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Wed, 01 April 2026

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英国政府の福祉制度改革案について

「ユニバーサル・クレジット」で手当を統合
政府の福祉制度改革案について

今年5月の総選挙で誕生した保守党と自由民主党の連立政権は、教育や医療など行政の様々な分野で改革を行おうとしている。先月中旬には、福祉制度の大幅な改革案を掲げた白書が発表された。このまま実行されれば、1940年代以降で最大の福祉制度改革となることから、大きな関心を集めている。

英国の主な福祉手当

  • ● 税控除(Tax Credits)
    しばしば「税控除」と訳されるが、実態は銀行口座に振り込まれる福祉手当。子供を持つ親に支給される児童税控除(Child Tax Credit)、就労している低所得者に支給される就労税控除(Working Tax Credit)などがある。
  • ● 住宅手当(Housing Benefit)
    低所得者または失業者に対し、住宅費補助を目的として支給される。
  • ● 児童手当(Child Benefit)
    子供を持つ親に支給。現在は所得に関係なく支給されているが、2013年より高所得者への支給は廃止。
  • ● 障害者生活支援手当(Disability Living Allowance)
    心身の障害を持つ者に対し、生活支援を目的として支給される。
  • ● 所得手当(Income Support)
    低所得者に対し、所得補助を目的として支給される。
  • ● 雇用・生活支援手当(Employment and Support Allowance)
    障害または疾患のため就労できない、または就労能力が制限されている人に支給される。2008年、「就労不能手当」に代わる手当として導入された。
  • ● カウンシル・タックス手当(Council Tax Benefit)
    低所得者または失業者に対し、カウンシル・タックス支払いを目的として支給される。
  • ● 求職者手当(Jobseeker's Allowance)
    失業者または就業時間が週16時間未満で求職中の者に支給される。
  • ● 介護人手当(Carer's Allowance)
    週35時間以上、障害者のケアをしている人に対して支給される。受給者は、ケアの対象である障害者と血縁関係にある必要はない。

数字で見る英国の福祉制度

Source: Department for Work and Pensionsほか

  • ● 570万人
    就労年齢にある者で、雇用・年金省が支給する福祉手当のうち、何らかの手当を受給している人の数。(*)
  • ● 135万人
    求職者手当の受給者数。(*)
  • ● 261万人
    雇用・生活支援手当または就労不能手当の受給者の数。(*)
  • ● 39万人
    障害者生活支援手当の受給者数。(*)
  • ● 年間52億ポンド(約6760億円)
    政府が支払う福祉手当支給額のうち、支給ミスまたは不正受給のため間違って支払われている福祉手当の合計額。
  • ● 740億ポンド(約9兆6200億円)
    2009年度に就労年齢にある者に支給された福祉手当(税控除を含む)の総額。
  • ● 85万人
    今回発表された福祉制度改革が実施されれば、貧困状態から脱することができると政府が試算する人の合計数(子供も含む)。

(*)はすべて2010年5月のデータ。


改革で福祉制度を単純化

イアン・ダンカン・スミス雇用・年金相は11月中旬、福祉制度の抜本的な改革案を掲げた「ユニバーサル・クレジット:機能する福祉制度(Universal Credit: welfare that works)」と題する白書を発表した。

改革の主眼は、白書の題名にもなっている「ユニバーサル・クレジット」と呼ばれる新たな福祉制度の仕組みを創設することであり、その第一の目的は、複雑になり過ぎた福祉制度の単純化、合理化である。現在、福祉手当の種類は数十を超えており、この数の多さが、国民に混乱を来たしているばかりか、福祉手当の支給ミスや不正受給をも招いている。こうした現状を是正するため、白書は、現行制度下で就労年齢にある者に支給されている福祉手当の大半を、「ユニバーサル・クレジット」として統合するとの案を掲げている。統合される手当には、求職者手当、就労税控除、児童税控除、住宅手当、所得手当などが含まれる。

新制度下では、福祉手当受給者は、現在のように、受給資格のある手当を別々に申請する必要はなくなる。その代わり、今後新たに設定されることになる「ユニバーサル・クレジット」の基本額を受給し、それ以外に、個人の状況(心身の障害の有無、年齢、子供の有無など)に応じて追加額を支給されることになる。

失業者の勤労意欲向上策も

「ユニバーサル・クレジット」の制度には更に、失業者の就労意欲向上を狙いとした改革も盛り込まれている。現行制度では、福祉手当受給者が就労し、就労による収入が一定のレベルを超えたり、福祉手当受給額を超過した場合、福祉手当受給額を減額する2つの異なる仕組みが導入されている。この仕組みのため、たとえ失業者が仕事を見付けて就労しても、福祉に頼って生活していたときの福祉手当受給額と収入がほとんど変わらない、また福祉に頼っていた方が収入が良いというケースが珍しくないという現状が生まれており、失業者の就労意欲をそぐ結果になっている。政府は、こうした事情が、福祉に依存して暮らす長期失業者を生む背景にあるとして、福祉に頼って生活するより、就労した方が常に収入が良くなるよう、この2つの仕組みを改革する方針である。

求職活動行わないと手当支給停止

白書にはその他にも、失業者が積極的に求職活動を行わないなどの場合、求職者手当支給を1回目で4週間、2回目で最高3カ月間、停止するとの案も盛り込まれている。また、公共職業案内所である「ジョブセンター・プラス」の担当者が妥当と判断した場合、勤労に必要な規律を学ぶことなどを目的として、失業者に対し、最長4週間、社会奉仕活動を行うよう義務付けることができるとの案も含まれている。

政府は、来年1月、白書で掲げたこれらの提案を、「福祉改革法案(Welfare Reform Bill)」とし国会に提出する見込みである。現在の案では、同法案が予定通り立法化されれば、2013年より、現制度から「ユニバーサル・クレジット」への移行を段階的に実施し、17年10月までに移行作業を終了させる計画となっている。

William Beveridge

英国の著名な経済学者。1879年3月生まれ、1963年3月没。オックスフォード大学卒業。08年、商務省に入省し、職業安定所の制度創設などに関わる。第二次大戦中の41年、当時の政府から、社会保障制度及びその関連制度に関する調査を依頼され、42年にその報告書(通称「ビバリッジ報告書」)を発表。戦後の労働党政権は、同報告書の提案をほぼすべて受け入れ、後に「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれることになる手厚い福祉制度を創設した。著著に「失業: 産業の問題(Unemployment: A Problem of Industry)」など。

(猫山はるこ)

 

アブ・ハムザ服役囚の半生とは - Abu Hamza

覗き見屋のドア・マンから「憎悪の説教師」へ
アブ・ハムザ服役囚の半生とは

左目の義眼と両腕に付けられた大きな鉤(かぎ)。海賊「キャプテン・フック」を彷彿とさせるイスラム過激派指導者のアブ・ハムザは、若年層のイスラム教徒に対して過激なイスラム思想を吹き込んできた。「憎悪の説教師」とも称されるアブ・ハムザの半生を探る。

アブ・ハムザの半生

1958年 エジプト北部アレキサンドリアで、海軍将校の父と小学校校長の母との間に生まれる
1979年 渡英。ブライトン大学及びブライトン技術専門学校で土木工学を学ぶ。また、ロンドンのソーホー地区でピープ・ショー(覗き見屋)のドア・マンとして生計を立てる
1980年 英国人バレリー・フレミングと結婚し、英国市民権を取得。子供一人をもうける
1982年 徴兵忌避を理由に、エジプト政府が同人の市民権を剥奪
1984年 バレリー・フレミングと離婚
1984年 ナガット・カマル・ムスタファと再婚。7人の子供をもうける
1987年 ロンドンのハーレー・ストリートにある診療所で、アフガニスタンで負傷した戦士の通訳として従事していた際、治療のため渡英していたアフガニスタンの過激派指導者アブドゥラ・アッザム師と出会う。同年、サウジアラビアのメッカへ巡礼
1989年 アフガニスタンに渡航。南東部ナンガハール州ジャララバードでの復興事業計画に参加
1993年 地雷除去作業中の誤爆で両手と片目を喪失。治療のため英国に帰国
1995年 ボスニアのイスラム教徒支援のため旧ユーゴスラビアへ渡航
1996年 英国に帰国。ルートンのモスクで説教を始める
1997年 ロンドンのフィンズべリー・パーク・モスクで説教を始める。英情報当局の密告者として同モスク内の情報を提供していたともされる。また、アルジェリア系武装イスラム組織(GIA)の広報などを担当
1998年 フィンズべリー・パーク・モスクで自爆テロ犯を勧誘する活動を行う
1999年 イエメンにおける爆破テロ計画への関与の疑いで、英情報当局から事情聴取を受ける
2002年 2001年9月11日に発生した米国同時多発テロから1周年の追悼日に、同事件のハイジャック犯を賞賛する声明を発表
2004年 テロ計画容疑で逮捕。また息子のモハメド・ムスタファ・カマルが、テロ計画容疑などでイエメン当局に拘束される。米政府が、アブ・ハムザを「世界的なテロの世話人」と呼んで警戒心を表す
2006年 殺人教唆、及び人種的憎悪扇動の罪で有罪判決を受け、7年の懲役刑に
2007年 米政府が米国同時多発テロへの関与容疑などで裁判を行うため、英政府に対し同人の身柄引き渡しを要求
2008年 ジャッキー・スミス前内相が米国引き渡しを承認したことに対し、英最高裁に上訴
2009年 2人の息子(ハムザ・カマル、モハメド・ムスタファ)と義理の息子(モハシン・ガイラム)が、高級車を使った悪徳商法などの容疑で逮捕される
2010年2月 ロンドン西部グリーンフォードにある自宅が差し押さえ処分となる
2010年7月 息子の一人ヤッサー・カマルが、イスラエル大使館周辺でのデモにおける警察官に対する暴行容疑などで逮捕
2010年11月 英国パスポート剥奪に関する訴訟で英政府に勝訴

