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Wed, 01 April 2026

LISTING イベント情報

連立政権による治安対策の動向

オンライン犯罪マップ立ち上げなど
連立政権による治安対策の動向

英国在住者であれば誰でも近隣地区の安全が気になるもので あるが、最近、地域の治安情報を知るために便利なオンラインの犯罪マップがスタートした。今回は、この犯罪マップに加え、反社会的行動の取り締まり制度の改革など、政府の治安対策について取り上げる。

2010年12月に警察への犯罪通報件数が
特に多かった通りの例

Source : www.police.uk

通り名





















Glovers Court 及びその周辺
(ランカシャー州)
1 1 73 44 0 33 152
Bolnore Road 及びその周辺
(ウェスト・サセックス州)
0 0 148 0 0 0 148
Camborne Close 及びその周辺
(ロンドン)
0 0 56 14 0 76 146
West Thurrock 及びその周辺
(サロック市)
3 2 19 13 5 101 143
Albert Road South 及びその周辺
(ハートフォードシャー州)
2 0 30 25 0 78 135

2009年度にイングランドとウェールズで記録された
430万件の犯罪事件内訳

Source: Home Office

犯罪の内訳

アクセス殺到でサイトが一時ダウン

内務省は1月末、イングランド及びウェールズ全土をカバーする オンラインの犯罪マップを立ち上げたことを明らかにした。このサイト(www.police.uk)は、郵便番号、通りの名前、または地名を入力すれば、通り単位で最近1カ月間の当該地域における警察への 犯罪の通報件数が分かる仕組みになっている。  

同サイトでは、犯罪のカテゴリーが「侵入強盗」「路上強盗」「反 社会的行動」「車両関連犯罪」「暴力犯罪」「その他」の6種類に分け られている。更に、当該地域の地域治安維持補助官(PCSO、「関連キーワード」参照)の氏名、最近発生した犯罪事件の監視カメラ の映像なども閲覧できるようになっている。サイトの開始日には、アクセスが殺到してサイトが一時ダウンするというトラブルまで発生し、犯罪問題に対する人々の関心の高さをうかがわせた。

ASBO制度に改革案

政府の治安対策に関する最近のもう一つの大きな動きは、反社会的行動(anti-social behaviour)の取り締まり制度の改革案が発表されたことである。現在、近隣への迷惑行為や公共物破壊などの反社会的行動を行った者の取り締まりには18種類の裁判所命令などが使われており、そのうち最も良く知られているのが「反社会的行動命令(ASBO)」である。裁判所からASBOを発令されると、その対象者は、反社会的行為を行うこと、特定の場所に行くことなどを禁じられる。この仕組みはブレア労働党政権によって1999年に導入されたものであるが、連立政権は2月上旬、従来の制度では十分な効果が得られなかったとして、新たな改革案を掲げた協議文書を発表した。新案は、これまで使われてきた18種類の裁判所命令などを5種類に減らすことを軸としており、現制度下でのASBOの対象者は、新たに導入される「コミュニティー行動命令 (CBO)」を発令されることになるとしている。  

ASBOについては、発令対象者のうち、命令の内容に違反した 者が占める割合が、1999年〜2009年の10年間で平均56%にも 上っており、その効果を疑問視する声もあった。また不良少年・少 女グループの間では、ASBOは、いかに彼らが「ワル」であるかを 証明する「勲章」のように見なされているとも言われており、この こともASBOに反社会的行動の抑止効果がないことの証であると 言われていた。

「十分な数の警官がいなければ意味なし」

こうした改革の一方、犯罪対策についても、他の分野と同様、連立政権の支出削減の影響を懸念する声が聞かれている。昨年秋に発表された「2010年支出見直し」では、2014年度までに、警察 への支出が20%削減されることが明らかになっており、警察官の 人員削減の可能性が囁かれている。イベット・クーパー影の内務相は、オンライン犯罪マップの立ち上げを歓迎しつつも、「犯罪がどこで発生しているかが分かっても、それに対処する十分な数の警察官がいなければ意味がない」とコメントしていた。連立政権は今後、警察機構の改革も行う予定であるが、こうした現政府の方針がより安全な英国の実現へと向かうのか、その成果が注目される。

Police Community Support Officer(PCSO)

地域治安維持補助官。警察官の補助を役割とする。労働党政権が2002年にイングランド及びウェールズの警察組織に新たに導入したポジション。PCSOの役割は、反社会的行動に対する罰金支払通知の発行、パトロール、軽犯罪への対処、若者の犯罪防止、犯罪現場の監視、犯罪防止アドバイスの提供などである。犯罪容疑者の逮捕、犯罪捜査などの権限はない。PCSO の初任給は1万6000ポンド(約212万円)ほど(地域により異なる)。警察のウェブサイトによると、PCSOとして雇用されるには、コミュニケーション能力、強靭な脚力などが求められるという。

(猫山はるこ)

 

過激な英国のジョークに非難 - 矢面に立つコメディアンたち

矢面に立つコメディアンたち
過激な英国のジョークに非難

今年1月、BBCのクイズ番組「QI」で披露された被爆者に関わるジョークが、在英邦人の抗議の対象となる事件が起きた。在英日本大使館が邦人らの抗議を伝え、BBCは謝罪。一方では、英国の人気コメディアン、リッキー・ジャベイスの皮肉に満ちた発言が、米ゴールデン・グローブ賞受賞式でひんしゅくを買った。2つの事件の経緯と顛末を追った。

問題視されたジョークの中心人物


スティーブン・フライ 
Stephen Fry

生い立ち 1957年生まれ(53歳)
パブリック・スクールを卒業後、
ケンブリッジ大学で
コメディアン志望の仲間たちと出会う。
以降、コメディアン兼
コメディー作家として活躍
職業 俳優、作家、司会者、コメディアンなど
代表作 テレビ番組「A bit of Fry & Laurie」「Jeeves and Wooster」「Blackadder」ほか多数
問題となった
ジョーク
司会者として出演したBBCのクイズ番組「QI]で 日本の被爆者を「嘲笑した」として抗議を受ける
その後の対応 BBC及び番組制作会社が謝罪。BBCは該当動画を削除。フライの来日予定は取りやめに
リッキー・ジャベイス 
Ricky Gervais

生い立ち 1961年生まれ(49歳)
ユニバーシティー・カレッジ・
ロンドンで生物と哲学を専攻。
ポップ・バンドのボーカルとして
デビューする。
テレビ番組の制作業務などに携わった後に、
代表作となるコメディー番組「The Office」を作る
職業 俳優、コメディアン、脚本家、演出家など
代表作 テレビ番組「The Office」「 Extras 」 映画「Night at the Museum」ほか
問題となった
ジョーク
米ゴールデン・グローブ賞授賞式で司会を務め、 米俳優らを痛烈に皮肉る
その後の対応 米俳優らから批判を受けるも、本人は「だったら 俺を呼ぶな」と回答

「QI」における被爆者を題材にしたジョークの内容(抜粋)

