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Wed, 01 April 2026

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イングランドでフリー・スクールが開校 - 自治体管理下にない半独立校

自治体の管理下にない「半独立校」
イングランドでフリー・スクールが開校

ブレア労働党政権が誕生させた公立校の新しい形態である「アカデミー」は、現在、連立政権に引き継がれ、更にその数が増えている。現政権は同時に、アカデミーと類似した「フリー・スクール」を設置させる方針を決定し、今月、その第一陣が開校した。

フリー・スクール

2011年9月開校のフリー・スクールの例

Ark Atwood Primary Academy
(ロンドン・ウェストミンスター区)
既に英国で複数のアカデミーのスポンサーとなっているチャリティー団体の資格を有する組織「Ark Schools」が運営する小学校。数学、舞台芸術などの指導に重点を置く。
www.arkatwoodprimary.org
Bradford Science Academy
(ブラッドフォード市)
「Kings Science Academy」の名でも知られる中学校。特に科学系の科目に重点を置いたカリキュラムを組む。ブラッドフォード市の科学教師らが設置。
www.kingssa.org
Canary Wharf College
(ロンドン・タワーハムレッツ区)
ロンドンのアイル・オブ・ドッグズ地域における公立学校の不足を受け、子供を持つ親のグループが設立。一クラス20人の少人数制。
www.canarywharfcollege.co.uk
Etz Chaim Primary School
(ロンドン・バーネット区)
ロンドン北部に設置されたユダヤ教系小学校。地元のユダヤ教会である「ミル・ヒル統一ユダヤ教会」と強いつながりを持つ。非ユダヤ教徒も受け入れている。
www.etzchaim-primaryschool.org.uk
Maharishi Free School
(ランカシャー州)
「超越瞑想」と呼ばれる瞑想法を編み出したニュー・エイジ系思想家のインド人、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの名前を冠する小中一貫校。瞑想、ヨガなどをカリキュラムに含む。
www.maharishischool.com
Nishkam Primary School
(バーミンガム市)
バーミンガム市に設置されたシーク教系の小学校。パンジャブ語が必修。非シーク教徒も受け入れ。保育園も付属している。
www.arkatwoodprimary.org
The Free School Norwich
(ノーフォーク州)
男女共学の小学校。働く親を支援するため、授業時間外も、午前8時15分から午後5時45分まで子供を預かる(学校休暇中も含む。ただしこのサービスの利用は有料)。
www.freeschoolnorwich.org.uk
West London Free School
(ロンドン・ハマースミス・アンド・フラム区)
男女共学の中学校。右派系ジャーナリスト、トビー・ヤング氏が創立者に名を連ねる。音楽教育に重点を置くほか、古典教育に力を入れ、14歳までラテン語が必修。
www.westlondonfreeschool.co.uk

フリー・スクールに関するアンケート調査結果

フリー・スクールを設置する政府の方針を支持しますか?
騎馬隊
Source: New Statesman/ICD Research
(2011年5月21、22日に1010人を対象に行った調査の結果)


カリキュラム設定で大幅な自由

2011年9月、イングランドで、新しい形態の公立学校である「フリー・スクール」が24校、開校した。フリー・スクールは、公立校でありながら、地方自治体の管理下に置かれていない「半独立校(semi-independent)」のような形の学校である。公立校で教えるべき必修科目について定めた「ナショナル・カリキュラム」に従う義務がなく、履修科目の設定において大幅な自由を与えられている。また、学期及び1日の授業時間の長さ、教師の給与などの雇用条件、予算の使途なども自由に決めることができる。学校運営に必要な国からの補助金は、通常の公立校のように地方自治体を通すのではなく、中央政府から直接、提供される。

これらの特徴は、労働党政権下に始まった公立校の形態である「アカデミー」と同じである。しかし、アカデミーにないフリー・スクールの特徴は、学校を、親や教師のグループ、チャリティー団体の資格を有する組織、大学、教会など宗教組織、民間企業などが設置する点である。親や教師のグループが学校を新設するというアイデアは、これまで行政機関が行ってきた公共サービスを地域コミュニティーが引き継ぐことを奨励する政府の「大きな社会(BigSociety)」政策の方針と一致する。

14歳までラテン語必修の学校も

フリー・スクールでは、学力に基づいて入学者を選抜することはできない。フリー・スクールへの入学を希望する場合は、通常の公立校の場合と同様、地域の自治体を通して申し込みを行う。

フリー・スクールの設置が可能になったのは、現政府が昨年7月、新法を成立・施行したからである。その後、政府はフリー・スクールの設置申請の募集を行い、様々な団体やグループから323件の応募があった。そのうち24の申請が、審査通過を経て、9月に学校の新設にこぎ着けたのである。

開校した24校は、ほとんどが小学校だが、中学校及び小中一貫校も含まれている。ヒンズー教、ユダヤ教、シーク教、英国国教会などの宗教系の学校も目立つ。特に知られているのが、右派系ジャーナリストであるトビー・ヤング氏が創設者に名を連ねるロンドン西部の「ウェスト・ロンドン・フリー・スクール」で、古典教育に重点を置き、14歳までラテン語が必修科目となっていることなどが話題を集めている。同校は定員120人に対して500人もの応募を集め、人気の高さをうかがわせた。

無資格教師も勤務可

フリー・スクールの利点については、「公立学校に関する選択肢を拡大し、学校間の競争を高め、生徒の学力向上を促す」などの意見がある。一方、主に左派系の人々などからは、「従来の公立学校との格差を生じさせ、公教育に分裂を招く」などの批判の声が上がっている。また、フリー・スクールでは無資格者も教師として勤務することが可能な点を問題視する向きもある。

なお、来年9月に開校されるフリー・スクールの設置申請は既に締め切られており、政府は、今年よりも多くの学校を新設したい考えだという。この新たな試みが、英国の教育にどのような影響をもたらすのかは、非常に興味深い点である。

E-Act

ロンドンに拠点を置く教育サービスの提供を目的とする社会的企業(social enterprise)。チャリティー団体の資格を有する。イングランド内の11のアカデミーのスポンサーとなっているほか、今年9月、ロンドン北東部レッドブリッジ区にフリー・スクールの小学校「Aldborough E-ACT Free School」を開校した。E-Actの会長は、ブレア労働党政権下において教育・技術省(現教育省)でアカデミーの設置業務を担当し、後に英国初の「学校コミッショナー(Schools Commissioner)」に任命されたブルース・リディントン氏である。ウェブサイトはwww.e-act.org.uk

(猫山はるこ)

 

カダフィ・リビア政権崩壊の裏舞台 - 英・リビア関係とその変遷

英・リビア関係とその変遷
カダフィ・リビア政権崩壊の裏舞台

カダフィ大佐の行方が依然として不明の中、トリポリ制圧を果たしたリビア国民評議会(NTC)が合法的政府として稼動し始めた。しかし、半年で5万人以上の犠牲者を出したとされるリビア内戦の裏舞台に英政府関与の可能性が浮かび上がるなど、この内戦の本質が露呈するにはもう少し時間が掛かりそうだ。