Abu Hamza & Finsbury Park Mosque (left)
左)アブ・ハムザ 右)フィンズべリー・パーク・モスク

フィンズべリー・パーク・モスク年表

1994年 オープニング・セレモニーにチャールズ皇太子が出席
1995年 テロ組織を支援する不法資金の調達などの活動を行っていることが発覚
1997年 95年のパリ地下鉄爆破テロ計画の関係者が、同モスクに出入りしていたイスラム過激派メンバーであったことが発覚する
1997年 国際テロ組織アルカイダの幹部とされるアブ・カタダが説教を行う。また金曜礼拝の主導説教師にアブ・ハムザを選任
1997年 英・仏情報当局から派遣された密告者が、アブ・ハムザが同モスク内でテロ実行犯の勧誘を行っていたと報告
1998年 英情報当局が同モスクへの警戒を強める。またアブ・ハムザが爆弾犯リチャード・レイド(本文参照)などの自爆テロ犯の勧誘を実施
2001年 同モスクに出入りしていた、アルカイダ欧州支部幹部の一人とされるアブ・ドーハがヒースロー空港で逮捕される
2002年 同モスク内で軍事訓練が行われていたことが発覚
2003年 猛毒リシンによる地下鉄テロ未遂事件に関する調査などを受け閉鎖に
2004年 ロシアの北オセチア共和国で発生した「ベスラン学校占拠事件」の首謀者の一人であるカマル・ラバット・ボウラルハ容疑者が同モスクに出入りしていたことが発覚
2005年 「ノース・ロンドン・セントラル・モスク」に改名され、運営を再開

英・欧州は人権保護を重視

イスラム過激派指導者アブ・ハムザ・アルマスリ服役囚は、5日、自身の英国パスポートを剥奪するとの試みに関して英政府を相手取って起こした訴訟に勝訴した。英特別移民上訴委員会(SIAC)は、人権保護などの理由から、出身国であるエジプトの市民権を既に剥奪されている同人が「無国籍者」になることを避けるために、パスポート剥奪に向けた動きを止めたのである。

英内務省は、同判決に遺憾の意を示しつつも、2008年7月に承認された米国へのアブ・ハムザの身柄引き渡し措置には影響がないとの考えを表明。米政府は、欧米諸国に対する国際的なジハード計画の策謀や、1999年米オレゴン州ジハード戦士訓練キャンプ設置の関与疑惑などで同人を起訴する意向である。一方の欧州人権裁判所は本年7月、アブ・ハムザの身柄引き渡しに関し、米コロラド州フィレンツェの刑務所における拘留期間などの詳細説明が不十分であるとして、訴訟を延期している。

「憎悪の説教師」誕生の経緯

「憎悪の説教師」と称されるアブ・ハムザの過激化は、主に3段階に分けられる。第1段階(79〜80年代前半)は、西欧文化を敵視する思想基盤が構築された時期。79年のイラン革命の影響や、ロンドンのソーホー地区にあるピープ・ショー(覗き見屋)でドア・マンとして働いた経験から生じた西洋的価値観に対する嫌悪感などがあったと考えられる。また第2段階(87〜95年頃)では、実際にアフガニスタンと旧ユーゴスラビアに渡航し、イスラム義勇兵として戦線に参加することで、独自のイスラム思想を成熟させたと見られる。特に93年、アフガニスタンにおける地雷除去作業中の誤爆で両手と片目を失った過酷な経験から、独自の過激思想を形成した可能性が高い。第3段階(97年以降)では、ロンドンのフィンズべリー・パーク・モスク(現ノース・ロンドン・セントラル・モスク)などで説教を行いながらジハード的思想を本格的に広め始めた。

左目の義眼と両腕に付けられた大きな鉤から、「キャプテン・フック」とも呼ばれた同人への注目は自ずと高まり、やがてメディアへの露出も増えていった。彼から影響を受けたとされる人物には、2001年9月米国同時多発テロのザカリアス・ムサウイ容疑者や、同年12月米国航空機爆破未遂事件の爆弾犯リチャード・レイド容疑者、及び05年7月ロンドン同時爆破テロ犯などがいる。

塀の中のアブ・ハムザ

06年2月7日に謀殺の教唆、及び人種的憎悪の扇動などで7年の禁固刑を科せられたアブ・ハムザは、現在もロンドンのベルマーシュ刑務所(別称「英国のグアンタナモ収容所」)に服役中である。07年、同人の妻ナガット・ムスタファは、夫が同刑務所内で虐待を受けていると主張。一方の刑務所当局は、同所内の服役囚の中で金曜礼拝に参加する者は数年前まで20人程度であったにも関わらず、今では150人を超えるとし、刑務所内のイスラム化に危機感を募らせている。現在、独房にいるアブ・ハムザは、水道管をマイク代わりにして説教活動を行いその影響力を拡大しているとされることから、英国内に更なるテロリストを生み出す可能性が懸念される。

ベルマーシュ刑務所

1991年4月2日開所。中央刑事裁判所とロンドン南東部治安判事裁判所及びエセックス刑事法院と治安判事裁判所の所管の地域刑務所であると共に、逃亡した際に一般社会に大きな危害をさらす恐れがあると見なされた囚人の拘留所でもある。2001年の反テロリズム、犯罪及び安全保障法の規定に基づき、01年から02年の間、罪状も裁判もなくして多くのテロ容疑者が拘留された。01年には偽証罪で実刑判決を受けたベストセラー作家ジェフリー・アーチャーが服役し、後に同刑務所生活を綴った「獄中記」が出版されている。

(吉田智賀子)

 

イングランドの大学授業料上限が引き上げへ

イングランドの高等教育制度に改革案
大学授業料上限が引き上げへ

日本と英国の大学で特に大きく異なる点が、授業料に関する仕組みである。英国では、十数年前から大学授業料の徴収が可能になったが、義務教育修了以降も学業を継続することを選ぶ人が年々増加すると共に、国庫の負担も増大。そんな中、政府は最近、イングランドの大学授業料の引き上げ案を発表し、大きな議論を呼んでいる。


イングランドの大学授業料などに関する政府の改革案
(2010年11月3日発表・一部)

  • 大学授業料の上限を、現在の年間3290ポンド(約42万円)から同6000ポンド(約78万円)に引き上げる。ただし、「例外的な場合」に限り、同9000ポンド(約117万円)までの引き上げも可能とする。年間6000ポンド以上の引き上げには、低所得家庭出身の学生の入学支援措置を大学が実施することを条件とする。
  • 1億5000万ポンド(約195億円)を投入し、低所得家庭出身で成績優秀な大学生を対象とした「全国奨学金プログラム」を創設する。年間6000ポンド以上の授業料を設定する大学はすべて、同プログラムに参加することが義務付けられる。
  • 年間所得が2万5000ポンド(約325万円)以下の家庭出身の大学生を対象とした政府支給の生活費補助奨学金(Maintenance Grant)の支給額を、現在の年間2906ポンド(約37万円)から同3250ポンド(約42万円)に引き上げる。ただし、生活費補助奨学金の一部受給の要件は厳格化し、出身家庭の年間所得の上限を、現在の5万20ポンド(約650万円)から4万2000ポンド(約546万円)に引き下げる。
  • 大学卒業生による授業料返済は、年間所得が2万1000ポンド(約273万円)を超えた時点から開始する(現制度では、年間所得が1万5000ポンド(約195万円)を超えた時点から開始となっている)。返済額は所得の9%とする。卒業後、30年が経過した時点で、残った返済額はすべて帳消しとする。*
  • 授業料の返済利子は、卒業生の所得に応じて段階的に設定する。年間所得が2万1000ポンド以下の場合は無利子、同4万1000ポンド(約533万円)以上の場合は小売物価指数(RPI)プラス3%とする。
  • パートタイムの大学生も、フルタイムの大学生と同様、授業料の融資を受けることを可能にする。

* 日本などと異なり、英国では、大学授業料は前払いではなく、学生が政府から融資を受ける形になっている。学生は、卒業後、収入が一定レベルに達した時点から、長期間にわたって授業料を返済する。


イングランド以外の英国の地域の大学授業料制度

ウェールズ イングランドと同様、年間3290ポンドが上限とされている。
北アイルランド イングランドと同様、年間3290ポンドが上限とされている。
スコットランド スコットランド出身の学生及びEU圏の学生は授業料無料。英国の他の地域(イングランド、ウェールズ、北アイルランド)出身の学生に対しては、年間1820ポンド(約23万円)の授業料が課される(薬学部は同2895ポンド(約37万円))。

* EU圏外の外国人学生は、上記のルールの対象ではなく、それぞれの大学が設定した授業料を支払う。


大学授業料に関するアンケート調査結果
78% 大学授業料が年間1万ポンド(約130万円)ならば大学進学の意欲をそがれると思う人の割合
70% 大学授業料が年間7000ポンド(約91万円)ならば大学進学の意欲をそがれると思う人の割合

Source : NUS/HSBC Student Experience 2010 Report

1998年までは大学授業料無料

ブラウン卿
10月12日、高等教育財政に関する
見直し作業の結果報告書を発表した
ブラウン卿(写真右)

私立大学が多数存在する日本と違い、英国の大学は1校を除いてすべて国立である。かつては、これらの国立大学の授業料は無料で*、運営は主に公費で賄われていた。しかし、過去約20年の間に大学と大学進学者の数が増加し、教育支出が膨張したことを受け、1998年に初めて、大学が年間1000ポンド(約13万円)までの授業料を徴収することが可能になった。その後、制度変更を経て、現在は、年間3290ポンド(約42万円)までの授業料徴収が可能になっている(ただしスコットランドを除く)。

2009年11月、石油大手BPの元最高責任者であるブラウン卿を議長とする委員会が、イングランドの大学授業料などに関する見直し作業を行うことが明らかにされた。先月ようやく、同見直し作業の結果報告書が発表され、政府はそれに基づき今月3日、イングランドの高等教育財政に関する改革案を発表した。

その主たる内容は、大学授業料の上限を、年間6000ポンド(約78万円)までに引き上げることであった。また、「例外的な場合」に限り、同9000ポンド(約117万円)までに引き上げることも可能とした。ただし、大学が6000ポンドを超える授業料を設定するには、低所得家庭出身の学生の入学支援措置を実施することが条件とされた。

