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日経電子版Pro
Tue, 24 November 2020

第51回 米国サブプライム・ローン問題の本質──法か政治か

サブプライム・ローン問題とは

米国におけるサブプライム・ローン*の貸倒れ増加が、大きな経済問題として連日報道されている。この現象は、米国経済や世界経済の行方に関わる不良債権問題であることには違いない。しかし米国は90年代初頭に起きたバブル崩壊以来、銀行も当局も学習し、不良債権問題が起こっても金融システムや経済全体が動揺しないような制度を整えてきた。つまりより本質を捉えるなら、そうした工夫が初めて試される機会なのだと考えたい。「工夫」とはここでは法的な措置のことなので、法が勝つか、やはり損が大き過ぎるのでバランス感覚を持つ政治が勝つかという問題になっていくと思う。

サブプライム・ローンとは、収入や担保が十分ではないが、購入予定の不動産価格の値上がりを見越して、住宅ローン専門金融機関などが貸し込んだもの、即ち日本で不良債権問題になったようなローンと考えておけばよい。

もっとも、日本と大きく違う点がある。第一は米国では借手の倒産リスクを見越してそのリスクに見合う金利を上乗せしていたが、日本の銀行はそれを行っていなかったことである。第二は米国では当初貸出は銀行が行うが、銀行は速やかにその貸出をサブプライム・ローン専門会社などノンバンクに売却するということ。つまり銀行のバランス・シート(貸借対照表)にはその貸出がもはや乗っていないのだ(これをオフバランス化とか証券化という)。

第一の点は、日本の金融機関が護送船団方式で大蔵省や日銀の庇護を受けていたことによって、実質的な補助金を借手に還元していたために起きた現象と考えられる。しかし自由化とバブル崩壊でそれらの補助金の半分ほどは消滅し、日本の銀行もリスクに見合う金利を取るようになったので、現時点での日米差は小さい。

オフバランス化の成否

より本質的となる第二の点について述べよう。米銀は80年代後半からのラテンアメリカ諸国や国内の住宅ローンでの貸出焦げ付きに懲りて、ローンを実施するとすぐにペーパー会社に譲渡し、その会社の株や社債を住宅ローン専門会社や投資家に買わせて、自らは手数料を稼ぐ一方、貸倒れリスクをそうした買い手に移転するビジネス・モデルを確立した(これを倒産隔離という)。こうした米銀のモデルを賞賛した「米銀の復活」という本が90年初頭の日本の金融界では盛んに読まれた。

しかしオフバランス化の成否は、貸倒れリスクが本当に法的に住宅ローン専門会社や投資家に移転したかどうかにかかっている。契約によりこの点は担保されていると言われているが、これまで米国景気が好調で、米国で住宅が高騰したためその契約自身が裁判所で試される機会はなかった。住宅ローン専門会社が銀行のグループ企業である場合もかなりある。銀行持株会社の支配下に銀行と専門会社が共にあるとすればその責任はないのか。多数の投資家が損を被る場合、裁判所は住宅ローンの譲渡契約やオフバランス化の法的枠組みを有効と判断するのか。まして今年は大統領選挙の年である。住宅ローン貸倒れに伴う幅広い投資家や年金財団の損失や、零細金融機関の倒産を政治が許容できるのか。

倒産隔離が無効となると

米国の裁判所や政治判断によりオフバランス化即ち倒産隔離が無効になると、米銀には隔離したと思っていた不良債権が山で戻ってくる。「米銀の復活」は15年越しに虚構であったことになるわけだ。その後は日本と同じく、仮に銀行に公的資本注入や税金免除がなければ銀行の資本は毀損し、米銀のリスクテイク能力は大きく低下する。その悪影響は金融市場で増幅され、世界的な経済活動にダメージを与えるだろう。

4月15日までのG7ではサブプライム・ローンの貸出に占めるウエイトは低いとして影響軽微と楽観的なコメントしかなかったが、本当にそれでいいのか。一旦信用不安が起こり、これを放置すると住宅不動産価格が坂道をころげ落ちるのは日本で実証済みだ。この時、オフバランス化の枠組みの有効性を法的に確認して投資家や年金がリスクを被るのか。銀行に損を戻して広く薄く税金でカバーするのか。一旦生じた損失をどう分配するのか。訴訟必至のため、まずは米国の司法が、次いで政治が問題を抱えることは間違いあるまい。日本の金融界や当局もオフバランス化や手数料ビジネス、持株会社化を推奨するのはよいが、米銀やその持株会社グループの現状を見て、何でも米国流を良しとする姿勢には大いに疑問を感じる。

(2007年4月16日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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