リビア年表

独立・英外交断絶
1943年 英仏同盟が伊をリビアから追放
1951年 リビア連合王国が英仏から独立
1969年 カダフィ大佐主導の「9月1日革命」、「リビア・アラブ共和国」に国名改称
1977年 社会主義リビア・アラブ・ジャマーヒリーヤ国」に国名改称
1984年 英国人警察官殺害事件を受け、英がリビアとの外交関係断絶
国際社会からの孤立
1986年 米がリビア軍施設などに爆撃(ベルリン・ディスコ爆破事件などに対する報復)、対リビア経済制裁発動
1988年 パンナム機爆破事件(スコットランドのロッカビー上空でパン・アメリカン航空103便が爆発、米リビア爆撃に対するリビア人による報復)
1989年 仏UTA航空機爆破事件(サハラ砂漠にUTA航空772便が墜落、リビア人容疑者による爆破)
1992年 国連安保理が対リビア制裁決議
1998年 児童集団HIV感染事件(パレスチナ人医師とブルガリア人看護師が容疑者)
国際社会への復帰
1999年 国連安保理が対リビア制裁一時停止。英・リビア外交関係が修復
2002年 パンナム機事件アブデルバセト・アル・メグラヒ被告に終身刑判決
2003年 国連安保理が対リビア制裁解除。リビアが国連人権委員会議長国に選出、大量破壊兵器開発計画廃棄を宣言
2004年 ブレア英首相(当時)がリビア訪問
2006年 米・リビア外交関係修復、リビアの「テロ支援国家」指定が解除
2007年 児童集団HIV感染事件の容疑者が釈放
2008年 ライス米国務長官(当時)がリビア訪問(米政府高官としては1957年以来)
2009年 国連総会議長国、アフリカ連合(AU)議長国に選出パンナム機事件メグラヒ受刑者が温情的措置により釈放(英石油大手BPの関与疑惑が浮上)
2010年 アラブ連盟(LAS)議長国に選出。パンナム機事件メグラヒ受刑者の釈放に関し、英政府とリビアの間で取引が行われた疑惑が浮上



2010年5月、中国の北京で胡錦涛国家主席(写真右)
と握手するリビアのムーサ・クーサ外相(当時)(同左)

Picture by: Yemen Lens/AP/Press Association Images


8月22日、反政府勢力の首都制圧で、歓喜に沸くトリポリ市民たち
Picture by: Picture by: Alexandre Meneghini /AP/Press Association Images


敵の敵は味方?

リビアにおける反政府デモ発生直後の今年3月末、英政府は、ムーサ・クーサ・リビア元外相(元リビア対外情報局長)が外相職を辞任し、英国に亡命(カダフィ政権離反)したと発表した。そして今月3日、同元外相と英情報局秘密情報部(MI6)との協力関係を示す文書が、同元外相の事務所で発見された。

1979年、在英リビア大使として赴任したクーサ元外相は、1988年パンナム機爆破事件や2007年リビア児童HIV感染容疑者釈放などの和解交渉における主要な役割を担ったことから、次第に欧米政府との距離を縮めていったようだ。

同文書によると、MI6と米中央情報局(CIA)が、リビアのイスラム系武装組織「リビア・イスラム戦闘集団(LIFG)」のアブデル・ハキム・ベルハジ元指導者を含むテロ容疑者をリビアに搬送し、同国情報機関に尋問を委託していた疑いも浮上。これに対しキャメロン英首相は5日、「英国の信用に汚点を残さないため」調査を実施するとしている。しかしここで看過すべきでないのは、ベルハジ元指導者がリビア国民評議会(NTC)軍事部の現トリポリ司令官であり、カダフィ政権崩壊の一翼を担った人物であることだろう。

リビアと英国の協力関係

英・リビア両情報局の協力関係は、2003年のリビアの大量破壊兵器放棄に向けた和解交渉を機に始まった可能性が高い。その翌年にはブレア元英首相が、1943年以来初となる英首相のリビア訪問を果たしている。また、英陸軍元帥のリビア派遣提案なども行われたとみられており、双方が一定期間の蜜月を有していたことは確かだろう。ただ、今回の民衆蜂起の波を、カダフィ政権の潮時と見なしたクーサ元外相が英国のドアを叩いたのか、それともリビアの政権移行を商機の到来とみた英国が同元外相に亡命を教唆したのかは不明だ。しかし、双方の利害が一致していたことは言うまでもない。

英政府がNTCを唯一の代表政府であると宣言した7月27日から間もない先月23日、反カダフィ勢力は首都トリポリを制圧し、事実上、42年間続いたカダフィ政権が瓦解した。一部報道は、トリポリ襲撃は英空軍及びMI6によるNTCへの戦略助言が功を奏したとし、英政府の関与を報じている。

リビア内戦の本質とは

今月1日に開かれた、リビア再建築を話し合う英仏共同主催の「友好国会合」。会合に出席したキャメロン首相はこの際、カダフィ政権崩壊を達成したのは多国籍軍ではなくリビア国民だとした上で、「リビアをイラクのようにはしない」と宣言した。

一方、石油大手のアラビアン・ガルフ(Agoco)幹部は、「伊・仏・英企業など欧米諸国との取引には問題はないが、ロシアや中国、ブラジルとの間には政治的な問題がある」と発言。軍事支援国に対して優先的な処遇を図る姿勢を示した。また、仏ジュペ外相が、仏や英の企業が恩恵を受けることは「正当で当然」と述べるなど、早くも石油利権争奪戦に突入したことを示唆する展開がみられている。いずれにせよ、リビア内戦の本質を明かす端緒を開くには、一定程度の時間を要するだろう。

リビア国民評議会
(NTC / National Transitional Council)

ムスタファ・アブドルジャリル議長(大統領格)、マフムード・ジブリール執行委員会委員長(首相格)。2月27日、カダフィ政権成立前に首都であった北東部ベンガジにて結成、3月5日、リビアにおける唯一の代表政府である旨を宣言。穏健イスラムで民主的なリビアの構築を目指す。8月25日、カダフィ政権の崩壊に伴い、拠点をベンガジから首都トリポリに移動。今月20日、米ニューヨークにて第2回友好国会合を開催予定。20カ月後を目処に大統領を選出する国民投票の実施を予定している。

(吉田智賀子)

 

鉄道料金が8%値上げの見込み - 来年1月から、定期券などに影響

来年1月から、定期券などに影響
鉄道料金が8%値上げの見込み

地下鉄やバスのみならず、通勤・通学に鉄道を使っている方も少なくないはずだが、鉄道を頻繁に利用する人にとってはうれしくない運賃値上げの見込みのニュースが最近、報道された。既に欧州で最も高いと言われている英国の鉄道運賃であるが、更なる値上げの可能性に、一般庶民からは大きな批判の声が上がっている。

鉄道サービスに関するアンケート調査結果

鉄道運賃引き上げについて
鉄道サービス関するアンケート調査結果


英国の鉄道料金はサービスに見合っていると思うか
英国の鉄道料金はサービスに見合っていると思うか

Source: YouGove / The Sunday Times
(2011年8月18、19日、成人2464人を対象に調査を実施)


ロンドン中心部行きの1年間のシーズン・チケット
(定期券)の値段

出発駅 2011年の値段 8%値上がりした場合の値段
Beckenham Junction
(ロンドン南東部)
£1,128 £1,218
Eltham (ロンドン南東部) £1,128 £1,218
Graversend (ケント州) £2,792 £3,015
Erith (ロンドン南東部) £1,632 £1,762
Orpington (ロンドン南東部) £1,632 £1,762
Sidcup (ロンドン南東部) £1,432 £1,546
Tunbridge Wells (ケント州) £3,748 £4,047
Tonbridge (ケント州) £3,408 £3,680
Sevenoaks (ケント州) £2,816 £3,041
Source: National Rail