* ただし、英国及びEU外の外国人学生に対しては、授業料制度導入以前も授業料の徴収が認められていた。

貧困層の若者の進学機会奪うと批判

最高で現在の約3倍もの大学授業料の設定を許可する政府案に対しては、学生や大学関係者などから強い非難の声が上がっている。例えば親が単純労働者でも、子供が大学に進学することによって、専門職の仕事と親より豊かな生活を手に入れることは不可能ではない。つまり、大学は「社会的流動性(ソーシャル・モビリティー)」を高めるための重要な手段なのである。そのため、授業料の引き上げは、低所得家庭出身の若者に大学進学を断念させ、彼らから生活向上の機会を奪うものであるとして批判されている。

自由民主党に「裏切り」の声

この件はまた、連立政権の一翼を担っている自由民主党にとっては、党としての信頼性を揺るがす問題になっている。同党は、今年の総選挙で、大学授業料の撤廃を公約に掲げ、選挙期間中、同党の下院議員全員が、「次期政権によるいかなる大学授業料引き上げの試みにも反対する」ことを誓う「全国学生組合(NUS)」の誓約書に署名した。このため、学生を中心として、同党の「裏切り」を強く糾弾する人は少なくない。

今回発表された改革案は、今年中に国会に提出される見込みだが、自由民主党の議員の一部には、政府の方針に逆らい、採決で反対票を投じようとする動きもある。しかし、法案を否決に持ち込むほどの反対票が集まるとは考えられておらず、改革案は国会を通る見込みである。政府は、早くも2012年9月の入学者から、新たな授業料の上限を適用したい考えであるという。

University of Buckingham

バッキンガムシャー州にある英国で唯一の私立大学。政府の補助金は受けていない。1973年に開校し、83年に大学の地位を獲得した。人文学、法律、薬学、教育、科学などの学部を有する。「インディペンデント」紙が2010年5月に発表した英国の大学のランキングでは、「生徒の満足度」「卒業後の就職見込み」「教師一人に対する生徒の数」の3部門で1位を獲得し、総合では115校中、20位にランクした。連立政権は、今後、同校のような私立校を増やしたい意向であることを示唆している。
www.buckingham.ac.uk

(猫山はるこ)

 

格安高級紙「i(アイ)」が創刊

新たな読者層を開拓できるか
格安高級紙「i(アイ)」が創刊

英国の大手紙「インディペンデント」の発行主が、10月26日、格安高級紙「i(アイ)」を創刊した。「ブロードシート」と呼ばれる高級紙が 英国で新たに誕生するのは、1986年の「インディペンデント」紙以来。高級紙としては格安の値段となる20ペンス(約27円)で販売中のアイは、果たして新たな読者層を開拓できるのだろうか。


「アイ」と「インディペンデント」本紙の違い

媒体名 アイ インディペンデント
創刊日 2010年10月26日 1986年10月7日
価格 20ペンス(約27円) 1ポンド(約130円)
互いの
関係
「インディペンデント」から
派生
「アイ」にコンテンツを提供
発行元 インディペンデント・プリント社 インディペンデント・プリント社
セールス・
ポイント
破格の値段で、高級紙の内容が さっと読める。 深い分析に支えられた、優れたジャーナリズム。
紙面構成・
デザイン
写真を大きく使った、カラフルな紙面。 2、3 面の「マトリックス」で、紙面全体を見渡せる。記事の一部に、{i} で短いコメントを挿入。記事は本紙より短くかつ軽め。 抑えた色調で、真剣さかつ重厚さを強調。
想定読者 忙しくてじっくり新聞を読む 時間がない人。 知的関心が高い若者や通勤者層など。 左派系知識人や若者。人権、 環境、音楽などに興味を持つ人。
政治志向 左派中道だが、本紙よりやや中央寄り。 左派中道。前回の選挙では自由民主党を支持。
競合誌 朝刊無料紙「メトロ」「シティー・AM」夕刊無料紙 「イブニング・スタンダード」。 左派高級紙「ガーディアン」を筆頭とした他の高級紙すべて。
今後の
展望
本紙の「インディペンデント」紙の部数を追い抜く可能性も。 「アイ」と読者層を奪い合う形と なり、部数が大幅下落する可能 性が懸念されている。

サイモン・ケルナー編集長

「インディペンデント」紙及び「アイ」紙の編集長。1957年、ランカシャー州生まれ。53歳。 地元の大学を卒業後、地方紙でスポーツ記者としての経験を積む。86年の「インディペ ンデント」紙創刊時のスタッフの一人。98年に、当時の「インディペンデント」紙の編集 長アンドリュー・マー氏が辞任した後に編集長に就任。99年と2003年、業界関係者が 選ぶ最優秀編集長に選ばれる。03年9月には、大判(ブロードシート判)だった「インデ ィペンデント」紙を小型タブロイド判に変更し、販売部数を大きく伸ばす。一時、経営に 専念するために編集長職を退いていたが、3月末にロシア人の富豪アレクサンドル・レベ ジェフ父子が「インディペンデント」紙を買収し、4月に同紙の編集長に復帰した。

The Independent

主要新聞の発行部数(2010年9月時点)

平日・日刊有料紙
新聞名 発行部数
サン 297万4405
デーリー・メール 214万4229
デーリー・ミラー 121万3323
デーリー・スター 86万4315
デーリー・エキスプレス 65万9650
デーリー・テレグラフ 65万9445
タイムズ 48万6868
フィナンシャル・タイムズ 39万228
ガーディアン 27万8129
インディペンデント 18万2776

日曜紙
新聞名 発行部数
ニューズ・オブ・ザ・ワールド 294万8328
メール・オン・サンデー 196万9990
サンデー・ミラー 112万6035
サンデー・タイムズ 109万1869
サンデー・エキスプレス 56万273
サンデー・テレグラフ 50万7860
オブザーバー 32万5502
インディペンデント・オン・サンデー 15万5174

大衆紙並みの値段で読める高級紙

10月末、左派系高級紙「インディペンデント」の廉価版「i(アイ)」 が創刊された。本紙扱いとなる「インディペンデント」紙の主要記事や論説記事を、短く編集し直した上で掲載。「インディペンデント」紙がこれまで提供してきた良質のジャーナリズムを、大衆紙並みの値段(一部20ペンス=約27円)で気軽に読めることを売り文句としている。

「アイ」紙は、全面カラー印刷。「インディペンデント」紙同様に、 小型のタブロイド判サイズとなっている。1面には、媒体名である 「i」を強調した真っ赤なロゴと共に、大きな写真付きのトップ記事を 掲載。2、3ページ目には、その日の紙面全体の構成を示す見取り図がある。同様に読みやすさを売りとしている朝刊無料紙「メトロ」 紙と比較すると、レイアウトが凝っていて、大部分が「インディペンデント」紙の執筆陣による自社記事で構成されている点に「アイ」 紙の特徴がある。

変革を続ける「インディペンデント」紙

「アイ」紙の創刊と同時に、本紙の「インディペンデント」紙も紙面を刷新した。色の使用を極力押さえ、原則的には白黒色で構成されている。抑えた色調が、「まじめな新聞」を強調しているかのようだ。

「インディペンデント」紙は、1986年の創刊後、一時は発行部数が40万部を超えるまでに部数を伸ばしたが、90年代に起きた新聞の安値競争によって、大きなダメージを受けた。そこで2003年9月に、紙面のリニューアルを実施。朝刊無料紙として人気を集めていた「メトロ」紙の判型に目をつけ、高級紙「インディペンデント」を、大衆紙の専売特許と思われていたタブロイド判で発行したのである。この動きは当時低迷していた高級紙市場の起爆剤となり、「タイムズ」紙もタブロイド判へと変更。また「ガーディアン」紙が縦に細長いベルリナー判へと移行した。

しかし、タブロイド化人気はその後すっかり衰えてしまい、今年 に入った時点では、「インディペンデント」紙の部数は20万部を切るようになっていた。関係者が廃刊の可能性を検討していたところ、窮地を救ったのが、現在の経営者であるレベジェフ父子である。

創刊のきっかけとなった新所有者

「アイ」紙創刊のきっかけは、ロシアの大富豪アレクサンドル・レベジェフ父子が今年春、「インディペンデント」紙と「インディペンデント・オン・サンデー」紙を買収したことに始まる。レベジェフ氏はかつて旧ソ連国家保安委員会(KGB)のスパイとして活動し、ソ連崩壊後には銀行業で財を成した人物だ。今では英国の新聞業に強い関心を持ち、昨年は、損失を出し続けていた夕刊紙「イブニ ング・スタンダード」の株の約75%をわずか1ポンドで取得し、事実上の経営者となっている。

この父子による新たな挑戦が、「アイ」紙の創刊である。英国の新聞業界における、「大衆紙並みの価格で高質のジャーナリズムを提供する」という試みは、果たして成功するのだろうか。少なくとも、新聞離れが懸念されている昨今の新聞市場では、新たな話題として好意的に受け止められているようである。

Tabloid

タブロイド判、あるいはタブロイド紙。新聞の用紙サイズとして使われる、縦約43センチx横約29センチの大きさのこと。英国の新聞のサイズには、ほかに大判=ブロードシート判と、ベルリナー判(「ガーディアン」紙など)がある。1880年代に、ある製薬会社が「凝縮された錠剤(タブレット)」を販売したことから、「タブロイド」という言葉が「小型」を意味するようになった。また娯楽、ゴシップ、スポーツ、芸能情報を主に扱う大衆紙が総じてタブロイド判であったことから、タブロイド=大衆紙との解釈が一般市民の間に広まった。

(小林恭子)

 

イギリス政府の歳出削減計画が明らかに

4年間で810億ポンドの公的支出削減へ
政府の歳出削減計画が明らかに

10月20日、来年度から4年間の政府各省の歳出計画を示す文書である「支出見直し(Spending Review)」が発表された。各省が平均で19%の歳出削減という数字は、予想を上回るものではなかったものの、福祉など様々な分野で大幅に支出が減らされることが明らかにされ、国民には動揺が広がっている。