スティーブン・
フライ
世界で一番不幸な男の何が幸福なんだと思う?(略)えーと、この人は見方によって、最も幸運だとも言えるんだ(略)。彼の名前はツトム・ヤマグチ。2010年に93歳で亡くなっている。ずいぶん長生きだったから、それほど不運だったとも言えないね(略)。
他の出演者 爆弾がその人の上に落ちて、跳ね飛んだとか(会場に笑い)。
スティーブン・
フライ
この人は原爆が爆発したときに商用で広島にいて、ひどい火傷を負ったんだ(略)。次の日、彼は汽車に乗った。ということは、驚いたことに、原爆が落ちた翌日なのに鉄道は動いていたわけだよ。なので彼は長崎へ汽車に乗って、そこでまた原爆が落ちたんだ(会場に笑い)。
スティーブン・
フライ
彼は称えられ、ある種の英雄のように扱われた。でも2度被爆した人としてようやく正式に認定されたのは、90年代になってからだった(略)。
他の出演者 要はあれだね、杯が半分空だと言うか半分入っていると言うかで。でもどちらにしても、放射能を浴びているわけだ。だから、飲んじゃダメだよ。(会場で笑い)
スティーブン・
フライ
でも僕が何に驚いたって、広島に原爆を落としたのに次の日には鉄道がもう動いていたっていうのが。だって、この国だったら……。(略)
他の出演者: 枯れ葉が何枚か落ちただけで、もう終わりだ(英国では列車遅延の理由として、落ち葉や「雪の種類が駄目」との構内アナウンスが流れることがある。これに引っ掛けたジョークが続く)。爆弾の種類が駄目なんですよ、爆弾の種類が駄目なんです(皆で大笑い)。
スティーブン・
フライ
(駅のアナウンスを真似して)明らかに、爆弾の種類が合っていましたから、大丈夫ですよ皆さん。心配しないで。爆弾の種類は合っていますから。

原爆をネタとしたジョークに抗議

英国のジョークが国境を越えて大きなひんしゅくを買う事件が、最近相次いでいる。まずBBCのお笑いクイズ番組「QI」。昨年末に放映されたこの番組の中で、司会役のスティーブン・フライが、広島と長崎で二重被爆した後に93歳で亡くなった日本人男性を「世界一運が悪い男」として紹介した。そして「93歳まで長生きしたなら、それほど不幸ではない」「原爆が落ちた次の日に列車が走っているなんて、英国では考えられない」などとゲストが発言すると、会場内に笑い声が上がったのである。

この映像に不快感を覚えた在英邦人らが大使館に連絡を取り、今年1月7日になって同館がBBCに抗議の意を示す書簡を送った。この抗議を受けて、BBCと番組制作会社は連名で謝罪声明を発表するに至っている。

ジャベイスのジョークには米映画界が反発

1月16日には、アカデミー賞の前哨戦とされている米ゴールデン・グローブ賞の授賞式で司会をした英コメディアン、リッキー・ジャベイスの発言も騒ぎを引き起こした。アルコール依存症で入院した経験を持つチャーリー・シーンや、麻薬不法所持で刑務所へ入所したことのあるロバート・ダウニー・ジュニアら米人気俳優の過去をネタとしたジョークへの反発を示す声が上がったのである。ダウニー・ジュニアは舞台上で、「すごく意地悪で、悪意のあるトーンだけど、それを除けば、授賞式は最高の雰囲気だよね」と皮肉を込めてやり返した。彼に限らず、ジャベイスが披露したジョークは度を越しているというのが、大部分の出席者が抱いた感想だったようだ。

後のトーク番組への出演時に、ジャベイスは「悪いことをしたとは全然思っていない」と述べている。ハリウッドでは「自分はよそ者」であり、スターを「酷評すること」こそ自分の役割だと言って、自身の行為を正当化している。

英国のジョークはきつ過ぎる?

英国のジョークは、他国の人にはきつ過ぎるのだろうか。この評価は、恐らく受け手によって異なるだろう。どんなジョークも、文化、歴史、価値観など、その社会を構成する複数の要因を共有することで、おかしみが生まれてくるものである。もしこうした要因を共有しない人が英国流のジョークに触れたとき、笑いよりも不快感を覚える場合があることは容易に想像できる。  

QIが被爆者の話題を取り上げた件は、被爆者自身を笑いの対象としていたのではないという点や、どんな内容のものでも風刺の対象とする英国的なジョークの原則から言って、英国人の視聴者には受け入れられるはずのものであった。一方で、原爆投下や被爆者体験をジョークの対象にされたくないという思いが強い多くの日本国民からすれば、とうてい我慢がならない内容であったこともまた確かである。  

笑い一つを取っても、自分自身の立ち位置、価値観、歴史観が色濃く表れる。言い代えれば、笑いを通じて自分を知る── そんな機会をBBCやジャベイスのジョークは、与えてくれたのかもしれない。

Jerry Springer: The Opera

米人気司会者ジェリー・スプリンガーによる、米国の視聴者参加型トーク・ショーを基にしたミュージカル。テレビ版は、不倫、離婚、人種差別といった問題を抱える登場者が悩みごとを話すことを主な内容とする低俗番組の代表格とされる。ミュージカルではオムツ姿のイエス・キリストが登場したりするなど、キリスト教を冒とくする要素が多々入っている。2005年にBBCがテレビ放映を予定に組むと、放送差し止めを求める5万件以上の苦情が殺到した。しかしBBCは放送を決行。その後キリスト教団体がBBCを神への冒とく行為を行ったとして訴えたが、07年に敗訴した。

(小林恭子)

 

スカイの司会者と解説者の失言で騒動 - サッカー界と性差別

スカイの司会者と解説者の失言で騒動
サッカー界と性差別の問題とは

サッカーは多くのスター選手が存在する華やかなスポーツであるが、これまでの歴史の中で、差別という暗い一面が存在していたことも事実である。先日、テレビのサッカー中継番組の司会者と解説者が女性副審判に対する差別的発言を行ったことは、そうした歴史を思い出させるものであり、「サッカーと性差別」についての議論を引き起こした。

「スカイ・スポーツ」のサッカー司会者、
解説者による性差別発言


リチャード・キーズ:
(司会者)
やれやれ、誰かグラウンドに降りて、あの女(副審判の シアン・マッシーさん)にオフサイドのルールを説明してやった方が良さそうだな。
アンディ・グレイ:
(解説者)
全くだ。信じられるかよ? 女の審判だってさ。(中略)あいつら多分、オフサイドのルールなんか知らないぞ
リチャード・キーズ: そりゃ知らないだろ。
アンディ・グレイ: なんで女の審判なんか存在するんだ?とんでもない間違いだぞ。
リチャード・キーズ: 今日は絶対、ひと騒動あるな。ケニー(・ダルグリッシュ。リバプールの監督)がキレるだろ。女の審判て、これが初めてじゃないよな。前にもいたろ?
アンディ・グレイ: いたな。
リチャード・キーズ: ウェンディ・トムズとかいったな
アンディ・グレイ: ウェンディ・トムズ、そんな名前だったな。あいつも役立たずだった。
リチャード・キーズ: (怒りを表現してうなり声を出す)
アンディ・グレイ: (聞き取り不可能)
リチャード・キーズ: いや、それはやらないと。良いことだって。サッカーはおかしくなっちまった。カレン・ブラディーが今朝、性差別だとか言って文句言ってたろ?(*)頼むよ、姉ちゃん。

(*)プレミア・リーグのチーム、ウェストハム・ユナイテッドの副会長である女性、カレン・ブラディーさんが、新聞のコラム で、サッカー界の性差別について触れていたことを指す。


性差別発言の対象となった、
シアン・マッシーさん
2011年1月22日、イングランド中部ウォルバーハンプトンのモリノー・スタジアムで行われたウォルバーハンプトン・ワンダラーズ対リバプールの試合中継時に2人の間で交わされた会話。この日は、シアン・マッシーさんという25歳の女性が副審判を務めていた。この会話は放送されなかったが、会話を録音したテープが、「メール・オン・サンデー」紙にリークされた。

アンディ・グレイ、リチャード・キーズ両氏の
プロフィール

アンディ・グレイ Andy Gray

スコットランド出身。55歳。1973年、ダンディー・ユナイテッドに加入。ポジションは フォワード。アストン・ビラ在籍中の76〜77年のシーズン中、PFA年間最優秀若手選手賞とPFA年間最優秀選手賞を同時受賞。その後、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ、エバートンなどでプレー。90年に引退。その後は、92年のプレミア・リーグ設立以降、今回の騒動で解雇されるまで、「スカイ・スポーツ」で同リーグの試合の解説を務めていた。

