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Tue, 16 July 2019

第31回 スピン・ドクターはどこにどこにいる?

日本と英国は、首相の不人気度がそっくりだなと思っていたら、福田康夫首相が一足先に辞任してしまった。一方のブラウン首相は、与党労働党内の「ブラウン降ろし」にも負けず、身を引く気配はない。なかなかの粘り腰である。

福田首相の辞任後、日本の政治報道は、自民党の総裁選挙一色になった。首相辞任の責任論は吹き飛び、新政権への期待と課題が語られる。自民党の支持率低下にも歯止めがかかり、上昇の気配が出ているという。

メディアには「スピン(spin)」という言葉がある。「回転」という語義からも分かるように、国民や世論を思い通りにくるくるさせ、誘導することを指す。「情報操作」と似ているが、もう少し戦略的で高度な駆け引きを行うようなニュアンスがある。その操作に長けた人が「スピン・ドクター(spin doctor)」である。

英国には、このスピンの事例が数多い。有名なのは、交通・地方政府・地域省の広報特別顧問だったジョー・ムーア氏の「事件」だ。

彼女は2001年9月11日、米で「9・11」テロが起きた際、メディアの関心がそこに集中することを見越し、同省の広報局長に対し、不都合な情報を急いで発表するよう促す電子メールを送った。彼女はさらに、2002年のマーガレット王妃の葬儀の日にも同様のメールを広報局長に送ったことが、英国の新聞で暴露されている。

スピン・ドクターとしては、ブレア政権下で首相官邸の広報戦略局長だったアレスター・キャンベル氏の方が、名前が通っている。イラク戦争の開戦理由とされた「大量破壊兵器」の調査報告書を彼が「誇張」した事件は、あまりにも有名だ。

日本でもスピンは起きる。

2002年4月、大阪高検の公安部長だった三井環さんが早朝、大阪地検に逮捕される事件が起きた。三井さんは検察庁の裏金づくりを国会などで実名告発する準備を進めており、この日はテレビ朝日のインタビューに応じる予定だった。「神戸市のマンションに居住しているように装い、虚偽の転入届を区役所に出した」という「電磁的公正証書原本不実記載」が逮捕容疑である。名前はいかめしいが、要するに微罪だ。

実はこの日、大手新聞のいくつかは、事前に逮捕劇を察知し、朝から三井さんの自宅周辺に張り込んでいたことが分かっている。検察当局から事前のリークが無いと、できない芸当だ。そして、「悪徳検事」報道が世を席巻した。

これは単なる一例にすぎない。英国のムーア事件のように、不都合な情報が、何かの大事件・大事故に合わせて発表される事例は、日本でも数多い。私は「追及・北海道警察『裏金』疑惑」(講談社文庫)という本の中で、「権力者や権力機構はいつの時代も自らに不都合な情報は隠し、都合の良い情報は積極的に流そうとする。そして権力腐敗はそこから始まる」と書いたが、まさに、それが実感である。

今年2月、「ロス疑惑」の三浦和義氏が米領サイパン島で米当局に殺人容疑で逮捕された事例も、私はスピンではないか、と疑っている。逮捕は1988年に請求された逮捕状に基づくという。この事件は米国の捜査共助で日本側が起訴したが、2003年に無罪が確定した。その後、三浦氏は何度もサイパンに入国しているのに、なぜ、このタイミングでの逮捕だったのか。そして、この「大事件」の結果、沖縄での米兵士による女子中学生暴行事件やイージス艦衝突事故の報道は、一気に沈静化した。

福田首相の突然の辞任は、民主党の党首選や年金記録の改ざん問題など自民党にとって不都合な報道を、メディアから減少させることに、ひとまず成功した。首相辞任に続く自民党の総裁選では、麻生太郎氏ら候補5人が全国各地で遊説を続けていた。演説では民主党批判も繰り返され、一政党の総裁選というよりは、来るべき総選挙の事前運動のようであった。

2005年の前回総選挙では、争点が「郵政民営化」一色となり、民営化反対の候補に対する「刺客送り込み」がワイドショーを席巻した。自民党は米系PR会社のプラップ・ジャパンなどと契約し、綿密なメディア戦略を構築していた。もちろん、今回の福田首相辞任劇にも、スピン・ドクターはいるはずだ。

 
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高田 昌幸:北海道新聞ロンドン駐在記者。1960年、高知県生まれ。86年、北海道新聞入社。2004年、北海道警察の裏金問題を追及した報道の取材班代表として、新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。
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