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Wed, 09 October 2024

英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

インターンシップの現状と政府の施策

「社会的流動性」の向上妨げると批判の声
インターンシップの現状と政府の施策

英国では、社会人として働く第一歩として、まずインターンシップを利用する若者が多い。将来、特定の業界で働くチャンスが増える、履歴書に書ける自己PRのポイントを増やせるなど、インターンにはメリットもある一方、いくつかの問題点も指摘されている。

首相と副首相がインターンシップを巡って意見衝突
ニック・クレッグ副首相は、4月上旬に社会的流動性の向上を目指す戦略文書を発表したが、この際、自身が若い頃、父親の人脈を使ってフィンランド系銀行にインターンのポジションを得ていたことを暴露された。副首相はこの事実を認め、多くの若者が親や知り合いのコネを利用してインターンのポジションを獲得している現状は間違っており、社会的流動性向上のため、改革が必要であると述べた。

しかし、その約半月後、デービッド・キャメロン首相は、新聞のインタビューで、個人的な「コネ」でインターンを雇うことについて「寛大な見方をしている」と述べ、許容しているとの見解を示した。首相は、自身も昔、父が共同経営していた株式仲買商でインターンをしたこと、また最近、隣人の子息をインターンとして採用したことなどを明かした。

首相のこの発言を受け、クレッグ副首相は、すべての若者が公平に機会を与えられるべきであると述べ、「(個人的な人脈を通したインターンシップの採用について)私は寛大な見方はしていない」と発言。首相と副首相との間で意見の衝突が見られた。

「医者と弁護士は富裕家庭から生まれる」を
データで実証

*英国の一世帯当たりの平均収入と、各職業の従事者の出身家庭の平均収入を比較した場合の差をパーセンテージで表示


Source: National Equality Panel, An Anatomy of Economic Inequality in the UK,
Government Equalities Office (2010),
Opening Doors, Breaking Barriers: A Strategy for Social Mobility (2011)



インターンの多くが無給

英国では、多くの若者にとって、インターンとして働くことが、仕事の世界に足を踏み入れる手段となっている。特にインターンの雇用が多い分野としては、政党や政治家の事務所などの政治関係、新聞社などのマスコミ系、広告制作やPR会社、ファッション関係などクリエイティブ系などが挙げられる。また、金融関係や会計事務所、法律事務所などでも、インターンの雇用は一般的である。今や、こうした分野で正規の社員・職員として働くには、まずインターンとして働き、経験を身に付け、人脈を作ることが必須であると考えている若者は少なくない。

しかし問題は、インターンの多くが無給であること(*)、そして、 インターンのポジションを親のいわゆる「コネ」によって獲得している人が少なくないことである。若者が無給で働くには、親に子供を援助できるだけの金銭的余裕がなければならない。加えて、そもそもインターンのポジション獲得に親の人脈がカギとなるとあっては、必然的に、インターンの座は、親がそれなりの社会的地位を持っているミドル・クラスの家庭出身の若者で占められ、後に有給のポジションを得るのも、ミドル・クラスの人が多くなる。

インターンシップの機会拡大への取り組み

こうした状況は、上に挙げたような業種から、貧困家庭や労働者階級出身の若者を阻害し、「社会的流動性」の向上を妨げているとの批判の声が、かねてから聞かれている。このような現状を受け、ニック・クレッグ副首相が4月上旬に発表した社会的流動性の向上を目指す政府の戦略文書では、インターンシップの機会拡大に向けた取り組みが優先課題として盛り込まれていた。

同文書は、「何を知っているかではなく、誰を知っているか」によってインターンとして働く機会を獲得できるかどうかが決まる現状を是正する必要性を強調。これを目的として同文書に盛り込まれた施策の一つは、様々なバックグラウンドを持つ若者にインターンとして働く機会を与えることなどを約束する誓約書への署名を雇用者に求めることであり、既に大手会計事務所のKPMG、プライスウォーターハウスクーパーズ、大手法律事務所のアレン・アンド・オーバリーなどが署名している。

また、政府の省で働くインターンについては、2012年までに、単一のウェブサイト上での公募を開始し、これまでのような「コネ」を通したインターンの採用を止める。さらに歳入・関税庁は現在、インターンの雇用の多い業界・分野の企業・組織に対し、インターンへの最低賃金支払いを義務付けることを検討している。

雇用者側にとってもメリット

不況に入って以降、インターンの利用は更に増えていると言われる。しかし、政府の戦略文書が指摘しているように、様々な階層の若者をインターンとして採用することは、これまで取りこぼしていた才能ある人材を取り込むことができるという意味で、雇用者側にとってもメリットがある。こうした点を雇用者側にアピールしながら、インターンシップの機会拡大を進める更なる施策の実施が求められる。

(*) 無給でも、交通費、昼食代などは支給される場合がある。

Intern Aware

すべての若者にインターンシップの機会を公平に与えることを目指すキャンペーン団体。すべてのインターンへの最低賃金の支払いなどを求め、メディアなどを通してキャンペーン活動を行っている。「インターン・アウェア」の支援者には、全国学生組合(NUS)、労働組合「ユナイト」、全国ジャーナリスト組合、エド・ミリバンド労働党党首、エド・ボールズ影の財務相、アンディ・バーナム影の教育相、デービッド・ミリバンド下院議員、オックスフォード大学、エディンバラ大学、ブリストル大学の各学生組合などが名を連ねている。同キャンペーンのウェブサイトは、www.internaware.org

(猫山はるこ)

 

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