リチャード・キーズ Richard Keys

イングランド中部コベントリ—出身。53歳。80年代、民放テレビITVで情報番組、サッカー中継番組などの司会を担当。90年、同年に開局した英国衛星放送局(BSB)の「ザ・スポーツ・チャンネル」の番組に出演。91年、BSBとスカイ・テレビジョンの合併を機に「ザ・スポーツ・チャンネル」から改名した「スカイ・スポーツ」に移籍。グレイ氏と同様、92年のプレミア・リーグ設立以降一貫して、同リーグの試合の中継を担当していた。


「女にオフサイドは理解できない」

先月下旬、スポーツ専門チャンネル「スカイ・スポーツ」のサッカー中継番組司会者と解説者の2人が、プレミア・リーグの試合で副審判を務めた女性について性差別的発言を行ったことで、同局での仕事を失うという騒ぎがあった。司会者のリチャード・キーズ氏と、元サッカー選手の解説者、アンディ・グレイ氏は1月22日、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ対リバプールの試合中継を担当した際、副審判を務めていた女性について、「女にはオフサイドのルールなんか理解できない」などといった発言を行った。この発言は、放送中ではない時間に行われたものであったが、会話を録音したテープがマスコミにリークされた。更にその後、2人が今度は番組の共演者に対して性差別的言動を行っている映像が「ユーチューブ」に投稿され、「スカイ・スポーツ」はグレイ氏を解雇。キーズ氏も間もなく同局での仕事を辞任した。  

サッカー界においては、人種差別と同様に性差別も、長らく存在する問題である。今回と類似の事件は以前にも起きており、2006年には、ルートン・タウン(現在5部リーグ所属)の監督が、女性副審判の起用について、「形だけの平等主義」であるなどと発言、サッカー協会(FA)から罰金を科された。

また現在、イングランドでプロのサッカー試合の審判を務めている女性は、今回の発言の対象になった女性を含め、わずか3人しかいない。今回の騒動を受け、ウェストハム・ユナイテッドの副会長であるカレン・ブラディー氏は、「サッカー業界における女性の役割に関しては、依然として旧態依然とした見方が残っている」と発言している。

昔に比べると性差別は改善の傾向

しかしそれでも、昔に比べると、サッカー界における性差別はかなり改善されてきていると言われている。例えば現在、プレミア・リーグに所属する20のサッカー・チームのうち、ほぼすべてのチームに女性の幹部職員がいる。FAやプレミア・リーグ、フットボール・リーグなどの上層部のポジションにも、女性が就任している。また、新聞やテレビのサッカー報道でも女性キャスターや女性記者が数多く活躍しているのは、ご存知の通りである。

そして何より、今回の発言に対するサッカー界やメディア、世間 の反応が、グレイ、キーズ両氏への反発の声でほぼ占められてい たことが、サッカー界に女性が受け入れられてきていることの証である、との声も聞かれる。イングランド代表主将のリオ・ファーディナンド選手は、両氏の発言を、「先史時代的(prehistoric)」であるとして批判した。また、リバプールのケニー・ダルグリッシュ監督は、「仕事ができれば性別は関係ない」として、両氏に嘲笑された女性副審判を擁護した。

「差別解消に向けた前進の機会」

サッカーにおける差別反対を唱えるキャンペーン団体などからは、今回の件について、サッカー界の差別解消に向けた更なる前進の機会を提供する出来事である、との声も上がっている。多くの人を不快にさせた今回の騒動であるが、すべての人が性別に関係なく平等に扱われるサッカー界の実現に貢献することが期待される。

Premier League、The Football League

プレミア・リーグは、イングランドのサッカー・リーグ・システムのトップに位置するリーグ。同リーグに所属する20のサッカー・チームを株主とする法人であり、日常の業務は、理事長を含む理事会、及びフルタイムの職員が行う。フットボール・リーグは、その下位に位置し、「チャンピオンシップ」「リーグ1」「リーグ2」の3つに分かれる。フットボール・リーグの理事会メンバーには、「リーグ1」のチームの一つである「トレンメア・ローヴァーズ」のディレクターである女性が含まれている。ウェブサイトはwww.premierleague.comwww.football-league.co.uk

(猫山はるこ)

 

英国の社会保障制度とその変革 - 元気な高齢者と定年制度廃止

元気な高齢者と定年制度廃止
英国の社会保障制度とその変革

英政府は、年齢に関わらず働ける「エイジ・フリー社会」を目指し、今般「法定定年年齢(DRA)」の廃止に踏み切った。ただ真の目的は、膨張し続ける社会保障財政に歯止めを掛けることである。英政府は、急速な高齢化に対応し得る、次世代の社会保障制度を再構築することができるのだろうか。

英国の年齢別人口比率

英国の年齢別人口比率

英国の失業率(年齢別)

英国の失業率(年齢別)

参考資料: Office for National Statistics

主要諸国の年齢差別禁止法への取り組み

EU 2000年
雇用社会問題相理事会で「雇用及び職業における均等待遇の一般枠組みを設定する指令」を採択。
● 加盟国に宗教及び信条、障害、年齢、性的志向による差別を禁止 する国内法の整備を義務付け
● 期限は2003年12月 (ただし、必要であれば「年齢」と「障害」に関する法整備は3年の期限延長が可能)
英国 2006年 「雇用均等(年齢)規則」を施行
フランス 2001年 「差別防止に関する法」により、労働法典における差別禁止事由に年齢などを追加
ドイツ 2006年 「一般均等待遇法」が成立し、年齢を含む幅広い事由による差別を包括的に禁止
ベルギー 2003年 「年齢差別禁止法」を制定
アイルランド 1998年 「雇用均等法」で年齢差別を含む幅広い雇用差別を禁止
フィンランド 2000年 憲法改正で年齢差別を禁止。翌年「雇用契約法」を改正し、続いて04年に「差別禁止法」を改正しEU指令に対応
オランダ 2003年 「雇用における均等待遇(年齢差別)法」 が成立
イタリア 2003年 政令でEU指令に対応
       
  米国 1967年 「雇用における年齢差別禁止法」が成立
  カナダ 1970年代 すべての州で年齢差別禁止法を立法化
  オーストラリア 1990年代 南オーストラリア州で初めて年齢差別禁止 法制を立法化。以降、すべての州で年齢差別を禁止

参考資料: みずほリサーチ


定年制度廃止とエイジ・フリー社会

1月13日、英政府は、現在65歳に設定されている民間企業の定年制を廃止する旨を発表した。4月から段階的に移行期間を設け、10月までには「法定定年年齢(DRA)」を完全廃止するという。これにより、英国では、原則として誰でも「生涯現役」を全うすることが可能になる。

英国内の65歳超の労働者が82万人を超えたことなどを踏まえ、英政府は「元気な高齢者」の雇用保護的な要素を含む「エイジ・フリー社会」を促進するとしている。DRA廃止は、労働者に対して引退時期に関する選択の自由を与え、更には高齢者の健康維持や収入源の確保及び技能労働者の不足緩和をもたらすなど、社会的な有益性も期待できるとしている。また、現行の公的年金支給開始年齢(男性65歳、女性60歳)に達した高齢者は、働きながら年金を受け取ることも可能であり、且つ、給付開始年齢の延期や一括受け取りを選択することもできる。但し、2020年までに年金支給開始年齢が66歳に引き上げられることも決定している(2050年には68歳までとなる予定)。

元気な高齢者は新規雇用創出に貢献?

