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Sun, 23 February 2020

第150回 他人事でない北アフリカ問題

チュニジアとエジプトの暴動

北アフリカの反政府運動が収まらない。チュニジアの革命が、エジプトに広がっている。キーワードは、「長期の独裁権力の私腹」「長期失業と些細な出来事」「ITネットワーク」、「イスラム原理主義と民主主義」である。チュニジア、エジプトいずれの国でも政権は長期にわたり、権力者が子供を後継者にしようとしたり、蓄財を噂されたりしている。一方で若年の失業率が両国とも非常に高くなっている。そして些細な出来事をきっかけに、長期政権と失業への不満が民衆デモや暴動として表に出た。青年層の失業率が25~30%のチュニジアの中部シディブジドでは、失業中の26歳の男性が野菜の街頭販売を始めたところ、販売の許可がないとして警察が商品を没収。抗議のために油をかぶり焼身自殺を図った。エジプトでも低賃金の男性が焼身自殺を図り、大やけどを負うなど類似事件が相次いだと言われている。

デモの拡大にはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が大きな役割を果たしたと言われている。エジプトでは、民主化運動を支持する青年組織「4月6日運動」や野党勢力ムスリム同胞団が1月25日に大規模な反政府デモを計画。複数の団体がフェイスブックを通じて参加を呼び掛けた。チュニジアでもメッキ氏というブロガーがベンアリ前大統領の演説を皮肉るコメントをユーチューブやツイッターに投稿し、それがフェイスブックにより大衆に情報共有され、さらには共感されてデモ参加者が増えたと言われている。もちろん、これらの媒体による情報が人を現実に動かす前に、長期独裁や失業という実態が先にあった。だが、もはや外出禁止令や集会の禁止、マスコミへの言論統制では自由な言論を封ずることはできないという事実を為政者は思い知ったであろう。そうなれば当面、為政者にできることは軍隊による民衆の行動鎮圧しかなく、流血の事態になる。長期政権の腐敗や失業という根っ子の問題を解決しないと、言論統制という名の時間稼ぎができないまま流血に突入するか政権を返上するしかない、という時間軸の短縮化は大きな変化だ。

イスラム原理主義と民主主義

その上で注目すべきは、チュニジア、エジプトともにイスラム圏としては穏健な親欧米国であるということだ。アフリカ発展の妨げは、独裁者の私腹肥やし、すなわち地下経済である。開発経済がこの段階を脱し、産業が育成されないと、日本やアジア各国が成し遂げたような成長はない。逆に地下経済が表に出れば、外国からの投資も期待できる。そこで問題となるのが、イスラム原理主義と欧米や中国の思惑である。米国や欧州は独裁者の追放と民主主義の確立は歓迎するが、イスラム原理主義、反イスラエル政権には反対する。中国やロシアはその反対の立場を取るし、イランなどの原理主義国はこれを勢力拡大の機会とするであろう。こういうパワー・バランスが介入すると、経済的自立は遅れてしまう。独裁権力の追放が、別の独裁権力か宗教権力に成果を取られてしまいかねない。産業育成の目処がなければ、独裁政権を倒しても民主主義の確立は覚束(おぼつか)ない。アラブの先進国エジプトがイスラム原理主義と一線を画し、部族主義を超えられるかどうか。アラブ全体の試金石だ。日本外交の出番はここにある。

実名のフェイスブック

ただ、日本のできる援助は産業育成までで、その先の民主主義の確立までは難しい。日本自身も立派な産業があるのに、民主主義の未成熟に苦しんでいる。

日本は先進国の中ではフェイスブックがあまり普及していない国だという。その理由はフェイスブックが実名でネットワークを広げる媒体であるためであろう。日本人は実名をさらすことに抵抗があるし、言論を通じて公開で他人と切り結ぶことに慣れておらず、好きではないのだろう。しかし、世界のSNSはそうではない。自らの言説に責任を持ち、他人とコミュニケーションすることは民主主義の大きな前提である。その前提が弱ければ、産業ができても民主主義は成立しない。フェイスブックでの呼び掛けに民衆が呼応した北アフリカの諸国では、産業さえ発展すれば民主主義が確立する可能性があるのではないか。

一方、産業が停滞する日本では、政治が混乱し、また無能化しつつあるように見えるが、フェイスブックでデモを呼び掛けても参加する人は多くないのではないか。日本が人口減少などを理由として経済成長を果たすのが難しくなったとき、議論ではなく、英雄待望論が起こり、政党政治が独裁政治に簡単に取って代わった歴史を思い出す。北アフリカの出来事は他人事ではないと思う。

(2011年1月31日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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