する高級住宅がスクワットされた話を盛んに報じていた。

イングランドとウェールズの現行法下では、スクワットの行為そのものは、刑法上の犯罪ではない。つまり、誰も住んでいない空き家や空き建物を無断で占拠することは犯罪ではない。こうした事態が起きた場合、当該の家や建物の所有者は、家屋または建物の「所有権回復命令」の発行を裁判所に申請することにより、スクワッターを退去させることができる(より迅速に退去させたい場合は、「暫定的所有権回復命令」を申請することもできる)。

政府が協議文書発表

既に誰かが住んでいる家が、休暇などの留守中にスクワットされた場合、居住者は、裁判所に対し、自分が当該の家に住んでいる事実を証明する必要がある。スクワッターが、家の居住者であると裁判所から認められた者から退去を申し入れられ、拒否した場合、これは刑法上の犯罪となり、その場合、警察はスクワッターを逮捕できる。このように、スクワットの被害に遭った後、家を取り戻すには、煩雑な裁判手続きを経る必要があること、それに時間と多額の費用がかかることなどが、家の所有者・居住者に大きな精神的苦痛を与えていると報道されている(なお、スクワッターが家の侵入時にドアや窓を壊すなどした場合は、それだけで犯罪行為とみなされる)。

こうした状況を受け、司法省は今年7月、イングランドとウェールズにおけるスクワットに関する法改正案をまとめ、一般の人や専門家から意見を募るための協議文書を発表した。文書に盛り込まれた改正案の一つは、スクワットの行為そのものを、刑法上の犯罪とすることである。また、家屋の所有者などが、家に住んでいる者の意向に反して、暴力や脅しを使って家の中に入ることを違法とする現行法を廃止するとの案も盛り込まれている。これは、悪徳家主が暴力的な方法でテナントを追い出すことを防ぐための法律であるが、スクワッターが家を占拠する権利を主張するために利用しているとも言われている。

「ホームレスから住む場所奪う」との声

これに対し、ホームレス支援団体などからは、「大半のスクワッターは、長期間空き家になっている建物や家に住んでおり、一部のマスコミが報じているような休暇中の留守宅に入り込むケースは稀。不況と失業率増加、公共支出削減と住宅不足で、ホームレスの更なる増加が見込まれる中、スクワットを犯罪とすることは、ホームレスから住む場所を奪うのと同じである」などの意見が出ている。 政府の意見集約作業は10月初旬まで行われ、その後、制度改正案を盛り込んだ法案が国会に提出される見込みである。詳細は司 法省のウェブサイト(www.justice.gov.uk)を参照。


SQUASH

スクワットを違法化する政府案に反対するため、今年5月に立ち上げられたキャンペーン。90年代に当時の保守党政権による同様の案に対する反対運動を行い、今回は、本文で紹介した現政府の案を受けて、再び活動を開始した。ホームレス支援団体「クライシス(Crisis)」及び「シェルター(Shelter)」、国会議員、弁護士、アーティスト、スクワッターなどの連合であり、再結成の会合では、労働党のジョン・マクドネル下院議員が司会を務めた。ウェブサイト(www.squashcampaign.org)では、スクワットに関する情報提供を行うほか、政府の意見集約作業への返答を呼び掛けている。

(猫山はるこ)

 

追い出される「トラベラーズ」たち - 違法行為か人権問題か

違法行為か人権問題か
追い出される「トラベラーズ」たち

トラベラーズ一定の居住地を持たないトラベラーズたちが不当に土地を利用しているとして、英南東部の町バジルドンのカウンシルが、立ち退き強制を執行することになった。トラベラーズたちは立ち退きを拒否しており、これに賛同する支援者を中心に反対運動が発生。国連委員会が人権上の理由から強制立ち退きを停止するよう政府に求めたことで、この動きは国際的にも注目されている。

トラベラーズとは

呼称 主な居住地 起源、出身地など
ジプシー
(*現在、日本では差別語扱い)、ロマ民族の人
世界各国に数百万人が居住すると推定されている。スペイン、ルーマニア、トルコ、フランスに人口が拡大した。 欧州で生活する移動型民族。「エジプトからやって来た人」という意味の「エジプシャン」が起源とする説やギリシア語から発したという説がある。実際には北方インドに居住していたと考えられる遊牧民が11世紀頃から欧州に移動し、人口が拡大した。
イングリッシュ・
ジプシー
英イングランド、ウェールズ、スコットランドのローランド地方 15世紀末にインドから英国へと渡った遊牧民族。19世紀頃まではロマ語を話したとされている。
アイリッシュ・
ジプシー
アイルランド、英イングランド地方 アイルランド系。アイルランド共和国内には推定2万2000人、英国内には同1万5000人〜3万人存在する。
ニューエイジ・
トラベラーズ
英国 音楽祭やフェアなどを渡り歩く、ヒッピー系の移動者たちで、1980〜90年代に多くの参加者が発生した。
スコティッシュ・
トラベラーズ
英スコットランド地方 様々な習慣と伝統を持つ移動民族で、ティンカーズ、インディジェネス・ハイランド・トラベラーズ、ファンフェア・トラベラーズ、ローランド・スコティッシュ・トラベラーズなどとも呼ばれる。

