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侍の国、最先端の科学技術が発展している国、マンガやゲームの傑作を次々と生み出していく国・・・・。世界が抱く日本のイメージには様々なものがあるが、中には「(食べてはならぬ)クジラを食べている国」という、日本人にとってはちょっと意外な印象を持っている人々がいる。この傾向は環境保護運動が活発に展開されているここ英国では特に顕著であり、各メディアの報道によって日本の対応が痛烈に批判されることもしばしば。しかし、そもそも「日本=クジラ」といったイメージはどうやって作られたのか、さらには数ある動物の中でなぜクジラだけを食べていけないかという疑問が頭をもたげる。そこで今回の特集企画では、2007年5月28日に開催される国際哺鯨委員会 (IWC)総会を前にして、反哺鯨キャンペーンに力を注ぐ環境団体の人々にインタビューを敢行。対話を通じて拾った彼らの日本に対する主張を、元の発言にできるだけ忠実な形でウェブサイト上に再現した。クジラを食うべきか食わざるべきか、最後はあなた自身で判断を下して欲しい。(本誌編集部: 長野雅俊)


捕鯨問題にまつわる4つの基礎知識
まずは予備知識として、クジラにまつわる国際事情を簡単におさらい。以下に示したような状況の中で、一度は禁止された捕鯨の再開を求めている日本は世界の注目を浴びている。
1. クジラって、捕獲してはいけないの?
人類による乱獲のためにクジラの生存数が激減したため、この流れに歯止めをかけようと国際捕鯨委員会(IWC)総会が1982年に商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を採択した。モラトリアムは1985年に施行されてから現在まで継続されており、いくつかの例外を除いて捕鯨活動は禁止されている。
2. IWCとは?
イングランド中部のケンブリッジに本部を置く国際機関。国際捕鯨取締条約に基づき1946年に設立された。年に1回総会を開催し、クジラの生態に関する報告を基に、クジラ資源の活用についての協議を行っている。またIWC加盟国である日本政府は、長年にわたって捕鯨の再開を訴えている。
3. 日本は今、クジラを一切捕獲していないの?
日本はクジラの生態調査を目的とする「調査捕鯨(Scientific Whaling)」という形で一定数のクジラを現在でも捕獲している。これについて日本政府はIWCで取り決められた規約の範囲内であり、クジラの生態を確かめるために必要な措置であるとの見解を示しているが、捕鯨反対派からは「事実上の商業捕鯨」だとして強い批判が向けられている。
4. 日本以外で、クジラを捕獲している国はないの?
グリーンランドやアラスカといった食糧資源に乏しい北極圏などにおける捕鯨活動は、原住民生存捕鯨(Native Whaling)と呼ばれ、各環境団体は例外的な事情として理解を示すことが多い。またIWC加盟国であるノルウェーとアイスランドは商業捕鯨を既に再開しており、国際社会から非難を浴びている。
クジラに関する年表
9世紀頃 ノルウェー、フランス、スペインなどで捕鯨が始まる
12世紀頃 日本で手銛(もり)による捕鯨が始まる
1853年 米国提督ペリーが捕鯨船の寄港地を求めて黒船で上陸
1948年 国際捕鯨委員会(IWC)設立
1982年 IWC総会において商業捕鯨一時停止「モラトリアム」を採択
1985年 モラトリアム施行
1994年 南氷洋クジラ保護区の設置を採択
2001年 ロンドンで第53回IWC総会が開催
2002年 下関で第54回IWC総会が開催
2006年1月8日 南極海で日本の調査船団とグリーンピースの船の接触事故が発生
2006年1月25日 日本の捕鯨活動に対する抗議として英国の環境団体が日本製品の不買運動を呼び掛け「在英日本大使に抗議文を送れ」と書かれた意見広告が「インディペンデント」紙などに掲載される
2006年1月26日 ドイツのベルリン中心部にある日本大使館前にグリーンピースがナガスクジラの死骸を置いて捕鯨反対運動を展開
2007年5月28日 米国アラスカ州のアンカレジで第59回IWC総会が開催
✔ 捕鯨賛成派
日本、ノルウェー、アイスランド、デンマーク、ロシア、モロッコ、カンボジアほか