一方、DRA廃止により、民間企業の雇用主は原則として従業員を、年齢(65歳)を理由に解雇することができなくなることから、労働者の高齢化による生産性の低下や、新規雇用創出の妨げになる可能性など、雇用の悪循環を懸念する声もある。2010年の時点で、英国では16歳から24歳までの失業率が5割以上を占めるなど、特に若年層の失業率が深刻化している。

これに対し英政府は、これまで実施してきた若年層の雇用機会改善に向けた高齢者の早期引退促進は、労働市場における高齢者の価値低下や高度な技術・技能の喪失など、社会的損失をもたらしたとする研究結果もあるとの見解を発表。高度技術や生産性の維持、また技能やノウハウの継承の観点からも、元気な高齢就労者は雇用戦略の不可欠な構成要素であり、雇用創出循環を潤す可能性なども期待されるとの見方を示している。

社会保障制度のほころびとその補正

年齢差別が原因とみられる経済的損失は、年間310億ポンド(約4兆円)に上るとする報告もあることから、英政府は、1999年「雇用における多様な年齢層に関する行動規範」や2006年「年齢差別禁止法」など、これまでにも「エイジ・フリー化」に向けた政策を実施してきた。これらの政策は、行き詰まった社会保障制度の方向転換を試みる対策でもあることを看過すべきではない。  

高齢者の失業率増加は、社会保険費や社会福祉費を増大させ、社会保障財政の悪化に拍車を掛ける。英国は、2034年には65歳以上の高齢者が人口の2割以上を占めるとされ、また、2001年には年金受給者1人につき3.32人で支えていた労働者数が、2060年には2.44人にまで減少するとの研究結果もある。「From the cradle to the grave(揺りかごから墓場まで)」との掛け声の下、近代社会保障制度の先駆けとなる制度を構築した英政府が、高齢化に伴う制度のほころびをどう是正し、且ついかに強化していくのか、その力量が試される。

From the cradle to the grave

第二次大戦後、英労働党が掲げた社会福祉制度のスローガン。「From womb to tomb (子宮から墓場まで)」とも言われる。社会保障を充実させることを目的とした「生まれてから死ぬまで国民の面倒を見る」という社会福祉国家の構想。60年代、主要諸国の社会福祉政策の指針となり、財政・金融政策に基づく完全雇用を目指す「大きな政府」が主流となるが、失業率・医療費の増加、人口の高齢化などにより、社会保障費が国家歳出に占める割合が膨張。その後、歳出と課税、政府介入などを極力抑えた「小さな政府」への転向を試みる政策が見られるようになった。

(吉田智賀子)

 

下院補欠選挙で労働党が勝利 -連立政権に「判定下す」初の機会

連立政権に「判定下す」初の機会
下院補欠選挙で労働党が勝利

昨年の連立政権誕生から約8カ月後となる今月中旬、イングランド北西部で下院議員の補欠選挙が実施された。補欠選挙は、実施される度にそれなりの注目を集めるのが常であるが、今回は特に連立政権発足後、初の補選であったため、大きな関心が寄せられていた。

オールダム・イースト・アンド・サドルワース選挙区の
補欠選挙の背景

2010年5月6日に行われた総選挙で、イングランド北西部グレーター・マンチェスター内の選挙区「オールダム・イースト・アンド・サドルワース」は、労働党のフィル・ウーラス候補を再選した。ウーラス氏は、ブラウン政権で移民担当閣外大臣を務めていた。次点の自由民主党のエルウィン・ワトキンス候補とはわずか103票差という僅差の勝利だった。

ワトキンス氏は、選挙後、ウーラス氏が、選挙運動で使用したリーフレットなどで、自身に関する虚偽の記述を行ったとして、選挙結果の無効を求める訴えを起こした。裁判の審理では、落選を恐れたウーラス氏が、リーフレットで、ワトキンス氏が過激派イスラム教徒と結託して得票を画策しているなどと主張し、白人住民の支持獲得を図っていたことが明らかにされた。本件の審理のため特別に開かれた選挙裁判所は昨年11月、ワトキンス氏の主張を支持する判決を下し、選挙結果は無効とされた。同時に、ウーラス氏は、今後3年間の議員活動を禁じられた。ウーラス氏は、司法審査(judicial review)の制度を利用し、判決を覆そうと試みたが、成功しなかった。

オールダム・イースト・アンド・サドルワース
(Oldham East and Saddleworth)の下院議員選挙結果

2011年補欠選挙と2010年総選挙の比較

2011年1月13日実施の補欠選挙の結果

2010年5月6日実施の総選挙の結果


自民党が第三党に転落との予測も

今月13日、イングランド北西部の選挙区である「オールダム・イースト・アンド・サドルワース」で、下院議員の補欠選挙が実施された。昨年5月の総選挙における同選挙区での結果が、裁判所によって無効と判断されたことを受けたものである。  

今回の補選は、昨年の総選挙以降、英国で実施された初の選挙であった(*)ただし地方議会の補欠選挙を除く。そのため、大規模な公共支出削減策を打ち出している連立政権に対し、有権者が「判定を下す」初めての機会であるとして、大きな注目を集めていた。特に、保守党の呼び掛けに応じて連立政権に参加した自由民主党は、連立発足以降、大学授業料値上げなど、選挙前の同党の方針に逆らう政策に合意し、実現させていることから、「裏切り者」とのレッテルを貼られ、支持率が急落している。こうした背景から、同党は今回の補選で、次点に終わった総選挙時から大きく票を減らし、第三党に終わるのではないかとも予測されていた。

「政府への反発票」集め、労働党が圧勝

投票の結果は、労働党のデビー・エイブラハム候補が、次点の自由民主党との差を、前回の103票から3500票以上にまで伸ばし、圧倒的勝利を収めた。自由民主党のヒューズ副党首は、労働党の得票数拡大の理由を、連立政権への反発票が集まったためであるとコメントした。労働党のエド・ミリバンド党首は、昨年9月の党首就任以降、独自の政策を打ち出せず、「精彩に欠けるリーダー」との専らの評判であるが、今回の結果は、同党首にとって願ってもない威信回復のチャンスとなった。  

自由民主党は、第三党に転落しなかったのみならず、わずかながら得票率を伸ばした。大敗を逃れたことは、同党に大きな安堵をもたらしたと言われており、ニック・クレッグ自由民主党党首は、「力強い結果である」とコメントしていた。

保守党中央部に「自民支援」の疑惑

最も大きな痛手をこうむったのは保守党であり、総選挙時より7000票以上も減らした。保守党については、今回の選挙期間中、党中央部が、連立のパートナーである自由民主党を助けるため、意図的に保守党候補を強力にバックアップすることを避けたと言われている。保守党幹部はこれを否定しているが、自民党が大敗を逃れ、保守党がその犠牲となったかのような選挙の結果は、「連立維持のため、保守党は自民党に妥協し過ぎである」と感じる保守党右派に、更に強い不満の種を与えることになった。  

大きな話題となった今回の補欠選挙であるが、実は、同選挙区は長らく労働党の地盤となっており、自民、保守が敗北したことは、全く不思議ではなかった。それよりも、連立政権に対する有権者の判断がより明確に示されると思われるのは、今年5月に行われるイングランドの地方選挙である。同地方選の投票日には、自民党が連立参加の条件とした下院の投票方法の変更に関する住民投票も同時に実施される。自民党が推す「代替投票制度(AV)」が否決されれば、連立政権は存続の危機に直面することにもなりかねない。今年の英政界は、波乱含みとなりそうな気配である。

By-election

補欠選挙。議員が死亡、辞職するなどして欠員になった場合、当該議員の選挙区で実施される。英国において、補欠選挙は、地方選挙と同様、有権者が時の政府への不満を表明する機会となることが多く、与党が勝利することはまれ。最後に与党が下院議員の補欠選挙で勝利したのは、保守党のアンジェラ・ラムボールド候補がロンドン南部の選挙区で議席を獲得した1982年6月の選挙である。今回、オールダム・イースト・アンド・サドルワースで実施された選挙は、昨年の総選挙後、初の下院議員の補欠選挙であるが、地方議会の補選は毎週のように英国内のどこかの地域で実施されている。

(猫山はるこ)

 

内部告発サイト「ウィキリークス」とは?

機密情報を世界中に発信する
内部告発サイト「ウィキリークス」とは?

