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Sun, 18 August 2019

第105回 追悼エディ・ジョージ(前イングランド銀行総裁)

エディ・ジョージ氏の死

イングランド銀行(BOE)の前総裁だったエディ・ジョージ氏が、4月18日に70歳で亡くなった。新聞各紙は、ユーロができる以前の1992年に欧州為替通貨制度(ERM)から英国が離脱したときの陣頭指揮を取った危機管理の総裁、または金利政策についてBOEが英国政府(その時の財務相が現在のブラウン首相)からの独立を勝ち得るために尽力した総裁として追悼記事を載せている。公式な見方はそうなるのだろう。

筆者が直接話した印象から言うと、世の中に通暁しているといった雰囲気を持っていて、英国ならではの大人としての実力を感じさせる人だった。豪放磊落(らいらく)かつ繊細で、英語もままならずシティの駆け出しに過ぎなかった小生にも、金融の面白さ、難しさを懇切に語ってくれた。経済学の知識がないとその講演は容易に理解できないほどの理論派であるキング現総裁に比べ、エディ・ジョージ氏は英語におけるべらんめえ口調のようなもので本質を突く話をしていた。今回は、BOEのウェブサイトでは分からない、エディ節をご紹介したい。


インフレ・ターゲティングの前提条件

BOEは、政府が定めたインフレ(物価上昇率)の目標値を達成するように金融市場でキャッシュ(銀行券やそれに代替する預金や債券)の量を増減させて金利水準を決めている。この物価目標を決めて金利政策を行う方法を、インフレーション・ターゲティングという。以前は、中央銀行が裁量で金利や貨幣量を決める方式が主流だったが、経済学の後押しもあり、「議会=民主主義コントロール」の外にある中央銀行の政策にもルールを設けることが市場の予測可能性向上に役立ち、物価安定という目標を達成しやすいという考え方が各国に広がった。この目標値を越えると、BOEは政府に弁明する必要がある。例えば、消費者物価上昇率が3%を超えるとBOEは政府に弁明書を提出することになっている。

しかしながら97年にイングランド銀行が金利政策において政府からの独立を果たした後に、エディはインフレーション・ターゲティングが「万古不易の政策ではない」とよく言っていた。インフレ率は中央銀行の金利だけでは決まらない。輸入物価やそれに影響を与える為替相場の動き、財政支出の方向性、人々の物価上昇期待度、企業の賃金設定など様々な要素が関連する。このため政府または中央銀行自らが目標を決めるとしても、為替の安定、財政赤字の制御可能性、経済の構造問題の解決という前提条件を満たさなければ、目標達成は覚束ない。

当時はサッチャー首相が構造改革を終え、財政赤字を克服し、北海油田の余得もあって英国経済が復活したお陰でポンド相場が安定していた。この時代におけるインフレーション・ターゲティングの成功は、歴史的な産物であることを忘れてはならないということであろう。ちなみに今後、英国政府は大幅な財政赤字を余儀なくされる。加えて景気悪化に伴いポンドが安定していないということは、エディに言わせればインフレ・ターゲティングの枠組みを再検討する必要があることになるし、それはブレア、ブラウン両氏の再評価につながる。


シティの番人として

BOEは、97年に金利政策の独立と引き換えに金融機関の監督権限を金融庁(FSA)に譲った。金利はBOE、金融システムはFSA、危機管理は財務省というブラウン財務相(当時)の成果とされる三極体制である。しかし、エディ氏はBOEが以前危機にあったシェル社に融資を行った例を引き合いに出して、市場のキャッシュを巡る危機管理を行うのはBOEであり、そして最後は財政が出て危機は終結するのだから、BOEは市場と接することが是非とも必要であると力説されていた。またそのためにBOE本店はシティの中にある(よって金融機関に歩いていける、昼食をパブなどで共にできる)とも述べていた。

英国の金融バブルについての見解は聞き損ねたのだが、自分が引退した後のBOEはちょっとアカデミック過ぎると言い、後輩のためにとの考えから、シティ・オブ・ロンドンや金融ギルドの役員となって世界中の金融機関の人との接触を心掛けておられた。ノーザン・ロックの破綻、4大銀行への公的資金注入を歯がゆい思いで見ておられたか、今頃「バブルへの事前警告は難しいね」とウインクされているのか知る由もないが、何となく「Business as usual is British style, it is not so much big crisis」と淡々と言われるような気がしている。


(2009年4月20日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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