✘ 捕鯨反対派
英国、米国、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランド、フィンランド、フランス、スペイン、ドイツ、イスラエルほか

グリーンピースUK 海洋キャンペーン担当

ジョン・フリゼルさんの主張

「クジラを絶滅に追いやるから」
「商業捕鯨がクジラを絶滅に追いやることは、歴史が証明しています」

―反捕鯨団体の代表として、まずはグリーンピースの声を聞きたいと思っています。グリーンピースの過激な反捕鯨キャンペーンは今ではすっかり有名になりましたね。
はい。グリーンピース設立直後から商業捕鯨には反対との立場を取っています。今日本などは数種あるクジラのうちいくつかの種の生存数が回復しているとの理由で、商業捕鯨の再開に向けて動いていることに危惧を覚えています。いまだ危険な状態に置かれている種類も多くあるのです。

―捕鯨に反対する主な理由は何ですか。
商業捕鯨がクジラを絶滅に追いやることは、これまでの歴史が証明しているからです。さらには、我々がクジラを食べなければいけない理由というのがそもそもないからです。

―でも実際、IWCの科学委員会は1990年に「ミンククジラは増加している」と報告しています。
その質問に答える前に、これまでの捕鯨の歴史を振り返る必要があります。これまで人類はクジラの生存数が減ると捕鯨を一時停止し、「もう大丈夫」と思って捕鯨を再開すると、すぐにまたクジラが絶滅の危機に瀕する、ということを繰り返してきました。まして現代では海の汚染や騒音など、クジラの生存に対するかつてない脅威がたくさん存在しています。調査によると、ここ50年ほどでマグロを含む大魚が90%も激減したそうです。それだけ海の生態系がひどく乱れていると想像できます。このような状態で捕鯨活動を再開するのは、賢明とは言えません。
質問に戻ると、あなたは1990年のデータを引用しましたが、2000年にIWCはクジラ生存数の回復具合は実はよくつかめていないと発表しています。日本は自分たちに都合の良い数字だけを用いて、ごく最近の報告については言及すらしないのです。

―「実態がつかめない」というのはどういうことですか。
クジラの生態調査は、例えば人間が玄関のインターホンを押してアンケートに答えてもらう意識調査のようにはいきません。通常はボートの上から一瞬見えたクジラを記録し、発見した位置や状況から数学的に割り出した生存数を「見積もる」のです。しかしこの方法だと実際の数字と乖離している可能性が非常に高い。同じクジラを2回カウントしている場合もあり得ますからね。豊富な経験を積んだベテランの研究者でも、クジラの生存数に関して確実なデータを取ることはできないのです。

―海洋生物の中で、なぜクジラだけ捕獲しては駄目なのでしょうか。
その他の魚は何十万、何百万という卵を一斉に産むことができます。しかしクジラは哺乳類なので、少しずつしか子どもを産めないのです。だからクジラの子ども世代が親の代の総数を抜くことは非常に稀で、それだけ頭数の維持が難しくなっています。

―ただクジラは体に合わせて魚の消費量も巨大なので、頭数ばかり増えると今度はその他の魚が絶滅の危機にさらされてしまう。そういう状況を防ぐために、クジラを「間引く」必要性があるとの議論についてはどうお考えですか。
第一に、人間が生存する前からクジラは生存していました。だからといって人類の誕生以前に海の魚が絶滅の危機に瀕していたという話は聞いたことがありません。第二に、クジラは例えばマグロのような、人間が食用とする大きな魚を食べません。こういった食用の魚を最も消費するのは実はシーバスなんです。でも誰もシーバスを間引いた方がいいとは言いませんよね。