英国の鉄道


来年から3年間は大幅な値上げ可能に

先日、来年初頭から鉄道運賃が大幅に引き上げられる見込みであるとのニュースが伝えられた。鉄道の運賃は、料金設定に運輸省の規制がある「規制運賃」と、規制のない「非規制運賃」の2種類に分かれる。「規制運賃」が適用される乗車券には、1カ月、1年などの期間を決めて買えるシーズン・チケット(定期券)、混雑していない「オフピーク時」に使える長距離移動用乗車券などがある。「規制運賃」及び「非規制運賃」はともに、毎年1月に変更される。

「規制運賃」については、2004年から2011年まで、前年7月の小売物価指数(RPI)に最高1%まで上乗せした値上げが認められていた。しかし、現政権は昨年10月、2012年からの3年間は、RPIに最高3%まで上乗せした値上げを認める方針を明らかにした。8月中旬に発表された今年7月のRPIは5%であったため、来年1月から、多くの鉄道会社が、「規制運賃」を8%引き上げる見込みとなったのである。

しかも、労働党政権が政権末期に廃止し、現政権が復活させた「フレックス」と呼ばれる制度の下、一部の乗車券については、8%以上の値上げが行われる見込みである。同制度では、「規制運賃」が適用される乗車券の一部について、RPIプラス3%に更に最高5%上乗せした値上げ率を適用することができる。つまり、来年は最高13%までの値上げが可能なのである(ただし、「規制運賃」が適用されるほかの乗車券に、RPIプラス3%より低い値上げ率を適用し、「規制運賃」が適用される乗車券全体の値上げ率がRPIプラス3%(2012年の場合は8%)を超えないことが条件)。なお、「非規制運賃」は、鉄道会社の裁量で値上げ率が決定される。

値上げの背景に財政赤字削減

政府が、値上げ率の許容幅を、RPIプラス1%からプラス3%にまで引き上げた理由は、新車両の投入、新鉄道「クロスレール(Crossrail)」の建設、テムズリンク鉄道(Thameslink)の拡張などの鉄道サービスの改善に向けた資金を調達するためである。現在、国が鉄道サービスに投入している補助金は年間約46億ポンド(約5750億円)だが、政府は、財政赤字削減のため、これを同10億ポンド(約1250億円)削減したい意向である。そのため、鉄道サービス改善の資金は、運賃を値上げし、鉄道利用者から調達するしかないということらしい。

消費者の家計圧迫する通勤費

実際に鉄道各社が来年1月からの値上げ率を発表するのは今年11月であるが、特に郊外からロンドン中心部へ鉄道で通勤している人などからは、「食費や光熱費の値上がりで家計が圧迫されているのに、更に通勤費が上がるようではやっていけない」などの悲鳴の声が既に上がっている。

テリーザ・ヴィリアーズ鉄道担当閣外相によると、政府は、長期的には鉄道運営経費の削減を目指しており、それに成功すれば、インフレ率を超える鉄道運賃値上げを行うことは止めたい意向であるという。これがいつ実現するのかは分からないが、それまで消費者は、高い鉄道運賃に我慢するしかないのであろうか。

注: 本稿で述べた鉄道料金値上げ率は、イングランドのみに適用される。


National Rail

「 鉄道運営会社協会(ATOC)」が使用している、英国の鉄道旅客輸送サービスの総称。ATOCとは、かつてブリティッシュ・レール(BritishRail)が提供していた旅客輸送サービスを担う鉄道会社の代表団体であり、ブリティッシュ・レールの分割民営化を受けて1993年に創設された。英国の一部の地方にある地下鉄やトラムなど(ロンドン地下鉄、ドックランズ・ライト・レールウェイ、マンチェスターのメトロリンク、イングランド北西部タイン・アンド・ウィア地方のメトロなど)は、ナショナル・レールのネットワークに含まれない。
ウェブサイトはwww.nationalrail.co.uk

(猫山はるこ)

 

イングランドの暴動の原因とは - 抗議運動か、憂さ晴らしだったのか

抗議運動か、憂さ晴らしだったのか
イングランドの暴動の原因とは

8月上旬、ロンドン東部トッテナムで発生した放火や略奪行為などの「暴動」は、その後の数日間でロンドン各地からイングランド中部バーミンガム、北部マンチェスターにまで飛び火した。小学生の児童から子を持つ親までが参加したこの暴動では、3000人近くが逮捕され、5人が命を落とすほどの事態に発展。その背景を探ってみる。

なぜ暴動が発生したと思いますか? (複数回答可)

親のしつけが悪い 52%
ギャング団の横行 47%
犯罪行動の蔓延 46%
刑罰の軽さ 45%
不公平な社会・貧富の格差 16%
失業 13%
教育程度の低さ 13%
政府による公的費用の削減 12%
若者が参加できる活動が少ないこと> 8%
人種問題 6%
警察の治安維持が不十分 6%

主な暴動の発生地

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Picture by: Lewis Whyld/PA Wire/Press Association Images
8月7日未明、暴徒により火をつけられた
ロンドン北部トッテナムのカーペット販売店


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Picture by: Lewis Whyld/PA Wire/Press Association Images
トッテナムで8月7日、顔を覆い、警官と対峙する暴徒



抗議活動から暴動に発展

いまだ記憶に新しい、イングランド各地での暴動のきっかけとなったのは、8月4日、黒人コミュニティーにおける銃犯罪を捜査していた警察が、ロンドン東部トッテナムで29歳の男性、マーク・ダガン氏を射殺した事件であった。この日、タクシーに乗っていたダガン氏は、警察官が発した銃弾を胸に受け、翌日早朝に死亡している。

6日夕方、遺族や住民らがトッテナム警察の前に集まり、ダガン氏の死をめぐる状況について、警察からの説明を求めた。地元住民たちは以前から警察に対する強い不信感を持っており、ダガン氏が十分な理由なく殺害されたと感じた者たちは、警察署近辺で抗議デモを実施したところ、夜が更けるに伴い、一部が過激化。パトカー、バス、店舗などに放火や襲撃を行うようになった。

止められなくなった略奪行為

報道によれば、その後ロンドンの他地域さらにはイングランド各地に連鎖していった放火・略奪行為は、自然発生というよりも、携帯電話ブラックベリーのテキスト・メッセージやソーシャル・メディアなどを通じての呼び掛けに呼応したものとの見方が強い。そして、暴動の拡大に警察や消防隊の対応が追いつかず、暴徒たちは誰にも止められることなく、略奪行為を続けることができた。

夏期休暇中だったキャメロン首相やジョンソン・ロンドン市長は、急遽、英国に帰国し、事態の収拾に乗り出さざるを得なくなった。ロンドン警視庁は鎮圧に当たる警察官の数を大幅に増員。8月末までに約3000人が逮捕され、5人が暴徒に襲われて命を落とす事態となった。襲撃を受けた商店街の被害総額は、2億ポンド(約252億円)に上ると言われている。

モラルの低下が原因か

低所得者や有色人種が多く住むロンドン東部では、1980年代にも何度か暴動が発生している。このため、これらの暴動は、失業問題、所得格差、人種問題などを背景にした、社会から疎外された人々による一種の抗議運動であったと当初は解釈されていた。しかし、暴徒には白人住民や、教師、大富豪の令嬢などが含まれていたことが判明。多くの人が、暴動の原因として「親のしつけの悪さ」「ギャング団の横行」「犯罪行動の蔓延」などを挙げている。また「エコノミスト」誌は、「モラルの低下が英国の少数の若者たちを支配している」との見解を示した。

