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Mon, 09 December 2019

第142回 他国からの投資への対応

他国から英国への投資

一般的に、先進国で自国産業が振るわない場合には、他国からの投資を呼び込むための各種優遇策が取られる。土地の供与、税金の優遇、規制緩和などが代表的なものであろう。ロンドンも世界から金融機関を呼び込むための各種措置を用意したし、サッチャー政権以来、英国政府が工場進出について税金減額や補助金拠出を講じたのを受けて、英国に日産など日本の製造業が進出したのはご存知の通りである。

自国に産業が十分にない場合に、外国資本を誘致して自国民の雇用の場を確保することは政策的にありうることであるし、どの国も行っていることであるが、英国は、外国資本を呼び込む際にもう一つ工夫をした。すなわち、1975年の土地公有化法、76年の開発用地税法により、新規開発の土地にかかる開発利益(転売する場合の転売価格と取得価格の差)はすべて国または地方公共団体に納めることが決められた。労働党政権下での立法ではあるが、80年の労働党と保守党の合意により、この土地値上がり益は国または地方公共団体の収入とすることが基本的には追認された。

こうした合意は、土地はすべて王様のもので、国民はその利用権を持つに過ぎないというイングランド及びウェールズの法制史を背景としている。土地は公共のものとの発想から、他国からの投資があった場合、その投資目的の活動自体による収益は投資者に帰属するとしても、その活動による土地や建物(英国では土地は独立した不動産ではなく、建物と一体である)の価値の増加分は、英国と地元の自治体に帰属することとなる。しかも地方自治体は土地開発規制について強い権限を持っており、投資者は土地利用計画を作らなければ開発ができない。その計画の作成に当たっては地域住民との協議を何回も経て了解を得る必要があると言われている。

要すれば、「土地は公共財」という、歴史的な経緯を背景とした考え方を基に、国や地域への開発利益の還元と開発内容の住民との合意を法制化し、歴史的な街並みなど環境との調和を期しているのである。土地利用計画の作成に何年もかかるということで投資家の不満は強いが、それでもプロセスの明確化と住民参加が貫徹されていることは大事なことだと思う。

中国からの日本への投資

それにつけて思い起こされるのは、中国マネーの日本への投資に対する日本側の意識の低さである。中国は現在、不動産価格抑制の観点から金融を強力に引き締めており、上海など沿岸部での不動産取引はほぼストップしていることに加えて、元高の恩恵もあって、中国人の富裕層は日本の不動産や企業への投資を物色している。ドラマ「北の国から」が中国で放映されると、雪に憧れを持つ中国人が北海道の別荘を購入し出したというのは有名な話であるし、福岡などでの高級マンションの一棟買い、雲仙、阿蘇など温泉地の旅館への投資、中国人観光客の日本への入国拡大を見越した空港周辺土地の物色、山林購入など、金融関係で聞く話には枚挙に暇がない。

この点を自治体関係者に聞いたところ、各県の土地担当部署でも、登記簿に中国人名義が急増しているとの認識が全くなかったという。日本の土地法制度はフランスから輸入したもので、土地所有権は絶対で、公共の利益の観点からの制約は限界的なものに留められている。当然ながら、開発利益を国や地方公共団体に納める義務もない。中国の土地制度は共産主義下ではあってなきものであったが、香港返還を機に、中国政府は香港で施行されていた英国の土地制度を徹底的に研究したという。土地は国家のもの、利用権は売買可能ということで、共産主義という側面は否定できないものの、現在の中国の土地制度は、英国の制度と類似したものとなっている。こうした国からみると、如何にも日本民法下の土地所有権は自由度が高く、よって日本の土地は彼らの思うように乱開発されるリスクがある。この点の危機意識を、日本政府や地方自治体はもっと持つ必要があるのではないか。

特に山林は要注意である。彼らの狙いは水だ。人口が増え続ける世界では水資源が貴重なものであることは広く認識され始めているが、日本では土地を買えば、その土地の上下に何キロ進もうとも、そこは所有権者の所有物となる。そして、地下水脈は広範囲にわたってつながっている。名水の近隣土地からくみ上げた水をペットボトルに入れて中国へ輸出することを止める手段があるのかどうか。世界からの投資受け入れの先達である英国の知恵に学ぶべき点は多いと思う。

(2010年9月28日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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