「クジラを食べたいという日本人は、実は非常に少ないのです」

―先ほど「クジラを食べなければいけない理由はない」と仰りましたね。でも、例えば英国人だって、フィッシュ&チップスを食べなくても生きていけると言われたら、原料となるタラを食べるのを止めますか。
第一に、日本は裕福な国です。その点で、エスキモーやアラスカの原住民など食糧資源に乏しいため捕鯨を行っている人々との違いがあります。またよく捕鯨が日本の伝統文化だと言う人たちがいますが、捕鯨の慣習が根付いていたのは仙台とか勝山とか、日本のごくごく一部の地域だけで、全国規模で広まったのは第二次世界大戦で食糧難に直面してからです。
そしてもっと重要なことは、クジラを食べたいという日本人は、実は非常に少ないのです。グリーンピースなどの調査によると、95%の日本人はクジラの肉を特別食べたいとは思わないと答えています。あまりに需要が低いので、日本政府はクジラを食文化として浸透させることを目的とするマーケティング会社さえ設立しました。そして反捕鯨派の日本人は、まるで非国民であるかのようなメッセージを伝えています。なぜ日本政府がそこまで捕鯨にこだわるのか、私には分かりません。ただ聞いた話によると、国としてのプライドを守る、みたいな感情論が関わっていると指摘する声もあるようです。

「直接行動がなければ、関心さえ払ってくれない」

―グリーンピースといえば、過激な抗議活動で知られていますね。
勘違いしないで欲しいのは、私たちの抗議活動は、過激であっても暴力的ではなく、人間に危害を加えるようなことは決してしないということです。また派手さでいえば、IWC議会の外では、反捕鯨派だけでなく、捕鯨派もかなり騒々しくやっていますよ。
ただ議会の中では、騒ぐと追い出されてしまうので、私も静かにしています。事実を書き連ねた文書を出席者に配布し、私たちの考えを伝える。いわゆるロビー活動ですね。あと、日本を訪れた際に水産庁の漁業交渉官である森下丈二さんとも討論しました。彼は私が意外にも冷静に論理で攻めてきたことに驚いていたみたいです。

―それだけ論理的に説明する能力を持っていながら、なぜクジラの死骸を日本大使館の前に置くような極端な行動に走るのですか。世間の注目を集めることはできても、それだけ非難も受けるでしょう。
少なくとも、日本からは非難を受けやすくなるかもしれませんね。ただ、日本人の方々に捕鯨問題についてメッセージを伝えるのは非常に難しいことなんです。過激な行動を起こせばメディアに取り上げられるが、非難も受ける。でもそういった行動なくしては、日本のメディアは関心さえ払ってくれない。そもそも、日本が捕鯨活動を行わなければ、私たちは抗議活動などする必要もないんですよ。
Photo: Rie Izawa

◆グリーンピースUK
1971年に設立された国際環境団体の英国支部。「直接行動」と呼ばれる過激な抗議活動で知られており、捕鯨問題に関しては「レインボー・ウォリアー」と名付けられたボートを使って捕鯨船の進行を止める抗議や妨害活動が有名。

International Fund for Animal Warfare (IFAW)
クジラ生物学者

ヴァシリ・パパスタブルさんの主張

「国際法に違反しているから」
「国際法に照らし合わせた際に重大な懸念があります」

-まず始めに、捕鯨問題に対するIFAWのスタンスを教えてください。
日本の調査捕鯨を含む、あらゆる形態の商業捕鯨活動に反対です。捕鯨を実施すれば人間がクジラを絶滅に追いこんでしまうことは過去の歴史が証明していますし、被弾してからクジラが息絶えるまでに長時間苦しみもがくという殺し方も残酷だと思います。さらに言うと、国際法に照らし合わせた際に重大な懸念があります。

