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Tue, 23 April 2024

第102回 ジョン王と弘法にも筆の誤り

今回も2ポンド硬貨のお話です。マグナ・カルタ(大憲章)施行800周年として2015年に発行された硬貨は含蓄に溢れています。ご高承の通りマグナ・カルタは法の支配や立憲主義の出発点と考えられる重要な法典の一つ。硬貨の裏面にジョン王が司教と貴族に挟まれて座り、左手にマグナ・カルタ、右手に羽ペンを持っている場面が描かれています。また硬貨の端には「Foundation of Liberty(自由の土台)」と刻印されています。

2ポンド硬貨
ジョン王の右手には羽ペン

ところが、ジョン王の制定したマグナ・カルタには、国璽(こくじ)が押され、ペンによる王の署名はありません。ジョン王が右手に持つべきものは羽ペンでなく国爾のはずだと王立造幣局の「筆の誤り」を指摘する声も。英国の国爾は11世紀半ばにイングランド王のエドワード懺悔王が北フランスのノルマン人から導入。次のウィリアム征服王以来、歴代の王が重要文書の刻印に利用し、現在の王室も目的別に色分けされた国璽を使っています。

ジョン王の国爾
ジョン王の国爾

最高裁の彫刻
最高裁の彫刻では、ジョン王が国爾付きの大憲章を手渡す

さて、ジョン王の一代前のリチャード1世は「獅子心王」と呼ばれた野心溢れる王様。戦費の借金が膨れ上がると意図的に国爾を変更し、それ以前の国爾の付された借用書は無効だと借金の棒引きを宣言します。もちろん、債権者が納得するはずがありません。でも彼は急病で死んでしまい、急遽、即位した弟のジョン王にそのツケが回ってきます。彼は起死回生を狙って戦争を仕掛けますが敗戦。そこでシティのテンプル騎士団に相談したのです。

獅子心王リチャード1世
獅子心王リチャード1世は借金踏み倒し王

当時のテンプル騎士団は、寄進地や信託財産の資産管理、融資や手形送金も行う巨大な金融機関でした。彼らはシティの商人、貴族、法曹関係者を巻き込み、新ルールを作り王の権力を制限しようと試みます。王政を維持したいのならば、王は新しい法に従わなければなりません。背に腹をかえられないジョン王はマグナ・カルタに国爾を押して発布。こうして政策の失敗が転じて「法の支配」が生まれ、後の議会制度の発展に繋がっていきます。

テンプル教会
テンプル騎士団の拠点テンプル教会

しかしその後、ジョン王はローマ教皇の支援を頼りに、国爾は無理に押させられたものとマグナ・カルタの無効を宣言し、国内は内乱に突入。このころから貴族も証書に印章を使うようになりますが、偽造が頻発したため、印章はあまり信用されません。ついに1677年、「偽造防止法」が成立し、契約書には当事者双方の署名が求められるようになりました。これ以降、一般社会に署名が普及します。羽ペンを持つジョン王には、「筆の誤り」とは別の教訓がありそうです。

 
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『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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