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Fri, 20 October 2017

エリザベス女王とコーギーの物語 - 英史上最長となる在位期間を彩る

コーギー

9月10日、エリザベス女王の在位期間が
英王室の最長記録を更新する。
63年以上という、半世紀を優に超える長期間にわたり、
女王と行動をともにし、そして心の支えとなってきたのが
愛犬のコーギーたちだった。
数ある犬種の中で、女王はなぜコーギーを溺愛するのか。
彼らは宮殿内でどんな暮らしをしているのか。
女王とコーギーにまつわる物語をお伝えする。

Sources: The Sunday Times, Vanity Fair, The Daily Mail, The Kennel Clubほか

エリザベス女王にとってコーギーは「家族」

エリザベス女王の愛犬として広く知られているコーギー。英国の王室文化にはまだなじみがなく、女王とコーギーの関係についてあまり知らないという人でも、2012年に開催されたロンドン五輪の開会式の映像で、女王の周りを歩いていた愛らしい犬の姿を覚えている人は多いのではないだろうか。英俳優ダニエル・クレイグが演じる秘密情報部(MI6)工作員の007ことジェームズ・ボンドを伴いながら、ロンドン東部にあるオリンピック・スタジアムに女王がパラシュートで着陸するという設定になっていた、記憶に残る名シーン。あの場面において、バッキンガム宮殿からヘリに乗って飛び立つ女王とボンドを見送っていた犬がコーギーだった。

散歩を楽しむエリザベス女王
1980年5月、3匹のコーギーとともに散歩を楽しむエリザベス女王(当時54歳)

女王自身はコーギーを「家族」と呼んでいる。幼きころから89歳となった現在に至るまで、その人生の大半をコーギーとともに過ごしてきた。女王に即位してから飼ったコーギーの数は、実に30匹以上。一時は13匹ものコーギーを同時に飼育していたという。エリザベス女王の周囲に群がる犬が一斉に移動していく様子を、故ダイアナ元妃は「動くじゅうたん」と揶揄したほどだ。

飼育だけではなく、繁殖も積極的に行ってきた。現在飼育している2匹のコーギーは、エリザベス女王が18歳のときに飼い始めた犬から数えて14代目の子孫となる。さらにはコーギーとダックスフントを交配させた「ドーギー」という品種も繁殖させている。エリザベス女王は、史上最長となる在位期間をコーギーとともに歩んできたといっても過言ではない。

コーギー宮殿内で暮らすコーギーにはVIP待遇

王室の言わば「お抱えペット」ともなれば、その待遇も半端なものではない。女王のコーギーたちは、王室メンバーの一員としてVIP待遇を受けている。ロンドンのバッキンガム宮殿内には「コーギー・ルーム」と呼ばれる専用の部屋を特設。最も多いときには、6名のスタッフがお世話をしていたという。王室関係者や招待客らが緊張感を持って宮殿内を移動している中で、コーギーは床に敷き詰められた高級じゅうたんや貴重な家具の周りを歩き回ってもお咎めなし。休息時には、風に当たらないようにとの理由で地面より数センチ高い場所に置かれた藤製のかごの中に入れられる。

食事の時間には、缶詰め料理は一切提供されず、すべてが手作り。元王室専属シェフの証言によると、茹でた肩肉にキャベツ、白米、ときにはウィリアム王子やヘンリー王子が仕留めた野ウサギを料理したものといった具合に、犬にしては栄養過多に思える豪華なメニューが振る舞われる(これらの日替わりメニューは毎日、バッキンガム宮殿の厨房に貼り出されていると伝えられている)。またクリスマスには、女王がコーギーたちに対して直々にケーキやクラッカーが詰まった靴下をプレゼントしているという。

ラグビーのニュージーランド代表と
2002年11月、バッキンガム宮殿にて、多数のコーギーに囲まれながら、
ラグビーのニュージーランド代表と談笑するエリザベス女王(当時76歳)

不思議な運命に導かれたコーギーとの出会い

女王がコーギーを飼い出したのは、今から80年以上も前のこと。女王がまだ幼き少女だったころに彼女の父親に当たるヨーク公爵(後のジョージ6世。映画「英国王のスピーチ」の主人公としても知られている)がプレゼントしたのだが、この出来事の背景では不思議な巡り合わせが起きていた。

話は女王の少女時代からさらに時間をさかのぼる。ある日、テルマ・エバンズという名の9歳の女の子が飼っていた犬が車にひかれてしまう。この車の所有者 はなんとヨーク公爵だった。心を痛めたヨーク公爵は、この女の子に新しい犬を贈呈。その後テルマは大人になり、犬のブリーダーとして働き始める。彼女が飼育に力を入れ、その魅力を広く伝えようとした犬種がコーギーだった。やがて著名なブリーダーとしての地位を確立したテルマは、注文を受けて、とある英国の貴族に自身が育てたコーギーを提供。この貴族の家を訪れたエリザベス王女(当時)とその妹のマーガレット王女が、コーギーをいたく気に入った。親交のあったこの貴族の紹介を受けて、ヨーク公爵は後日、テルマに対し、コーギーを数匹連れて自身の家族の元まで訪れるよう依頼。その中から選んだ1匹が、女王が初めて飼うコーギーとなったのだ。このコーギーは、公爵(英語でデューク)から名を取り、「デューキー」と名付けられた。