-「国際法」とは、具体的にどんな法律のことを指しますか。
クジラは非常に移動性が高く、海に住む哺乳類であるということから、国際法の見地から見て特別な地位を持っています。ゆえに国連の海洋法条約には、クジラの保存の仕方について、世界各国の話し合いの下に慎重に決定することが定められているのです。
1994年のIWC総会において世界各国が話し合った結果、日本というたった1カ国を除いたその他の23カ国が南氷洋クジラ保護区を設置し同地区での捕鯨を中止することに賛成しました。この時点で世界諸国の見解が一致した以上、日本もこの決定を尊重し、捕鯨を中止すべきというのが理に適った考えだと思います。実際、1982年より実施されたモラトリアム以後は、スペインやブラジルといったかつての捕鯨国もこの決定を尊重し、捕鯨産業から撤退しているのです。

-ただIWCで出された決議の全てが法的拘束力を持つわけではありませんし、既に捕鯨活動を再開しているノルウェーやアイスランドの例もあります。捕鯨しているという理由で日本を罰することはできない以上、「国際法違反である」との主張にはどこまで説得力があるのでしょうか。
国際司法の場で法的に訴える方法はいくらでもあります。ただこういった行動は政府が起こさないと意味をなしません。私たちは政府が動くよう働き掛けているのです。

「研究資金を集めるために動物の肉を売るという仕組みが出来ているのは、恐らく「調査捕鯨」のみでしょう」

-IWCの決定でいえば、IFAWが反対を唱えている日本の調査捕鯨については認められているのではないでしょうか。
国際捕鯨取締条約第8条には「科学的研究のために捕獲したクジラは可能な限り加工して利用しなければならない」ことが定められています。同条約を日本政府はクジラ製品を販売すべき、と解釈しているようですが、これは間違っています。確かにクジラを加工処理してよいし、製品を分配することも許されています。しかし販売することまでは認められていない。IWCで定められた「調査捕鯨」の目的とは、何千頭ものクジラの殺戮を許可することではなくて、最低限必要なサンプルを採取して、そしてそれらのサンプルを決して無駄に扱ってはならない、ということなんです。

-ただクジラの生態調査には、やはり多大な資金が必要となりますよね。研究目的で一度捕獲したクジラの肉をそのまま捨てるのではなくて、必要としている食産業に販売し、その売上をまた研究活動の資金とする、という考え方には一理あるような気がします。
科学者が研究資金を集めるために研究対象となる動物の肉を売って資金を集めるというのは非常に稀なことであり、恐らくこんな仕組みが出来ているのは「調査捕鯨」のみでしょう。だからこそ、科学者たちの間に利益を巡る争いが発生してしまうのではないでしょうか。

「IWCは日本が集めているデータなんて必要としないのです」

-多くの生物学者たちがクジラの生態調査の難しさを述べています。ほとんど海面下に隠れているため、彼らの生活を人間が観察するには色々と不具合があるようなのです。もし日本の調査捕鯨が認められなくなったとしたら、クジラの生態を正確に把握する術はあるのですか。
IFAWはここ20年間にわたって、クジラの生態調査を行うための新たな科学技術開発の第一線に携ってきました。なぜならば、死んだクジラを解剖する「調査捕鯨」で集められる情報量には、限界があるためです。とりあえず倫理的な観点は一切排したとしても、科学者の間では「調査捕鯨」という研究方法は評価が非常に低く、学術誌上で取り上げられることもほとんどありません。
理由の第一として、殺してしまったらデータを取るのは一回きりです。しかし特定の生きている動物を対象とすれば、成長に従って繰り返し調査を行うことができる。第二に、「調査捕鯨」では捕獲しやすいクジラばかりがサンプルとなる傾向があって、データに偏りが出てしまいます。そして最後に、IWCは日本が集めているデータなんて必要としないのです。なぜならば、捕鯨がもし再開されて捕獲数を設定するとなったら、現在の生存数と、過去に人間が捕獲した記録さえ分かればいいのだから。現在の生存数に関しては、クルーズに乗ってホエール・ウォッチングをすれば確認できるのです。実際、IWCは「調査捕鯨は本組織の運営に当たっては必要とされない」と明言しています。