昨年来、内部告発サイト「ウィキリークス」の動向が大きな注目を浴びている。サイトの創始者ジュリアン・アサンジ氏を報道の自由の守り手として賞賛する声が上がる一方で、国家機密を暴露する危険な存在と敵視する見方もある。

創設者ジュリアン・アサンジの横顔
ジュリアン・アサンジ
Lennart Preiss/AP/
Press Association Images

1971年、豪クイーンズランド州生まれ。39歳。内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、ジャーナリスト、インターネット活動家。スウェーデンで起きた性犯罪容疑(本人は否定)で、昨年末にロンドンで逮捕される。保釈後は、ロンドンの支援家宅に居住中。幼少時に両親が離婚し、国内を点々とする生活が続いた。16歳で「メンダックス」という別名を持つコンピューター・ハッカーに。92年、カナダの電話会社などへのハッキングで有罪となり、その後はプログラマーやフリーウェア開発者としてデータ暗号化、検索エンジンの開発に関わる。内縁の妻(現在は別れている)との間に息子が一人。メルボルン大学で物理学や数学などを学ぶ。2006年にウィキリークスを創設。昨年に米政府・軍関連の機密情報を大量に公開したことから、世界中の注目の的となる。「変わり者」と言われ、特定の居住場所を持たず、昼夜関係なくコンピューターを使って活動する。

ウィキリークス事件の経緯

2006年末   ジュリアン・アサンジ氏が内部告発サイト「ウィキリークス」の創設準備を始める
2007年   同サイトの運営が正式に始まる
2010年 4月 イラクにて米軍へリコプター機内から撮影された、カメラマンや民間人ヘの攻撃映像を公表
6月 ウィキリークスへ情報を提供したとされる米陸軍情報分析官ブラッドリー・マニング上等兵が、情報漏えい関連の疑いで逮捕される
7月上旬 米政府がマニング兵を機密情報不正入手の罪で訴追
7月25日 アフガニスタン駐留米軍の文書約9万点をサイト上で公開
8月 アサンジ氏が、スウェーデン滞在中にある女性2人と出会う。スウェーデン当局がアサンジ氏に対して、この女性たちに対する強姦などの容疑で逮捕状を出す。後にこの訴えは取り下げられる
10月23日 イラク戦争に関わる駐留米軍の極秘文書40万点以上を公開
11月18日 スウェーデン当局が、アサンジ氏に対し再び性犯罪容疑で逮捕状を出す
11月28日 米国の外交公電の公開を開始
11月30日 国際刑事警察機構がアサンジ氏を性犯罪容疑で国際手配
12月1日 通販サイトの米アマゾンが、ウィキリークスへのサーバー貸し出しを停止
12月2日 スウェーデン最高裁が、逮捕状撤回を求めたアサンジ氏の異議申し立てを拒否
12月4日 米ペイパルがウィキリークスへの寄付金の送金業務を停止
12月6日 スイス郵政公社が、アサンジ氏名義の口座を閉鎖
12月7日 英国にいたアサンジ氏が警察に出頭し、性犯罪容疑で逮捕される。クレジット・カード大手の米ビザがウィキリークスとの取引を停止
12月8日 スウェーデン検察庁、スイス郵政公社、マスターカード、ペイパル、ビザなどのサイトが何者かにハッカー攻撃を受けていることが発覚
12月16日 アサンジ氏が保釈される
12月19日 米バンク・オブ・アメリカがウィキリークスとの取引停止を宣言
12月22日 米アップルが、iPhone用のウィキリークス閲読アプリの販売を停止
2011年 1月11日 スウェーデンへの身柄引き渡しを巡る審理を開始

資料: BBC、ガーディアンほか

「メガリーク」で注目集める

匿名で政府や企業などの機密情報を公開するサイト、ウィキリークスが頻繁に話題に上っている。これまでに9・11米大規模テロの際に送受信されたポケット・ベルのメッセージ約57万件、ケニアの元大統領による巨大汚職の実態、イースト・アングリア大学の研究者の気候変動に関する電子メールなどを公表してきた。昨年4月には、イラクにて米軍のヘリコプターがロイター通信のカメラマンや民間人を攻撃する映像を公開。続いてアフガニスタン駐留米軍に関わる機密文書を9万点以上、イラク戦争に関する米軍の機密文書を約40万点、そして昨年11月末からは25万点に上る米国の外交公電の公開を開始。こうした大量の情報公開は「メガリーク」と呼ばれ、米「ニューヨーク・タイムズ」紙や英「ガーディアン」紙など世界の大手報道機関と公開時期を合わせ、大々的に報道された。

外交公電には安全保障上の機密情報が含まれており、米政府高官らは「米国及び諸外国の外交利益に大きな影響を及ぼす」と非難。米政治家の一部では、「アサンジ氏はテロリストであるから殺害されるべき」とする声も出た。一方、多くのジャーナリズム団体が、ウィキリークスの活動を報道の自由の範囲内として擁護している。

ウィキリークスへの包囲網

その後、ウィキリークスや同創設者のジュリアン・アサンジ氏に対し、その活動を阻むような動きが発生した。サーバーを提供してきた米通販サイトのアマゾン、ネット決済の米ペイパル、米クレジット・カード大手ビザやマスターカードが、それぞれウィキリークスとの取引を停止したのである。また、アサンジ氏に対する性犯罪容疑の逮捕状が出され、国際刑事警察機構がアサンジ氏を国際手配するまでの大事に発展した。英国に滞在中だったアサンジ氏は、12月上旬、自ら英警察に出頭し、逮捕となった。

ところが同氏逮捕の翌日から、ビザ、ペイパル、アマゾンなどのサイトがサイバー攻撃に遭う。こうした攻撃をする人々は、「アナニマス(匿名)」と呼ばれ、ウィキリークスの活動を妨害する米企業への反撃活動を独自に行っている。またスウェーデン当局は同国へのアサンジ氏の移送を要求しているが、同氏側はこれに抵抗している模様。同国から米国への移送を恐れていると言われている。

内部告発は悪なのか

一方、ウィキリークスへの機密情報漏えいの疑いで逮捕されたブラッドレー・マニング米上等兵は、軍法会議にかけられる予定だ。有罪となった場合には、計50年余の禁固刑となるという。

1970年代には、米国の極秘資料「ペンタゴン文書」(関連キーワード参照)を、ベトナム戦争の早期終結を願った調査員が米報道機関にリークした。同員はスパイ法を含む様々な重罪違反とされたが、最終的には最高裁の判決で起訴内容はすべて取り下げられた。

ウィキリークスの評価は、その人の「立ち位置」によって評価が変わる。為政者や組織の側からすれば、機密を漏らす内部告発サイトは好ましくないものだ。一方、同サイトを通じて国民がその情報の機密性を含めた是非を判断できるとすれば、民主主義社会に貢献する動きでもある。好むと好まざるに関わらず、私たちはウィキリークスのようなサイトが存在する時代に生きている。

Pentagon Papers

「ペンタゴン文書」。ロバート・マクナマラ米国防相の指示の下で作成された極秘報告書「ベトナムにおける政策決定の歴史1945‐68年」を指す。全7000ページ、47巻構成。同報告書の内容は、シンクタンクの調査員ダニエル・エルズバーグによって米「ニューヨーク・タイムズ」 紙にリークされた。米政府がベトナム戦争を故意に長期化させたことなどを暴露し、後に米国軍がベトナムからの撤退を余儀なくされる一因 になったと言われている。政府は報道差し止め令を裁判所に出させたが、審理の結果、この差し止め令は解除された。

(小林恭子)

 

イギリス連立政権の移民政策について

労働ビザの上限設定など改革進む
連立政権の移民政策について

英国において、「移民」は常に人々の大きな関心事である。英国に多様な文化、技術・知識をもたらすとの利点が語られる一方、「公共サービスへの負担となる」「英国人の職を奪う」など、移民に対する批判的な論調も存在する。今回は、連立政権が昨年から進めている移民制限策について取り上げる。