後に国王となったヨーク公爵に対して、テルマは、自身が過去に犬をプレゼントしてもらった少女であることを告げぬままであったという。事実が公になったのは、ジョージ6世の死去後にこのエピソードを記した本が出版されてからのことだった。

大のお気に入りとなるスーザンとの出会い

年齢を重ねるに従い、女王のコーギー好きは加速していく。テルマから提供された「デューキー」そして2匹目となる「ジェーン」をエリザベスが可愛がる様子を見ていた父親のジョージ6世は、彼女の18歳の誕生日祝いとして「スーザン」という名の新たなコーギーをプレゼントした。このスーザンが、女王にとってはまさに唯一無二の親友となる。そのお気に入りぶりは、女王が21歳のときに結婚したフィリップ殿下との新婚旅行にも連れて行ったほど。その後、現在に至るまで女王が飼った30匹以上のコーギーは、すべてこのスーザンの子孫に当たる。  

1959年にスーザンが死去した際には、女王の離宮であるイングランド東部ノーフォークのサンドリンガム館の敷地にお墓を建てた。墓碑には今でも「女王の忠実な友人」との一文が刻まれている。ちなみにこの敷地に愛犬の墓を建てたのは、エリザベス女王が初めてではない。エリザベス女王の5代前の英国の君主であり、英王室におけるこれまでの最長在位記録を持っていたビクトリア女王は、スコットランド原産の牧羊犬であるコリーを溺愛。サンドリンガム館の持ち主でもあったビクトリア女王は、コリーの死去に際して、同館の敷地内に墓を建てたのだった。女王の犬好きは、英国の伝統の一部なのかもしれない。

ザ・マルにあるクイーン・マザーの銅像
バッキンガム宮殿から続く大通りザ・マルにある、
エリザベス女王の母親クイーン・マザーの銅像。コーギーを抱いている

王室関係者たちには嫌われていた?

「コーギー」の愛称で親しまれるこの犬種の正式名称は「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」。ウェールズ地方原産の品種で、もともとは牧場に放牧されている家畜を誘導したり、見張ったりするための牧羊犬として活動していた。牧羊犬を務めるだけあって、コーギーの動きは俊敏で運動量が豊富、小型犬であるにもかかわらず吠え声は大きい。毛深いので寒さに強く、山道や沼地を歩くのが大好き。また英国で生まれた世界最古の愛犬団体とされるケネル・クラブによると、先端の尖った立ち耳とはっきりとした顔立ちから、あらゆるものに対して興味を示しているように見えるのが特徴。スコットランド特有の厳しくそして広大な自然 が広がるハイランド地方のバルモラル城で山道を散歩することを趣味とする女王にお供するには、最適のペットである。

一方、あまりの元気の良さから、ペットとしては扱いにくいとする見方もある。故ダイアナ元妃の執事を務めたポール・バレル氏は、サンドリンガム館の階段で9匹のコーギーに追い立てられて転倒した末に気絶した経験があると告白。「(王室関係者の)皆がコーギーを嫌っていた」と述べている。エリザベス女王が飼育したコーギーたちはこれまでに、王室職員、郵便配達の職員、警察官、女王の母親であるクイーン・マザーの運転手などを噛んだ「前科」あり。さらに1991年には、十数匹のコーギーが喧嘩しているところを仲裁に入ったエリザベス女王の手さえも噛んでしまったことがある。ちなみに2003年には、女王の長女であるアン王女が飼育していたブル・テリアに噛みつかれた女王のコーギーが後ろ足を骨折するという事件が発生。回復の見込みがないため、このコーギーは安楽死させられたという一件もあった(アン王女のブル・テリアは男児に噛みつき、当局から罰金を科されたこともある)。

立ち耳とはっきりとした顔立ちが特徴のコーギー
立ち耳とはっきりとした顔立ちが特徴のコーギー

女王の治世を象徴する動物

一時は「動くじゅうたん」と表現されるほどまでに増えた王室のコーギーだが、現時点で飼育されているのはウィローとホリーの2匹のみ。五輪開会式の映像にも登場したモンティーという名の犬は、その死去がパラリンピック終了直後となる2012年9月上旬に発表された。ウィローとホリーも既にかなりの老齢に達しており、人間の年齢に換算すると、女王と同じ80代になると言われている。愛犬を置きざりにして死を迎えたくはないとの思いから、女王は今後新たなコーギーを飼うことはないとの意志を関係者には伝えているという。

コーギーの減少は、王室内に限った話ではない。実はこの犬種は絶滅の危機にある。英国内でコーギーとして登録されている犬は現在わずか300匹未満。もともと牧羊犬として飼われていた歴史を持つコーギーの多くは、家畜の牛に尻尾を踏まれないようにとの配慮の下で、生後数週間で尻尾を切断されていた。ところが、この習慣が残酷であるとして、約10年前より尻尾の切断を禁じる法律が施行。コーギー独特の見かけが変わってしまったことなどを理由に人気が低下したと考えられている。

女王とともに英国の歴史を刻んできたコーギー。ウェールズで生まれ、スコットランドの山奥を駆け回り、女王とともにバッキンガム宮殿で暮らしてきたその犬たちは、いつしか英国の文化を象徴する動物となっていた。同時に英国人たちはいつからか、コーギーを通じて、普段はあまり個人的な見解や感情を示さないと言われている女王の胸の内を覗こうとしてきたのかもしれない。史上最長の在位期間を誇る女王の治世は、コーギーたちの物語とともにある。

 
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