「2010年支出見直し」で示された政府方針など

● 2011年度〜14年度の4年間で計810億ポンドの公共支出を削減する。
● 政府各省の歳出を同4年間で平均19%削減する。

経済・雇用
  • 政府による公的支出削減の結果、14年度までに公的部門で49万の職が失われる見込み。
  • 10年6月の緊急予算で発表された銀行に対する新税を恒久的措置として導入する。
司法・治安維持
  • 公訴局(CPS)は、11年度〜14年度の4年間で25%の経費削減を行う。
  • 貧困層を対象とした裁判費用補助金「リーガル・エイド」への支出を削減する。
  • 警察への支出を同4年間で14%削減する。
住宅
  • 公営住宅入居者の入居権限を定期的に見直す。
  • 公営住宅の新規入居者の家賃を、民間の住宅の家賃と公営住宅の家賃の中間レベルに設定することを可能にする(既存の公営住宅居住者はこの変更による影響は受けない)。
  • イングランドの公営住宅予算を50%削減する。
  • 自治体が、適正価格の住宅(Affordable Homes)の建設を目的として資金の融資を受けることを可能にする。
福祉
  • 14年度まで、福祉への支出を年間70億ポンド(約9100億円) 削減する。
  • 就労年齢にある者を対象とした福祉手当及び税控除を統合した 「ユニバーサル・クレジット」制度を創設する。
  • 仕事を持つ低所得者を対象とする「就労税控除」の基礎支給額 を11年度から3年間凍結。
  • 所得税の最高税率(40%)の適用対象者が一人でもいる世帯に 対する「児童手当」の給付停止。
  • 住宅手当の一つである「ルーム・シェア手当(Shared Room Rate)」の対象者の年齢を25歳から35歳に引き上げる。
  • 一世帯に対する福祉手当の支給総額が、一世帯の平均収入を超 えないよう上限を設ける。
  • 所得に関係なく、高齢者を対象に支給される福祉手当は継続(バ スの無料乗車券、テレビ・ライセンス支払い免除措置など)。
保健・医療
  • 医療への支出は11年度から4年連続で引き上げ。
  • 国民医療制度(NHS)の業務効率化により、年間200億ポンド(約2兆6000億円)の経費削減を達成する。
  • NHSでの高齢者ケアの提供に年間10億ポンド(約1300億円)を追加投資。
教育
  • イングランドの公立小中学校向け支出は実質ベースで11年度から4年間、毎年0.1%引き上げ。
  • 低所得世帯の生徒を受け入れた公立学校に対し、「特別補助金(Pupil Premium)」を交付する。
  • 大学教育への支出を40%削減する。
  • 低所得世帯の出身で義務教育修了後も学業を継続している16〜19歳の若者に対する補助金である「教育補助手当 (EMA)」を撤廃する。
年金
  • 国民年金の支給開始年齢を20年に65歳から66歳に引き上げる(男女とも。前政権の計画では66歳への引き上げは24年 からであった)。
  • 10年10月に発表されたハットン卿による公的部門職員の年金制度に関する報告書の提案を受け入れ、職員が支払う年 金掛け金の額を引き上げる。
交通
  • 鉄道運賃のうち、「規制運賃」について、12年から3年間、前年7月の小売物価指数(RPI)に最高3%まで上乗せして運賃値上げ率を設定することを許可する。(*)
  • ロンドンからバーミンガム、マンチェスター、リーズを結ぶ 高速鉄道の建設計画を実行する。
  • バス運行会社に対する政府補助金を20%削減。
王室
  • 王室への拠出金は、11年度、12年度共に年間3000万 ポンド(約39億円)で凍結。

(*) 鉄道運賃には、料金設定に運輸省の規制がある「規制運賃 (Regulated Fares)」と、規制のない「非規制運賃(Unregulated Fares)」がある。現在、「規制運賃」は、前年7月の小売物価指数(RPI)に最高1%まで上乗せした値上げ率が認められている。



「 2010年支出見直し」で明らかにされた政府各省の歳出増減率
省名 14年度の歳出の10年度比
内務省 23%減
財務省 33%減
外務省 24%減
教育省 3.4%減
保健省 1.3%増
雇用・年金省 2.3%増
ビジネス・改革・技術省 25%減
国防省 7.5%減
司法省 23%減
地方自治・コミュニティー省
公営住宅向け歳出
地方自治体向け補助金

51%減
27%減
国際開発省 37%増
エネルギー・気候変動省 18%減
環境・食糧・農村問題省 29%減
文化・メディア・スポーツ省 24%減
内閣府 28%増
スコットランド省 6.8%減
ウェールズ省 7.5%減
北アイルランド省 6.9%減

(*)上記は、各省による政策実行及び省の運営に要する歳出の増減率を示す。インフラ設備の建設費用などは含まれない。


福祉への支出を70億ポンド削減

今回の「支出見直し(Spending Review)」では、「英国の構造的財政赤字を次期総選挙までに解消する」という連立政権の方針に基づき、政府各省の歳出が大幅に削減されることが明らかにされた。各省は、2011年度から14年度までに平均19%(10年度比)に及ぶ歳出削減を強いられることになり、公的支出削減の総額は、4年間で総額810億ポンド(約10兆5300億円)に達する見込みとなっている。

特に大きな関心を集めたのが、福祉への支出を14年度まで年間70億ポンド(約9100億円)削減するとの決定であった。これには、心身の疾患や障害のために働けない、または働く能力が制限されている人を対象とした「雇用・生活支援手当」の支給期間を、重度の障害を持つ人などを除き、1年間に制限することなどが含まれている。他にも、仕事を持つ低所得者を対象とした「就労税控除」を夫婦またはカップルが受給するための就労時間の要件を引き上げたほか、「障害生活補助手当」などに関して細かい変更が発表された。

また、政府から地方自治体への補助金が、4年間で27%削減されることも分かった。これにより、高齢者や障害者のケアなどを含めた自治体が提供する公共サービスは、規模縮小や質の低下が免れないと考えられている。

公的部門で49万の職が喪失へ

「支出見直し」は、公共支出削減の結果、14年度までに公的部門で49万もの職が失われると予測している。これは、49万人が解雇されるという意味ではなく、多くの場合、職員が辞職・退職した後、後任を採用しないことによって自然に職が減らされることになる見込みである。それでも、英国の労働市場から49万の職が失われることに変わりはなく、特に北アイルランドやイングランド北部など、公的部門に雇用を頼っている地域は深刻な影響を受けると考えられ ている。

今回の「支出見直し」は、連立政権による「ギャンブル」であると言われているが、その理由の一つは、政府が、経済成長支援策を十分に用意しないまま、民間企業が公的部門の職にあぶれた人々の受け皿になってくれるだろうと仮定しているためである。しかし、民間部門も、特に公共部門からの請負業務に頼っている企業は、公的支出の削減で更に大きな打撃を受けると予測されており、新たに雇用を増やすどころか、人員縮小に迫られるケースが少なくないだろうと言われている。

「貧困層に最大の打撃」との分析も

英国で戦後最大と言われるこの大規模な公的支出削減は、貧困層に最も「痛み」を強いることになるとの分析も既に発表されている。また、「支出見直し」発表の3日後には早くも、政府の方針に反対す る労働組合のデモが英国各地で行われた。今後、公的部門職員に よるストも予想されている。ブラウン前首相は07年3月、財務相として行った最後の予算演説で、「英国史上、最も長期間続いた経済 の安定と持続的な成長」を達成できたと誇らしげに語ったが、あの頃がまるで夢だったかのように、今後数年の英国は、暗い影に包ま れそうである。

Spending Review(SR)

国の優先事項に即して政府が決定する各省の歳出計画を示した文書。ブレア政権が1998年に始めた。日本語では「支出見直し」などと訳される。労働党政権下でのSRは、およそ2年ごとに発表され、3年単位で歳出計画を示していたが、今回連立政権が発表したSRは、次の総選挙まで、つまり2011年度から14年度までの4年間をカバーしている。なお、SRは、労働党政権下では「包括的支出見直し(Comprehensive Spending Review、CSR)」と呼ばれたこともあったため、現在もマスコミなどはこの呼称を用いることがある。

(猫山はるこ)

 

対立する反ファシズムと反イスラム主義

対立する反ファシズムと反イスラム主義
UAFとEDLの衝突が示すものとは

反ファシズム組織UAFと反イスラム主義団体EDL間の暴力的衝突が、英国内で多発している。1970年代に各地で顕著に見られたスキンヘッドの白人至上主義ネオナチ集団と反ナチ同盟との衝突を思い出させるこの事象は、これまで英国が経験してきた排外的人種主義の存在を象徴する新たな傾向なのだろうか。

対立を続けるUAFとEDL

UAF / Unite Against Fascism
発足 2003年秋頃
発足
理由
02年の地方議会選挙において、英国国民党(BNP)が英北部バーンリーで3議席を獲得し、更に翌年には同北西部を中心に13議席を獲得するなど、同党の勢力拡大に対する危機感から結成
幹部 元ロンドン市長ケン・リビングストン代表、社会労働党(Socialist Workers Party)議員ウェイマン・ベネット共同事務総長、反人種差別国民議会 (National Assembly Against Racism)報道官サビー・ダル共同事務総長
形態 政党機関
主な
目的
1. 反ファシズム及び反人種差別運動の促進
2. 反白人至上主義、人種差別グループに対する抗議運動の実施。特にBNPの勢力拡大に対する危機的状況の呼び掛け
3. 英イスラム議会(the Muslim Council of Britain)などと連携し、イスラム批判を鎮め、イスラム教に対する正しい理解を広める運動の実施
4. 移民制限を掲げる政党及び組織に対する抗議運動の実施
EDL  / English Defence League
発足 09年6月27日
発足
理由
09年6月、イラクから帰還したロイヤル・アングリアン連隊の兵士に対し抗議デモを行ったイスラム系組織「Al-Muhajiroun」に対抗した「The United People of Luton」のメンバー が逮捕されたことなどを受け、同地のサッカー・サポーターらが連携して結成
代表 ステファン・ヤクスリー・レノン(通称トミー・ロビンソン、ブラッドフォード出身の元BNP支持者。04年に警察官への暴行などで1年の懲役)
形態 草の根レベルでの社会運動団体
主な
目的
1. 英国政府に代わり、英国らしさ(生活、文化、法律、慣習)を保護
2. イスラム過激派及び同思想の排除、イスラム帝国主義に対する抵抗。特に、一般的に原理主義とも呼ばれるイスラム教ワッハーブ主義及びサラフィ思想に基づく英国社会への敵対心、不寛容、殺人行為の蔓延を阻止すると共にモスク建設やイスラムの英国社会への浸透化を阻止
3. 英国の法制度にシャリア法(イスラム法)を組み込もうとする試みに対する抗議運動の実施
4. イスラム過激派に関与があると見られる組織の解散に向けた抗議運動の実施(Islam4UK、Hizb ut Tahrir、The Islamic Forum of Europe、The Muslim Council of Britainなど)