キャメロン首相は、警察が地元の治安維持について、より責任を持つようにすること、家庭や学校で善悪の価値判断を教えること、第二次大戦時の徴兵制に似た仕組みを立ち上げた上で若者たちに山登りなどをさせるといったことを通じて、責任感や自制心を培うようにしたい、と述べている。暴動の原因の究明や再発防止策の実行は、今後の大きな政治課題となるだろう。

本件においては、数日間にわたって、多くの英国民が、いとも簡単に社会の秩序が破壊される様子を目の当たりにすることになった。地元コミュニティーを破壊する違法行為に簡単に手を染める若者や大人が相当数いることを示した一連の暴動は、英社会の闇を垣間見せた事件だった。


Hooligan

フーリガン。酒やドラッグを摂取して暴れる人々または頻繁に暴徒と化す、スポーツ・チームのファンといった意味がある。1960年代に英国のサッカー・ファンによる暴力事件が問題視されるようになり、現在では「暴徒と化す、スポーツ・チーム特にサッカー・クラブのファン」との意味合いで使われることが多い。8月に発生したイングランド地方の暴動事件では、暴徒をフーリガンに例える論説が多く見られた。その語源については諸説あり、ロンドンに住んでいたお酒好きのアイルランド人男性、パトリック・フリーハンの名に端を発するなどの説がある。

(小林恭子)

 

政府が電子請願サイトを開設 - 署名が10万超で下院審議の可能性

署名が10 万超で下院審議の可能性
政府が電子請願サイトを開設

政府や自治体に住民が要望や意見を述べることができる「請願」という制度は昔から存在するが、現在はそれがインターネット上で行えるようになっている。前労働党政権の試みに続き、現在の連立政権もこのほど、電子請願のウェブサイトを開設し、既に多くの請願が集まっている。

政府の電子請願サイトに掲載されている請願の例

請願の内容 署名数
(2011年8月15日現在)
最近のロンドンでの暴動に参加し、有罪となったすべての者から、福祉手当受給権を剥奪する。 202,164
政府による燃料税引き上げ案を廃案にする、ガゾリンの価格確定安定化の仕組みを導入するなどの方法により、ガソリン価格を引き下げる。(*) 35,110
死刑を禁止する現行制度を維持する。 22,514
無料で視聴できるチャンネルによるすべてのF1レースのテレビ中継を継続する。(**) 18,487
英国の欧州連合()離脱の是非を問う国民投票を実施する。 15,853
死刑制度を復活させる。 15,231
最近の英国各地での暴動に参加し、有罪となったすべての者から、福祉手当受給権を剥奪する、それらの者が英国籍保持者でない場合、本国に強制送還する。 7,567
大麻を合法化する。 5,328
公共図書館の価値が国・地域レベルで認識され、政府が公共図書館を支援することを求める。 4,965
同性愛者の男性が輸血のドナーとなることを禁止する現在の取り決めを撤廃する。 3,662

(*) 保守党の下院議員が提出した請願
(**) 現在、F1レースの中継はBBCのみが行っているが、最近、2012〜2018年の中継は、BBCに加え、有料チャンネル「スカイ・スポーツ」が行うことが発表されたことを受けた請願

Source: HM Government


前労働党政権が運営していた電子請願サイトに掲載された、 ちょっと変わった請願の例

BBCの車情報番組「トップ・ギア」の司会者、ジェレミー・クラークソンさんを
英国の首相にする。

赤毛の人にのみ、英国に住むことを許可する。

80年代のニュー・ロマンティック系バンド、スパンダー・バレエの代表曲「Gold」を
英国の国歌にする。

動物病院での動物の治療費を付加価値税(VAT)の免除対象とする。

政府は、絶滅した動物のクローン作成、繁殖を行う。

コンピューターのキーボードでの「Caps Lock」キーの使用を違法にする。




政府の情報ポータル・サイト「ダイレクトガブ」の内部に設置されたサイト「e-petition」 (http://epetitions.direct.gov.uk



請願の提出は誰でも可能

政府は今月4日、電子請願(e-petition)のウェブサイトを立ち上げた。政府の情報ポータル・サイト「ダイレクトガブ」の内部に設置されたこのサイト(http://epetitions.direct.gov.uk)では、一般の人は誰でも、政府に実行してほしいと思う事柄を、請願として提出することができる。請願は、政府の職員によってチェックされ、問題がないと判断されれば、同ウェブサイト上に掲載される。人に不快感を与えたり、個人の中傷に当たるような請願、また政府に関係がないと思われる内容の請願などは、掲載されない。

請願は、1年間にわたってウェブサイトに掲載され、内容に同意する人は、サイト上で署名できる。10万人以上の署名が集まった請願は、下院の「一般議員議事特別委員会(Backbench Business Committee)」に差し向けられ、同委員会は、それら請願の内容について、下院で審議を行うかどうかを決定する。

政府が電子請願サイトを開設したのはこれが初めてではない。前労働党政権は、トニー・ブレア氏が首相を務めていた2006年、首相官邸のウェブサイト内で、同様の電子請願サイトを立ち上げた。しかし、同サイトは、2010年の総選挙前に閉鎖。今回新たに始まった電子請願サイトは、国民の大きな関心を集め、開設日には、アク セスが殺到してサイトが何度も不具合を起こすほどであった。

電子請願サイトに関する懸念とは

今回の電子請願サイトの開設に対する肯定的な意見には、「国の政治行政に関して有権者が意見を述べる場を提供し、議会と有権者のつながりを深める機会を創出する」などといったものがある。

一方、否定的な意見としては、特に右派的思想を持つ人々が、自らの主張を振りかざす道具として同サイトを使うのではとの懸念がある。例えば、今回のサイトの開設日には、死刑制度復活を求める請願が多くの署名を集めたが、これは、右派的思想を持つ有名ブロガーが、ネット上で同請願への署名を訴えたことが背景にある と言われている。同サイトには現在、英国の欧州連合(EU)離脱に関する国民投票の実施を求める請願や、移民の流入数制限を求める請願なども掲載されている。

また、最近、ロンドンなど英国各地で暴動が発生した際は、「暴動に参加し、有罪となった者から福祉手当受給の権利を剥奪する」ことを求める請願が掲載された。この請願への署名数は、同ウェブサイトに掲載された請願の中で初めて10万人を超え、前述のように、下院での審議の可否を決めるため、一般議員議事特別委員 会に差し向けられた。

旧サイトでは首相の辞任求める請願も

ちなみに、労働党政権下で開設されていた電子請願サイトで多くの署名を集めた請願には、車両に対する道路通行料課金制度導入案に反対するもの、ゴードン・ブラウン前首相の辞任を要求するものなどがあった。中でも道路通行料制度反対の請願は、実に180万人もの署名を集め、当時大きなニュースとなった。今後、英国の政治や社会情勢の変化に合わせて、どのような請願が提出され、多くの人の署名を集めるのか、観察してみるのも面白いだろう。

 


Directgov

2004年に開設された政府の情報ポータル・サイト。「教育・学習」「育児」「家・コミュニティー」「移動・交通」「雇用」「犯罪」「医療」「若者」「自動車」「家計・税・福祉手当」などを含む多くの分野に関して、政府及び自治体が提供するサービスを中心に、様々な情報提供を行う。例えば「育児」の項では、託児所や保育園、ナニーやチャイルド・マインダーの探し方などが紹介されている。「家計・税・福祉手当」の項では、自分がタックス・クレジット(tax credit)を受給できるかどうかのチェックなどができるようになっている。サイトのアドレスはwww.direct.gov.uk

(猫山はるこ)

 