-最後に、このいわゆる捕鯨問題は、クジラを食べる習慣を持たない国々による日本に対する文化侵略だとの声があります。こういった意見を聞いてどう思われますか。
英国はかつて、日本よりもずっと強い捕鯨文化を持っていました。今から200年程前、日本が捕鯨を本格的に開始する以前から、英国を含めた欧州諸国は捕鯨活動を行っていたのです。日本にクジラを撃つための大砲の使い方を教えたのもノルウェーです。
さらに言えば、IFAWとグリーンピースが共同して行った調査によると、日本の国民はクジラの肉をほとんど食べず、しかも捕鯨を日本の文化として強く意識しているわけでもない。だから日本の水産庁が一体なぜこれほどまでに捕鯨問題にこだわるのか、理解できません。日本の国際的な評判を落とすだけだと思うのですが。

Photo: IFAW

◆International Fund for Animal Welfare(IFAW)
1969年にカナダで設立された環境保護を目的とするNGO団体。元々はアザラシの子どもの捕獲を阻止するために発足したが、今ではクジラを含め広く野生動物やペット用の動物などの保護運動を展開している。
www.ifaw.org

World Society for the Protection of Animals (WSPA)
海洋生物担当

クレア・バスさんの主張

「捕獲の仕方が残酷だから」
「痛みは科学的に測定できます」

―捕鯨についての、WSPAのスタンスをお知らせください。
WSPAは、残酷であるという理由で捕鯨活動に反対しています。海上においてクジラが苦しまない形で捕獲する方法は現在のところ存在しません。その結果、2500頭あまりのクジラが残酷な方法で殺されていますが、世界がもっとこの事実に目を向け、ただちに捕鯨を中止することを訴えていくことが私たちの方針です。ゆえに、原住民生存捕鯨にも反対していますが、規模がより大きい日本を始めとする調査捕鯨、または商業捕鯨に強い警戒心を持っています。

-WSPAが「残酷である」と表現するクジラの捕獲方法についてもう少し説明いただけますか。
例えばミンククジラを捕獲する場合を例に取りましょう。まず「ペンスリット」と呼ばれる爆薬を先端に付けた銛を、船の上に設置した大砲から放ちます。この銛が30センチほどの深さで体に突き刺さると爆薬が爆発し、これが脊髄を損傷させてミンククジラは息絶えるという仕組みになっています。しかし2002~03年にかけて日本が南極で行った捕鯨活動の記録を見ると、この方法で即死を遂げた割合はたった4割、全体平均でも銛が撃ち込まれてから死ぬまで2分ほどの時間がかかっており、それだけの間クジラはもがき苦しんでいることになります。

-クジラが苦しんでいるかどうかというのは、客観的に判断することができるのでしょうか。
痛みを科学的に測定することは可能です。科学者たちは動物たちの反応を見て定義付けようとしています。痛みから身を逃れようとしたり、食欲が減退したり、出産をやめたりといった形で反応が表れるからです。
動物は人間と同じような言葉を持っていない。だから言葉で「痛い」と伝えることができないのです。でも彼らの行動を見れば、表現することはできなくても、苦しんでいるのは分かります。彼らが苦痛を受けているのが明らかであるとしたら、またはその疑いがあるとしたら、捕鯨活動を行うべきではないのです。

―捕鯨に限って、特に残酷ということはあるのですか。
クジラはあれだけ巨大で、しかも海に住んでいる動物ですから、鶏や牛、豚と同じような形で飼育することができない。例えば国によっては、規約で家畜を殺す際には動物がもがき苦しまないように即死させることが定められています。こうして家畜である豚や牛は人間の手によって慎重に管理されている。
ところがクジラは射撃で捕獲することになり、人間が痛みをコントロールする領域が限られています。また急所を外すことも多くあるため、二次殺害(Secondary Killing)と呼ばれるいわゆる最後の留めを刺して、必要以上にクジラに痛みと苦しみを与えることもしばしばです。こういった意味で、捕鯨の残酷性は抜きん出ていると思います。