主なUAFとEDL間の衝突事件

*抗議行動参加人数及び拘束人数は両組織の合計

2009年 8月8日 バーミンガム
(抗議行動参加人数不明、35人を拘束)
10月10日 マンチェスター
(約2000人規模の抗議行動で約50人を拘束)
10月31日 リーズ
(約2500人規模の抗議行動で約10人を拘束)
12月5日 ノッティンガム
(約500人規模の抗議行動で約10人を拘束)
2010年 1月23日 ストーク・オン・トレント
(約1800人規模の抗議行動で約17人を拘束)
3月5日 ロンドン
(約400人規模の抗議行動で約50人を拘束)
3月20日 ボルトン
(約3500人規模の抗議行動で約75人を拘束)
4月3日 ダッドリー
(約3500人規模の抗議行動で約10人を拘束)
5月1日 エールズベリー
(約900人規模の抗議行動で約10人を拘束)
5月29日 ニューカッスル
(約3000人規模の抗議行動)
7月17日 ダッドリー
(約900人規模の抗議行動で約20人を拘束)
8月28日 ブラッドフォード
(約1000人規模の抗議行動で約15人を拘束)
10月9日 レスター
(約1700人規模の抗議行動で約17人を拘束)

UAFとEDLの衝突

UAFとEDLの衝突イングランド中央部最大の都市レスターでは9日、English Defence League(EDL)による約1000人規模の集会に抗議するため、Unite Against Fascism(UAF)が中心となり、反EDLデモを行った。当日集結したEDLとUAFのメンバーは総勢約1700人に上り、両者間の暴力的衝突で17人が拘束された。

同様の衝突は2009年6月のEDL発足以来、ほぼ毎月のペースで発生している。人種差別の象徴とされるファシズムへの反対を訴えるUAFと、反イスラム主義を掲げるEDL間の対立は、1970年代以降に発生した極右政党「英国民戦線(NF)」や「英国国民党(BNP)」と、左派組織「反ナチ同盟(ANL)」などによる衝突の再来のようにも見える。

UAF: 反ファシズムとユダヤ差別

ケン・リビングストン元ロンドン市長が代表を務めるUAFは、03年、ANLや労働組合会議(TUC)などの左派系組織との連合により、反BNP・反人種差別を掲げて発足した。しかし、UAF幹部が所属する社会労働党(SWP)や反人種差別国民議会(NAAR)などは、ユダヤ人差別に関しては目をつぶってきたとの批判もあり、UAFの活動理念を疑問視する声もある。

例えば、09年1月27日の英国でのホロコースト記念日に、ローア ン・ラクストン元外務英連邦省職員が公共の場でユダヤ人に対する中傷的な言葉を発した一件に対し、UAFが言及を避けたのは不自然であるとの指摘がある。また、04年、英国を訪れていたイスラム復興運動組織「ムスリム同胞団」ナンバー3で反ユダヤ主義提唱者とされるエジプト人法学者ユセフ・アルカラダウィ師を、UAFが講演者として集会に招いたことも問題視された。ちなみに内務省は、08年2月、テロ行為を正当化する人物による英国への入国は不適切であるとの理由から、アルカラダウィ師の渡英ビザ申請を却下した。

EDL: 反イスラム主義とイスラム恐怖症

EDLの実質的な組織体制などの詳細は不透明な部分が多いが、同団体の代表者である通称「トミー」が元BNP支持者であることや、 EDLの集会にBNP支持者で逮捕歴を有するフーリガンの姿が頻繁に目撃されていることなどから、EDLはBNPの分派であるとする見方がある。また、米国の著名なユダヤ人宗教学者による講演や、在英イスラエル大使館と共同でイベントを開催するなど、EDLとユダヤ社会が反イスラム主義という概念を通じて利害を一致させつ つあることは、今後のEDLの動向を探る上でも注視すべき点ではある。

反イスラム主義を掲げるEDLは、05年7月に発生したロンドン同時爆破テロの影響を受けての反イスラム感情の高まりや、人々の潜在的なイスラム教に対する不安「イスラム恐怖症(Islamophobia)」を掻き立てることにより、その勢力を英国のみならず欧米にまで拡大しつつある。これは、かつてのナチズムやファシズムに代表される排外的人種主義の底流が、反イスラム主義という新たな概念となって顕在化した事象であるとも言えるのかもしれない。

British National Party

1982年に結成。現党首はニック・グリフィン氏。近年は左派組織との暴力的衝突を避けることで ネオナチ的要素を払拭し、反ユダヤ主義を覆い隠すと共に、「自由、民主主義、安全、アイデンティティー」を基本主張とするなど、外見的には主要政党においても見かけるような政策を掲げるようになった。一方で、BNPの本質は不変であり、 極右政党NFを穏健派に見立てただけとする声もある。08年にはロンドン市議会選挙において 初議席を獲得するなど、移民の増大や多文化主義に対する不安を覚える有権者の支持を集めつつあると見られている。

(吉田智賀子)


 

労働党党首にミリバンド弟が当選

最有力候補の兄に僅差の勝利
労働党党首にミリバンド弟が当選

労働党の総選挙敗退とゴードン・ブラウン氏の党首辞任を受けて実施された同党の党首選の結果が先月末、労働党の党大会で発表された。数カ月に及んだ選挙戦は結局、エド・ミリバンド前エネルギー・気候変動相が、「本命」と言われ続けていた実の兄、デービッド・ミリバンド前外務相を破って当選するという結末で終わりを迎えた。

エド・ミリバンド氏経歴

Ed Milliband1969年12月24日、ロンドンで生まれる。5歳年上の兄デービッドと2人兄弟。両親は共にポーランド系ユダヤ人の移民。父親のラルフ・ミリバンド氏は第二次大戦中、ナチスの迫害を逃れてベルギーから英国に渡り、後に著名なマルクス主義の学者になった。

地元ロンドン北部で兄デービッドと同じ公立の小中学校に通い、17歳で労働党に入党。この頃、労働党左派のトニー・ベン議員トニー・ベン氏は既に議員を引退している。のインターンとして働いたこともある。

その後、やはりデービッドと同じく、オックスフォード大学の哲学・政治・経済(PPE)のコースで学び、文学士の学位を取得。更に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で経済学を修め、理学修士の学位を取得した。

テレビ局で短期間、記者として勤務した後、93年、労働党で影の主席財務相を務めていたハリエット・ハーマン議員のスピーチライター兼リサーチャーとして働き始める。続いて、ゴードン・ブラウン影の財務相(当時)のスピーチライター兼リサーチャーを務め、97年の総選挙で労働党が政権を獲得した後は、財務相に就任したブラウン氏の特別アドバイザーに起用された。また99年には、スコットランド議会選挙の労働党の選挙キャンペーンに参加した。

2002年より米ハーバード大学欧州研究センターに客員研究員として籍を置き、経済学などの講義を行う。帰国後の04年1月、財務省の経済アドバイザー委員会の委員長に就任。

05年5月の総選挙で下院議員に初当選。選挙区はイングランド北部ドンカスター市内のドンカスター・ノース(Doncaster North)。ブレア政権中の06年5月、内閣府の政務次官に任命される。続いて07年6月のブラウン政権誕生と同時に、内閣府相及びランカスター公領相に就任。更に08年10月の内閣改造で、エネルギー・気候変動相に任命された。

David Milliband
エド・ミリバンド氏の兄、
デービッド・ミリバンド氏

10年5月の総選挙で労働党が敗北し、ブラウン氏が党首の座を退く意思を表明した後、党首選への出馬を発表。最近、デジタル・チャンネル「More4」で放映されたミリバンド兄弟に関する番組では、労働党のニール・キノック元党首が、兄デービッドが弟の突然の出馬に「ひどく腹を立てていた」ことを明らかにしていた。同年9月、僅差で兄を破り、労働党党首に当選。

私生活では、パートナーである法廷弁護士のジャスティン・ソーントンさんと一緒に住んでおり、一児をもうけている(ジャスティンさんは現在、2人目の子供を妊娠中で、11月に出産予定)。ジャスティンさんとは結婚していないため、党首就任時には、保守的な右派系メディアから「伝統的な家族制度を尊重していない」として批判された。

エド・ミリバンド新党首が率いる
労働党の影の内閣メンバー(一部を除く)

