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Fri, 29 March 2024

是枝裕和監督インタビュー

あらすじ
出生時に病院で子供を取り違えられていたことに気付かぬまま、それぞれの暮らしを営んできた2つの家族。事態の発覚後、それぞれの夫婦は6歳になるお互いの息子を交換することを選ぶ。家族を結び付けているものは、果たして血のつながりか、ともに過ごした時間なのか。

出演: 福山雅治、リリー・フランキー、尾野真千子、真木よう子ほか


欧州では血縁のない親子関係が日常的


最新作「Like Father, Like Son」について、国内外で目立った反応の違いはありましたか。

カンヌやロンドンの映画祭などに取材に来る方たちの中で、実際に養子を育てているとか、父親と血がつながっていない、という方がすごく多くいらしたことには驚きました。欧州においては、血縁のない親子関係というのが日本に比べるとはるかに日常的なのではないかと感じています。

本作品の中では、自身が敷いたレールの上を歩むよう息子に求める主人公と、子供の思いに受容的であろうとする別の登場人物との対比が鮮明に描かれています。映画監督として、ご自身はどちらのタイプに似ていると思われますか。

受容的であろうとする方です。というか、僕はその方法しか取ることができません。号令をかけて、自分のイメージ通りに他人を動かすという演出方法を持ち合わせていないんですよ。そうした方法とは違う映画監督のありようを自分なりに模索した結果、現在の形にたどり着きました。

もちろん、準備を周到に行うよう努力はします。ただ、準備したものを捨てるべきときには潔く捨てる。現場でもっと面白いものが見つかったときには、躊躇なく後者を選ぶようにしています。自分のイメージに凝り固まらずに、現場においていかにスタッフやキャストから出てくる表現をすくいとれるか、というのが大きなテーマとなりますね。用意したセリフを役者が上手く言えなかったときに、上手く言えない役者が悪いのではなく、セリフに何か問題があるのではないかという風に考えることが大事。特に相手が子供の場合は、「じゃあ、どういうセリフだったら自然に言えるんだろうか」と考える作業を徹底的に行います。結局、お客さんに観ていただくのは僕が書いたセリフではなくて、役者さんが口にした言葉なので。

脚本を書く最初の段階では、旅館に篭って執筆作業を行います。ただ、それで書けるものというのはたかが知れていて。その後にキャストに会って、彼らが実際に発する声を聞きながらリライトしていきます。言い換えるならば、役者さんの観察ですね。あとは自分の頭の中に蓄積された記憶に耳をすませる作業も重要。この「テーマに関するリサーチ」と「観察」と「記憶」の3つを組み合わせながら映画作りを行います。

「そして父になる」を邦題とするこの映画が、英題では「Like Father, Like Son」となった経緯を教えていただけますか。

タイトルに関しては最後まですごく悩んだんですよ。30ぐらい候補を考えて、撮影を開始した時点でもまだ決まっていませんでした。そのうち助監督が「Like Father, Like Son」という英語のことわざを見つけてきてくれて。このフレーズの中に「父」と「子」が両方とも入っているので「あっ良いタイトルだな」と。実は撮影現場で使用した脚本には「Like Father, Like Son(仮)」とタイトルが書かれているんですよね。だから自分としてはむしろオリジナル・タイトルが「Like Father, Like Son」です。その後、日本における国内タイトルが「そして父になる」へと変わった、という感じでしょうか。国によっては「そして父になる」の直訳版をタイトルとして使用する国もあるので、今ではどっちもありだなと思っています。


「何が求められているか」と考えながら発想したものは尊敬されない


「Like Father, Like Son」がカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したように、是枝監督の作品は日本国内にとどまらず海外でも高く評価されています。海外での評価を視野に入れた上で作品作りを行っているのでしょうか。

作品作りにおいては海外向けの工夫って別にないんですよね(笑)。ただ各国の映画祭にはできる限り自分自身が赴くようにはしています。外国語をろくに話すこともできないのにこんなこと言うのも恥ずかしいんですけれどもね。

例えば5年前に「歩いても 歩いても(英題: Still Walking)」という非常に個人的な体験を基にした作品を作りました。私自身の母親が亡くなって、「うわあ、色々なことが間に合わなかったなあ」と思って作り始めた作品です。後悔の気持ちを抱えながら脚本を書いたので、映画ができあがって、こんな個人的な映画を他人に見せていいのかなと自分でも感じたくらい。フランス人のエージェントに見せたら、「国内向きすぎる。あまりにローカル。欧州では理解されないと思う」と言われたんですよ。私も確かにそうだな、と思っていました。ただ実際に上映してみたら、色々な国で「なんでお前、俺の母親のことを知っているんだ」って言ってくれる人がたくさんいたのです。映画の登場人物が自分の母親と同じだって。そのときから、何が海外向けで何が国内向けだなんてことを作り手が考えて、観客を操作しようとしても意味がないなと。あの一本を撮ったことで「今、自分に一番切実な問題を深く掘り下げていくことで十分」という風にスタンスが変わりました。「何が求められているか」「何が日本的か」「欧州に求められる日本像とは何か」という発想で作ったものは、尊敬を得ることができないのではないかなって僕は思いますけどね。


「Like Father, Like Son」
「Like Father, Like Son」の撮影現場での是枝監督(写真右端)。
子供を取り違えられていたことが発覚し、悩む父親を
福山雅治(同左端)、母親を尾野真千子(同中央)が演じる


是枝 裕和(これえだ ・ひろかず)
1962年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。テレビ番組制作会社に入社後、主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。95年に「幻の光」で映画監督デビュー。2004年に公開された「誰も知らない」は、主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を史上最年少で受賞した。最新作「Like Father, Like Son(邦題: そして父になる)」は今年のカンヌ国際映画祭における審査員賞受賞を始めとして、海外でも高い評価を得ている。

 

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