英国への移民流入数の変遷

英国への移民流入数の変遷

近年のカテゴリー別ビザ発給数

  2007年 2008年 2009年
1階層(Tier1)高度技能労働者
本人 10,055 15,515 18,780
配偶者・子供 6,285 8,200 15,010
2階層(Tier2)
英国内の雇用主から仕事のオファーを受けている技能労働者
本人 68,355 59,115 36,490
配偶者・子供 30,150 22,055 26,985

4階層(Tier4)学生
本人 229,415 250,950 311,135
配偶者・子供 19,295 24,200 30,170

Source: Home Affairs Committee

「移民流入数を年間数万人に削減」と公約

現在、自由民主党と共に連立政権を組んでいる保守党は、伝統的に移民制限に積極的な政党であり、野党時代は、労働党政権の移民政策を「リベラル過ぎる」として批判していた。同党は、昨年5月の総選挙マニフェストでも、移民の流入数を、「現在の年間数十万人規模から年間数万人程度に減らす」ことを公約として掲げ、これが、多くの得票につながったと言われている。総選挙後に発表された連立政権の政策プログラム文書には、公約を実行すべく、「欧州経済領域(EEA)の加盟国以外の国から来る移民の数に上限 を設ける」との方針が示されていた。

労働ビザは年間2万件強で上限

この方針に沿って、政府は早くも昨年11月下旬、前労働党政権が導入した移民規制制度である「ポイント制度」における「1階層(Tier 1)」及び「2階層(Tier 2)」の労働ビザ発給数を、2011年4月より、年間計2万1700件に制限することを明らかにした。内訳は、「1階層」が年間1000人、「2階層」が同2万700人である。「1階層」については、今年4月から対象者が厳しく制限され、ビザ発給数が従来より大幅に減ることになる(「関連キーワード」参照)。

ただし、産業界の要請に応え、複数の国に事業所を置く企業が、他国から英国へ従業員を派遣する場合の労働ビザ発給は、上限の対象外とされた(ただし、英国での勤務が1年以上の場合は、年間報酬4万ポンド(約520万円)を超えることがビザ発給の条件となっている)。なお、2009年における「1階層」及び「2階層」の労働ビザ発給数は、計5万5000件であった(ただしこの数字は、同企業内での他国から英国への従業員派遣のために発給された労働ビザを含む)。

学生ビザの厳格化にも着手

テリーザ・メイ内相は、下院で労働ビザ発給数の上限を明らかにした際、移民制限の取り組みは、労働ビザのみならず、学生ビザ及び家族ビザの制限によっても実施すると述べた。その言葉を裏付けるように、内務省は早速昨年12月上旬、学生ビザの発給条件厳格化に向けて、一般市民などを対象に意見集約作業を行うための協議文書を発表した。同文書に盛り込まれている政府の提案には、「学位レベル以下のコースを提供する学校で、海外からの成人学生を受け入れることができる学校は、『信頼度の高い学生ビザ・スポンサー(Highly Trusted Sponsors)』として国から認定された学校のみとする」「学生ビザ取得に必要な英語力の能力要件を引き上げる」「外国人学生の英国内での就労の権利を更に限定する」などが含まれている。意見集約作業は今年1月末まで続けられる予定である。

近年の統計を見ると、実は労働ビザ発行数は年々減少しているが、学生ビザの発給数は大幅に増えていることが分かる。デミアン・グリーン移民担当相は、同協議文書の発表に当たり、学業ではなく就労を目的とした「偽学生」の入国を阻止する必要性を強調していた。英国在住の多くの日本人にとって大きな関心事であると思われるビザ制度。今年も連立政権によるハイペースな改革の実施が予測され、まさに目が離せない状況である。

Points-based immigration system

欧州経済領域(EEA)の加盟国以外から来る移民の規制システム。前労働党政権が導入。移民 を「Tier 1 高度技能労働者」「Tier 4 学生」などの5つのカテゴリーに分け、年齢、過去の収入、学歴などに応じて各カテゴリーに必要なポイント数を獲得できればビザを取得できる。政府は昨年、これまでの「Tier 1 」の制度では、十分に高度な技能を持つ労働者が獲得できなかったとして、来年4月より、「Tier 1」のビザ発給者を、起業家、投資家及び「非凡な才能を持った人」にのみ制限するとの方針を明らかにしている。

(猫山はるこ)

 

2018年サッカーW杯招致と言論の自由 -サッカーの母国イングランド落選

サッカーの母国イングランド落選
2018年サッカーW杯招致と言論の自由

サッカーの母国イングランドが、2018年ワールド・カップ(W杯)開催地投票でまさかの落選をした。予想外の結果に戸惑うイングランドの関係者の間では、英メディアによるFIFA不正疑惑報道のタイミングとあり方を疑問視する声が上がっている。

イングランド18年W杯招致投票落選まで

2007年 10月 イングランド・サッカー協会(FA)が2018年と22年に実施のFIFAサッカーW杯開催国に立候補する旨決定。
2009年 1月 招致ブックを正式にFIFAに提出。
3月 イングランド・プレミア・リーグのデイブ・リチャーズ会長がイングランドW杯招致委員会副会長に任命される。
5月 W杯招致活動開始イベントがウェンブリー・スタジアムで開催され、ゴードン・ブラウン前首相、デービッド・ベッカム選手、ウェイン・ルーニー選手らが出席。
10月 イングランド招致委員会からFIFA理事会へブランド・バッグが贈与されていたことが発覚。
11月 ジャック・ワーナーFIFA副会長がブランド・バッグをイングランドW杯招致委員会に返却。プレミア・リーグのリチャーズ会長がイングランドW杯招致委員会副会長を辞任。
2010年 5月 「メール・オン・サンデー」紙が、イングランドW杯招致委員会委員長兼FA会長のデービッド・ トリーズマン卿の元愛人メリッサ・ジェイコブスが秘密裏に録音した同卿のFIFA不正疑惑に関する音声テープを公開。トリーズマン卿は両職を辞任。また、同報道に対する抗議として、イングランドW杯招致親善大使で元Jリーグ選手のギャリー・リネカー氏が同紙へのコラム掲載を打ち切り。ベッカム選手が約1700ページにわたる招致ブックをFIFAのブラッター会長に提出。
10月 イングランドW杯招致委員会が、2022年本大会の招致を断念。「サンデー・タイムズ」紙がおとり取材を実施し、米国招致団を装い米国への投票を持ちかけた同紙の記者に対して、投票の見返りとしてオセアニア・サッカー連盟レイナルド・テマリィ会長が150万ポンド(約2億円)、西アフリカ・サッカー連盟アモス・アダム会長が50万ポンド(約6600万円)の賄賂を求める映像を公開。両者は理事職務の暫定的な停止処分を受ける。
11月 BBCは調査報道番組「Panorama: Fifa's Dirty Secrets」で、南米サッカー連盟ニコラス・レオス会長、ブラジル・サッカー連盟リカルド・テイシェイラ会長、及びアフリカ諸国代表イサ・ハヤトゥーFIFA副会長らFIFA理事3人が、1989年から10年間にわたり175回に分けて、国際スポーツ・マーケティング会社ISL(2001年倒産)から総額1億ドル(約83億円)の賄賂を受けていたと同時に、北中米カリブ海サッカー連盟ジャック・ワーナー会長が2006年独大会と10年南ア大会の入場券をダフ屋に横流しして多額の利益を取得していたと報道。
12月 18年W杯招致投票でイングランドの落選が決定。

FIFAサッカーW杯開催国

FIFAサッカーW杯開催国

1930年 ウルグアイ
1934年 イタリア
1938年 フランス
1942年
第二次大戦勃発のため中止
1948年 第二次大戦勃発のため中止
1950年 ブラジル
1954年 スイス
1958年 スウェーデン
1962年 チリ
1966年 イングランド
1970年 メキシコ
1974年 ドイツ(旧西ドイツ)
 