  労働党の党首選で
誰を第一順位としたか *
影の財務相
アラン・ジョンソン(前内務相) デービッド・ミリバンド
影の外務相(影の女性・平等担当相兼任)
イベット・クーパー(前雇用・年金相) エド・ボールズ
影の内務相
エド・ボールズ(前児童・学校・家族相) エド・ボールズ
影の教育相
アンディ・バーナム(前保健相) アンディ・バーナム
影の保健相
ジョン・ヒーリー(前住宅・都市計画担当相) エド・ボールズ
影の司法相
サディーク・カーン(前運輸担当相) エド・ミリバンド
影の雇用・年金相
ダグラス・アレキサンダー(前国際開発相) デービッド・ミリバンド
影のビジネス・改革・技術相
ジョン・デナム
(前コミュニティー・地方自治相)
エド・ミリバンド
影の国防相
ジム・マーフィー(前スコットランド相) デービッド・ミリバンド
影の運輸相
マリア・イーグル エド・ミリバンド
影の国際開発相
ハリエット・ハーマン
(前下院院内総務、前女性・平等担当相。
労働党副党首は前政権時から継続)
棄権
影のコミュニティー・地方自治相
キャロライン・フリント(元欧州担当相) デービッド・ミリバンド
影のエネルギー・気候変動相
メグ・ヒリアー デービッド・ミリバンド
影の環境・食糧・農村問題相
メアリー・クリア デービッド・ミリバンド
影の文化・メディア・スポーツ相
イバン・ルイス(前外務担当相) デービッド・ミリバンド
影の主席財務相
アンジェラ・イーグル
(前年金・高齢化社会担当相)
デービッド・ミリバンド
影の北アイルランド相
ショーン・ウッドワード
(前北アイルランド相)
デービッド・ミリバンド
影のスコットランド相
アン・マッケチン
(前スコットランド省政務次官)
エド・ミリバンド
影のウェールズ相
ピーター・ヘイン(前ウェールズ相) エド・ミリバンド

(*) 労働党の党首選は、代替投票制(Alternative Vote)と呼ばれる投票システムを採用している。このシステムでは、有権者は、投票用紙上で、当選してほしいと思う順番を候補者の名前の横に書く。この表では、各議員が、どの候補者を第一順位(最も当選してほしい候補者)に指定したかを示している。

Source: Labour Partyほか


兄は長年の党首最有力候補

このほど行われた労働党党首選には、当選したエド・ミリバンド氏(40)の実の兄であるデービッド・ミリバンド氏(45)も立候補していたが、次点に終わった。デービッド氏は、2001年の下院議員当選以来、労働党の次期党首の最有力候補と言われ続けていた優秀な政治家であり、ブラウン政権下では、40代の若さで外務相まで務めあげた。今回の党首選では、大半の人がデービッド氏の当選を確信していたため、エド氏の選出は、大きな驚きをもって迎えられた。

この兄弟は、同じ大学の同じコースで学んだなど共通点が多いが、政界入りしてからは、デービッド氏はブレア派、エド氏はブラウン派と、異なる陣営を選んでいる。労働党の中でもデービッド氏は中道右派、一方のエド氏は左派と言われる。

兄は影の内閣への立候補断念

今回の党首選の最終結果は、エド氏がデービッド氏にわずか1.30%の得票差で勝つという接戦だった。労働党の党首選は、①下院議員・欧州議会議員 ②党員 ③労働組合など労働党の関係組織という3つのグループにそれぞれ3分の1ずつ票を割り当てるというルールになっている。このうち、①と②のみの開票ではそれぞれデービッド氏がトップであったが、労働組合からの支持が強いエド氏は、③からの票でデービッド氏を大きく引き離した。このため、エド氏は、当選したと言っても議員や党員から信任を得ているとは言い難く、指導者として党をまとめるには困難が伴うとの声が当選直後から聞かれた。

党首選の結果発表後間もなく、デービッド氏は、労働党の影の内閣の選挙に立候補せず、一般議員の立場に戻る意向を明らかにした(*)。デービッド氏は、この決定を伝える声明で、その理由に、自分が影の内閣に入れば、エド氏との「個人的確執」ばかりが取り沙汰され(たとえ確執が存在しなくても)、エド氏が新党首として党を率いる妨げになると考えたことを挙げていた。

エド氏は10月8日、新党首としての最初の大仕事として、影の内閣の任命を行い、アラン・ジョンソン前内務相を影の財務相に選んだのを始め、党首選でデービッド氏を含む自分以外の候補者を支持した議員を数多く重要ポジションに配置した。ここには、党首選で誰の支持者だったかに関わらず、一致団結して党を再建させようとするエド氏の意図が明確に示されていると解釈された。

「新しい世代」が党を率いると強調

党首選発表の3日後、労働党の党大会で行った演説でエド氏は、これまでとは違った考えと姿勢を持った「新しい世代」が今後の労働党をリードすると強調した。保守党は、デービッド氏より政治家としての経験が浅く、「小物」なエド氏を好敵手として捉えていないとも言われるが、ともあれ、13年間の政権期間中に失われた有権者の信頼を回復し、労働党を次の総選挙での政権奪取に導くという目標に向け、新党首の戦いはまだ始まったばかりである。


(*) 影の内閣の任命に関する労働党のルールは、まず同党の下院議員及び欧州議会議員による投票で影の内閣に入ることができる議員を決定し、その後、当選者の中から党首が各役職への任命を行うというものである。

Philosophy, Politics and Economics(PPE)

哲学、政治、経済を同時に学ぶことができる大学または大学院のコース。オックスフォード大学で1920年代に設置されたのが始まりで、今では英国内のみならず、世界各国の様々な大学にPPEのコースがある。エド・ミリバンド労働党党首、その兄のデービッド・ミリバンド同党議員を始め、英国の政治家にはオックスフォード大学のPPE出身者が多く、デービッド・キャメロン首相、ウィリアム・ヘイグ外務相、ピーター・マンデルソン前ビジネス・改革・技術相、エドワード・ヒース元首相などが含まれる。

(猫)


 

新ドラマ「ダウントン・アビー」の人気の理由

コスチューム・ドラマはなぜ受ける?
新ドラマ「ダウントン・アビー」の 人気の理由

大邸宅の中でたくさんの召使いたちに囲まれて登場するのは、華麗な衣装に身を包んだ美しい男女たち。「コスチューム・ドラマ」は、英国のテレビ文化におけるお家芸の一つだ。ITVの新ドラマ「ダウントン・アビー」を例に取り、その魅力に注目する。

Downton Abbey

あらすじ 1912年、イングランドのカントリー・ハウス(関連キーワード参照)「ダウント ン・アビー」で暮らすグランサム伯爵一家とその召使いたちが過ごす数年間を描く。グランサム卿の跡継ぎに予定されていた人物が、沈没したタイタニック号に乗船していたことが分かり、一家は大パニックに。グランサム卿には娘しかおらず、遠縁に当たるマシュー・クローリーが邸宅を引き継ぐことになったからだ。「よそ者」に財産を引き渡したくないグランサム卿の母と妻は、策謀をめぐらすようになる。日曜午後9時、ITV1で放映中。

ドラマ「ダウントン・アビー」の主な登場人物(写真左から)

使われる人

1. カーソン氏 執事。食料品、ワイン用地下室、食堂を統括し、男性の使用人の相談役を務める。少年時代からダウントン・アビーで働き出し、米国人のグランサム伯爵夫人をあまり信頼しない一方で、夫人の長女メアリーを自分の孫娘のように思っている。舞台の芸人として働いていた過去を持つ。

2. ヒューズ夫人 ハウス・キーパー。邸宅の管理に責任を持つ。女性の使用人の相談役。カーソン氏を尊敬する。

3. オブライエン グランサム伯爵夫人の小間使い。意地悪な独身女性。人生のすべてを投げ打って生きてきた。自己保身の意識が強い。

4. パットモア夫人 料理人。ほかのどの使用人の指揮下にもないと自負している。

5. デイジー 台所手伝い。使用人の中で一番下の位。ドジを踏んでばかりいる。トーマスの真意に気付かないまま、恋をしてしまう。

6. グエン 家政婦。伯爵夫人の末娘シビルと仲が良い。

7. ウィリアム 第2下僕。頭が弱く、トーマスに使われてしまう。使用人のデイジーを慕っている。

8. ジョン・ベーツ 従者。グランサム伯爵の命令のみを受ける。元兵士で、ボーア戦争のときにグランサム伯爵とともに戦った。片足を負傷しているため、いじめられやすい。使用人アンナに好意を持っている。

9. アンナ 思慮深い家政婦長。結婚の時期を逃したかもしれないと考えている。伯爵夫人の娘たちの面倒も見る。ベーツに同情を感じている。

10. トーマス 第1下僕。ほかの使用人を見下ろす。出世する機会を常に探している。同性愛者。小間使いのオブライエンと親しい。


使う人

11. マシュー・クローリー グランサム卿のいとこ。父は医者。弁護士としてマンチェスターで働く。働いていること自体をグランサム伯爵夫妻は侮辱と受け取っている。グランサム伯爵の称号とダウントン・アビーを引き継ぐことになる。

12. 前グランサム伯爵未亡人バイオレット グランサム伯爵の母。嫁のコーラにとっては我慢ならない存在。世継ぎとなるクローリー一家の中流階級らしい対応にいらつくが、孫娘のメアリーと結婚させて財産を守ろうとする。

13. グランサム伯爵ロバート ダウントン・アビ ーの存続を心から願う、良心的当主。財政難のため富裕な米国人女性コーラと結婚して30余年。娘3人。長女といとこの息子が結婚してアビーを引き継ぐことを予定していたが、タイタニック号が沈没して計画の変更を迫られる。亡父の取り決めで、跡継ぎは遠縁の男性に。

14. グランサム伯爵夫人コーラ 米シンシナティ州の億万長者の娘。グランサム伯の爵位と邸宅ダウントン・アビーは男性が引き継ぐという姑の決定を、そのうち自分は息子を産むだろうと想定して、楽観的に受け取っていた。しかしこれが実現せず、今は娘たちが富裕な人物と結婚するよう、日々画策している。

15. イザベラ・クローリー マシュー・クローリーの母。亡夫は医師で、亡くなった父も医師だった。中流階級の出身だが、教育水準はグランサム伯爵夫人コーラや未亡人バイオレットより高い。バイオレットと衝突する。

16. 長女メアリー 知性的で美しい。父のいとこの息子パトリックと秘密裏に婚約していたが、パトリックがタイタニック号沈没で亡くなるという悲劇に。より良い結婚相手を探している。