情勢不安と飢饉に苦しむ - 無政府国家ソマリアの実態

情勢不安と飢饉に苦しむ
無政府国家ソマリアの実態

過去20年間無政府状態であるソマリアは、内戦、干ばつ、支援不足という三重苦に見舞われている。首都モガディシュや南部を実効支配するアルカイダ系組織アッシャバーブが、国際社会からの食糧援助を阻止し飢饉を深刻化させたとみられるなど、ソマリア問題は人災の様相を呈しているとも言える。

ソマリアの勢力分布図

増加するソマリアの難民数*

ソマリアの難民数
*ソマリア難民・庇護者累計数 資料: 国連UNHCR協会

ソマリア年表

宗主国東アフリカ分割
1860年代 仏がソマリア沿岸部(現ジブチ)を支配
1889年 伊がソマリア中央部を保護領化
1940年 伊が英保護領ソマリランド(現ソマリア北部)を支配
1941年 英が伊保護領ソマリランド(現ソマリア南部)を支配
 
独立・国境問題
1956年 伊保護領ソマリランドが「ソマリア」と改名し自治権確保
1960年 英・伊保護領が合併し「ソマリア連合共和国」として独立
1970年 バーレ大統領がソマリア社会主義国家を宣言
1974年 干ばつによる飢餓発生
1977年 オガデン戦争勃発(ソマリア軍によるエチオピア東部オガデン地方侵攻)
1988年 エチオピアと和平合意
 
内戦・分裂
1990年 バーレ政権の支持派勢力ハウイヤ氏族主体の「統一ソマリア会議(USC)」が反政府組織を設立
1991年 バーレ大統領追放。USCからアリ新大統領が選出されるも内戦勃発。
北部イサツク氏族主体の「ソマリ国民運動」が旧英領「ソマリランド」から独立宣言
1992年 国連ソマリア活動(UNOSOM)と米主導軍(UNITAF)が駐留開始
1994年 自治政府「イスラム法廷連合(UIC)」が形成され、勢力拡大。米軍撤退
1995年 UNOSOM撤退
1998年 北東部「プントランド」が自治領宣言(ハルティ氏族ユスフ大統領)
2000年 暫定国民政府樹立(ハウィエ氏族ハッサン大統領)
2001年 南部干ばつで飢餓
2003年 アブドゥルカシム暫定国民政府が崩壊
 
海賊問題・イスラム勢力台頭
2005年 暫定連邦政府(TFG)が成立(ユスフ大統領:プントランド大統領が辞任)
2007年 UICがエリトリアで「ソマリア再解放連盟(ARS)」結成
2008年 アルカイダ系組織「アッシャバーブ」が南部を制圧
TFGとARSの穏健派グループが「ジブチ合意」に署名
2009年 エチオピア軍撤退、アッシャバーブがバイドアを掌握
シェイク・シャリフ(ハウィエ氏族ARS穏健派)が大統領就任、国家非常事態宣言
2010年 アッシャバーブがアルカイダと正式同盟宣言し、首都モガディシュを事実上掌握
ソマリア沖海賊による被害が過去最多に

英政府の対ソマリア政策

ソマリア全域とエチオピアの一部を占めるアフリカ大陸北東部は、過去60年で最悪の干ばつと世界的な食料価格の高騰による食 料飢饉に見舞われている。特に、過去20年にわたり内戦状態にあるソマリアでは、隣国への難民数が約87万人、5歳未満の乳幼児の餓死数は過去90日間で2万9000人に上ったとの報告もある。

7月22日、イングランド中西部バーミンガムのソマリア人コミュニティーを訪問したキャメロン首相は、英政府がこれまでソマリアに対し9000万ポンド(約112億円)の支援金を提供したことに触れ、「EU諸国も英国のように人道支援に着手するときだ」と訴えた。英国内のソマリア人は、2009年に10万人を超え、バーミンガム、ボルトン、ハル、リバプールなどを中心にコミュニティーが拡大している。一方、英国内ソマリア人の就学・就業率は英移民社会で最も低く、また、移民同化問題や若年層のイスラム過激派への取り込みなどが懸念されることからも、今後のソマリア情勢が英内政に影響を及ぼす可能性も否めない。

破綻国家ソマリア

1970年に誕生したバーレ社会主義政権は、大ソマリア主義構想の下、国内のソマリ族に属する6氏族を統合して中央政権国家を確立するため、氏族主義禁止政策を打ち出した。これに対し、各地の氏族による反政府運動や分離独立運動が活発化し、氏族間争いから内戦へと発展した。

更に80年以降、内戦と干ばつの影響を受けたソマリア難民支援のため、国際社会からの食糧援助が首都モガディシュに集中した。これにより、都市と地方の間で経済格差を巡る抗争が激化するなど、人道支援が内戦を複雑化させてしまうという皮肉な結果となった。

また1991年にバーレ政権が失脚すると、イスラム法学者などで形成された自治政府「イスラム法廷連合(UIC)」が勢力を拡大させて国土の大半を支配するようになるが、不寛容な原理主義を遂行し次第に軍事色を強め、やがて内部分裂を起こした。その軍事組織として派生した一派が、現在国内最大勢力で首都及び南部を実効支配する国際テロ組織アルカイダ系「アッシャバーブ」である。

アッシャバーブと人災飢饉

ソマリアでの深刻な食糧飢饉の背景には、アッシャバーブが2010年に同国から国連世界食糧計画の活動を撤退させるなど、国際支援団体の活動禁止や物資の輸送阻止、及び支援団体職員の誘拐や殺害を繰り返したことで海外からの支援が届かなくなったことがある。しかし、本年7月、アッシャバーブは支配地域内における国際支援団体の活動禁止措置を取り下げ、更に8月6日には首都モガディシュから撤退した。これを受け暫定連邦政府当局は、アフリカ連合軍の激しい攻撃による勝利としているが、アッシャバーブは「一時的な戦術の変更」とし、依然として一部残党が抗争を継続しているとみられる。暫定連邦政府は「ソマリア全土を開放する」と意気込みを示し、また国際社会による援助も円滑化されると楽観視する声もあるが、8月8日にはアッシャバーブの犯行と見られる車両自爆テロが首都南部で発生するなど、諸手を挙げて戦勝を語るには時期尚早であろう。

Al-Shabaab

アッシャバーブ。イスラム法に基づく厳格なイスラム社会の形成を目指す組織。故ビン・ラディン容疑者の資金提供により形成されたイスラム武装勢力「イスラム連合(AIAI)」のアウェイス指導者が、2006年頃、イスラム法廷連合(UIC)の軍事部門として組織化。UIC内部分裂により、2009年にUIC穏健派シャイフ政権への攻撃宣言、2010年にウガンダ首都カンパラでサッカーのワールド・カップ観戦者を狙った爆弾テロ事件の犯行声明を発出するなどしている。2011年7月現在、ソマリア国内最大有力イスラム武装組織であり、現指導者はイブラヒム・アルアフガニ(アフガン人とみられる)。

(吉田智賀子)

 

来年度の年金掛け金の案が発表に - 公共部門職員の年金制度改革

来年度の年金掛け金の案が発表に
公共部門職員の年金制度改革

6 月末、学校教師を主とする公共部門職員によるストライキが実施された。大きなニュースとなったあのストは、政府による年金制度改革に反対して行われたものであった。しかし、現場の職員や労働組合の反発にも関わらず、改革を進める政府の意志は固いようであり、更なるストの懸念も高まっている。