イングランド地方にある移動住宅の数


(1月時点)
移動住宅の総数 許可を受けた場所に
設置された移動住宅数
(全体に占める割合:%)
非許可の場所に
設置された移動住宅
2000 13,253 10,7373 (81%) 728
2001 13,503 10,900 (81%) 965
2002 13,612 10,838 (80%) 1,137
2003 13,972 10,944 (78%) 1,408
2004 14,309 10,738 (75%) 1,977
2005 15,369 11,929 (78%) 2,139
2006 15,746 12,474 (79%) 2,154
2007 16,611 13,073 (79%) 2,252
2008 17,844 14,047 (79%) 2,287
2009 17,813 14,185 (80%) 2,365
2010 18,355 14,736 (80%) 2,395
Source: Count of Gypsy and Traveller Caravans by the Department for Communities and
Local Government

トラベラーズの正体

移動民族「ジプシー(ロマ系)」や「トラベラーズ」たちは、一定の居住地を持たず、農作業やくず鉄処理、馬の管理など、不特定の業種に就きながら家計を支え、ワゴン車や移動住宅を住居として暮らしてきた。現在、英国内で注目を集めているのが、イングランド南東部エセックス州バジルドンにある広大な敷地「デール・ファーム」で生活する、アイルランド系トラベラーズの存在である。

10年越しの交渉

現在、デール・ファームには、移動住宅内などで生活する800〜1000人のトラベラーズたちがいる。国内に設けられたトラベラーズ用のものとしては最大とされる約2万平方メートルに広がる敷地の一部は、もともと廃棄物置き場であった。1970年代に、ロマ人系トラベラーズの40家族たちに対して、地元カウンシルがこの敷地内における住居の建築を許可。また90年代半ばには、廃棄物置き場の所有者が、アイルランド系のトラベラーズたちにこの敷地を12万2000ポンド(約1400万円)で売却している。以後、土地そのものは、トラベラーズ自身によって所有されていた。

問題が生じたのは、この場所が都市開発や新規建築物に対して厳しい制限が付く「グリーンベルト」地帯(関連キーワード参照)となっているにもかかわらず、トラベラーズたちの一部が、建築許可を得ないままに住宅を建設していたことにある。建築法違反を理由に、今年7月には、28日間の猶予期間内に立ち退くようカウンシル側が依頼。しかし、トラベラーズは応じなかった。

9月16日、控訴院判事はカウンシルによる立ち退き令を支持する判断を出した。「法の下ではすべての人が平等であるべき」とするキャメロン首相、ミリバンド野党労働党党首もこの判断を支持する一方で、国連人種差別撤廃委員会は、英政府に対して「トラベラーズたちに文化的に適切な宿泊場所を特定し、これを提供するべきだ」と提言している。

地元住民との摩擦

政府はこれまで、移動型生活を行うトラベラーズたちの慣習を尊重する姿勢を見せてきた。イングランド地方にはカウンシルが提供するトラベラーズ用敷地が5000カ所設けられている。しかし、緑に囲まれた広大な敷地がトラベラーズ用に利用されることで、景観が崩れる、あるいは一般市民向けの住宅建設計画に悪影響を与えると考える住民が少なからず存在する。また英国に姿を見せた15世紀末頃から、トラベラーズたちは時の権力者による迫害を受け、一段低い存在として国民から差別の対象になってきた。さらに、「一定の場所に住居を持たないのが慣習であれば、地元住民との軋轢を起こしている敷地から離れた別の場所に移動すればよいだけではないか」と考える国民も多い。しかし、英国内でトラベラーズたちが合法的に住居を建設できる場所はいずれも埋まっており、デール・ファームで生活を送るトラベラーズたちは、同地を追い出されるともはや行き場がない、というのが現状であるという。

トラベラーズたちに移動型生活習慣を断念してもらうのか、それとも彼らの生活習慣に理解を示すよう英国民たちに働き掛けるべきなのか。政治家たちは、難しい選択を迫られている。

Green Belt

緑化地帯、グリーンベルト。「グリーンベルト」政策とは、無制限な都市化を抑制するために打ち出された都市計画のための施策。ある土地がグリーンベルト地帯に指定された場合、その土地の史跡、田園地帯、アウトドア空間の維持、自然保護などを考慮に入れた都市開発を行う必要がある。1938年にロンドンで最初に導入され、次第に英国全体に拡大した。イングランド地方のグリーンベルト地帯は全面積の約13%に相当する。環境保護運動家たちは、イングランド地方のグリーンベルトが毎年約800ヘクタール(約800万平方メートル)縮小している、と主張している。

(小林恭子)

 
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