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Sat, 17 August 2019

第101回 金融面からみた現不況の特色 —銀行と証券—

今回の不況の顔

不況やバブルは、ある程度時間が経つと必ずやってくるが、いつも同じ顔をしているわけではないので、事前に予測することが難しい。またその処方箋も、訪れた患者の特色を見極めなければ、適切に書くことはできまい。

今回の世界的な不況の特徴は、銀行が、企業の経営内容を金融面から把握できなくなっているということだ。企業の負債は、銀行貸出から債券、株式、またその両者のハイブリッドへと変化し、そうした負債そのものが、銀行のバランス・シートからも外され(オフバランス化)、銀行は借り手企業の経営状態を財務諸表などの数字でしか判断しなくなった。格付機関による格付けも数字を基本とし、表面的な面談でしか企業の経営状態を判断していない。

そしてオフバランス化された負債を証券化した商品を買っていたヘッジ・ファンドも、統計的な損失に対しては興味を示しても、商品の中身である負債や企業の経営自体への興味が十分でなかった。つい1年程前までロンドンの一等地メイフェアに多数存在していたヘッジ・ファンドのオフィスを筆者もよく訪問したが、オックスブリッジ出の経営者たちは、コンピューター・モデルと統計処理に長けていても、人間を見ていないような若者が多かった。これが金融面において、銀行が借り手企業の実態把握をできなくなっていった原因である。


借り手企業側の変化

一方、借り手企業側も、銀行が持つチェック機能の低下をよいことに、企業グループ内に金融子会社(場合によっては銀行を作ることもある。こういう子会社はロンドンかニューヨークに作られることが多い)を作り、企業グループ内での資金の決済や調達を行うようになった。これによって銀行は、看板となる企業の経営内容は分かるが、金融子会社も含めた企業グループ全体の資金繰り状況は極めて見えにくくなった。

企業側は、銀行の貸出審査を通じてあれこれ口出しされるのは愉快ではないから、こうしたグループ内の企業金融を拡充させた。そのグローバルな動きが、米国はもとより、欧州、日本の大企業においてこの10年で相当加速した。

この構図、どこかで見たことがある。日本の不良債権問題で大きな問題となった、銀行のノンバンク問題である。今は、それが借り手企業のノンバンク問題となっている。3月末の決算期に向けて、特に日本の企業は資金繰りに大わらわだ。看板の企業は、自社のみならず、企業グループ内の金融子会社の資金の面倒までみなければならない。生産が急減し、売上金が入ってこないと、企業は急激に資金繰りに窮する。売り上げがなければ、原材料費、電気代、給料を払うことができない。さらに加えてそれまで資金調達した金を運用していた金融子会社が、資産を売れないということが致命的になる。

こうした大企業の資金繰りは今までは銀行が面倒をみていたが、企業が証券を使った資金調達に動いた後に起きた今回の局面では、銀行による企業金融の実態把握力は大きく低下してしまっている。もとより証券会社=投資銀行は、企業の証券による資金調達のための手伝いはするが、企業経営のチェックには基本的に関知しない。企業のノンバンク問題は、今後日米欧の大企業グループの大きな重荷となり、看板の本体企業の存続に直結すること必至だ。


金融危機の処方箋

では、どうすればいいか。当面はだれも資金がないので、国家、大金持ち、または個人がお金を出すほかない。

次回不況に備えては、銀行の企業金融に対する調査力、把握力を復活させるためにも、銀行という産業の収益源はまさにその調査力にこそあることを銀行経営者が改めて認識することだ。一方、当局は銀行と証券の垣根を取り払ったこと、すなわち欧州ではユニバーサル・バンキング制度、米国や日本では持ち株会社方式などに見られる規制緩和による銀行の役割低下に対し、銀行サイドへの過度の規制がなかったか、こうした規制が銀行から証券への流れを市場メカニズム以上に加速しなかったかを検討する必要がある。自己資本比率規制を単純強化するより、そのあり方が当局でもっと問題にされて良い。

ノンバンク問題が日米欧の大企業グループの大きな重荷となり、看板の本体企業の経営問題が表面化する来年度からは、筆者がかねてから主張している倒産法の抜本改革や企業グループのコーポレイト・ガバナンスが、大きな問題になると予想する。


(2009年2月18日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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