1978年 アルゼンチン
1982年 スペイン
1986年 メキシコ
1990年 イタリア
1994年 米国
1998年 フランス
2002年 日本・韓国
2006年 ドイツ
2010年 南アフリカ
2014年 ブラジル
2018年 ロシア
2022年 カタール

予想外だったイングランドの惨敗

2018年FIFAサッカーW杯開催地投票で落選が決まった瞬間、イングランド元代表主将デービッド・ベッカム選手ら同W杯招致委員会のメンバーは、この予想外の惨敗に目を伏せるしか術がなかった。1966年以来2度目の開催を目指していたサッカーの母国イングランドの獲得票はわずか2票で、開催地の座はロシアに奪われた。  

婚約発表で世界を沸かせたウィリアム王子を最終プレゼンに登板させるなど、イングランドW杯招致委員会のメンバーは万全の態勢で投票に臨んだとみられていた。また同地はW杯開催に必要な大型スタジアムや宿泊施設、交通手段や治安面などを含めた、サッカーの試合を行う上での環境面で高い評価を得ており、18年W杯開催候補地として有力視されていた。

英紙のオウン・ゴール?

今回の「まさか」の落選は、英メディアによるFIFA理事会の不正疑惑報道が影響した可能性が高いとの指摘がある。つまり、味方にすべきFIFAの理事を敵に回してしまったことから、イングランドが自ら招いた「オウン・ゴール」だったとする見解である。

まず本年5月、「メール・オン・サンデー」紙が、「南ア大会でロシアが審判の買収に協力することと引き換えに、スペインは18年W杯招致の立候補を取り下げるかもしれない」と、FIFAの不正事実を認めるような発言をFA会長兼イングランドW杯招致委員長のトリーズマン卿が行ったと報じた。続いて10月、「サンデー・タイムズ」紙が、おとり取材中に票確約の合意とその見返りとして高額な賄賂を求めるFIFAの理事2人とのやり取りを撮影した映像を公開。更には、W杯開催地の選考投票を間近に控えた11月、BBCが、1989年から99年の間、FIFAの理事3人が関連企業ISLから計1億ドル(約83億円)の賄賂を受け取っていたとし、また、親英とされていたジャック・ワーナーFIFA副会長が、W杯の入場券を不法に転売し大金を取得していたとも報じた。イングランドの招致活動には同副会長の後押しが不可欠とみられていたことから、イングランドW杯招致委員会は同報道のタイミングと意図に首を捻り、「BBCは愛国心を欠く」と非難した。

W杯開催地か言論の自由か

「W杯未開催の国を選ぶという方針」に基づき決定したとされるロシア(18年)とカタール(22年)だが、事前に発表された報告書では、気候や設備施設、及び治安情勢などからサッカーの試合を行う環境面で「リスクが高い」と酷評を受けていた。また、今般の招致活動に費やした金額は、英国が1500万ポンド(約20億円)、ロシアが2500万ポンド(約33億円)、カタールが1億ポンド(約130億円)とも推定されており、FIFA理事会の投票は天然ガスと石油といった資源マネーに買収されたとの見方もある。

もし今般の投票結果が英メディアによるFIFA批判のツケであったとしたら、言論の自由の尊重と引き換えにイングランドが払った代償は大きかったとも言える。FIFA内部の腐敗体質とスポーツ精神に反した不正行為を世界に知らしめた英メディアを賞賛する声もあるが、今般の報道が真の評価を受けるのは、FIFAにフェア・プレーの精神が根付いてからになるのかもしれない。

FIFA

国際サッカー連盟。1904年5月、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、フランス、ベルギーの8カ国で創立。現在208の国と地域が加盟。本部はスイスのチューリッヒ。理事会は、会長1名、欧州8名、アジア・アフリカ各4名、北中米・南米各3名、オセアニア1名の計24名から構成され、各々1票ずつ投票権を持つ。FIFA傘下の大陸連盟は、アジア・サッカー連盟(AFC)、アフリカ・サッカー連盟(CAF)、欧州サッカー連盟(UEFA)、オセアニア・サッカー連盟(OFC)、北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)、南米サッカー連盟(CONMEBOL)の6つ。

(吉田智賀子)

 

ウィリアム王子結婚の経済効果

調査機関は最高800億円と試算
ウィリアム王子結婚の経済効果

先月中旬に発表されたウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんの婚約は、不況の影響で陰鬱なムードが続く英国に珍しく明るい話題を提供してくれた。さらに、未来の国王、王妃となる若きカップルの婚約・結婚は、停滞する英経済に、消費拡大の機会をもたらしてくれそうである。

ウィリアム王子&ケイト・ミドルトン

ウィリアム王子、ケイト・ミドルトンさんの
婚約・結婚関連商品の一例

  • ロイヤル・クラウン・ダービー社の熊の置物
    2人の婚約を記念して老舗の高級陶磁器メーカー、ロイヤル・クラウン・ダービー社が近く発売する花嫁、花婿の衣装をまとったペアの熊の形の置物。175ポンド(約2万2000円)
  • エインズレー・チャイナ社の婚約記念陶器コレクション
    イングランド中部スタッフォードシャー州に拠点を置く老舗の高級陶器メーカー、エインズレー・チャイナ社が近く発売予定。皿、カップなど。
  • 婚約記念硬貨
    王立造幣局が記念の5ポンド硬貨を発行予定。
  • 結婚記念オイスターカード
    ロンドン交通局が発行予定。
  • 婚約記念マグカップ
    大手スーパー「アスダ」の写真関連商品等販売サイト(www.asda-photo.co.uk)が婚約発表の翌日に発売開始。5ポンド(約650円)。
  • ケイト・ミドルトンさんのドレスのレプリカ版
    ミドルトンさんが婚約発表の席で着用していたドレスのレプリカ版を大手スーパーマーケット「テスコ」のオンライン・ストア(tesco.com)が販売。16ポンド(約2080円)。ちなみに、実際にミドルトンさんが着ていたドレスは、「イッサ・ロンドン(Issa London)」というブランドの349ポンド(約4万5000円)の商品。
  • ケイト・ミドルトンさんの婚約指輪のレプリカ版
    同じくtesco.comが販売。ウィリアム王子からミドルトンさんに贈られた、故ダイアナ元妃の形見である婚約指輪のレプリカ。99.99ポンド(約1万3000円)。

数字で見る英王室の人気

5億ポンド
(約650億円)
2009年に王室関連の観光名所を訪問した海外からの観光客による英国での 支出の総額(*)
60万人 1981年にチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式が行われた際、祝賀パレ ードを見るため通りに集まった見物客の数
7億5000万人 1981年のチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式の模様をテレビで鑑賞した 全世界における人数の合計
41万人 2010年夏のバッキンガム宮殿の一般公開期間中に記録された入場者数総数 (過去最高)(**)

(*)VisitBritainより (**)Visit Londonより


レプリカのドレスは1時間で品切れ

小規模企業の代表団体である「小規模企業連盟」は先月下旬、ウィリアム王子(28)とケイト・ミドルトンさん(28)の結婚式が行われる来年の4月29日が祝日に指定されたことによって、英経済が50億ポンド(約6500億円)もの損失を被る可能性が生じたと警告した。同日が休日になったため、イースターの祝日なども合わせると、4連休が2週続くことになる。2つの連休の間は平日が3日しかなく、この間、多くの従業員が有給休暇を取ったり、休業する企業もあると考えられることから、英経済が大打撃を被るというのである。しかし、王子の結婚が英経済に好影響をもたらすとの見方も多く、た とえこの警告が現実になったとしても、損失は軽減されそうである。