6月30日、年金制度改革への反対を表明するため、ロンドン中心部
ウェストミンスター地区をデモ行進する公共部門職員の人々



政府の省職員、教師、NHS職員が支払う年金掛け金の引き上げに関する提案

政府の省職員(内閣府発表案)

年間給与額 2012年度に年金掛け額が給与に
占める割合の2011年度比
£15,000 以下 ± 0%
£15,001 〜 £21,000 ± 0.6%
£21,001 〜 £30,000 ± 1.2%
£30,001 〜 £50,000 ± 1.6%
£50,001 〜 £60,000 ± 2.0%
£60,000 以上 ± 2.4%


教師(教育省発表案)

年間給与額 2012年度に年金掛け額が給与に
占める割合の2011年度比
£14,999 以下 ± 0%
£15,000 〜 £25,999 ± 0.6%
£26,000 〜 £31,999 ± 0.9%
£32,000 〜 £39,999 ± 1.2%
£40,000 〜 £74,999 ± 1.6%
£75,000 〜 £111,999 ± 2.0%
£112,000 以上 ± 2.4%


NHS職員(保健省発表案)

年間給与額 2012年度に年金掛け額が給与に
占める割合の2011年度比
£15,000 以下 ± 0%
£15,001 〜 £21,175 ± 0.6%
£21,176 〜 £26,557 ± 0.6%
£26,558 〜 £48,982 ± 1.2%
£48,983 〜 £69,931 ± 2.0%
£69,932 〜 £110,273 ± 2.3%
£110,273 以上 ± 2.4%

Source: Cabinet Office, Department for Education, Department of Health



あなたは政府による公共部門職員の年金制度の改革を支持しますか?


(2011年6月27〜28日、2573人の成人を対象に実施した調査の結果)

Source: YouGove/The Sun




独立の委員会が改革案を提示

2010年5月に誕生した保守党と自由民主党の連立政権は、公共部門職員の年金制度の改革を進めている。改革の着手に当た り、政府はまず、昨年6月、公共部門職員の年金制度改革の方法について調査する独立の委員会を設置。前労働党政権で年金・雇用相を務めていたジョン・ハットン氏を議長に任命した。委員会は、2010年10月及び2011年3月にそれぞれ発表した調査の中間報告書及び最終報告書で、「公共部門職員が支払う年金掛け金の額を引き上げる」「公共部門職員の年金受給開始年齢を、国民年金の受給開始年齢と同一にする」「年金支給額を退職前の最後の給与に基づいて計算する従来の制度を廃止し、代わりに『キャリア・アベレージ・ペンション・スキーム』と呼ばれる制度を導入する」ことなどを含めたいくつかの提案を行った。

掛け金額引き上げ率は3年で平均3.2%

政府は、改革案のうち、公共部門職員が支払う年金掛け金の引き上げについては、2012〜14年度の3年間にわたって行う意向である。この計画の実施に向けて、内閣府、教育省、保健省は7月下旬、政府の省職員、教師、国民保健サービス(NHS)職員が支払う年金掛け金の来年度における引き上げ率の案を発表した。引き上げ率は、年金掛け金の額が給与に占める割合で示されており、給与が年間1万5000ポンド(約195万円)を超えない職員については、引き上げ率がゼロ。給与が多い職員ほど引き上げ率が高くなり、2012年度の最大の引き上げ率は2.4%となっている。

給与に対して年金掛け金が占める割合は、2014年度までの3年間で、最終的に平均3.2%引き上げられる計画であり、2012年度分の引き上げ分は、そのうちの4割を占めることになる。今回発表された提案については、10月末までの12週間にわたり、意見集約作業が行われている。

職員は反発の声、ストの可能性も

公共部門職員については、政府の公共支出削減策の一環として、2011、12年度の2年間にわたり、給与額が凍結されている(ただし年間給与が2万1000ポンド未満の職員を除く)。物価高の中、給与が頭打ちで、更に年金の負担も増えるとの見込みに対しては、多くの公共部門職員から不満の声が上がっており、労働組合からは、大規模なストライキを警告する声も聞かれている。今年の6月末、年金改革に反対する主に学校教師によるストが各地で行われ、一部の学校が休校するなどの影響が出たが、次のストは、実施されれば前回を遥かに凌ぐ規模になると予想されている。

こうした声に対し、政府は、「高齢化社会が進む中、年金制度改革は必至。それに、たとえ改革が実行されたとしても、公共部門職員の年金は、民間に比べらればかなり恵まれている」と反論している。しかし、掛け金の額が引き上げられれば、多くの公共部門職員が年金制度から抜け、年金積立額の減少につながるとの懸念もあり、政府は難しい舵取りを迫られている。ともあれ、公共部門職員の年金制度改革の問題は、今後もしばらく、大きなニュースであり続けるであろうことは間違いなく、その行方が大いに注目されるところである。

Unison

英国の大手労働組合。1993年、公共部門職員の労働組合であった「地方自治体職員協会(NALGO)」「全国公共部門労働組合(NUPE)」「医療サービス職員連盟(COHSE)」が合併して結成。組合員数は約130万人と、英国の労働組合で2番目に多い。組合員の大半は、地方自治体職員、教師、NHS職員、警察官などの公共部門職員である。英国全土の12の地方に、地方ごとの本部があり、雇用、労働問題全般に関するサポートなどを行っている。現在の幹事長は、NALGOの元副幹事長であるデーブ・プレンティス氏。www.unison.org.uk

(猫山はるこ)

 

ブリティッシュ・ガスなど大手が発表 - 電気・ガス料金が軒並み値上げ

ブリティッシュ・ガスなど大手が発表
電気・ガス料金が軒並み値上げ

食料品やガソリン代の値上げなど、昨今の物価高は誰にとっても頭の痛い問題であるが、これに加え、電気・ガス料金についても最近、大手各社から次々と値上げが発表されている。「燃料貧困」の状態にある家庭の更なる増加も懸念されており、光熱費の高騰は、人々の大きな関心事となっている。

最近の電気・ガス料金の値上げ

最近の電気・ガス料金
Source: BBC


イングランドで「燃料貧困」の状態にある世帯数

「燃料貧困」の状態にある世帯数
Souce: English Housing Survey (DCLG), The Poverty Site


光熱費比較サイト

光熱費比較サイト

光熱費比較サイト
uSwitch」(上)「TheEnergyShop」(下)


5分の1の世帯が「燃料貧困」

最近、電気・ガス会社による料金の値上げの発表が相次いでいる。今年6月には、エネルギー大手スコティッシュ・パワーが、8月1日よりガス料金を19%、電気料金を10%引き上げることを明らかにした。同社で電気とガスの両方を利用している顧客の利用料金は、平均で1日48ペンス(約62円)も引き上げられることになる。また、7月には、ブリティッシュ・ガスとスコティッシュ・アンド・サウザン・エナジーがやはり値上げを発表。ブリティッシュ・ガスは、8月18日より、ガス料金を18%、電気料金を16%値上げする。ブリティッシュ・ガスは、昨年12月にも、ガス料金を6.9%、電気料金を6.7%引き上げたばかりであり、度重なる値上げに利用者からは怒りの声が上がっている。また、スコティッシュ・アンド・サウザン・エナジーは、9月14日より、ガス料金を18%、電気料金を11%、引き上げる。3社はいずれも、値上げの理由に、卸売価格の上昇を挙げている。