―ただ家畜も狭く暗い小屋に集団で閉じ込められて、野生の生活を享受できないといった点で不幸であると考える人たちもいます。家畜を育てることが、必ずしも理想的な食肉の利用法であるとの考えには正直ちょっと疑問を感じてしまうのですが。
だからWSPAでは、今あなたが仰ったように必要以上に苦しみを与えられている鶏や牛といった家畜についても保護キャンペーンを展開しています。ただ先ほども言ったように、そういった動物は、少なくとも扱う人間側さえ気を付ければ、痛みをなくしたり、苦しみを和らげたりすることができるのです。そういった所に大きな違いがあると思います。

「クジラを即死させる方法が開発されたとしたら、反対キャンペーンは展開しません」

―それでは、クジラを即死させる技術を日本の科学者が開発したとしたら、捕鯨には反対しないのでしょうか。
実際、そのような方法の開発は難しいでしょうね。クジラというのは海面を出たり入ったりしているところを狙いを定めて撃つのです。しかも食用となる部分は残そうとするから、体のごく一部分だけを撃つことになる。だからポイントを外した時にクジラが長時間苦しみもがくことも多いのです。
ただ仮定の話として、もしクジラを即死させる方法が開発されたとして、そして沿岸部のその他の魚への影響がないように処置が取られて、現在捕鯨国が消極的な態度を示しているオブザーバーによる捕鯨活動の観察が許可されるとしたら、決して賛成はしませんが、反対キャンペーンを大規模に展開することはありません。ただこの「もし」はかなり非現実な条件だと思います。

―日本の調査捕鯨についてはどうお考えですか。
もちろん、調査は必要だと思います。ただ日本の「調査捕鯨」は、モラトリアム施行以降に急激に増加しています。研究者でなくても、この「調査捕鯨」に商業的な要素が入っていることが分かると思います。日本政府には、それだけの資金をもっと有益な方法、例えば殺害を含まないクジラの生態調査などの資金に充てることを強く望みます。

「たとえ海にクジラが溢れるようになったとしても、捕獲方法が変わらない限り捕鯨には反対です」

―現在の議論では、クジラは種類によっては絶滅どころか実は増えているとの報告があって、これについてはIWCも認めていますよね。
確かにそういうデータはあります。モラトリアムを施行したのですから、状況が改善されていることを望みます。ただクジラというのは97%の生活時間を海中で過ごす生物なので、実際の生存数を把握することが難しいのです。そして冒頭に話した通り、私たちが捕鯨に反対する最大の理由はクジラの生存数ではなく、その殺され方の残酷性にあります。だからたとえ海にクジラが溢れるようになったとしても、捕獲法が変わらない限り捕鯨には反対です。

Photo: Keita Yasukawa

◆World Society for the Protection of Animals (WSPA)1981年にロンドンを本部として設立。動物に与える苦痛への緩和などを目的としてクジラのほか、日本熊や過酷な生活を強いられているペット、災害の被害を受けたその他の動物たちへの保護活動を行っている。
wspa.org.uk

「クジラを食べるな」特集総括

捕鯨問題について、あなたの意見をお聞かせください。
あなたは捕鯨派それとも反捕鯨派?次のアンケートにお答えいただき、以下の宛先まであなたのご意見をお寄せください。皆様からのお便りやメールをお待ちしております。
①捕鯨に賛成/反対
②その理由
③その他感想やご意見など


「『クジラを食べるな』その理由」アンケート係
Editorial Department
Eikoku News Digest
6 Southampton Place, Holborn, London WC1A 2DB
E-mail:

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