調査機関「バーディクト」によると、王子の結婚による英国への経済効果は最高で6億2000万ポンド(約806億円)に上ると試算 されている。まず、王子の婚約・結婚にあやかった商品の売り上げ は、最高で総計4400万ポンド(約57億2000万円)に達すると見 込まれている。こうした商品の一例が、大手スーパー「テスコ」が 先月下旬に発売した、ミドルトンさんが婚約発表時に着用していた 青いドレスのレプリカ版である。発売開始からわずか1時間後に売り切れる人気ぶりで、2人の結婚がいかに小売業界にとって魅力的な商機であるかを見せつけた。

食品、酒類も売り上げ激増の見込み

更に、「バーディクト」の試算によると、王子の結婚による経済効果のうち、観光・旅行業界にもたらされる恩恵は2億1600万ポンド(約280億円)に上る見込みである。王室が海外からの観光客誘 致に重要な役割を果たしていることは周知の通りだが、来年は、王子の結婚式に合わせて例年より更に多くの人が英国を訪れると思われる。既にその兆候は出ており、格安航空会社「フライビー」によ ると、婚約発表後、来年4月28日〜5月3日の期間のロンドン往復便の予約率が例年の3倍に跳ね上がったという。

このほか、結婚式の当日及びその前後には、多くの人が自宅などで2人の結婚を祝うため食品や酒類を普段より多く購入し、その売り上げが3億6000万ポンド(約468億円)ほどに上ると予測されて いる。これらをすべて合わせると、6億2000万ポンドの経済効果がもたらされるという計算になる。

「幸せ気分」の蔓延で消費促進

しかし、ある経済心理学者がマスコミに語ったところによると、今回の慶事で促進される消費は、ウィリアム王子の婚約・結婚に直接関係したものに限定されない。王子の婚約・結婚の影響で、世間に「楽しく、幸せな気分」が蔓延することによって、普段は先送りにしているような、例えば電気製品や家の修理などへの支出が増えることが考えられるのだという。

冒頭で述べたような小規模企業の懸念はあれど、王子の結婚は、不況、公共支出削減と暗い話題が続く英経済にとって歓迎すべき消費拡大の機会であると言えるだろう。王子の結婚の翌年となる 2012年には、女王の即位60周年、ロンドン・オリンピックと、更 に大きな行事が開催される。こうして大イベントが続くことで、英国の経済が長期的に活性化していくことが望まれる。

Royal Crown Derby

イングランド中部ダービー市に拠点を置く高級 陶磁器メーカー。18世紀半ば、ドイツからの移民の男性が、ダービーで磁器の製作を始めたのが始まり。1775年、国王ジョージ3世より、商品の裏側に刻印するマークの中で記載する会社名に、「クラウン」の語を使うことを許可される。1890年、ビクトリア女王より王室御用達店に指定され、会社名に「ロイヤル」が付される。ウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんの婚約記念品としては、上図で紹介した熊の形の置物のほか、皿、トレイ、カップなどを発売予定である。ウェブサイトはwww.royalcrownderby.co.uk

(猫山はるこ)

 

隣国アイルランドの危機 -「ケルトの虎」は再生できるか

「ケルトの虎」は再生できるか
隣国アイルランドの危機

かつては「ケルトの虎」といわれ、その目覚しい経済成長ぶりで世界中を驚かせたアイルランド。英国の隣国でもあるこの国が、財政・金融危機に見舞われている。欧州連合と国際通貨基金は、11月末、同国に対する総額850億ユーロ(約9兆4000億円)の緊急支援に合意。歴史的、地理的、経済的にも深い関係にある英政府はアイルランドへの2国間支援融資を決断している。アイルランドの現状を、英国との関連から探ってみた。

アイルランドへの緊急支援策の内訳

負担する国・
機関
負担額
欧州連合 450億ユーロ
(約5兆円。英国、スウェーデン、デンマークとアイルランドの2国間融資分を含む)
用途
金融機関支援
350億ユーロ

(100億ユーロ分は金融機関への資本注入として直ちに実行)
財政支援策 
500億ユーロ
国際通貨
基金
225億ユーロ
(約2兆5000億円)
アイルランド
(自助努力捻出分)
175億ユーロ
(約2兆円)
総額 850億ユーロ
(約9兆4000億円)

アイルランドの主な貿易パートナー(2009年)

アイルランドの主な貿易パートナー

「ケルトの虎」の凋落

人口わずか約450万人の国アイルランドは、近年の経済成長の著しさから、「ケルトの虎(同国がかつてケルト民族の居住地であったことに由来する)」と呼ばれてきた。ただその経済成長は不動産市場の活況に大きく依拠しており、2008年に不動産バブルが崩壊すると、銀行は大量の不良債権を抱える羽目になる。この危機 を救済するためにアイルランド政府は巨額資金をつぎ込んだが、今度はそのために財政赤字が広がった。今年、アイルランドの財政赤字は国内総生産(GDP)比で約32%に悪化する見込みだ。不景気で税収入が大きく減少し、失業率(13%前後)が上昇している。

こうした状況を受けて、アイルランド政府は11月24日、来年から4年間で総額150億ユーロ(約1兆6700億円)を削減する緊縮財政策を発表した。公的部門で2万人を超える人員削減や、付加価値税の引き上げなどが予定され、国民にとっては厳しい4年間となりそうだ。

ダブリン市民11月22日、政府の融資要請発表に不満を示すアイルランドの首都ダブリンの市民

是非が分かれる英国の関与

当初は自力でこの財政危機を乗り越えられると主張してきたアイ ルランド政府は、結局、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)から の支援を受け入れることになった。11月29日には、EUとIMFが、総額850億ユーロ(約9兆4000億円)もの支援策に協力することを決定。EUが450億ユーロ、IMFが225億ユーロを負担し、175億ユーロはアイルランドが自助努力で捻出することになっている(英国、デンマーク、スウェーデンとアイルランドとの2カ国間金融支援もEUの総額に含まれる)。2008年の世界的金融危機の影響後、ユーロ圏諸国でこうした形での支援を受けるのは、今年5月のギリシャに続きアイルランドが2カ国目だ。

この支援策において、英国は大きな役割を担うことになる。英国とアイルランドの結びつきは深い。かつてはアイルランド全体が英国の一部であり(アイルランド南部は1922年に独立)、北部6州は現在でも「英領北アイルランド」となっている。さらに英国はアイルランドの主な貿易相手であり、またアイルランドの各銀行は英国本土で積極的に投資を続けてきた。アイルランドが経済破綻すれば、英国内におけるビジネスや雇用への影響は多大となる。

そこでオズボーン英財務相は、アイルランドに対して、約70億 ポンド相当の2国間支援を行うことを議会で発表した。この金額は、英国の家庭が一戸あたり約300ポンドを負担することを意味する。そもそも英国自体が現在では緊縮財政下にあり、これほどの金額を提供するのは並大抵のことではない。英国民が財務相の判断に複雑な思いを持つのも無理はないだろう。

懸念される他国への波及

アイルランドの危機が、イタリア、ポルトガル、スペインなどほかのユーロ圏の経済に波及するのではないか、という懸念もある。さらには経済構造や成長の度合いが異なる国がユーロという単一通貨を導入し、同一の金利政策の下で財政運営を行うという仕組 みそのものが破綻しているという見方も出ている。ドイツがユーロ圏から抜け出るという予測をするエコノミストさえいるほどだ。アイルランド経済の先行きは、いまだ不透明なままである。

Euro

ユーロ。欧州連合の経済通貨同盟で用いられている通貨。米ドルに次ぐ第2の基軸通貨とされる。1999年1月1日、決済用の仮想通貨として導入され、2002年1月1日に現金通貨として発足。名称は、当時のドイツの連邦財務相テオドール・バイゲル氏の発案による。現在、欧州の22カ国で法定通貨として使用されており、そのうちの16カ国が欧州連合加盟国である。英政府は前労働党政権時代、英国の経済とユーロ圏の経済との比較などを含む5項目の経済テストを行い、現状ではユーロを導入しないという結論を出している。

(小林恭子)

 
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