16. 次女エディス 姉の婚約者パトリックを想っていた。姉メアリーを嫌い、新たな跡継ぎの男性を利用してメアリーに復讐しようとする。

17. 三女シビル 政治、社会的意識が高い。女性の参政権獲得を支持。家族のいざこざには関わらないという姿勢を保つ。


コスチューム・ドラマとは

民放テレビ局ITV1で、英国の貴族が住む大邸宅を舞台にした新ドラマ・シリーズ「ダウントン・アビー」が、9月末から始まった。時は第一次大戦勃発直前となる1912年。巨大な庭付きの、お城のような邸宅に住み、毎朝、寝室から使用人を鈴一つで呼びつける貴族の贅沢な暮らしがテレビ画面を通して映し出されていく。優雅な暮らしを続けるグランサム伯爵一家を支えるのは、階段を上り下りしながら忙しく働く使用人たちだ。「使う人」と「使われる人」と いう対照的な関係にある2つの階級に属する人々の暮らしを描いた人間ドラマである。

「ダウントン・アビー」は、登場人物たちが、ある特定の時代の衣装を身につけて演技するという意味で、典型的な英国のコスチューム・ドラマの一つであろう。描かれる時代や舞台の種類は千差万別。古代の戦闘映画「ベン・ハー」(1959年)、名優エリザベス・テーラーが出演した「クレオパトラ」(1963年)、シェークスピア作品「マクベス」(1971年)、タイタニック号沈没を扱ったレオナルド・ディカプリオ主演の「タイタニック」(1997年)などの名作の数々がコスチューム・ドラマに当たる。

ジェーン・オースティンが代表格

英国のコスチューム・ドラマの中でも一つのお家芸の域に達しているのが、18世紀から20世紀初頭の時代を背景として描いた、中上流階級の恋物語と人間ドラマであろう。その代表格は、何といっても「高慢と偏見」「マンスフィールド・パーク」などの小説で知られる英国が誇る女流作家ジェーン・オースティンの作品を原作としたものだ。現代からすれば少々窮屈そうな装束に身を包んだ男女が、直接的な表現が許されない時代の制約を受けながらも、最後はそれぞれの幸せな場所を見付けていくという物語は、現代人の心にも強く響く。

コスチューム・ドラマには、「ダウントン・アビー」に象徴されるような、使用人を使う側と使用人として使われる側の対比というテーマも、繰り返し登場する。1971年〜75年にかけてITVが放映した「アップステアーズ、ダウンステアーズ」は、ロンドンにある大邸宅を舞台に、「アップステアーズ=使用人を使う階上側の世界」と「ダウンステアーズ=階下での使用人の世界」を描いた。このITV放映のドラマの続編を、BBCが同題名で年内に放送する予定と言われている。

根強い人気の理由

コスチューム・ドラマは、なぜ人気があるのだろう。時代ものドラマの専門サイト「ピリオド・ドラマ」は、「視聴者が現実を忘れて、 没頭できる」ことを人気の理由に挙げている。つまり、「別世界」を体験させてくれるというのだ。多くの人にとって、上流階級の暮らしや贅沢な所持品さらには装束は、手の届かない、憧れの存在である。そういった生活を、ドラマを通して垣間見ることで、たとえ一瞬でも自分もその世界の中で生きているような気分になる。その一方で、使われる側の人間ドラマに共感を抱く人も多いだろう。コスチューム・ドラマは、階級制度の名残が残る、英国らしい楽しみの一つとなっているようだ。

English Country House

16世紀以降、英国の農村・田園地帯に貴族・地主層が建設した大邸宅。建築様式によって「ホール」「カースル」「パーク」「アビー」などと呼ばれる。18〜19世紀における都市の地主層は、週末に田園地帯のカントリー・ハウスで友人らと休息を取り、狩りなどを楽しんだ。20世紀以降、工業化の進展や2度の大戦の影響で跡継ぎや使用人を失い、次第に没落。また荘園からの農業収入の減少や邸宅資産への高額の税金も問題となり、やがて多くのカントリー・ハウスが売却あるいは解体された。現存しているのは1500から2000と言われる。

(小林恭子)

 

公的機関職員の高額報酬が明らかに

BBCの時事番組が公表
公的機関職員の高額報酬が明らかに

公共部門の幹部職員に対する高額報酬の支払いは、前労働党政権下でも問題視されていたが、連立政権が財政赤字解消のため公共支出削減を加速させようとしている昨今、より一層、関心を集めるようになっている。そんな中、BBCの看板番組が先ごろこの問題について取り上げ、大きな反響を呼んだ。

公的機関の幹部職員の高額報酬リスト

総合トップ10

  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. BBC マーク・トンプソン 83万8000ポンド
(約1億1061万円)
会長
2. BBC ジャナ・ベネット 51万7000ポンド
(約6824万円)
BBCビジョン局長
3. BBC マーク・バイフォード 48万8000ポンド
(約6441万円)
副会長
4. NHSヒリンドン初期治療トラスト(ロンドン・ヒリンドン区) 非公表 47万5000ポンド
(約6270万円)
一般開業医(GP)
5. NHSハート・オブ・バーミンガム教育・初期 治療トラスト(バーミンガム市) 非公表 47万5000ポンド
(約6270万円)
一般開業医(GP)
6. BBC ティム・デイビー 45万2000ポンド
(約5966万円)
音声・音楽局長
7. BBC ザリン・パテル 43万4000ポンド
(約5728万円)
財務担当最高責任者
8. BBC キャロライン・トムソン 41万9000ポンド
(約5530万円)
業務執行担当最高責任者
9. BBC エリック・ハガーズ 40万7000ポンド
(約5372万円)
新メディア・テクノロジー局長
10. NHSウェストミンスター初期治療トラスト(ロンドン・ウェストミンスター区) 非公表 40万6060ポンド
(約5359万円)
一般開業医(GP)

部門別トップ3

中央政府
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. 国防省 ジョック・スティラップ 28万8700ポンド
(約3810万円)
英軍最高司令官
2. 保健省 デービッド・ニコルソン 27万8800ポンド
(約3680万円)
イングランドNHS最高責任者
3. 公正取引局 ジョン・フィングルトン 27万7500ポンド
(約3663万円)
最高責任者

地方自治体
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. ロンドン・ワンズワース区 ジェラルド・ジョーンズ 29万9925ポンド
(約3959万円)
事務総長
2. ケント州 ピ−ター・ギルロイ 24万3388ポンド
(約3212万円)
事務総長
3. ロンドン・ニューアム区 ジョー・ダックワース 24万1483ポンド
(約3187万円)
事務総長

警察
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. ロンドン警視庁 ポール・スティーブンソン 28万489ポンド
(約3702万円)
警視総監
2. ロンドン警視庁 ティム・ゴッドウィン 24万6969ポンド
(約3259万円)
副警視総監
3. ウェスト・ヨークシャー警察 ノーマン・ベティソン 21万7956ポンド
(約2877万円)
警察署長

外郭団体
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. オリンピック実行委員会 デービッド・ヒギンズ 39万ポンド
(約5148万円)
最高責任者
2. 原子力廃止措置機構 トニー・ファウンテン 36万5000ポンド
(約4818万円)
最高責任者
3. オリンピック実行委員会 ハワード・シプリー 34万4000ポンド
(約4540万円)
建設局長

教育(大学を除く)
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. エセックス州 非公表 23万2500ポンド
(約3069万円)
非公表
2. タイドミル・スクール(ロンドン・ルイシャム区) マーク・エルムス 23万1400ポンド
(約3054万円)
校長
3. サウスフィールズ・コミュニティー・カレッジ (ロンドン・ワンズワース区) ジャクリーン・バリン 19万8406ポンド
(約2618万円)
校長

大学
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン マルコム・グラント 37万6190ポンド
(約4965万円)
学長
2. ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン 非公表 36万5000ポンド
(約4818万円)
非公表
3. リバプール大学 非公表 34万3000ポンド
(約4527万円)
副学長

BBC
  所属組織 名前 年間報酬額
役職名
1. BBC マーク・トンプソン 83万8000ポンド
(約1億1061万円)
会長
2. BBC ジャナ・ベネット 51万7000ポンド
(約6824万円)
BBCビジョン局長
3. BBC マーク・バイフォード 48万8000ポンド
(約6441万円)
副会長

*調査の方法*
BBCの報道番組「パノラマ」が、「調査報道協会」と協力のうえ、2400の公的機関に対し、「2000年情報自由法(Freedom of Information Act 2000)」を利用して、09年度または08年度に基本給が10万ポンド(約1320万円)を超えた職員の姓名、性別、報酬の詳細に関する情報を請求した。基本給のほか、賞与などその他の支払額、金銭以外の現物支給の報酬などについても情報を請求した。返答が得られなかった場合は、当該組織の年次報告書等を参照した。
なお、表中の円表示はすべて1ポンド=132円で計算した。

Source: BBC, Bureau of Investigative Journalism

年間報酬が首相以上は9000人

BBCの報道番組「パノラマ」は先月、公的機関の幹部職員に高額の報酬が支払われている問題について取り上げ、これら職員のリストを発表した。リストは、同番組が2400の公的組織について調査した結果であり、「報酬」には、基本給与、賞与、その他の支給額が含まれる。調査によると、年間報酬がキャメロン首相より多い公的機関の幹部職員は、英国全体で約9000人に上った。首相の年間報酬は現在、14万2500ポンド(約1881万円)である。年間報酬が10万ポンド(約1320万円)以上の幹部職員は約3万8000人、20万ポンド(約2640万円)以上は約1000人に達した。

番組では、街中で一般市民にこの結果について意見を聞く場面が放映され、公的機関の職員がこのような高額給与を得ている事実に対し、「暴力なしで強盗を働いているようなもの」などと非難する声が聞かれた。新聞などの報道も、「本当にこの9000人の幹部職員に首相以上の価値があるのか」といった批判的な論調が少なくなかった。

首相の給与は判断基準になるか

その一方で、「首相の給与」を、これらの人々の報酬が法外に高いかどうかを判断する基準にすることを疑問視する声もあった。前労働党政権のブラウン前首相は今年初め、国会議員の経費スキャンダルを受けて国民の間に広まった政治不信を払拭する試みとして、自身の給与を19万7000ポンド(約2600万円)から15万ポンド(約1980万円)へと減給した。更にキャメロン政権は、政権発足と同時に、首相を含む全閣僚の給与を5%削減している。これらの過程を経て、首相の給与額は現在の14万2500ポンドという額に行き着いたのであるが、このように減給が繰り返された結果の額を、重責を伴う公的機関の幹部職員の報酬が高額過ぎるかどうかの物差しにするのは適切ではないとの声も聞かれている。