このように光熱費値上げの発表が続く中、英国では今後更に、「燃料貧困(fuel poverty)」の状態にある家庭が増えることが懸念されている。英国では、家の暖房、お湯の使用などに掛かる支出が、所得の10%以上を占めている場合、「燃料貧困」の状態にあると定義される。エネルギー・気候変動省が7月中旬に発表したところによると、2009年に「燃料貧困」の状態にあった世帯は、前年比で100万世帯増加して、550万世帯に上った。これは、英国の全世帯数の実に5分の1に当たる。同省は、今年末までに、イングランドだけでも更に10万世帯が「燃料貧困」の状態に陥ると予測している。

利用が勧められる光熱費比較サイト

折からの物価高で既に家計が圧迫されている中での光熱費の値上がりは、どの家庭にとっても喜ばしくないニュースであるが、今以上に光熱費が家計の負担となることを避けるため、消費者が取れる手段として勧められているのは、光熱費の比較サイトを使った電気・ガス会社の変更である。こうしたウェブサイトには、「uSwitch(www.uswitch.com)」、「TheEnergyShop.com(www.theenergyshop.com)」などがある。これらのサイトでは、現在使用している電気・ガス会社、利用料金、郵便番号などを入力すると、今よりも安い他社のプランが表示され、更に、画面上でそれらの電気・ガス会社への変更手続きが行えるようになっている。

ガス料金は5年間で122%増

電気・ガスの小売業界は、冒頭で挙げた3社を含む「ビック・シックス」と呼ばれる6社が市場の大半を独占している状況にある。そして、残る3社(エヌ・パワー、イー・オン、EDFエナジー)も、ブリティッシュ・ガスなどに続いて、近く値上げを発表すると予測されている。

エネルギー・気候変動省によると、2004年から2009年までの間で、英国のガス料金は約122%、電気料金は約75%も値上がりした。こうした数字を見ても、来年、再来年、その翌年と更に電気・ガス料金の値上げが続いていくであろうことは簡単に予測し得ることであり、消費者は、臨機応変に対応するのに越したことはないだろう。

Green Deal

政府が来年から実施を予定している、一般家庭、企業などのエネルギー消費量削減と光熱費節減を目的としたプログラム。その内容は、政府から許可された民間企業が、一般の家屋、事業所などに、断熱材を入れる、ソーラー・パネルや省エネ型ボイラーを取り付けるなどのエネルギー効率性改善を目的とした工事を行う。利用者は、工事費を前払いする必要はなく、工事終了後、分割払いで支払う。支払額は、電気代、ガス代の料金に加算される。これら工事によって、電気・ガスの使用量が減り、光熱費が下がるため、工事費の分割支払額を加算されても利用者の負担にならないという構想。
 

渦中のマードックが買収を断念 - BスカイBとはどんな会社?

渦中のマードックが買収を断念
BスカイBとはどんな会社?

米メディア大手ニューズ・コーポレーションは、13 日、英衛星放送BスカイBの完全子会社化を断念すると発表した。傘下に置くニューズ・インターナショナル社が発行していた新聞での電話盗聴事件が深刻化したことを受けての措置。同社によるB スカイB の完全子会社化を阻止する大きな動きが政界で発生し、買収をあきらめざるを得なくなった。今週は、このB スカイB というメディアに注目した。

プラカード
Picture by: Clive Gee/PA Wire/Press Association Images
マードック氏によるBスカイB買収反対運動を行う人々によって
掲げられたプラカード

B スカイB の主要株主

株主 所持比率(%)
ニューズ・コーポレーション 39.14
ブラックロック・インク 4.63
キャピタル・グループ 4.27
フランクリン・リソーシズ 3.19
フランクリン・リソーシズ(別部門) 3.06
リーガル&ゼネラル 3.06

英国主要メディアの規模比較

企業・団体名 総収入
( 億ポンド)
主なビジネス
BT リテール 84 複合メディア
B スカイB と
ニューズ・インターナショナル
64 複合メディア
B スカイB 54 複合メディア
ヴァージン・メディア 38 複合メディア
BBC 36 放送
デーリー・メール& GT 21 新聞
ITV 19 放送
ニューズ・インターナショナル 10 新聞
チャンネル4 8 放送
トリニティー・ミラー 8 新聞
ジョンストン・プレス 8 新聞
ファイブ 3 放送
テレグラフ・メディア・グループ 3 新聞
ガーディアン・メディア・グループ 3 新聞
(資料: エンダース・アナリシス社の分析を基に作成。数字は主に2009年)

マードックが渇望したBスカイB

「メディア王」との異名を持つルパート・マードックが最高経営責任者を務める米国の複合メディア企業ニューズ・コーポレーション(ニューズ社)は、1年ほど前から、英国の衛星放送BスカイBの完全子会社化(現在は39%の株を所有)を計画していた。その間、ニューズ社は、監督機関などからメディアの多様性を阻害する動きと見なされないように、BスカイBのニュース部門を別会社とする考えを提案するなどして、同社の完全買収に向けて着々と歩を進めていたのである。

ところが、7月上旬に事態が急変する。2005年に発覚した、ニューズ社傘下の日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」での電話盗聴疑惑が深刻化したことで、国民の大きな怒りの矛先がマードックにも注がれるようになったのだ。これで、BスカイBの完全子会社化を承認する見通しであったとされる政府側も、態度を硬化せざるを得なくなった。13日には下院で、ニューズ社によるBスカイBの完全買収の是非をめぐっての議論が行われる予定となっていたが、この議論の開始前に、ニューズ社が「現状では買収計画の実現は困難になった」との考えを発表するに至った。

BスカイBの設立とマードック

現在、約1000万人のサービス加入者を誇るBスカイBは、英国最大の衛星放送テレビ局となっている。その発足は1990年。78年にロンドン近辺における平日の放送権を持っていた「テムズ・テレビ」と呼ばれる企業の元職員ブライアン・ヘインズ氏が、欧州全域向けに放送する衛星テレビ「SATV」の放送を始めた。同氏は英国内での放送免許を持っていなかったので、事実上の海賊放送であった。

しかし、80年代に入ると、ヘインズ氏は資金難を理由として、同事業の株の80%を、ほんの1ポンドで、マードックが経営するニューズ・インターナショナル社に売却することになる。そしてマードックは同事業の名称を「スカイ・テレビジョン」へと変更した。

80年代後半には、「英国衛星放送(ブリティッシュ・サテライト・ブロードキャスティング、BSB)」と呼ばれるテレビ局に、放送業界の監督機関が英国内に向けた衛星放送の免許を与えたが、技術上の問題の解決に時間がかかり、放送はなかなか開始できないでいた。その間にマードックが、それまで欧州向けの放送だったスカイを英国向けの放送局に変更。続いてBSBが90年4月に放送を開始したことでBSBとスカイは競争状態となったが、巨大な初期投資などが負担となって、両社ともにすぐに青息吐息の経営状態となった。そこで同年11月に両社が合併し、BスカイBが成立した。

買収案はまだ生きているとの見方も

ニューズ社がBスカイBの買収を断念したことで、この買収を見込んでいた投資家たちはおよそ2億ポンド(約256億円)相当の損をしたと伝えられている。確実視されていた同社からの利益を手にできなくなった機関投資家や株主からの訴訟が起きる可能性もあるとの報道もある。一方で、完全子会社への買収提案は、ほとぼりが冷めた時点で再開される、という見方も強い。いずれにしても、同社をめぐる今後の動きに注目だ。

