ロンドンのゲストハウス
Wed, 18 October 2017

第103回 はじめに言葉ありき

2011年発行の2ポンド硬貨は欽定訳聖書刊行400周年の記念につくられました。初めてこれを見たとき、何が書かれてあるのか、思わず見入ってしまいました。欽定訳聖書はジェームズ1世の命令によって刊行された10億部を超える世界最大のベストセラー。「KJV( King James Version)」と呼ばれ、今も英訳聖書の標準型になっています。硬貨に刻印されている文章は「In the beginning was the Word(はじめに言葉ありき)」という聖書からの引用です。

2011年製の2ポンド硬貨
2011年製の2ポンド硬貨

そう、「はじめに言葉ありき」。ここでいう言葉とは「神の言葉」であり、「言葉は神とともに」あります。ところが、一般の英国人が英訳聖書を手にするのは16世紀以降のこと。教会の権威筋が現地語に翻訳される聖書は神の祝福を受けないと否定していたため、英訳聖書が完成するまでには、長い苦難の道がありました。まず、14世紀の終わりに神学者ジョン・ウィクリフがラテン語から古英語に翻訳しますが、発禁処分を受けてしまいます。

それから約100年が過ぎ、英国にも印刷術が伝わって印刷物が社会に普及し出します。シティのフリート・ストリートにある聖ダンスタン西教会で説法を行うウィリアム・ティンダルが英訳聖書の必要性を訴え、印刷術を使って広めようと考えます。異端者として国内を追われたティンダルは、海外で英訳版を発行。1536年に捕らえられ、火刑に処されてしまいました。でも彼の英訳聖書は禁書処分を受けても英国に密輸されたのです。

聖ダンスタン西教会
聖ダンスタン西教会

ティンダルの首像
聖ダンスタン西教会入口にあるティンダルの首像

ティンダルの英訳聖書
ティンダルの英訳聖書

宗教改革の嵐が吹き荒れる中、ティンダルの英訳聖書に触発されてか、たくさんの英訳聖書が出版されました。解釈が異なれば、翻訳の仕方も異なるからです。17世紀初めに即位したジェームズ1世は、この世の秩序を保つには聖書の標準型を定めることが大事と欽定訳聖書の作成を命じました。完成した聖書は「英語散文の金字塔」と称賛されるほど平明でありながら格調高く、流麗な文体でした。この聖書が人々の心を掴み、広く普及します。

こうして広まった欽定訳聖書から「言葉は神とともにあり」が実現しました。ところでこの聖書が印刷された場所は、シティの王立印刷所、つまり、宗教改革で廃院になった修道院の跡地です。同地は「タイムズ」紙の印刷工場に変わり、今は米国銀行の支店になっています。「はじめに言葉ありき」から「はじめにおカネありき」に変わったのです。ここはシティ、まず、おカネありき。

米国銀行支店
王立印刷所の跡地には米国銀行支店

 
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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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