政府は公的部門の高額給与抑制へ

今回のBBCの報道とは関係なく、連立政権は既に、公共部門の幹部職員への高額報酬支払いに歯止めをかける方針を掲げている。前述した内閣の給与5%カットも、まず大臣自らが「見本」となるべく行われたものであった。連立政権が政権発足直後に発表した政策基本方針文書には、「今後、公的組織が、首相の給与を超える報酬を職員に支払うことを新たに希望する場合は、財務省の承認を必要とする」との条項が含まれていた。連立政権はまた現在、保守党が総選挙マニフェストで掲げていた「すべての公的組織の幹部職員の給与は、同組織で雇用されている職員の最低給与の額の20倍を超えないものとする」との公約の実行方法を探るため、著名な経済学者に独立調査を委託しているところである。

「首相の給与」という基準が適切かどうかという議論は残るにせよ、連立政権による公共支出削減策があらゆる分野に及ぶことが見込まれる中、公的組織の幹部職員に対する高額報酬が抑制の方向に向かうのは当然の流れと言えるだろう。「パノラマ」では、「優秀な人材確保に高額報酬は必須」との自治体関係者の声も紹介されていた。しかし、こうした意見が声高に主張されることも、今後は珍しくなるのかもしれない。

Panorama

BBCの時事ドキュメンタリー番組。第1回放送は1953年11月と、長い歴史を持つ。独自の取材によって様々な問題に鋭くメスを入れる質の高い内容で知られる。特に、95年11月に放映された回で、ダイアナ皇太子妃(当時)が、チャールズ皇太子と自らの不倫を認める発言を行ったことはよく知られている。また、99年に起きた、BBCの女性キャスターのジル・ダンドーさん射殺事件で有罪となり、服役していた男性が、「パノラマ」の取材がきっかけで無実が証明され、釈放につながったこともある。放映時間は月曜の夜8時半〜9時。

(猫)

 

「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」盗聴事件

再捜査の可能性と政界への影響
「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」盗聴事件

著名人への盗聴行為に関わった元記者と私立探偵に有罪判決が下された英大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」盗聴事件に関する新たな証言が最近報じられ、再び注目を集めている。また報道を通じて、タブロイド業界に蔓延する盗聴文化が表面化し始めた。

「ニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOTW)」紙による
主な盗聴事件の経緯

2005年
2月 私立探偵グレン・マルケアが、英プロ・サッカー選手協会(PFA)のゴードン・テイラー会長の通話を盗聴。
11月 英王室に関する盗聴疑惑を報じた記事が発表される。NOTW王室報道記者クライブ・グッドマンが、セント・ジェームズ宮殿のスタッフに対して盗聴の報酬金を支払う。
2006年
1月 ヘンリー王子及びウィリアム王子の携帯電話が不正にアクセスされ、その通話内容が盗聴されていたことをロンドン警視庁が確認。
4、5月 マルケア氏が、ジョン・プレスコット(副首相)、ボリス・ジョンソン(現ロンドン市長)、テッサ・ジョエル(文化・メディア・スポーツ相)などの通話を盗聴。
2007年
1月 マルケア被告とグッドマン被告が不正盗聴を行っていたとして両者に禁固刑が下ったことを受け、NOTWのアンディー・クールソン編集長が辞任。
5月 英メディア委員会「The Press Complaints Commission」が、NOTWの組織的な盗聴行為疑惑を否定。
6月 デービッド・キャメロン保守党党首が、クールソン氏を広報責任者に任命。
2008年
7月 NOTWからゴードン・テイラーPFA会長へ70万ポンド(約9300万円)を支払うことによって、両者間での示談が成立。
2009年
7月 「ガーディアン」紙のニック・デービス記者が、NOTWの記者が私立探偵を雇い組織的な盗聴を行っていたと報道。下院メディア委員会が開催され、デービス記者が証言を行う。
2010年
3月 NOTWが評論家のマックス・クリフォード氏に対して100万ポンド以上の示談金を支払うことと引き換えに、同氏は盗聴事件に関する控訴の棄却に合意。
5月 キャメロン首相が、クールソン氏を首相官邸の広報責任者に任命。
9月 米「ニューヨーク・タイムズ」紙が、クールソン氏がNOTW編集長として在職中、不正な盗聴行為に積極的に関与していたと報道。

盗聴事件の主な被害者たち

氏名 職業/所属
盗聴が発覚した経緯:ロンドン警視庁が確認
ブライアン・パディック ロンドン警視庁
クリス・ブライアント 労働党議員
クリス・タラント TVプレゼンター
ヘザー・ミルズ タレント
ジョン・プレスコット 労働党議員
キーレン・ファロン 騎手
ミス・エックス タレント
ニコラ・フィリップス エンターテイメント
ポール・ギャスコイン サッカー選手
シエナ・ミラー 女優
スティーブ・クーガン 俳優
盗聴が発覚した経緯:携帯電話会社が警告
アンディ・グレイ 元サッカー選手
盗聴が発覚した経緯:ロンドン警視庁が警告
ボリス・ジョンソン ロンドン市長
エル・マクファーソン モデル
ジョージ・ギャロウェイ リスペクト党議員
ゴードン・テイラー 英プロ・サッカー選手協会
ヘレン・アスプレイ 王室
イアン・ブレア ロンドン警視庁
ジェイミー・L・ピンカートン 王室
マックス・クリフォード 評論家
マイク・フラー ロンドン警視庁
パディー・ハーバーソン 王室
ヘンリー王子 王室
ウィリアム王子 王室
レベッカ・ウェイド ニューズ・インターナショナル
サイモン・ヒューズ 自由民主党議員
スカイ・アンドリュー サッカー・エージェント
テッサ・ジョエル 労働党議員
アンディー・クールソン 保守党(広報責任者)
デービッド・デイビス 英サッカー協会
ジョー・アームストロング 英プロ・サッカー選手協会のアドバイザー

Sources: Guardian
※特に断り書きがない限り、肩書きは当時のもの

セレブ被害者
(写真上部左から)へザー・ミルズ、スティーブ・クーガン、ブライアン・パディック (同下部)シエナ・ミラー、ジョン・プレスコット、サイモン・ヒューズ、テッサ・ジョエル、ボリス・ジョンソン、クリス・タラント


盗聴は組織的な犯行か

米「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」紙が、2007年に起きた英大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOTW)」盗聴事件に関する新たな証言を報じたことで、同事件が再び脚光を浴びている。

NYT紙は、元NOTW関係者からのインタビューにより、著名人の携帯電話などへの不正アクセスで有罪判決を受けたグレン・マルケア被告(元私立探偵)とクライブ・グッドマン被告(元NOTW王室報道記者)の盗聴行為は単独的な犯行ではなく、組織的かつ日常的に行われていたと結論付けた。NOTWは社内やグループ会社内で不正行為がまかり通っていたとする同報道を全面的に否定している。英首相府も、デービッド・キャメロン首相の側近で広報責任者を現在務めるアンディー・クールソン元NOTW編集長の関与を改めて否定し、同人は必要があれば警察の事情聴取に応じる意向である旨を発表。しかし、今般の報道で同事件の根底にある問題が散見され始めた。

タブロイド業界に蔓延する盗聴行為

「The Dark Arts」とも呼ばれる盗聴行為は、タブロイド業界の取材活動においては一般的な手段となっているともされる。盗聴は競合他社や他の記者に打ち勝つために必須とされるほど業界内では蔓延していると伝えられ、盗聴が犯罪行為であるとの認識を持つ記者も少ないのではないかという見方もあり、報道そのものの姿勢や道徳観などが問われている。

NYT紙のインタビューに応えた元NOTW記者ショーン・ホール氏は、クールソン元NOTW編集長とはNOTWの姉妹紙「The Sun」の記者仲間であった。ホール氏は、当時からお互いに盗聴による情報交換を行っており、またNOTWの記者時代には、クールソン氏から「(盗聴を)積極的に促された」と証言。今回ホール氏が自らの盗聴行為を告白した理由については「グッドマン(被告)一人に罪を被せるのは不公平だから」としている。

警察の対応と政界の動き

今般の報道を受け、警察当局及び英政界にも動きが見られる。まず、ロンドン警視庁に再捜査を求める声が、被害者であるジョン・プレスコット元副首相からも上がった。警察当局とNOTWとの間に親密な関係があり、07年、マルケア被告とグッドマン被告による不正行為が発覚した際、他にも関与の可能性がある人物や組織の調査を意図的に怠ったとする指摘もある。これに対してロンドン警視庁のジョン・イェーツ警視総監補佐は、「新たな証拠が見付かり次第、捜査を再開する」との見解を表明。また、テレーザ・メイ内務相は、同事件に関しては既に十分な捜査が行われたとし、捜査再開は不要であるという見方を示した。

このような保守党の姿勢を受け、NOTWの発行元「News International」を傘下に置くメディア王ルパート・マードック氏による政治的圧力を指摘する声も上がっている。保守党が政権交代を実現した直後の本年5月18日には、マードック氏が秘密裏にキャメロン保守党党首を訪問して個人的な会合を開いたとも伝えられており、一連の盗聴疑惑が今後、政治事件化する可能性も十分にあるだろう。

Rupert Murdoch

オーストラリア出身のメディア王。父親は新聞王と称された故キース・マードック伯爵。現在、「NOTW」「The Sun」「The Sunday Times」「The Times」の発行元である英「News International」社を傘下に収める複合メディア企業、米「News Corporation社」の会長兼最高経営責任者。1979年サッチャー保守党政権発足と同時に左派主義から保守派支持へ転換し、その後97年、トニー・ブレア労働党政権発足と同時に再び労働党支持へ転換するなど、政治スタンスは日和見主義とも言われる。

(吉田智賀子)

 
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