News Corporation

米国の複合メディア大手企業。オーストラリア生まれの実業家ルパート・マードックが主要株主で、会長兼最高経営責任者。英国の新聞タイムズ、米ニューヨーク・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルを含む新聞業、映画会社20世紀フォックス、米テレビのFOXテレビジョンなど、複数のメディア媒体を傘下に収める。オーストラリア南部アデレードで1979年に設立。2004年、米デラウェア州で再設立し、本拠地を米ニューヨークへと移動。英国の現地法人がニューズ・インターナショナルとなっている。ウェブサイトはwww.newscorp.com

(小林恭子)

 

流血止まぬシリア革命の行方 - シリアとイランの連携強化か

流血止まぬシリア革命の行方
シリアとイランの連携強化か

シリア軍による反政府デモ隊弾圧で死者1万人以上、避難民2万人(国境待機の1万人含む)を出しているシリア情勢は緊迫の一途をたどっている。逃げ道を失いつつあるアサド政権は、イランやヒズボラとの連携を強化させ、現体制維持とデモ鎮圧に向かって歩み始めているようだ。

デモ発生地

シリア年表

仏統治下
1918年 400年にわたるオスマン帝国支配が終焉
1920年 仏の統治下に置かれる
1936年 仏がシリア独立を承認するも、経済支配と仏軍の駐留は維持
1946年 仏軍が撤退
   
アラブ連合と中東戦争
1958年 エジプトとともにアラブ連合共和国を建国
1961年 シリアがアラブ連合を離脱
1967年 イスラエルによるパレスチナ統一、シナイ半島とゴラン高原の軍事占領を受け、6日間戦争(第三次中東戦争)勃発
1971年 ハーフェズ・アル・アサド大統領が選出
1973年 イスラエルと10月戦争(第四次中東戦争)勃発(1981年にイスラエルがゴラン高原を併合)
1976年 シリア軍がレバノン進駐(レバノン内戦干渉)
   
対ムスリム同胞団
1980年 イラン革命(1979年)の影響を受け、アレッポ、ホムス、ハマなどでイスラム教徒による暴動が勃発
1982年 ハマ虐殺勃発(シリア軍がムスリム同胞団とその支持者を大量虐殺)
   
アサド新政権誕生
1994年 アサド元大統領の後継者候補、長男バジル氏が事故死。英国留学中の次男バッシャールが帰国
2000年 父ハーフェズ・アル・アサド大統領の死去に伴い、バッシャール・アル・アサド大統領が就任
   
国際関係問題
2002年 米国がシリアを「悪の枢軸(北朝鮮・イラン・イラク)」に追加表明
2003年 イスラエル軍が首都ダマスカス近郊のパレスチナ過激派キャンプを爆撃
2005年 レバノンのハリリ元大統領が暗殺。レバノン駐留全シリア軍が撤退
2006年 イスラエル軍がレバノン侵略(対ヒズボラ)
2007年 国民投票でアサド大統領再選。イスラエル軍がシリア北部を爆撃(核原子炉建設疑惑)
2008年 ダマスカスで中東和平サミット(シリア、仏、トルコ、カタール)を開催
2010年 イランの協力を受けシリア国内での核原子炉建築、及びレバノンのヒズボラに対する武器支援疑惑などが浮上
   
国内情勢不安
2011年
1月 ヨルダン、レバノン、トルコと経済協力に関する会合が開催
3月 アサド大統領の辞任などを訴える反政府デモと警察が衝突。内閣総辞職で国民に融和姿勢を示唆
4月 48年続いた国家非常事態令が解除
5月 米・欧州連合がシリア政府及び高官に対する制裁措置を決定
6月 アサド大統領が政治改革推進を強調。ただし、反政府デモ弾圧継続を示唆
7月 中部ハマに米・仏大使が訪問し、デモ隊への支持を表明

シリア
Picture by: Nader Daoud/AP/Press Association Images
6月17日、ヨルダンのシリア大使館前で
アサド政権退陣要求デモに参加する女性

英国の対シリア政策

シリア地元紙は、6月26日、親シリアのニューマーク英保守党議員がアサド大統領に「シリアの治安維持と安定が不可欠」と述べたとし、英政府のアサド政権支持を示唆するとも解し得る会談内容を報じた。同発言は、英政府のシリア政策に対する誤解を招くとし、野党などからは、同会談を了承したヘイグ外相の責任を問う声が高まっている。

シリア国内で民衆蜂起が勃発した3月以降、少なくとも1100人の民間人が殺害されたとの国連報告を受け、「英国は黙っていない」と強硬な姿勢を示したキャメロン首相に続き、ヘイグ外相もアサド大統領に対して「改革」か「辞任」かの選択を迫る発言をしていた矢先の政治的失態とも言える。一方、ニューマーク議員の発言は、アサド大統領による政治改革(レバノン問題や国内の汚職追放)や近隣諸国との経済関係強化といったこれまでの功績を評価する専門家の意見を代弁したものとの見方もある。

シリアとイラン、そしてヒズボラ

1990年代、眼科研修医としてロンドンのセント・メアリーズ大学病院に留学していたアサド大統領が、2000年にシリア大統領に就任し、01年には英国生まれのシリア女性と結婚したことで、シリアは親欧米路線に転換したとも報じられた。しかし、1967年と73年に領土問題を巡りイスラエルと2度戦争を経験したシリアは、79年のイラン革命で反米・イスラエルに転じたイランと急速に連携を強めていったという歴史的背景がある。また80年代、レバノンでの対イスラエル抗争などを経て、シリアは、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの支援も開始した。

このように、イランとの結束を強化していったシリアは、2001年の9月11日の米国同時多発テロ発生以降、ブッシュ前米大統領に「悪の枢軸」の烙印を押され、テロとの闘いに巻き込まれる。

アサド大統領への助け船

本年1月、アサド大統領は、チュニジアとエジプトの民衆蜂起は中東新時代の幕開けだとし、アラブ諸国の指導者は積極的な改革をする必要があると語った。しかし、6月の演説では、バース党一党独裁を規定した憲法条項の見直しを含む政治改革推進を強調した半面、自身の退陣や権限の制限に関しては言及せず、反政府デモ隊に対する弾圧への継続を示唆するなど、懐柔策と強硬路線を維持する姿勢を示した。

シリアは、アサド大統領が所属するイスラム教シーア派に属するアラウィ派(全国民の約1割)が、スンニ派(同約8割)、及び少数派 のクルド系、アルメニア系、キリスト教徒、ドゥルーズ派などを統治するモザイク国家であり、状況次第ではイラク同様の宗派間抗争に発展する危険性を指摘する声もある。また、シリアからトルコ南東部への避難民は既に1万人を超え、特にクルド系難民は今後トルコの国内問題に発展する危険性を孕んでおり、シリアと友好関係構築を試みてきたトルコのエルドアン首相もついにアサド政権を非難し始めた。窮地に追い込まれたアサド大統領を救出すべくペルシャ湾を出航した助け船は、更なるデモ弾圧に向けて舵を取ったのかもしれない。

Hizballah

ヒズボラ。イスラエル軍によるレバノン侵略を受けて、1982年に同国南部で結成されたイスラム教シーア派組織「神の党」。ハッサン・ナスララー議長。イスラエル国家の打倒と、イラン革命を模範とした汎イスラム国家樹立を掲げる。シリアとイランの資金・軍事援助を背景に勢力を拡大。2005年にハリリ元大統領暗殺関与疑惑でヒズボラ幹部が起訴された一方、本年7月7日、レバノン国民議会は、閣僚30人のうちヒズボラが主導する会派「3月8日運動」が過半数を占めるナジブ・ミカティ新内閣を正式に信任。今後、レバノン内政にイランとシリアの影響が拡大する可能性が高い。

(吉田智賀子)

 
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